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とある科学の裏側世界(リバースワールド)

作者:偏食者X
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second contact
  ep.047 死神の願い

「箱部.....さん....。」

操作の中で時間が止まった。
実質的には僅かな時間に過ぎなかったが、操作の中では永遠に続くかのように思えた。

無意識のうちに鈴花を抜き、相手に斬りかかる。
男はその異様な殺気を即座に感じ取り、鈴花を生身で防いで見せた。

「あぁ? てめぇ何か見覚えがあるな?」

男は鈴花を弾き、空中で無防備な操作を殴り飛ばす。
そして操作を観察する中で操作が腰に差しているもう一本の小刀を見て誰なのかを理解した。

「へぇ〜。 お前...IS(イズ)だろ?」

操作は一瞬表情が強張ったが知らない振りをする。
だが男は僅かな間の表情の変化を見逃さなかった。

「そんな余所余所しい顔してんじゃねぇーよ。 俺のこと覚えてない訳でもねーんだろ?」

操作もそう言われて相手の顔をちゃんと見た。
すると、頬の部分に鉤爪で付けられたかのような印象的な傷が付いていた。
そして操作はその傷からアナコンダ時代の記憶を一気に巻き戻していく。
その中で何度かこの男を目撃していたことを思い出す。


その男はアナコンダで"拷問官"をやっていた。
新米の暗殺者を従順な駒にしつける為にありとあらゆる拷問を実行する非人道的な人間。
その中で命を落とす者も少なくはなかった。
当時の操作はまだ"人の死"に対しての感情が無く、その拷問を何とも思わなかったが、今となっては何故そうだったのかと疑問に思うほど悍ましい記憶だった。

「お前は確か"無名の拷問官"だったな。」

操作は言葉遣いが多少荒くなっている。
それは鈴菜を踏み付けるこの男に対しての圧倒的な殺意によるものだ。
可能なことなら今すぐにでも彼女を助け出し、あの男を微塵切りにしてやりたい気分だった。

「あぁ、アナコンダでは暗殺者以外には名前が与えられないからなぁ。 俺はボスに心から忠誠を誓っていたにも関わらず、ボスは俺の顔すら覚えてくれなかった。」

ボスにとっては名前のある暗殺者は自分の息子のようなもので、名前のないこの拷問官など覚えるに値しないものだと考えていた。
だが、そうであってもこの男はボスに対して忠誠を誓っていたのだ。
その心情は多くの人が察せられるものでもない。

「俺は覚えている。 ボスに可愛がられ実の息子以上に大切にされたお前の事を...何処までも報われない俺はそれを求めずとも与えられるお前が憎く、そんな偏見的な愛情を持つボスを憎んだ。」

男はただ認めてもらいたかっただけだった。
自分も息子の一人であるということを。
だが結末は違い、ボスは最期まで自分に名前を与えることはなく、あろう事が最愛の暗殺者である操作の手によって葬られたのだ。
男は今でもその光景をふと思い出す。
まるで本当の親のように優しい言葉を投げ掛けるボスの首を操作が掠めるその瞬間を。

「俺はなぁIS....お前に感謝してるんだよ。」

「感謝?」

操作の顔が歪む。
段々とこの男が人間の革を被った別の生き物のように見えてきたのだ。
口を開く動作ですら身の毛がよだつような不快感を感じるようになる。

「俺はこれまでであんなに人が死ぬ瞬間で興奮したことはなかった。 僅かな希望が一瞬で天に還って行く瞬間、俺はあの時心からゾクゾクした。 あんなに残酷な話があるわけねぇだろ?」

男は息が荒くなっている。
体からほとばしるアドレナリンで体が芯から冷つくような快感に似た感覚を味わっている。
一方の操作は完全に惹いていた。

「この化物め。」

「化物ねぇ...そうかも知んねぇなぁ。 もう人の死を見過ぎて頭が狂っちまってんのかもな...ヒャハハハッ!!」

男は狂ったピエロのような高笑いをすると、スイッチが切り替わったかの如く平常運転になった。

「てめぇにも死の味を味合わせてやるからよぉ....この女助けるためにもさっさと来いよ!!」

男が煽り、操作はそれに乗る。
男の懐まで迫り鈴花を逆手に持って飛びかかる。
その際に能力で相手の視覚を弄り、位置情報を錯覚させてある。
完璧な攻撃に見えた。
しかし、攻撃がヒットしたのは男のほうだった。
操作は横殴りに来る腕に当たり、軽々と吹き飛ぶ。

