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魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
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第17話『黒獅子と黒竜~飽くなき輪廻の果てに』

竜技(ヴェーダ)――竜具を用いた戦姫の奥義。固有概念の名称をもつ人の『知識(ヴェーダ)』と、自然災害の化身たる竜の名もなき純然な『力』を掛け合わせた『竜の技』である。
対して竜具(ヴィラルト)――もともとは、『風』を巻き起こしたり、『焔』を巻き上げたりするだけの、ちっぽけな『曲芸』に過ぎなかったものが、やがて『人』と『魔』の抗争において中枢を占めるようになったことは、果たしていつからになるだろうか?
人はイレインバーを基礎とする知覚器官による他の生命体にない広大な『知性』と、両手を構成する繊細な指を有することで高い『技術』を持っている。『知識』という究極にして汎用な『力』こそが、数多の『戦争』を制すると信じていた。
投石器(カタパルト)』を超える破壊力――
防護壁(バリア)』を砕く突破力――
なにより、『竜』を上回る生存能力がなくては、人が魔に対抗する『兵器』になりえない。
竜具誕生の経緯――
何百年か前、『魔』が『人』に勝利の『王』手をかけたことがあった。それまで主戦力であった人の『戦士』を圧倒し、物量で明らかに勝っていたはずの『人のティル=ナ=ファ』と、『魔のティル=ナ=ファ』間の戦闘において、目覚ましい働きを見せ、『魔』が戦局を覆すに至ったのである。
その時、一人の巫女が『人』に助けを求めた。文明の知識を持ちながらも、『人』は『黒竜』から『力』を得るために――『巫女』は『星』に祈りをささげたのである。

――そして、黒竜ジルニトラは与えた。自らの力を欠けて流した『七つの流星』を――

一つは魔を降す銀閃―『アリファール』を。

一つは邪を破る凍漣―『ラヴィアス』を。

一つは魔を退ける光華―『ザート』を。

一つは鬼を討つ煌炎―『バルグレン』を。

一つは禍を砕く雷禍―『ヴァリツカイフ』を。

一つは妖を封ずる虚影―『エザンディス』を。

一つは呪を崩す羅轟―『ムマ』を。

それぞれ『やがてこう呼ばれる』星の丘に落としたと伝えられている。
ライトメリッツ――オルミュッツ――ポリーシャ――レグニーツァ――ルヴーシュ――オステローデ――ブレスト――
後に、七つの『丘』を統合した、ジスタートと呼ばれる『丘陵』を放浪の末、黒竜より遣わされた『人』が竜の至宝――『竜具(ヴィラルト)』を手にしたのである。
だが、戦姫に譲渡した『竜具』に対し、『人』たる黒竜の化身の誤算があった。
それは、長きにわたる『人』と『魔』の抗争において、一時の終止符が打たれた直後――
『人』が『魔』を払うのために誕生したこの超常の武具が、人間同士の戦争において、高い戦況効果を与えたことである。
大軍と大軍の衝突する大規模戦争において、『損耗率』の操作を可能にする戦姫の存在は、少数民族から成り立った、ジスタートである彼らにとってなくてはならぬものとなった。
竜にとって『アリ』のような人並程度の大軍では、戦姫に対して全くの無力となる。『総』としての大軍より、『個』としての戦姫や黒騎士が有効とされる時代となったのである。
その事実はジスタート建国から間もなくして、周辺諸国にも認識されることとなる。
遥か昔、マクシミリアン=ベンヌッサ=ガヌロンが拿捕した銀閃『アリファール』を研究し、独自にこの超常の武具の製造に着手したのは、その認識があったからこそだ。
ブリューヌ建国王シャルルの依頼を受けたガヌロンは、『人』が『魔』に対抗する術を作り出していった。

暁の革命戦争へ挑む友人シャルルへの……せめてもの『餞別』として――

ほぼ同時期に、最先端の戦争技術力を持つ『ザクスタン』においてもまた、『大砲』をはじめとする戦略兵器の開発が進んでいた。
ジスタートを軸として、各国はそれぞれ『機械(カヴァク)』『聖剣(デュランダル)』『竜具(ヴィラルト)』といった『抑止力』を生み出していった。
生きた伝説達が、国境となり結界となることに、それほど時間は有しなかった。

それぞれが、互いを『危機』という高め合う認識で、独自の文明を進化させていった。

ザクスタンにおいては、ただ岩石を放り投げるだけだった『投石機(カタパルト)』が『砲弾投鉄機(マスドライバー)』へ――

ブリューヌにおいては、聖剣『デュランダル』、その兄弟剣『エクスカリバー』、双子剣『オートクレール』を派生鍛錬し――

ジスタートにおいては、ただ振り回すだけであった『竜具(ヴィラルト)』もまた、『竜技(ヴェーダ)』へ発展したように――

特に直面した問題は、ジスタートが誇る戦姫の竜技(ヴェーダ)だった。主と認める選定基準が、竜具の人格(パーソナリティ)に一任されるため、次代と先代の戦姫の邂逅など皆無といえる。要するに、一子相伝のシステムが確立されていなかったのだ。就任中、戦姫が『人』と『魔』の抗争にて蓄積していった『戦闘記録―知識』・『戦闘技術―竜技』……二つのヴェーダを後世へ継続することは、最重要課題となる。
知識は力なり。
これは、ある偉人が遺した言葉だ。
知識だけでは、いかなる結果も生み出すことはできない。
力だけでは、結果を生み出す方法に気づくことはできない。
知識を力で表現するには、なにより『言葉』……意志をもつ竜具と『疎通』することで、竜具一体の自然現象を再現することに成功する。
その言葉は、自然原理に干渉する音声入力(ボイスコマンド)として、竜具に定着していくこととなる。
竜の言霊は全て自然現象に何等かの影響をもたらす言い伝えをもとに、竜の部位を遊び心から名付けたという。
すなわちアリファールには―

