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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第72話「再現された“闇”」

 
前書き
ようやく優輝sideに回帰。
ただし、優輝達のジュエルシード戦は一話では終わりません。
 

 














 ...何か、おかしい。

 具体的に何がおかしいか問われると分からないけど、何かがおかしかった。

 周りの環境?...闇に覆われていてよくわからない。

 この闇は、全部私によって生み出された。...私のせいで生み出されたのだ。

 改めて認識すれば、やっぱり私はいなくて正解だったと思う。



 ...やっぱり、違和感がある。

 辺りを覆う闇に対して、違和感が募る。

 確かに、これらは私が生み出したものだ。だから、私は独りでここにいる。

 ...だけど、“何か”が混ざっているように思えた。

 私のモノではない、“何か”が...。



 ...考えても仕方がない...か。

 どうせ、私はここで朽ち果てる。

 誰にも認識されず、誰にも迷惑をかける事もなく。

 この闇を...私の罪を一身に背負って、肉体も魂も朽ちていくのだ。

 そうすれば、被害に遭う人もいない。誰も不幸にならない。



   ―――...■けて....。



 私に、幸せになる資格なんてない。

 前世のお母さんを、お父さんを不幸にし、優輝君にも迷惑をかけた。

 今世だって、私がいたせいで危うく皆ごと次元世界を崩壊させてしまいそうになった。

 そんな私が、どうして幸せになる必要があるのだろうか?



   ―――...■けて....。



 本来なら、私なんて死んでそのまま終わればよかったんだ。

 なぜ、私は転生したのだろう...。

 私なんかじゃなく、他の人を転生させればよかったのに。

 ...実際に神様を見た訳でもなく、気が付いたら転生していただけだけどね、

 ...あぁ、そうか...。やっぱり、私は...。

 死んでも人に迷惑をかける。転生したのだって、私が不幸の根源だからだろう。

 私のせいで、皆は不幸になる。

 ...もしかしたら、転生させたのは神様じゃなくて悪魔だったかもね...。

 ふふ...もう、そんな事どうでもいいや...。

 .....なんだか、眠くなってきたし....ね.....。











   ―――...■けて...!

























       =優輝side=







「...これがジュエルシードの結界の場所か。」

 まず、ジュエルシードがある場所へと着く。
 場所は海鳴病院の屋上。そこに結界の反応があった。

「結界を張っておきましょ。」

「ああ。」

 結界を張り、万が一影響が外に出ても街には被害が出ないようにする。

「...シュライン、ここではどんな事があった?」

〈病院の屋上...ですか。〉

 許可を貰い、持ってきたシュラインに聞く。
 少なくとも僕の記憶には病院が関わった事件はなかったので、僕が魔法に関わる前の事だとは思うが...。

〈...おそらく、闇の書の事件ですね。ここではやて様が闇の書を暴走させてしまったので。〉

「...となると、再現されるとしたらはやてかその闇の書か...。」

 印象に残るとすれば、おそらく暴走体の方だろう。

〈...だとすれば、厄介です。ジュエルシード一つでは強さに上限があると思いますが、闇の書はいくつもの次元世界を滅ぼした代物です。環境、状態を考慮せずに戦闘力だけを再現したのであれば、はやて様はともかく闇の書はそう簡単には...。〉

「...だとしても、ここで立ち止まる訳にはいかないな。」

 次元世界を滅ぼす...ね。ジュエルシード単体でもそうだが、そんなの今更だ。
 それに、どう考えてもあの時司さんを助け出せなかった時の方が手強い。

「それにしても....病院、か....。」

「...何か、思う所でもあるのかしら?」

「まぁ、ね....。」

 前世で何度も聖司をお見舞いに行ったのもあるが、それとは別にもう一つある。

「(奏ちゃん...。)」

 前世で、入院した同僚の見舞いに行った際、偶々知り合った少女。
 心臓の病気で、義務教育すら碌に受けれなかった、儚くも純粋な少女。
 そんな彼女の事を、ふと思い出した。

「深くは聞かないけど...深刻な事かしら?」

「...深刻...なのかはわからないかな...。ただ...。」

 そんな少女の名前は、“天使奏”。
 そう、今世で知り合った魅了を受けてしまっている奏と同姓同名だ。

「気にはなる...かな。でも大丈夫。戦闘に支障を来すようなものではないから。」

 奏と“奏ちゃん”は同姓同名だ。
 だけど、だからと言って同一人物とは限らない。

「...そう言われると余計に心配よ...。」

「ごめんごめん...。」

 奏の特典は“立華奏の能力”。その特典から今の名前になったとも考えられる。
 確かに“奏ちゃん”は立華奏に境遇や名前も似ているけど、別人だ。
 ...だけど、それでも気になってしまう。もし、同一人物だとしたら...と。

「........。」



   ―――...生きるって、辛くないですか...?



