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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第160話

一〇月二日。
今日は麻生が病院から退院する日である。
見送りは良いと予め看護婦や医者には言ってある。
それでもカエル顔の医者は玄関まで麻生を見送りに来ている。
病室で帰る準備をしている時から見送りはいいと言っているのだが、この医者は最後までついてきた。
ちなみに麻生の怪我は完全に治っている。
両手両足に複数の穴と右胸の穴は完全に塞がっている。
一体どんな治療方法を使ったのか、非常に気になる麻生。
彼に何度も聞いても教えてくれなかった。
本人曰く、こんな治療方法は知る必要はないと言う。
今の所、ダゴン秘密教団の魔術に対する治療方法はこの医者が扱う医療技術だけだ。
自然治癒や医療器具による治療も可能だが、短期間で完治させれているのはこの医者の持つ技術だけだ。
麻生としては是が非でも欲しい技術なのだが、彼は頑なに口を閉ざした。
能力を使えばその技術を奪う事はできる。
それは今まで助けて貰った恩を仇で返すようなもの。
だから、麻生は彼が何も答えないのであればこれ以上は聞かない事にした。
桔梗と制理は昨日の朝には退院している。
さほど深い怪我もなく、精密検査などをしても異常は見られなかった。
なので二人は麻生よりも早く退院している。
しかし、二人が退院する時に麻生の病室に足を運んだ時だった。
麻生が疑問に思ったのは。
彼女達の顔色が良くなかったのだ。
あの事件の当日は様々な現象や化け物を見て精神的に疲れていた。
それでも麻生と話をするくらいは出来た。
昨日の朝に二人が尋ねて来た時はその疲れが全く取れているように見えなかった。
むしろ悪くなっている。
目元にはうっすらとクマがあった。
誰から見ても寝不足である事は分かった。
麻生が心配をして声をかけても二人とも大丈夫だ、と言う。
退院した日なので学校には行かなくてもいいのだが、心配なので今日は病院から学校に通うつもりだ。
まずは制理の容体を確かめてから、桔梗の容体を確かめる。

「世話になったな。」

「病人は医者に世話になる者だよ?
 そう改まって礼を言う必要はないね?」

飄々とした口ぶりで医者は笑顔で言う。
彼は幼い時の麻生を助けれなかった。
なので、今の麻生を助ける事ができるのが嬉しいのだろう。

「愛穂の事を頼む。」

この病院には黄泉川愛穂が入院している。
彼女は医者にすぐに義手と義足の用意をしてもらうように言ったらしい。
それを聞いた時は愛穂らしいと麻生は思った。
その要望に応えて医者も彼女に合ったサイズの義手と義足を用意した。
本来、義手と義足を用意するのに結構な額が必要になる。
それも学園都市製となるとさらに値が張るだろう。
しかし、医者はそれを無料で提供した。
理由を聞くと、患者の身が必要とするものは全て揃えるというのが彼の信念らしい。
その為にならお金なんて必要ないとか。
既に接続手術は終え、リハビリを開始しているとか。
普通なら何日か安静にしておかないといけないのだが、これも愛穂自身が望んだ。
今頃、リハビリ室で汗を流しているだろう。

「彼女の努力と気持ちは凄いね?
 あれなら、すぐにでも退院できる。」

身体は脳からの電気信号で動かしている。
つまり、その電気信号を機械で読み取り動かす事も理論上は可能である。
この学園都市ならそれを可能とするが、それでも通常のリハビリの倍以上はこなさないといけない。
機械がその電気信号を読み取って動かしても、それは生まれた時からあった手足ではない。
どうしても本物手足とは違いズレが発生して、うまく動かす事ができない。
要は慣れだ。
リハビリする時間や必ず思い通りに動かしてやるという気持ち。
これらを持ってリハビリするのが一番の近道だ。
その点に関しては愛穂は優秀と言えるだろう。
特に心配する要素もなく病院を後にしようと踵を返した時だった。