竜の『牙』アリファール・竜具実刃兵装(ストライク)

竜の『翼』ヴェルニー・空力弾性加速(フライヤー)

竜の『蹄』ヴィンダム・大気踏込圧搾(コンプレッサー)

竜の『息』メルティーオ・大気断熱圧縮(ミーティア)

竜の『角』コルティーオ・大気伝導放撃(レールガン) 

竜の『鱗』アウラ・威風霊的外套(レーダー)

竜の『髭』ソウラ・大気音圧反響(ダイバシティ)

竜の『尾』クサナギ・大気電離干渉(コヒーレント)

竜の『爪』レイ・アドモス……大気仮想真空(プラズマイオン)

そして――竜の『技』レイ・アドモス・アンリミテッド……宇宙真空崩壊(プロヴィデンス)

人は『力』を『知識』という形で『遺伝』をたどる。
このように知識体系化することで、次代の戦姫へ戦いの記憶を伝承することに成功したのである。
しかし、竜の技である『最終決戦竜技』の『摂理』を理解したものは、皮肉なことに、戦姫たる女性ではなく、男性であるヴィッサリオンだけであった。

そして、問題はこれだけに終わらなかった。
たとえ戦姫の『知識』と竜具の『力』が合わさったところで、自然現象を操る竜技に、戦姫の体力が追い付かない問題が浮上したのである。
独立交易都市出身であるヴィッサリオンの『竜舞』――そのうちの『銀閃殺法』――竜の姿を再現する迎撃技術という発想は、その問題に対する一つの回答といえるだろう。

戦姫……竜具という流星を見た姫君は、これを受け取った時に一体何を思ったのだろうか?
人は戦争を通じなくても、やがて長い『時間』をかけて、独自の文明と防衛力を築き上げていったはずだ。
ただ、戦争という手段が『時計の針』を速めたことだけは、覆ることのない事実である。
『人』と『魔』が織りなす『輪廻』の律動の果て――『作り変えられた』世界の地平線に、暁の曙光は差し込むのだろうか?










『黒獅子と黒竜~終わらない輪廻の果て』








かすかなヒカリゴケが照らすほぼ虚無の空間。そこに一人の男と女が、獅子王凱の前に躍り出た。
正確には、『男でも女でもない、生殖器官を持たない人物』と――
明確には、『黒きドレスを纏った妙齢の貴婦人たる剣の悪魔』なのだが――
そのうちの女性……剣の悪魔たるエヴァドニが、厳かにつぶやいた。

――深夜(ねむり)を解け――

――常闇(やみ)をまとえ――

――終死(けつまつ)貴殿(シーグフリード)に――

――黒竜(かみ)を殺せ――

突如として生まれる、黒き炎の濁流。
地下室にも拘わらず、その勢いは天井を次々と砕き、満月が戦いの役者をのぞき込むように現れる。
黒と紫の炎熱の柱には、『一振りの神剣』 が収まっており、男……シーグフリード=ハウスマンの手に預けられる。
竜の眼光たるルヴーシュの名にふさわしいのか、月光は二人を照らし出す。
同時に、月を覆う『朧』さえも……二人の頭上に姿を見せた。

開戦――――――
そう告げるかのように、黒衣の人物シーグフリードは剣を無造作に横薙ぎする!

「――『大気ごと焼き払え』――エヴァドニ」

深淵から告げるような斬酷のごとき声紋。
冥府の門から溢れるかのような、黒触炎が『地下だった空間』に溢れ返る!
濁流……にもかかわらず、燃焼の力学は一遍たりとも無駄なく凱めがけて飛び込んでいく!

「――『大気ごと薙ぎ払え』――アリファール!!」

対して、凱も覇気溢れる声で、銀閃に呼び掛ける!
一陣の風のごとき銀閃の弾丸が、銀髪鬼に切迫する!

銀閃と黒炎の均衡―――――!!

だが、その競り合いは一瞬だった。
相殺にして大気の膨張が、戦いの両者を叱咤する!お前たちの力はこんなものではないだろう!?と

「くっ……ガイ!?」
「フィーネ!すまないが少し下がっていてくれ!」
「ガイィィ!!」

黒き髪の隼が獅子を止めようとその名を叫ぶ!

