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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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帰郷-リターンマイカントゥリー-part1/ルイズ連れ戻される

 
前書き
結構ストック溜まっているんですが、一気に投稿すると瞬時に更新が止まってしまうので、まだ月1の更新スピードで行きます。

…今回の話は去年から書き溜めてたな…


※警告
今回の話には「ウルトラマンメビウス外伝・ゴーストリバース」での出来事にも触れています。 

 
M78星雲光の国『宇宙警備隊本部』…。
「ただいま戻りました、ゾフィー兄さん」
「お前たち。無事に戻ったか。ご苦労だった」
帰還した4人のウルトラ戦士…メビウス、タロウ、エース、ヒカリの4人を見て、ゾフィーは労いの言葉をかけた。
「だが、らしくない手口を使ったものだ。それに頼ってでも事態の収拾を狙っておきながら、最悪の事態が起きかけた。自分の未熟さが情けない」
しかし、ヒカリはゾフィーの言葉に対し、首を横に振る。らしくない手口、とはどういうことだろうか。
「ヒカリ、それを言ってしまえば我々も同じだ。現に、キングが封じていた『あれ』を取り返せなかったのだからな」
自分を責めるヒカリに、エースが自分も同罪だと主張する。
「何があった?」
「それが…」
ゾフィーがメビウスたちに尋ねると、メビウスたちの口から説明が行われた。


怪獣墓場にて、ウルトラマンヒカリからのウルトラサインで、現地の異変を察知したウルトラ戦士たちは、メビウス・タロウ・エースの三人を派遣した。
そこでは、かつてサイトの地球を闇に包み込もうとした暗黒の異星人『暗黒大皇帝エンペラ星人』に付き従う四天王…
知将『悪質宇宙人メフィラス(三代目)』
豪将『冷凍星人グローザム』
謀将『策謀宇宙人デスレム』
そして邪将『異次元人ヤプール』が憑依した『異次元超人メビウスキラー』
が待ち構えていた。
一時別行動をとっていたメビウスが見たのは、人質として拘束されたエースとタロウ、そしてどういうわけか、四天王側についてウルトラ戦士を裏切ったヒカリの姿だった。
共に戦った仲間であるはずなのに、卑劣な侵略者の味方についたヒカリからの信じられない要求を、兄たちを人質に取られたメビウスは受けざるを得なかった。
だが、これは四天王たちに人質にとられてしまった二人を救うための偽りの裏切り。メビウスはヒカリを信じ、要求にあった『例のもの』を回収するために、怪獣墓場にある『炎の谷』と呼ばれる灼熱地獄へ向かった。
その例のものとは…

「…『ギガバトルナイザー』か」

ゾフィーがその単語を口にした。

かつてこの世界に、強大な力を持つエイリアンがいた。そのエイリアンは数多の怪獣を操る力を持っており、事実上宇宙を支配していたといえる強大な力を持っていた。だがその星人も時の流れに逆らえず、寿命による死の時を迎えた彼は自分の後継者を得るために自らの遺伝子を宇宙にばら撒いた。その遺伝子を受け継いだ者はレイオニクスと呼ばれ、バトルナイザーで怪獣を操る力を得る。その中でも最も凶悪かつ強大な力を持ち、そのエイリアンが持っていたとされているのが…ギガバトルナイザーなのである。
四天王は、自分たちの主であるエンペラ星人を復活させるためにそれを欲しがっていた。その企みもメビウスたちの活躍で阻止された。
…とある、誇り高き機械の戦士の犠牲によって…

