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英雄伝説~光と闇の軌跡~番外編 アリサのお見合い篇

作者:sorano
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第4話

~ミシュラム~



「いい風………大国となったクロスベルの保養地としてまさにピッタリな場所よね………女神様達とビーチやテーマパークで一緒に楽しんだ2日間が懐かしいわね……」

ベンチに座っているアリサは遠い目をして湖を見つめ

「ハハ………まだあの時からそんなに経っていないだろう?」

アリサの言葉を聞いたリィンは苦笑しながら答えた。

「……そうね。でも世界の情勢は大きく変わってしまったわ。」

「………………………」

静かな表情で呟いたアリサの言葉を聞いたリィンは複雑そうな表情で黙り込んだ。

「あ、リィンが気にする必要はないわよ?クロスベルとメンフィルがエレボニア帝国を滅亡させた結果内戦は治まって、市民達は平和な生活に戻れた上、貴族による圧政がなくなったから住みやすい世の中になっているし。セドリック殿下達には申し訳ないけれど……私を含めたエレボニアの民達は今の生活に満足しているわ。」

「……………でも、ラインフォルトグループは追い詰められる立場になっているだろう?」

「それこそ自業自得よ。内戦に加担した上クロスベルの民達を脅かす兵器――――”列車砲”を造ってエレボニア軍に提供したのだから、当然の結果だわ。……………だから、私が責任を取ってラインフォルトグループの為に働く社員達の未来を守らなければならないわ。ラインフォルトグループ会長の娘として。」

リィンに言われたアリサは苦笑しながら答えた後決意の表情になった。

「………少し話していて疑問に思ったけど………何でアリサはトールズ士官学院に入学したんだ?」

「え…………………」

「士官学院は元々軍人を輩出する学院だ。そりゃ軍人以外の道に向かう人達もいるだろうけど、少なくてもラインフォルトグループほどの大企業の会長の娘が士官学院に入る意味がない気がするんだ。企業側なのだから戦いとは無縁だし。」

「……………………………」

リィンの言葉を聞いたアリサは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「ご、ごめん。何かかなり突っ込んだ事を聞いてしまったか?」

アリサの様子に気付いたリィンは若干慌てた様子で答え

「ううん、別に気にしていないわ……………………」

アリサは首を横に振って答えた後黙り込み

「―――――9年前だったわ。技術者だった父が亡くなったのは。」

「へ……………」

やがて口を開き、アリサの言葉を聞いたリィンは呆けた。



「父が亡くなった事をきっかけに、私の家は大きく変わってしまった。当時、取締役だった母は事業拡大に没頭するようになって……”家族”を殆んど顧みなくなったわ。」

「そんな事情が……………確かに、イリーナ会長は随分やり手というか凄腕といった女性に見えたけど。」

「実際は、今日会った印象の数倍くらいは強烈でしょうね。一緒に食事できる機会すら3ヵ月に1度あるかどうか………代わりに一緒にいてくれたのがお祖父様と、シャロンだったの。」

「そうか……………あれ?今日の見合いではお祖父さんの姿は見かけなかったけど……」

「お祖父様はノルド高原で余生を過ごしているわ。」

「へー……………ちなみに今日アリサ達の傍に控えていたメイドの人――――シャロンさんとの付き合いも結構長いんだよな?随分親しげに接していたし。」

アリサの説明を聞いたリィンは目を丸くした後アリサとシャロンのやり取りを思い出して尋ねた。

「ラインフォルト家に来てから8年くらいになるわね。………家が家だから、子供時代、本当の意味での友達は少なかった。貴族の子からは疎まれ、平民の子からは特別扱いされ……でも、二人がいてくれたから少なくとも寂しくなかったわ。お祖父様は、乗馬やバイオリンなど色々な趣味の手ほどきをしてくれたし……シャロンから護身術や弓の扱い、貴族の子女並みの礼儀作法を教わった。………いっぽう母は………会長である祖父の意向を無視して際限なくグループを拡大していった。」

