剣士さんとドラクエⅧ
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116話 安寧
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「地図に従って航海ってすっごくロマンに溢れてるよねっ!いっぱしの冒険家みたいでさぁ、わくわくしちゃう。なーんか強敵に出会いそうで!」
「そうだな、それは分かったから少しは落ち着けよ」
「善処するね!」
魚とかイカとかが魔物になったって感じの奴らを次々に切り伏せつつ、私は答える。ククールがスカラをかけつつ注意を促してくれたから、もっと早く倒した方がいいよね?だからリズム良く順々に腕やら首やらを斬り飛ばしていくんじゃなくて避けられないように変則的に横薙ぎ一閃で次々とぶちのめす方向にチェンジ。首をスパッと、胴をスパッとね!
とはいえ船の甲板はそこそこ広いし、水で滑ったりもしない。その上魔物たちもあんまりやって来ない。だからこれくらい避けるのは簡単で久々にククールは魔法より武器で戦ってる。うーんやっぱりレイピアさばき、様になるなぁ、かっこいい。見ててワクワクドキドキしてくるよ……これが戦闘意欲か!
私、戦うのも勿論大好きだけど観戦も好き。見てると一緒に戦いたくなっちゃうくらいね。体が勝手に動き出しそうになるんだよ、本当に!ボクと戦おうってトロデーンで片っ端から仕掛けてた時みたいにね、好戦的になっちゃう。
舵取りを務めるエルトはその間にも片手間にブーメランを投げて支援してくれる。槍は近くに立ててあっていつでも使えるようになってるけど、あの高さからじゃあいくら槍が剣より長いからってなかなか届かないもんね。
エルトの鋭い投げっぷりに巻き込まれないようにひょいひょいっと動き回り、ゼシカが連続で発生させているヒャダルコから逃れるように飛び上がって斬り伏せる。唸る血飛沫は煙のよう、踊る剣の煌めきはダンスのよう!最高!うわっ、マヒャド?これは落下点に合わせて避けるしかないなぁ!
「いや、下がればいいだけだよ!」
下がる時間があったら倒したいんだよ、エルト!
ヤンガスと背中合わせになって戦ったり、ククールの隣で戦っていたりとこの間も私は目まぐるしく動き回る。我ながら優れた動体視力は高速移動もものともしなくて頼もしい!もっともっと戦えるね!腕が疲れたら持ち替えればいいし、最悪蹴っ飛ばしても倒せるし、どこまでもやれる!
でも……そうだなぁ。言っちゃあ悪いけど、やっぱりエルトと一緒に肩を並べて戦うのが一番好きかも。他のみんなと戦う時の刺激的な狂乱もまったくもって手放せない楽しさだったけどそれでも、ね。やっぱり一緒に長いこといるからなぁ。時間って偉大。
……思い返せば喧嘩すらしたことの無いあまっちょろい子供が殺生三昧のこの世界に染まりきったんだし、考えるまでもなく慣れって凄いよね。
つまりは、この新しい体の……「トウカ」の倫理観と十四年は生きたけどあの世界相応の弱っちい「桃華」の精神が正面衝突してなお体の持ち主が勝ったみたいだから。赤ん坊が勝つぐらいって相当じゃない?
多分初っ端のライティアの件で吹っ切れたからだと思うけど。何回か言ったように「弱い私は殺した」から。記憶の残滓だけ、絞りカスだけ。私は私だけど、私はトウカ。だからこそ性別がバレてもこの事まではわざわざ言ったりしない。無駄だもの、故人の話をしたってさ。
まぁそんなことより戦うの、楽しいし!勿論最高、戦うの最高!心躍る血飛沫の舞に君も参加しない?ククールもどうかなって……って、ククールには楽しいやり取りを中断してもらって回復してもらわないと生きていられないんだった!ここだと避けられるけど地上じゃ普通に死んじゃうところだったね、いつもありがとう、友よ!
その間にも首を傾けて最後から飛んできたブーメランを躱す。わざわざ見なくたって気配でわかるからね!でもって気配の読めない魔物は不意打ちされて吹っ飛んで海に落ちる。運良く落ちなかったり、踏ん張ったり、滞空したホークマンっぽい魔物には私が颯爽と斬りかかればいいんだよね!
うんうん、不意打ちの後に追撃の不意打ちっていうか、不可視の攻撃やら反応速度に追いつかない攻撃もあるものだって学べてよかったね!次に生かす機会は無さそうだけど!残念、また来世!とっとと鼻歌交じりに残党狩りをしてっと。逃げる奴は勿論追わないさ!
さーてと。熱中してたらいつの間にかお昼の時間になったみたい。みんなが船の中に引っ込んでいく。私は魔物がいない甲板に聖水をぶちまけてから追いかけた。いつも聖水をまけばいいのにって?それじゃあ楽しくないじゃないか!……っていうのは冗談で。まー、そうだね、お金の問題っていうか。
とは言ってもそれくらい出そうと思ったら余裕で出せるよ?私の個人的な資産でも。資産っていうか賞金っていうかで。でもレオパルドみたいな空飛ぶ本物の怪物、その果てはラプソーンなんてまともじゃない敵を奴を倒すにはもっともっと鍛えなきゃいけないからね。戦って、戦って、戦わなきゃ。私はおかげで大満足!みんなも新しい魔法や特技を習得できて満足、でしょ?
残念ながら私にはちっとも魔力がないからよほどのことがない限り新しい技を習得できるってのはないんだけどね。出来るものならもう覚えてるからさ。
うーん、体がまだまだ戦いを求めてる。ご飯食べたらもっともっと戦おっと。あ、いやいやククール、私だって食事中は大人しくしてるからさぁ、そこまで心配しなくたっていいよ!淑女じゃないけどそこら辺は大丈夫だから!これでも一応私はモノトリア家の世継ぎとしての教育を受けてきたんだから、ね?
そうは見えないってそんなにはっきり言わないで!そう振舞ってないだけだから!本気出してないだけだから!普段から堅苦しいのとかごめんだから!ほら、麗しいのは私が枠じゃなくてククールでしょ?かっこいいのはヤンガスだよね!私はそうだな……全自動魔物撲滅枠?
「そういや貴族だったよな……」
「しみじみ言わないでよ!あ、でも本当はもう継いでたハズなんだよ。……継いでいたらドレス着て婿探し中だったな……剣士としての名前しか知られてないのに婚活、成功するわけがないんだけどね」
「そんなこと、ないと思うけどな」
「本当?ありがとうククール。ククールみたいなかっこいい人に言われたら自信つくよ」
「……そうか」
何さゼシカ。今のはだいぶマシだったわねって、何のこと?何が鈍いのさ、確かに戦ってると気分が高揚して高揚しすぎて痛覚が鈍って大怪我しても動けちゃうけど。
あ、ククールとかエルトが治してくれるからって痛みに対して鈍すぎっていうこと?ごめんごめん。
「違うわよ。トウカは私より年上でもそういう所は……なんかズレてるわ」
「一般常識のある人間じゃないことは認める」
「箱入りだもんね」
「エルトも概ねそうじゃないか」
「……」
姫様と私。エルトと同世代の、国の中の権力のワンツートップってわけだ。エルトに変な知識が入らないようにそりゃあ気を遣われてた事だろうなぁ。ごめん。
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