世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはStrikerS ~「蓋」~
フェイトとはやてが二人で話し合っている。
議題はもちろん、彼のことだ。
「舜君がもう関わらへんって・・・・」
「自分にはまともなものを残せないって言ってたよ」
「そんなことあらへんよ・・・・・あたしら舜君にどれだけ助けられたと思ってんねん・・・・」
「それについても、こないだ舜に話を聞いてきたんだ・・・・・」
フェイトがその時のことを話し出す。
それはまた数日前のこと
フェイトは蒔風の部屋の前に立っていた。
そしてそのまま、閉じられた扉越しに蒔風に語りかける。
「舜・・・・舜が残した物は、ちゃんとあるよ。だから帰ってきて・・・・・・みんな寂しいよ・・・一緒にいようよ・・・・」
誰かと関わるということを、誰よりも大きく大事に思う彼女だからこその言葉。
蒔風はきっと聞いている。
そう信じて、フェイトが語る。
すると、扉に寄り掛かる音が聞こえ、扉のすぐ向こうから、蒔風の声が聞こえてきた。
「俺が残せたのって・・・・・何だよ」
やっと会話が出来た。
その問いに、フェイトはすぐに答えを返した。
「私は舜の言葉に励まされて、あの時立ち上がれた。はやても助けてあげられた。だから、舜が残した物に、ろくでもないものなんか、なにもないんだよ?」
優しくフェイトが蒔風に言う。
もし蒔風が簡単に喜べるような簡単な男なら、これで終わっていた。
しかし、彼はこの世界で多くを背負っている。
それを無視など出来るはずもない。
「俺はプレシアを助けられなかった」
その言葉にフェイトの肩がビクリと震える。
「それは・・・・」
「さらに、リィンフォースも消した」
「だって・・・・・・でもあの状況で舜は全力を尽くした!それなら・・・・」
「全力どうのこうのじゃない。つまりは俺じゃなきゃ残せないものはない、ってことだ・・・・そこに首突っ込んで、いらん事なんかできねぇよ・・・・・・・・フェイト、お前はあの時立ち上がったと言うが、それは俺がいなくても、なのはの存在がやってくれた。はやても、お前らがいれば解決出来た事件だ」
「そんなことないよ!舜がいなかったら・・・・」
「いなくても解決出来た。それは原典が証明している。そこでプレシアやリィンフォースを残せれば、俺はそっちにいられたかもしれない。でも・・・・・・・そんなことはない。オレはこの世界に何も残せてない」
そう言って、扉の向こうから気配が消える。
フェイトはただ、立ちつくした。
「原典」が何だかは知らない。
フェイトは世界について、なにも知らない。
でも、このままでいいわけがないという事だけは、わかってるつもりだ。
しかし
だからといって、今の蒔風にどんな言葉をかければいいのか、わからない。
確かに、この世界で蒔風は活躍をしたかもしれない。
だが、最終的に残ったのは原典通りの主要人物。
プレシアも、アリシアも、リィンフォースも、誰一人として救い出せてはいない。
では、彼のいる意味は・・・・・・・・
「なんやそれ・・・・・・・そんなん、悲しすぎるやろ・・・・・・」
はやてがフェイトの話を聞いて、今にも泣きそうな顔をする。
彼がこの世界に来たのは「奴」を倒すため。
それ以外の接触は不必要。むしろ、彼女らの邪魔にしかならない。
そんなことがあるのだろうか。
そんなことがあってよいのだろうか。
しかし、世界は残酷だ。
今までこの世界で、蒔風が残したものは何もない。
「はやてちゃん、フェイトちゃん・・・・・・」
と、そこになのはも合流する。
今まで蒔風の部屋の前で話していたのらしいのだが、フェイトとほとんど変わらない会話しかしてきていないことを告げる。
「なんで・・・・・あんなに消極的になってしもたんやろ・・・・・」
「そうだよ・・・・いつもの舜なら、何とかするって言ってるはずだよ・・・」
フェイトとはやてが、蒔風のあまりの変わりようにわからないと頭を振る。
「舜君・・・・・こういう事言ってるっていうの、ユーノ君に貰ったデータにあったよ。アースラで、叫んでたみたい。でもその時は、自信たっぷりに俺が何とかする、って、言ってたのに・・・・」
なのはも同様にわからないという。
