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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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帰郷-リターンマイカントゥリー-part3/慈愛の勇者と

「ルイズ、私たちや母様の前よ。正直に話しなさい。あなた、陛下からの命令でいったい何をしていたの?なぜ舞台女優なんて馬鹿げた事をしていたわけ?」
「……」
会食の席にて夕食を食べる中、エレオノールは母に向かって言った。この場には、言っていたとおりルイズたちの母親も同席している。
名前は『カリーヌ』。娘たちによく似た容姿と桃色の髪を持ち、三人もの嫁入り直前の娘たちを持っているとは思えないくらいの若さを保っている他、エレオノールのような鋭さと厳しさをそのまま見た目だけで感じさせるオーラが漂っていた。
ルイズはこの母、カリーヌのことも決して嫌いではないし、エレオノールほど苦手意識もないが、姉以上に厳しい人であることを知っていた。家族の中で最も自分が懐いているカトレアがいるとはいえ、できればここにサイトもいてほしかったところだ。
「あらあら、ルイズったら、劇に出ていたの?」
「何を呑気なことを言ってるのカトレア!これを他の貴族にもバレていたらどうするの!陛下の命令であそこにいたらしいけど、何をしていたの!?」
「そ、それは…」
口をつぐむルイズ。いえるはずがない。これはルイズのもつ虚無の力が、国家単位で必要にされていること。それはたとえ肉親である彼女たちにも簡単に教えられることではない。
「なぜ何も言おうとしないの?ま、どうせたいしたことじゃないのでしょう?だって、所詮あなたは『ゼロ』だもの」
見下しているようにも聞こえるが、実際この屋敷に暮らしていた頃のルイズは、知ってのとおりロクに魔法も使えなかった。
「お姉さま、言いすぎですよ。ルイズだって、陛下がお認めになったのだから、何か大事な事情があるのでしょう?」
そんなエレオノールをカトレアがなだめると、パチンと両手を叩いて話を切らした。
「あなたたち、食事中よ」
「で、でも母様…」
続けようとするエレオノールを、カリーヌは一睨みし、睨まれたエレオノールはう、と息を詰まらせる。
「ルイズのことはお父様が戻られてからにしなさい。この子のことは、あの人の耳にも入れておかなければならないわ」
母カリーヌが、一応この場を静めてくれたのだが、ルイズは歯噛みした。
魔法学院に入学する直前までと何も変わっていない。たとえ伝説の力である虚無に覚醒しても、何も変わっておらず、認めてももらっていない…エレオノールが以前のように自分を、屈辱的な意味で『ゼロ』と言っていたのだから。




「じゃあ、あなたも俺たちと同じ…」
ルイズが姉と母と会食の席へ夕食を食べに行った頃、サイトとハルナは『春野ムサシ』と名乗った男と、彼が特別に与えてもらっていた部屋にて話をしていた。地球人三人がファンタジーに満ちた世界の屋敷で、それもピグモンという小さな怪獣も交えてこの場にいるという状況に、奇妙な雰囲気を感じさせられた。
「そう、僕も地球の人間だよ。といっても、話を聞く限り、君たちの地球とは異なる次元のものだけどね」
サイトはあれから、ハルナの手前なので自分がウルトラマンであることを隠しつつ、自分たちの素性を明かした。ムサシも、噂でこの世界にもウルトラマンや怪獣が現れていることを聞き及んでいたらしく、自分の知らないウルトラマンや怪獣の情報を求めていた。