「そうか…だが、エンペラ星人復活を阻止できたのか」
「ですが、僕は彼を…『メカザム』を助けられませんでした」
メビウスは、誇り高き機械の戦士…『メカザム』の散り様を思い返しながら、後悔の思いを口にした。
「彼は『ザムシャー』によく似ていました。あの姿を見ていると、エンペラ星人との戦いで散った彼を思い出してしまって…」
メカザムとは、メビウスがギガバトルナイザーの回収のため炎の谷に同行した武人だ。修羅の道を行く彼は、守るために戦うメビウスが、裏切りを働いたヒカリを信じる姿勢を固めていたことに呆れていたものの、次第にメビウスを認め、共にギガバトルナイザーを手に入れたのである。そして、ギガバトルナイザーを持って戻り、ヒカリも四天王たちの隙を突いてエースとタロウを救出、四天王もそのまま撃破し、事件は解決したかに見えた。だが、実はメカザムはエンペラ星人復活に必要な器だった。ギガバトルナイザーを四天王の企みで取り込まされてしまい、自我を失いながらエンペラ星人の姿に変わっていくメカザムは、自分が自分のままでいる内に殺してくれと懇願、その願いを泣く泣く受け入れたメビウスはメカザムを葬った。その際にギガバトルナイザーもどこかに消えていった。
「メビウス」
遮るように、ゾフィーがメビウスに言った。
「その気持ちはわかる。だが、ウルトラマンや大隊長も言っていたはずだ。我々は決して神ではない。どんなに強大な力を手にしたとしても、救えないこともあるのだ」
「…はい」
救えなかった命、それは全宇宙の知的生命体の中でも特に特殊で強い力をもつウルトラマンたちでも、決して逃れられないもの。話を聞いていたヒカリ、エース、タロウにも強い覚えがあった。
けど、救えないものがあるからと言って、自分たちの使命を投げやりにしてはならない。
全宇宙の平和…そこには多くの知的生命体たちの幸福と笑顔、かけがえのない未来がなければならないのだから。
「ギガバトルナイザーを早く回収し、再封印しなければなりません。ゾフィー兄さん、もう一度私を派遣してください」
「タロウ、焦るな。お前たちはまだ戻ってきたばかりで、四天王たちとの戦いのダメージも癒えていないはずだ。ここはセブンやアストラに行かせる。
すぐに銀十字軍のメディカルチェックを受け、今日は休め」
「わかりました」


その後、ゾフィーの命令で怪獣墓場付近の宇宙空間に向かったウルトラセブンとアストラは、ギガバトルナイザーの回収に向かった。メビウスたちが四天王と戦ってから時間がまださほど経過していない。なら、まだこの辺りを漂っているはずだ。
しかし、ギガバトルナイザーは見当たらない。
「セブン兄さん、見つかりましたか?」
「いや、残念だが…その様子だと、そちからもか」
「ええ。僕の能力で残された波動を検知してみましたが、もう既に…」
セブンもアストラも、ギガバトルナイザー捜索開始から結構な時間をかけていたが、一向に見つからなかった。この辺りはまっさらで障害物もなく、ウルトラマンたちの視力なら、ミクロまでの物質を見つけることができるはず。だがそれでも見つからない。となると…
「何者かが、回収した可能性がありますね…信じたくないですが」
「…」
アストラの言葉を聞きながら、セブンは周囲の空間を見渡す。さっきも言ったが、やはり障害物になるような小惑星も見当たらない。物陰に隠れている、ということもなかった。
「…誰かが四天王とメビウスたちの戦いを見ていたのかも知れないな。双方が疲弊、または倒れるのを見計らっていたのだろう」
ここから怪獣墓場はそれほど距離が離れていなかった。もしセブンの言う通りなら、メビウスたちが報告のために帰還した際に、戦いの際に発生した爆発に紛れて遠くへ飛ばされたギガバトルナイザーの場所を把握できるはずだ。
「あんなものを狙う奴なんてろくでもない奴に違いない。セブン兄さん、僕がすぐに追います!先に帰還して兄さんたちに知らせて…」
「待て、アストラ!敵はこちらや四天王の動きを把握した上で回収したはずだ。敵も追っ手が来ることを想定し、罠を仕掛けている可能性が高い。ここはお前も一度戻り、状況を把握するべきだ」
「そう、ですね…わかりました」
結局、ギガバトルナイザーは見つからなかった。やむを得ず、二人は一度光の国へ帰還することにした。

