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豹頭王異伝

作者:fw187
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邂逅
  暗黒の闇

(古代機械が明確に命令を拒否するとは前代未聞、3千年の歴史を誇る聖王家史上初の出来事だ!
 《マスター》とは主人を意味すると思っていたが、違うのだろうか?)
(私は初めて御目に掛かりますが、生意気な機械だ!
 閉じた空間も遙かに及ばぬ瞬間移動の術を独り占めの上、こんな差別をするんですか!?)

(訳の分からない理屈で抵抗はするけど、一応は命令に従っていたんだよ!
 生涯初とは言わないが実に画期的だね、権限を越える等と言われたのは初めてだ!!)
(《ファイナル・マスター》と《セカンド・マスター》ってのは一体、何の事でしょう?
 同じ《マスター》でもえらい違いだ、これじゃ只の助手扱いじゃないですか!)

(極めて興味深い未知の事象と言いたい所だが、流石にそんな余裕は無いな。
 こんな反応は今まで生じた例が無い、私もヨナも本当の所はわからない事だらけなのだよ。
 先日ヤーンの塔から転移した事で何か、行動を拘束する制約が解除されたのかもしれない。
 受動待機状態から活動状態への移行、休眠状態から覚醒状態への変化が生じたとも思えるが)

(何だか魔道師ギルドの最終決定権を持つ大導師と、魔道士の塔に出向中の2級魔道士みたいだ)
 魔道師の塔が構成員に課す束縛と掟に疑問を抱き、秘密裏に研鑽を積んだ実力者の本音。
 比較を絶する超科学文明に対し魔道師の抱く競争心、反感が共鳴し思わず閃いた思考が洩れる。
 想定外の事態に混乱する接触心話が瞬時に凍り付き、時が停まった。

(すみません、ナリス様!
 とんでもない事を、申し上げてしまいました!!)
 身も蓋も無く真実を言い当ててしまった魔道師、ヴァレリウスは驚愕。
 本能的な確信を糊塗する事も出来ず咄嗟に閃いた思考、心話が狼狽の極に在る内心を暴露。
 アルド・ナリスも痛烈な一撃を受け極度に動揺、感情の嵐は魂の従者に劣らぬが。
 己の直感に基き直言した魔道師を咎めず、冷徹な思考者に徹し断固として謝罪を遮った。

(実に的確な例えだ、私が長年に渡り抱いていた疑惑を見事に表現している。
 良く言ってくれた、感謝するぞ)
 ヴァレリウスは慌てて、見え透いた言い訳を並べようと焦ったが。
 ヨナも論理的な思考を閃かせ、掌に力を籠めた為に辛うじて惑乱を抑え込む。

(真実を怖れず現実を直視しなければなりませんが、断定するには情報が不足しています。
 ナリス様、古代機械に質問していただけますか。
 ファイナル・マスターとセカンド・マスターの相違点、資格条件や権限範囲を説明せよと。
 権限の適用範囲と該当する条件、認定する方法、必要とされる資格。
 古代機械の反応を見る限り、ナリス様の質問は無視せず却下の根拠を説明しています。
 少しでも多くの情報、判断材料を引き出し検討する必要が有ると思われます)

(そうだね、狼狽え騒ぐばかりでは何も解決しない、建設的に行動する方が遙かに有益だ。
 敵を知らず己を知れざれば百戦百敗、古代機械から情報を獲得する機会を逃す訳には行かない。
 三人寄れば文殊の知恵、と言うが賢者の遺した言葉は真理だな!
 対等に渡り合う術策を練る為には敵を知る事が肝要だ、早速聞いてみるよ)
 接触心話の思考は聴取不可能な筈ではあるが、まるで出鼻を挫くかの様に。
 銀色の光を思わせる古代機械の心話が、3人の脳裏に響いた。

( ファイナル・マスターの許可が下りました、被治療者を除き直ちに退室して下さい。
 手術の申請を受諾した個体の罹患部、脳細胞の大半は既に壊死状態で機能を停止しています。
 未知の腫瘍組織へ細胞の変質を確認、修復は不可能と判断され代替手段を選択。
 クローン細胞増殖及び置換を実施の後、マザー・ブレイン登録データの上書きを実施します。
 当技術は規定の公開可能レベルを大幅に逸脱しており、現地惑星住民の見学は認められません。
 退出を拒否する場合には麻酔薬を散布し意識喪失の後、搭乗口から強制的に搬送されます )

 機械的な合成音声が告げる宣告、無情な審判も或る程度までは想定の範囲内。
 問答無用で強制排除される最悪の想定を免れ、アルド・ナリスは勇気を振り絞り思考を投射。
「ファイナル・マスターの公正な判断、並びに最高責任者と連絡を付けてくれた事に礼を言う。
 貴君の指示に従うが重大な確認事項がある、質問の権限を求め再度の連絡を乞う次第である。
 ランドックのグインは必ずや御理解を賜り、例外のケースと認定するであろう。
 或いは手遅れになるやも知れぬ故、ファイナル・マスターに回答の可否を問い合わせ願う」