「ちょっとだけいいかい?」

後ろから声をかけられた。
足を止めて、再び後ろを振り返る。

「黄泉川君や吹寄君や芳川君に関する話だ。」

その言葉にピクリ、と反応する。
医者は言葉を続ける。

「彼女達の容体は少しずつだが悪くなっている可能性がある。
 黄泉川君は今日の朝に診察に行った時は顔色が悪くなかった。
 昨日の吹寄君や芳川君もだ。」

「何か容体が悪くなったのか?」

あの未知の魔術だ。
直接的な何か受けなくても、何かしらの異常が起こりうる可能性はある。
だが、医者は首を横に振る。

「僕が診察した所、異常な所はなかった。
 となると精神的なものかもしれない。」

「精神・・・・」

ふと、あの猟犬を思い出した。
あんな冒涜的な生物を見たら狂ってもおかしくはない。
現にあの黒ずくめの男はあの猟犬を見て発狂した。
もしかしたら彼女達も精神的な何かがきているのだろう。
あれを見て何もなかったかのように過ごすなど無理な話だ。

「黄泉川君の方はこちらの方でケアしてみる。
 君は彼女達を診てやってくれないかい?
 最悪、黄泉川君も頼むことになるかもしれないけどね?」

「どうして俺なんだ?」

「理由は簡単だ。」

少しだけ笑みを浮かべて彼は言う。

「彼女達は君を頼りにしているからだよ。
 君が傍にいるだけで安心する。
 これ以上にないメンタルケアだと思うがね。」

度が過ぎると依存になってしまうけどね、と言い残して彼は病院に戻る。
彼の言葉を少しだけ考える。
自分が傍にいるのが一番のメンタルケア。
その言葉を頭に入れて、麻生は歩いて学校に向かう。






学校に着いた時はちょうど四時間目の授業が始まった辺りの時間だった。
正門は閉まっていたので裏門から入る。
校舎に入ると何人かの教師に出会ったが、入院していたというのは伝わっているらしく特に何も言われなかった。
むしろ、勉強熱心だね感心感心、と褒めてくれる教師もいた。
教室に着き、扉を開ける。
突然扉が開いたので視線が一気に集まる。
どうやら英語の時間だったらしく小萌先生が教壇に立って授業をしていた。

「あれ~?麻生ちゃんは今日退院の筈ですよね?
 それなのに学校に来たのですか?」

「ええ、先生の授業を受けたかったもので。」

適当に嘘をつきながら自分の席に向かう。
ふと、小萌先生を見るとうるうる、と涙を溜めて感動していた。

「偉いです!
 麻生ちゃんがとうとう勉強にやる気を出してくれて先生は嬉しいですよ!!」

完全に麻生の嘘を信じている小萌先生。
そのままハイテンションのまま授業が始まる。
麻生は前に座っている制理の後ろ姿に視線を向ける。
心なしか暗い雰囲気が漂っている感じがした。
隣で今にも眠そうに授業を聞いている上条に小声で話しかける。

「おい、当麻。」

「んあ?」

半分寝ているような声で答える。
軽くいらっ、と来た麻生はその寝ぼけた上条の頬を思いっきり叩く。
バチン!!、と痛そうな乾いた音が教室内に響く。
いつもの小萌先生なら注意するのだが、ハイな小萌先生は全く気にしていない。
麻生のビンタをくらって目が覚めたのか、叩かれた頬を押え軽く眼尻に涙を溜めている上条が言う。

「い、いきなり何するんだよ!!」

「つい、いらっときたから。」

「もの凄い自分勝手な理由を言っている事を自覚してますか!?」

「そんな事より、聞きたい事があるんだが。」

「そんな事で済ませるな!!
 こちとら、物凄く痛かったん「そこうるさいですよ~♪」・・・うぅ、不幸だ。」

小萌先生に注意されとりあえず声を押える。

「朝から制理に変化はあったか?」

そんな上条の心理状態など無視して麻生は尋ねる。
慣れてしまったからなのか、少し億劫そうに答える。

「吹寄か?
 そう言えば健康オタクの割には、眼にクマができてたな。
 顔色も悪くかったし。」

「そうか。」

それを聞いて麻生は再び制理に視線を向ける。
上条は叩かれても眠いものは眠いのか、机に突っ伏して寝始める。
後で声をかけるか、と考え窓の外の景色を見つつたまに制理に視線を向けていた。
ちなみに寝ていた上条は小萌先生に見つかり、個人の宿題を出される事になった。
昼休みになった。
学食や購買組は授業が終わるとダッシュで教室を出て行った。
弁当持参組は一緒に食べる人同士で机を合わせて食べている。
制理は弁当持参組なのだが、一向に鞄から弁当を出す気配がない。
疑問に思った麻生は制理に声をかける。