紛失したギガバトルナイザーが、何者かの手によって、思わぬ場所へ運ばれていたとも知らずに…




トリスタニア城、アンリエッタの執務室。そこでアンリエッタはマザリーニ枢機卿からの報告を受けていた。
「陛下、閣僚会議の結果、即時開戦を求める意見で一致いたしました」
「そうですか。やはり…」
報告書を眺めるアンリエッタの表情は険しい。長年仕えてきた勘から、マザリーニは彼女が何を考えているのかすぐに察した。
「陛下、やはりその様子だと、あまり乗り気では…」
「ええ、敵が怪獣という生物兵器を意のままに操り、そして…闇の巨人たちの脅威を知りながら、開戦を求めている理由。その背景には…『彼ら』の存在が大きすぎるのでしょう」
その彼らとは…紛れもなく、遠い世界から現れた光の勇者たち…ウルトラマンゼロ、そしてウルトラマンネクサスだ。この二人や、彼らと肩を並べるだけの強大な力を持つ戦士たちが、レコンキスタが差し向けてきた怪獣たちを退けてきた。果てはトリステインの裏切り者であるリッシュモンが放った怪獣さえも倒し、ウルトラマンたちが闇の巨人を除いてトリステインの味方であることが根付いていた。それは、ウルトラマンが人類の信頼を勝ち取ったという意味でも喜ばしい。
だが、以前からアンリエッタは気づいていた。今の貴族たちは、すべての解決をウルトラマンに任せきりにしようとしている意図がどうしても見えた。タルブでの戦の直前のアンリエッタの言葉に、その愚かさに気づいた貴族もいたが、今の彼らに怪獣と五分に戦えるだけの手段がないのだ。いやでもウルトラマンたちに任せきりになるのも致し方なかった。
「ですが、それを差し引いても、レコンキスタを…現アルビオンを打倒しなければトリステインだけでなく、ハルケギニア全土の脅威となるのは目に見えておりますぞ」
「もちろん、私もレコンキスタを許す気はありません。同じハルケギニアの民でありながらその誇りを捨て、異星の侵略者に媚を売り、怪獣の力で民たちを蹂躙したあの痴れ者たちの蛮行を止めなければなりません。ですが…私たちに、彼らと共に戦う力はありません。かろうじて、援護ができる程度。ゲルマニアも、盟を継続する意思はあれど軍事に手を貸す気配は…」
アンリエッタも、国の全てを担う女王としても、愛する男と利用し幼き日からの友達さえも利用しようとしたレコンキスタを許す気はないのだが、対抗手段も対策もまだ目処が立っていない。
レコンキスタから奪取したジャンバードを、あのタルブでの戦いのように武人の姿に変形する方法も、異星の科学技術で改造されたレキシントン号もまだ動かすことができない状態だ。
しかも、同盟国にしてキュルケの祖国であるゲルマニアも、怪獣による自国へのダメージを恐れて、トリステインのために軍を出すことを渋っている。前述のとおりウルトラマンの存在もあって、別に自分たちが手を貸す必要などないと考えている者が多かった。