「そうだぞ!女!そのほうが身のためだぞ!」

シーグフリードにはわかっていた。どうせこの『代理契約戦争』に割って入ることなどできはしない――
そのことをすでに知っているから、あえてフィーネに忠告したのだ。

「どうした?少しは反撃しないのか?でなければ、オレの『煌竜閃(バハムート)』がその女ごと巻き込んじまうぜ」

冷酷に告げるシーグフリードの言葉は、正鵠を射ていた。
周囲やフィグネリアを巻き込まないよう、竜具を振るい続ける凱よりも、壁や天井、周囲を巻き込むことに躊躇のないシーグフリードの攻撃が鋭いのは、自明の理だ。
脳天を叩き割る一撃――黒き斬撃が凱の銀閃と交錯する!
紙一重の差で凱は受け止めるも、大気を震わせる衝撃に態勢をよろめかせる!

「ぐあああああ!!」

恐るべき、銀髪鬼の怪力。
踏みしめている地下神殿の踏ん張りがきかず、勇者は遥か後方へ吹き飛ばされる。

「つ……強い!俺の知っているシーグフリードじゃない」
「そいつは違うな。オレが強いんじゃない。貴様が弱くなっただけだ」
「弱い?ガイが?」

そんな馬鹿な……一言でいえばそういう表情のフィグネリアが、凱とシーグフリードを交互に見やる。

だってガイは、野盗の連中を一網打尽にしたんだよ?

飛び降りた絶壁の崖から『隼』のように降昇して、助けてくれたじゃないか?

多くを見なくても、私にはわかる。

あの男は――ただ者――じゃないことくらい。

静止した時間から一瞬、凱の姿は刹那の発生音とともに消えていった。

「はああああああ!」

飛翔――夜の闇へ溶け込むような凱の羽ばたきに、誰もが目を奪われた。

――――ただ、シーグフリードを除いては。

「それで避けたつもりか!?獅子王(レグヌス)!!」

エヴァドニの切っ先を捻り返し、対空迎撃の『銀閃殺法』の構えをとる!
しゃくりあげる昇刃術。波打つ刃が凱の顎の肉片をまき散らそうと、黒炎をまき散らす!

(こいつは……飛竜迎撃竜舞――『飛竜閃(ヴィーフリンガー)』!?)

眼下に広がる黒炎を前にして、最大の危機が迫る!!











◇◇◇◇◇









「ふん……挽肉になるのだけは避けたようだな」

――――誰かの声が聞こえる。

「おい。いつまで寝っ転がっていやがる?」

突如として凱の耳朶を叩く。
腹部に熱い痛みを抱えながら、凱は顔を見上げる。

「今のは……飛竜閃か……」
「違うな。煌竜閃(バハムート)―ただの『無式』だ」

銀閃殺法―
竜の(あぎと)を翔破するための竜舞。
そして、シーグフリードは『相手を確実に仕留める殺刃』を編み出した。
獣を、悪魔を、魔物を、竜を、そして――獅子を殺すために。
それが煌竜閃(バハムート)――煌炎の黒竜王の名を拝借した銀閃の閃き。
『必殺』ではなく『必滅』の信念と正義の下で――
無式というからには特定の型を持っておらず、対空、対地、対潜にも迎撃できる故に、おそらく無式と呼んでいるのだろう。

「大陸最強の生物――獅子王(レグヌス)の強さは、俺たち『人ならざる者』なら、誰もが知っている」

人ならざる者――その『意味深き言葉』に、フィーネの瞳は見開いた。

トルバラン。
バーバ=ヤガー。
コシチェイ。
ヴォジャノーイ。
ドレカヴァク。
ヴァルバニル。
ジルニトラ。
数多の神々達は皆、勇者の王たる力を知っている。
だが、目の前のこの男は一体何なんだ?
あの時……代理契約戦争において、強さの次元を超えた力量はどこへ行った?
本当にこいつが伝説の獅子王なら、『同じ手を喰らう』愚は侵さないはずだ。なのに――
同じ手を喰らう理由は『恐怖』ではなく……あるとすればおそらく……『迷い』――
独立交易都市にて『市』の時から続く……決着をつけたところで、これでは興ざめもいいところだ。

「│虚影の幻姫≪ツェルヴィーデ≫の女狐め。でたらめを言いやがって――何が『眠れる獅子は目覚めた』だ」

影の戦姫に一言吐きつけておきたい。この男の強さは『見る影もない』ということを――。

ただ、僅かな交錯とは言え、両者の実力を感じ取り、銀髪鬼の強さに震える人物がいた。フィグネリアだ。
隼の衣装を着こなす彼女の出立は傭兵。自分の命を投資して、実力という資産を築き上げていった。
貧村の出自から始まり、数多の強さを何度も比較され続けてきた傭兵人生。凱とシーグフリードという『超人』を目の当たりにしても、驚きこそしたものの、フィーネは両者を推し量るに全神経を注いでいた。
相手の強さを図れぬ傭兵は三流もいいところ。このまま勝負を続ければ、心に迷いがある凱が明らかに不利だ。しかし――
乱れていた呼吸を整えた凱は、静かにつぶやく。
その声はどこか冷たく……その目はどこか……黒かった。
穏やかだった凱の目は、徐々に竜の牙のごとく鋭さを肥大させていく。

「――――行……ぞ」

――――幻影翼(イリュージョン)。そうとしか表現できない体裁き。
夜という闇の深さも相まって、一瞬だがシーグフリードの知覚反応を遅らせた。

アリファールの一閃――――

流星の如き抜刀――

一言で表すにはそれで十分なほど、銀閃の芸術品。
銀閃の剣光が、瞬きよりも短い間に、凱の表情を映し出した。
そして、フィグネリアはわが目を疑った。

「……ガイ?」

だが、戦況は彼女の反応を許すはずなどなく、次々と、一刻一刻と変幻していく。

「――――ちぃぃぃぃ!!」

毒づいた捨て台詞とともに、シーグフリードは拳と蹴りの暴力で、乱雑に凱をあしらった!!

