世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはStrikerS ~一つの想い~
蒔風が六課メンバーのレプリカを相手にして立ち回っている。
しかし、それだけの相手と戦っているにもかかわらず、全く危うさが感じられない。
だが、動きには余裕があるものの、顔は険しく、目の前にある「欠片」を殴り飛ばしていく。
「こんなものは違う」
なのはのバスターが唸り、ティアナの射撃が襲い掛かるが、蒔風はそれを避けようともせず、片手でそれを一振りで弾き飛ばす。
無論、それで右腕が無傷なわけがない。
手の甲は裂け、握りしめた拳からは血がボタボタと垂れて床に跡を残していく。
「これも違う」
フェイトのバルディッシュザンバーによる斬撃を、右腕に出した「天」の鞘で受け止め
シグナムの連結刃を左腕に巻きつかせて引き付け、武器を奪って粉と砕く。
「何もない、ただの「何か」だ」
左腕からは血を流しながらも、バルディッシュを振り落としの裏拳で砕いてからヴィータのハンマーを額で受け、血を流しながらそれを握りしめて握力で砕く。
さらに背後から迫るスバルの腹部に後ろ蹴りを入れ、吹っ飛んだ身体がキャロを巻き込んで弾き飛ばす。
その衝撃に、二体が消えた。
「これがあいつら?笑わせる」
スバルとキャロの「欠片」が消滅していくのを見ながら、エリオがブースターで突貫してきたのを紙一重で躱し、脇に挟み込んで顔面を殴りつける。エリオ・レプリカも、これで消え去った。
そして、まるで順番だといわんばかりに再びなのはの攻撃が来た。
槍のように変形したレイジングハートを構え、蒔風に突進してくる。
が、それをもはや回避もせず、懐に踏み込んでその顔面を片手でつかんで持ち上げた。
「「奴」がこういう風に「欠片」を使ってきて厄介なのは、それが本物の「記憶」だからだ。ただの記録(データ)ではないからだ」
攻撃のために群がってくるレプリカ共を一瞥し、まるで相打ちでもするかのように真っ向からその攻撃を受け、そうしてすべてを消し飛ばす。
だが、蒔風はそれを負傷としてとらえていない。
いや、今までのレプリカですらも、傷害などとは思っていなかった。
それは「欠片」だからという力量を以ってのことではない。
右腕になのは・レプリカを握りしめて、聖王の間を寸断する壁に押し付ける。
握りしめているほうの手を引き、腰を落とす。
「起動六課を相手にしてもらう?馬鹿言うなよド三流。これはただの人形だ」
メキメキという音を上げ、筋肉が隆起する。
うなりを上げて右腕が、なのは・レプリカの腹部に突き刺さる。
そうして壁をブチ砕いて、その轟音とともに、言い放った。
「各人の・・・・こいつならば、高町なのはの、その魂を、信念を宿していなければ、これは決してエースオブエースではありえない!!!ただの情報を載せただけの傀儡が、あいつらの名を傲慢にも語るんじゃない!!」
「舜君!!!」
「!?」
蒔風が壁をブチ向いて、なのはと合流する。
なのは・レプリカは壁をぶち抜いた衝撃で、ザァッ、と消え去っている。
当然だ。あんな紛い物に、耐えられる攻撃などない。
「舜君・・・ヴィヴィオが!!!」
なのはが悲痛な声を上げる。
蒔風が見た先には、聖王モードのヴィヴィオ。
なのはのバリアジャケットはすでにスカートの端が切れ、レイジングハートにはどれだけの力で握りしめたのだろうか、血が滲んでしまっている。
「強制覚醒・・・・・なるほど、聖王としてのヴィヴィオか」
「しかも、洗脳で私達を完全に敵だと・・・・・」
「ふむ、なかなかに美人。体つきもいい。将来は安泰だなこりゃ」
「そんな呑気な!!!」
蒔風が考察しているのを、なのはが諌める。
一方ヴィヴィオは新たな乱入者に頭を抱え、流れ込んでくる偽りの認識に頭痛していた。
「ああああああああああああ!!!!お前もか!!!!おまえも私のパパとママを奪った奴か!!!」
「おいおい・・・・」
「私の本当のパパとママを奪って・・・それで自分たちがそうだと嘘をついた!!!そうじゃないくせに!!!!」
「ヴィヴィオ・・・・それは!!!!」
「ようやく気付いたか。だから最初から言ってただろ?俺はパパじゃなく、おにーさんだとな」
蒔風の言う事は確かだ。この男は今まで一度も、父と呼ばれる事をよしとはしていない。
『あ~~~ら?正義の味方も、なかなかにひどい事を言いますねぇ?』
「黙れよ、三流。おまえには何一つ理解できていない事がある。それがお前の敗因で、俺たちの勝因だ」
『私が知らない事?なんでしょうね~~~?気になりますぅ』
それを言おうとした蒔風だが、瞬間、目の前にヴィヴィオが突っ込んできて、蒔風の顎に拳を命中させた。
信じられないスピードだ。
おそらく、通常時のフェイトと同じくらい早いのではないか?