「そうだったのか………でも、元々かなり大きな技術工房ではあったんだろう?」

「ええ、鉄鋼や鉄道から戦車や銃のような兵器まで………”死の商人”と揶揄されるだけのモノ作りはしてきたと言えるわね。そのこと自体、複雑ではあるけど”恥”と思ったことは一度もないわ。でも――――ここ数年、ウチが作ってきたものを考えると、さすがに行き過ぎとしか思えない。」

「ここ数年作ってきたもの……?」

複雑そうな表情で話をしたアリサの話を聞いたリィンは首を傾げた。

「クロスベルにしばらく滞在していたのだから、知っているでしょう?先程話に出した旧エレボニア東部、ガレリア要塞に2門設置されていた”列車砲”のことは。」

「ああ………噂くらいは。何でも、世界最大の長距離導力砲だったそうだな?」

「私もスペックしか知らないけど恐ろしいほどの破壊力よ。旧カルバード共和国、メンフィル帝国と領有権争いをしていた”クロスベル自治州”の全域をカバー。たった2時間で、人口50万ものクロスベル市を壊滅できるらしいわ。」

「………とんでもないな。メンフィルやクロスベルが開発した新たな兵器もそうだけど、その”列車砲”も戦争というより、虐殺にしか結びつかないと思うんだが……」

アリサの話を聞いたリィンは溜息を吐いた後複雑そうな表情をした。



「ええ、私もそう思う。そして……母が受注したその兵器の完成に立ち会った祖父も同じだった。何というバチ当たりな兵器を造ったんだろうって悩んだみたい。そして、帝国軍に2門の列車砲を引き渡すか迷っていたところで……取締役だった母の裏切りに遭った。」

「え―――――」

「ラインフォルトグループの大株主全員を味方につけたのよ。ルーレの領主であったログナー侯爵から帝国軍の有力人物まで……貴族派・革新派双方の意を受けてお祖父様は退陣を余儀なくされ……母の新会長への就任が決定した。」

「…………………」

悲しそうな表情で答えたアリサの話を聞いたリィンは黙り込んだ。

「お祖父様は……私を残してラインフォルトを去った。味方だと思ってたシャロンも雇い主である母に従うだけだった。それが――――6年前の出来事よ。」

「そうか…………………アリサは……納得が行かなかったんだな?お母さんのした事というより”家族”が壊れてしまったことが。」

「ええ………そうね。実の親を陥れた母様も、それをただ受け入れたお祖父様も私は納得が行かなかった……あれだけ優しかったシャロンが何も言ってくれなかったことも。ラインフォルトグループの存在が私が思っているより遥かに巨大で………その重みの前には、家族の絆なんて意味がないなんて絶対に認めたくなかった。ミシュラムでの休暇の時のリウイ陛下達を見た時の姿が私が思い浮かべていた理想の姿だったわ。”ラインフォルトグループ”とは比べものにならない遥かに重みがある”メンフィル帝国”の皇族という重みの前でもあの人達は普通の家族としてみんな、仲良くしていた。」

「…………………」

「だから私は――――実家を出て士官学院に入ったのかもしれない。」

「…………………」

アリサの話を聞いたリィンは黙り込んだ。するとその時アリサはベンチにもたれかかり

「ふふっ、でも結局全然、母と家から逃げられなくて。お祖父様はお祖父様で飄々と第二の人生を楽しんでて。私一体何をやっているんだろうって一時期滅入った事もあって……………ノルド高原でお祖父様と再会し、Ⅶ組のみんなとノルド高原の星空を見た時どうでもよくなって、わかった気がしたわ。どうしてお祖父様がノルド高原に移り住んだのかを。」

