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Fate/PhantasmClrown

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MySword,MyMaster
Act-4
  #1

 流星が奔った。セイバーとランサー、そして…それを認識できたかは別として…バーサーカーの目にはそう映ったに違いない。グレーシャもまた、一瞬だけ煌めいた銀色に、そう感じた。

 もたらした効能が、まるで星屑が大地に突き刺さったかのようであったのも、きっとその一因。
 何処からか飛来した白銀の『矢』は、三基のサーヴァントの立つスクランブル交差点、その中央に突き刺さると、突如として地割れを引き起こし、アスファルトを割った。
 サーヴァントたちは矢が大地に突き立つ直前に、半ば第六感のような物で危険を察知したのか飛び退いていた為直接の被害は受けなかったようだが、セイバーとランサーは呆気にとられている。バーサーカーですら、唸り声を上げるのみ。

「これは――」
「弓兵がいるな」

 セイバーが剣を引く。同時にランサーの笑みが一歩、強くなる。口角がさらに上がる。上がる。上がる――

「周囲に、その姿を察知する事叶わず――推測するに、この時代の単位で言えば500メートル以上、と言ったところか……ははっ、素晴らしい、素晴らしいなその腕前! 明らかに我々を()()()一撃で在ったのだろうから!!」

 歓喜に打ち震え、叫ぶランサー。目を見開き、矢が飛来した遥か彼方を凝視する。

「あぁ、素晴らしい、素晴らしい――なァッ!!」

 ランサー、抜錨。巨大な槍の穂先を振り回し、戦闘を再開する。新たなサーヴァントの登場によって興奮しているのか、ランサーの動きはさらに速く、更に重く。
 セイバーは魔力放出によって高速回避。
 バーサーカーは、正面からランサーの槍を受け止める。

「RooooMeeee……」
「くくくく……どうした狂戦士! 何かして見せよ!!」
「Oooooooo――――!!!!」

 ランサーの挑発に乗ったのか。それとも、ただの偶然か。バーサーカーは絶叫すると、その甲翼を広げ、中から木々の如き翅を展開する。飛翔するバーサーカー。めきめきと音を立てて、彼の頭から生えた一対の『角』が、巨大化する。その様子は、まるで樹木が『成長』するかのよう。

 バーサーカー、再びの絶叫。ヴヴヴヴ、と羽音を立てて、ランサーへと猛烈なスピードで突進を繰り出し―― 

 ――その瞬間には、弓兵からの次の一撃。

 ざしゅり、と。不快な音。

「Ooooooo――――!!!」

 バーサーカーが咆哮する。その背――カブト虫の腹にも似たその胴体、大樹にも似た翼の付け根の部分に、白銀の矢が突き刺さっていた。
 バーサーカー、墜落。苦悶のうめき声を漏らして、その翼を畳んだ。
 
 先ほどのランサーの目算が正しいのであれば、遥か500メートル以上の距離から、バーサーカーへと、その一撃を的中させた――ここにきて、グレーシャは内心で戦慄する。

 これは銃の世界の話ではあるが、射程距離というのはおよそ使い手の技量によって前後する。例えば最高級のスナイパーライフルを使って、その銃に許された最大射程の場所に制止した的に当てることが、全ての人間に可能かと言われればそんなことは無い。ごくごく限られた一部――それも本当に熟練の一握りが、『神業』と呼ばれる領域に至って漸く、最大射程を十二分に生かせるようになるのだ。

 アーチャーの武器は、矢が飛んできたことから恐らく弓。弓の中でも特に射程が長いのは、和弓やロングボウに代表される『長弓』と呼ばれるものである。
 長弓の最大射程は500メートル前後と言われている。前述の通り、最大射程の的に何度も矢を当てることができる人間と言うのは、いうなれば『神業』の領域すら超越している――そう言っても過言ではない。
 しかもそれは、対象となる的が、()()()()()()()()の話しだ。バーサーカーは動いていた。グレーシャの目からではとても追いかけることのできない速度で、ランサーに向かって遥か上空からその鋭利な角での一撃を加えようとしていたのだ。

