| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある科学の裏側世界(リバースワールド)

作者:偏食者X
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

second contact
  ep.025 襲撃者

仁は雨の中、傘をさしながら宛もなく歩き回っていた。
"後悔先に立たず"とはまさにこの事なんだろう。
あの時、佳奈に伝えていれば幾らかは役になっていたんだろうか。

『ごめんな.....佳奈。』

雨は止むことなく、むしろどんどん強くなって仁の足音すらも聞こえなくなっていく。
まるで、存在を失っていくようだ。

しかしその雨音は次の瞬間消えた。
激しく荒れる雨音が静寂に包まれ、寒気を感じる。
周辺は濃い霧に包まれて見えなくなる。

「捕まえた。」

異様に冷たい死神のような声が聞える。
全身の毛が逆立ち、凍り付きそうなほど冷えた汗が仁の頬をつたって落ちていく。
右肩にやけに嫌な違和感を感じて振り返るべきではないことを瞬間的に察する。

『何者かに掴まれている........一歩の身動きも許されない.....動けば........。』

「ほう、分かってんじゃねぇか....まぁ、殺すがな。」

その言葉で仁は最低限の抵抗をするために、不意打ちのように走り出した。
死神のような気配は動かず、距離を取る。
振り向いて正体を見た。

「初めまして......だな。」

「アンタは誰だ!」

仁は多少落ち着いたとは言え、まだ内心動揺していて、言葉から焦りが抜けきっていない。

「俺は死神だ。 禁忌に触れたお前を狩りに来た。」

死神はマジックのようにフィンガースナップをする。
すると霧が溶け、再び雨が降り始める。
その瞬間、仁は相手が能力者であることを理解した。

「どうやって俺を追跡したんだ。」

「あぁ、そのことか...お前、数日前に死体を見たな。」

「っ!!」

人の頭の中はその言葉で高速回転を始める。
録画したビデオを高速で逆再生するように巻き戻す。
そして、確信のつくシーンで急に正常になる。
第三者の視点に切り換わり、幽体離脱したかのように証拠となる光景を見ていく。

『あれは....USB!?』

死体が握り締めていたUSB。
そして、それを携帯に接続した際に感じた強い静電気のような反応。

「思い出したようだな。」

死神はポケットから何かのレーダーらしき物を取り出すと、仁の方に投げた。
そこには赤く点滅する点とその点の座標が載っていた。
そして、その座標から点が自分だと理解する。

「GPSだよ。」

「どういうことだ?」

「お前はUSBの接続と同時に携帯にウイルスを入れ、ウイルスはそのタイミングでその端末の機能の一部の権限を奪いGPSを起動させてお前の居場所を俺達に常時送っていたのさ。」

死神は再びフィンガースナップをする。
すると今度は雨が氷の(つぶて)になる。
それは傘に穴を開けながら、先ほどの雨のように激しく降ってくる。
危険を感じて仁は相手を警戒する。
死神が迫ってきた。

「食らっとけ!」

死神は指を鉤爪のようにして引っ掻く動きを取る。
仁は嫌な感覚がして後方へ飛ぶ。
途端に地面が抉れ、鉤爪で引っ掻かれたように地面が変形した。
感覚的に言えば、アスファルトが瞬間的に溶けて違う形でまた固められたような状態だ。

「あーあ、一撃で逝っちまえば楽に終われたかも知んねぇーのによ。」

「俺はまだ死ねない。」

死神は次に腰辺りのケースからナイフを取り出した。
もちろん刀身はそう長くないサバイバルナイフのような物で明らかに近接戦闘に持ち込むのが分かった。

「オラッ!!」

死神がナイフで仁を刺そうとする。
仁は刃がどこを狙っているかを見ると、それを避ける。
しかし、刃は仁の腕をかすめる。

『クソッ、目では分かっても体が追い付かない。』

これは必然的な問題だった。
本来、戦闘経験などある筈もない仁は初手の攻撃を回避できただけでもすごいことだろう。

「急所をそらしやがったな...なら。」

死神は刀身に手のひらをかざしなぞる。
刀身が赤くなる。
まるで鉄を打つ前に熱で柔らかくしたもののようだ。

「この刃は貫き抉る大蛇の牙........。」

死神は赤くなった刀身を構え、まるで突き刺すような体制を取る。

「ブッ殺せ!! 大蛇の牙(サーペント・ファング)!!」

刀身が勢い良く延びる。

「なにっ!?」

仁はこの異常事態から後方へ大きく退くが、仁の想像以上にその間合いは長かった。
仁は着地とほぼ同時に右腕を貫かれる。

「うぐっ!」

『この感覚は。』

気が付けば毒が回り始めていた。
毒の影響なのかそれとも本来のものなのかは分からないが、痛覚が研ぎ澄まされる。
仁は右腕を押さえた。
痛みが飛びそうなくらい力を込めて。

「痛いだろ.....痛みは思考を止めるからなぁ。」

話している間にも痛みは鋭くなっていく。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