| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七十話 霜の巨人族の王

~キリト side~

氷の居城《スリュムヘイム》に突入してから、既に十分が経過している。
《湖の女王ウルズ》が言っていた通り、ダンジョン内の敵影は相当に手薄くなっており、通路での雑魚Mobとのエンカウントはほぼゼロ。
フロアの中ボスも半分は不在だ。
現在俺たちは、第一層のボスであり、圧倒的攻撃力を持つ、右手にハンマーを持つ単眼巨人サイクロプス型ボスと交戦中だ。

だが、その攻撃力も鉄壁のアーサーとランスロットの二人の前では完全に無駄。

仮に魔法攻撃が来ても、シンタローの防御魔法が防ぐ。

そのお陰で俺達は攻撃に専念することが出来た。

第一層のボスを倒し回復を終えた後、第二層を駆け抜けて、再びボス部屋まで辿り着き、ボス部屋の中へ入った。
其処で俺たちを待ち受けていたのは、ミノタウロス型の大型邪神、二体だった。
右が全身黒色、左が金色、武器は双方共巨大なバトルアックス。

俺は金色の、サクマが黒色のミノタウロスに突進し、攻撃を撃ち込む。
だが、金色のミノタウロスのHPは、数ドットしか削れなかったのだ。

キリト「なッ!?」
クライン「まじかよ。 キリトの攻撃が全然効いてないぞ!?」

一方、サクマが攻撃した黒色のミノタウロスには、ダメージが通っていた。
これを見ていたユイが、大きな声で叫んだ。

ユイ「パパ、ママ。 どうやら金色のミノタウロスは《物理耐性》が、黒色のミノタウロスは《魔法耐性》が異常な高さで設定がされているようです!」
アーサー「だったら前衛は黒の方を、後衛は金の方を集中攻撃! 金の方の攻撃は俺が抑える!」
ランスロット「ならば、黒の方は私が行こう。」

そして、先に黒の方がHPが残り少なくなるが、そうすると金の方がカバーに入り、黒の方は後ろで瞑想してHPを回復させ始めた。

アーサー「シンタロー! 雷属性の魔法頼む!」
シンタロー「もう準備出来てる! 行くぞ!」

シンタローから放たれた雷属性の魔法を龍爪剣で吸収し、すでに準備してた両手剣ソードスキル《アバランシュ》物理五割、氷四割、風一割に追加で雷を纏わせる。

アーサー「ぬおぉぉらあぁぁ!!」

すでにHPが四分の一近くまで削られていた金の方は一溜まりもなく、そのHPを全て無くした。

クライン「よぉーし、牛野郎、そこで正座!」

その後、黒の方がボコられたのは言うまでもない。

逆ピラミッドになっている為、三層は上層のフロアに比べ狭い、その代わりに通路も細く入り組んでいる。
普通に攻略しようと思ったら道に迷い右往左往したが、ここはユイの力を借り、地図データに指示に従って先へ進む。
途中で立ちはだかるギミック類も、ユイの指示に従い次々に解除し、全速力で駆け抜けて行く。
二回の中ボス戦を挟んでも、俺たちは僅か十二分で第三層ボス部屋まで到達した。
ボス部屋で俺たちを待ち受けていたのは、上層のサイクロプスやミノタウロスの二倍近い体躯たいく、しかも左右に十本もの足を生やした、大変気色悪いムカデ型巨人だった。

アーサー「んじゃ、これまでと同じように行くぞ!」

アーサーとランスロットが攻撃を捌いている中で俺達は、奴の足一本に集中攻撃を仕掛けていた。
その時、クラインが放った一撃により、奴の足が吹き飛んだ。

キリト「よし、いいぞ! 今吹き飛ばした片側から足を破壊するんだ! そうすればバランスを崩すはずだ!」

俺の言葉にクライン達は頷き、攻撃を続けた。 アーサーとランスロットは攻撃を捌きながら、タゲを取り続けた。
七分経過した頃、片側の足を全て破壊したことで、ボスがバランスを崩し、真横に倒れた。
その隙に、全員のソードスキルを叩き込み、全ての足を破壊した。
最後は動けなくなった所を、俺とサクマのスキルコネクトを含む多重ソードスキルで仕留め、ポリゴン片へ爆散させた。