余談だが、レキシントン号は元の『ロイヤル・ゾウリン号』に名前を戻された。これは、レコンキスタが自分たちの初勝利の場所の名前をそのまま取ったものだが、あのような恥知らず共の名づけた名前など不愉快だという声があったため、かつてアルビオン王党派がつけたものに戻したという。
話を戻そう。まだ決定打を持たないトリステインができる行動として、マザリーニはひとつの予想をたてる。
「では例の…虚無の担い手である、ヴァリエール公爵の三女殿のお力を?」
「…できれば避けたいことですが、他に手がない以上は…やはりルイズたちの力を借りざるを得ません。あの力は、全系統魔法の中でただひとつ怪獣にダメージを与えられるもの。民を守るために、使わなければならないでしょう」
アンリエッタはルイズの虚無のことは信頼できる者にしか明かしていない。貴族の中でも、国を裏で腐敗させるような真似をしておらず、真の意味で国に貢献した者しかルイズの力の秘密を知らないのだ。
「ヴァリエール様は公爵家の出とはいえ、まだ齢16の少女。軍人たちから反発を買うでしょうな…」
「ええ…でも、それ以上に…私は、あの子やウルトラマンたちの力を借りなければ、何もできない自分がもどかしい…」
マザリーニの悪い予想に、アンリエッタは合意し、さらに自身への無力感から身を震わせた。
「陛下、お一人で全てを抱えることはありませぬ。この老骨も微力ながら、できうる限りのことをいたす所存。ヴァリエール様たちも同じ気持ちでしょう」
「枢機卿…」
いけない、つい壁のように高くそびえる現実に折れそうになった。タルブの戦いの直前で偉そうに啖呵をきったのだし、ルイズたちが必死に自分を助けてくれている。そんな自分が彼らに報いる姿勢さえも失っては、それこそ申し訳が立たない。
「一刻も早く、ロイヤル・ゾウリン号の操縦方法の解明に。また、新兵器の開発にもより力を注ぐように伝えなさい」
「はっ」
マザリーニがすぐに手配を入れようとしたときだった。
「陛下!女王陛下!」
アニエスの声が、扉の向こうから響く。少々慌てていることが伺える。
「何事だ!銃士隊隊長。今は話の最中だぞ」
マザリーニが扉の向こうのアニエスに向けて怒鳴る。
「失礼いたした、枢機卿殿。ですが、たった今ミス・ヴァリエールのお呼びだしの任の報告をお伝えに参りました」
「聞きましょう。入りなさい」
アンリエッタが入室を許可すると、アニエスは二人のいる執務室に入り、女王の前で跪いた。
「何があったのです?」
「自分が陛下からの呼び出しの報を伝えた途端、ヴァリエール殿が、彼女の姉上殿に無理やりご実家に引き戻されました!」
「なんですって…!?」
この状況での思わぬ報告に、アンリエッタは思わず席から立ち上がった。