「しかし、ウルトラ兄弟とか宇宙警備隊…そんな組織がこの次元では存在しているんだね。それに半世紀近くも怪獣たちと戦っていたなんて、なんだかすごいな…」
「でも、春野さんの方だってすごいことになってるじゃないですか。怪獣が…それも普通に大きな種類のが人類と共存している話なんて…」
ムサシの世界、通称『コスモスペース』の地球でも怪獣たちは数え切れないほど出現した。しかし、ムサシの地球の人々は科学調査サークル『SRC』を設立し、『共に生きる存在』として、天災的な存在である怪獣たちを絶滅危惧種の野生動物のように大切に接する姿勢をとったのだ。ムサシはその傘下に当たる防衛チームにして怪獣保護チーム『TEAM EYES』に所属して活躍したことがあり、怪獣と強固な絆を結び合ったほどの男だった。
確かに怪獣たちは、サイトたちの世界ではあまりよい印象を得られていない。中には悪意を持って暴れる個体もいたし、脅威という意味では同類に当たる悪の宇宙人たちの存在と混同されやすい。ピグモンのように、人間に敵意を持たない怪獣や異星人もいたのだが、50年という長い年月の間、怪獣や星人の被害を受けて辛い思いをしたがために、怪獣や異星人を憎む人たちのほうが珍しくなかった。
だから新鮮だった。ムサシのような、『怪獣は共に生きる存在であることが当たり前の世界』からやってきた人間が。
「そんなことないさ。僕たち人間は、命の重さを知っておかないといけない。だから、怪獣を殺さず、保護するという道を選んだだけ。けど、サイト君たちの世界だと、そういった風潮はないみたいだね」
「……ええ」
彼が怪獣の命を人類と同じくらい尊重していることを推していることもあり、答えにくい質問だ。だが、彼の世界と比べてサイトたちの地球はそのとおりだから否定できない。かといって、敵意のない怪獣や星人を全部殺しつくすほど、サイトの地球…M78世界の地球は非情ではない。
「でも、危ないんじゃないですか?怪獣って、大きいし力も強いし、それに人間みたいに考えて行動できるわけじゃないですし…」
ハルナの言うことも最もだ。怪獣と人間とでは、生態も暮らし方も、野生動物との差以上に違いがある。怪獣からすれば、街やそこに住む人たちの命など意に返さないのではないか?そんな異なる種族同士が同じ世界で生きるというのも難しいに違いない。
「そうだね。僕が所属していた組織のことを聞いたら、そう考えるのが自然かもね。でも、だからって諦めることはできなかった。怪獣も大切な命だし、人間の勝手な都合で消していいものでもない。たとえ異なる存在同士でも、生きる権利がどこの世界にもあるんだ。
だから僕は、自分の理想を貫いた。辛いことの連続で何度か折れそうになったこともあったけど…やっとできたんだ。怪獣と人間が、共に生きる世界を」
彼女からそのように質問され、ムサシはやはりかと思いながらも、ハルナの問いを拒絶することなく耳を傾け、そして自分の考えを告げた。
ムサシの地球でも、怪獣に家族を殺されて悲しい思いをした人がいるのをムサシは知っている。それはきっとムサシが直接あった人物に限らないはず。だが、憎しみに囚われたらまた新たな悲劇を呼び出すだけであることを知る彼は、自分の理想を諦めようとしなかった。度重なる苦難を仲間たちと乗り越えた彼は、『遊星ジュラン』という星で、怪獣と人間が共に暮らす楽園を築くことに成功したのである。
口頭で聞いているだけだと、あまりに理想的で現実的とは思えない。ハルナは若干半信半疑だが、サイトとゼロにはなんとなくわかった。この男は…決して嘘をついていないと。
本当に怪獣と人類が共に生きる世界を作ったのだと。
「ハルナちゃんも、出身の世界の状況で怪獣を怖がっているのはわかるよ。でも、怪獣や宇宙人にも平和を望む者がいることもわかってほしい。
