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英雄伝説~西風の絶剣~

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第16話 待ち望んだ再会

 
前書き
  

 
side:リィン


 クロスベルについてから一か月が過ぎた、僕はガイさん達にお世話になりながら団長達が来てくれるのを待っていた。
 ガイさん達は見ず知らずの僕にとてもよくしてくれる、ガイさんの弟さんのロイドとは最初はちょっと嫉妬されたりもしたけど友達になれたしガイさんの恋人のセシルさん、そしてセシルさんのご両親であるマイルズさんとレイテ夫人も親身になって面倒を見てくれた、アリオスさんはぶっきらぼうだけど時々剣術の稽古に付き合ってくれたので彼なりの優しさが伝わった、セルゲイさんも忙しい中西風の旅団について情報を探してくれている。皆には感謝の仕様もないよ。
 数年ぶりの平和な日常を西風の皆に心配をかけておきながら不謹慎とは思いながらも僕は楽しんでいた。
 そんなある日の事……


「ねえリィン、今日は外で遊んでみない?」


 ガイさんとロイドが暮らしている部屋の隅っこで本を読んでいた僕にロイドがそう声をかけてきた。


「外で?」
「うん、今日はウェンディやオスカーと遊ぼうと思ったんだけどリィンもいかない?」
「えっと……」


 どうしようかな?僕がクロスベルにいるっていう情報は流れているんだけど問題は団長に恨みを持った奴が僕を害しようとクロスベルに来る可能性も無きこともないんだよね。
 まあ噂くらいで動くなら大した事のない猟兵団だと思うけど教団の件もあるからこれ以上は厄介ごとを増やしたくないのが本音だ。


「僕は…その…」
「やっぱり嫌?」
「う~ん……」


 でも正直言うと僕もロイド達と遊んでみたい、猟兵である以上諦めていたが同じくらいの年の子と遊んでみたいと前から思っていた。それに折角誘ってくれたのに無下にするのも……う~ん………


「いや、今日は僕も行くよ」
「!ッ本当に!?」


 僕が承諾した瞬間ロイドの表情がパアッと太陽みたいな眩い笑みになる。まあ危ないかもしれないけど僕が気をつければいいよね、それにこんな笑顔を見せられたら断れないよ。


「じゃあ行こう!」
「あ、待ってよ~」
「あらあら、二人とも気をつけてね~」


 セシルさ「お姉ちゃんでしょ~、うふふ」……セシルお姉ちゃんに見送りの言葉を貰って僕とロイドは西通りに向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「あー、ロイドってばやっと来たー」
「遅かったなー」


 西通りのベンチがある広場に気の強そうな女の子とマイペースそうな男の子がいてロイドに声をかけた。


「ごめんな、ちょっとリィンを連れだすのに時間がかかっちゃって」
「あれ、もしかしたらその子がロイドの言ってた……?」
「えっと、初めましてリィンです」
「私はウェンディ。よろしくね」
「俺はオスカーていうんだ、よろしくなー」


 ウェンディとオスカーに挨拶をして互いに自己紹介をする。


「じゃあ皆集まったし何しようか」
「俺は何でもいいぞー、ロイドは?」
「前は鬼ごっこしたし今日はどうしようか……リィンは何したい?」
「えッ、僕はかくれんぼしたいかな?」
「かくれんぼかー、なら港湾区ならちょうどいいかもなー」
「東通りは隠れる所が多すぎるし行政区は隠れる所があんまりないから港湾区ならいいかもね」
「じゃあ港湾区にレッツゴー!」
「「おー!」」
「お、おー!」


 僕達はかくれんぼをするために港湾区に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「はー、リィンって隠れるの上手いなー。全然分かんなかったぞ」
「本当だね、リィンってかくれんぼ上手なの?」
「ま、まあ得意かな」


 猟兵だから潜伏したり身を隠すのは慣れてるけどこれじゃ普通の子には見つけられないよね。はぁ、自分が普通じゃないことがよく分かるよ。


「あれ、ロイドは?」
「そういえば姿が見えないわね」


 あ、そういえば一緒に遊んでいたロイドの姿が見えなくなっている。どこに行ったんだろう?


「おーい皆ー、ちょっと来てくれ」


 港の灯台近くにロイドの姿が見え僕達を呼んでいる、一体どうしたんだろうか?