キリト「みんな、お疲れ」

俺がそう言ってから、お馴染みのハイタッチをする。
それから、HPMPを全快にした後、第四層に踏み込んだ。

ボス部屋の通路に踏み込んだ俺たちの眼前に――判断に迷う一つの光景が出現した。

???「助けて、」

通路の壁際に、細長い氷柱で作られた檻の向こうに、一つの人影があった。
身長はアスナとほぼ同じ位で、粉雪のように白い肌と長く流れる深いブラウン・ゴールドの髪、漆黒の瞳、身体を申し訳ばかりに覆う布から覗く胸は、……この場に居る女性全員を圧倒している。 俺は、胸の大きさなんてどうでもいいが。

???「お願い。 私を、ここから、出して。」

ふらり、と氷の檻に吸い寄せられた刀使いの、後ろ頭から垂れるバンダナの尻尾を、俺はがしっと掴み、引き戻した。

キリト「罠だ。」
サクマ「罠だな。」
セト「だと思うっす。」
キド「罠だ。」
アルゴ「罠だネ。」

ぴくんと背中を伸ばして振り向いたクラインは、実に微妙な表情で頭を掻いた。

クライン「お、おう。 罠、だよな。 罠、かな?」

往生際の悪い刀使いに、俺は小声で「ユイ?」と訊ねる。 頭上の小妖精から、即時の応答。

ユイ「NPCです。 ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています。 ですが、一点だけ違いが。 この人は、HPゲージがイネーブルです。」

Enable、即ち《有効化されている》ということだ。
通常、クエストの登場NPCはHPゲージが無効化されており、ダメージは受けない。
例外が、護衛クエストの対象となっているか、あるいは。

シノン「罠よ。」
サクラ「罠だね。」
ストレア「罠だよねー。」
フィリア「罠だと思う。」
コジロウ「罠ですね。」

そう。 罠の可能性もあるのだ。 俺たちの背中から奇襲、或いは何処かに誘導など。
眉を八の字に寄せ、眼を見開き、口をすぼめるという複雑怪奇な表情で固まるクラインをの肩を叩き、俺は早口に言った。

キリト「もちろん、罠じゃないかもしれないけど、今はトライ&エラーをしている余裕はないんだ。 一秒も早く、スリュムの所まで辿り着かないと、」
クライン「お、おう、うむ、まぁ、そうだよな、うん。」

クラインは小刻みに頷き、氷の檻から視線を外した。

ランスロット「待ちたまえ、まだ罠と判断するには早い。 名前は?」
フレイヤ「フレイヤです。」
リーファ「フレイヤ? どこかで聞いたような。」
アーサー「北欧神話の月と豊穣の女神だな。」
カノ「んー、なーんか違和感感じるんだよねー、おねーさん?」
アーサー「ま、本当は雷の神、トールなんだろ?」

すると、それまで出していた綺麗な声から一転、重々しい男性の声で話し始めた。

トール「ほう、ロキが我に施した変装を見破るとは、中々の眼をしておる。 いかにも、我がトールである。」
クライン「う、嘘だろ。」
キド「よ、良く分かったな、カノ。」
カノ「まぁね。 嘘つきには嘘つきなりの勘があるんだよねー。」
アーサー「目的は、ミョルニルの奪還か?」
トール「然り。 我が宝、ミョルニルを霜の巨人の王から奪い返し、その礼をたっぷりとするためよ。」
アーサー「ま、倒すべき相手は同じだし、ふっ!」