 それに、寸分の狂いもなく矢を当て。
 あまつさえ、墜落させる。

 それは即ち――アーチャーは、弓の技量に関しては、人類の中でも最高峰に位置する、ということを意味した。



 ***



 聖杯戦争に於いて、召喚されたサーヴァントは七つのクラスと、それぞれに対応したサーヴァント位階に分けられる。
 
 第一位は剣士の英霊、セイバーのサーヴァント。非常に高い水準のステータスと、強力無比な宝具を有する、最優のサーヴァントだ。一度目、二度目の聖杯戦争に共通して、ブリテンの騎士王アーサーが召喚された。

 第二位は狂戦士の英霊、バーサーカーのサーヴァント。そのステータスをスキルランクに応じて爆発的に向上させる【狂化】スキルを保有し、弱いサーヴァントでも一定の戦闘能力を獲得することができる。一度目の聖杯戦争では伝奇小説の主人公たるハイドと思しき英霊が。二度目の聖杯戦争では、ギリシア神話に名高い大英雄、ヘラクレスが呼び出されたという。

 第三位はアーチャーのサーヴァント。弓兵の名が示す通りに、弓や銃と言った射撃武器や、投石器などの投擲武器を扱うことに特化した英霊が呼び出される。一度目の聖杯戦争に於いては『王書(シャー・ナーメ)』にその名刻みし大英雄、アーラシェ・カーマンギール……アーラシュが。二度目の聖杯戦争には、人類最古の英雄王、ギルガメッシュの召喚が確認できる。

 第四位たるランサーのサーヴァントは槍兵の英霊。最速のサーヴァントの異名を持ち、敏捷や持久性に優れたサーヴァントが引き寄せられやすい。一度目の聖杯戦争では北欧の大神が娘、ワルキューレの長女ブリュンヒルデが。二度目の聖杯戦争では、アルスターの光の御子クー・フーリンが召喚された。

 第五位は騎兵の英霊、ライダー。バランスの良いステータスと、多数の汎用性に富む宝具で、あらゆる状況に対応することができるサーヴァントだ。その面だけを考慮すれば比較的器用貧乏な面が目立つが、二度目の聖杯戦争で呼ばれたギリシアの英雄も、一度目の聖杯戦争で召喚された『王の中の王(オジマンディアス)』もまた、『万能』と呼ぶにふさわしい活躍を見せた。

 第六位、キャスターのサーヴァント。魔術師のクラスに位置するこれらは、聖杯戦争に於いては比較的不遇の位置にある。マスターである魔術師と、同じく魔術師であるキャスターは役割がかぶる上に、魔術師は得てして自らより強力な魔術師を嫌うため、マスターとサーヴァントの関係の悪化につながるからだ。さらに、セイバー、アーチャー、ランサーの『三騎士』と呼ばれる三基は共通してクラススキルに【対魔力】を保有し、キャスターの攻撃を寄せ付けない可能性がある。
 だが、決してキャスターを召喚したことを気に病む必要はない。二度目の聖杯戦争に於いてキャスターはセイバーに敗れこそすれどその対魔力を打ち破るだけの火力を保有したと聞くし、一度目の聖杯戦争に於いては、マスターの館を『神殿』クラスの城塞へと変貌させ、二度にわたるバーサーカーの攻撃を完全に凌ぎ切ったというではないか。ようは『使いよう』なのである。

 第七位のサーヴァントであるアサシンは、この『使いよう』というのが非常に重要な英霊だ。アサシンは単純な戦闘能力では最弱である。三騎士やライダーには暗殺などと言う手は弾き返される可能性が高く、バーサーカーは屈強な肉体で、キャスターは数々の結界や工房によってアサシンを寄せ付けないだろう。
 だが、アサシンの真価はそこではなく、クラススキル【気配遮断】による、『マスター殺し』にある。前述したとおりマスターの死はサーヴァントにとってかなり大きなデメリットとなり得る。自分以外のマスターが全滅してしまえば、それは紛れもなく聖杯戦争における『勝利』だ。

 心せよ。
 
 たとえどのようなサーヴァントであっても、全てはマスターの差配次第なのだと。

 最優のセイバーも、上手く扱えなければ宝の持ち腐れであり。
 最劣のアサシンも、その技術を駆使すれば、聖杯戦争を最速で終わらせることも可能な切り札たりえると。

 
 10.二度目の聖杯戦争終盤に出現したとされる、第八のクラスについて――――
 
 

 
後書き
 Act-4はこの話と次回の話だけです。そして次回で第一章は終わりです。

 次回の更新は明日、18時からとなります。 
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