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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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贖罪-エクスピエイション-part4/学院の危機

その日の真夜中、銃士隊の隊員たちが魔法学院の周囲に不審者がいないか、夜の警備にあたっていた。
「そちらに異常はなかったか?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
二人の銃士隊隊員が、互いに異常がなかったことを報告し合う。
だがその直後、彼女たちが危惧していた異常か降りかかる。
「っ!」
殺気を感じて、隊員の一人が銃を、それを見てもう一人も剣を抜く。彼女たちは人知れず、メイジを含めた犯罪者を相手にしてきた。怪獣や星人に敵わなくとも、それでもそこいらの戦士よりも訓練されている。今自分達に、何者かが明確な殺意を向けているのを瞬時に察するくらいに。
だが、その警戒は無断に等しい形で終わる。黒い炎が、彼女たちを襲う。その邪悪な炎は彼女たちを焼き付くし、悲鳴をあげる間も与えずに消し去った。
入れ替わるように、彼女たちが立っていた芝生を……いや、芝生もろとも焼かれた地面を踏むメンヌヴィルが現れる。
「闇の力が高まっている。だがお陰で『白炎』ではなくなってしまったな」
二つ名はメイジの魔法の特徴を現す。だがメンヌヴィルの炎は、いつしか真っ黒に染まったものに変化していた。これも彼の中にある闇の力が進化した影響だろう。
「だがまあ、どうでもいい。新しいおもちゃが俺のもとに来てくれるように、地盤を固めておくとしよう」
ダイナのせいでネクサスには逃げられてしまったが、新たな獲物…このハルケギニアを守護している光の救世主である。そいつを焼き尽くして漂う死臭はきっと甘美なものだろう。
ニマッと笑ったメンヌヴィルの周囲に、十数名ほどの男たちがそろう。全員目に生気が無かった。
闇の巨人たちの眷属…ビーストヒューマン。命を奪われ、ただの血肉を貪るだけの肉人形。彼らはメンヌヴィルの意思のまま、行動を開始した。


同じ頃、キュルケは自室をノックする音で目を覚ました。寝ぼけ眼と扇情的なネグリジェ姿でタバサを迎える。夜中なのにタバサは制服に着替えていた。
「なぁにタバサ?まだ日も昇ってないのに」
「……外が変」
タバサがそう言われ、キュルケは耳を済ませた。外から何か騒がしい音が聞こえる。そして、悲鳴も。
「みたいね」
キュルケはすぐに制服姿に着替え、杖を取ってタバサと共に外に出た。


その後、学院内の生徒・教師両方の寮に、メンヌヴィルが率いるビーストヒューマンの群れが押し寄せる。立ち向かおうとした者もいたが、杖がなくては無力なメイジが、人間であることを奪われると引き換えに、魔法がなくても人間を越えた存在となったビーストヒューマンに敵うはずもなかった。それに真夜中の不意打ちという状況、突然の襲撃者に対応できず次々と捕縛されていった。


奴らの魔の手は、彼らにも押し寄せる。
コルベールの研究室。そこには学院の地下で眠りについていたところを保護されたリシュと、その面倒を見ることになったシュウの二人がいた。
シュウもまた、外が騒がしいことに気づき、表情が少し険しくなる。肌で感じ取れる。今この魔法学院に……
「また奴が……」
あの恐ろしく忌まわしい敵、ダークメフィストがいる!まさか、俺を追ってここまで来たのか!
幻影とはいえ、愛梨をあんな風に消した、決して許せない男。
シュウはギリッと歯軋りする。奴はなんにせよ倒さなければならない敵だが、本当に奴が追ってきたとしたら、また誰かを自分の戦いに巻き込んだことになる。
自分が次第に疫病神らしくなりつつあることにも、彼は自分に対して不快感を強く覚えた。
やはり、コルベールから装備品を返してもらわなくては。シュウは急いで外に出ようとする。が、一度彼は足を止める。
リシュをこのまま置いたままで大丈夫か、それが気がかりになった。連れていくには危険だ。奴が幻影の愛梨にしてみせたような虐殺行為をリシュにもやらかしかねない。
「…」
…いや、今はそれどころじゃない。こうしている間にも…。耳を済ませると、学院の各地の寮から同時に聞こえてくる悲鳴。ビーストヒューマンを使って人を襲っているのだ。早く行かなければ。だが今の自分は武装していない。
シュウは、自分の装備を取り上げたコルベールのいる教員用の寮に向かうことにした。