それはウェザリーの頼みで受けた舞台を終え、魅惑の妖精亭での打ち上げも終わったときのことだった。先にタバサやキュルケは用事があるからという理由で既にどこかへ行ってしまった。
「ふう、できれば二度とこんなのは避けたいわね」
そうため息混じりに呟いたのはモンモランシーだった。
「そう言うわりに、舞台楽しんでたじゃないか」
サイトはそんな彼女に指摘をいれる。
「そりゃ、確かに楽しめたけど…あくまで陛下の任務のためだったのよ。それがない状態でやってたら実家にバレたら勘当ものよ」
そう、本来お芝居は平民がやるもの。以前言ったが、貴族がこれをやると沽券に関わり、最悪実家から追い出され、はぐれメイジになることがあるのだ。
「ならモンモランシー、今度は二人きりでお芝居をやってみないかい?」
「はいはい」
ギーシュがモンモランシーに、いつも通りのキザっぷりを晒しながら誘いをかけ、モンモランシーは適当に聞き流した。そんな中、ルイズは少々元気がなかった。
「ルイズ、どうしたんだ?」
テンションが高くないルイズってわけいうのも珍しい。何かあったのだろうか。
「別になんでもないわ。いつも通りよ」
ルイズはなんでもなさそうに言うが、サイトにはどうしてもいつも通りに見えない。
一方でハルナはご機嫌だった。ウェザリーから鞄を返してもらったし、昨日はサイトと素敵(決して危ない意味はないぞ)な一時を過ごしたことが強く影響した。
「ねぇねぇ平賀君、これ見覚えある?」
ハルナは鞄から一冊の本を取り出す。
「ん?…ああ、学校の教科書か!うわぁ、久しぶりに見たから懐かしいな」
彼女がサイトに見せたのは、地球にいた頃に自分たちが高校で使っていた教科書だ。長く見てなかったから、まるで小学生時代のそれを押し入れの奥から見つけたような、そんな懐かしい気持ちが高まった。
そんな光景が、ルイズには面白くなかった。昨日は舞台で、サイトと自分で主役を飾ったというのに、自分たちにはそれらしいあとのやり取りというものがなかった。しかも自分の知らないところで、本来はノエル王女役を勤めるはずだったハルナと、二人だけのお芝居をやっていたしかもハルナは、芝居の台詞に乗せてサイトに、どう考えても告白のようにしか聞こえない言葉を告げていた。しかも、サイトはそれを受け入れたかのような返答をしたではないか。その事が、ルイズの中に強いモヤモヤを産み出していた。
(わかっていたことなのに…)
彼が故郷に戻るのは当然のことだとわかっていたことなのに、納得できない自分を感じている。
そんなサイトたちを見て、ギーシュたちはやれやれとため息を漏らし出した。
「やれやれ、ルイズも苦労してるみたいね」
そう言ったのはモンモランシー。同じ女同士だしルイズは分かりやすい性格、彼女の気持ちについては察しがついている。…
「おいおい。まさか、ルイズの奴…自分の使い魔にあそこまで?」
レイナールはルイズとは深く関わったことがなく、サイトのこともギーシュが認めた平民であるという印象くらいだが、それでもあの公爵家の出である彼女が、平民の使い魔に恋をしているだなんて驚かされてしまう。
「くっそお…アイツいいなぁ」
マリコルヌはむしろモテモテのサイトを羨んでいた。モテたいという願望とは裏腹に見た目が全くモテそうにないものに育ったことがコンプレックスな彼にとって、今のサイトは妬みと羨みの対象である。ルイズをゼロのルイズと揶揄していたわりに現金なものだ。
しかもサイトは、今まさに三角関係が始まっていることに気づいていない。ちなみにデルフは無言のまま三人の様子を静観、ゼロも特に何も言わないことにした。
だが一方で、この男は茶化してきた。
「おや、どうしたんだいルイズ。サイト君からも言われたと思うけど、ずいぶん暗い顔になっちゃってるね」
「ひゃ!?」
ふと、急にルイズは後ろからジュリオに離しかけられ思わずびっくりしてしまう。
「い、いきなり話しかけないでよ!」
振り返ったルイズは顔を赤らめながらジュリオに文句を言う。そんな彼女にジュリオは余裕の態度を崩さずにアドバイスする。
「サイト君と話をしたいのなら、まず君から話を吹っかけてみたらどうだい?」
「…いいわよ、あんな犬のことなんか」
