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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第76話 連れ去り

 
前書き
復帰しました!
遅くなって申し訳ない 

 
「マダラのクローン!?」
常盤台中学から少しだけ歩いた場所にある洒落たオープンテラスカフェで夏の日差しを避けるようにあるパラソルの下で変化を解いたサソリと御坂、食蜂が向かい合うように座っていた。
「マダラって?」
「ゼツがそんな事を......繋がってきたな」
「??」
サソリはポケットに手を突っ込みながらパラソルの繊維の隙間から漏れ出す日光を眩しげに見上げた。
御坂はイマイチ要領が掴めないようで口をバツ印に噤んでいる。

食蜂は静かに紅茶の入ったカップを手に取ると水面に浮き立つ白く際立った自分のシルエットを眺めながら軽く口を付けた。
「食......蜂だったか」
「何かしらぁ?」
「それをオレ達に話した訳は何だ?」
「気まぐれよぉ。話そうが話さまいが関係ないしぃ」

確かにまだララだと確信した訳ではないし明確な証拠もある訳ではない
あちらが違うとすればこちらは何も言う事はない
巨大な派閥を作りあげて隠れ蓑にしてララを死に至らしめた組織に牙を突き刺したいだけだ
お互いにこの情報の信憑性に付いてだけ言ってしまえばイーブン......あちらも信じるに値しない

だけど信じたいじゃない
暗闇に吸い込まれていくララ
まだ朧気ながらも気遣った言葉を遺した彼の約束を信じ抜きたい

積み重ねた論文や膨大な知見よりもずっと頼りなく、小さく掠れてしまうような彼の決意は食蜂の中で強く揺るぎないもので何度も胸の中で反響していた。

「そうか」
サソリの長けた読心術は彼女の嘘を見抜くことができないでいた。
本当に確証がある訳でも根拠がある訳でもない
真に気まぐれで話しているだけだ
それを分析し終えるとサソリは顔を伏せて軽く自嘲した。

ああ
そうだ
これだったんだな......
オレが最期にあの娘に言ったのは
大蛇丸の情報を零したのと何ら変わりない
言えば何かが変わるような
つまらない世の中の土埃に落ち窪んだ雨粒が次の芽となるような淡い期待があったのだろう

似非合理主義として最後まで「気まぐれ」を演じよう
何かが変わる事を期待して彼女に応えよう
根本的な問題に立ち返るべき時だ
オレは何者だ?
人間でもなければ人形でもない
居場所なんて結局どこにも無かった
用意された演劇で踊るだけの存在に過ぎない

「恐らくだが......そのララという奴に呼ばれたかもな」
「!?」
「えっ?さ、サソリ?」
サソリは先ほどから抱いていた仮説を元に話し始めた。これは自分の中で覆る事のない大きな矛盾点となっている。

「さきほど御坂と一緒に資料を読んでみたが、どれもオレの世界では聞いた事のない事ばかりだし、オレの世界での出来事が一切書かれていない事が分かった」

数々の散在した資料を見たが忍世界には持ち込まれた事のない知識や概念が9割であった。
三平方の定理であったり、王政復古の大号令などこちらの住民ならば知っていて当然の事柄をサソリは知らない。
しかし逆も然り、忍界大戦やチャクラの概念をこちらの住民は知らない。
違う国同士では挨拶の仕方が異なるように生きているはずの世界が違い過ぎる。

それはサソリ自身も感じていた。
御坂達と出会って数ヶ月、今まで味わった事がないほどの穏やかな日々を送っている。
修羅の道に居たサソリには考えられないような生活だった。

逆にあちらの世界の事がこちらには記載されていない
それが意味するのは自明だった。

「「......」」
「......マダラはオレの所では最強最悪の忍と恐れられた存在だ。かつて圧倒的な力で地形を変えたり多くの里を滅ぼしてきた奴だ」

忍の名門 うちは一族で首領を務め、忍の始祖とされる『六道仙人』の末裔。
戦乱の時代に世界を二分する戦いを演じ最も深淵で闇の世界に身を堕とし、拳を振り上げて下ろせば天地が裂ける伝説の者だ。
「ふ、復活って!?かなりヤバイ奴って事!?」
「かなりな......オレは勝てる自信がない」
「でどうするのぉ?アイツら未だに最低な実験をしているみたいだけどぉ」
「......奴らはどうやってマダラを復活させるつもりだ?」

事態はかなり切迫して来ているのが感覚的に理解できた。
だが、最後の疑問は拭えない
マダラのクローンを造り、写輪眼を生み出してどうする?
思い出せ
今までに幾度となくヒントはあった
誤算はオレが居ることで.......その時に話していたのは......

「影十尾」
サソリはテーブルから立ち上がり、顔色を悪くした。
違うマダラの復活だけじゃない
ゼツは兵器の『尾獣』を復活させるつもりか。
「御坂......」
「は、はい!」
「全員と連絡を取れ......計画が解った。食蜂、ありがとうな」
その表情は柔らかくララの優しさが滲み出て懐かしい気持ちになる。
「!?べ、別にぃ」

「わ、解ったって?」
「奴らはここを滅ぼすつもりだ」
「ど、どどどういうこと!?」
「尾獣という兵器を復活させ......!?」

ドクン!