「どうしたのロイド?」
「これ見てよ」


 ロイドが見せてきたのは小さな小猫だった。


「あ、可愛い」
「あ、右足から血が出てるぞー」
「そうなんだ、そこの灯台近くでうずくまってたんだ」
「じゃあお医者さんの所に連れていかないと」
「……ちょっとその子を貸して」
「え?」


 ロイドから小猫を預かり懐にある小物入れからセラスの薬を取り出し小猫の怪我に塗り包帯を巻く。


「よし、応急処置は出来た。一応ちゃんとした病院に連れて行ったほうがいいとは思うけど……あれ、三人ともどうしたの?」


 ふと三人を見ると皆の目がキラキラしたような目になってる。


「凄い、リィンってお医者さんなの?」
「手際いいなー」
「あはは、まあ昔猫を飼ってたことがあってね、その時に覚えたんだ」


 猟兵やってると怪我何て日常茶飯事で出来るから怪我の処置は最低限は出来る、動物にしたのは初めてだけど事情を正直には話せないからこう答えた。


「でもおかしいな、この子くらいの小猫はまだ親離れ出来てないはずだけど…」
「じゃあこの子お母さんとはぐれちゃったって事?」
「たぶんそうじゃないかな」


 僕とウェンディがそう話してるとロイドが神妙そうな表情を浮かべていた。


「……可哀想」
「ロイド?」
「可哀想だよ。だってお母さんと離れ離れになるなんて……ねえ皆、この子のお母さんを探してあげようよ」
「えッ、この広いクロスベルを?流石に難しいんじゃないかな」
「でもやっぱりお母さんに会わせてあげたいし、僕諦めたくないよ」


 ロイドは何処か寂しそうにそういった、まるで小猫を何かに重ね合わせるようにも見えた。


「よし、僕達で探そう」
「えー、流石に難しいんじゃないかな?」
「それでももしかしたら見つけられるかも知れないでしょ?可能性がゼロじゃないならやってみてもいいと思う」
「もしかしたらひょっこり親が現れるかもしれないしなー」
「リィン、オスカー……」


 僕とオスカーの言葉にロイドは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「もうしょうがないわね、私も協力するわ」
「ありがとうウェンディ」
「でもどこを探すんだ、クロスベルは広いぞー」
「とにかく猫が集まる所に行ってみよう、もしかしたらオスカーが言ったみたいに親猫がこっちを見つけてくれるかもしれない」
「じゃあまずは住宅街に行ってみよう、猫がいっぱいいるのを見た事があるんだ」


 僕達は小猫の親を探すために住宅街に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



 
「見つからないなー」
「そうね、色んな所に行ったけどいないわね」


 住宅街や西通りと一通りの区域を周ったが小猫の親は見つからなかった、僕達は今中央広場の大きな鐘の前にいる。


「ロイド、やっぱり私達四人じゃ探すのは無理よ」
「大人に頼った方がいいかもなー」
「……そうだね」


 流石にこの広いクロスベルの街から小猫の親を探すのは無謀かもしれない、そう考えていると小猫がロイドの手から逃げ出した。


「あ、待って!」


 ロイドが捕まえようとするが手が届かず小猫は鐘の下にあった大きな穴の中に入っていった。


「あ、マンホールに入っちゃった!」


 マンホールに入ったって事はジオフロントに入ったってことか。それは不味いな、ジオフロントとは地上の建造物が密集した過密都市において、地価の高騰や環境問題に対応するため、地下空間の有効利用を図ったもので単純に地下に都市機能を作っており今も尚開発の手が加えられているらしい。
 そんなジオフロントだが問題がいくつかありその一つが魔獣が現れることだ、その為普段は入れないようになっているが今回は誰かの不注意でマンホールが開いていてそこに小猫が入ってしまったようだ。
 

「ど、どうしよう!」
「大人を呼んだ方がいいよ」
「僕、連れ戻してくるよ!」
「……ロイド!?」


 ロイドはそう言うなり柵を超えてマンホールに入ってしまう。


「ロ、ロイドまでは行っちゃったよ!」
「ど、どうしよう!警察に……」
「くッ、二人はここにいて!」
「あ、リィン!」


 二人に待機するように言って僕もジオフロントに向かった。






「ここがジオフロントか」


 パイプが辺りを走り蒸気が出ている、クロスベルは開発が進んだ街だって聞くけどこれは凄いな。


「ロイドはどこに行ったんだろうか?」


 気配を探して先に進むとロイドは直に見つかった。


「ロイド!」


 僕が声をかけるとロイドはビクッとして振り返る。


「あれ、どうしてリィンが?」
「どうしてじゃないよ、君を連れ戻しに来たんだ。ここは魔獣が出るから危ない」


 僕はロイドの手を掴んで外に連れて行こうとするがロイドは動かない。


「ロイド、一体どうしたの?さっきから様子がおかしいけど」
「ごめんリィン、駄目だって分かってるんだけどどうしてもあの子をほおっておけないんだ」
「あの子って小猫の事?」
「……僕、お父さんとお母さんを事故で亡くしてるんだ。それを知った時悲しくて辛くてどうにかなっちゃいそうだった、今は兄ちゃんやセシル姉ちゃんがいるから悲しさは薄れたけどやっぱり親がいなくなるのって怖いんだ」
「ロイド……」