君たちの世界を守ってきたウルトラマンたちがそうだし、こうしてピグモンが当たり前のように一緒にいるのもその証拠だと思うんだ」
「そ、そうですよね。私、この世界にいきなり飛ばされて、そこでも怪獣や悪い宇宙人が、しかも黒いウルトラマンが悪いことをしてるって話を平賀君から聞いてたから、不安だったんです。でも、平賀君やこの世界でも出会った人たちがいるし、大丈夫ですよね」
ムサシの言葉に、ハルナは不思議と安心感を抱く。
「……」
サイトの生きてきた地球では、ムサシの世界ほど怪獣との共存を優先できるだけの余裕はない。しかしムサシの世界では、相手を殺さずに共存の道を歩む姿勢を崩さなかった。その優しさが…サイトには羨ましかった。
『ゼロ、春野さんとテレパシーで繋がれるか?』
サイトはゼロに話しかける。
『あ、ああ…できるが、あいつに話があるのか?』
『ああ、ハルナもまだいるし、ちょっと予約を入れようと思う』
自分たちの正体を知らないハルナの手前、テレパシーという手段は有効だが、長話には向いていない。だからサイトは、後でムサシと二人で話をしたいと思った。
そんな時、サイトたちのいる扉からノックする音が聞こえる。ムサシが「はい、どうぞ」と声をかけると、扉が開かれて執事が一人、彼らの前に姿を見せてきた。
「ミスタ・ハルノ。そろそろ消灯時間ですので」
「あぁ、はい。わかりました。それと、カトレアさんたちは?」
「お嬢様たちはすでに寝室でお休みになるそうです。ご用件があれば、明日に」
「わかりました。ありがとうございます」
どうやらもうじき消灯時間なのでそれを伝えにきてくれたようだ。この屋敷はルイズの実家でもあるが、たくさんの人たちが同じ屋根の下で暮らしている一種の公共施設のような場でもある。あまり夜中等にうろちょろして怪しまれないために、こういった時間は貴族の実家でも設けられているようだ。
(ルイズの奴、大丈夫かな…)
今回、ムサシという男と貴重な出会いを果たしたと言う意味では、ルイズの実家への帰省に着いてきたのは正解だった。だが、ルイズの場合だとそうはいかないだろう。
そもそも
「そろそろ時間だね。二人も、まだ積もる話とかがまだあると思うけど、今日のところは借りている部屋の方に戻った方がいいよ」
「あ、はい。じゃあおやすみなさい」
「お休み。ピグモンも、そろそろカトレアさんの部屋に戻るといいよ」
「ピピィ」
消灯時間を言い渡された以上、部屋に戻らなければ。サイトとハルナ、ピグモンは共に自室へ戻ろうとする。だがその際、サイトはムサシに振り返り、ゼロの力を借りてテレパシーを送った。
『春野さん、聞こえますか?』
『……ああ、聞こえているよ。やはり、君も…』
ムサシもムサシで、サイトがただの地球人ではないことに気がついていたようだ。同じように、彼もテレパシーを送り返し、サイトはそれに対して頷いた。
『わかった。今、ハルナちゃんは先に部屋に戻ったかな?』
『ええ、ルイズたちも来てません』
『わかった。ならこのまま僕たちだけで話をしようか』



さて、就寝時間直前の頃、ルイズは久しぶりにカトレアと同じ部屋で出ることに決めた。
「エレオノール姉様は、やっぱり意地悪してくるのね。嫌になっちゃう」
化粧台の鑑の前で、髪をとかしてくれるカトレアに、ルイズはエレオノールに対する愚痴をこぼす。
「それだけ、あなたが心配なの。母様たちも愛しているからこそ、つい構ってしまうのよ」
「そんなことないもん…」
カトレアは優しく微笑みながらルイズに言うが、ルイズは膨れながら否定する。エレオノールがカトレアのように優しく接してきてくれた記憶などない。昔からいつもいつも厳しい教育ママみたいな態度で接してくるのだ。
ちなみに、カトレアの部屋はただの部屋ではなかった。
