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Re:ゼロから始める士郎の生活

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二話 隻腕の騎士と剣聖

 
前書き
なんでさ 

 
 
 歩めど歩めど風景変わらず、その先に待っているのは門を警護する兵士達だ。
 ここが、エミリアの言っていた詰め所なのだろう。
 いかにも、ここには近付くなって感じのオーラを放っている。やっぱり来るんじゃなかった、と後悔しても仕方ない。来てしまったのだからここは流れに、エミリアに身を委ね、進むとしよう。
 「立ち寄りがたい……」
 「私も、最初にここを訪れた時はそう思ったけど。入ってみれば意外とそうでもないよ」
 「いや、あの槍構えたオッサン無茶苦茶こっち見てるんですけど。あの兜の隙間から俺を凝視してるんですけど?」
 「気のせいだよ、シロウは人の視線を気にしすぎ」
 「いや、こんだけ周りの奴らに注目されたら敏感にもなりますよ!」
 俺がどれだけの人の視線を集めたか……。
 数え切れない程の人混みに紛れて数え切れない程の人達に注目されて、俺のメンタルは限界です。
 俺からすればお前らの服装の方が変だからね?なんて言えないし、俺は無言でその視線と戦ってきたのだ。
 今でも、その戦いは続いている。
 逞しい肉体を覆う、鎧を纏った大男は俺を見つめる。
 その目は、こう訴えていた。
 怪しい奴、変な事したらとっ捕まえよ。
 俺は何も悪いことなんてしてないのに……。
 「大丈夫、皆、シロウの服装を珍しがってるだけだから変人だなんて思ってないから」
 「そうだよ、皆。
 シロウの服装を珍しがってるだけだよ。そんなに自意識過剰だとこれから苦労するよ?」
 「ありがとう、エミリア。
 パックもありが……いや、やっぱお前、俺を馬鹿にしてるよね?」
 「さぁ、僕は眠くなったから少し眠るね。
 リア、何かあったらすぐ起こしてね」
 「ん、お休みパック」
 「お休みー」
 そう言い残し、パックは消えた。
 光の粒は輝き、少しずつ消えていく。
 「お疲れ様、パック」
 エミリアは首元のペンダントを優しく握り締め、ペンダントの中央の宝石の中で眠りについた精霊に囁いた。
 この世界では精霊を司る者を精霊術師と言うらしい。精霊と契約し、魔法を行使する。言うなればマスターとサーヴァントの関係だ。マスターはサーヴァントに魔力を供給するように精霊術師は精霊に魔力を供給することで精霊はこの世界で形を成し、存在できるそうだ。と言っても最初の契約内容は精霊によってそれぞれで精霊よっては魔力を供給しなくてもいい珍しい精霊も存在するらしい。
 例えば、パックの場合だと。
 髪型の指定、今日一日はこの髪型で生活するや。ご飯を食べた後は歯磨きなどなど。
 そんなんで契約成立すんの?
 と思ったけどこれはあくまでパックの場合であり、他の精霊がパックと同じ契約内容を提示するとは限らない。