蒔風の視界が揺らぎ、そこに加勢に入るようになのはが砲撃を撃つ。
それに対してヴィヴィオもまた、砲撃を以って迎え撃った。
だが、なのはにヴィヴィオを、牽制とはいえ攻撃することにはためらいがある。
なのはのデバイス「レイジングハート」は祈願型だ。
簡単な防御や攻撃程度なら、主人の思考に合わせてデバイスが自動で発動させる。
それは普段の攻撃にも当てはまる事。
故に、そんな躊躇いの砲撃などは、この場においてはないのも同然。
呆気なく打ち消されて、ヴィヴィオの砲撃がなのはに直撃した。
『あっはははははは!!!ダメですねぇ・・・・戦闘中に気を逸らすとか馬鹿ですかぁ?あ、そっかー♪あなたの翼は確か「願いの翼」ですもんね~?つまりぃ、私の願いを聞いてくれてるってことですか?あはは!!それってなぁんて損な力。願いが力になるなんて面白いけど、この場合まるっきり無駄じゃないですかぁ?』
片手間でなのはを砲撃で弾いたヴィヴィオが、蒔風の首を掴んで投げようとする。
だが、蒔風とて伊達や酔狂で世界最強を名乗ってはいない。
投げられる直前で視界は揺らぐが、そこはそれ。感覚はのこっている。
足を地に付け、爪先で踏ん張りヴィヴィオの投げに対抗する。
それどころか、逆にヴィヴィオの身体を投げつけるほどだ。
地面に倒れるヴィヴィオは即座に立ち上がるが、蒔風がそこに打滅星をぶちかまして、玉座の方へと吹き飛ばした。
そこで恐るべきは聖王のステータスか。
身体は衝撃で吹き飛んで、背中を壁にぶつけこそしたが、打滅星自体は腕でガードしたのだから。
壁から落ちて、今ではその拳をなんでもないように握って構えて戦闘の意を伝えてくる。
なんというハイスペック。
蒔風とて、この場で本気で昏倒させるつもりでぶん殴ったのに、ガード、さらに耐えられてしまったのだから。
しかし、そこでヴィヴィオをバインドがロックする。
なのはだ。彼女がヴィヴィオにもう戦わせまいとして、動きを束縛している。
だがそのバインドも長くは持つまい。
よくて五分が限界だ。
「チッ、名前に「星」でもついてりゃ楽だったんだがな」
『えげつねぇですね~~。あなた、自分をパパと呼んでいた女の子を、そう簡単に殴るんですかぁ?』
「殴る」
クアットロの問いに、蒔風の答えは即答だった。
その言葉に、なのはも黙ってしまった。
「ああ殴るさ。なにがおかしい?そもそも、この世界だけでなく、どの世界でもそういう事はある。知らないのか?最近では親が子を、逆に子が親を殺す事もあるんだぜ?殴るぐらいなんだってんだ。それに、憎いなら最初からこんな事しない。これはあくまでヴィヴィオのための拳だからな」
『なかなかにクソな反論ですねぇ』
「なんだ?お前ともあろうド三品が正論たれんのか?「子どもを殴るのはダメだよ!!」って?クックック、じょーだん言うなよ」
『・・・・・・』
「この世界はクソッタレだ。他人なんざ完全には信用できねぇ。人は人を騙すし、殺しだってしてしまう。どれだけ頑張ろうと悪は出てくるし、幸せな世界は崩壊する。だが、だからこそいい」
『この男・・・・』
「だからこそ!!自分の大切な物が、より一層!!美しく輝くんじゃないか!!!なにもない日常に、退屈できたあの日々が!!!そんなクソッタレな世界だからこそ、そこに生きる人間はなによりも強い!!!どんな世界でも、それは変わらぬよ」
『聞いてて胸くそ悪いですね。黙ってもらえませんン?』
クアットロの声がイラついてくる。
それは、自分の思い通りに苦悩しないこの男に向けてなのか
それとも簡単に悪を肯定するその思考に嫌気がさしたのか
前者ならいいだろう。まだまっとうな悪役だ。
だが、もし後者なら・・・・否、それは彼女ではないだろう。
彼女の不快は、この場の空気を一人の男に持っていかれていることにある。