アニエスの元にもビーストヒューマンたちが押し寄せていた。
すでに時間帯は深夜。襲撃時の時点では、銃士隊の面々も、見回りの任についている者以外は就寝している。
しかし、この騒ぎを聞いたことで、アニエスをはじめとして銃士隊の隊員たちは目を覚ました。襲撃してきたビーストヒューマンたちは、寝ている彼女たちの隙を突こうとしたが、逆に彼女の剣で頭を叩き割られ、今度こそ倒れていく。
「アニエス様、ご無事ですか!?」
「大丈夫だ。お前たちは?」
襲撃してきたビーストヒューマンが二度と動くことがなくなったのを確認し、アニエスは頷く。さすがに頭を叩き割られては奴らも二度と立ち上がれないようだ。
「私たちの方にも敵が現れましたが、片付けました」
「しかし、予想以上にしぶとい奴らでした。陛下がラグドリアン湖へ誘拐されてしまったときに現れた、死人と化した魔法衛士隊の連中のときと似ていますね」
アニエスの元に駆けつけた隊員の中には、誘拐されたアンリエッタの救出任務に参加した者も混ざっていた。それだけに、今回の襲撃者が以前と同一犯ではないのかという疑惑が過ぎる。それが事実だとしたら、恐ろしいことだ。
「全員急いで武装しろ!おそらく敵は学院内の者を襲うつもりだ!すぐに救助に向かえ!」
「はっ!」
アニエスはすぐに部下たちに命令を下した。
しかし、すでに手遅れだった。銃士隊は少なくともこの時点で生存していた同部隊の仲間や一部の平民たちを助けることはできたものの、生徒やオスマンを含めた教員たちが捕縛されてしまったのだった。


捕まってしまった人達は、全員食堂に集められていた。生徒と教員だけじゃない。中には学院勤務の平民も多数混ざっている。メンヌヴィルが使役するビーストヒューマンよって、人質は食堂内のテーブルを挟んだ二箇所に別れて配備された。人質の数は総計で100名を超えていた。全員後ろ手に縛られ、そしてビーストヒューマンたちの監視の目もあって逃げることが許されない。
貴族も平民も男も女も年齢も関係なく、自分たちに降りかかるかもしれない死に恐怖におののいた。
「う、うぅ…ぐ…」
それに耐え切れずに、泣き出しそうになる者もいる。女子生徒の一人…かつてギーシュが二股をかけた相手であるケティだった。その泣き声が耳障りに感じ、メンヌヴィルは近づいて彼女のあごを掴むと、凶悪な眼差しを向けて、ただ一言言う。
「消し炭になりたいのか?」
ケティは一瞬で泣き止んで必死に頷いた。泣きたくても泣けない。この男の言葉が脅しではないと瞬時に感じ取れたのだ。
そんな彼女をはじめとした人質たちを見て、オスマンが口を挟んできた。
「あー君たち、女性に乱暴はするものではない。君たちはレコンキスタの手のもので人質がほしいのじゃろう?人質はわしだけにして、他の者たちは開放してやってくれんかの?」
「…自分の立場を理解していないほどぼけたか?じじい」
メンヌヴィルはケティの前から立ち上がると、オスマンを見下ろす。
「なぜ俺がここに来たか、その理由がわかるか?」
「女王陛下を動かすための交渉のカード…ということかの?」
「…くくく、残念だが不正解だ」
「なんじゃと?」
「考えても見ろ。俺はあくまで傭兵だが、雇い主が…アルビオンを支配しているレコンキスタの連中がなぜ、この魔法学院などに目を向けたのか。一国の女王を名乗る小娘ごとき、圧倒的な力を持つ怪獣相手に何ができるというのだ?」
言われて見て、オスマンはメンヌヴィルの言っている言葉が正しいと思った。彼らはレコンキスタの傘下にいる身。レコンキスタはこれまで怪獣という異形の存在やハルケギニアの文明では及びも着かないオーバーテクノロジーを使ってトリステインを襲ってきた。あれほどの力を持つのなら、女王に交渉するなど必要ない。敵の卑劣さを考えれば、一気に殲滅して降伏を呼びかけるだけでも、十分勝てるだろう。…『彼ら』さえいなければ。
「ッ!そうか、そういうことかの…」
頭に浮かんだ『彼ら』のことを思い出して、オスマンは確信した。
「ど、どういうことですの、オールド・オスマン」
まだ理由がわからない様子の女子教員、シュヴルーズが詳細を尋ねる。
「ミセス・シュヴルーズ。彼の雇い主がレコンキスタならば、ここに現れた彼らの目的は…」
「その様子だと正解を導き出したようだな」
オスマンがそこまで言いかけたところで、メンヌヴィルは軽く笑った。
「君たちの目的は………ウルトラマン、そうじゃろ?」
「そうだ、俺はウルトラマンと戦うためにここに遣わされたのだ。
お前たち人間を守るために、己の身を削ってでも正義を執行する光の勇者、ウルトラマン。そんな英雄様が、人質にされたお前たちを無視するはずがないからな。
だが、ウルトラマンの生き死にまでは問わない。生きていても、奴を捕まえて連れてくるだけでも、依頼主は納得してくれるそうだ」
それを聞いて、食堂内に捕まった人質全員に衝撃が走った。ウルトラマンを殺すために?正気なのか?そんなざわつきが起きたが、静かにしろ!とメンヌヴィルが再び怒鳴ったことで全員が黙った。
「ウルトラマンの強さは君も知っているはずじゃ。悪いことはいわん。すぐにこのような真似はやめた方が君の身のためではないかね?」
人間であるはずのなに、ウルトラマンを殺すために現れたというメンヌヴィルに忠告めいた言葉を告げる。いくら人質をとっても、ウルトラマンのことだ。奇跡に近い行動を起こして人質を救えるのではないのか?こんなことをしている時点でウルトラマンだけでなく、彼自身の首だって絞まるはずだ。そんな憶測にも予想が過ぎる。
そうだ、きっとウルトラマンが助けてくれる。そんな期待が、闇に閉ざされていく生徒たちの心に希望の光を差し込ませた。
が、メンヌヴィルは鉄製のメイスでオスマンの顔を上げさせる。
「人質の分際で俺を気遣うとはずいぶん余裕があるな。だが、安心しろ。俺には奴らを殺せるだけの力を授かっているのだからな。以前は一人、依頼主の命令で殺すことはかなわなかったが敗北させ捕縛することはできたぞ」
メンヌヴィルはニヤッと邪悪な笑みを見せながら、耳を疑わせる言葉をオスマンたちに言った。当然、一瞬嘘だと思った。しかしメンヌヴィルがふざけて嘘を言っているようにも見えなかった。
「あぁ、楽しみだな。強敵を今度こそ焼けるのか。強敵と戦い、焼き殺す。戦場の醍醐味というものだ…昔の俺は弱者でも悲鳴を上げさせながら焼くことさえできれば満足だったのだが、今じゃそれだけじゃ足りぬ。やはり焼き応えのある奴でなければ気がすまない。
焼け焦げたウルトラマンの死体の臭い…早く嗅ぎたいものだな」
あまりにも狂気に満ちたメンヌヴィルに、生徒たちも絶句する。この男は、本気でウルトラマンを殺すつもりなのだ。しかもそれだけの絶対的自信と力がある。
「その前に、前菜としてこいつらのうちの誰かを焼いたら、さらにウルトラマンは戦意を高揚させるかもな。さらに刺激のある戦いができる。その後で奴を焼けば…くくくく」
陶酔するメンヌヴィルのあまりの狂気に、特にメンタルの弱い生徒が何人か気絶したほどだ。人質の一人や二人、その気になればすぐに焼くつもりなのだ。少なくとも一人残っているだけでも、十分ウルトラマンに対する人質としての効果があることをいいことに卑劣さを露骨にしている。
なんということだろうとオスマンは思うしかなかった。こんなにも人殺しを楽しむ人間がいるとは。それだけじゃない。自分たちはただウルトラマンに助けを請うばかり。恩を返すこともできず、中にはそれをいいことに私服を肥やす貴族もいる。そればかりかこうして彼らの足を引っ張るようなことになっている。
つくづく自分たち貴族が、国の中で…ハルケギニア内では数多の平民たちの上に立っているというのに、こうして自分たちより強大な存在を前にすると、すぐに縮こまるしかない…無力な己を呪うばかりだった。
人質の中には平民も混ざっている。そしてその中には…不運にもシエスタもまた混ざっていた。生徒の一人がメンヌヴィルの脅迫によって無理やり泣き止まされたことで、彼女も流れかけた涙が引っ込んだほどだった。
(サイトさん…早く…助けて…)
あの時と同じように…。以前モット伯爵の屋敷で危ないところを救われたときの事を思い出して、シエスタはここにはいないサイトに助けを必死に求めていた。



