ドリトル先生と悩める画家
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第五幕その十三
「日本ではね、僕達も遭ったね」
「そうそう、何度かね」
「日本に来てから実際に遭ってるね」
「あれがね」
「とんでもないよね」
「そう、日本の台風の怖さは」
それこそというのです。
「皆も知っている通りだね、ああした雨もあるんだ」
「日本ではね」
「そうなのね」
「そうだよ、ああした雨もあるんだ」
先生はあらためてお話しました。
「荒れ狂う大雨もね」
「こうした静かな雨ばかりじゃないね」
「冬も嵐になったりするし」
「そしてそうした時はね」
「こんなものじゃないわね」
「そうだよ、そして今のこの雨はね」
冬の静かな雨、その雨を見つつの言葉です。
「ゆっくりとしているね」
「そうだよね」
「風情があるね」
「じゃあこの雨を見て」
「今は静かな時を過ごそうね」
「そうしよう、冬の雨もまたいいものだよ」
先生の目は静かなものになっています、そうして紅茶を飲みつつ論文を書いて講義にも出ました。学者さんとしての生活は先生にとって実にいいものです。
そして後になってです、太田さんが傘をさしてその日雨のキャンパスの中を歩いていたと聞いて言うのでした。
「それもスランプを抜け出る為だね」
「雨の景色も見てだね」
「そうして何かを得ようとしているのね」
「霧だけじゃなくて」
「雨もなんだ」
「そうだね、身体には気をつけるべきだけれど」
それでもと言う先生でした。
「その熱意は凄いね」
「何とか自分でスランプを抜け出ようとする」
「それはね」
「私達が聞いてもね」
「凄いわね」
「そうだね、けれどそれでも中々ね」
これがというのです、そうして熱心に自分で動いていても。
「抜け出られない時は抜け出られない」
「それがスランプなんだね」
「どうしても」
「だからこそ難しい」
「そうしたものなのね」
「そうなんだよね、けれどその熱意は」
雨の日もあえて外の景色を見て何かを得ようとするその姿勢はというのです。
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