「ああそうさ・・・・どれだけ頑張ったって、悪なんてものはなくならない。悪は必ずそこにある。この世界はクソッタレだし、どうしようもなく醜いさ。でもな、だからこそより一層輝きが増す。だったら・・・・おれはこのクソッタレな世界ごとすべて愛して守ってやるさ!!!」
『ふん・・・・だから何だと言うんですかぁ?もしかして、他の援軍をお待ちですかぁ?無駄無駄!!そんな人がいると思います?此処までやってきて助太刀に?』
「・・・・人を助けるのには、確かにその場に行かねばならない。だがな、俺は翼人だぞ?そのような瑣末なこと、我が翼において奇跡を為せばよいことだ」
『ですから・・・・』
「教えてやるよ、クアットロ。世界の理不尽に呑まれし哀れな者。おまえが知り得ぬ「人」の強さを教えてやる」
蒔風が豪語する。
必ず助けはあると。
あれだけ世界はどうしようもないという男が、ここで世界は素晴らしいという。
矛盾
だが、思い返してみてわかるが
矛盾のなかった世界など、今まで一つもありはしなかった。
「見せてやる、クアットロ。おまえには無い、「願い」って奴をな」
蒔風の翼が開かれる。
その目が向く方向は、玉座に向かって左下側の端。
その先に、撃つべき相手を見ていた。
「なのは、場所はわかるな?」
「え!?あ、ああうん!!今見つけたよ!!でもどうして・・・・」
「おまえがなにしてんのか、わからない俺だと思っていたの?そんなことあるわけないでしょう」
傍目から見て、二人はなんの話をしているのか、わからないだろう。
その内容を簡潔に言うとこうだ。
なのははゆりかごに突入してヴィータ達と別れた直後、サーチャーを一つ放っていた。
そう、ただそれだけのことだ。
きっと今頃は発見されたクアットロが、その桜色の球体に驚愕しているだろう。
そして蒔風が知りえたのは、それに自らの羽根を一枚、乗せていたから。
なのはがサーチャーを放っていたのはわかっていたから、その状況を知るために付けていたのだ。
「よ~~くやった。さて、これからが俺の見せ場だ」
「舜君、ここは私が・・・・」
「おまえのはここになにをしに来た?ヴィヴィオを救いに来たんだろ?だったら、三流のぶち抜きは俺に任せて、その後のためにその魔力は残せ」
「でも、正確な場所が・・・・・」
そう、蒔風はサーチャーが見つけた、という事はわかっても、どこに、という正確な情報は来ていない。
大体こっちだろうと推測はつくが、感覚的なものだ。
まあもちろん、撃てば当たりはするだろうが、今、そんな中途半端は嫌だった。
キチンとど真ん中でぶち抜いてやりたい心境なのだ。
「大丈夫だ、こいつを借りるからな」
心配するなのはから、そう言って手に持つ杖をヒョイと取り上げる蒔風。
すなわち、レイジングハートだ。
「ちょっと借りる。バインドだけ任せるけど、その維持くらいならレイハがなくてもいいよな?」
「え?え!?で、出来るけど・・・なにをする気なの!?」
「そこで見ていろ。レイジングハート、力を借りたい。マスターじゃないけど、いいかな?」
《All Right.My Friend》
「嬉しい事言ってくれるじゃないの!!行くぞ!!!」
パァン!!!と、蒔風の翼がより大きく開かれて、そこにに金の粒子が集まってくる。
それは、願い。
この空で、地上で、そしてどこか別の場所で、戦っている者の、願いだった。
『は・・・ははは・・・・・な、なにをしてるんですかぁ?それが願いって奴で?は、かかか!!!バカですねぇ!!人の願いなんて、同じなわけないじゃないですか!!!』
「そうだな。違う。だが細部は違えども、今この戦いに身を投じている者は皆、少なくともこの事を願ってくれている」
クアットロが聞く。それはなんだと。
あれだけの、これだけの
それだけの人数が想っている、共通の願いとは一体何だ?