「珍しいな、お前が弁当を食べないなん」

そこで言葉が止まった。
理由は制理の顔を見たからだ。
眼には黒いクマに若干頬がやつれている。
どこから見てもあの健康オタクの吹寄制理には見えなかった。

「何?」

気怠そうな声で麻生を見る。
その眼も声も弱々しいものだった。

「あ、ああ。
 弁当食べないんだな。」

少し驚きながらも答える。
ここまで悪いとは思わなかった。

「最近、食欲がないの。」

疲れたような重いため息を吐く。
そこで何か思い出したのか制理は言う。

「退院おめでとう。
 それとごめん、ちょっと気分悪いから。」

そう言って席を立つ。
ふらふらとおぼつかない足取りで教室を出て行った。
制理が出て行くと同時にクラスの女子達が話しかけてくる。

「吹寄さん、昨日から体調が悪そうなの。
 休んだらって言っても、大丈夫の一点張りで。」

「小萌先生や私達でどれだけ言っても聞いてくれないのよ。」

彼女達の話を聞きながら麻生は思う。
あの猟犬の影響である事は間違いなかった。
まさかここまで影響を与えるとは思っても見なかった。
そして気がついた。
自分が普通の人間とは違う精神を持っている事を。
麻生は教室を出た制理を追い駆ける。
廊下に出るとちょうど制理が角を曲がる所だった。
走って追いかける。
角を曲がると制理が階段の手すりにもたれるように立っていた。
階段を一段下りようとして所だった。
フラリ、と制理の身体は揺れ、前に倒れていく。

「制理ッ!!」

能力を使って制理の所まで一瞬で移動する。
身体をしっかりと抱きしめて、そのまま階段を全段飛ばして下に着地する。
能力を使っているので痛みなどはない。
顔色を窺うと苦しそうな顔をしている。
麻生は抱きかかえたまま、保健室に向かう。




体調は良くなるどころか悪くなる一方だった。
吹寄制理は全身に感じる気怠さを我慢して学校に登校した。
あの事件の後、一日だけ入院する事になった。
麻生にあの記憶を思い出した事を話し、少しだけ浮かれていた。
そのままベットに寝転び、眠りに落ちて行く。
夢を見た。
それはまさに悪夢だ。
あの事件で必要に追ってきた猟犬が自分に襲い掛かる夢だ。
誰も助けに来てくれない。
猟犬に囲まれ、なすすべなく蹂躙される。
毒の爪は身体を引き裂き、針のような舌で身体を突き刺してくる。
そこから大事な何かを奪われていくのを感じる。
痛めつけられるだけ痛めつけられ、恐怖で泣き叫ぶ。
自分の泣き声や恐怖や苦痛で歪む顔を喜んでいるように見えた。
猟犬はざらざらした舌で顔を舐めてくる。
抵抗するにもその力すら出ない。
一頭の猟犬が覆い被さり、顔を近づけてくる。
そこから漂う腐臭にも似た匂いに顔を背けようとするも、自由に身体が動かない。
口を大きく開ける。
喉の奥。
その奥の闇の中に一つの大きな目玉が制理を眼をしっかりと捉えていた。
これ以上見ていたらまずい。
吹寄制理という自我は破壊され、狂ってしまう。
夢なら早く覚めろ。
眼を逸らす事ができない状況で、心の底からそう思った。
そして、目が覚めると朝になっていた。
ちょうど看護婦が病室に入ってきた。
看護婦は顔色が悪いですよ、と心配そうな声で言う。
一瞬あの夢の事を話そうとしたが、所詮夢だ。
誰も相手にしてくれない。
何よりあの恐怖は実際に見て見ないと分からない。
今日で退院だ。
昨日診察を受けたカエル顔の医者とは別の医者の診察を受けた。
顔色が悪いからもう一日入院するかい?、と聞かれたが断った。
あんな夢は二度も見ない。
そう自分に言い聞かせて断った。
最後に麻生の病室を訪ねた。
部屋に入ると桔梗が先に入っていた。
麻生は制理の顔を見ると大丈夫か、と声をかけてきた。
彼には心配させたくないと思った制理は無理に笑顔を作って大丈夫だと答えた。
ふと、隣にいる桔梗に視線を向けた。
彼女も少しだけ顔色が悪いように見えた。
おそらく自分もあんな顔をしているのだと、その時冷静に制理は思った。
その日は昼から学校の授業に出席した。
小萌先生やクラスメイトからは顔色が悪そうだから無理はしないで、と言われたが最後まで授業に出席した。
全身を襲う疲れのせいで授業の内容はさっぱり入ってこなかった。
授業が終わり、荷物を纏めて寮に戻りベットに寝転がった。
よほど疲れていたのかすぐに眠りに入った。
けれど、見た夢はあの悪夢。
それも続きからではなく、初めからだった。
猟犬に身体を精神を弄ばれる夢。
違いがあるとすれば、制理に覆い被さってきた猟犬の口からどす黒い闇の手が出てきた。
それらは制理の身体を掴み、その闇に引き込もうとする。
おそらくあれに呑み込まれたら終わりだ。
吹寄制理のという人間の死が訪れる。