「ぐはあぁぁぁ!!……」

苦悶の文言を上げる、凱の悲鳴。
肺中の大気を無理やり吐き出されたような感覚。呼吸器官の異物を押し出す生理現象が、凱の呼吸を乱そうと攻め立てる。

(なんだ……今の動きは?)

対してシーグフリードは、牽制したにも関わらず、己の知覚能力を疑った。戸惑ったのだ。
先ほどのガイの動きが、断然速く、重く、鋭くなった。
全く読めない……いや、違う。
全く感じなかったのだ。凱の動きを――
相手の行動を読むには、まず五つの知覚で感じなければならない。
敵の姿を見据える視覚。
敵の匂いを辿るぐ嗅覚。
敵の手ごたえを掴む触覚。
敵の劣等感を嗜む味覚。
敵の位置を握る聴覚。
例え人外たる悪魔や魔物でも、必ず人間に比する感覚機能が存在する。半分悪魔の血を引いているシーグフリードは、常人の遥か上を行く神経感覚を所有している。
にも拘わらず―――――神経の糸を極限にまで張っても『反応』どころか、反応の予兆である『感応』すらできなかった。

(……もう少しか?)

銀髪鬼の口元が吊り上がる。
今、獅子王凱という、シーグフリードの目前にいる男は、その心の檻を開け放とうとしている。
正確には、勇者という檻が、獅子王という獣にこじ開けられようとしているのか――定かではないが。
対して、凱は自分の奥底から『何かが沸き上がる衝動』を感じていた。
誰かが……俺の中から出てきやがる。
この感覚……『市』における魔剣強奪事件の時と同じだ。

(俺は……この力を使わないと誓ったんだ!……みんなを不幸にしちまう『獅子』としての力なんて……)

『弱者を守る』という意志に反する、『弱肉強食』という摂理への衝動。
身体以上の感覚――衝動が運動能力を超えようとしている。
その為か、身体と体力にズレが生じて息を弾ませる。それは、興奮とは全く異質の『慟哭』だった。


そして―――――


そして―――――


そして―――――











【生命を喰らう最恐の獅子王――――完全覚醒】










その『瞳』は……獲物となるべき存在を逃さぬために――
その『牙』は……獲物を確実に仕留めるために――
その『鬣』は……獲物に恐怖を刻む剣山故に――
その『姿』は……一匹の隼の心を砂欠片のように打ち砕いた。

あれこそが、かつて『第二次代理契約戦争(セカンドヴァルバニル)』で、数多の人外、悪魔、魔物、竜を畏怖の念に沈み落とした最強の『獅子王(レグヌス)
凱の焦点(フォーカス)に、一切の不用情報は入らない。
一点集中。その言葉にふさわしいほどの、『視野の狭さ』――
一撃必殺。それのみを狙う獅子の『牙爪』――
暗き闇より出でた獅子の瞳は……アリファールの紅玉より赤く、何より、昏く染まっている。
彼の獣の瞳を見たフィグネリアの心臓が――早鐘と警鐘を同時に打つ。
それは……フィグネリアが初めて見たもの……。
『勇者』としてではなく、『王』としての凱――だった。

「今の一撃で、完全に獅子王(レグヌス)へ立ち戻ったようだな。なら、本気でやらせてもらうぜ!」

ここから先は……小手先程度の攻撃など無用。
今までが、序盤に過ぎなかったのか?フィグネリアの疑念は純粋な驚愕となって冷や汗を垂らす。時期はまだ『冬』であるにも関わらず。

「はあああああ!!」

黒衣の神剣使いもまた、銀髪の獅子と成りて牙を逆立て襲い掛かる!
先ほど仕掛けた小手先程度と比して、各段に早い。それどころか、研ぎ澄ました殺意の衝動をそのまま体現しているかのようだった。
しかし――完全に獅子王へ覚醒した凱にとって、暗殺めいたその『斬影』は児戯に等しかった。
回避。そして翻す。波打つ海竜(バダヴァ)の如き『竜舞(ヴェーラ)』の一擲。

(後ろがガラ空きだぜ!!シーグフリード!!)

抜刀という名の竜舞発動――凱の銀閃アリファールの水平横薙ぎの一撃が閃舞する!

