ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜《修正版》
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SAO編ーアインクラッドー
07.連撃技
二〇二四年六月二十四日 第六十二層・迷宮区
「おりゃぁ!!」
第六十二層の迷宮区。薄暗い空間にシュウが放つソードスキルの輝きが照らし出される。
第三十五層の迷いの森に出現したドランクエイプに似たモンスター《グランプロン》が光の欠片へと変わる。さすがにその強さは三十五層のものとは比べものにならない。
「はぁ……はぁ……はぁ。さすがに一人で前線は疲れるな」
最近になって一人で迷宮区を攻略するのがきつくなってきた。倒せないほどではないが複数の敵を一度に相手にするとなると逃げるのを余儀なくされる。
「あれ、シュウじゃねぇか?」
聞き覚えのある声に振り返る。そこには、赤いバンダナと武士の甲冑がトレードマークのクラインとそのギルド《風林火山》メンバー五人だ。
「クラインじゃないか。お前も迷宮区の攻略か?」
「そうだ。お前もソロでよく頑張るな」
「まぁな、ソロが一番楽なんだよ」
「ここで会ったのも何かの縁だ。今日は俺たちと一緒に行動しねぇか?」
「いや、遠慮しとくよ」
「おいおい」
「って、冗談だっつうの。よろしくな」
シュウはクラインと拳を交わす。
今日一日限定の《風林火山》とのパーティーが結成された。
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「いやぁー、やっぱ強いな、シュウの字は。お前がいるだけで安定感がすごいな」
「そんなことねぇよ。お前のギルドのメンバーが強いんだよ」
ギルド《風林火山》のクラインを含む、六人で構成されている。リアルでも交流のあるメンバーらしい。その実力はSAO内でもトップクラスのギルドに並ぶ。βテスターを有さずに最前線を戦い、なおかつ初期メンバーから誰一人かける事なくここまで生き残り続けている。
それは素直に尊敬に値する。
シュウたちは迷宮区の奥へと進んで行くと徐々に空気が重くなっていくのを感じる。そしてそれはやはり近くに存在していた。
プレイヤーの何倍もあるであろう巨大な扉。間違いない。この迷宮区のボス部屋だ。
「どうする、シュウ覗くだけ覗いてくか?」
「確かに次のボス攻略に役立つならその方がいいだろ」
ボスの扉を開ける前に大きく深呼吸をする。
「みんな、転移結晶は手に持っておけよ」
風林火山のメンバーの様子を確認する。
「行くぞ!!」
ボスの部屋の大きな扉を開ける。中はいつものように真っ暗で何も見えない。すると先ほどまで入ってきた扉が大きな音を立てて閉じる。
そして、ボス部屋に明かりが灯される。部屋の大きさはそんなに大きくなく周りは壁で覆われている。そして、部屋の中央部の地面に巨大な両手用大剣を刺し、たたずむ狼の頭をした二足歩行のモンスター。
グォォォォォ、と獣の雄叫びをあげるとともにHPゲージとともにボスの名前が表示される。
《The Grape War》──墓場の狼。
「撤退するぞ、クライン、みんな!!」
ボスの確認をしたので、ボスの部屋から撤退をする。手に持っていた転移結晶を掲げ、叫ぶ。
「転移、アルゲード! あれ? ……転移、アルゲード!」
「どうしたんだよ、シュウ?」
「……嘘だろ」
そんなことが……またあの悪夢が起きるのか。
シュウは恐る恐るその言葉を口に出す。
「……転移出来ない」
「嘘だろ! 転移、アルゲード! 転移、アルゲード! なんでだよ!!」
クラインも何度も転移先を口にするがその言葉は無情にも消えていく。風林火山のメンバーもやるが反応がない。
つまりここはあの時と同じ結晶無効化エリアだ。
ボス部屋からの脱出は不可能。目の前には、墓場の狼がこちらを睨みつけている。退路などはなからない。ならば、
「みんな、戦うぞ!!」
少し戸惑いをみせるが、風林火山も攻略組ギルドの一つ。一瞬で顔色が変わり戦闘体勢にはいる。
「俺とクラインがあいつの武器を弾くから残りのみんなは、その隙に攻撃してくれ。行くぞ、クライン!!」
「おう!」
背中から片手剣を引き抜き、構える。
「……行くぞ!!」
───片手剣水平四連撃技《ホリゾンタル・スクエア》
一撃目で大剣を弾き、そのまま四角形を描くように三撃を斬り込む。青白い光が空中に四角形を描く。
「クライン!!」
「おう!」
刀のソードスキルが腹部を切り裂く。続けて他のメンバーも追撃する。
『グォォォォォ!!』
グレイプワーは苦痛の声をあげながら、大剣を地面に勢いよく突き刺す。突き刺した瞬間、地面が一瞬で揺れ、その場にいた全員がよろめく。それは一種のスタンの状態だ。
その目的はプレイヤーたちの動きを一瞬止めることになる。その瞬間、狼は大量の空気を吸い込むモーションへとはいる。それは今まで戦ってきたエネミーたちが見せるブレスのモーションだ。風林火山のメンバー三人へと向けてグレイプワーがブレスを放出しようとする。
「させっかよっ!!」
スタン状態が解除されると同時に背負われている槍を引き抜き、片手剣から手を離し、右手に持ちかえた槍を後ろへと引き絞る。紅い光をまとった槍をグレイプワーめがけて投げ飛ばす。
───槍投撃技《レイヴァテイン》
不可視の力が槍を一直線に空を引き裂く。槍はブレスを放つ体勢にはいるグレイプワーの背中に突き刺さる。
『グォォォァァァァ!!』
スキルモーションをキャンセルしてグレイプワーの叫びは空気を劈いた。
「今だ、いけ!!」
クラインと風林火山の皆がいっせいにグレイプワーに飛びかかる。
───これなら勝てる。勝てるぞ!!
