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HUNTER×HUNTER 六つの食作法

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019話

月が煌々と輝く真夜中、時間はすでに11時58分を過ぎ間もなく0時となろうとしていた。誰もが眠っていた李眠気を飛ばすためにコーヒーでも啜っている頃だろうか、そんな闇の中の荒野に立ち続けている大男、ウボォーギン。闇の帳が落ちた暗闇の中でも真っ直ぐと前を見つめ続けている、強すぎる眼光は闇に決して飲まれたりしていない。

「時間か」

遂に時間となった0時。旅団一時間に煩いと男として有名なウボォーギンは時計など見なくても時間の確認など容易い。事実時計は0時に指針を刻んでいる、約束の時間になったが待ち人の姿は見えない……いや見えた。ゆっくりと歩いてこちらに向かっている自分より少し小さいほどの体格の男が。その姿を見たとき思わず口角上がってしまう。

「よぉ……待たせたか、ウボォーさんよぉ」
「いやちょうど良い時間だ。だが約束の時間から2分オーバーだ、守るのがマナーってもんだろ」
「盗賊にマナー守れとか言われたくねえよ」

言葉を吐き捨てつつ左手に持った酒瓶のワインを一口飲んだ。もう一本、右手に持っていたものをウボォーへと投げた。かなり上物のワイン、飲んでみると上品で美味な味に笑みが零れる。

「良い酒だろ、俺が持ってる酒の中でもトップクラスに良いもんだ」
「こいつはいいなぁ……戦前酒には良さ過ぎる物だなおい……!!」
「良い酒飲んで良い気分で戦う……さあやろうぜ」
「おうよ」

飲み干した瓶を地面に叩きつけ割った、同時に腕相撲の時のように全力でオーラを放出し全身をオーラで包み込んでいく。

「行くぞ、ゴラァアア!!!」
「こっちの台詞だぁあ!!!」

獣の咆哮とさして変わらぬ声を上げるウボォーは地面へと腕を突っ込みアッパーカットのように岩を巻き上げてシャネルへと飛ばす。回避すべき物だろうがシャネルはそのまま突っ込み岩など無視するように前進し続け左腕をそのまま突き出した。軽くステップを踏み左腕の射線上から退避するが右腕の皮膚が切り裂かれ血が滲み出る、それでシャネルの一撃のやばさを見抜いたのか続く右腕の一閃は全力で回避する。

「(俺の肌に傷をつける一撃、あいつの攻撃は両腕から繰り出される斬撃に近い突きと切り払いか。否あのパワーだ、パンチや蹴りだって威力は十分な筈)なら、隙ありだっ!!」
「鉄塊!!」

攻撃後に出来る隙、そこを突いたウボォーのカウンター。オーラが込められた右腕のストレートがシャネルの脇腹へと突き刺さる、食らったシャネルは僅かに苦しげな息を漏らしその威力に僅かに吹き飛ばされるが直ぐに止まり構えを取り直す。だがウボォーは解せないという表情を浮かべている。

「(俺の拳が直撃して無傷……!?奴は放出系と言っていた、幾ら強化より放出系といっても俺の一撃は防御しきれない筈。それに今の感触……)てめぇ、何者だ」

殴った時に感じた感触、鋼鉄でも殴っているかのように硬さと感触だった。殴られる瞬間に筋肉に力を込めつつオーラで防御してもそこまで硬くする事は強化系位しか出来ない筈、ウボォーの疑念は更に深まっていく、本当は強化系なのに放出系だと言ったのだろうか。この為に……。

「不思議か?安心しろ、俺は……放出系だ、ナァアイフッ!!!」
「ッ!!」

ウボォーの疑問を晴らすかのような大声で放った一撃、ナイフ(斬撃)の念弾が一気に放たれる。だが単純な攻撃に回避は余裕だったが背後にあった岩の壁に深々と傷が入った。

「(こりゃマジで放出系みてぇだな、強化系も鍛えて防御用の能力を開発したって所か……バランスの良い能力開発だ)」

本来の系統の威力に感心しつつもシャネルがわざと自分が放出系だと証明する為に避け易く、一直線な攻撃を行ったのは理解した。とことん負けず嫌いなようだ。ならばそれに負ける訳にはいかない……!!

「なら俺も行くぜ……全開だぁああああ!!!!」

腕を大きく広げて叫びながら抑えていたオーラを全てを解き放った。腕相撲の時よりも強いオーラの波動にシャネルは気づかぬうちに口角を上げながら自分も前回のオーラを展開していた。あの時と違い自分は十二分に食事をしてきた、オーラの節約なんてみみっちい事など言わずに戦える……!!