彼はいつでも自信があった。
幾度負けても、立ち上がってきた。
しかし、今回は諦めてしまった。
なぜ今回はだめだったのか。
蒔風舜は、自信ある人間ではなかったのか、と。
確かに蒔風に非はあるのだろう。
だが、それ一つでここまで落ち込むことなのだろうか。
仮に落ち込むとして、これでは逃げではないか。
もし自分がそこまで悪いと自覚しているのであれば、それを訂正し、直していくのが「成長」というのではないのか。
自分たちには強くあれ、みたいなことを言っておきながら、自分はすぐに引っ込む。
そんな卑怯なことはない。
そして、彼は普段そんな人間ではないはず。
今回、彼をそこまで追い詰めたのは一体―――――
「・・・・それに関して・・・・知りたいですか?」
「!!・・・・・あなたは・・・・・・」
三人の元に聞こえた一人の声。
その声の方向を見ると、そこにいたのは二人の「人」
青龍と獅子が、そこにいた。
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「確か・・・・・舜君の使役獣とか言われていた・・・・・」
「・・・・私は青龍です・・・・こちらは・・・・」
「獅子だ。なのは嬢、フェイト嬢、はやて嬢。我が主のこと、知りたいか?」
まさかの二人の申し出。
一体どういうことなのか。
彼らは基本、蒔風の意思によってでしか出てこない。
それが歩き回り、あまつさえ主の事を話しに来るなど。
「・・・・我らとしても・・・・今の主は・・・・よく・・・・ありません・・・・」
「うむ。しかし決して勘違いされぬよう、ここでおそらく我等しか知らぬであろう「蒔風舜」の事を、話しておこうと思ってな」
「我々としても・・・・これ以上主を見てられません・・・・主を理解できる方は、おそらく存在しません」
「それでも、少しは知っていてもらいたいのだ。蒔風の事を」
「そして・・・・彼がどんな人間かを・・・・どれだけ自分を偽った者かを」
彼らしか知らない蒔風舜。
いったい、どんなものなのか。
自分たちは、彼を勘違いしていたのか。
「彼がなぜああなったのか、だな?」
「うん」
「舜君に何があったんや?」
その質問に、青龍たちが息を吐いてから答えた。
「主には「蓋」があるのだ」
「「蓋」・・・ですか?」
「・・・・そう・・・・それは本来の自分を隠すための仮面」
「本来の彼は自身もなく「出来る人」と言っても六割程度の、どこにでもいるような普通の青年だった」
「・・・・しかし、そんなのではだめだと、彼は考えました」
「自分が弱くあるのは嫌だ。その想いから、彼は理想の自分を形作り、それを「蓋」とし、その弱さを押し込めた」
様々なことを聞き、知り、そして「じゃあ自分はこう在ろう。こうはならないようにしよう」と感じる。
それをすることは簡単だ。
そして、それをもとに蒔風は「蓋」を作った。
自分の理想とする「自分」。
それが「蓋」だ。自分の弱さを出さないための、仮面。
彼が「死への理解」を得たのもその時だ。
いろんなことに思考を巡らせて、見知って「これはいい」と思ったことを「蓋」の人格に組み上げていったのだ。
「蓋」を作るには様々なものを理解しなければならない。
その過程で得たのがそれだった。
「だから、今回の失敗からの立ち直りも早いわけです。ただ「蓋」を書き変えて、在り方を少し変えるだけですから」
「主は今までの人生、そうやって過ごして来ました。失敗したら、乗り越える、という形ではなく、改良・アップデートの形で回りこんできたのです」
「だからいざ大きな失敗などに直面し、それが連続的になると、彼は大きく変わる」
「・・・・そして今回・・・・ついに「自信」を・・・・書き変えてしまった」
「自信って、なんですか・・・・・?」
「彼は自信がない。常に、なんにでも」
「・・・・おかしいと思いませんか?なぜ、主があそこまで・・・・世界最強に・・・・こだわるのか」
確かにそうだ。
彼の気質なら特に勝ち負けにこだわらない、と言っても誰もおかしいとは思わない。
むしろ、楽しめればいいような人間だ。
しかし、彼は「世界最強」には固執した。
その理由は、簡単である。
