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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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提督はBarにいる×ろくろう編・その3

「でも何か不思議な感じ」

 ビールのジョッキに口を付けながら、相馬中将の瑞鶴がぶすっとした表情で呟く。その視線の先にいるのは、左手にジョッキを持って、右手ではシジミの殻を殻入れにポイポイ放り込んでいるウチの瑞鶴だ。

「ん、あたし?」

「そうそう。おんなじ“瑞鶴”なのにさ、あんたは加賀さんと仲良くやれてるみたいだし」

 そりゃそうだ。同じ個体だとしても建造されてからの経験によって精神の成長具合は変化する物だ。その差はかけがえの無い物であり、『個性』であるのだ。

「別に加賀が瑞鶴の事を嫌ってる訳じゃあねぇと思うがなぁ」

 俺は調理をしながらだが、そんな愚痴とも取れるような瑞鶴の呟きに応えてやる。

「え、どういう事?」

「加賀って空母はな、元は戦艦で使いにくいと評判の艦だったんだ。元々空母として設計された翔鶴型とはそれこそ雲泥の差って程にな」

 相馬中将の瑞鶴は黙って聞いている。

「だからこそ厳しい訓練で自分達を鍛え上げて、あれだけの戦果を上げた。……まぁ、厳しすぎたせいで艦内の風紀は最悪だったらしいが?」

 チラリと加賀の方を見ると、ムッとした表情でこちらを睨んでくる。『私の風紀はそこまで乱れてません』とでも言いたいのか?どの口が言うつもりだ、ここでお前の性豪っぷりを暴露したら、ドン引きされて台無しだぞこのやろう。

「まぁ、そんな厳しい環境で過ごしてたせいか、艦娘の加賀もストイックなんだよ。他人に厳しく、自分にもっと厳しい……それこそ、真面目にやれば自分よりも出来る筈の後輩なんかには、な?」

「……そっか、別に加賀さんが私を嫌いだから厳しく当たってた訳じゃないのか」

「そういう事だ。……まぁ、ウチはそんな甘えは最初の一ヶ月で完全に捨てさせるがな」

 それこそ、甘えや反抗心など浮かんでくる暇もなくしごいてやるだけの事だ。

「そうそう、ウチは厳しいわよ~?」

「そうね、貴女が空母の中では一番の被害者だものね」

「ちょっと!?加賀さんてば。折角カッコよく〆ようとしてたのに!」

 そんなやり取りを微笑ましく見守る相馬中将と翔鶴。何というか、世話の焼ける妹を眺める兄夫婦って絵面だ……そのまんまだが。なんて、会話を楽しんでいる内に次の料理が仕上がった。ガスの火を止め、まだグツグツ言ってるそいつを器によそってやる。

「はいよ、『提督特製シジミ鍋』だ。今小鉢も用意するから、そこに生卵を溶いて、ポン酢か醤油、それにお好みで七味を加えて。そいつを具材に絡ませて食うんだ」

 具材はシンプルに、豚の薄切りと白菜、それに豆腐と長ネギ、しめじだ。当然シジミ鍋だからシジミも入ってるが。

「うわ、何このスープ!美味っ!」

「本当、凄く濃厚というか、複雑な旨味というか……」

 そりゃあねぇ。旨味成分の三重奏だもの、スープが不味くなる要因がない。

 和食を代表とする日本料理に欠かせない『旨味』。化学的に言うならアミノ酸や核酸等の有機酸の総称である。まぁ小難しい話は抜きにすると、旨味は化学反応だ。有名なのは次の4つ位かな?

・昆布やトマト等に多く含まれるグルタミン酸

・鰹節や味噌、醤油等の発酵調味料に多いイノシン酸

・キノコ類に多いグアニル酸

・貝類の旨味成分コハク酸

 代表的なのはこの辺だろうか。しかも旨味成分というのは足し算ではなくかけ算。上手く組み合わせる事でその味を何倍にも増幅してくれる。まぁ、食材との相性なんかもあるから、そこは腕の見せ所だな。今回はその辺も軽く説明しながら作ってみたいと思う。

《旨味たっぷり!シジミ鍋》

・シジミ:200~300g

・にんにく:3~4片

・出汁昆布:5cm位のを2枚(無ければ昆布茶大さじ2)