アーサーが剣を一振りして檻を破壊し、次に氷の鎖を破壊した。

トール「礼を言うぞ、妖精の剣士。」
アーサー「そりゃ、どーも。」

そう言ってアーサーは【Freyja/Thor】をパーティーに加えた。

トール「あの巨人の王にはまだこの事を知られたくは無い。 我のミョルニルが見付かるまではくれぐれも、」
アーサー「分かってる。 その声と口調、戻した方が良いぜ。」
フレイヤ「では、参りましょう! 妖精の剣士達よ!」
アルゴ「ニャッハハハハハ!!」

声と口調を戻すところまで、罠だと思っていた俺達はフリーズしたままで聞いていた。
アルゴだけはそのギャップに大爆笑。

アーサー「どうした? 置いてくぞ。」
リズ「わ、私、もう何が何やら、」
フィリア「右に同じ。」

まだ混乱してるのが若干数名。

その後、少し混乱から立ち直るために時間を取り、その先に進んだ。
階段を下りた先には、二匹の狼が彫り込まれた分厚い氷の扉が立ちはだかっていた。
この扉の奥が、《霜の巨人王スリィム》の玉座の間だろう。
扉は、俺たちが五メートル内に踏み込んだ途端、自動的に左右に開き、奥から冷気の風が吹き寄せてくる。

キリト「アスナ、シンタロー、頼む。」
アスナ「うん。」
シンタロー「りょーかい。」

俺の問いに頷いたアスナとシンタローは、全員に支援魔法を張り直し始めると、先程パーティーに加わったフレイヤもとい、トールがそれに参加し、全員のHPを大幅ブーストするという未知の魔法を掛けてくれた。
全員で頷き交わし、ボス部屋に一気に駆け込む。
内部は、横方向にも縦方向にも、途轍もなく巨大な空間になっていた。
壁や床は、これまでと同じ青い氷。 同じく氷の燭台に、青紫色の炎が不気味に揺れ、遥か高い天井にも同色のシャンデリアが並ぶ。 しかし俺たちの眼を真っ先に奪ったのは、左右から奥へと連なる、無数の眩い反射光だった。
黄金。 その中には剣、鎧、盾、彫像から家具まで、ありとあらゆる種類の黄金製オブジェクトが、無数に積み重なっている。

アヤノ「う~、眼がちかちかする。」
アスナ「凄い数の財宝ね」
フィリア「わー、全部欲しい。」
リズ「総額、何ユルドだろ、」

その時広間の奥の暗がりから、地面が震えるような重低声が聞こえてきた。

???「小虫が飛んでおる。」

地響きをたてながら、此方に近づいて来るのは、巨大な影だ。
その影は、通常の邪神や、この城で戦ってきたボス邪神の倍を優に超える大きさであり、脚は巨木のように太く、肌の色は鉛のような鈍い青。
両腕両足には、巨大な獣から剥いだ黒褐色の毛皮を巻き、腰回りには小舟ほどの板金鎧。
上半身は裸で筋骨隆々であり、胸には青い髭が垂れ、額に乗る黄金の冠と、瞳は寒々とした青。
いままで戦ってきたボスの中でも、最大級の大きさだ。

スリュム「ふっ、ふっ、アルヴヘイムの羽虫どもが、ウルズに唆そそのかされてこんな所まで潜り込んだか。 どうだ、いと小さき者どもよ。 あの女の居所を教えれば、この部屋の黄金を持てるだけくれてやるぞ、ンンー?」

今の台詞からして、コイツこそが《霜の巨人王スリュム》であるのは最早間違いなかった。
大巨人に向かって、真っ先に言葉を返したのはクラインと俺だ。

クライン「へっ、武士は食わねど高笑いってなァ! オレ様がそんな安っぽい誘いにホイホイ引っかかって堪るかよォ!」
キリト「お前を倒して、ヨツンヘイムを元に戻す!」

言葉が終わると同時に、全員が武器を抜き放ち、構える。
奴は、俺たちを遥か高みから睨め付けた後、先程パーティに加わったフレイヤに眼を向けた。

スリュム「ほう、ほう。 そこにおるのはフレイヤ殿ではないか。 檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心が付いたのかな、ンン?」