犬、猫、子豚、子羊、子ヤギ…動物たちが数匹ほど彼女の部屋で放し飼いにされていた。
彼女は昔から動物たちに好かれやすいのだ。カトレアも動物が好きなのでこうして両親たちの許可をもらって動物たちを飼っている。ただ…その中には虎や熊も混ざっていたのである。それが幼い頃のルイズには怖くもあったのだが、カトレアのおかげでその猛獣たちからも懐かれている。
「ちい姉様は、怒ってる?」
すると、ルイズが恐る恐る尋ねてきた。
「怒ってるって、何が?」
「私が、勝手に舞台に出たこと」
貴族、それも公爵家のものである自分が舞台に出たことについては、ルイズは最終的に乗りはしたものの、決して貴族としての沽券を無視したわけではない。
「そんなこと怒らないわ。寧ろ、私にとっては羨ましいものよ。舞台の上とはいえお姫様になれるなんて、女の子のちょっとした憧れじゃない」
だからカトレアからもどう思われているのか気にしたが、カトレアは本当にそう思いながら答えた。公爵家がそんなことを…と思うが、決してルイズは口にしなかった。姉が気にしないとはわかっていても、あまりカトレアを悪く考えることは避けたかったし、何よりカトレアがそう思えるだけの理由がすぐに予想できたからだ。
なにせカトレアは幼い頃から病弱で、自分が物心ついたときからあまり屋敷の外に出たことがない。激しい運動など医者から止められているからしたくてもできないのだ。
すると、二人のいる部屋の扉がガチャッと開かれる。そしてすぐに、人懐っこく「ピピィ」と鳴きながら、ピグモンが顔を出してきた。
「ひぃ…!」
突然やってきたピグモンに、ルイズは思わずびっくりして悲鳴を漏らしてしまう。しかしそれに対してカトレアは、家族が戻ってきたときと同じような感じでピグモンを見る。
「あら、戻ってきたのね。ムサシさんたちとはもう楽しんできたの?」
「ピピィ」
「ちゃんと楽しんできたみたいね。よかった」
ピグモンは満足そうに鳴いたのを聞き、カトレアも笑みをこぼし、ルイズを見る。まだ少しビビッているのが伺えた。
「ルイズ、そんなに怯えていたら。この子がかわいそうだわ」
「そ、それは…」
サイトから怪獣と聞いたせいもあるし、そもそもこの生物がハルケギニアでは見かけない個体だからだろうか。どうしても警戒してしまう。困った子ね、と…自分が困らせているところもあるのに困った笑みをこぼす。
「ほら、ためしにこの子の手をとってごらんなさい」
カトレアがピグモンの手をとって、それをルイズの方に伸ばす。その手を恐る恐る取るルイズ。ふと、握った手から心地よい温もりが流れ込んできた。
「あったかい」
カトレアが引き取った小動物を抱いたときのような暖かさがそこにあった。すると、ピグモンは自分の手を取ってくれたルイズを嬉しく思ったのか、今度は彼女にもじゃれ付いてきた。
「きゃ!ちょ、ちょっと!そんなにくっつかれたら動けないって!」
そうは言うルイズだが、まったく嫌悪感も恐怖も抱いておらず、寧ろ犬がじゃれ付いてきてるような、嬉しくも困らされているといった様子だった。
しばらくモフモフした後、ピグモンが着かれたのかキュー…と寝息を立てて眠りにつく。ちょっと髪が乱れたので、改めてカトレアに髪をとかし直してもらうと、ルイズがカトレアに向けて口を開いた。
「それにしても、ちい姉さまって…本当になんでも引き取るのね。怪獣にも懐かれるなんて…確か、ピグモン…だったかしら」
「私も最初はびっくりしたわ。ハルケギニアでは見られない子だったから。でも、なんとなくあの子が悪い子じゃないってわかったし、ムサシさんのおかげもあって、この子達と同じように住んでいるのよ」
寝る前にルイズの髪をとかしてあげながら、カトレアはルイズに、ピグモンのことを話し始めていた。