蒔風は言う。
彼らが想っていることはそれぞれ違う。
それは地上の平和だと
それは愛する物を守るためだと
それは自分の正義だからと
それは任務や仕事だからだと
そこには多くの想いがあり、少しずつズレ、同じモノなどない。
だが、重なっている部分があるのもまた確か。
その部分を、蒔風が誇らしげに、まるで息子自慢をする父親のように言って見せた。
「あの子を、助けたい」
『は?』
「モニターの向こうで苦しんでいる、あの子を助けたい。運命に翻弄され、母親を求めて叫ぶ、あの囚われの少女を助けたい。今この空、地上にいるすべてのものが、どんなに小さくともその事を願ってくれている」
それは名誉のためかもしれない
それは偽善や偽りかもしれない
それはただ出来たらいいという夢かもしれない
だが、どんな形であれ、すべてのものが願ってくれている。
ヴィヴィオに、家族を
泣き叫ぶ彼女に、救いの手を、と
「侮ったな?クアットロ。これが俺の援軍だ。これが俺の力だ。皆の願いを一身に受け、俺はこの場でお前を討つ」
気が付けば聖王の間を、金粉のような粒子が充満していた。
一体どれだけの人が願ってくれたのだろうか。
過去、蒔風がこの力を使ったのは一回のみだった。
その時皆が想ったのは「生きたい」という生物自身の持つ、半ば本能のようなものだった。
だが、ここに集まる願いは、それをはるかに凌駕する。
数の差ではない。そんなものでは決してない。
にもかかわらず、それを凌駕する理由など、今さら言う必要もないだろう。
「す、凄い・・・・」
その光景を見て、なのははこれが奇跡だと思った。
ヴィヴィオのために、これだけの人が想ってくれている。
それだけで涙が出る想いだった。
意識を凝らして見ると、声まで聞こえる。
助ける、という強い思いが。
そこには全く効いた事のない人の声もあれば、自分の教え子のものもあったし、親友のものもあった。
間違いなく、目の前に起こっていることは奇跡だ。
本来見えなかった世界の輝きが、そこで威光を放っていたのだから。
《しかし蒔風。あなたのこれだけの力を、私は受け止めきれません。どうするつもりですか?》
そこでレイジングハートが訊く。
確かにそうだ。これだけの力を魔力に変換して砲撃など撃てば、レイジングハートが粉々に散ってしまうだろう。
だが、大丈夫だ、と蒔風がレイジングハートを左手に持ち変える。
そうしながら自分に集まった願いを魔力に変換、それを周囲にばらまいた。
ただばらまいただけなので、当然破壊などは起きないし、衝撃も無い。これはただの下準備だ。
「願いの元が、同じ「高町なのは」という同一人物だからこそできる妙技、見せてやる!!!」
そう言って手をマジシャンのようにひっくり返した蒔風の指の間には、真紅に輝く二つの宝石があった。
そうして、それを、起動させる。
「レイジングハート、レイジングハート・エクセリオン!!セットアップ!!!」
《《stand by ready.set up.》》
そうして、ここにまた奇跡が起きる。
本来ならあり得ぬこと。
同じ人物でなければ、蒔風は「願いの複重」で腕の一本、消えてもおかしくはない。
三世代にわたるレイジングハートが、同時にこの場に集結していた。
「さて・・・・三機すべてに、銀白の翼が命じる!!!集束開始!!!」
《《《OK》》》
そして、周囲にばらまかれた魔力がまるで掃除機に吸い込まれるかのように、三機それぞれに集まって行く。
集束されていく魔力は渦を巻き、その質はもはや見た目以上に厚いはずだ。
「更に・・・・・レイジングハート、シューティングモード。レイジングハート・エクセリオン、エクセリオンモードA.C.S。ややこしいが、レイジングハート・エクセリオン、ブラスタースリー、ビット稼働!!!」
《《All Right.master》》《All Right.My Friend》
一機だけ返答が違うのは御愛嬌だろう。
だが、もはやこれを止める者はなにもない。
三本が蒔風の周囲を回り、その切っ先を真っ直ぐに壁に向ける。
その先にはきっと、見えはしないがクアットロが恐れ慄いた表情でいることだろう。
更には四つのビットまである。
「さて、クアットロ。おまえは言ったな?自分の願いもかなえてくれと」
『あ・・・・あああ・・・・・・』
蒔風の方からクアットロに回線を開く。
レイジングハートを手にしている今だから、彼女の位置も正確にわかるのだ。
「そもそも、おまえのは願いじゃない。そこがお前の知らないところだ」
『な・・・なん・・・・・』
「「なにが」って?今それを教えてやる・・・・いいか?確かに、「したい」と思えばそれは、確かに願いと、かろうじて呼べるだろう。だがな、そんなものは認めん。それは別のものだ。断じて願いなどではない。おまえには信念がない。状況を見て、最終的にはスカリエッティを捨てるようなおまえには、一貫した誇りがない、信念がない。チンク達だって、一応はあいつの身を案じたというのに、おまえだけにはそれがない」
なぜ蒔風は、クアットロだけがスカリエッティを見限るとわかるのか。
他の姉妹はどうなのか。そもそも本当にそうなるのか?