苦笑しながら答えた後微笑んだ。

「そっか………――――アリサは強いな………こうして俺に色々と話してくれたってことは………多分、前に進めるきっかけが掴めたってことだろう?」

「ふふっ……そうね。だとしたら、それはきっと士官学院に入ったからだと思う。Ⅶ組のみんなに、部活のみんな……本音で向き合える仲間と出会えたから私は強くなれた。――――それはリィンも同じでしょう?」

「………ああ。」

微笑みながら言ったアリサの言葉にリィンは静かな笑みを浮かべて頷いた。



「私を強いって言うけど………リィンの方がもっと強いじゃない。私と同い年なのにメンフィル帝国の親衛隊員だし……剣だってあのラウラと同じかそれ以上の腕前に感じたわよ?」

「ハハ………この年で親衛隊員になれたのはクロスベルでクロイス家に対しての諜報活動を成功させた褒美のようなものだし……剣はエステルさん達の父親――――”剣聖”カシウス准将に鍛えてもらったお蔭だよ。」

「でも……”騎神”だったかしら?”機甲兵”を遥かに超える存在を自由自在に動かしていたじゃない。」

「うーん………あの時は勝手に頭に入ってきて、後は普段通りの動きをイメージして動かしていただけだからな………エマから聞いたからわかったけど一時期俺は”騎動者(ライザー)”の力をその身に秘めている事から逃げていたし。」

「え………どうして……?」

リィンの説明を聞いたアリサは不思議そうな表情をして尋ねた。

「………昔、幼い頃エリゼと一緒に(さと)の山で遊んでいたら突如吹雪になって、魔獣が俺達を襲ってきたんだ。その際に俺はエリゼを庇って魔獣の攻撃を受け………エリゼは魔獣に襲われようとしていた。」

「え………そ、それでどうなったの?」

「――――突如俺の中に眠る”獣”――――この場合”騎動者(ライザー)”と呼ぶべきだな。その”騎動者(ライザー)”の力が目覚めて気付いたら、目の前には血塗れになって絶命した魔獣が俺の前に倒れていた。」

「………………………」

「その時から”騎動者(ライザー)”の力を恐れるようになったんだ。もしその力が目覚めたら今度はエリゼや父さん達を傷つけてしまうかもしれないって。」

「そう……………で、でも今は使いこなしているのでしょう?”碧の大樹”での決戦の時も使いこなして……そのお蔭で私を助けてくれたのだから。」

「まあな。……あ、そう言えば聞くのをすっかり忘れたけど、大丈夫か?結構強く突き飛ばしたから、痣になっていなかったか?」

アリサの話に頷いたリィンはある事に気付いて尋ねた。

「ふふっ、大丈夫よ。リィンの方こそ傷跡とか残っていないの?私の代わりに敵の攻撃をまともに受けて大量の血を流していたし……」

リィンの言葉を聞いたアリサは苦笑した後心配そうな表情で尋ね

「ああ、エリゼとエマの治療のお蔭でな。それよりアリサ――――女の子に傷跡を作らなくてよかったよ。女の子なんだから身体に一生ものの傷跡を作るなんて絶対に嫌だろう?」

「!!!」

口元に笑みを浮かべて言ったリィンの言葉を聞いて顔を真っ赤にした後顔を俯かせた。



「?どうしたんだ?」

アリサの様子を見たリィンは不思議そうな表情で尋ね

「ねえ……リィンって”鈍感”って誰かに言われた事があるんじゃないかしら?」

尋ねられたアリサは顔を俯かせながら尋ねた。

「へ?た、確かにエリゼがよく言っていたけど………後、ロイドといい勝負の存在みたいな事も言っていたな。」

尋ねられたリィンは不思議そうな表情で答え

「そう……………ふふっ、エリゼさんの言う通り、確かにそれは言えてるわね。(あ~あ………参ったわね………さっき励まされた事や私を庇った理由を聞いたせいで恋を自覚しちゃったじゃない……………だったらいっそ、この状況を利用するのもありかもしれないわね……)」