シュウは、捕まってしまった人達の安否を、食堂の窓から、中にいるメンヌヴィルたちに見つからないように確認した。
(やはり奴が来ていたのか…)
中にいるメンヌヴィルが、テーブルの上に足を乗せた状態で待っている姿を見て、シュウはうんざりした気持ちと戦慄を覚える。
しかも奴らの目的も聞こえた。食堂に捕まっている人達は、ウルトラマンを…自分やサイトをおびき出すための人質なのだ。
すると、そんな彼の背後から気配がした。警戒のため、とっさに振り向いてその姿を確認する。やってきたのはコルベールだった。
「おぉ、クロサキ君。無事だったかね」
「コルベール、先生…あなたは無事だったのか?」
教員用の寮に泊まると聞いていたのだが、そんな彼がここで無事だとは思わなかった。
「せめて研究室に置いていた資料を、時間つぶし用に持っていこうと思っていたのだが、それと同時に賊が入り込んでしまったようだ」
妙な偶然が重なったことで助かったらしい。運が良い人だ、と思った。
「リシュ君はどうしているんだね?」
「あいつなら研究室に隠れているように言っておいた」
「そうか…」
さすがに危険な場所まで幼い子供を着いてこさせなかったシュウの判断に、コルベールはほっとした。
「お前たちも無事だったのか」
そんな彼らの元に、アニエスが、そしてキュルケとタバサの三人が現れる。
「あら、そこの素敵な殿方はともかく、ミスタ・コルベール…あなたも捕まらなかったんですの?」
軽蔑しきった様子のキュルケの言葉に、コルベールは特に動揺せずに首を横に振った。
「たまたまさ。しかしまずいことになったな」
「呑気な言い方をする。貴様が大事にしている生徒が人質にされているのだぞ。それだけじゃない。学院勤務の平民たちも同様だ」
アニエスからもきつく言われ、コルベールは中の様子を覗き込むと、その顔が蒼白になる。
「奴の狙いは…ウルトラマン、か」
「ウルトラマンが狙い?」
さきほどメンヌヴィルがオスマンたちに告げていた、学院襲撃の理由をシュウが口にすると、それについてタバサがどういうことかと尋ねてきた。
「奴は言っていた。ウルトラマンを殺すことが、ここに派遣された理由だと。食堂の連中は、ウルトラマンをおびき出すための餌で人質なんだ」
「卑劣な奴らだ」
内部にいるメンヌヴィルに対して怒りを覚えるアニエス。
「でも、人間なのにウルトラマンと戦うつもり?いくら人質がいるからって、ちょっと危険じゃないかしら?」
キュルケも人質を取っているメンヌヴィルがウルトラマンを狙っていると聞いて、それは果たして有効な手なのかと疑う。確かに自分がもしウルトラマンだとしたら、人質をたてにされては迂闊に手を出せないだろうが、彼らの持つ特殊な技で人質を救い出すことだって考えられる。
「もしかしてあの男は…人間じゃない?」
タバサがシュウに、メンヌヴィルに対して一つの予想を口にする、彼は頷く。
「ラグドリアン湖で女王が誘拐されたのを覚えてるか?あのときの黒い巨人が、奴だ」
「なんだと…!」
アニエスたちは驚く。黒い巨人…ダークメフィスト。その正体があのメンヌヴィルという男。そうなれば、あの男が今行っている非道な行いも頷ける。しかし一番意外なことに、コルベールが驚いていた。
「どうしてそこでミスタが一番驚くわけ?あなた、あの男と会ったことがあるのかしら?」
キュルケがコルベールのリアクションについ戸惑いを覚えたが、まぁ、臆病者だからあの男の脅威に慄いただけだろうと考えた。
「しかし、ウルトラマンがいつ来るかどうかなどわからない。まして、彼らに頼ってばかりでは、我々銃士隊の名が泣く。なんとして人質を救出せねば」
アニエスの言うとおり、人間たちから見ればウルトラマンは突拍子もなく現れる存在。常に当てにするには無理がある。
「確かに…あの男の目を見ればわかる。今すぐに、誰でもいいから焼き殺したいとうずうずしている目をしている」
シュウはメンヌヴィルの目を、隠れながら窓から覗き込む。奴の体が少し震えている。恐怖ではない、興奮しているのだ。甘美なるディナータイムを待ち望んでいるあまりに。
「しかも人質を見張っているのも人間じゃないな」
「えぇ?どう見ても人間じゃない」
さらにもう一つ、危惧すべき事実としてシュウが明かしてきたことに、キュルケは耳を疑う。
「あいつらはビーストヒューマンだ。奴らを見てみろ」
シュウから言われたとおり、コルベール、アニエス、タバサ、キュルケは中をのぞき見る。メンヌヴィル以外の、人質を監視している兵たち…一見なんてことない、メンヌヴィルと同じ格好をした兵士の集団のように見える。
「…!」
コルベールが先に気づいた。あの兵士たちの首筋、腕、さらには顔…体のいずれかに、単にやけどを負ったものよりも酷く醜い肌が露出されていた。キュルケはそれを見て口を押さえる。
「なにあれ…気持ち悪いわ」
「ビーストの細胞が、あのぶよぶよした肌の部分に移植されているんだ。適当に集めたメイジの死体を事前に集めていたんだろうな」
「よく知っているな」
アニエスは、シュウが妙に知識を知っていることについて、どこか疑惑を混じらせたような言い方をする。しかしこいつは自分たちからすれば素性がまだはっきりしていないというのに、陛下からの信頼も置かれている男。疑惑だけで剣を振るう気はなかった。
「なんにせよ、人質にされた皆を助けないといけないってことね」
キュルケが杖を取り出して戦闘体制に入ろうとする。タバサも無言のまま杖を構える。
「もし奴が黒い巨人だとしても、変身する直前には隙がある。そこを突けば、いくら黒い巨人になれるあの男でもひとたまりも無いはずだ」
アニエスも、いつでも撃てるように、銃を構える。まだメンヌヴィルは自分たちという、人質から漏れた者がいることに気付いていない。そこが狙い目だ。
「よしたまえ。クロサキ君の言うことが事実なら、迂闊に手を出せば自滅する。ここは援軍を頼んだ方がいい」
「人質を取られている以上、何人兵がいようと同じだ」
手を出すべきでないというコルベールに、アニエスは言い返した。
「その通りですわ。何もしないで縮こまるよりはマシよ、先生」
軽蔑を隠さず、キュルケもアニエスに同意する。シュウもまた、彼女たちに続いて賛成した。
「先生、ここは俺も彼女たちに賛成だ。あの男は何をするかわからない。急いだ方がいい」
「だが…君たちの命が危ない。相手はプロだ。それも…」
ウルトラマンや王軍をこれまで苦しめてきた闇の巨人の変身者なのだ。返り討ちにされても全く不思議じゃない。
「危険は承知。でもやらないといけない」
「ミス・タバサ…君まで」
タバサからも賛成の声が出てきて、さすがにひるみ始めたコルベール。すかさず、シュウがコルベールに向けて言い放った。
「先生、あなたも本当はわかっているはずだ。このままではもっと最悪の事態があの男の手でもたらされてしまうんだぞ。あなたの大切な生徒たちが灰にされるのを黙って見ているつもりか?」
「そんなに死ぬのが怖いなら、ここで縮こまってなさいな。あたしたちだけで…」
キュルケには、これまでタバサと共に修羅場を潜り抜けた自信がある。今回だってきっとうまくいけるはずだと思っていた。故にどこまでも臆してるように見えるコルベールに向けて軽蔑を強めるが、その直後だった。逆に自分がシュウから睨まれた。
「あんたは少し黙っていろ。俺はこの男と話をしているんだ」
「ちょ…!」
まさか自分まできつく割れると思わなかったキュルケは面食らったが、シュウは無視した。
「先生、死は確かに恐ろしい。この世でそれ以上に恐ろしいものなんて思いつかないかもしれない。別にあんたが怖がることを恥だとは思わないし、あんたが俺たち全員の身を案じているのも理解した。
だが…ここで退いたら、あんたはきっと一生後悔するぞ。人質にされた生徒を救えずにのうのうと生き延びのびたことを」
「…!」
シュウは、死を恐ろしく思っているコルベールに対して、苛立ちはあっても軽蔑まではしなかった。だが、少なくとも…かつての自分のように後悔してほしくなかった。
彼からここまで強く言われ、コルベールは息を詰まらせた。そしてついに自分が折れるしかないことを悟った。
「…わかった。なら私も力を貸そう」
「いいのか?」
「ここで君たちを説得しても時間の無駄だからね」
「何か案があるというのか?」
アニエスが一応話を聞いておいてやる、そんな感じの姿勢でコルベールの言葉に耳を傾けた。
「ああ、だが時間が無い。アニエス君、中にいる賊たちを説得してくれ」
「説得ですって?まさかそれが案なの?」
キュルケが、コルベールの提案がそんなものだったのかと思ってしまうが、コルベールが首を横に振った。
「いや、あくまで時間稼ぎだ。説明している暇は無い。とにかく時間を稼いでくれ」
「…いいだろう」
「ありがとう。クロサキ君、着いて来てくれ。一度私の研究室に向かおう。そこに作戦に必要な道具がある」
「了解」
コルベールはシュウを連れて、一度二人で彼の研究室へ急いだ。
「本当に大丈夫かしら?」
「…たぶん、大丈夫」
まさか逃げる算段でもするつもりではないのだろうかとも、キュルケは疑惑する。タバサは大丈夫とは言うが、それでも疑心がぬぐえなかった。
アニエスはすぐに部下を集めた。少なくとも奴らが捕まえていない人間の中で存在に気づいているのは、銃士隊だけ。集めた部下たちには食堂を、窓のあたりに配備する形で包囲させ、中にいるメンヌヴィルたちに向けて説得を試みた。
「賊共、聞け!我々は女王陛下の銃士隊だ!我々は貴様らをすでに包囲している!人質を解放しろ!そうすれば命まではとらぬ!」