 ……そうか、ロイドは自分と小猫を重ねているのか、だからこんな行動を取ってしまったのか。


「ロイドの気持ちは分かったよ、でも魔獣が出るここを生かせるわけには行かないよ」
「……そうだよな、分かっ……」
「だから僕も行く」
「……えッ?」
「僕も行くよ、僕は大陸中を旅してるから魔獣の対応は君より詳しいから何とかなるはずだ」
「いいの?」
「今の君は無茶しそうだしね。それに僕も君の気持ちが分からないでもないんだ」


 本当なら大人を呼ぶのが一番いい、この選択は間違っていると思う。でもロイドの気持ちは僕も理解できる、だから力になりたい。


「ありがとうリィン!」
「お礼は後で、早く小猫を探してここを出よう」
「うん!」


 僕とロイドは小猫を探すためにジオフロントの奥に向かった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「こんな所に入れたんだ」
「頭に気をつけて」


 僕とロイドは魔獣を避けながら小猫を探していた、今は通気用のダクトの中を進んでいる。


「でもリィンってすごいね、魔獣がいる場所が分かるなんて」
「職業柄そういうのには慣れてるんだ」
「もしかしてリィンの家族って商人をやってるの?それとも遊撃士?」
「いや、どっちでもないよ」


 そんな事を話しながらダクトを進む、すると二つの弱弱しい気を感じた。


「ロイド、小猫の気配が近いよ」
「本当に!じゃあ早く助けないと!」


 でも何かおかしい、他にも何かの気配を感じる。これはもしかして……


 ダクトを出ると広い空間に出た。


「あれは!」


 そこには小猫が三体の魔獣に囲まれていた、あれはドローメか?小猫は自分より大きな猫の前に立って魔獣を威嚇している。怪我をしてるみたいだけどもしかしてあれが親なのか?
 ドローメの体が青く光りだす、不味い!アーツを放つつもりだ!


「止めろォォォ―――――!!」
「ロイド!」


 僕が咄嗟に動こうとするがそれよりも早くロイドが動く、魔獣は僕達に気付いてアーツの照準をこちらに定めた。


「くッ、八葉一刀流八の型『無手』!!」


 僕はアーツが放たれる前にドローメの核に鋭い手刀を連続で放つ、核を壊されたドローメ達はグジュグジュに溶けてセピスに変化した。


「はぁはぁ……ユンさんから無手を習っておいて良かった」


 ユンさんにお世話になっていたとき刀を使った奥義は教えてもらえなかったけど一つだけ奥義を教えてもらったものがある、それが八の型『無手』だ。
 本来は刀を失った際にも戦えるように使う型で八葉一刀流の基本的な動きも取り入れてある、剣聖と呼ばれる人達もまずこの型から覚えて行ったらしい。


「ロイド、大丈夫?」
「うん、リィンが守ってくれたからこの子達も平気だよ」
「にゃあ~」


 微笑むロイドに僕は強めに拳骨した。


「痛いッ!」
「何であんな無茶をしたんだ、一歩間違えればアーツの餌食だったんだぞ!」
「ご、ごめんなさい……でもどうにかしなくちゃって思ったらつい……」


 目に涙を浮かべるロイドを見て自分もこんな無茶をしてきたのかも知れないと思った。


「……まああそこで動かなかったらその子達がやられていたかもしれないしそこはロイドのお蔭だね。そもそも君を連れてきたのは僕だから責任は僕にもある」
「……うん」
「でもあんなことはもうしないでくれ。君に何かあったらガイさんやセシルお姉ちゃん、それにウェンディやオスカー、君を大事に思う人達が悲しむ事になる」
「……分かった、もうあんな無茶はしないよ。ごめんなさい」