「おおおうらぁああああ!!!!」
「おおおおおお!!!!」


「……っ」

最早人間同士の戦いとは思えぬ絶叫と上がる土煙に爆音、戦争でもしているのかと錯覚さえしそうな規模の戦いに驚きを隠しきれない観戦者(クラピカ)。唯じっと、"凝"を使って戦いを見続けていた。

―――クラピカ、別に我慢出来なくなったら戦いに割って入ってきても構わない。だが、最低でも最初は見てろ。

「これが、旅団……!!」

シャネルがそう言った言葉の意味が解った気がした。具現化系と解った時に想定した強化系を極限にまで極めたものとの戦闘。それが今目の前で行われているが自分の想定が如何に甘かったのか思い知らされる、対旅団専用能力と六式を学んでいる自分なら勝てると思っていたが、それだけでは甘かった。

「うらぁあああ!!!」
「鉄塊・砕!!!」

また、普通の人間だったら一瞬でミンチになってしまうほどの一撃同士がぶつかり合った。相手に命中さえすれば多大なダメージとなる必殺の一撃、自分はあれを受けて無事に入れられただろうか。絶対時間(エンペラータイム)中であったとしてそれで増強された強化系の防御力と鉄塊を組み合わせたとしてあの一撃で耐えられていただろうか、恐らく無理だろう。

「私は、まだまだ弱い…!!」

シャネルの言葉を借りるとすれば、自覚し悔いれるだけマシ、といえる。それでも旅団を捕らえてクルタ族の無念を晴らしたいと冷静さを欠いて戦いに首を突っ込むよりはるかに良い。

「嵐脚!!」
「おっとぉ!!」

眼下で広がっている戦いに無念の炎に強くなりたいという気持ちをくべていく。炎は更に強くなっていく、その無念を糧に更に先に進む事が今の自分に出来る一番のことなのかもしれない。


「たくてめぇは面白い事ばかりだなぁ!!!」
「そりゃどうもねぇ!!!剃!!」
「また消えやがった!」

剃による急加速で姿が掻き消える、目で捉え切れない。"円"を使用して直ぐに認識出来るようにするのがいいのかもしれないがそれは危険な行為でしかない。"円"に防御力など無いに等しい、そんな状況で近接戦を挑める念能力者は達人級か唯の馬鹿。旅団の仲間のノブナガはそれが出来るほどの使い手だが、ウボォーはそれができない。よって取れる選択肢は"堅"!!

「指銃!!ってぇな!!」
「そう簡単にやれると思うなよ!!」

剃の高速移動でウボォーの前方から強襲したがウボォーの"堅"と肉体の頑強さで指銃は弾かれる。左手の指がビリビリと痺れを感じた時、シャネルの腹部に鋭く重い一撃が突き刺さった。

超破壊拳(ビックバンインパクト)ォ!!!」
「―――鉄塊ッ!!がぁはぁっ!!!」

余りの切り替えしの速さに食らった一撃、それはウボォーの必殺の一撃。念能力でもある超破壊拳、念を込めた攻撃だけというシンプルな物。だがそれ故の強さを誇る技、その破壊力は小型のミサイルにも匹敵し得るほどのパワーを持つ。全力の一撃に確かな手応えを感じた、最低でも骨が何本も逝った感触音が伝わってきた。

「今度こそ砕いてやったぜ!!俺の本気の超破壊拳を生身で止められた奴はいねぇ!!だが褒めてやるぜ、お前、身体を鉄のように硬くしつつオーラで全力で防御したな、あの一瞬で。普通なら絶命してる筈なのに、それを骨の数本で留めてるんだからよ!!」
「ぐっがぁっ……ふっ!月歩!!」

吹き飛ばされながらも血を吐き出し空中を蹴って体勢を立て直しながら地面へと降りる、だがダメージはかなりでかい。肋骨の数本は間違いなく逝っている、激痛が身体を貫いている。だが、まだ戦えなくなるほどのダメージではない。

「……すぅぅぅはぁぁぁ………今度は俺の番だ、ぅぅぅぅぉぉぉぉ……!!!!」

身体の念を全て腕へと集中、同時に念弾を生成しそれを腕の中へと仕込む。痛みが邪魔するがそんな事どうでもいい、今出せる全力を出さなければこいつには勝てない、ならやれるだけの事をやるだけ。

「男なら……どんとやれだ…!!1、2、3、4、……!!!」
「(オーラがさっきより増えてやがる……全ての念を腕に込めてるのか!!面白れぇ……)燃えてきたぜ!!俺の全力の超破壊拳とお前の一撃、どっちが強いかやってやろうじゃねえか!!」

迫りくるウボォーギン、腕へと念を込め続けるシャネル。振りかぶる拳、そしてそれがシャネルに炸裂しようとした時、腕が通常よりも二回りほど大きく膨張した。

「5っ!!!5連釘パンチィィイイイイ!!!!」
超破壊拳(ビックバンインパクト)ォォォォ!!!」

互いの全力の拳がぶつかり合った、瞬間的に周囲を襲ったのは互いのパンチ力で発生した衝撃波。爆風、周囲の砂塵と岩を一気に弾き飛ばす衝撃波、その後に襲ってくるのは

「ぐっ……があああああっっ……!!」

シャネルの悲鳴にも近い痛みを耐える絶叫。念を集中させていた右腕でさえウボォーギンの全力の一撃に悲鳴を上げている。筋肉断裂、骨は罅割れていている。右腕を抑えつつも前を見ると同じく腕が痙攣しているのか抑えつつも立ち続けているウボォーの姿があった。