・豚薄切り肉:300g

・白菜:中サイズ1/4

・ネギ:1/2本

・豆腐:1丁

・しめじ:1パック




 さぁ、作っていこう。まずは土鍋に砂抜きしてよく洗ったシジミ、出汁昆布、皮を剥いて芽を取ったにんにくを入れる。にんにくを入れるというのがポイントで、にんにくや生姜、ネギなどの香味野菜は旨味を引き立ててくれる効果がある。丸のまま入れるのは匂いが出過ぎないようにするためた。そこに水を600~800cc入れて火にかける。この時点で、コハク酸とグルタミン酸のコラボが始まっている訳だ。強火でダシを出すために煮込む。途中相当にアクが出るので、こまめに掬うか、面倒ならキッチンペーパーを表面に落としてアクを吸わせてそのまま捨てるといいだろう。

 その間に具材の下拵えだ。白菜は下茹でしてクタッとなるくらいまで茹でておく。生のまま突っ込むと白菜が折角のスープを殆ど吸っちまうからな。ネギは斜め切りに、豆腐は食べやすい大きさにカット。しめじは小房に分けておこう。

 シジミの口が開いたら、下拵えしておいたネギ、しめじを入れ、軽く煮てから白菜を入れる。豆腐を入れて一煮立ちさせたら、固くならないように最後に肉を投入。カセットコンロ等で温めながらつつく場合は、肉を入れずに移動させよう。



「ニンニクも効いてるし、身体が温まりますねこれは」

 相馬中将も美味そうに、鍋をつつきながらぬる燗を楽しんでいる。銘柄は持ってきて貰った月乃井酒造の代名詞『月乃井』のひやおろしだ。

「飛行機での長時間移動は寒かっただろうと思ってな。温かい物にさせてもらった」

 さて、腹に温かい物を入れたら胃が動き出す頃合いだろう。ここらで1つ、ガツンと腹に貯まるパスタでも作ろうか。……何?『パスタに使う貝といえば、アサリかムール貝じゃないのか』だと?まぁ、その辺は見てなって。シジミでも最高のパスタは出来るんだ。


《シジミを使ったパスタ2種!》

(シジミのボンゴレ風)※分量4人前

・シジミ:400g

・パスタ:300g

・ニンニク:2片

・オリーブオイル:大さじ2

・白ワイン:50cc

・塩、黒胡椒:適量

・鷹の爪:1本


(シジミとほうれん草のクリームパスタ)※分量4人前

・シジミ:400g

・パスタ:300g

・ほうれん草:1束

・しめじ:1株

・オリーブオイル:大さじ2

・ニンニク(すりおろし):大さじ1~1.5

・白ワイン:大さじ4

・牛乳:400~600cc

・小麦粉:大さじ4

・塩、胡椒:適量

・レモン汁:お好みで



 さぁ、作っていこう。まずはボンゴレ風から。パスタは袋の指示通りに茹でる。その間ににんにくをみじん切りに。辛いパスタがお好みなら、飾り用にするつもりの鷹の爪も刻んでおこう。

 フライパンにオリーブオイルを引いたらにんにくのみじん切り(刻んでいたら鷹の爪も)入れて、炒めて香りを出す。香りが立ってきたら砂抜きして洗っておいたシジミと白ワインを入れて蓋をする。

 シジミの口が開いたら、茹で上がったパスタを加えてサッと混ぜる。この時、パスタの茹で汁を50cc程加えるとオリーブオイルが乳化してクリーミーな仕上がりになるぞ。後は塩で味を整えて、盛り付けたところに黒胡椒を振れば完成だ。




 お次はクリームパスタ。こちらもパスタは袋の指示通りに。その間に砂抜きシジミをよく洗っておき、ほうれん草は4~5cmの長さに切り揃えてレンチンか下茹で。しめじは小房に分けておく。シジミの旬は冬だからな、季節柄美味しいほうれん草も加えて鉄分プラスで肝機能強化と貧血対策だ。

 フライパンにオリーブオイルを熱し、おろしにんにくとシジミ、白ワインを加えて蓋をして酒蒸しに。口が開いたら、下拵えしておいたほうれん草、しめじ、牛乳で溶いた小麦粉を加えて混ぜる。この時は焦がさない程度に強火でいいぞ。

 パスタが茹で上がったらお湯を切ってパスタソースに加えてよく絡める。後はソースが好みの固さになるように、牛乳を適宜足して調節。塩、胡椒、お好みでレモン汁数滴を加えて味を整えれば完成。


「さぁ出来たぞ、『シジミのボンゴレ風』に『シジミとほうれん草のクリームパスタ』だ」

 これは美味そうだと言わんばかりにパスタに襲いかかるカウンターの4人。キッチンに入っている俺と加賀も、立ち食いだがご相伴に預かる。

「ねぇ」

「あん?何だよ加賀。おかわりか?」

「シジミなのにボンゴレでいいの?ボンゴレってアサリの事なのに」

「あ?細けぇ事はいいんだよ!」

 美味しけりゃあ良いじゃないか、美味しけりゃあ。 
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