しかし素直じゃないルイズのこと、そういったことを簡単にできない。意地を張ってどうでもいい振りをする。
「ふーん、それなら僕と二人で話をして見ないかい?」
「な、なんでそうなるのよ!」
ジュリオのからかっているとしか思えない誘いにルイズが怒鳴る。ちらっと、サイトの方を一瞬見るが、サイトはルイズの方を見ていなかった。さっきからハルナが持ってきた地球の私物を見て、話を弾ませている。
(ご主人様が他の男に言い寄られても、なんとも思わないわけ…?)
ルイズは意地っ張りゆえに、理屈ではない、素直に認めたくない気持ちが自分の中で高まっているのを痛感した。次第にわなわなと身が震え出す。
「ヴァリエール殿、こちらでしたか」
「あ、アニエスさん」
するとそこへ、アニエスがサイトたちの元にやって来た。サイトが彼女の来訪に気がついて彼女の方を向く。
「お前たちもいたか。ちょうどいい…む、あの二人はどうした?」
「キュルケとタバサなら、用事があるから既すでに既にここを出たよ」
レイナールが、ここにいない二人のことを簡潔に伝える。
「そうか、あの二人は正規の者ではなかったからな。仕方ない。
それはそうと、女王陛下から貴殿らにお話したいことがあるとのことだ」
「姫様から?」
再びアンリエッタからの誘いの話に、ルイズも顔を上げた。やけに立て続けだ。何かあったのか。
「済まないが私に着いてきて…」
「その必要はないわ」
着いてくるようにアニエスが言ったその時だった。突然サイトたちの耳に聞き慣れない耳に聞きなれない声が聞こえる。見ると、アニエスの後ろから、長身で長い金髪に、つり上がった鋭い目を向ける女性がいた。
「あの、あなたは…」
誰もが、一体どこの誰かと疑問を抱く。しかし、ルイズだけ反応が皆と違っていた。口をパクパクさせ硬直している。
「え、ええええ…エレオノールお姉様!?」
「お姉さま?へえ…って!?」
お姉さま!?それを聞いたとたんにサイトたちは驚愕する。
ふと、サイトはあることを思い出す。エレオノールという名前、確か以前にどこかで聞いたことが…そうだ!確かルイズがお姫様からの依頼でもらった金が少ないとかごねて銀行に行ったとき、銀行員からもらった手紙にこの人の名前があったんだっけ。
「じゃあ、この人がルイズのお姉さん…」
見れば見るほど、このエレオノールという女性がどことなくルイズに似ているとサイトたちは思った。身に纏う貴族のオーラ、プレッシャーもそれらしいし、顔つきや髪型も似ている。何より、いかにもキツそうな性格を体現したような険しい表情。まさにルイズを今のまま大人にしたような感じだ。
「しっっっっかりこの目で見たわ、ルイズ。これまで魔法学院の生徒として勉学に励んでいるはずのあなたがこの町に訪れ、しかも城に出入りしているのをね。
しかも、公爵家の三女とあろう者が、まさか舞台に立つなんて…」
「お、お姉さま…もしかして…」
悪い予感がよぎり、ルイズは冷や汗をかく。銀行でもらった手紙の文面を呼んだときもそうだったように、ルイズはこの姉に対して頭が上がらないようだ。
「ええ、見させてもらったわよ。あなたが見事に舞台でそこの平民と一緒に主役を張るという、貴族とはとても思えない行為に及んだことをね!」
ゴゴゴゴゴゴ…漫画でよく見る擬音が、エレオノールの背後から立ち上っているように見える。
「あ、あのお姉さま…これには深い理由が…」
しまった!とルイズは激しく焦り始めた。この人に、姫から依頼された任務のためとはいえ、貴族でありながら舞台に出たという事実は一番聞かれたくなかった。説教地獄なんて生ぬるい地獄を見ることになるのが目に見えているから。
しかし、次に姉の口から飛んできた言葉は、彼女にとって意外な言葉だった。
「ええ、いいでしょう。聞いてあげようじゃありませんか」
「え!?」
ルイズは驚いて顔を上げ、姉の顔を見る。エレオノールはルイズからの口答え等を一切聞いてあげたことがない。だからこのような言い回しをしてきた姉を意外に思った。以前のような過剰な手厳しさが緩和されたのだろうか。…というルイズの期待は無念にも打ち砕かれる。
「た・だ・し!」
「ひぃ!?」
いきなり眼前にまで詰め寄ってきたエレオノールに、ルイズは思わず身を震わせる。