「――銀閃殺法!!海竜閃(リヴァイアサン)泡飛沫(ムーティラスフ)!!」※3

海にすむ竜が汚れた鱗を洗うために、蜷局(とぐろ)を巻いて螺旋するさまからそう命名される。
その飛沫は光華の如き幻惑。熱も光もない、さざ波の『裂刃』。
相手の突進力に、自身の遠心力を相乗させた力学の一撃。それをシーグフリードのうなじに叩きこむ!
黒衣の人物は吹き飛び、壁面に叩きつけられる。

――本来のアリファールなら、それで彼の首を捕らえて、決着がついたはずだった――

「がはあぁぁ!!」

遥か彼方の壁へ衝突――――
激しい土煙をいくつも巻いて、かの狂人の姿は失われる。
今回の苦悶の声を上げたのは、シーグフリードのほうだった。
結果、まだ彼の首と胴体はつながれている。それは、獅子王に覚醒した凱の心に残された、『不殺』という檻の名残なのだろうか? 

「立て――シーグフリード」

厳かに告げるは、『王』からの宣告――
食物連鎖の頂にたつ、『王』としての言葉――

「『市』から続く代理契約戦争(ヴァルバニル)の決着がこんなことでは興ざめだ!」

がれきを乱暴にどかし、ゆらりと立ち上がるシーグフリード。

「興ざめか……そいつは悪かった。この一太刀は、ほんの挨拶代わりだったのだがな……喰らってやろう!人外!」
「喰らうのは――俺のほうだ!不能!」

それぞれが、それぞれに嫌味を込めて罵倒する。死刑宣告の意味を込めて――

―――仕切り直し―――

静かに、アリファールを納刀する。
すちゃり。甲高い鍔鳴りが、緊張の糸を硬化させる――
ただ、凱のアリファール鞘納音が、フィグネリアにとって『大気が泣いている』ように聞こえた。

(アリファールが……悲しんでいる?)

そんなフィーネの心配をつゆ知らず、凱はまた銀閃の牙を振りぬいていく!

「いくぞ――」

銀閃の剣舞が肉を引き裂き、黒炎の斬舞が血をすする!
アリファールの美しい刀身が血と肉と脂で汚れ、エヴァドニの波打つ凶刃が、血と肉と脂を腐らせ、燃やし、消し去っていく!
時折に刃交錯せし時、火花散る瞬間だけ、両者の姿を照らし出す!

銀閃の竜具アリファールも――
黒炎の神剣エヴァドニも――
『得物』とてその例外ではなかった。










閃斬の——交差後方(クロスカウンター)――!!











瞬閃16回の打ち合い――何合繰り返したか、もうわからない。
互いの得物は刃をつぶされた『鈍器』と成り果てても、この凄惨な『殺試合』を終わらせることなどできようない。

「「はああああああああああああ!!」」

銀牙の獅子が……吠える!!
猛然と喰らいにかかる!!
血に飢えた獣以上にも!!
肉に飢えた竜よりも!!
銀閃と黒炎が互いの構成物を切り裂き、炙り、薙ぎ払い、そして焼き払う。『風』と『炎』の膠着状態が続く。
『獅子』達の死闘に、『隼』は取り残されていった。

―――喰ラウ!!―――

斬り合いは死闘へ、そして泥死合へと形態をなす。
果たして、流血の始まりはどこからだっただろうか?
剣だけかと思いきや、隙あらば両者は得物で殴ることもためらわなかった。
例えば――アリファールの刃がエヴァドニの刀身でふさがれた場合、『牙』たる刀身を捨て、『爪』たる納鞘で殴打するというように――
ただの鞘と侮るなかれ――竜具故の十分な強度あればこそ、次々と黒衣の男の軽甲冑を砕いていく!
シーグフリードもまた、同じ手を使ってきた。もっとも、こういう殺し合いに慣れているのは、シーグフリードのほうだから。
壁面が次々と羊用紙のように破かれ、床地が連綿と抉れていき、大気が煙を巻いていく!

「うおおおおおお!!」

銀閃が、虚空を彩る!!
壁面――天空――奥床へと、鋭角的な立体機動を得て、獅子は銀髪の悪鬼の(ハラワタ)を狙う!

「――銀輝運翼(リュミエール)!!」

敵の認識能力を阻害し、誤認させ、遅延させる機動術――フィーネは凱の動きを目で追うので精一杯だった。
シーグフリードの追求能力も、そこが限界だった――
しかし、生存本能が、銀髪の反射神経を極限までに高めさせた!

(このオレの予測を上回る『竜技(ヴェーダ)』を放ちやがった!)

そもそも、この密閉空間で高機動地戦(ハイペリオン)するものならば、壁面と天井に激突するのが関の山だ。
距離を測り間違え、岩壁に衝突して墜落する燕のように。

『竜の翼―ヴェルニー』を細分化させたもの。『竜の羽毛―リュミエール』だ。
銀閃竜の羽ばたく『翼』の軌跡には、流星のような輝く『羽』が舞い散るという――。
大気光学変換。スラスターたる風影(ヴェルニー)で、大気に散らばる微粒子をコロイド状に凝縮させ、周辺へ散布させる。
これにより、視覚をはじめとした五感的な補足をほぼ不可能にしている。
その幻惑効果は見てのとおり、シーグフリードの行動を遅らせには十分だった。あと一瞼の瞬き遅かったら、確実にガイにハラワタを食われたであろう。

