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相模英二幻想事件簿

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File.2 「見えない古文書」
  序奏 6.5.PM2:03


 私は結城の紹介で、とある山間の町にやってきた。一応バスは通っているが、それも一日に二本しかない辺境の町だった。いや…村と呼ぶべきか…。
 私はバスから降りると、荷物を持って町へと入った。バスは町中までは行かないのだ。
「全く、とんでもないとこへ来ちまったなぁ…。」
 静かな町中の道を歩いていると、何だか取り残されたような侘しい感覚に襲われた。人の姿が見えないからだろうが、町並みそのものがどことなく古めかしいのも理由として挙げられよう…。
 そんな町中から、どこからともなく歌声が聞こえてきた。

- 一つ一夜のお月様
  二つ二つの大きなお目々
  三つ見えずに歩いてる
  何処へ行こうか真っ暗山を
  とんと叩いて杖の先 -

 数え唄…の様に聞こえるが、何だか節がおかしい気がする…。何と言うか、スムーズにいかないと言うか。私は二番目もあるかと思って耳を澄ましたが、それ以降は何も聞こえてはこなかった。
「ま、いいか。」
 私は何とも考えず、そのままある家へと急いだ。
 十五分ほど歩いただろうか。暫くし、目の前へと大きな門が現れた。
「ここか…。」
 最初はよく分からなかったが、私が辺りを見回すと、その門の左右にはかなり先まで塀が築かれていることが分かった。
「ここ…何坪くらいあるんだ…?」
 まぁ、いい…。私的な考えを捨て、門に付けられていたボタンを押した。すると、スピーカーから女性の声が聞こえてきた。
「相模様で御座いますね。只今門を開きますので、そのまま中へお入り下さい。」
 それだけ言うとフツリと音が切れ、今度は機械音と共に門が開いたのだった。
「こりゃ…随分と厳重な設備だなぁ…。」
 そう呟きながら中へと進むと、再び機械音が響いて門が閉まった。どこかにカメラが仕掛けられているんだろう。
 だが…こんな厳重な設備を、何故こんな田舎町で整えなくてはならなかったのか訝しく思ったが、そこまで踏み込む必要はないと考えから外した。飽くまでも、依頼されたことだけ果たせば良いのだ。
 門を入ったは良いが、中々玄関まで辿り着かない。私は溜め息を溢しながら、周囲に鬱蒼と繁った木々を見た。
「広いにも…限度ってもんがあるだろうに…。」
 そうぼやきながら歩くこと十分…やっと玄関に辿り着くことが出来た。
 そこは家と言うよりは…館と言った方が良かった。あまりの大きさに一瞬たじろいでしまったが、ここで引き返す訳にも行かない。私は覚悟を決めて、これまた大きな扉のある玄関へと足を進めたのだった。
 玄関先まで来ると、私が来たのを知ってか扉がひとりでに開き、そこから一人の女性が顔を見せた。
「相模様、お待ちしておりました。どうぞお入り下さい。」
 その女性は家政婦風の格好をしており、私を中へと促した。私は彼女の言葉に従って中へと入ると、そこには別世界が広がっていた…。高い天井からは大きなシャンデリアが下がり、中央には広い階段…海外で見る、いわゆる豪邸だ。それもヨーロッパ風…。何だってこんな山奥に、こんな館を建てたんだか…。
「私は柳瀬と申します。相模様のお世話をするよう申し使っております。奥様は暫くしましたらお会いになられるそうですので、先にお部屋へとご案内させて頂きます。お荷物をお持ち致します。」
 彼女…いや、柳瀬さんがそう言って私の荷物を持とうとした時、私は「自分で持ちますから。」と言うと、柳瀬さんはこう返してきた。
「いいえ。私は奥様より相模様を丁重にお迎えするよう申し使っております。荷物を運ぶのも仕事ですので、お気遣いは無用ですので。」
 そう言うや一瞬の隙をついて荷物持ち、「さ、ご案内致します。」とにこやかに案内されることとなったのだった。
 私が案内されたのは、館の二階の東側の部屋だった。
「失礼ですが…ここへ泊まれと?」
「申し訳御座いません。お気に召しませんでしたか?」
 柳瀬さんが真顔で聞いてきた…。私はそう言う意味で聞いた訳じゃないのだが…ただ、用意された部屋が、私の部屋の六倍はあろうかというだけで…。
「柳瀬さん…ここ、部屋と言うより…広間ですよね?」
「はぁ…そうでしょうか?お屋敷の客室は、全てこの大きさですが…。」
 金持ちなんて嫌いだ…。何だかゴテゴテした装飾もあちこちにあるし、飾り机に置いてある壺なんて…きっと目が飛び出る程の金額なんだ…。こんな部屋、とても恐ろしくて眠れやしないだろう。
「柳瀬、どうしましたか?お客様に何か不都合でもありましたか?」
 私がもう少し小さな部屋はないかと聞いている最中、背後から女性の声が聞こえた。見ると、ドアから中年の女性が顔を覗かせていたのだった。
「奥様、申し訳御座いません。相模様は、もう少し小さな部屋が良いと仰っておられるのですが…。」
 目の前の女性が…どうやらこの館の女主人、如月夫人みたいだな。と言うことは、私にとっては依頼主になるわけか…。
「あらぁ…困りましたねぇ…。」
 何と言うか、女主人と言うよりはのんびり屋のおばさんと言った感じだなぁ…。服はそう派手じゃく、かといって目立たない程に地味でもない。品がある…と言えば良いのか?だが、そんな服と喋り方が、どことなくミスマッチだ…。
「あ、部屋を半分に仕切ってしまえば良いじゃない!」
 いや…思考も何か変だな…。柳瀬さんは如月夫人の提案を答えとばかりに、「奥様、それが宜しいですわ。」と、何とも無責任な返答をしているし…。この館の中に、まともに話せる人はいるのだろうか?私は一抹の不安を感じつつも、仕方なく「この部屋で構いませんので…。」と、力なく言うしかなかった。
 だが…まさかこんな暢気人達が住まう場所で、あの様なことが起きるなんて…。この時は、全く予想だにしなかったのだった。


 
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