(覚めろ覚めろ覚めろ覚めろッッッ)

念仏を唱えるように強く念じる。
はっ、と目が覚める。
全身から汗が噴き出しており、服はびしょびょだった。
ふと、目覚まし時計を見ると次の日の朝だった。
病院から帰ってきた時から一日が経ったらしい。
睡眠時間からすれば寝過ぎとも言われるくらいだが、制理の身体には重苦しい気怠い感じが襲い掛かっていた。
たっぷり寝た筈なのに眠気が解消されない。
鏡を見ると目元にはクマができていた。
学校を休もうかと思ったが、それだけまた眠ってしまいあの夢を見るかもしれない。
そう思うと鳥肌が立ち、震えが止まらなかった。
何かしてないと駄目だ、と思った制理は制服に着替えて学校に向う準備をする。
食欲も一向に湧いてこなかった。
退院してから少しも食事をしていないのに、食欲が湧かない。
寮を出て、学校に向かう。
歩くだけでもしんどかったが、あの夢を見るくらいならしんどい方がマシだった。
学校に着くと、さらに顔色が悪くなった事を心配してくれたクラスメイトが声をかけてくれる。
それでも制理は大丈夫だ、としか答えられない。
授業が始まるが教師の言葉など一つも耳に入らない。
四時間目の授業の時だった。
扉が開く音がした、制理は視線を扉に向ける気力すらなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと、後ろから声をかけられた。

「珍しいな、お前が弁当を食べないなん」

声は麻生だった。
それで今日は麻生が病院を退院したのだと分かった。
普段なら学校にやってくる事に対して嫌味の一つでも言うのだが、そんな元気はない。
麻生は制理の顔を見て驚いているが、制理はそれを気にすることなく言う。

「何?」

気怠そうな声で尋ねる。
それでも制理の中ではまだ元気のある声だった。
恋している相手が話しかけてきたのだ。
今の制理の精神状況でも嬉しいと感じたらしい。
だからだろうか。
こんな姿を見られたくないから、少しだけ会話してから教室を出て行こうと思ったのは。
教室を出て、あの夢の事を麻生に話そうかなと思ったが止める。
こんな夢の話をされたところで気分を悪くするだけだ。
階段を下りようと手すりを持った時だった。
グラリ、と視界がぶれたのは。

「あっ・・・」

手すりにもたれるが力が入らない。
そのまま前に倒れていく。
どうしようもない。
今の制理に受け身をとる事すらできない。
このまま流れに身を任せるしかない。
すると、誰かが制理の名前を呼ぶ声が聞こえた。
朦朧とする意識の中その声に聞き覚えがあった。
誰かに抱き締められる感触がする。
きっと恭介だ、制理はそう思った。
彼に抱き締められている。
そう思っただけで何故か制理の心は安心してしまった。
麻生に抱き締められているだけで麻生に守られているそんな錯覚を覚えてしまった。
そのまま制理の意識は闇に落ちて行く。
だが、あの猟犬は出てこなかった。
闇は闇でも心地よい闇だった。 
 

 
後書き
全然SSに入りませんでした。
一方通行や上条は制理のような精神状態にはなっていません。
理由は一方通行は木原が作った生物兵器、上条はヴェントが作った魔術生物だという風に無意識な現実逃避をしているからです。

感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
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