サソリ身体が大きく揺らいで膝から崩れ落ちる。
「な......なん......だ?か、身体が」
サソリの身体が鉛のように重くなり、視界がぼやけていく。まるで黒衣の緞帳が瞼の上で降りてくるような。
「サソリ!?サソリー」
御坂と食蜂が駆け寄るが依然としてサソリの眼は焦点が合わないように痙攣していた。
「クソ......はあはあ」

「謎解キハソコマデダナ......サソリ」
「!?」
テーブルの上に黒いネバネバした液体が滴り落ちながら人型を作り上げた。
黄色い眼をした黒ゼツが静かに印を結び出して、縛る術の威力を高くしていく。
「ぜ、ゼツ......貴様」
「種ガ分カレバ此方モ対処ガ出来ル」
黒ゼツの眼が輝き出すとサソリの万華鏡写輪眼が開眼して身体から蒼色のエネルギーが溢れ出して万華鏡写輪眼に吸い込まれていき力場が一点に集中していくようだった。

「がああ......あああ」
「さ、サソリ?......や、やめなさい!」
御坂がコインを片手に握り締めると雷を溜めて黒ゼツに放つがスライムのようにグニャグニャ曲がりだしてレールガンを躱した。
「残念ダッタナ......」
「くっ!?」
再度放つべくポケットに手を入れるがサソリの周囲に四角形がいくつも重なったような黒い空間が現れて背中上部から引き摺られるようにサソリは落ち始めていく。

「こ、これってぇ?」
食蜂が口に手を当てて震えた。
前にララが吸い込まれた空間と同じ形を成していた。
あの底のない闇に何があるか分からないが食蜂は迷わず手を伸ばした。
かつて出来なかった自分を戒めるようにサソリの腕を掴むと食蜂も闇の中に引き込まれていく。

「何してんのよぉ!貴方も早く来なさい!」
飄々としている普段の食蜂からは想像出来ない程の怒号が飛んできた。
「!?」
御坂は電撃を溜めるのを止めると足先に力を入れて走りだした。
徐々に地中に沈み行く食蜂が伸ばした腕を辛うじて掴むと御坂は常闇の世界に足を踏み入れた。

******

表の子供達......
彼らは『置き去り(チャイルドエラー)』と言ってね
何らかの事情で学園都市に捨てられた身寄りのない子供達だ

うちの施設週2回のシャワーだけだもん
本当に入っていいの?
センセー
私でもがんばったら大能力者(レベル4)とか超能力者(レベル5)になれるかなぁわ?
私達は学園都市に育ててもらってるから
この街の役に立てるようになりたいなーって
センセーの事信じてるもん
怖くないよ


実験はつつがなく終了した
君達は何も見なかったいいね?
科学の発展に犠牲はつきものだ
今回の事故は気にしなくていい
使い捨てのモルモットだからね
君には今後も期待しているからね

研究室へとメールデータを持ち込み解析を掛ける。
何処で撮られたモノかは写り混んだ背景で絞り込めるはずだし、データの送信から送り先を割り出す事も出来る。

これ以上好き勝手にやられてたまるものか......
これで手掛かりが得られれば敵に大きなダメージを与えられるかもしれない
しかし、わざわざ送って来ている事を考えると罠にも等しい
だから今回は助っ人を頼んでいる。
この場に居るのは危険が大き過ぎるので離れた箇所でデータのやり取りをしている。

RRRRR
そうこうしている間に彼女から電話が来た。
『木山先生!やはり海外サーバーをいくつか踏み台にして送られているようです』
「そうか......割り出しは出来そうかな?」
『この手のは時間が掛かりそうですね。やってみます』
かつて自殺を止めたジャッジメントの初春という少女。
ある意味計画を破綻させた元凶だが、今はチームメイトとして共に敵を追っている。

電話を切り終えると画像データをもう一度開く。
少しだけ大人になった教え子を見ながら一息入れた。
「もう少しだからな」
マウスポインタで画像を撫でるように動かしていく。せめてもの想いだ。
親に見捨てられ、学園都市に見捨てられたこの子達には自分しか守れる存在がいない。

「?」
彼女のカチューシャ部分にマウスが反応し木山は怪訝そうな顔をした。
前のめりの体勢になるとポインタの色が変わる部分を絞り込んでいく。
「隠しページか?」
呼吸を整えて一回だけクリックすると不気味な機械音の真っ暗な画面一杯に表示された移ろうように光ながら回転する万華鏡。

何が起きたか掴めない木山だがだんだんと目は虚になり力が入らなくなっている事に気が付いて椅子から倒れるようにパソコンから離れた。
「これは......」
前にサソリから喰らった写輪眼の幻術に近いものだ。
不協和音のような音楽は部屋中に響いていく。

頭痛が酷くなる
鮮明になる薬品の匂いが鼻をつく
背けたくなる血を混ざり合い嫌でもあの日を思い出していく

木山は力の入らない身体を引きずりながら携帯のリダイヤルを押した。
過去と現在の境界が曖昧になっていく。

携帯の先でガチャリと音が鳴ると先ほど会話した初春が対応した。
『はい?』
「......す......すまない」
「木山先生?!木山先生!」
研究室の中で静かに意識を無くした木山。傍らには初春と繋がっている携帯があり懸命に呼び掛けをしているが......


そこへ真っ直ぐ白い腕が伸びて来て携帯を持ちながら木山のパソコンを弄り始める。
そして木山のパソコンの画面から不協和音が止まるとあるウィルスがインストールされ始めた。

『幻想月読(フォルスビジョン)の読み込みが始まりました』

真っ白な身体をした男性の白ゼツはギザギザの笑みを浮かべ初春からの電話に声を出した。
「ゲームオーバーだね」
『!?......』
初春の声が喉の奥で凍ったかのように詰まるがゼツは気にする事なく携帯を床に落として木を突き刺して破壊した。

「さて生徒さんに会いに行こうか木山先生♪」
白ゼツは木山を抱えると掌から万華鏡写輪眼を出現させて時空を曲げて綺麗に消え去った。

『幻想月読(フォルスビジョン)のインストールまで残り10分』 
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