アニエスの声は、食堂内にいるメンヌヴィルや人質にされている人々の耳にも行き届いた。
「アニエス君…!いかん、逃げなさい!この男は…」
この男は…闇の巨人なのだぞと、外にいるアニエスに忠告しようとしたが、すかさずメンヌヴィルがオスマンを鉄製のメイスで殴った。
「ぐ…!!」
「オールド・オスマン!」
「学院長!!」
殴られたオスマンを見て、生徒や教員たちが騒ぐ。が、すぐにメンヌヴィルがメイスを、倒れたオスマンに向けた。
「少し黙っていろ。さもなくば大事な生徒を一人、消し炭にしてやる」
「ぐぬぅ…!!」
口から血反吐を吐きながら、オスマンは生徒の命をたてにされて押し黙るしかなかった。そしてオスマン以外の人質にされた人達も同じようにそうせざるを得なかった。
今度はメンヌヴィルが、外にいるアニエスたちに向けて言い放った。
「いいか、銃士隊とやら。貴様らこそ無駄な抵抗はよすんだな。俺の依頼主の要求は…ウルトラマンの命を差し出し、トリステインに完全敗北を認めさせることだ。
そうだな…特別に少し時間をくれてやる。ウルトラマンをここへ連れてくると誓え!特別に10分で決めろ。10分以内に返答がなければ、10分につき一人ずつ消し炭にする」
「……」
やはり予想したとおり、奴らの方が優位に立っている以上、こちらの要求を呑むはずが無かった。外から聞いていたアニエスは、コルベールの作戦とやらが決行できる機会が奴らの突き出した時間内までに来ることをただ願うしかできなかった。