 ナリスの質問に答えるな、とグインが応じる確率は限り無く低い。
 ファイナル・マスターの御墨付きが有れば、古代機械も質問の回答を拒否は出来ぬ筈。
 弁舌の魔術師は本領を発揮、巧緻な論理を展開し異世界の機械に立ち向かうが。
 3人の心を冷徹な思考が貫き、鋼の感触を伝える銀色の光が複雑な迷宮の闇を照射。
 大宇宙《グレート・コスモス》の黄金律を求め、敢然と挑戦を試みる野心家。
 神々に立ち向かう人類の旗手、夢想家の期待は無情にも打ち砕かれた。

( セカンド・マスターの判断を参考とする非常事態、過去の事例は皆無ではありませんが。
 ファイナル・マスターと連絡の可能な現在只今の所、セカンド・マスターは基本的に不要。
 未開惑星原住民の質問に答える事は、当機の任務に含まれておりません。 )
 想像を遙かに超える痛烈な返答、明確な拒絶の意思を示す異世界の機械。
 ナリスの瞳から闇色の宇宙空間を背景に煌く星々の輝き、不屈の光が消えた。

 精神平面の決闘で竜王にも屈せぬ意志力の喪失、虚脱状態を如実に示す蒼白な表情。
 深層意識も激震を免れぬ強烈な衝撃、心理的打撃を受け脆弱な一面が露呈。
 パロ聖王家の青い血を引く野心家は瞳を硬く閉ざし、辛うじて自尊心を掻き集めた。
 億劫な仕草で頭を軽く振り、水晶を髣髴とさせる表示盤に呟く。
「セカンド・マスターは基本的に不要、か…了解した、勧告に従い直ちに退室する。
 ファイナル・マスターに宜しく、と伝えてくれ」

( ファイナル・マスターへの伝言、承りました。
 治療の推定時間は約20ザン、対象者の搬出時に施術後の経過と観察結果を報告します )
 相手を思い遣る心情とは無縁の音声信号、冷酷非情な銀色の思考が精神平面に波紋を描く。
 光り輝く水晶の壁が滑らかに割れ、左右に開き退出用の通路が出現。
 アルド・ナリスは想定を遙かに超える不慮の事態に遭遇、半ば放心状態であったが。
 古代機械の共同研究者と腹心の魔道師に支えられ、虹色に煌く水晶の部屋を後にした。


「レムスの奴が妙な書状を送って来やがったぜ、見てくれよ、ナリス様。
 ちょっと見ただけなんだけどさ、何だか頭がくらくらして来るんだよな。
 妙な小細工と踏んだけどよ、ヴァレリウスなんぞとは口も利きたくねぇ。
 魔道師の連中にゃ何されるか分からねぇ、何か仕込んであんのかな?」
 ヨナと別れ魔道師軍団の精鋭と共に閉じた空間を経由、ナリスが天幕に戻った直後。
 ゴーラ軍の陣中を騒がせ興奮気味の最高指揮官、イシュトヴァーンが駆け込んできた。

「確かに何等かの魔力が放出されている様だが、この文書は焼き捨てて構わないよ。
 植え付けた催眠暗示命令を発動させる文様か、鍵となる言葉が組み込んであるのだろう。
 そなたに植え付けられた催眠暗示は無効、既に解除されているのだからね。
 レムスには何も出来ないし、命令の内容も知らぬだろう。
 そなたがどんな動きをする様に仕組んであったか、解析するまでもあるまい。
 竜王の本体は本当に一時撤退を選択したと見えるが、どちらにせよ大した問題ではないよ」

「どうしちまったんだよ、ナリス様?
 昼間とはまるで違う反応じゃねぇか、あんなに調子良さそうだったのにさ。
 俺、何か悪い事したか?
 もっとゆっくり、進まなきゃいけなかったのかな?」
 パロ聖王家の正統後継者と古代機械が認める夢想家者、アルシス王家の遺児アルド・ナリス。
 ゴーラ王は素っ気無い返事を素直に受け取り、力無い微笑を見せる盟友を心配そうに覗き込む。

「私も大丈夫だと感じていたのだけれど、思ったより疲れが溜まっていたのだね。
 マルガから戻った後、急に具合が悪くなってしまったのだよ」
 実際には肉体面の負担過重に非ず、心理的な打撃から立ち直る事を得ず活力を喪失。
 意気消沈の常套句では遙かに及ばぬ暗渠の罠に陥り、精神平面の重傷を患う黒い月。
 精神集合体の竜王も一目を置く高い知性を誇り、運命に屈せぬ気概を秘めた真理の探求者。
 闇色の瞳に白い炎を秘め、聖王国を護り真紅の濁流を遮る運命の王子が物憂げに応えた。 
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