「でも、ちい姉さま。あのムサシって人、何者なの?」
なんとなく、ルイズもムサシがただの人には思えなかった。どことなく、サイトやシュウ、ハルナと似た何かを感じた。同じ地球人特有の波長のような者が、ハルケギニア人である自分とは違うのを感じているからなのか。
「そうね…私も、あの人のことはまだよく知らないわ。ある日、ピグモンが森の中で迷い込んだところを見つけてくれたの」
「え?」
カトレアはそう告げるが、ルイズは目を丸くする森の中でたまたまであっただけで、よく知らないのに、この屋敷に住まわせてあげてるのか?と疑問を抱いた。
「ただ、彼もヴァリエール領内で迷い込んでたみたい。困っているみたいだし、お礼もしてあげたかったから、ちょっと無理を言ってお母様たちに許可をもらって、しばらくの間ここに泊めてあげてることにしたのよ。
なんだか変わっている人だけど、でも悪い人じゃないわ。とても動物や自然が好きで、とても優しい人なのよ」
「はぁ…」
そんな薄い予想でここに彼を滞在させているカトレアは少々無用心に思える。
しかし、カトレアは次に驚くべきことをルイズに継げた。
「実はね…ムサシさんが来てからずいぶん体調がいいのよ。国中のお医者様に診てもらってどうにもならなかった病気なのに。今じゃ健康体だって、最後に見てくれたお医者様から言われたわ」
「ええ!!?」
ルイズは真夜中なのに思わず声を上げてしまう。
実を言うと、カトレアは昔から持病を患っていたのだ。それも原因不明の重い病。体のどこかが突然悪くなってしまい、魔法や薬で抑えようとしても、今度は別の箇所が悪くなってしまう。咳き込む姿も度々見られるのだ。そんな彼女を哀れんだ父ヴァリエール公爵は、彼女には別の領地『フォンティーヌ領』を与えるなどの措置をしている。皮肉なことにその病が、ルイズやエレオノールのようなヴァリエールの女性が持つ勝気さと気の強さに満ちた性格を持たない、儚げで優しく穏やかな性格に育ったのかもしれない。
「もしかしたら、彼はお医者様だったりするのかしらね。本当に不思議な人よ。あなたもきっと仲良くなれるわ」
だが、そんな姉の病がまるで嘘のように、カトレアは元気になっている。おそらく、カトレアの病に関してムサシが何かしらの関与をしていたのかもしれない。だから公爵も、おそらく渋々ながらだが、ムサシの滞在を許しているという。
実際、ムサシはこの屋敷に来てから、屋敷の人たち全員によくしてくれているとカトレアはそうとも語った。
それ以前に、昔からカトレアは勘が鋭く、人の感情を見抜く力も凄い。この屋敷で暮らしている皆もよく知っていることで、カトレアがそう思うのなら信じようとする者が大半であった。
自分が何を考えているのかも手に取るように見抜かれてしまうのだ。そう、ルイズのようなわかりやすい性格の子については特に。
「最も、あなたが一番仲良くしたいのは、一緒に来たあの使い魔さんかしら?」
それを聞いて、ルイズの顔が一瞬で赤くなった。
「ち、ちちちち違うもん!そんなことないもん!!」
「隠したって駄目。わかるもの、あなたがあの子のことを…」
「そ、そそそそんなんじゃないもん!本当になんでもないもん!!」
顔を赤くしながらも、必死に否定して誤魔化そうとするが、この時点で完全に無駄な足掻きであった。


そのムサシとサイトはというと…
消灯時間が訪れて明かりが消え、代わりに外の月の光を明かり代わりに、二人はムサシの部屋にいた。
「やはり春野さん…あなたは…」
互いに向きあいながら、サイトはムサシに尋ねる。
「ああ、そのとおりだよサイト君。僕の中には君と同じように、いるんだ。

『ウルトラマン』がね」

「!」
サイトは目を見開いた。やはりそうか。この人も俺と同じ…『ウルトラマン』!