その頃、シュウとコルベールは急いで彼の研究室に入り、人質救出作戦に必要な道具を探す。
「これか?先生」
すると、シュウがある木箱を見つけ、それをコルベールに見つける。
「ああ。その箱だ。すまない」
「一体この中には何がある?」
どうやらこの箱で正解だったらしいが、その中身についてシュウは説明を求めた。
「私の発明品の一つでね。この紙風船の中に粉を入れて火を浴びせると、照明弾としての効果を出してくれる」
コルベールは箱の中身を確認する。大量の白い粉末状の黄燐が入った袋と、折りたたまれている紙風船がぎっしり詰まっていた。
「スタングレネードということか」
「すたんぐれねえど?それは君の世界の言葉かな?」
「ああ。あなたが説明した通りの道具だ。昔の戦争で敵の視力を一時的に奪う」
「君たちの世界でも戦争はあったのか…」
彼らのやってきたという異世界、それに強い興味があった。コルベールは、サイトたちの世界でもかつて戦争があったことを聞いて心苦しく感じた」
「少なくとも人類同士の戦争はほぼ終結している。俺の知る限りは」
厳密にはサイトとシュウの世界は似て非なる世界観の地球なのだが、そのことを説明するとややこしく時間がかかるのでまだ説明していない。
「そうか、それは羨ましいかぎりだ。この世界はまだ人類同士の争いが絶えていない。貴族は平民を虐げ、平民は貴族に対して畏怖と不満を募らせる。そこに、サイト君たちの言っていた異星人やら怪獣やらが現れ、漬け込んで混乱を巻き起こす。私には辛い光景だ」
苦しげに語るコルベールは、再びシュウの顔を見やる。苦しそうな目だった。この世界の人間の醜さを何度も見続けてきたのだろう。
「クロサキ君。君たちの世界で怪獣や侵略者を相手に、皆が力を合わせ平和を掴んだのと同じように、本当の平和のために貴族や平民も関係なく手を取り合える未来をこの世界で作り上げたいと思っているのだ。魔法は、そのために必要な可能性だと確信している。誰でも魔法でしかできなかったことを、誰でも使える技術を生むことで…」
「先生…」
彼の抱く夢は、かつての自分と同じだった。プロメテの子としての英知で人々の未来のための機械を作ろうしていた頃の自分と今のコルベールは良く似ていた。
「君が何のために、無理をしてでも自分のなすべきことをなそうとしているのかはわからない。だが、私が求める未来を君にも見てほしいのだ。そのためにも、もう無茶はしないと約束してくれ。そして、君やサイト君、そしてハルナ君が生きていた…『地球』という世界へ、私も連れて行ってほしい」
「……」