 涙ぐむロイドをポンポンッと撫でる、僕も団長に叱られたらこうやって頭を撫でられたっけ。



「にゃあ~」
「あ、そういえばこの子のお母さん怪我をしてるんだ」
「よし、とにかく応急処置をしてここから出よう」


 その時だった、上から何かが落ちてきて僕達の前に立ちふさがった。


「こいつはビッグドローメ!」


 さっき倒した奴の親玉か!しかも五体も現れるなんて本当に不味いぞ。僕じゃ奴らに有効的な攻撃が出来ない。ビッグドローメ達は体を青く光らせてアーツを放つ態勢に入る。


「ロイド、僕が隙を作るからその子達を連れて逃げるんだ」
「そんな、駄目だよ!さっき言ったじゃないか、無茶をするなって!リィンに何かあったら君の家族が悲しむんだよ!」
「それは……」


 さっき自分が言った事をロイドに返されて何も言えなくなる、だがどうすればいいんだ。



「その通りだ、安易な自己犠牲は褒められない行動だな」
「そ、その声は……」


 
 そう言って現れたのは風の剣聖ことアリオスさんだった。ビッグドローメから放たれた上位アーツを刀で受け止める。


「二人とも、無事か!」


 更にそこにガイさんも駆けつけてくれた、見慣れない武器を持っているがあれは確か東方に伝わる武器のトンファーという物だ。


「どうしてここが……」
「ウェンディ達に教えてもらったんだ、ロイド達がジオフロントに入ったってな。お説教は後だ、まずはこいつらを片付ける!」


 ビッグドローメが再びアーツを放とうとするが…


「遅い、二の型『疾風』!!」


 アリオスさんが消えたと思った瞬間、三体のビッグドローメが瞬く間に斬られてセピスに変化する、あれが八葉一刀流の二の型『疾風』……なんてスピードなんだ!


「うおおォォォッ『ライガーチャージ』!!」


 ガイさんが凄まじい闘気を体に纏いビッグドローメ二体に突撃していく。ビッグドローメ達がアーツを放つが全て弾かれる、そして膨大な闘気がライオンとトラを合わせたような生き物の形に変わりビッグドローメ二体を粉砕した。


「アリオスさんも凄いけど…ガイさんも凄い……!」


 僕は自分とは遥かに違う高みにいる二人に尊敬の意を翳した。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー




「はい、これで大丈夫」
「ありがとうセシル姉ちゃん」


 あれからガイさん達と外に出た僕達はまずセシルお姉ちゃんに抱き着かれてウェンディ達に怒られた、心配をかけてしまったからウェンディとオスカーに謝りそのあとはガイさんにこっぴどく叱られた。まあ自業自得だから甘んじて受けました。…叩かれたお尻が滅茶苦茶痛いけどね。
 小猫達はセシルお姉ちゃんが手当てしてくれた、何でも看護師の仕事をしているようで怪我の処置は得意らしく実際僕より手際がいい。一応後で医者に見せに行くと言っていた。


「それにしても話を聞いた時は本当に驚いたわ、こうして無事だったからいいけどもし二人に何かあったらって思ったら怖くて死んでしまいそうだったわ」
「「心配かけてごめんなさい……」」


 悲しそうな顔をするセシルお姉ちゃんに僕達は謝る。本当に悪い事をしてしまった。


「でもこの子達を助けたのは貴方達よ、その優しい気持ちは忘れないでね」
「セシル姉ちゃん……」
「セシルお姉ちゃん、ありがとう」
「お説教はもう十分でしょ。お母さんが美味しいオムライスを作ってくれたわ、夕ご飯にしましょう」
「本当に!やったー!レイテおばさんのオムライス大好きー!」
「ロイド、はしたないよ……ふふっ」


 ロイドを窘める僕も思わず顔を緩ませてしまう、レイテさんのオムライスは本当に美味しいから楽しみだ。


「リィン、いるか!」


 そこに慌てた様子でガイさんが入ってきた。


「あ、ガイさんおかえりなさい」
「兄ちゃんおかえり!」
「ああ、ただいま……といいたいんだがまだ仕事中でな、リィンはいるか?」
「ここにいますがどうしたんですか?」
「ちょうど良かった、お前に伝えなきゃならないことがある」
「何ですか?」
「遂に君の家族が来たんだ!」
「………えッ?」



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


 ガイさんの言葉を聞いて僕は一目散に走りだした。ガイさんの言っていた僕の家族は警察署本部一階の会議室に待機してもらっているらしく僕は急いでそこに向かった。
 警察署に入り会議室の前に立った瞬間足が止まってしまう、一体何て言って再開すればいい?心配かけてごめんなさい……こんな軽い感じじゃ必死に探してくれた皆に失礼じゃないか?それに散々心配かけた僕がおいそれと会っていいんだろうか……