 パックの様な契約はこの世界では相当稀らしく、普通では有り得ないとエミリアは言っていた。
 パックの場合は例外、他の精霊の契約内容は精霊様々で精霊よっては簡単であったり難しかったりするらしい。
 「ホントにその宝石の中で眠ってるのか?」
 とても高価そうな宝石。魔力の流れは感じられない。いや、感じられなかった。
 この世界でも異能は存在すると解ったが、もしかしたらこの世界の異能『魔法』は魔術とは別の方法で発動するものなのかも知れない。
 「眠ってるよ、気持ちよさそうに。
 これだと当分は起きなさそう」
 「ふぅーん、まるでドラえもんの四次元ポケットだな」
 「ど、ドラエモン?」
 「こっちの話だから気にしないでいいよ。
 それより、問題はこの先ですよ。
 あのオッサンの視線が痛くて死んで死んでしまいそうなんですが」
 先ほどより突き刺さる視線に目を背け、小声で言うと。
 「言われて見ると、シロウを恐い目で見てるかも」
 「でしょ、」
 「なら、尚更だよ」
 「はい?」
 「シロウは悪い人じゃないって言ってきてあげるわ」
 「ちょ、え?
 なんでそうなるの?」
 「どうして?士郎は困ってるんでしょ?」
 「確かに困ってるけど、これは些細な困り事なんだ。例えるなら朝ごはんを作る最中、今日は米にするかパンにするか悩んで気付けば時間は午前6時半」
 「ごめん、何を言ってるか解らない」
 「つまり、俺は困ってるけどそんなに困ってないって事だよ」
 「結局はどっちなの?」
 「フィフーティーフィフティーですかね……」
 「相変わらず、何を言ってるのかは解らないけど中間って意味は伝わってきた」
 「そうですね、その中間地点ですかね」
 「やっぱり困ってるじゃない」
 なんて笑顔で俺の手を取るエミリア。
 ────やっぱり、変だ。
 なんでこの娘は俺を助けようとするんだろう。単純におっせかいさんだからか?
 会って一時間くらいしか経っていない奴になんでこんなに親切なのか……士郎には分からなかった。
 何故、エミリアは俺を助けてくれるんだ?
 「……っ、わ、解った」
 そして俺は何故、その助けを断らない……断れなかったんだ。
 「一応、言っておくけど俺無一文だからな。道案内とか色々してくれたけど大した礼は出来ないから」
 そして、この少女もなんで。
 ────笑顔でうんって頷くんだよ。
 「ふふ、大した礼って事は。
 何かはしてくれるんだ」
 「それは……まぁ、人としてだ」
 「ふぅーん、人としてねぇ」
 なんて怪しけな笑を浮かべるエミリア。
 「な、なんだよ」
 「なんでもない、ふふ」
 やっぱり、この娘は変だ。
 こんなお人好しな女の子なんてそうそういないぞ。俺の手を掴み、先導するその姿は無邪気な少女のもので見たより幼く見させている。
 でも、俺にはそんな姿が誇らしげに見えてしかたなかった。
 ……こんな光景をいつか見たことがあるような気がする。あれはいつだっただろうか、曖昧な記憶の中から思い浮かべてもすぐには思い出せず、悩みながらも過去の事を振り返った。
 そんな時だった。
 