『人は夢が続く限り前に進むことができる。どんな困難にも何度だって挑戦できる。だから…終わったなんて言っちゃ駄目だ!』

「夢…」
大切な少女を失ったあの時から、失っていたもの。それをなくしたことで自分の全てに絶望したシュウ。夢を力強く語るコルベールの姿が、次第に眩しく感じた。そんな姿が、アルビオンで最後に別れたときのアスカの言葉を思い出させた。
「うにゅ……」
すると、リシュが気の抜けた声を洩らしながら目を覚ました。
「む、リシュ君。起きてしまったか」
この騒ぎの物音や、コルベールと共に紙風船などが入った箱を探したときの物音できがついてしまったのだろう。シュウはベッドの毛布に身をくるめているリシュのもとに寄ると、彼女を軽く揺すって起こす。
「ふぁ…何?」
まだ寝ぼけている様子のリシュに、シュウは彼女の肩を掴み、神妙な顔つきで彼女に忠告した。
「いいかリシュ。今から俺たちは外の様子を見に行く。俺が戻るまで、決して出てくるな。物音も立てるなよ」
「シュウ兄、どこかに行っちゃうの…?」
意識がはっきりしてきたリシュは不安を露にした。
「今外は危ない状況にある。たぶん、悪い人達がここにやってきている。そいつらをどうにかしておかないといけない」
「やだ、怖いよ…リシュを置いていかないで…!」
(………)
自分の服をぎゅっと掴んできたリシュ。その姿と、彼女のそっくりな声が…最後に会ったときのティファニアとどこと無くかぶってしまった。
迷いを捨てて、選んだはずだった。自分のせいで死んでしまった数多くの人達のために夢を捨てるしかなくなり、ナイトレイダーとして、ウルトラマンとして戦い…そして散る。それがシュウの選んだ償いの道だった。なのに、リシュを見ていると今さらにもあの時に抱くはずだった罪悪感がようやく湧き上がる。
「大丈夫だリシュ君。ここで隠れていれば、怖い人達は来ない。彼のことも、私が見ておく。だからここで待っていなさい」
コルベールも、今はリシュに構っている場合ではないと考え、何とか優しく彼女を説得する。時間が惜しい。それだけ言い残して、シュウとコルベールはリシュを研究室に残し、走り出した。
「シュウ兄…!!」
引き止めるような彼女の声が、走り去っていくシュウの耳に鋭く突き刺さったような気がした。


「そろそろ7分経過する…」
まだなのかコルベール。アニエスは焦る気持ちを抑えるのに必死だった。これ以上待っていれば、今度こそ人質のうちの誰かが焼かれてしまう。
それはキュルケも同じだった。やはり逃げたのではないかと、疑惑が確信に近づいてる気がしてならなかった。
しかしその心配は無用だった。シュウとコルベールの二人が、ようやく戻ってきた。
「すまない、遅くなった」
「状況はどうなっている?」
「遅いですわ。もう後3分で人質の誰かを殺すつもりよ。あいつら」
「…まずいな。だが急げば間に合うかもしれん。みんな、すぐに手伝ってくれ」
キュルケからもう時間が残り少ないことを知り、コルベールはすぐに箱を開いた。
すぐに紙風船に、特殊な粉を入れる作業が始まった。とにかくたくさんの風船を、彼らは作った。