「リィン、慌てて行かないでくれ」
「あ、ガイさん……」


 そういえば話を聞いてここまで全力疾走してきたからガイさんを置いてきてしまった。


「どうしたんだ、入らないのか?」
「ガイさん、僕に皆に会う資格があるんでしょうか?」
「うん?」


 僕は自分の思いをガイさんに伝えた。散々心配させて迷惑ばかりかけて……そんな僕が皆に会う資格何てあるのか今更ながら思ってしまった、あんなに会いたいと思っていたのにいざ会おうとすると体が固まってしまう。


「そうか、お前が言いたいことも分かる。だが資格ってなんだ、家族と会うのに資格がいるのか?」
「それは……」
「お前が家族に心配をかけたのは事実でそれは変えられない現実だ。だが起こってしまった事を後悔しても何も始まらない、過去は変えられないんだ」
「……」
「なら気持ちを切り替えてこれからの先に目を向けるべきだ。ほら、うだうだ言う前に観念して入れ」
「ちょ、押さないでください……!」


 ガイさんに背中を押されて会議室に入る僕、強引な……


「リィン……?」
「あッ……」


 声をかけられて振り向くとそこには…忘れる訳がない、ずっと昔から見ていた人達がいた。


「ボン……ホンマにボンなんか?」
「……」


 後ろで髪を束ねていつも飄々として僕をからかうがいつも僕の事を思ってくれる人……そしていつも寡黙で無表情だが大きくてゴツゴツした手で優しく撫でてくれる人がいた。


「ゼノ、レオ……」


 決して涙なんかみせないこの二人が大粒の涙を流している、そして二人の間にいるいつも僕を優しく慰めてくれた実の母のような人が僕を見た瞬間地面にへたり込んで泣き出してしまった。


「リィン……本当に…本当に良かったぁ……」
「マリアナ……姉さん…」


 本当に心から安堵するように顔をグシャグシャにして泣いてる。こんなにも心配をかけてしまったのか……


「……リィン」
「ッ!?」


 この声を聴いた瞬間僕の心臓は破裂しそうになるくらい鼓動が早くなる、一番会いたかった人なのにどうしても体が萎縮してしまう。


「団長……」


 西風の旅団団長であり『猟兵王』と多くの人から恐れられた僕が知る最強の存在ルトガー・クラウゼル。
 でも今の団長はとても最強と呼ばれる男には見えなかった、生気の無い目に痩せこけた頬……どれだけの心配をこの人にかけてしまったか分からない。


「あ、あの団長……」
「……」


 何も言わず僕の傍に来た団長は、僕の前に立つと屈んで目線を合わせてくる。


「……」
「……」


 団長は何も言わないで僕の目をジッと見ている。僕も唯団長の目を見る事しかできない、そんな状態が数分くらい続いてようやく団長が話し出した。


「……成長したな」
「えっ……?」
「背も伸びたか、体つきも二年前と比べたら逞しくなったな」
「う、うん……」
「声も少し大人っぽくなったか?それとも久しぶりにお前の声を聴くからそう感じてしまったのかな」
「それは、どうだろう?自分じゃ分かんないや」


 まさかこんなことを言われるとは思ってなかったから驚いてしまった。


「でも一番変わったのは目だな」
「目?」
「前のお前はもっと輝いた目をしていた、年相応の綺麗な目だった。でも今のお前の目は曇ってしまってる。隠していても分かる、どんな地獄にいたのかも……」
「団…長…」


 ふと団長の顔を見てみると泣いていた、決して人前では泣いたことのないあの猟兵王が泣いていたんだ。


「俺は……本当に親失格だ。お前にそんな目をさせちまった……守ると言って二年もほったらかしにしちまった最低の親だ。正直どんな顔してお前に会えばいいか分からなかった……」
「……お父さん……」
「ごめんな、俺は口ばかりの無能だ。お前もエレナちゃんも守ってやれなかった……本当にごめんな…」


 涙を流すお父さんを見て僕はいてもたってもいられずにお父さんに抱き着いた。


「お父さんは悪くないよ!こんなボロボロになるまで思ってくれて……そんなお父さんが親失格な訳ないよ!」
「リィン……」


 泣きながら僕はお父さんにそう言う、僕だって同じだよ!こんなに皆に……お父さんに心配かけたんだ、息子失格だよ!


