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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第21話 決意の口づけ

 
前書き
 何所で話を区切ればいいのか、もう判りません。 

 
 ほぼ同時刻、士郎達は突如出現したオートマタの殲滅に明け暮れていた。

 「音よ響け!」

 エジソンはジャブにストレートで1体のオートマタを殴りつけ、トドメのアッパーで他のオートマタの固まっている所へ殴り飛ばして、それを撃破する。

 「闇を照らせ!!」

 胸の砲門から“直流”の電気と魔力の混ざった虹色のビームを横薙ぎにするように放ち、周囲のオートマタの多くを一掃する。

 「やるな、エジソン!これは余も負けていられぬなっ!」

 神速の剣戟で周囲のオートマタを瞬時に鉄くずに変えていくシーマ。

 「2人とも張り切るのはいいが、こいつらは所詮は雑魚。飛ばし過ぎるなよ?」

 シーマほどの速さは無いが、士郎もよく使う干将莫邪で周囲を薙ぎ払い続ける。
 そして待ち続ける。本命の到来を。


 -Interlude-


 此方もほぼ同時刻。
 百代は衛宮邸から美人の客人をさらった不届き者を追っていた。

 「ハァ、ハァ」

 しかし未だ本調子ではない様で、逃走者達との距離は広がらないが一向に縮まりもしない。
 今の百代は全快時の時に比べて、約二割ほどまでしか力も動きも出せない状態だった。
 鉄心の意識を取り戻す時間帯に対する予測は外れたが、全快状態にまで戻すには矢張り丸1日かかる様だ。少なくとも自己治癒では。
 そんな事情など知らない彼女たちは、一定距離から付いて来る百代が不愉快極まりない様だ。

 「大義も持たぬ小娘が!」
 「我らをつけるなど言語道断!お2人を拉致拘束していた藤村組及び衛宮邸(奴ら)も同罪!いずれ身の程を思い知らせてくれる・・・!」

 上司が上司なら部下も部下。
 仲間に対する思いやりが強いと言えば聞こえはいいが、単に躾が行き届いていないのと、自分達を特別視しすぎて自己中心的な思想に囚われている。
 常に結果を出して来たので、嘘でも誇張でもなくドイツが誇る部隊ではあるが、それらを引ん剝けば単なる駄々集団である。
 噂をすれば何とやら、2人の向かう先に藤村邸から脱出して来たマルギッテ達と偶然にも鉢合わせになった。

 「隊長!?」
 「お前達・・・!それにフィーネにリザ!?まさか衛宮邸に侵入して攫ってきたのですか!?」
 「違います。奪還して来たのです!」
 「正義は我ら、猟犬部隊に有りです!」
 「何が正義だ!この犯罪者どもめ!」

 ついに追いついた百代が、衛宮邸から逃走した2人を糾弾する。

 「誰が犯罪者だ!」
 「お前たち以外の誰がいるって言うんだ!幾ら同盟国内だからと言って、不法侵入罪に暴行罪、それに略取・誘拐罪に変わりはないんだぞ?!」
 「ふざけるな!」
 「敗戦国の雌犬風情がっ!我らに生意気な口を利くな!」
 「無礼者めっ!」
 「身の程を弁えない態度に我らに対する侮辱、もう許せん!」
 「隊長!如何か戦闘許可を。誇りを失った愚物共に我らの正義を思い知らせると――――」
 「いい加減にしなさいっ!!」
 「「「「「「「ッッ!!?」」」」」」」

 思いもよらないマルギッテからの叱咤に、彼女以外の隊員たち全員が驚く。

 「大人しく聞いていれば何です、その口の利き方に態度は!?」
 「た、隊長・・・?」

 何故自分達が怒られているのか、本気で理解できていない顔だった。

 「お前達もです!お前達のしたことは救出でもなんでもない、単なる犯罪ですよ!」
 「そ、そんな・・・!」
 「お前たちのしたことで誰が責任を取ると思っているんです!?勿論私も取りますが、一番重い責任と非難を浴びるのはフランク中将ですよ!」
 「私達はその様なつもりは・・・」
 「自覚が無いとは余計に性質が悪いとはこの事です!お前たちの所業と態度で、祖国ドイツと偉大なる先人たちに一体どれだけの恥を塗ったと思っているのですか!?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 あまりの部下たちの酷さに、マルギッテは深い溜息をつく。
 当の本人たちは、反省をしているか否かは判らないが、明らかに落ち込んでいるのは傍目から見ても解る。
 そして百代はマルギッテの憤慨と失望から来る叱咤によって出番を失くし、完全に蚊帳の外であった。