 ....ふと、前世で“奏ちゃん”に言われた事を思い出す。
 当時の彼女は、心臓病のせいで、病院の中でただ生きるだけの毎日だった。
 そんな彼女を見舞いに行くようになった時、言われた言葉がそれだ。

「(...辛くないか?...か。)」

 ただ生きているだけになっていた彼女にとっては、辛かったのだろう。
 でも、僕が死んでしまう前ぐらいには、だいぶ生きる事に喜びを得ていた。

「(辛い事があっても、悲しい事があっても、前を向き続ける。それが生きるって事。そうすれば、その分だけ、楽しい事、嬉しい事がある。)」

 僕がそう言ったからこそ、彼女は生きる事に希望を見出した。
 ...まぁ、それを言った僕も緋雪が死んだ時は悲しみに暮れたものだけど。
 ...なんか、黒歴史だな。これ。

「....優輝、本当に大丈夫?」

「....ごめん、ちょっと物思いに耽ってた。」

 椿に声をかけられ、現実に戻ってくる。

「病院だからか、つい思い出してしまったか...。」

「.....?」

 彼女は、今どうしているだろう。
 心臓病に関しては、僕が適合者且つドナー登録をしていたから大丈夫だろう。
 なら、きっと転生なんてしていなければ、元気になって...。

「....なんて、僕が気にしてもしょうがないな。」

 前世の事は前世の事。さすがに前世の世界に行ける訳がないし、気にしてもな...。
 むしろ、奏がますます“奏ちゃん”だと思えてしまう...。

「...ああもう、考えても仕方がないっての!」

「ゆ、優輝?」

 また思考にのめりこんでいたのか、椿が戸惑っている。

「ごめん、また考え事してた。.....っし、っと。」

 頬を叩き、思考を切り替える。
 考え事をして物思いに耽っている場合ではないのだ。今は。

「...ふぅ、まさか病院ってだけであそこまで思い出す事になるとは。」

「...心配なんだけど、もういいのよね?」

「ああ。それよりも、ユーノ達を呼び寄せないと。」

 結界を張ったから、気づいてくれると思うが、念のため信号弾代わりの魔力弾を打ち上げておく。

「これで僕らの所に来るだろう。」

「そういえば、当初予定していた作戦はどうするの?」

 椿の言う作戦とは、誰かが偽物を警戒するという、役割分担の事だろう。
 だけど、シュライン曰く厄介な相手となれば、戦力を分ける訳には...。

「...偽物は僕らが転移する瞬間を狙ってきていた。多分、今のこの状況は偽物の思い通りなんだろう。そう考えれば、ジュエルシードの一斉発動も偽物の仕業。...そこまで行けば、むしろ戦力を分担する方が危険かもな...。」