「僕は皆の事を……西風の旅団という家族を忘れて死んじゃおうとしたんだ。昔お父さんに命を軽んじるなって言われたのに……皆の思いを踏みにじる最低の行為だよ。でもある人が教えてくれたんだ、僕が死んだら悲しむ人がいるって……だから僕、ずっとお父さんに、皆に会いたかった。その為に必死で生きてきたんだ。だから親失格なんて言わないで……僕のお父さんはお父さんだけだよ、大好きなお父さんだもん……!」
「リィン……!」

 お父さんは壊れ物を扱うようにそっと僕を優しく抱きしめる。


「心配かけてごめんなさい……本当にごめんなさい…」
「俺こそごめんな……本当に…ごめんな…」


 泣きながら抱きしめ合う僕とお父さんをゼノとレオ、姉さんが泣きながら見守っている。


「……俺達は邪魔だな」
「そうですね……」


 セルゲイさん達も気を使ってくれて会議室から出ていく、僕は久しぶりに流す涙を止めることが出来なかった。


ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫だよ」


 しばらく時間が過ぎてようやく気持ちが落ち着いてきた僕は改めてこの二年間何があったのかを皆に話した。


「俺らも褒められた生き方しとる訳やないけどホンマもんのクズやな」
「…………」


 普段は飄々とした態度を崩さないゼノが拳を握りしめる、レオも表情は変わらないが明らかに怒りを露わにしていた。


「でもそんな過酷な中で生き残ってどんなに辛かった事かしら……」


 僕が生きて帰った事への喜びとそんな過酷な環境から救ってあげられなかった自分への嫌悪感という感情を混ぜたような表情をしながら、姉さんは震えながら僕を抱きしめる。


「改めて聞いて自分が嫌になるぜ、大事な息子を助けてやれなかったんだからな」
「お父さん、僕が教団にされてきた事はもう変えられない現実なんだ。でも起こってしまった事を後悔しても何も始まらない、過去は変えられない、だから今を大事に生きて行こう、これから先の未来を」
「……未来か、お前がそう言ってくれるなら俺は改めて誓わせてほしい。今度こそお前を、家族を守って見せると……こんな情けない俺だがいいか?」
「勿論だよ、でも僕は守られるだけじゃない。僕もお父さんを支えていくよ」
「ああ、そうだな」


 罪悪感で顔を苦痛にゆがませるお父さんに、さっきガイさんに教えてもらった事を話した。するとお父さんも吹っ切れた様子になった。
 過去は変えられない、でも未来は変えていける。生きているんだからこそ前に進める事を僕は実感した。


「二人だけやないで、俺らも一緒や」
「ああ、俺達も西風の旅団と共にある」
「私だって今度こそリィンを守って見せるわ」
「お前ら……」


 ゼノ達も吹っ切れたようだ。あっ、そういえば……


「団長、フィーはいないの?」
「フィーなら……」


 団長が視線を向けたほうを見ると、そこには僕がずっと会いたかった少女が立っていた。


「フィー……」
「リィン……」


 最後に見た時よりも成長したフィーを見て思わず涙を流してしまった。


「フィー、ごめんね。ずっと心配かけて……」


 僕はフィーに近づこうとするが、彼女はビクッと体を震わせて僕から離れた。


「フィー、どうしたんだ?」
「…………」


 フィーは僕を恐れているように見ている。触れたいけど自分にはそんな資格がない、そんな風に思っているのかもしれない。


「フィー」


 僕はフィーに近づいていく、フィーはまたビクッとして逃げようとしたが僕はフィーの右腕を掴んで今度は逃がさないようにする。


「……離して」
「どうして?やっと再会できたんだよ?」
「わたしには貴方に触れる資格なんてない、わたしのせいでリィンは苦しむことになった……わたしは貴方に触れちゃ駄目なの」


 ……そうか、フィーはあの時の事をまだ気にしてるのか。誰よりも家族を思う彼女の事だ、未だに自分のせいにして自分を許せないんだろう。


「フィ-……」
「あっ……」


 僕はフィーをそっと抱きしめた。昔と変わらない小さな体だ、でもこうして抱きしめるとよく分かるんだ、フィーが一番変わった事に。
 体の筋肉の付き方も纏う闘気も動きも立ち振る舞いも以前のフィーとは全く違う、それは猟兵としての物だった。優しいこの子の事だ、きっと自分を責めて僕の為に猟兵になったんだと僕は思う。