アリサは心の中で苦笑しながら微笑んでリィンを見つめた。

「へっ!?ど、どういう事だよ??」

アリサに見つめられたリィンは驚いた後戸惑い

「そのぐらい自分で考えて。……そう言えばお礼がまだだったわよね。」

「お、お礼……?一体何の事だ??」

「………あのヴァルドって人との戦いや決戦の時に戦った巨大な”影”から私を庇ってくれた事。―――――ありがとう。本当に感謝しているわ。貴方がいなければ私はきっと大怪我を負っていたわ。」

「あ……………ハハ、どういたしまして。」

アリサの感謝の言葉を言われたリィンは呆けた後すぐに気を取り直して苦笑しながら答えた。

「それでここからが本題になるんだけど……………そ、その………リィンは私の事、どう思っているの……?」

そしてアリサは顔を赤らめながらリィンを見つめて尋ねた。

「へ?一体どういう意味だ?」

顔を赤らめたアリサに見つめられたリィンは不思議そうな表情をした。

「そ、その……………私の事を女性として好きか嫌いか………ううん、妻としてどうかなって意味よ……………ここまで言っても私の言いたい事がまだわからないの………?(ううっ……こんな超鈍感男にはここまで言わないと気付かないとしか思えないのよね………エリィさん達、相当苦労したんでしょうね……………今ならその気持ち、わかるわ…………)」

リィンの答えを聞いたアリサは真っ赤にした顔で上目づかいでリィンを見つめ

「え…………………………………」

アリサの言葉を聞いたリィンは固まって考え込み

「ええええええええええええええええええええええっ!?」

アリサが直接的な言い方で告白して来た事に気付いて驚きの表情で大声を上げた!



「な、なななななななな、何でだ!?俺達、そんなに話した事はないだろ!?」

そして我に返ったリィンは混乱した様子でアリサを見つめて尋ね

「しょ、しょうがないじゃない!好きになっちゃったんだから!私の心を無意識に奪った貴方の行動や性格のせいよ!だ、だから責任取って私をもらってよ!」

「そ、そんな理不尽な……………………………」

顔を真っ赤にして慌てた様子で答えたアリサの説明を聞いたリィンは疲れた表情で呟いた後困った表情で黙り込み

「そ、そのな、アリサ。アリサの気持ちは嬉しいが俺には―――」

気を取り直して申し訳なさそうな表情で答えかけたが

「先に言っておくけどエリゼさんがいるから駄目っていう理由は無しよ。元々このお見合いは重婚を前提としたお見合いなんだから。もし貴方が少しでも私の事を想ってくれるのなら、私は重婚を受け入れるし、エリゼさんにも頼み込むわ。」

「う”……………」

答えを封じられ、表情を引き攣らせて唸った。



「……………いきなりの事だから返事に困るのも無理ないわ。だ、だからその………もっと私の事を良く知ってから、その時に返事をちょうだい………」

「え、えっと………アリサの事を良く知るって具体的にはどうすればいいんだ………?」

「デ、デートよ、デート。お互いを知るには一般的でしょう?エリゼさんとも当然した事はあるでしょう?」

「それはまあ、あるけど………」

真っ赤な顔で言ったアリサの話を聞いたリィンは頷いた後考え込み

「…………………わかった。とりあえず返事はそれまでに保留という事で。それでどうする?もう、夕方だぞ?俺は明日の昼前の便でクロスベルを起ってメンフィルの帝都――――ミルスに戻らなければならないから、あんまり時間はないぞ?」

気を取り直してアリサの提案に頷いた後ある事に気付いてアリサを見つめて尋ねた。

「そうね………だったら―――――」

そして尋ねられたアリサが答えかけたその時

「―――日を改めてデートをなさればよろしいかと。」

なんといつの間にか二人の背後にいて微笑みを浮かべているシャロンが二人を見つめながら提案した!


 
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