「話は実家でさせてもらうわ」
「え?実家って…?」
どういうことだと尋ねる前に、エレオノールが再びルイズに怒鳴る。
「実家に帰って家族会議をするに決まっているでしょう!あなた、これまでどれほど好き勝手してきたと思ってるの!今度という今度は許しませんよ!」
「そ、そんな…」
「待たれよ!」
これからアンリエッタからの呼び出しの用件を聞きに行くところなのだぞ。強引なエレオノールに、アニエスが抗議を入れる。
「これからあなたの妹君には、女王陛下からの…」
だが、エレオノールは無理やりアニエスの話を切り上げてきた。
「悪いけど、その話は我々ヴァリエール家のみの話し合いが終わってからよ。陛下にもそう伝えよと、お父様からの命令だからよろしく」
「そんなご勝手な!」
「あなたのような、平民ごときからの成り上がり風情が、私に偉そうな口を利かないで頂戴!」
エレオノールはアニエスの噂を聞いている。これまで堕ちたメイジたちを何人も倒したと言われ『メイジ殺し』と呼ばれている彼女だが、エレオノールからすれば、貴族の権威を落とす厄介な腫物。しかも大嫌いなゲルマニアのような成り上がり共と同じように平民のくせに貴族の位を手にするなど、気に入らない相手だ。
あまりの尊大なエレオノールの言い方に、アニエスは心底カチンと来た。確かに自分は元々平民出身だ。だが、アンリエッタは身分に関係なく自分を片腕として登用してくれた大人物。そんな彼女が、周囲の貴族の反対を押し切って自分を抜擢してくれたのだ。エレオノールの言い方は、自分が忠誠を誓う女王への侮辱にも聞こえ、アニエスにとってムカつき要素以外の何でもなかった。
(そういう貴様ら貴族とて、権力に胡坐をかいてはそのような傲慢な物言いばかりの馬鹿者共ではないか…!)
口には出さなかったが、貴族も貴族だとアニエスはエレオノールを睨みつける。そんな彼女の視線を異に返さずに、エレオノールは言う。
「そもそも勝手はどっちかしら?いくら女王陛下と言えど、あまりうちの妹を好き放題使い走らないでほしいわね」
「お姉さま!姫様は私を…」
「お黙りちびルイズ!あなたの言い訳は家に帰ってからよ!ほら、そこの平民二人、あなたたちも召使としてついてきなさい!」
まるでアンリエッタが自分を酷使しているように聞こえたルイズは聞き捨てならないと抗議しようとしたが、エレオノールはルイズの話にも一行に耳を貸さず、いつぞやルイズがサイトにしたように、彼女のほほを引っ張って引きずり出す。さらには矛先をサイトとハルナにも向け、強引に二人をレビテーションの魔法で浮かせて無理やり運び出したではないか。
「い、いひゃい!いひゃいですよお姉ざま~!!」
「え、ちょっと!!?」
「わ、私も!?」
動揺する二人も、ルイズの泣き言も無視し、エレオノールはそのまま用意していた二大の馬車のうち、豪勢な方の馬車に自分とルイズを、簡素な方の馬車にはサイトとハルナ、そして持参してきた荷物を詰め込んでそのまま行ってしまった。
嵐のように去っていったエレオノールたちに、ギーシュたちはもはや呆然とするしかなかった。
「はは、さすがはルイズのお姉さんだ。強引だね」
ジュリオは逆にそれを見て、エレオノールを引き止めることもなく面白げに笑っているだけだった。
「あぁ…僕、ああいう人に踏まれて命令されたくなった…」
…エレオノールが去っていった後で、マリコルヌがうっとりしながらそんなしょうもないことを言っていたのは余談である。
「…うちの部隊は、ろくでなしばかりだ」
さらに、レイナールがギーシュとマリコルヌの人物像から照らし合わせて、今のUFZにはまともじゃない奴が目立っていることを痛感したという。
しかしこれを見逃すわけに行かない。今のルイズは女王直属の女官。勝手な真似は、たとえ王室と遠い親戚に当たるヴァリエール公爵家でもやっていいことではない。アニエスはすぐにこのことをアンリエッタに伝えに向かったのであった。


ということで、サイトたちは無理やりルイズの実家である、ラ・ヴァリエール領へと連行されることになった。
 
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