「動きや服装で代替把握できたよ。フィー、君は猟兵になったんだね」
「うん…」
「それは僕の為?」


 僕がそう聞くとフィーはコクンと首を縦に振った。


「……そっか、そんなにも君を追い詰めちゃったんだね。僕のせいでフィーを苦しめてしまったんだ」
「違う、リィンは悪くない!わたしはあの時何もできなかった!貴方を置いて逃げる事しか出来なかった!そんな弱い自分が嫌だった…」
「フィー……」


 ポロポロと涙を流しながら自分の思いを話すフィー。この子も僕と同じだ、弱い自分が嫌で家族を守れる力を求めたんだ。


「フィー、まだあの日の事を気にしてるの?」
「……わたしが足手まといになったからリィンは苦しむことになった、だから……」
「確かにこの2年間は地獄みたいな日々だった。でも僕は生き残れた、こうしてまた会えたじゃないか、それじゃ駄目かい?」
「……でも」
「だったらこうしよう。僕は今からフィーに誓うよ、これから先何があっても君の傍にいるって。どんなことがあってもフィーと共にあり続ける、僕が死ぬのは君が死ぬ時だ。だからフィーも僕を守ってくれないか?そして自分を許してほしいんだ」


 この子はこんなにも苦しんだんだ、もう自分を許してほしい。


「……いいの?」
「ん?」
「わたしが貴方の傍にいてもいいの?足手まといにしかならないと思うよ……」
「足手まといなんかじゃないよ、君は僕にとって何よりも大事な存在なんだ。君がいなくちゃ僕は死んでるも同然だ」
「……リィン!」


 フィーは泣きながら僕の首に両手を回して強く抱き着いてきた。


「わたし、ずっと怖かった……貴方は私を恨んでるんじゃないかってずっと思っていた……!」
「そんな事あるわけないだろ?大事な妹を恨む訳ないじゃないか」
「もう絶対に離さない……何があってもずっと一緒にいる……!」
「うん、約束だ」


 良かった、まだ完全とはいかないけどフィーも吹っ切れてくれたようだ。これでようやく皆で前に進める。


(良かったは良かったんやけど……)
(あれだとまるで……)
(プロポーズ……よね)
(……)


 何故か僕達を見るお父さん達の目が妙に温かかったのが少し気になったが、泣き続けるフィーをあやすのに気を取られていた僕は最後は気にしなくなった。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「改めてお礼を言わせてほしい、俺の大事な息子を助けてくれて本当に感謝している」


 あれからセルゲイさん達が戻ってきてお父さん……いや団長はセルゲイさん達に頭を下げて感謝の言葉を言う。


「あの猟兵王にお礼を言われるなんてな、人生何があるか分からないもんだ」
「我々は警察としての義務をはたしただけだ」
「ああ、だからそんなに頭を下げなくても……」
「いやリィンの話の中にもあったユン殿も勿論だがあんたらが協力してくれなければこうして再開は出来なかった。だから本当に感謝している、ありがとう」


 お礼はいいとアリオスさんとガイさんは言うが団長は更に感謝の気持ちを伝えた。昔から義理堅い人だから本当に感謝しているのだがまさかあの猟兵王にここまで感謝されるとは思っていなかったのかセルゲイさん達は困惑している。


「しかしよくあんな噂程度の情報でクロスベルに息子がいるって思ったんだ?明らかに罠を疑うんじゃないのか?」
「ああ、実際そういった罠を張られた事もある。俺達が信じたのは噂の中に『K・Z』の言葉が入っていたからだ」
「k・z?確かリィンが言っていた言葉だったな」
「ああ、『西風の旅団の団長ルトガー・クラウゼルの息子がクロスベルにいる、K・zの文字を呟きながら』……これが流れてきた噂だがこのk・zには西風の旅団の団員しか知らない意味がある」
「意味?それは一体なんだ?」
「『風切り鳥は自由の証』……俺達が掲げるこの風切り鳥の紋章に込められた意味だ」


 僕達西風の旅団の掲げる風切り鳥には自由の証という意味がある。これは自分たちは自由に吹く風のように何者にも縛られない存在という意味が込められている。


「なるほど、そりゃお前さんらにしか分からないわな」
「そういうことだ。所でセルゲイの旦那、話は変わるんだが一ついいか?」
「なんだ?」
「俺の息子をこんな目に合わせたD∴G教団とやらについて聞きたいんだが……」
「……それを聞いてどうするんだ?」
「決まってる、報復してやるんだよ。俺達猟兵は利益がなきゃ動かない、だが家族に手を出したなら話は別だ。誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやる」
「なるほど、だが悪いがそれは出来んな。俺も警察の一員である以上どんな外道だったとしても殺しを認める訳にはいかんからな、奴らは法で裁く」
「……」
「……」