また新たな異次元のウルトラマンとこうして出会うことになろうとは。
ムサシは青いジャケットから、一本のスティックを取り出してサイトに見せた。すると、サイトたちの頭にムサシとは別の誰かの声が聞こえてきた。
『初めまして。私の名は、ウルトラマンコスモス』
「コスモス…」
それが、ムサシと一心同体となっているウルトラマンの名前か。
『なら、俺も自己紹介しないとな。俺はゼロ、ウルトラマンゼロだ』
「ゼロ、か。いい名前だ。よろしくね」
ムサシは純粋に誉めているのだろうが、もしルイズが聞いたら目くじらを立てるだろう。何せ彼女にとって『ゼロ』は不名誉な二つ名なのだから。いろんな意味でここに彼女がいないのが幸いだ。
「それで、君たちが僕たちに聞きたいことは何かな?」
「春野さんたちは、どうしてこの世界に来たんですか?」
異次元の地球の人間とウルトラマンは、本来この世界に来るはずのない存在だ。それがこうして自分たちの前に姿を現している。何か重大な理由があるはずだ。
ムサシは一度目を閉ざしてから目を開けると、自分たちがこの世界に来た理由を明かした。
「君たちには、さっきジュランのことを話したよね?」
「はい。春野さんの世界の怪獣や人類か一緒に生きてる星なんですよね」
「その星から怪獣たちが盗まれたんだ」
「ぬ、盗まれた!?」
ただ事には聞こえないムサシの言葉に、サイトは声をあげる。
「それも、一匹だけじゃない。ジュランに住むたくさんの怪獣たちが、飛来した宇宙船に連れ浚われたんだ」
そそうかたるそう語るときのムサシの表情は、怒りと詳しさで満ちており、拳を血が滲みでそうなほど握りしめていた。


ムサシは、怪獣と人類の共存する世界を、遊星ジュランに築くことに成功した。
かつてTEAM EYESの一員であった頃に仲間やウルトラマンコスモスと共に救ってきた怪獣たちと、同じチームの一員だった女性『モリモト アヤノ』と、彼女との間に生れたて息子と一緒に、夢のような楽しい日々を過ごしてきた。
「お~い!『カオスヘッダー』!」
ムサシに肩車されてながら、息子の『ソラ』は、山の上に腰かけている光の巨人に手を振ると、その光の巨人『カオスヘッダー0』も、手を振り返した。
かつて、ムサシとコスモスはこのカオスヘッダーとは対立し合っていた。ムサシがEYESの隊員だった頃、奴は幾つも分離した光の粒子の姿をして、怪獣に憑依し凶暴化させていたのだ。コスモスとムサシはそれを許すまいと、カオスヘッダーの悪行を幾度も食い止めた。しかし後に、カオスヘッダーのそれまでの行動は、秩序をもたらすための敢えての行動だったこと、カオスヘッダーにも心が形成されたことを知った。カオスヘッダーだけじゃない。怪獣たちはカオスヘッダーによる暴走がなくとも、人間側の身勝手な事情などの様々な事情で暴れ人々を混乱させてしまっていた。当然人類と怪獣たち、カオスヘッダーの間にはすでに深い溝ができてしまっていたのだが、ムサシは怪獣だけでなく、カオスヘッダーとの和解を試みた。普通、憎むべき敵との和解を望むなど考えられないことだが、憎しみを糧とした行動の愚かさを知るムサシは、それでもカオスヘッダーとの和解を…『憎しみからの救済』を諦めなかった。その果てに、ムサシはコスモスと自身の優しさを力とした慈愛の光でカオスヘッダーを浄化、和解に成功したのである。
こうして、我が子がかつての宿敵と、昔ながらの友人同然に手を振り合うのも、ムサシたちの努力の賜物にして、人間と怪獣の絆が起こした奇跡の証でもあった。
「なんだか信じられないよね。こうしてカオスヘッダーと一緒に暮らしてるなんて」