「俺の方が、勝っていたようだな……シャネルゥ!!」
「ああ…一撃、だとな(・・・・・・)!!!」
「何……(ビキィ!!!)あっ!?(ビギィ、ビギィ!!)がぁあっこりゃ一体!!?」

何を言っていると言おうとした時に走った衝撃と痛み、先ほどぶつけ合った右腕に強い痛みが走っている。

「2、3…!!釘パンチ……パンチの前に念弾を作り出し腕の中に込めてパンチと同時に打ち込む技」
「念弾を、中にだとぉ!!?」
「仕込む際はいてぇけどその分威力は抜群……!!そして、数が多ければ多いほど念弾は相手の体内で爆ぜて奥へと突き刺さっていく!!」
「それでかっ!!!(ビギィ!!)がぁあああ!!!」

これがシャネルの必殺技、釘パンチ。腕に込めた念弾を釘を打ちつけるように同時に打ちつけて放つことで、威力が奥まで浸透し内部から相手を破壊する必殺技。現在では5連しか出来ていないが鍛錬を積めば一発一発の威力も更に上がり、連弾も可能になる筈……!!

「5……吹き飛びなウボォオ!!!」
「(ビギィィン!!)がああああ!!」

最後の念弾が炸裂しウボォーギンは岩壁に突き刺さるように吹き飛ばされた、凄まじい威力。自分の超破壊拳と遜色の無い威力に驚きつつ地面に没する。

「くそ……右腕が、全然言う事聞かねえ……!!」
「ったくこっちもだ、身体がこんなに重くなったのは何時以来だ……!!」
「ッ!?」

顔を上げてみるとそこには大量の血を吐き、身体をふら付かせてはいるが立ち上がっているウボォーギンの姿があった。自分の全力の一撃を食らってまだ立てるというのかこの男は……!?だがウボォーギンは携帯のようなものを取り出し何かを確認すると、舌打ちをしてそのまま歩き始めた。

「おい、てめぇ……どこに行くつもりだぁ……!?」
「団長からの呼び出しだ……ったく楽しい時間だったのによぉ……だが逆らう訳にもいかねえ、元々この時間までには終わらせるつもりだったが、楽しすぎて時間オーバーしちまった」
「おい、俺を、やらなくていいのか……!!!」

去ろうとするウボォーギンを挑発的な瞳で見つめる、まだ自分は戦える。右腕は逝かれてしまっているがまだ左腕に足だってある、まだ戦える……!!

「俺は蜘蛛一、時間に厳しい男だ。お前なんかより蜘蛛の方を取るに決まってるじゃねえか、なんか言わねえと、団長がこええからな」
「……へっ」

そのまま去っていくウボォーギンにシャネルは追跡して叩きのめす気など微塵など起きなかった。正直言ってもう限界に近かった、オーラもカロリーも使い果たしこれ以上戦ってしまうとオーラが自分の身体を食らって無理矢理にでもカロリーを捻出する所だった。

「ああもう無理ぃ……」

そのままドサッと倒れこむ。もう全力を本当に出し尽くしてしまった、もう疲労と激痛で身体が動かない。

「シャネルゥ!!!大丈夫か!!!?」
「お、おうクラピカァ……良ければ治療頼めるかぁ……?俺もう駄目、もう出せるオーラなんかねえ……」
「解ってる今治療する!!」

癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)を展開し即座に治療にあたるクラピカ、時間は掛かるものの絶対時間で能力を強化すれば治療出来る。治療を受けつつシャネルは尋ねてみた。

「なんで、割って入って来なかった?」
「……静かにしてくれ、治療に集中できない」
「俺はお前が入ってくると思ってた、感情を抑えきれずにな」

紛れも無い本音。実物を目の前にしすぐ手が届く範囲にいるのであれば幾らクラピカでも冷静さを失って戦いに割って入ってくると思っていたがそれをしなかった。賢明な判断だがそれがシャネルは酷く気になった。

「入れる気がしなかったからだ」
「……?」
「私は、まだまだ弱いとあの戦いで実感させられた……だから、念を強めてから戦うよ」
「そっかっ……」

どうやら弟子(クラピカ)は成長していたようだ……、自分が思っていた以上に。

「ぁ~ぁ、もう腹減ったぁ…クラピカァなんか作ってくれないかぁ?」
「私がか?良いだろう、クルタ族に伝わる料理をご馳走しよう!」
「おっほっ楽しみぃってあいたぁっ!!?ほ、骨がぁあああああ!!!??」
「ああまだ治療終わってないぞ!?もうぅ……世話が焼ける師匠だ」 
 

 
後書き
放出系+強化系能力

・釘パンチ
:念を腕に集中させると同時に腕の中に念弾を仕込みそれをパンチと同時に相手に打ち込む。
相手の内部で衝撃が炸裂する為、相手の防御力を貫通する事が出来る。
釘一発の威力と数により貫通する威力は増していく。
現段階では5連が限界。

但し、釘形状の念弾を仕込むのはかなりの激痛が走る為打つのは容易ではない。 
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