「手薄になる事で、対処ができなくなる...。」

「そういうこと。」

 椿もそこらへんは分かっていたみたいで、納得したように頷く。

「...ああくそ、偽物がもうちょっとわかりやすければな...!」

「...貴方を模倣した結果よ?」

「つまり自分のせいって事だな!畜生っ!」

 手口が読みづらい。ブラフとかまだ完璧に判明していない事もあるから余計にだ。

「...作戦通りで貫くか、固まって行動するかであれば、固まっていた方がいいな。シュラインが厄介というほどの相手なんだから、戦力的にもそっちの方がいい。」

「その方が体力の消耗も避けれそうだものね。」

 どの道、取れる行動は限られている。
 それならば、対処しやすいように一か所に固まっておいた方がいい。

「...さて、来たか。」

「近づく気配は二つ。...まず奏で、遅れてユーノね。」

 とりあえず僕らに気づいたからここに集まってから、って感じか。
 まだ、結界に変わりはない。猶予はあるだろう。



「.....。」

「来たわね。」

 まず奏が舞い降りてくる。
 相変わらず口数は少なく、僕とはあまり会話しようとはしない。
 ...まぁ、魅了を喰らってて織崎のいう事を聞いて敵視気味だもんな。

「...他の人は?」

「もう少しでユーノも来る。...それ以外はさすがにわからんな。」

 椿、僕と面子を確認して、奏はそう聞いてきた。
 転移妨害のせいで一時的に通信もできなくなっている。
 だから、近く以外は誰がどこにいるのか把握しづらいのだ。

「優輝!椿!それに、奏!」

「...揃ったわね。」

 そこでユーノも到着する。
 これで近くにいる者は全員集まった。

「海鳴病院...再現しているのであれば...。」

〈闇の書...もしくははやて様です。〉

「...だよね...。」

 シュラインの言葉に、ユーノは驚く事なくむしろ納得する。
 病院に結界がある時点で、過去にあった事から大体は予想していたのだろう。

「....誰が残って、誰が行くの?」

「そうだった...。本来のチームじゃないから、それを決めないと...。」

「いや、それはやめておこう。」

 奏とユーノはまだ手分けしようとしていたので、僕が止める。

「既に相手の手の内。その上で戦力を分断するのは危険すぎる。」

「っ、そうだったね...。なら、四人で?」

「そういう事になるな。」

 理解が早いユーノは今言った事だけで納得する。
 しかし、僕を敵視気味で見ている奏は、“僕が言った”から複雑そうな顔だった。
 ただ、理解はしているため異論はないようだ。

「(戦力的にはこれで大丈夫だが....問題は罠で包囲された場合だ。)」

 ジュエルシードで体力を消耗した所で僕らを一網打尽...という懸念もある。
 偽物の事だから、普通にしてきそうで怖い。

「(...気にしてもしょうがない。偽物の予想を上回るしかないからな。)」

 何度も言うように、既に今の状況は偽物の掌の上。
 偽物の予想を上回らない限り、少なくとも大きく戦力を削られるだろう。

「........。」

「...?奏、どうかした?」

 ふと、考え事をしていたら、ユーノがそういった。
 見てみれば、奏が僕と病院を見ながら何か考えていた。

「...特に、何も...。」

「嘘ね。...とてもそうは見えないわよ。」

「......。」

 何か、思い当たる事があるのだろう。
 奏の誤魔化しをあっさり見破って、椿が聞く。

「...思い出せないだけ。それがもどかしく感じられた....それだけの事。」

「そう....。」

 淡々という奏に、椿はどこか気にしながらも、それ以上は聞かなかった。
 嘘は言ってなかったため、本当にただ何かが思い当たっただけなのだろう。
 その肝心の“何か”が思い出せないだけで。

「...そろそろ結界に行くぞ。」

「分かったわ。二人とも、準備はいい?」

 椿がユーノと奏に聞き、二人とも頷く。

「さて、行くぞ...!」

 そう言って、結界に踏み出そうとした瞬間...。



『....!優輝!聞こえる!?』

「っ...!」

 アリシアから通信が繋げられる。すぐさま返事のために応答する。

「聞こえるぞ。...通信は回復したのか?」

『一応ね。...状況が確認したいけど、今そこにいるのは?』

「僕と椿、ユーノと奏だ。」

 椿と奏に結界の見張りを任せ、アリシアの問いに答える。

『....他の皆は?』

「残念ながらわからない。ついさっきまでアースラとだけでなく、現地でも通信が繋がらなくなっていたからな。」

『そっか...。こちらから確認した限りだと、既に一つのジュエルシードの結界の前にいるようだね。なら、結界は任せたよ。皆はこっちから探してみる。』

「分かった。...任せたぞ。」

 両親や、他の皆が気になるが、ここは皆とアリシアを信じて任せよう。

『....頑張って。』

「...任せろ。」

 まだ、魅了が解けたばかりで僕に対する認識に何か複雑な所があるのだろう。
 そんなアリシアの簡潔にまとめられた言葉に、僕はしっかりと返事する。

「よし、改めて行くぞ。」

「ええ。」

 今度こそ結界へと歩を進め、内部へと侵入した。







「.....これは...。」

「...四度目になるかな。この光景も。」

「そうね。」

 結界内のノイズ掛かった光景に、奏が驚く。
 対する僕と椿は、さすがに四度目なのでもう驚かない。ユーノも平常だし。

「...椿、渡しておくよ。」

「これは...シュライン?」

 敵が現れる前に、シュラインを椿に渡しておく。

「僕のリンカーコアを治療している今でも、椿の足場を作る程度はできるはずだ。」

「そうなの?」

〈はい。それぐらいならば、並行して行えます。〉

 前回、前々回のジュエルシードと違って、今度は空を飛ぶかもしれない。
 椿の行動範囲を増やすためにも、渡しておいて損はないだろう。

「....さて、と。」

 すぐ近くの上空に、目を向ける。
 そこには銀髪の女性...リインフォースを再現した暴走体がそこにいた。

「やっぱり、リインフォース...いや、闇の書が再現された...!」

「これは...少し厄介だな...。」

 僕らの仲間の方のリインフォースは、全盛期より大幅に弱体化しているらしい。
 その全盛期に近い力を模倣とはいえ、この暴走体は持っている事になる。
 そうであるならば、この暴走体はそれなりに厄介な相手になる。