アヤノが、隣に立つムサシに対してそう言った。アヤノはEYESのメンバーの中では特にムサシとの距離が近かったことがきっかけで、現在はめでたくムサシと結婚しソラを授かった。だから、ムサシの理想の困難さを知っていたし、信じたい気持ちはある一方で、本当に叶えられるかどうかなんて半信半疑だった。だが、ムサシを近くで見ているうちに、彼を愛し、理想を信じるようになっていったのだ。
「確かにそうかもしれないな。でも、夢なんかじゃないさ。こうして、同じ星で一緒に生きてるんだから」
「ええ。そうね」
アヤノの気持ちもムサシは理解している。夢を叶えたムサシ自身、この現実が夢のようにも思えてならない。だがこれは決して夢なんかじゃないし、そんなもので終わってほしいものじゃない。現実で叶えてこその理想なのだから。
「あ、ムサシ、ソラ!リドリアスもこっちに来たよ!」
アヤノが、視線の先の空から、巨大な鳥型の怪獣が鳴きながらムサシたちの下に近づいてきた。
『友好巨鳥リドリアス』。ムサシたちの手で保護された怪獣たちの中で、特にムサシに懐いている、心優しき怪鳥である。リドリアスには、カオスヘッダーとの戦いの時期以降から、自分たちも何度も助けられたことがあった。彼はピグモンのように、人類にも敵意はなく、寧ろ最初から好意的に接してきてくれる珍しい怪獣なのだ。

しかし、三人が一度ジュラン内に建てたマイホームのリビングに戻った後、アヤノはテーブル越しに夫と向き合いながら、彼に話しかけてきた。
「そういえばムサシ、聞いた?」
「聞いたって、何を?」
「まだ地球に残っている怪獣たちの話」
「あぁ、怪獣たちも全てをこの星に運べるわけじゃない。怪獣たちも住み慣れた場所から離れたくない子もいるだろうし…」
「ムサシ、私が言いたいのはそのことじゃないの」
「え?」
てっきり、地球での住処から離れたがらない怪獣たちのことをどう片付けるかの問題のことを言っているのかと思っていたがそうではなかった。
「まだ地球に残っている怪獣の中で、時々住処からいなくなったきり、戻ってこないって話。知らない?」
「あぁ、その話か。それなら僕もフブキさんたちから話は聞いてるよ。SRC本部の調査隊や、EYESでも探してるみたいだけど、いずれも進展がないって聞いてる…」
怪獣たちの身に何かあったのか?そんな風にしか思えないことを妻から聞いたムサシが無視などできるはずもない。言葉をつづるうちに、ムサシの表情に影が差し始める。
「その、いなくなった怪獣たちが別の住処に移動したという情報もないの?」
「そういった話もなかったよ。行方不明になった場所から忽然とね。一体何があったんだ…みんな」
「ムサシ…」
今のムサシの顔を見て、アヤノも辛そうな表情を浮かべる。何度もあの苦悩に満ちた顔を見続けてきたが、やはり慣れるものじゃない。
すると、外で遊んでいた息子のソラが二人の下に走ってきた。
「お父さん!大変だ!」
「ん?どうした?」
「なんか、変な人がいきなり僕の前に…」
妙に慌てた様子の息子に、ムサシは何かあったのかを尋ねると同時に、突如彼らの間に白い煙かボン!と立ち上った。
「下がって!」
ムサシはアヤノとソラを下がらせ、白い煙に警戒する。白い煙は、やがてシルクハットと紳士服を着た白い服の男の姿となった。
「やれやれ、先ほど二人で話していたのに、いきなり逃げるとは…」
「お父さん、こいつだよ!いきなり僕の目の前に現れたんだ!」
「君は誰だ?」
ため息混じりにソラを見ながら呟く紳士服の男に、ムサシは警戒しながら、彼が何者かを尋ねた。
「いやはや、お初目にかかりますよ春野ムサシさん。
私、こういう者です」
その男は、自らの名刺をムサシに一枚手渡すことで自己紹介する。


「怪獣バイヤー、チャリジャ?」

そいつはなんと、トリスタニアにてリッシュモンに怪獣を売り、町で怪獣を暴れさせた『怪獣バイヤー チャリジャ』だったのだ。
 
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