 彼はやって来た。
 
 真っ赤な布で前身を覆い、それを金属製の鎧で固定した男。その男の立ち振る舞いは騎士、見た目からして騎士と断定できる……が、その騎士は顔を白の包帯でぐるぐる巻きにしていた。
 顔は解らない、だが髪の色は分かる。
 真っ白、純白の白色だ。
 そして士郎はある事に気付く。
 ────この人……右腕が。
 その騎士は隻腕の騎士だった。
 右腕が根元からない、そして士郎は新たな疑問を抱く。
 隻腕の騎士の左腰に掛けられた弓だ。
 片腕でどうやって弓を弾くんだ?
 弓は両手を使うもの、それを右腕だけで弾けるとは思えない。士郎の視線は隻腕の騎士の弓に向いていた。
 そして男は俺達の隣をすれ違う。
 「シロウ、どうしたの?」
 エミリアの呼び掛けで俺は我に帰った。
 「ぁ……あぁ、」
 いつの間にか、あの男の姿は無かった。
 ……あの男は何者だったのだろう。
 胸騒ぎ、あの男の弓……見覚えがある。あれはアーチャーの使っていた『弓』だ。
 俺も、以前あの弓を投影し使った事がある。あの騎士の所持していた弓はその弓に似ていた、それと酷似していたんだ。最初は似ている、なんて思ってたけどあれは似てるんじゃない。あれはアーチャーの『弓』だ。
 なのに、俺はなんでこんなにも自然なのだろう。
 あれは確かにアーチャーの弓だ。
 なのに、俺はそれを目の当たりにしたのにも関わらず、それを特に疑問に思うことなくそれを観察していた。
 普段通りの俺なら、あの騎士を問い詰めている所なのに……なんで、俺は。
 「やっぱり、どこか怪我してる?」
 心配そうに見つめてくるエミリア。
 「大丈夫、ちょっと考え事してただけだから」
 「……ん、それならいいけど」
 そう言って俺の手を繋ぎ直し、前へ前へと進んでいく。
 アーチャーの弓が頭から離れない。
 なら、俺は何故、あの男を追わなかった?
 あの騎士本人を追えばその正体も解ったろうに。それでも俺はあの男を追おうとはせず、エミリアと共に居る。今からならまだ間に合う、そうだとしてもやはり俺の足は奴を追おうとはしなかった。
 なら、今はいい。
 きっとまた会える。
 そんな無茶苦茶な思い込みで衛宮 士郎はこの状況から目を背けた。気にならないと言えば嘘になる。だが、今はそんなことさえどうでもいいと思っていた。今はこの一瞬を無駄にしたくない、衛宮 士郎はこの状況を楽しんでいる。
 非日常を、非現実を。
 聖杯戦争を終えてから、味わうことの無かった高揚感を胸の奥からひしひしと感じる。
 あの退屈な日常では味わえなかった緊張感が、ここでは感じ取れる。
 不思議と笑顔になった。
 ────あぁ、あの物捕りの言ってた事がようやく解った。
 そうか、俺は『笑ってるんだ』
 エミリアに連れられ、色んな所を見てきた。
 この王国の事、魔法や亜人の存在。
 ここでは俺の世界の常識は通用しない。故に、ここでは俺の世界の非常識が通用すると確信した。
 だから、俺はこんなにも楽しいのだろう。自然と笑顔が込み上げてくるほど嬉しいのだろう。
 「ん、あれって……」
 突然、エミリアの足が止まった。
 エミリアの視線の先、そこには────。
 「おや、エミリア様」
 「ラインハルト、久しぶりね」
 「えぇ、お久しぶりですエミリア様……そちらの方は?」
 「この人はシロウ、エミヤ シロウ……えっと説明するとちょっおーっと長いんだけどね」
 「ほぉ、宜しければお聞かせください。もし、お困り事なら私の出来る限りで協力、致します」
 「そんな、ラインハルト。
 『剣聖』の貴方に助けてもらうほどのことなんて」
 「構いません。それがエミリア様、エミヤ君の助けとなるなら」
 などとイケメン面で、言ってることも、行動も、立ち振る舞いもイケメンな彼は衛宮 士郎に手を差し出す。
 どうやら握手を求められているようだ。
 握手を求められてるなら、それを返すのは人間として当然で。俺は右手を差し出し、差し出された手に握手した。
 「あぁ、そう言えば名乗ってなかったね。僕の名前はラインハルト・ヴァン・アストレア。宜しくね、エミヤ シロウ」
 「宜しく、」
 「ホント、凄いね、シロウは。
 誰とでも仲良くなれるんだね」
 「いや、この場合はあちらからのスキンシップがあった訳で」
 「スキンシップ……?」
 「なんて説明すればいいかな。
 仲良くなる為の努力? なんか違う気がするけど。まぁ、そういう事だ」
 「見たところ、見慣れない服装だね。エミヤ君は何処から来たんだい?」
 「エミヤ、またはシロウでいい。
 いや、シロウって呼んでくれ」
 エミヤ、と呼ばれるのはアイツとして呼ばれる気がしてあまり好きではない。昔から呼ばれてるならいいけど初対面の奴にエミヤ、エミヤ君って呼ばれるのは苦手だ。
 「ふむ、いきなり下の名前を。
 先ほどエミリアが言っていた誰とでも仲良くなれる素質を持っているんだね」
 「いや、そんな才能持ってないから」
 「いや、自分の才能というのは自分では気付かないものだ。それが何であり、それは才能と呼べるものだと僕は思うよ」
 笑顔で、ラインハルトは笑顔で言った。
 その笑顔は何処か悲しげで、その笑顔はそれを隠すためにわざと笑顔でいるような……。
 「それで、シロウは何処からやって来たんだだい?」
 