「―――――――――!!」

とうとう『王』は、不殺という『心の檻』から解き放たれた!!
憎悪。嫌悪。殺意。の矢じり。心の弓弦は、眼光とともに大気を振るわせる!
『毛利の三本矢』のたとえ――この堕ちた三本の矢がある限り、凱の破壊衝動は絶対に折れない!
鏡写しのように、斬撃がかみ合う!
今二人が演じているのは、『夜』と『闇』の先を誘う『死』の舞踏会!
せめぎ合う僅かな火花――それが何度カンデラ代わりの『照明』を代替えしたかわからない。

「――嵐薙(クサナギ)!!」

瞬間――凱の再び流星に比すべき抜刀術!
鉄塔が横なぎすると錯覚させる……竜の尾を思わせる光の加速質量!
鞘走りを利用した、アリファールの断熱圧縮作用が、『光の剣』となりて光臨した!
熱も光も帯びた『紅白い剣閃』たる『銀閃竜(アリファール)の尾』が、シーグフリードを襲う!
これは、『竜の翼―ヴェルニー』・『竜の爪―レイ・アドモス』・『竜の息―メルティーオ』に続く、『竜の尾―クサナギ』だ。









バリィィィィン!!!!










斬鉄――!?










エヴァドニの……刃が粉々に砕け散る。刃の競り合いの結果に銀髪はちっと舌をうつ。
竜具と神剣の相互関係。
神剣とは、ヴァルバニルという黒竜を標的とした『遺伝子破壊能力(ゲノムマップクラッシャー)』である。
同じ竜のゲノムをもつ三つ首黒竜のジルニトラの遺産も、被標的なのは例外ではない。
本来、凱の持つアリファールと、シーグフリードの持つエヴァドニで切り結んだ場合、竜殺しの神剣に軍配があがる――はずだった。
純粋な殺意――
それは、研ぎ澄まされた竜具の殺人具――
流星が大気を切り裂く『裂空』の力学――
大気の断熱圧縮が生み出す『銀煌精(プラズマ)』に切り裂けぬものは、この地上に存在しない――
体感温度60度。
刀身温度100000000度。※1
最も固い双頭竜(ガラドヴァ)の鱗さえ、果肉のように切り裂く溶解熱――
ヴィッサリオンが忌み嫌う、小さな粒同士をはじき合わせる銀閃の力学。
その光をまとったアリファールを見せつけるように、凱は厳かに告げる。

「次は――その首をもらう」

アリファールの紅玉が、血に飢えた朱黒く染まっている。
綺羅絢爛のアリファールの刀身が、多重の意味で見る者の背筋を凍てつかせる。
ガイ――あんたには……銀閃の悲しい声が届いていないのかい!?

「ガイ!?もうそれ以上戦うのはやめろ!アリファールが泣いているのが分からないのか!?」
「終わりだ――――シーグフリード!」

咬み合わない、凱とフィーネのやり取り。
やはり届いていないのか、凱はアリファールの刃立ちを90度傾ける。それが何を意味するかは明白だった。
怖い―――これ以上、凱の強さを目の当たりにするのは――
あの穏やかな気性を持つ人間が、『簡単に人を殺めてしまう』ようならば、文字通り躯の大地が広がってしまう。
数多の躯の頂に立つ獅子王……ひとりぼっちの『王』――
終焉の女神ティル=ナ=ファに祝福されるたった一人の……『勇者』にして『王』の…… 

「……ダメだ」

苦しくあえぐように、フィーネは声を絞り出す。これ以上、ガイにあの強さを見せるわけには――

「誰か――!!誰かあの二人をーー!!」
「無理です」
「……お前は?」

突如として背後に現れた人物……紫と朱に彩られた大鎌を担ぎし貴人だった。
フィーネの問いに答えることなく、虚影の幻姫は幻想に秘められた現実を話す。

「あの二人は……ジスタートではなく、『代理契約戦争(ヴァルバニル)』の中で戦っています。二人を止められるのは、同じ代理契約戦争を味わったものだけです」

『頂』にいる二人には、『麓』の私たちなど眼中にない。そうつけ加えて――
己が得物を砕かれたシーグフリードは、構えを解こうとしなかった。
――――なぜだ?

「シーグフリード。貴様ら『狂人』は退くことを学ぼうとしないな」
「代理契約戦争に撤退はない。貴様も分かっているだろう?」

――――本当に退く気はないようだな。

不退転の姿勢を続けるシーグフリードを見据えた時、凱の瞳の光が揺らめく。
投合。破壊されたエヴァドニの……それも炎纏いし残骸を凱に叩き付ける。

(見るに堪えない惨めな抵抗『だ』。『ですね』)

フィグネリア、ヴァレンティナの醒めた感想。
だが、凱はあえて避けることなく、みっともないシーグフリードの抵抗を受けて立った。

「……『本能』より『衝動』を選ぶか。それもいいだろう!シーグフリード!」

生存という本能は、生命体が持つべき正常な手段にすぎない。
衝動とは、狂人が持つべき異常な論理行動。
故に、狂人のとるべき選択は唯一『衝動』となる。
アリファールの切っ先が、鋭い光を放ちつつ天を見上げる。

捕えた!!――

華隼と闇竜の姫君たちに繰り広げられる視界は、そう脳へ認識させた。いかにシーグフリードといえど、この間合いなら凱にとって『斬魔の結界』だ。不用意に立ち入れば、『降魔の斬輝』の裁きが下されるのは間違いない。
だが、一足の間合にまで詰め寄ったとき、一瞬シーグフリードの殺気が途絶える――
かすかな違和感を獅子が受け取り、僅かな間隙を銀髪鬼に狙われる。
シーグフリードは『引き金』を引いた。










大気引き裂かれる『弾丸音』――










完全に不意を突かれた。
狂人の流れるような自然な動作。にも関わらず『右腕』の不自然な仕草。瞬間、凱の握られていたアリファールが、虚空の彼方へ弾かれる!