クラインが半ば裏返った叫びを漏らす。

クライン「は、ハナヨメだぁ!?」
スリュム「そうとも。 その娘は、我が嫁としてこの城に輿入れたのよ。 だが、宴の前の晩に、儂の宝物庫を嗅ぎ回ろうとしたのでな。 仕置きに水の獄へ繋いでおいたのだ、ふっ、ふっ」

俺達は笑いを抑えるか、哀れみの籠った目でスリュムを見ていた。

フレイヤ「誰がお前の妻になど! かくなる上は、剣士様達とお前を倒し、奪われた宝を取り戻すまで!」

そりゃそうだろうね。

スリュム「ぬっ、ふっ、ふっ、威勢の良いことよ。 さすがは、その美貌と武勇を九界の果てまで轟かすフレイヤ殿。 しかし、気高き花ほど手折る時は興深いというもの。 小虫どもを捻りつぶしたあと、念入りに愛でてくれようぞ、ぬっふふふふ。」

クエストとはいえ、こんな下劣な言葉使いは不愉快になる。
だがそれ以上に滑稽だ。

スリュム「ヨツンヘイムが儂の物となる前祝に、まずは貴様らから平らげてくれようぞ!」

ずしん、とスリュムが一歩踏み出した瞬間、俺の視界右上に、長大なHPゲージが三段積に重なって表示された。
スリュムの見た目からして、相当なステータスが設定されているはずだ。
HPゲージが見えない、新生アインクラッドのボスたちと比べれば、ペース配分が掴めるからまだマシだが。

キリト「来るぞ! ユイの指示をよく聞いて、序盤はひたすら回避!」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
アーサー「の、前に開幕先制攻撃、喰らっとけ。」

後方でシンタロー、アリス、そして自分自身で龍爪剣に雷と風を蓄えていたアーサーが一気に飛び出し、その剣で攻撃する。

狙うは弱点が多い顔。

アーサーがスリュムの顔に切りつけると剣から大量の雷と風が発生し、大ダメージを与えた。

一撃で一本目をイエローまで持っていった。

スリュム「ぐおおぉぉぉぉ!! この、羽虫風情がぁ!」
ユイ「パンチ三連続来ます!」
アーサー「一発目は俺! 二発目はランスロット! 三発目は回避!」

空中に居たままのアーサーが一発目を左手のパンチで弾き、その勢いを利用して地面に降りる。

二発目は体制を立て直しきれなかったアーサーの前にランスロットが入り、盾でガード。

三発目はアーサーとランスロットが左右に跳び、回避した。

アーサー「流石に俺に攻撃が集中するか。 じゃ、俺は暫く防御に専念するから、攻撃よろしく。」
キリト「やり投げ!?」
アーサー「役割分担と言って欲しい。」キリッ

などと若干ふざけながらスリュムの攻撃を防いでいる。

ユイ「直線レーザーブレス来ます! 三秒前! 二! 一!」

スリュムから氷の直線ブレスが放たれる。

これは全員が回避した。

そしてスリュムの足元に集まり、攻撃するが足に付けられた防具(靴)のせいでまともにダメージが入らない。

ユイ「三連ストンプ来ます!」
キリト「やばい! 全員スリュムから距離を取れ!」

スリュムの三連ストンプを回避すると、今度はスリュムが地面を叩き、氷のドワーフを十二体生成した。

が、これはシノンとシンタローの二人による精密射撃ですぐに倒す。

その時、紫の雷がスリュムに降り注いだ。 フレイヤによる魔法だ。
それによりスリュムのHPが大きく削られた。

セト「シンタローさん、こいつ思ってたより魔法耐性低いんじゃ無いっすか?」
シンタロー「かもな。 試してみるか。」

そして繰り出したのは火属性最高位魔法。

すると先程のフレイヤの雷ほどでは無いが、スリュムのHPが削られた。

キリト「おお、結構削ったな。 シンタロー、今のもう一回。」
シンタロー「回復メインでやってるんだ。 そう簡単には出来ない。 それに俺やフレイヤだからあそこまで出来るんだ。 魔法スキルをかなり上げてないと通らないと思え。」
キリト「さいですか。」