「…約束10分まで、あと30秒…」
ついにタイムリミットが近づいてきた。ここまで時間を経過させて、あのメンヌヴィルが約束どおりまだ人質を誰一人として手にかけなかったことに、シュウは意外に感じた。内部の様子を窓から確認しながら、作戦を共にする仲間たちに目を向ける。
「準備は?」
「いつでも飛ばせる」
タバサがシュウからの確認に静かに答える。すでにキュルケとコルベールと共に、レビテーションの魔法で、可能な限り作り上げた紙風船を浮かせている。
風の魔法でこれを飛ばし、中に全部入れたところでキュルケがそれを消し飛ばし、その光で敵の視力を一時奪う。そしてその間に人質を救出。その間監視のビーストヒューマンは銃士隊が相手にする。これが作戦の概要である。
だが、少しでも皆を助ける可能性がほしい。シュウはコルベールに向けて手を伸ばした。
「先生、そろそろあれを」
それが何を求めての言葉なのかすぐにわかった。取り上げた装備品を返してほしいという要求だ。最初に彼が目を覚ましたときはそれが露骨で、たまらず取り上げてしまったが…この状況下では確かな判断。しかし同時に今でもシュウが無理をすることが懸念された。
「…わかった。だがさっきも言ったが…」
「わかっている。少なくとも、今はそのつもりじゃない。まずは、人質を助ける」
コルベールはその言葉を聞き届け、シュウにエボルトラスター、ブラストショット、ディバイドシューター、パルスブレイガー…全ての装備品を返却した。
「いいかね、まずは人質の救出を優先するんだ」
「了解」


「時間だ」
ついに約束の時間が訪れ、メンヌヴィルは腰を上げた。それを見て人質たちは恐怖する。自分なのか、別の誰かなのか。なんにせよ死が間近に迫っていた。
「一人選ぶがいい。まずはそいつから燃やしてやる」
残酷な選択を強いてきたメンヌヴィル。地球では、高年齢向けの漫画に、生贄を差し出せば他の誰かが助かる、別の誰かを殺さないと自分が生き残れない…などといった残酷な物語を展開しているものがあるが、今がまさにそれだ。しかし、誰も名指しすることは無かった。別の誰かを指名することで、別の誰かから軽蔑と失望を買い、そして自分はそれに一生苦しむ。生きていても死ぬことと同じくらい辛い苦しみが待っているのだ。
結局誰も自分以外の誰かを指名しなかった。
「なら俺が適当に選ぶ。恨むなよ」
「わしにしなさい」
ならば自分が名乗りでるまで。オスマンが自分を指名したが、メンヌヴィルは承らない。
「あんたは人質の中でも価値がある。選ぶわけにいかん」
やはり自分を選ばないか。オスマンはひげの下で歯噛みする。もはや願うしかない。この状況を打破する救世主が現れるのを。
そのときだった、食堂の中に、数多の紙風船が漂いだした。
人質にされている生徒・教員・平民、彼らを監視するビーストヒューマン、そしてメンヌヴィルの顔が紙風船の方に向かった瞬間、食堂の外から見ていたキュルケが炎の魔法で、そしてシュウがディバイドシューターで紙風船を撃った。
瞬間、紙風船はスタングレネードとしてまばゆい光と爆音を立てた。
「きゃあああああ!!」
生徒たちの悲鳴がとどろく。直視したことで食堂にいた人達は視界を奪われた。シュウ・キュルケ・タバサ・そしてアニエスと彼女が率いる銃士隊はすぐに食堂に飛び込んだ。
「みんな早く!そのまままっすぐ走って!」
まずは人質を救出。縄を解除する魔法を使ってキュルケとタバサは皆の拘束を解く。その間、シュウと銃士隊は人質を捕らえているビーストヒューマンを奇襲する。
「ぐわあ!!」「ぬぐああ!!」
シュウのブラストショットの波動弾が、銃士隊のマスケット銃や剣が、奴らを撃ち抜き、切り捨てていく。そして敵がメンヌヴィルを除いて全滅した。
「残るは、あんただけね!覚悟なさい!」
今の奴は、闇の巨人に変身する余裕も無いはず、なら今こそが奴を倒すチャンスだ!
「!ミス・ツェルプストー!待ちなさい!」
コルベールが何かに気付いたようにキュルケに向けて叫ぶが、彼女は得意の魔法〈フレイムボール〉をメンヌヴィルに向けて放った。