「自信がないからだ。だからいつでも「世界最強」と謳い続ける。そうでもしなければ、彼は自信を失い、自分を保てなくなる」
「・・・・あれは主の自己暗示なのです。だから・・・・・」
「ダメだよ」
そこで青龍の言葉を、なのはが遮る。
その眼には、絶対にそんなのはだめだという思いがあった。
「それはただの逃げでしょ?そんなのはダメ・・・・立ち向かって、乗り越えなきゃいけない!!」
「そうや!!失敗して、乗り越えもせずに改良だけしてそれでしまいなんて、そんな無責任なことあらへん!!」
「私も一度、逃げそうになった。でも、逃げるのはよく・・・・・」
「別にいいだろ、逃げたってよ」
フェイトの言葉をさえぎって、二人の主の声がした。
「なに勝手に話してんだお前ら。「蓋」の乱れはまだ収まってないんだ。俺を歩き回らせて、何かあったら取り返しがつかないだろ」
「・・・・しかし主!!」
「行くぞ」
「主よ、いいのか!?」
「良いも悪いもねえ。俺はもう、そっちに行く自信がねぇんだ。俺はお前らほど強くない。弱いんだよ。それを何とか言い繕ってきて、ボロが出た。ただそれだけだ」
獅子と青龍を回収し、その場を去る蒔風。
「待って舜君!!話を・・・・」
なのはがその背中を呼びとめる。
しかし、彼は一度たりとも止まることはなく、そのままいなくなってしまった。
その様子に、なのはが涙してフェイトに飛びつく。
「フェイトちゃん・・・舜君・・・こっちの方全然見てくれてなかったよ・・・・・」
「なのは・・・・・・」
「「蓋」の乱れ、って言ぅてたけど・・・・つまりいろんなものを詰め込んで、ズレてきたってことやろか?」
「それが今回で明るみになって・・・・それでもうこんなことが無いように逃げた?」
「なんなんや・・・あのヘタレは・・・・ただ弱いから逃げるやと・・・・?翼人がなんや。そんなもん・・・・」
はやてが憤って悪態をつく。
しかし、それにフェイトは違うと反論する。
「はやて。舜はもう、どこにも属さない人間なんだよ・・・・人からも、生物からも、世界からもって言ってたから・・・だから・・・「翼人」っていう枠は、舜の最後の居場所なんだよ」
「そんなん・・・・うちらがいくらでも作ったる・・・・それなら・・・」
「でも・・・それじゃあ私たちに迷惑をかけるって・・・・・」
「・・・・ああもう!!!どないせぇっちゅうんや!!!!」
「待とうよ。そして、伝えよう」
はやてが頭をがガシガシと掻くと、なのはが一言、ぽつりと言った。
「待つの。舜君は、いつか気付いてくれるよ。私たちがどれだけ舜君を待っているか。そして、それを伝えなきゃいけない・・・・・」
それはなのはの決心だ。
彼を必ず連れ戻す。
そのために、みんなで言葉を贈るのだ、と。
想いは伝えなければならないと。
それから、蒔風の元に皆のメッセージが届くようになる。
しかし、その内容はどれも蒔風の心を押すものではない。
この世界で、蒔風だからこそ残せた何か。
それが現れる日が来るのだろうか。
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「あ、主・・・・」
「あん?もーいいよ。話しちまったことは仕方ねえ。でも、もうやるな」
自室で青龍たちに注意をする蒔風。
だが、彼は忘れていた。
「願い」を元に戦う彼は、仲間無しでは、ダメなのだ。
たしかに、ひとりで戦っても強いのは確かだ。
しかし、それは「絶対」ではない。
誰かと関わり、そのものの願いを受け取れたとき、彼は真の強者になる。
忘れたことは、あまりに大きい。
誰の想いも受け取れぬ、関わりを断った翼人など、並の強者と変わらない、という事を
to be continued
後書き
蒔風ヘタレ編です。
アリス
「ヘタレヘタレーーー」
全くですね。
でもそれが何だか「仕方ないよね」と思えてしまうのが主人公マジック。
アリス
「主人公補整ってやつですか?」
そうそれ。「奴」が主人公を嫌う理由だよ。
サブキャラなら許されなくても、主人公ならあら不思議。
アリス
「それはむかつきますね」
アリス
「次回、休日、そこから始まる」
ではまた次回
またあえてうれしいよ
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