とは言え、フレイヤの魔法により、戦闘開始から五分ほどで最初の一本を削りきった。

スリュム「ぬおおぉぉおお!!」
キリト「パターン変わるぞ! 注意しろ!」

その時、スリュムが両胸を大きく膨らませるように、大量の空気を吸い込んだ。
これは、広範囲攻撃!
回避するには、風魔法で吸引力を中和しなければならない。
同じことを考えたリーファが、左手をかざし、スペル詠唱を始める。
しかしこの攻撃は、敵のモーションを見た瞬間に詠唱しなければ間に合わない。

キリト「みんな、防御態勢!」

俺の声に、リーファがスペル詠唱を中断して両腕を身体の前でクロスし、身を屈めた。

スリュム「ん、ばああぁぁああ!」

スリュムの口から直線ブレスとは異なる、広範囲に膨らむダイヤモンドダストが放たれた。
その結果、俺達前衛のアバターの下半身が凍結され、完全に身動きを封じられた。



ただ1人を除いて、

前方で身体を起こしたスリュムが、巨大な右脚を持ち上げた。

と、同時にスリュムが急に仰け反った。

アーサーだ。

スリュムが吸い込みからブレスに転じる僅かな隙に大きくジャンプし、ブレスを回避、さらにスリュムの顔を殴ったのだ。

そして、俺達のアバターが赤い光に包まれると、動きを止めていた氷が溶け出した。

シンタローとアスナによる解氷魔法だ。

スリュムはアーサーを攻撃しようとしており、こちらを見向きもしない。

不意に傍らから声がして、俺はぎょっと眼を向けた。
フレイヤもといトールだった。

トール「このままではあの巨人の王を倒すには時間が掛かる。 我の宝、ミョルニルを見つけてくれ。 さすれば我は真の力を取り戻し、あの憎き巨人の王を倒して見せよう。」
キリト「分かった。 この部屋の何処かにあるんだな?」

俺の言葉にトールは深く頷き答えた。

集団戦闘のサウンドエフェクトを聞きながら、俺はぐるりと広大な玉座の間を見回した。
青い氷の壁際には、黄金が幾重にも積み上がっている。

キリト「って言ってもどうやって、」
リーファ「お兄ちゃん! 雷系のスキルを使って!」
キリト「雷、そうか! 分かった!」

気合いに乗せて、思いっきり床を蹴り飛ばし、空中で前方宙返り、同時に逆手に持ち替えた剣を、真下に向けて身体ごと突き下ろす。 片手剣重範囲攻撃、《ライトニング・フォール》。物理三割、雷撃七割。
この攻撃によって周囲に雷鳴が轟き、突き刺さった剣を中心に青紫色のスパークが全方位に駆け抜ける。
俺は身体を起こし、周囲を見渡す。