「かはっ!!」

操作はコンクリートの柱に激突する。
そこから起き上がると状況を整理した。

『今のはまぐれか? 単に攻撃が当たったようにも見えたがこちらを狙っているようにも見えた。』

整理がつかないまま操作は再び男に攻撃を再開する。
今度は相手に斬りかかる直前にステップで反対側に回り込んだ。
相手には能力でステップをせずにそのまま斬りかかるように錯覚させるように能力を使っている。

『これでどうだ!』

だが男は錯覚で映っているのとは逆の方向を殴る。
もちろんそこには操作がいるため、どうなるのかは誰もが分かる結末だった。

「あぐっ!!」

再び吹き飛ばされ柱に激突する。
操作は不思議に思う点があった。
アナコンダにいた頃には能力には頼らず暗殺の実力のみで実績を上げていた。
誰も操作が能力者であることすら知らなかった。
だが、この男は初めから操作を能力者だと断定したうえで戦っている。
そうでない限り操作による錯覚を見破れるはずがない。
操作は1つの仮設を考えた。

「あ@ц※/wゆ*5π@ё・%:?!;@」

操作は意味の分からない言葉を放った。
すると、男は一切の反応を示さなかった。

『まさかコイツ....。』

「お前、読唇術を身に着けているのか?」

操作は男に質問した。
だが男はしらばっくれる。
操作はそれで確信したのだ。

『この能力による錯覚現象は相手の視覚と聴覚を操ることで実行している。 だが先程の反応から見てもこの男は耳栓をしているに違いない。』

ともなれば能力を使わずに近接戦闘をする以外で操作に戦う手段はなかった。
不意に腰にあるもう一本の小刀に手が伸びるが、操作はその小刀を使うことを拒んだ。

「もうこれは使わないと誓ったんだ...多くの人の血を吸ったこの刃は使うわけには行かない。」

もうISであった頃のように人の命を奪ったりしないという誓いを守るために差している。
故にこの小刀を使う時は人の命を奪う決心をした時だけだと決めていた。

操作は再び鈴花は強く握り締めると男に立ち向かった。
だが、結果は出ず相手に踏み付けられた。

「何を怖がってやがんだ? ひょっとして...」

男は気を失った鈴菜の腕を掴み持ち上げる。
鈴菜は相変わらず意識が戻らず人形のようにブラブラとしていた。

「この女殺せば、ISでもなってくれんのかねぇ。」

「........ッ!!」

男は鈴菜の首を持つと少しずつ絞め始める。
鈴菜は抵抗できないままされるがままになっている。

「やめろ!!」

操作は男の足をどかそうと必死にもがく。
しかし、まるで重りのような足はびくともしない。

「おら!! さっさと逝っちまいなぁハハッ!!」

「おぐっ.....かっ....はっ.....。」

流石に気を失っていても首を絞められいれば顔を歪めて苦しそうにする。
そんな中操作は心の中で別の声を聞く。

◆◆◆◆◆◆

『お前では彼女を守りきれないか?』

『お前は誰だ?』

『そうだな...考え方としては兄になるのか?』

『僕に兄なんていない。』

『あぁ、実質的な兄はいない。 なら俺はお前のオリジナルと言うのが正しいか?』

『オリジナル....どういうことだ。』

『池野操作というのは...俺が能力で作ったもう一つの人格に過ぎないってことだ。』

操作の頭は混乱する。
いきなり囁きだした声に自分は作り物の人格だと宣言されたのだから無理もないだろう。

『まぁ固まるのも普通だ。 俺が一方的にお前の記憶を共有しているだけだからな。』

『何故多重人格にする必要があったんだ。』

『..........そうだな。 すべては彼女のためだ。 箱部鈴菜という女性を守るには俺の手は余りにも汚れ過ぎた。』

『だから仮の人格を欲した?』

『あぁ、暗殺時代に培った身体能力を一部制限し、記憶のみを受け継いで作った。 また同じ過ちを繰り返させないための保険としてだ。 案の定お前は今日まで人を殺めることなく彼女に寄り添ってきた。』