 ***************************************************************
 
 「ほぉ、それは興味深いね」
 
 「いや、当の本人からすれば訳分からないからね」
 
 「シロウは困ってるから助けないとなんだけど……何処から来たのか、本人すら分かってないから」
 
 「ちょっと……うん、まぁ、そうなんだけど」
 
 「気付けばこのルグニカに、そしてシロウの住んでいたニホンという国か……とても興味深いよ」
 
 「どうやったら帰れるかなぁ」
 
 「転移の魔法で飛ばされた可能性は否めないが、シロウの国では魔法の知識は疎いらしいし」
 
 「いや、似たようなものはあるんだ。でも、そんな器用な事は出来ない……と思う」
 
 「ふむ、これは困ったね。
 力になれなくて済まない……」
 
 「いや、これは俺の問題だ。
 それなのに心配してくれてありがとな」
 
 「僕に出来ることならなんでも言ってくれ」
 
 「あぁ、ありがと」
 
 さて、どうしたものか。
 すること無ければやる事なし。
 寝床も無ければ食料……はあった。
 すっかり忘れてた、士郎は肩に掛けていた買物袋を手に取る。
 「ん、それはなに?」
 「買物袋、買物帰りだったからさ」
 「ほぉ……初めて見るものばかりだ」
 「知ってるものはあるか?」
 「一つ、それはリンガだね」
 リンガ?なにそれ?
 リンガ……りんが……りんご?
 「もしかしてリンゴの事か?」
 「リンゴ……初めて聞く名前だね。
 君の祖国ではリンガの事をリンガと言うんだね」
 「あぁ、そのリンガってのは初耳だ。てか、もしかしたらそのリンガってのはリンゴとは別物なんじゃないのか?」
 ふむ、こちらのリンゴ。
 いや、リンガを食ったことのないから解らないけど見た目が同じなら味も似ているだろうと考え。
 「数は三つあるし、二人とも食ってみる?」
 二つのリンゴを両手で持ち差し出す。
 「うん、頂くよ」
 「私も、」
  そう言ってラインハルトとエミリアはリンゴを受け取った。
 そしてなんの躊躇もなく一口。
 数回噛んで感想はいかに。
 「味もリンガだね、食感もそうだ」
 「そうね、でも。いつも食べてるリンガと比べると少し堅いかも」
 どうやらこの世界のリンガはリンゴのようだ。
 どうでもいい謎を一つ解明した。
 この世界ではリンゴの事をリンガと呼ぶ。
 よし、この調子でリンガの名前をリンゴに改名してやろう。
 「それにしても、シロウは悠長だね」
 「ん?」
 いきなり何を言い出すんだ。
 こんな混乱してる状況で悠長な訳ないだろ、と言おうとすると。
 「君は怖くないのかい?」
 なんてラインハルトは言ってきた。
 「それは、なんに対してだ?」
 「この状況にだよ。
 見る限り、君はとても、とても遠い所からここに飛ばされのだろう?
 なのに、君はこの状況に動揺していない。いや、むしろ楽しんでるんじゃないかな?」
 「楽しんでるって……そんなお気楽な奴に見えるか?
 見えたならお前の目は節穴だ」
 「ははっ、そうだといいんだけどね」
 なんて微笑むラインハルトの姿もイケメンで、存在するだけで周囲を明るくさせるようなオーラを放っていた。
 俺ってそんなにお気楽な奴だと思われてるのかね……。いや、まぁ、確かにこの状況を楽しんじゃってる自分もいるけど。
 「そうだね、まずはこれから何をするべきかを考えようか」
 唐突にラインハルトは言った。
 「どうするかって、どうするんだ?」
 どうやってここまで来たのかさえ解らないのに帰り方がわかるわけがない。
 だが、ラインハルトは元の場所に帰る解決法を提示するのではなく。
 「まず、シロウ。
 僕の屋敷に来ないかい?」
 「────ん?」
 「身よりもない、それにこの国の硬貨も持っていない。当分は僕の家で屋敷厄介になるといい」
 「────ん?」
 「転移の魔法についても詳しく調べないといけないな。知り合いに転移系統の魔法、精霊に詳しい精霊術師がいるから今度、訪ねてみるとして……」
 「────んん?」
 このイケメン、何を言ってるの?
 