キリト「あれか!?」

黄金の山の奥深くで、先程生み出した雷に呼応したかのように、紫の雷光が小さく瞬いた。
俺は、そこに駆け寄る。

そして二刀流OSS、《エンド・リボルバー》計二連撃。 物理五割、風五割の範囲攻撃で黄金が一斉に吹き飛び、一つだけ吹き飛ばない黄金の金槌を発見した。

キリト「! やっぱり重いな!」

俺は気合いで持ち上げ、振り向くと、この金槌を求めていた人物に投げ渡す。

キリト「トール、受け取れ!」

金髪美女は細い右手をかざすと、俺が投げた激重金槌を見事に受け止めた。
直後、長いウェーブヘアが流れ、露わになった白い背中が小刻みに震える。

トール「・・・・・ぎる。」

ぱりっ、と空中に細いスパーク瞬く。

トール「・・・なぎる・・みなぎるぞ。」

スパークは激しさを増し、ゴールデンブラウンの髪がふわりと浮き上がり、純白の薄いドレスの裾が勢いよく翻る。

トール「みな・・・ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオオ――――――!!」

雄叫びを上げ、全身に雷を纏い、白いドレスを粉々に引き千切られ、消滅した。
その姿はみるみる巨大化していき、顔の輪郭もゴツゴツに変化して、金褐色の長い髭まで生えている。
右手に握られた金槌もまた、持ち主に合わせて巨大化し、外見は四十代のナイスミドルという感じだ。

アーサー「うお、ごっつ!」
アルゴ「あー、映像残したかったナ。」
トール「卑劣な巨人めが、我が宝であるミョルニルを盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!」
スリュム「小汚い神め、よくも儂をたばかってくれたな! その首切り落として、アースガルズに送り返してくれようぞ!」

雷神トールは、右手に握ったミョルニルを振りかざして突き進み、対する霜の巨人スリュムは、右手に氷の戦斧を造り出した。
互いの武器を轟然と撃ち合わせたインパクトで、城全体を揺るがす。

キリト「トールがタゲを取ってる間に、全員で総攻撃を仕掛けるぞ! ソードスキルも遠慮なく使ってくれ!」
皆「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

そして俺達は一気に床を蹴り、三連撃以上のソードスキルを次々スリュムの両脚に叩き込んだ。
さらに遠距離攻撃の出来るシノンとシンタローは容赦なく顔面を撃ち、アーサーも飛び上がって喉元を切りつける。

スリュム「ぐ、ぬむッ!」

堪らず唸り声を漏らしたスリュムが、ぐらりと身体を揺らし、遂に左膝を着いた。
王冠の周囲を、きらきらと黄色いライトエフェクトが回転している。 スタン状態だ。

キリト「ここだっ!」

それぞれの持っているなかで最上位の攻撃を次々と叩き込む。

トール「ぬうぅん! 地の底に還るがよい、巨人の王!」

止めに雷神トールがミョルニルをスリュムの頭に叩き付け、王冠が砕けて吹き飛び、地響きを立てて仰向けに倒れ込んだ。

スリュム「ぬっ、ふっふっふっ。 今は勝ち誇るがよい、小虫どもよ。 だがな、アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ。 彼奴らこそが真の、しん」

スリュムが全て言い終わる前に、雷神トールの強烈なストンプが炸裂し、氷結しつつあったスリュムの巨体を踏み抜いた。
凄まじいエンドフレイムが巻き起こり、霜の巨人王は無数の氷片となって爆散した。

トール「やれやれ、礼を言うぞ、妖精の剣士たちよ。 これで余も、宝を奪われた恥辱をそそぐことができた。 どれ、褒美をやらねばな。」

左手を持ち上げ、右手に握るミョルニルの柄に触れると、嵌まっていた宝石の一つが外れ、それは光を放ってアーサーの前に寄ってくると、人間サイズのハンマーへと変形する。

トール「《雷槌ミョルニル》、正しき戦のために使うがよい。 では、さらばだ」

雷神トールは白い稲妻を発生させ、俺たちが反射的に眼を瞑った間に姿を消していた。
スリュムからドロップしたアイテム郡は、パーティーの一時的なストレージに自動格納されていく。

キリト「ふぅ、」
アスナ「お、終わったね。」
キリト「ああ、終わったな」

俺とアスナは、剣を鞘に収めた。
霜の巨人王スリュムと戦闘は、俺たちの勝利で幕を下ろした。

フィリア「あぁー! 私のお宝が消えちゃったぁー!」
サクマ「お前に所有権無いだろ。」

~side out~ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