 「兎に角、今から藤村組に戻りま」
 「っ!?待った!」

 百代に庇われる形で足を止めたマルギッテ。
 百代に倣って見た視線の先には――――。

 『ほぉ?感覚が昼間とは桁違いじゃないか、ボロ雑巾』

 世界最強の傭兵、ラミー・ルイルエンドがいた。

 「軍神が何故ここに!?」
 『何時何所で何をしようが勝手だろう?それにしても暇なら私と遊ばないか』
 「そんな暇は」
 「隊ちょ、がはっ!?」

 ラミーの戯言に取り合う気もまるでなかったマルギッテだが、部下の1人が事前に気付いて彼女を突き飛ばし、代わりにその部下自身がラミーの不意打ちを喰らった。

 「エミリアっ!?」
 「貴様っ!!」
 『心配せずとも大したダメージでは無い。単に貴様らが構おうとしないから、少々揶揄っただけだ。――――だがそうだな、次は今お前たち2人が抱えているそいつらを痛めつけるのも面白いかもしれんな』
 「「ッッ!!?」」

 フィーネとリザを抱えている2人は、目を付けられた事に驚くと共に最大限に警戒態勢になる。
 だが驚く事に、ラミーの視線を遮るように2人の前に出たのは百代だった。

 「とっとと逃げろ」
 「な、何のつもりだ?!」
 「私達を執拗に追いかけて来たのに・・・」
 「勘違いするな。私が守るのはお前達が誘拐した御2人であってお前達じゃない。それにおアンタたち猟犬部隊じゃ、コイツは手に負えないぞ」
 『それは貴様もだろう?ボロ雑巾』
 「クッ!」
 ((((((???))))))

 ラミーの言葉に露骨に顔を顰める百代に対して、軍神を警戒しながらも疑問視する猟犬部隊隊員達。
 だがマルギッテだけはそれに取り合うことなく、百代の前に出る。

 「マルギッテさん。何を?」
 「此処は私が足止めします。部下達と共に行ってください」
 「「「「「「隊長!?」」」」」」
 「フィーネとリザが今此処に居るのは猟犬部隊(我々)の罪であり、部下たちの責任は上官である私の責任です」
 「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
 「勿論厚かましい事を言っているのは百も承知です。ですがどうか・・・」

 マルギッテの決意を聞き終えた部下達はフィーネとリザを百代に預ける。

 「な、何だ?」
 「見て分からないか?御2人を頼むと言う事だ」
 「2人とも、何を?」
 「申し訳ありませんが隊長、我々にも面子が有ります」
 「それに隊長に何もかも尻拭いさせる気はありません」
 「それに私たちの一番の武器はお互いの短所をカバーしあい、長所を何倍にも引き上げる事で生まれる連携力です」
 「ですからどうか汚名返上とまでは行かずとも、贖罪の第一歩とさせていただきたいのです」
 「お前達・・・・・・」

 気が付けば猟犬部隊の全員が百代の前に立ち、ラミーを迎撃する体制を整えていた。

 「任せていいんですか?」
 「ええ、此処までいえば彼女たちは聞かないでしょう。ですから2人をお願いします」
 「分かりました」

 百代はマルギッテ達のその場を任せて走り出す。
 それを黙って聞いていたラミーは、仮面越しでも判るくらいにうんざりしていた。

 『青臭い忠臣ごっこは終わりか?』
 「ごっこなどではありません。これは不退転の決意です!」
 『・・・・・・僅かな間とは言え、時間の無駄だったな』
 「何の話です?」
 『いや、何。随分と盛り上がっていたので、空気を読んで黙って待っていたのだ。しかし蓋を開ければこんな事に時間を掛けたのかと――――無駄だっと思ってな』
 「で」

 相変わらず要領を得られない言葉に疑問を漏らそうとした瞬間、マルギッテを含むその場にいた猟犬部隊全員、ラミーによって叩き伏せられて地べたに倒れていた。

 『フン、本当に時間の無駄だったな』

 百代を追う為、猟犬部隊たちを背にしたところで、マルギッテから続々とよろめきながらも全員が立ち上がる。

 「ま・・・待ち・・・な・・・・・・さ、い」
 『・・・・・・ヤレヤレ、大人しく寝ていた方がこれ以上痛い目に遭わずに済むと言うのに・・・・物好きな犬どもだ』
 「ぁ」