「(導王時代、文献で要注意な相手という認識で知っていた。...負けはしなくとも、大きく戦力を削られるかもな...。)」

 ロストロギアが暴走した姿を、ロストロギアが本来の力を発揮して再現している。
 ...文面だけでも厄介なのがよくわかる。

「っ、散れ!!」

「....!」

 暴走体に動きが現れ、僕は咄嗟にそう叫んで暴走体から距離を取る。
 僕の言葉に反応して、他の皆も同じように距離を取る。

   ―――“Diabolic Emission(デアボリック・エミッション)

「くっ...!“護法障壁”!!」

 暴走体が掲げた掌から、闇色の玉が爆発するように広がる。
 避けきれないと判断した僕は、咄嗟に霊術で防ぐ。

「ぐぅううう...!」

 障壁が削られるのがよくわかる。霊力でなければ大きく魔力を削られただろう。
 受けている衝撃もなかなかのもので、防ぎきれるかもわからない。

「椿...!!」

「分かったわ!」

 ()()で支えるには厳しいので、椿の援護が入る。
 障壁を椿にも維持してもらう事で、背後に庇うユーノと奏共々、防ぎきる。

「....お返しだ...!遠慮なく受け取れ...!」

 もちろん、ただで攻撃を防いだ訳ではない。
 使っていなかった左手で、先程の魔法の魔力を集めておいた。
 集まった魔力は強力な魔法一回分。さぁ、喰らえ...!

「“ドルヒボーレンベシースング”!!」

 暴走体の魔法が治まった瞬間を狙い、砲撃魔法を放つ。
 集めた魔力を全て込めた砲撃魔法だ。トワイライトスパークには遠く及ばないが、生半可な防御魔法程度では防ぐ事は不可能だ。

   ―――Bohrung stoß(ボールングシュトース)

「っ....!?」

 しかし、それは突くように放たれた中距離砲撃魔法に打ち消された。

「ちっ...!『ユーノ!バインドは頼んだ!椿は遠距離から援護!奏は中距離を保って攻撃を仕掛けてくれ!僕が斬り込んで隙を作る!』」

 念話で指示を出し、リヒトを構えて暴走体に接近する。

「(さっきのような広域殲滅魔法を連発されたら勝てる戦いも勝てない!ここは、短期決戦で一気に片づける!)」

 防御が堅い、動きが早い、攻撃が強い。
 等々、厄介な点は他にもあるかもしれない。
 それでも、その厄介さが浮き彫りになる前に片づけた方が、都合がいい。

「はぁっ!」

 リヒトを一閃。
 次の攻撃に繋げるためのその一撃は、暴走体のパイルスピアに受け止められる。

     ギィイイン!

「はぁあああっ!!」

 パイルスピアと手甲の間で受け止められたのを利用し、上に大きく弾く。
 空いた右手に霊力を溜め、それをそのまま叩きつける。

「っ!」

「ガードスキル...“HandSonic(ハンドソニック)”...!」

 ...が、その一撃は高密度の局所的な障壁で防がれ、その勢いで間合いを取られる。
 しかしそこへ奏が追撃。暗器のように生やした二刀で斬りかかる。

     ッ、ギィイン!

「っ...!」

「“チェーンバインド”!」

 暴走体はその攻撃を躱そうとして、パイルスピアを弾かれて体勢を崩す。
 すかさずユーノがバインドを仕掛け、拘束に成功する。

「貫け...!“弓技・閃矢”!」

 トドメに椿が矢を放とうとする。
 ユーノのバインドは強固なため、僕だって解くのに時間がかかる。
 そんなバインドで暴走体を拘束しているため、直撃は必至。
 だが....。

「っ......!?」

   ―――嗤っていた。

 まるでここまでの事を想定していたように、暴走体は嗤った。
 刹那、悪寒が僕の背筋を駆け、反射的に体を動かしていた。
 椿も同じだったのか、慌てて矢を放つと同時に回避行動に移っていた。