『でも僕には今の状況を打破できる手がない。 僕は彼女を守りきれずに終わってしまうのか?』

『......そうさせないために俺は俺自身の人格をこの体に残しておいたんだ。 だからここは俺がやる。 任せろ、兄貴(仮)として彼女は守ってみせる。』

◆◆◆◆◆◆

「ハハハッ....あぁ?」

男は不意に足に違和感を覚える。
そして足を見ると、膝から下がなかった。

「..........っ何!!」

男はバランスを崩し鈴菜を放す。
操作は鈴菜を優しく受け止め、その場を離れた。

「なっ....何だってんだこの傷は!!」

痛みすら感じることはなかった。
まるで初めから片足が無かったかのように今も痛みを感じることはない。
男が操作の方に目をやると操作は鈴花ではないもう一本の小刀を抜いていた。
その小刀は過去に多くの血を吸ったことによりその刀身はなまくらを思わせるほどに黒かった。

断刀・頭並べ(だんとう・かしらならべ)....この刀を持つのも数年ぶりになるのか。 可能なら永遠に持ちたくはなかったが....過去の亡霊が相手なら仕方ない。」

そこにいたのは操作ではなくISだった。
先程の殺気に溢れていた操作とは違い、むしろ何一つ感じなくなった。
それこそ目で見えていてもそこにいる気配を感じ取れないくらいだ。

「馬鹿な....レベルが違い過ぎる。」

ISはノーモーションからダッシュし、加速するとその速度から一瞬で目で捉えられなくなる。
そして気付いた時には体のパーツの何処かが切断されて宙を舞っていた。

『馬鹿な...これがかつて死神と呼ばれた男の実力。』

男は決して起こしてはならない人物を起こしてしまったことを心底後悔した。
ISは頭並べを逆手に持ち、手足を両断された男の首を斬り落とそうとする。

「終わりだ。」

ISが視界から消え、男は死を悟った。
しかし、ISの頭の中で1つの大きな声が聞こえた。

『いけません!!』

聞き覚えのあるその声にISはピタリと止まる。
その手に持つ刃は男の首に触れる直前だった。
途端にISは刀をしまい鈴菜の元へ戻った。
まだ目を閉じたままの鈴菜の頬をISは優しく撫でる。

「数年ぶりだね...箱部さん。 残念だけど俺が君と会えるのは君がこうして眠っている間だけなんだ。」

ISの顔は何処か寂しそうだった。
それが伝わったのか鈴菜の目に涙が溜まる。
それは頬を伝い、頬を撫でるISの手を濡らした。

「もうお別れの時間か...最後に....。」

ISは鈴菜の唇を奪った。
同時に能力で彼女を治療する。
傷口が塞がり、体力が回復していく。

『俺は後悔なんてしていない。 これから先も操作と鈴菜を守り続けていくのが俺の役割だ。 この口付けはその見返りだと思ってくれれば良い...さぁそろそろ目覚める時だよ...箱部さん。』

「..........っ......操作...様。」

重い瞼を上げるとそこには操作(・・)がいた。
鈴菜は不自然に流れる涙の意味が分からなかったが、操作の顔を見て何かを感じ取った気がした。

「さっきの言葉の続き、やっと出てきたんだ。」

「言葉の....続き?」

鈴菜はまだぼぉーっとしている。
だが操作は話を続ける。

「これからはもっと()のことを頼って欲しい。 君のパートナーとして君を助けたいんだ!」

操作の必死の思いを聞いた鈴菜は優しく微笑んだ。
その笑顔は今まで見た中で1番優しかった。
 
 

 
後書き
今回はここまでです。
歴代でも屈指の話の密度になりました。
次回はついに仁の話しになります。
まぁ正確には仁は戦いませんが.........。
次回もお楽しみに。 
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