(あれは……銃!?)

ヴァレンティナの表情が驚愕に染まる。だが、彼女の感情動作も構うことなく、シーグフリードは得物を失った凱に追撃を見舞う!
落石を払いのける怪力が、獅子に拳の弾幕を内臓器官に浴びせる!

「かは――――!!!!」

エヴォリュダーの強靭な内蔵機構が、ボロボロに破壊される!
抵抗力を失った獅子は、さらなる追撃を想定する!
左手は『太古より生息するシダ植物』!
右手はそれで獅子の首を締め上げる!
頭上には、『天然の洞柱』を経由——天然の『絞首台』にて決着をつける!

「これで終わりだ!シシオウ=ガイ!!」
「か……ああ……あ……が……あ!!」

言葉にするのは、獅子への憎悪。対する獅子は言葉にならないうめき声。
否、言葉にできないのだ。

――――だが、勝負はまだ終わっちゃいないぞ!

その憎悪に近い闘志を秘めたまま、凱は腰に残されたアリファールの『鞘』を――シーグフリード目掛けて投擲。竜具による『てこの原理』が、凱を天然の絞首台から解放させる。

両者、間合いを取り、呼吸を整え、体を取り繕っている。

――――これが……代理契約戦争。

それは、フィーネなのか、ティナなのか、誰が呟いたのかはわからない。

やがて――
冷たい空気の中、獅子はこうも告げた。

「飽いた」
「そうだな」

既に両者は剣をなぞりあって『血の華』を咲かせている。赤い根を張り、力強く。
これが正しき舞踏会の正装(タキシード)。戦場に非礼なき戦装束だ。

「降伏など許さん」
「降伏など認めん」

「「なぜなら」」

同時に地を蹴った。

「「どのみちお前はここで――――――死ぬからだ!!」」

もはや刃の原型をとどめていない二つの得物が――最後の破壊へ挑戦しようとしたその時!! 

















「やめんか!!シーグフリード――――――――!!」

横手から飛び込んできた轟声が、二人の獅子を一喝する!!
人知を凌駕したあの二人を止めたのは、いかな人物だろうか?やっぱり、代理契約戦争の経験者なのだろうか?
そもそも、声の正体は代理契約戦争の経験者どころじゃない。その人物はむしろ、『戦主犯』なのだから―― 

「『夜遊び』も大概にしろ!貴様の任務は獅子王(レグヌス)の力量を図ることだろうが!!」

聞き覚えのある声……懐かしくとも思いたくない人物。
フィーネは目を見張った。あれほどの殺陣にも拘わらず、彼らにとって遊びの延長に過ぎなかったのか?

「……オーガスタス=アーサー」

凱は彼に振り替える。

「今はクライマックスでいいところなんだよ!帝国騎士団長さんといえど、邪魔はさせないぜ!!」
「……騎士団長?」

フィグネリアは疑問に浮かんだ。国に仕えるべく騎士団の、それも指揮官が一体何の用だ?
思わぬ邪魔で白けたシーグフリードは、つまらなそうにつぶやいた。

「せっかくの勝負に水を差されたな。次の『契約交渉(いのちのやりとり)』は次の機会だ。ガイ」
「命拾いしたな。シーグフリード」
「貴様がな」

最後の最後まで、殺しの合い言葉をやめようとしない。その声紋、発音が、相手の存在を否定したがっているのははっきりとわかる。。

「シーグフリード!報告しろ!結果はどうだった!?」
「やれやれ。『勇者』のほうはまったく使い物にならん……が、『王』のほうは………それなりにやっていける模様。以上――」

報告としては最低の部類なのだが、結果が分かっただけでも良しとしよう。そう解釈する。

「まったく、あいつは何を考えているのかさっぱりわからん」

オーガスタス=アーサーは、シーグフリードの振る舞いにあきれるばかりだ。

「聞かせろ。オーガスタス=アーサー。なぜ貴様らがここにいる?」

凱の質疑はもっともだった。
アリファールの呼びかけに答え、凱はここへ足を運んできた。しかし、このような『顔見知り』に出会うことなど予想しえなかった。。
一人も二人も知った顔に立ち会わせている――それも、フィグネリアの隣にオステローデ主、ヴァレンティナ=グリンカ=エステスまでいるではないか?これが偶然で片づけていいはずがない。