 そうして始まった異世界生活はここから始まった。
 明確なゴールはない、見えない道を手探りでゆっくりと進んで行こう。
 っと……その前に少し休憩。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ラインハルト……イイ奴過ぎるだろ」
 「そうね、でも。
 シロウもなかなかだと思うけど」
 「それはない。
 俺は初対面の相手にあんだけ優しくは接せられないな」
 困っているなら僕の屋敷に来いって……アイツはいい人過ぎる。
 初対面で、会ってそんなに経ってない人間を自分の家に招き入れるとか親切過ぎる。
 「そんな事はないと思うよ。
 シロウもすごーく優しい人だから」
 「お前は俺の何を知ってるんだ」
 「さぁ、でもシロウが優しいって事は知ってるから」
 なんてくすくすと笑うエミリア。
 俺はそんなにお人好しじゃない、って言ってやりたかったけど。どうせ、エミリアは「はいはい、そうだね」なんて言いながら笑ってくるに違いない。
 なら、ここは無言でそっぽ向いてやる。
 夕焼けの光、時刻は……解らないけど普段なら晩飯の準備に取り掛かる時間だ。
 腹減った……今日は色んな事が有り過ぎた。いや、今もそれは有って困惑してるから余計に疲労感を感じる。
 「そろそろ戻ってくると思うけど。
 ラインハルト、遅いね」
 ラインハルトはちょっとした急用があったらしく、何処かに行ってしまった。
 行き際に、すぐ戻るからなんて言ってたけどなかなか戻ってこず、時間潰しに俺とエミリアはそこらを適当に歩いていた。
 慣れない道を歩くのは楽しいけど、全く土地勘のない所をすいすいと進める訳もなく。周囲をきょろきょろしながら進む。
 「ん、アレは」
 視界の先、それを何と呼ぶのか。
 それを目にした瞬間、俺の心はざわついた。
 アレは────。
 「この世界にも……そういうのは、あるんだな」
 スラム街。生で見るのは初めてだ。
 テレビや雑誌などで何回か見たことあるけど異世界でも貧困した所はあるようだ。
 そりゃそうだ。裕福な暮らしもあれば貧しい暮らしもある。裕福な暮らしがある限り貧困の暮らしは無くならない。あって当然、とは解っていても実際に目にすると心の奥が締め付けられる。
 「シロウ?」
 俺の足は自然とスラム街に向かっていた。
 エミリアの呼び掛けが聴こえた気がするけど俺の足は、俺の躰はスラム街を目指す。
 そこは明らかに違った。
 さっきまでの街並みとは違う。まるで区切りを付けられたように別の空間だった。
 「ここは……」
 違う。違う。違う。
 目の前の光景を否定する自分。
 それをあって当然と受け入れている二人の自分。
 これは違う。だって、なんで……
 吐きそうだ。
 なんで、こんな。
 「シロウ……?」
 エミリアはこの光景を見てどう思っているのか。
 この世界はこれが当たり前なのか。
 「……ッ」
 俺は走った。
 
 ────無我夢中に。
 
 ────ひたすらに走った。
 
 ────目の前の現実を直視できない自分に嫌気がさす。
 
 ────いつかの俺も、その光景を目にしたはずだ。これはあって当然の事だと。
 
 ────全ての人を救うことは不可能。故に、人は犠牲を払い。100の内の1を切り捨てる事で人間は成り立っている。
 
 ────でも、だからってそれは……。
 
 ────これは俺の我儘だ。全ての人を救いたいなんて思っている無垢な少年の願望だ。
 
 ────少しでいい。ここにもあるなら見せてくれ。
 
 ただ、ひたすらに願う。
 そして────。
 
 「ん、兄ちゃん。見慣れねぇナリだな」
 
 その声で、俺の心は救われた。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
  
 

 
後書き
なんか二話書いてたから投稿するん。誤字脱字多そう……だが、それでいい!!
────嘘です。すみません...(lll-ω-)チーン 
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