…しかし、彼女の炎は、かき消された。

「え…!?」
とっさにメンヌヴィルが彼女に向け、さらに大きな炎を放ったのだ。
「キュルケ!」
思わずタバサがキュルケに叫んだ。
「!」
それにいち早く対処したのはシュウだった。すぐにキュルケの前に立ち、エボルトラスターを前に突き出すと、変身時の防御技〈サークルシールド〉と同質のバリアが展開され、メンヌヴィルの炎からキュルケを守った。
「あ、ありがとう…でも、今のは?」
「礼や疑問は後だ。それよりも、こいつをどうにかしなければ…」
そうだ、人質が解放され、敵がこいつ一人。こいつがどれほどの強敵なのかはすでに承知の上だが、こいつが自分たちを逃がしてくれるとは到底思えないのだ。
「無事か!」
アニエスとタバサが二人の元に駆けつける。
「ほぅ…俺の炎を防ぐか。しかし惜しかったな。光の弾を爆発させて視力を奪うまでは見事、といっておいてやる」
メンヌヴィルは嫌な微笑を向けてきた。そのとき、キュルケはメンヌヴィルの目を見て絶句した。
「…まさか…あなた…」
「そういうことか…」
シュウも気付いて納得した。メンヌヴィルの目には……光が無い。それに奴の右目は黒い仮面で、左目は真っ白に染まっている。
「俺は目を焼かれていてな。光がわからんのだよ」
そう、彼は両目とも失明していたのだ。真っ白に染まっている目も義眼なのである。
「だったら、なぜ…キュルケが見えていたの?」
さっきのキュルケに対する彼の攻撃は、敵を目視できる者と同じ動きだ。タバサもいつになくメンヌヴィルに向けて戦慄を感じ、冷や汗が流れ落ちたのを感じた。
「正確には見えていたのではない。俺は視力を失う前から炎を扱う内に敏感になっていてな。温度で誰がどこにいるのか、何を考えているのか…わかるのだよ。温度でお前たち一人ひとりの区別もわかる。そう、まさに獲物を狙う蛇のようにな。
まぁ、他にも…闇の力を得たことで相手の思考、そいつの見えているものも把握できるようにもなっているが、長らく肉眼を持たん俺としては、温度で相手を判別する方が慣れていてな」
キュルケは恐怖を覚えた。こんな人間がいるなんて思わなかった。自分の家族も優れたメイジではあるが、こいつは闇の力を…闇の巨人としての力を持っている。しかも闇の力を抜きにしても、火のメイジとしてこれまで出会ったことが無い恐ろしさをもっていたのだ。
こんな奴に、一体どうやって勝てばいいというのだ?
「お前、恐怖しているな?いいぞ、そういうやつの焼け焦げた匂いも、俺は無性にかぎたいんだ」
「ッ…」
「伏せろ!!」
死を悟ったキュルケが目を伏せた時、シュウが咄嗟に叫び、ブラストショットをメンヌヴィルの足元に向けて放った。それに反応し、メンヌヴィルはフライの魔法を自分にかけて跳躍する。それも人間の跳躍とは思えないほどの高さまで飛んでいた。波動弾は彼の立っていた場所の床を砕く。
宙を飛ぶメンヌヴィルに、シュウはすかさずブラストショットやディバイドシューターで応戦する。
それを宙に浮いたままよけ続けるメンヌヴィルは、ガラスを蹴破って外に出る。シュウはそれを追い始める。
「いかん、深入りしてはいけない!」
コルベールの声が聞こえたが無視した。こいつだけはここでしとめなければならないのだから。
校庭を飛ぶメンヌヴィルが、上空からシュウに向けて炎を飛ばす。シュウは即座にエボルトラスターを眼前に構えると、メンヌヴィルの炎はエボルトラスターから発せられたバリアによってかき消される。そして逆にシュウが弾丸を飛ばし、メンヌヴィルはそれを避けていく。それを繰り返した果てに、二人は校門の外まで移動し、そこで改めて互いに向き直った。
「くく…ははは…こいつは驚いたな!どこかで感じたことのある温度があると思っていたら…はははははは!!」
シュウと向き合って、突如メンヌヴィルは狂気に満ちた高笑いをあげだした。
「その温度…本当に貴様がここにいるとは思わなかったな、ウルトラマン!!
依頼主から聞いた名前だと…ネクサス、人間の名前は確か…クロサキ・シュウヘイ…ずいぶん変わった名前だから奇妙に印象に残ったぞ。
なるほど、通りで俺の炎を防ぐことができたわけだ。しかし、またこうして会えるとはな!アルビオンでダイナとかいう別のウルトラマンのおかげで貴様に逃げられて以来、どこに消えたのかと心配していたぞ!貴様ほどの戦士との戦いを楽しみ、そして焼け焦げた臭いを嗅げなくなるのではと、なぁ!!」
嫌悪感を露にした目つきで、シュウはメンヌヴィルを睨んだ。
「………教えろ。アスカを…どうした?」
沸きあがる激情のあまり、彼の声は震えかけていた。
「アスカ?あぁ、ダイナのことか。さぁな。今頃は依頼主の元に置いておいたよ。少なくとも生きてはいるだろう。…そう、『少なくとも』、な」
少なくとも…つまり、生きてはいるが…アスカの身に起こっているかもしれない残虐な事実を予想し、彼は怒りをさらに高めた。
「なんだ?女を焼かれただけじゃ怒り足りないか?いいぞ、炎のようにもっと怒れ!貴様も俺と同じ同類なのだ!」
「…一緒にするなと、前にも言ったはずだ」
さらに、モルヴァイアが作り出した幻影の愛梨のことも話に持ち上げてきたことで、幻影とはいえ彼女を目の前で焼き殺した彼に対する怒りが彼を支配しようとしていた。
そして、エボルトラスターをついに取り出した。そろそろ、こいつの口を永遠に黙らせなければならない。これ以上こいつのせいで、被害を拡大させるわけに行かないのだ。
「そうでなくてはな。さあ、もう一度心行くまで殺しあおうではないか!そしてお前の焼け焦げたにおいをかがせてくれ!!」
「貴様との縁もここで切り捨ててやる」
懐からダークエボルバーを取り出したメンヌヴィルは、それを左右に引き抜き、闇の波動に身を包んだ。シュウもエボルトラスターを鞘から引き抜いた。
瞬間、まばゆい光とドス黒い闇が互いに拮抗し合いながら周辺を包み込む。
そして、外から響く大きな地鳴りが学院の敷地内を襲った。
全員キュルケたちは外に出た。コルベールも学院の外壁の外を見ると…。
ウルトラマンネクサス・アンファンスと、ダークメフィストがすでに互いに組み合っていた。 
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