   ―――“Bloody Dagger(ブラッディダガー)

「く、ぁああっ!」

 暴走体は瞬時に40発程の血の色をした短剣を展開。
 10発ずつ僕らに向けて放たれる。
 それを霊力の小さ目の障壁で一部を防ぎ、残りは切り抜けるように逸らして避ける。
 直感的に防御するとダメージが大きいと判断したが、間違いではなかったようだ。

「(着弾時に爆裂効果あり...!ユーノ程じゃないと、ダメージは必至か...!)」

 椿は霊力で一部相殺、他は躱し、奏も振り切るように回避した。
 唯一、ユーノだけは防御魔法で防いだが、さすがユーノ。堅い防御魔法だ。

「はぁああっ!!」

 今の魔法で、この暴走体は相当な相手だと判断。一気に攻める。
 長期戦になれば、確実にこちらが不利だ。

     ギィイイン!ギギィイン!

「(高密度の障壁による防御...!霊力との相性を、一瞬で見抜いた...!?)」

 霊力は魔力を削るが、高密度となれば話は別だ。
 それを暴走体は理解し、高密度の障壁で僕の攻撃を悉く阻む。

「ちっ...!」

「はっ...!」

 霊力で一気に片づけるという予定を変更し、導王流で攻める。
 奏も接近戦に参加し、一気に攻撃する....が。

   ―――“セイント・エクスプロージョン”

「「っ....!」」

 足元に白い巨大な魔法陣が出現する。
 瞬間、僕は大きく飛び上がり、魔力を固めて足場にし、さらに跳ぶ。

     ドォオオオオオオン!!

「っ...!あれは、司さんの...!」

 ギリギリ範囲外まで逃れ、体勢が崩れないように爆風に耐えつつ、そう呟く。
 ...そう、あれは司さんの魔法のはずだ。お手軽で強力なため、厄介だった。
 しかし、なぜ暴走体が司さんの魔法を...?

「(他人の魔法をコピーしている...?)」

 そこまで考えて、桃色の魔力弾が飛んできたのを避ける。

「(今度はなのはの魔力弾...!)」

 ちらりと見れば、暴走体はユーノと椿の妨害を躱しながら僕と奏に攻撃していた。
 ...あの戦闘技術、並大抵じゃないぞ....!

「チィ....!!」

 桃色の魔力弾を霊力の弾...霊力弾で相殺すると、今度は黄色の魔力弾が襲ってくる。
 ...フェイトの魔力弾か!

「速い...!くそ...!」

 展開される量も多いうえ、四方八方から襲い掛かってくる。
 椿とユーノの援護も期待できない。それぞれが自分の事で精一杯だ。

     ギィイイン!

「くっ...!包囲展開は...お前だけのものじゃない!」

 パイルスピアで攻撃してきたのをリヒトで防ぎ、魔力弾を創造した剣で撃ち落とす。
 そのまま、パイルスピアを弾き、斬り返しで反撃する。

     キィイイン!

「(防がれた!)は、ぁっ!!」

 しかし、その一撃は障壁で防がれたため、“徹”を混ぜた蹴りで突き放す。

「はぁ...!」

「ぜぁっ!」

 暴走体の背後から魔力弾を振り切ってきた奏が斬りかかる。
 僕も同時に斬りかかり、挟撃を仕掛ける。

「っ...!堅い....!」

「....!」

 しかし、それすら障壁に阻まれる。
 霊力を込め、さらに“徹”も使った一撃なのに、容易く防がれた。
 手ごたえはあった。...おそらく、“徹”の影響を受け付けないのだろう。
 ...理性のない、魔力によって構成された暴走体には、衝撃を徹した所で無意味か。

「ちっ!」

「くっ...!」

 障壁により一瞬動きを止めた僕らを、暴走体はバインドで捕えてくる。
 僕はすぐに解除したが、奏はそうもいかない。
 しかも、その一瞬の隙を突き、暴走体は僕らに魔法を叩き込もうとした。

「させないわ!」

     ギィイイン!