「落ち着けガイ。今からその『依頼主』から話がある」

凱の視界の端には、虚空回廊の出口が開かれようとしている。――

「シーグフリード君――シシオウ君――君達『代理契約戦争』の生き残りには、このような神殿で朽ち果ててほしくない」
「そうか。真の黒幕はあんたか」

凱は底冷えする怒りを押さえながら、黒竜の王の名をつぶやいた。
初めて会うにもかかわらず、頭上の王冠と纏う風格が、その人物だと裏付ける。
枯れたような手に、色抜けした金髪の姿。今この大陸情勢で動ける『王』はあの人しかいない――。

「ヴィクトール=アルトゥール=ヴォルク=エステス=ツァー=ジスタート――」
「手荒な真似をしてすまなかった。だが、余にはどうしても『銀閃の勇者』の力を知る必要があったのだ。許してくれ」
「いますぐに、この場で聞かせてもらおうか。この一見に巻き込まれたのは俺だけじゃない――フィグネリアも……」

凱は我に返る。彼女の名を呼んだ時、今更ながら『王』に立ち戻っていることを自覚したからだ。

―――――ゴン!!

アリファールの『柄』で、己の額部を強打する!
それは、自らを戒める刑罰にして報い。何より、、アリファールの呼び止める声に気づけなかった自分への贖罪だ。

「フィーネも立派な関係者。彼女も同席させるのが条件だ」

――ガイはもどった?戻ってくれたのか?

「……ごめんなフィーネ。俺は……『また』気づけなかった」

今度こそ、戻ってくれた。
優しい声色。自分より相手を気遣う言葉。
間違いない。私の知っているシシオウ=ガイという人間だ。










◇◇◇◇◇









一定期間、殺し合いから小休止を置いて、皆は一同に集まった。

「シシオウ君。突然ですまないが、まずはこれを見てほしい」

懐から差し出して、凱に手渡したのは『一枚の紙きれ』だった。

「……肖像画?」

人間の手で描かれたたとは思えないほど繊細で精工な『描き込まれた肖像画』に、フィーネは目が釘付けになった。
――まるで、人が紙の中へ、まるごと閉じ込められたかのような――
塗料感、硬質感ともにある皮羊紙の手触りに、凱は肖像画の正体を確信した。

「フィーネ。これは肖像画じゃない」
「その通り。これは『写真』といい、特殊な羊紙に『光』と『影』を焼き付けたものだ」

青年の推測に、年老いた王はこくりとうなずいた。
ギャレオンのような凄みのあるフルセットの髭に、凱は思わず眉をひそめた。

「その男こそ、フェリックス=アーロン=テナルディエ――――まつろわぬ民の末裔だ」
「「ライトメリッツの……まつろわぬ民の末裔?」」
「単刀直入に言おう。シシオウ君。彼は今――――ブリューヌで暗躍している」

まるでオウム返しのように、凱とフィーネはヴィクトールの言葉をつぶやいた。

「ジスタート建国時代の真相を――今こそ話そう」

NEXT













あとがき――

るろうに剣心の色が濃すぎる今回の話――
今後の展開のためにと思っていただき、ご愛敬ということで解説を。

※1本来温度というのは、小さな粒子の速度を意味している。気温が高くなると粒子の動きも活発になる。
アリファールの納刀状態で『レイ・アドモス』を発動させると、「気温の出入り口をなくした大気」が瞬間連続で発生し、常温20°から一気に刀身温度100000000度へ上昇する。
それが、大気上の物質を分解(水から水素酸素)させる『煌炎の力学』となったり、大気上の物質を還元(水から氷)させる『凍漣の力学』になる。
ヴィッサリオンも銀閃の勇者だったとき、『竜技―クサナギ』を一度だけ使っていたが、『小さな粒同士をぶつける力学』の為、自然災害を引き起こすとして禁手にしている。
体感温度60度。
刀身温度100000000度。
一体どういう意味の表現なのか?
分かりやすい身近な例えをすると、プラズマ代表の蛍光灯は、内部は一万度の温度になった時と同じ速度で粒子は走っている。けれど、火傷するような熱さは感じない。粒子自体の数が少ないためである。(とはいえ、点灯中、直にさわるのは危険なのでやめましょう)アリファールの刃が食い込んだ時に、対象へ100000000°が瞬間的に熱伝導するため、理論上、地上で切れない物質はないとされる。

※3ソフィーの竜技『我が先を疾走よ輝く飛沫よ・ムーティラスフ』と同名の技。
 
 

 
後書き
次回予告です。

「黒竜の代理……その意に従わぬものは『力』を以って平定する……あの時代ではああするしかなかった!」

――俺は黒竜の化身だ。俺を『王』として従うなら勝たせよう――

「王――」

その言葉をつぶやいたとき、凱の全身に戦慄が走った。

他の『自然力学』に追随を許さない竜の最高位の存在。

『銀閃』――

『凍漣』――

『光華』――

『煌炎』――

『雷禍』――

『虚影』――

『羅轟』――

それらの『力学』を『魔』の『力』で従える『魔王』

黒竜の化身とは――

自然原理を体現するために行動する『黒竜の眷属』として――

戦姫は『竜』の意志によって選ばれる――

勇者は『星』の意志によって選ばれる――

両者は『竜星』の行く末に、未来を得る――

ヴィッサリオンという、『前例』があったからだ。
 
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