 全身のダメージによろめきながらも何とかして立ち上がったと言うのに、一瞬にして再び全員が一斉に今度こそ意識を刈り取られるのだった。

 『さて・・・・・・・・・・・・ほぉ!随分と遠くに居るな。未だ全快には至っていないと言うのに、頑張るモノだ。だが――――』

 改めて百代が向かった方向を見た瞬間、ラミーは明らかに遠くまで離れていた百代の真横まで瞬時に捉えた。

 『悲しいかな、まだまだ射程範囲内なんだな』
 「なっ!?」
 『驚く暇があるのなら防御態勢を取れ』
 「づっ、かはっ!!」

 百代はラミーの言葉で我に返って、抱きかかえる2人を庇う様な態勢をとり、蹴りを背中で受け取った。その衝撃で明後日の方向へ蹴り飛ばされた百代は、2人を庇い続けながら何とかたどり着いて最初に見たのは、何かが自分の顔目掛けて振り下ろされる光景だった。


 -Interlude-


 「キリが無いな」
 「まったくだ、この有象無象ども」

 士郎達が無限に湧き上がるオートマタの軍勢に手を焼き始めた頃、エジソンの近くに何かが凄い勢いで降って来た。

 「む、むぅ?――――とっ!?」
 「どうした―?――――てっ!」
 「――――――百代!!?」

 少し離れた地点から見ると、それは百代だった。
 しかもよくよく見れば、彼女の腕の中にフィーネとリザの2人が重なる様に抱きかかえられていた。
 正直理解が追いつかないが、無情にも彼女たちの目の前に居るオートマタが高速連撃を可能とする腕を振り降ろそうとする。

 「エジソンっ!!」
 「言われるまでも無い!」

 エジソンは全身に雷を発生させたまま軍勢に突進し、彼女たちを襲おうとしたオートマタごとまとめて吹き飛ばす。

 「っ!?一体何が・・・・・・てっ、え・・・?」
 「危ない所だったが、無事かね百代君?」

 いきなり周囲のごみごみとした何かが激しい嵐のような衝撃で消えたかと思えば、一番最初に視界に入って来たのは昔のアメコミに出て来そうなスーパーマンの格好にホワイトライオンの顔をした変人が自分に向けて手を差し出してくる現実(姿)だった。

 「く、来るなっ!?」
 「Gohuu!!?」

 身の危険を感じた百代は、反射的にエジソンの腹目掛けて殴った。

 「Goha、Goho――――な、何をするのかね!?幾ら驚いたから(周囲が敵だらけだったという意味で)と言って、して良い事と悪い事があるぞ!百代君っ!!」
 「何がだこのクリーチャーめ――――だ、だが、その私の呼び方、トーマスさんに似てるな・・・?」
 「本人なんだよ、百代」

 なかなか会話が進まない2人の間を仲介すべく、士郎とシーマが軍勢を裂くように一直線で来た。

 「士郎!?それになんだその格好は!それにシーマも、如何して鉤爪のグローブをはめてるんだ?それに、このクリーチャーがトーマスさん本人って如何いう事だ!?」

 あまりの事態に困惑し、流石の百代も士郎に対して矢継ぎ早に質問を口にする。
 しかし疑問に答えている暇すらも、現状は許しくれない様だった。

 『武神の称号を仮にも受け継いでいるのだ。この程度の状況、瞬時に把握しろ』
 「っ!?お前・・・!」

 士郎達からそれなりに離れた地点に、軍神ラミーが到着するなり百代を罵倒する。

 「軍神!?――――如何してアンタが此処に居る?」
 『・・・・・・・・・・・・・・・答える義理は無いな』

 士郎の質問された軍神は、何故か百代の時とは違い、見下すような圧力が声音から消して淡々と言うだけに留める。

 「何が応える義理は、だ!お前が私を此処に蹴り飛ばしたんだろ!?」
 「・・・・・・・・・?」
 (と言う事は意図して百代にこの現状を見せつけ様としたのか?)