だが、やはり思った通りにはいかないのだった。
グレイプワーは叫びとともに地面に突き刺していた大剣を両手に持ち、その場で回転する。そして大きな渦を作り出す。クラインはギリギリで回避するが他の風林火山のメンバーを巻き込まれる。
竜巻のごとき斬撃が風林火山のメンバのHPを無情にも削り取っていく。
「みんな!!」
続けてグレイプワーは、その回転のままブレスを放出する。蒼白い炎がフィールド全域を包み込んでいく。シュウもなす術もなく吹き飛ばされる。
「さすがにこの威力でボスの全体を攻撃はせこすぎだろ」
全域攻撃ということでそこまでダメージ判定にはならなかったがクラインを除いた風林火山のメンバーはかろうじて生きているような状態だ。次にダメージを受ければHPは0になりかねない危険な状態だ。
───このままじゃ……
グレイプワー風林火山のメンバーへとトドメを刺そうとHPが少ないメンバーの方へと一直線に向かっていく。
このままではまた、誰かの大切な人が失われてしまう。シュウの目の前で誰かの命が失われるのは……もう嫌なんだ。
迷っている暇はなどもはやない!
「クライン!! 一瞬でいい、あいつの気を逸らしてくれ!!」
「わ、わかった!」
クラインが風林火山のメンバーを襲うグレイプワーへと向かっていく。
メニューウインドウを開き、武器選択メニューで槍から片手剣に変えた後に、さらに片手剣のアイコンが表示されるもう一方のアイコン画面へと新たなるアイコンが浮かび上がる。
───今度こそ……やってやるよ。
クラインがグレイプワーの大剣を弾いた。
「クライン、今だ!! スイッチ!!」
シュウがその掛け声とともに一気に突進する。
「おりゃぁぁぁぁ!!」
雄叫びをあげながら右手で持つ片手剣が漆黒の光をまといながら墓場の狼の身体を切り裂く。
───片手剣九連撃技《ダークリーパー》
死神が鎌を振るう如く漆黒の刃が次々と身体を抉っていく。
このタイミングでの大技はかなりのリスクを伴う。大技故に長時間の技後硬直が起こる。
それは大きな隙。ただの自殺行為だ。しかも、モンスターの目の前での大技は本来ならば、スイッチできる仲間や相手が技後硬直している時に行うもの。
全ての攻撃を受けたグレイプワーは、大きく口を開けてシュウのHPを喰らい尽くすように大剣を振るおうとする。
その行動と同時にシュウは意識を右手の片手剣から左手へと移行させる。
何も持っていない左手。それをグレイプワーの体めがけて突き刺すように伸ばす。
それと同時に動かした左腕はソードスキルを纏っているかのように黄金の光を纏う。左手の指を刀のように伸ばされた光の刃。
シュウは地面を蹴り上げて勢いをつけて突進する。
身体が軽くなる感覚とともにグレイプワーの足を光の刃は貫いた。
それは本来ではありえない状態。通常ならシュウの身体は技後硬直で動くことが出来ない。
しかし、このスキルは別物だ。
スキルの中でも異質。技後硬直を起こすことなく次のモーションへとはいることのできるシュウのみに与えられた唯一のユニークスキル───《手刀術》
体術スキルに似ているがそれとはまた違う。《手刀術》は常に光の刃を纏い続け、打撃ではなく斬撃を与える。それでいて技後硬直の影響をほぼ受けずに次のモーションへと移行できるスキル。
左腕の手刀をグレイプワーに直撃させると同時に意識を再び、左から右へと移行させ、片手剣に再び漆黒の光をまとわせる。
───片手剣九連撃技《ダークリーパー》
片手剣の九連撃が墓場の狼の身体を次々と抉っていく。
そこから技後硬直が襲う前に左腕を身体の前へと構える。すると身体が軽くなる感覚を迎えると同時に地面を踏み込んで一気に突進。
左腕は閃光を纏いながらグレイプワーの足を深々と斬り込んだ。
グレイプワーのHPもあと少しで削り取れる。
「これで終わりだ!!」
最後の力を振り絞って右の片手剣を肩に担ぎ上げ、システムが起動した瞬間に前へと片手剣を突き出し、突進する。
───片手剣突進技《レイジスパイク》
不可視の力が身体を押し突進。片手剣がグレイプワーの腹部を貫く。続けて突進勢いのついた左の手刀を腹部へと突き刺す。
『グァァァァッ!!』
獣の絶叫が響く。
「消えやがれぇ!!」
腹部に突き刺さった二刀を横へと斬り払う。グレイプワーが絶叫をあげながら光の欠片となり消滅。
そして空中に、Congratulations!!の文字が浮かぶ。
「……倒した」
その瞬間、身体から急に力が抜けて膝から崩れ落ちる。
「大丈夫か、シュウ!?」
クラインたちがこちらに駆け寄ってくる。
「あぁ、問題ない。HP自体はさほど減ってないからな。ただのちょっと疲労でな」
「それよりも、何だよあのスキル!!」
クライン含めた風林火山のメンバーが俺の使ったスキル《手刀術》について聞いてくる。
「今、話さなきゃダメか?」
「別に今じゃなくてもいいぜ。そのうち、話してくれよ」
俺はクラインの肩につかまりながら、次の層への階段を登る。
……三つ目のユニークスキル《手刀術》を使ったことでアインクラッドにさらなる波乱を呼ぶことになる。
後書き
誤字脱字、気になる点、おかしな点、感想がありましたらお知らせください
また読んでいただければ幸いです
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