そういった疑問も、あるかもしれない。
だがそんなこと、蒔風自身もわからなかった。
そんな気がする、というだけだが、確信はある。こいつは絶対にそうすると。
そこで最後の一言を言おうと、蒔風が息を吸って、その言葉と共に、一気に息を吐き出した。
「教えてやる・・・・信念無き思いなど、ただの醜い欲望に過ぎないという事を!!!スターライト!!!」
《《《Star light Breaker》》》
「ブレイカー」
最後の一言だけ、蒔風が静かに宣言した。
そして、放たれた。
銀白の魔力光が、三本の杖と四つのビット、合わせて七つから伸びていく。
その砲撃は途中の壁などは障子のように突き破り、太さを以って収納されているガジェットの実に七割を消し飛ばした。
幾層もあるゆりかごを突き抜け、ついにはクアットロの階層にも到達し、そのフロア全体にまるで液体を流し込んだかのように広がっていく。
だが、まだ止まらない。
その砲撃はそこで広がりながらも更に直進を続け、唯にはゆりかごの下腹部を貫き、少し角度を付けて斜めに貫通した。
真下に向けて撃ったわけではないので、角度がつくのは当然のこと。
正確にはゆりかごを正面から見て左側下方、前後の位置としては前のところから、それは伸びてきた。
おそらく輪切りにすれば、蒔風とクアットロの姿が見えただろう。それくらいに、前後感で言えば同じ位置にいた。階層が違うだけだ。
そして砲撃が地面にブチ当たり、その反動にゆりかごが後ろ方面にグラついた。
その揺れで動力炉の方では青龍がセッテを逃してしまったのだが、今はいい。
そうして地面に大穴をあけ、どれだけ抉っただろうか?
ようやっとして、その砲撃は細くなっていった。
と、言っても元々の太さが尋常ではなかったのだから、細くなったと言ってもまだ太い。
まるで悪徳セールスマンの言い口だ。五十万と言って、二十万で買わせる。どちらも高いのは変わらないのに。
まあ、細くなっていくのであれば、いずれは消えていくというもの。
ほどなくしてから、消えていった。
砲撃を始めて実に二分。そこから細くなって消えるまでが、更に一分。
管理局史上例のない、三分間放たれ続けた超超巨大集束魔法砲撃。
外で指揮をとっていたはやては、その光景を目撃していたが、未だに今の光景が信じられない。
が、その砲撃が「落ちた」後の地面はぽっかりと開いていて、森の仲に怪異な穴ができてしまった。
おそらく、落ちればひとたまりもないだろう。
ここが将来の自殺スポットにならないことを祈る。
そこではやてが連絡を受ける。
蒔風からだ。
あの大穴の周辺に戦闘機人が一体転がっているはずだから回収してくれ、というものだった。
それだけ言って、はやてが今の事を聞こうとするより早く、蒔風が通信を切ってしまった。
だが、はやてには見えた。通信は音声だけだったが、間違いなく見えた。
舌を出して、半ばふざけるように謝る、あの男の顔が。
実際には舌を出して「俺、知ーらね」という顔をしていたのだが、大差は無いだろう。
to be continued
後書き
アリス
「蒔風、ド派手な砲撃編。それにしてもですね」
はい
アリス
「ここってフェイトさんのスカリエッティ攻略の後だったりしません?」
そこら辺はあれです。二次創作の特権です。
それに加えて言うなら、私は最終決戦のシーンを見直していません。
この最終決戦から、完璧に原作とは変わってきます。
ですから、原作にとらわれてその順番通りは嫌だったんですよ。
信念無き想いなど、醜い欲望に過ぎない。
これは言いたかった台詞でした。
なんかオーズで後藤さんが言ってたっぽいけど。
アリス
「次回、おっさんズ&フェイトちゃん!!!」
ではまた次回
見つけた・・・
なのはさん、怖いですww
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