 士郎が探る様に軍神を見ると、何故か居心地悪そうに身じろぎする。

 『・・・・・・故意では無い。少々蹴る方向を間違えただけだ』
 「どちらにしろ私を蹴り飛ばしたことには変わりないだろうがっ!」
 『ああ、そこは否定する気は無い。お前を見てると痛めつけたくなるのでな』
 「っ!それにどうして此処に居る!マルギッテさん達は如何したんだ!」
 『勿論全員蹴散らしたからに決まっているだろ。ああ、心配せずとも必要以上に痛めつけてはいない。その価値も無いんでな。お前やお前の抱えている娘たちと違ってな』
 「お前っ!」

 軍神の言葉に百代は殺気立つ。
 そして今度は如何してマルギッテがこの話の中に出てるのかと、士郎とシーマの2人は疑問が尽きなかった。
 しかし矢張り今はその疑問にも答え合わせをしている暇はない。

 「内容はよく解らんがアレは敵なのだろう?ならば葬るだけの事!」
 「シーマ!?」

 士郎の制止も聞かず、シーマは軍神に向けて突っ込んで行く。

 「フッ、せい、ヤッ!!」
 『ク、ククク・・・!』

 シーマは軍神に果敢で切り込んでいくが、ラミーは全てを躱しいなし手甲で防ぎ、捌いて行く。
 勿論ラミーも防戦一方等には成りもせず、百代すら捉える事の出来ない神速の正拳の連打と凶悪な蹴りを混ぜながらシーマを攻める。
 それをシーマも捌ききり、隙があれば即座に攻撃に転ずる。
 剣と手甲がぶつかり合う度に火花が散り、夜闇に一瞬だけ光が生まれる。
 攻守の入れ替わりが激しい2人の戦闘の苛烈さたるや、衝撃だけで周囲のオートマタの軍勢がどれもこれもスクラップへと変貌していく。

 「先ほどから何が可笑しい!」
 『可笑しいとも!私の標的はあくまであの娘どもだが、ここ数年此処まで私に食い下がれる奴は現れなかったのでな。もっと楽しませろ剣の英霊!!』
 「っ!」
 『ほぉ!隙をついたつもりだったが、何故動揺しないんだ?』

 ラミーはシーマをサーヴァントである事を言い当てたにも拘らず、それに対して動揺せずに自分の腰の入った一撃を難なく躱した事に疑問を口にする。

 「お前の事は事前に聞いていたからに決まっている。この悪党めっ!」
 『なるほど。既に私の事は把握済みだったか。で、私を悪と断じると言う事は、正義を気取っているのか?亡霊風情が』
 「余が何者であろうが関係ない。ただ貴様の言葉も行動も全てが許せないだけだっ!」
 『クク、義憤から来る善性と言うわけだ。穢れも知らないその様な善性とは正しくヒーローだ。そして奇しくも、私にとってはそれだけで標的に加えるに値するッッ!!』

 全身を纏っていたオーラが紫電に成り代わる。
 紫電を全身に纏わせたラミーは、先程と同じくシーマを食い殺すかのような猛攻を浴びせる。
 シーマは紫電の付加効果に警戒して、先程の様に大胆に懐に飛び込む動きを否応なく制限される形となり、防戦一方になる。

 「クッ!」
 『如何した正義の味方(ヒーロー)?!(ヴィラン)が許せないんだろ?そんな憎っくき相手にやられぱなしで良いのか?!最優のセイバーの名が泣くぞっ!!』

 傍目から見ても圧され始める戦況であるが、悔しくも士郎とエジソンは助太刀することが叶わない状況だった。

 「むぅ!こやつ等め、我らとシーマとを分断する気だぞ!」
 「ああ、しかも俺達が此処を離れられないのを分かっているかのような動きだ。2人ともしっかり気を持て!絶対に守り切る!」
 「「は、はいっ!」」

 今の声はフィーネとリザだ。
 2人は周囲の戦闘音で目を覚ましてしまったのだ。
 しかし意外と落ち着く2人に驚くエジソンだが、本来の2人は軍人である事もあるのだろうと納得している。
 だが、だからと言って庇護対象である事には変わらない事実であり、2人+αを守るような陣形でオートマタを蹴散らすしかないのだ。
 そして+αと言うのが――――。

 「無理せずに下がってろ」
 「クッ・・・ソッ」

 百代だった。
 未だ全快状態でもない体の上に、フィーネとリザを庇う為に負ったラミーから受けたダメージにより立ち上がるのも苦しそうにしているのだ。
 しかしお荷物状態など、百代には我慢できない屈辱だった。