 だが、それは椿の矢によって阻止された。
 椿とユーノの方を見れば、先程の魔力弾を何とか凌ぎきったようだ。

「(闇雲に攻撃しても意味がない。ここは...。)」

 椿の援護の隙を利用し、奏のバインドを破壊。
 一度椿たちの場所へ行き、態勢を立て直しにかかる。

「(暴走体は司さんの過去の記憶から再現している。...断定はできないけど。再現するのに必要な要素は、大まかにはその人物の特徴や知りうる記憶など。つまり、司さんの記憶やイメージを元に再現しているはず...。)」

 相当な強さを、僕は素早く解析していく。
 闇の書...導王時代にもその恐ろしさは聞いていたが、ここまでではないはずだった。
 少なくとも、いくつかの攻撃を徹せるはずだ。

「(...!そうか、イメージを元にしているなら、強さもそれに依存する!...つまり、この暴走体は、“絶対的な強者”としたイメージの補正がかかっているのか...!?)」

 確証はないが、可能性は高そうだ。
 そうであるならば、後の偽物との戦いに余力を残すとか考えている場合ではない。

「...優輝、どうするの?」

「...陣形はそのまま。...僕と奏で何とか隙を作りだす。」

 椿の言葉にそう答える。
 ポジションは変わらない。だけど、今度は本気で食らいつく。
 余力を残すための計画性を持った行動じゃない。ただ、“斃す”ために攻撃を仕掛ける。

「っ!」

 足元に霊力を固め、それを利用して跳躍する。
 同時に、奏も飛び出し、先程と同じように肉迫し、接近戦を仕掛ける。

「はぁっ!」

「シッ...!」

 またもや同じように挟撃を仕掛ける。
 しかし、今度は事前に創造しておいた剣を射出し、牽制してからだ。
 剣を障壁で防がせ、死角からの攻撃をお見舞いする。

「っっ!?」

「っぁ....!?」

 ...が、それは目の前に迫る赤い短剣によって失敗した。
 咄嗟に顔を逸らし、躱したが、挟撃は失敗。奏は腕を掴まれてしまった。

「(事前に用意していたのは、こいつも同じか...!)」

 すぐに体勢を立て直し、剣を暴走体の背後から襲わせる。
 創造した剣で直接奏を掴む腕を攻撃してもいいが、それでは奏を盾にされてしまう。

「はっ!」

 背後からの剣を障壁で防いだ暴走体の頭上を取り、剣を振り下ろす。
 同時に、椿の矢が下から放たれ、上下からの挟撃と成す。

   ―――“Blitz Action(ブリッツアクション)

「なっ....!?」

 しかし、それはフェイトの移動魔法によって躱される。
 幸い、椿の矢と僕は直線上にいた訳ではないので、フレンドリーファイアはなかった。

「ぁあっ!?」

「くっ...!?」

 僕の斜め真後ろに移動した暴走体は、僕に向けて奏を投げつけてきた。
 咄嗟に受け止めたが、それが悪手だった。

「......!」

   ―――呑まれろ。

 暴走体の口がそう動いた瞬間、僕と奏を囲うように魔法陣が展開される。
 おまけに、僕と奏をまとめてバインドで拘束してきた。
 その魔法陣に触れた瞬間、僕の意識は遠のいていった。

「優輝!?奏!?」

















   ―――戦場に、二人の姿はもうなかった。





















 
 

 
後書き
ドルヒボーレンベシースング…優輝の持つ砲撃魔法。使われる事は少ない。貫通するのに長けているので、防御魔法の破壊などに使える。ただし影は薄い。魔法名の由来は“貫通する”“射撃、砲撃”のドイツ語から。

Bohrung stoß(ボールングシュトース)stoß(シュトース)の派生魔法。突き穿つような砲撃魔法のような刺突を放つ中距離魔法。ボールングは“穿つ”のドイツ語。

セイント・エクスプロージョン…魔法陣を発生させ、それを中心に大きな爆発を起こす。
 司が使う魔法だが、闇の書事件にてリンカーコアを蒐集されていたので、闇の書も使う。

露骨すぎるフラグ。もっと前から伏線として張っておけばよかった...。
無理矢理ですが、前に入院してた時は緋雪関連で心の余裕がなかったので今回のようにはなりませんでした。今回も事件の真っ只中なので余裕はない方ですけどね。

ここで一つ暴走体の強さに関して説明を。
暴走体の姿及び強さは司の記憶やイメージに依存しています。
多少補正がかかって本物っぽくなっていますが、強さが本物を凌ぐ場合もあります。つまりイメージでの強さが強いと、その分再現された暴走体も強くなります。
こと、今回の暴走体に関しては、闇の書としての強さをありありとイメージされているので、戦闘技術、魔法の強さがジュエルシードの限界近くまで高められています。
つまり、今回の暴走体は総合的に見れば緋雪の暴走体に匹敵する強さです。 
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