 「士郎!」
 「なんだ!今手一杯なんだが!」
 「私を回復させる手は無いのか!今だけでもいいんだ!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎としては勿論ある。
 己の半身とも言っていい、あの“鞘”の贋作を投影すればいいのだから。
 しかし現状ではそれは取れない。
 今の士郎の魔術回路の本数は、2人目の魔術師の師である遠坂凛すらも凌ぐほどなので、魔力量が問題と言う事では無い。
 では何か?
 今更神秘の秘匿などと言う問題を引き出す訳では無い。
 単純に文字通り手いっぱいで、百代の体に向けて投影している暇が無いのだ。
 だが他に手が無い訳では無い。いや、ある。
 だがそれは――――。

 「有るのか無いのか、どっちなんだ!」
 「・・・・・・ある。けど」
 「じゃあ、やれ!」
 「だが駄目だ」
 「何がだ!」
 「お前は女の子なんだから、もう少し自分の身を大切にしろ」
 「何の話だ!まったく脈絡を感じないぞ!」

 ぎゃあぎゃあと言い合う2人の会話は一向に進展を見せない。

 「ライオ・・・・・・トーマスさん?!士郎を説得してください!」

 今だ納得できていないが、ライオン顔の変人をトーマスだと無理矢理納得させた百代は、エジソンを頼る。

 「ふむ。説得できるのなら、しても構わぬが・・・」

 チラッと士郎を見るエジソン。
 勿論士郎は抵抗の意を見せる。
 その抵抗を百代は反対する。

 「私の体の事です!」
 「ふぅむ。では――――」
 「待っ」
 「百代君と士郎が口付けすればいいのだよ」
 「「「・・・・・・・・・・・・・・・は?」」」
 「エジソンっ!」
 「詳細は省くが、士郎の口から力を貰い、それを百代君自身が回復に使えばいいのだよ」
 「あーもう!何で言うんだよっ!」

 かなり省いた説明だが、士郎はそれに怒鳴る。
 我に返った3人の内の記憶喪失組は、困惑しつつも複雑な面持ちで百代を見る。
 そして当の百代は――――。

 「士郎」
 「だから言ったろ。こんな事出来るワふぐむっ!!?」
 「ン、チュル、ンン」

 百代から士郎の唇を奪う光景に、エジソンはおおっ!と唸り、フィーネとリザは心底羨ましそうに頬を赤らめ、少し離れた地点からそれを視界に入れたラミーは嘗てないほどに殺意を漲らせ、そして手が止まったラミーのおかげでそれを見たシーマはやっとか・・・と言う感想を抱いていた。
 当の本人たちはそんな周囲の視線を気にせずに一瞬であるにも拘らず、まるで永遠とも言える刹那を共有していた。
 いや、そんな事を感じているのは百代だけであり、士郎としてはこうなっては仕方がないと腹を括りながら、簡易パスを再びつないで魔力を送り込む作業に没頭する。
 そうしないと嫌でも考えてしまうのだ。一度目と同じく、百代の唇の感傷が本当に柔らかい事――――てっ!舌なんて絡めて来るな!!」

 反射的に百代を引き剥がし、思わず頬を赤らめて抗議する士郎だが、相手である百代の方が顔を真っ赤にしていた。

 「私だって恥ずかしいんだ!なのに何時までもああしていれば分からないから、もしかしたらディープキスをした方が良いと思ったん、だっ!!」

 痴話げんか状態に突入すると思いきや、士郎目掛けて襲うとしていた軍勢に強烈な蹴りを入れてまとめて吹き飛ばす。

 「危ないっ!」
 『チッ!』

 しかし、いつの間にかに百代に迫っていたラミーを、ほぼ同時に来たシーマが剣で両者の間を遮り邪魔をする。
 それに対して追撃せずに距離を開けるラミーだが、今この軍神が睨んでいるのは先程まで戦っていたシーマでは無く、百代に対してだった。

 「助かったぞシーマ」
 「油断するなモモヨ!」
 「判ってる。けど私に考えがあるんだ」
 「考え?」
 「なにも聞かずについて来てくれ!」
 「良いだろう。任せようぞ!」
 『フン、加勢が有れば勝てるとでも?見縊るなボロ雑巾がっ!!』

 一時的に復活した百代とシーマが、本気を出した軍神へ向かって行く。
 
  
 

 
後書き
  
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