 お互いに沈黙してただにらみ合う団長とセルゲイさん、一触即発の雰囲気にアリオスさん達やゼノ達も警戒する、そして数分が立ち団長が話し出した。


「……分かった、なら協力するっていうのはどうだ?」
「何、協力だと?」


 団長の突然の提案にセルゲイさんは珍しく狼狽えた表情を浮かべた。


「ああそうだ、いくら警察や遊撃士が捜査のプロでも限界があるだろう。自慢じゃないが俺は猟兵しか使えない情報の出所をいくつか持っている。少なくとも今よりは捜査が進むんじゃねえか?」
「話が見えんな、何故猟兵がそんなことをする?金は出ないぞ」
「さっきも言ったが俺達猟兵は利益がなきゃ動かない、だが家族に手を出したなら話は別だ。でもあんたらは息子の恩人だ、その恩人に対して恩を仇で返すようなみっともねえ真似はしない。そちらが法で裁くならこっちもあんたらの流儀に合わせる、といった所かな?」
「……クククッ、ハーハッハッハ!!」


 団長の提案にセルゲイさんはしばらく無言になっていたが突然大きく笑い出した。


「流儀に合わすか……俺が知っている猟兵でもそんな事を言ったのはお前さんが初めてだ。分かった、その申し受け受け取ろうじゃないか」
「へへッ、話が分かるじゃねえか。旦那」


 団長とセルゲイさんがガッチリと握手を交わす。


「セルゲイさん、流石にそれは……」


 そこにアリアスさんが待ったをかける。流石に警察と猟兵が手を組むのは世間的に批判されかねないからだ。


「アリオス、お前が言いたいことも分かる。だが今は正直猟兵の手も借りたいほどの状況にある、こうしてる間にも犠牲者は増えるばかりだ」
「それはそうですが……ガイ、お前はどうなんだ?」
「俺もセルゲイさんに賛成だ。彼らの力があれば捜査の幅が広がるし教団のしっぽを掴めるかもしれない。それにリィンの事をあんなにも思いやってる男が唯の悪人だとは思わない」
「……はぁ、全く……分かった。二人がそう言うなら俺はもう何も言わん」


 二人の言葉にアリオスさんも仕方ないといった様子で納得してくれた。今ここにクロスベル警察署と西風の旅団という初の協力体制が成立した。



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ーーー



「そう、もう行っちゃうのね」
「はい、長い間お世話になりました」


 警察署での話が終わり僕は皆が待っているアジトに帰ることになった、でもその前にお世話になった人達に別れの挨拶をするためにベルハイムに来ていた。


「皆さん、ウチのボンがホンマお世話になりました」
「……本当に感謝してます、ありがとう」
「気にしないでください、困った時はお互い様です」
「そうね、でも寂しくなっちゃうわね」
「これはほんのお礼です、どうか受け取ってください」
「これは……!こんな大金は受け取れないですよ」
「いや皆さんは俺らにとって大切なボンを助けて頂きました。こんなんでしか感謝の気持ちを伝える事が出来へんけどどうか受け取ってもらえないでしょうか?」
「そこまでおっしゃられてこれを受け取らなければ貴方方の気持ちを無下にするも同じんえ。ありがたく頂戴します」
「ありがとうございます」
「でもこんなにも大金は流石に使うのが怖いわ。そうだ、孤児院に寄付してもいいかしら?」
「ええ、もうそのミラは皆さんのもんやからどう使ってもらってもかまいまへん」


 ゼノとレオがマイルズさんとレイテさんにお礼の言葉を伝え高額のミラを渡していた、マイルズさんは最初は断ったが二人の気持ちを汲み取って受け取ってくれた。


「セシルさん、私達の大切な家族をお世話してくれてありがとう」
「ふふっ、こっちこそロイドがたくさんお世話になったわ。本当に素晴らしい息子さんね」
「えッ、息子?」
「あら違うの?てっきりリィンって貴方とルトガーさんとの子供さんかと思ったのだけれど」
「ち、違うわよ!そりゃリィンは息子同然だけど……まだ違うの!」
「まだ?」
「あッ……」


姉さんがセシルお姉ちゃんに翻弄されている。ガイさんやロイドが言ってたけどセシルお姉ちゃんって天然な所があるみたいだ。


「ガイ、アリオス。あんたらにも世話になったな。立場は違うが何かあったらいつでも言ってくれ、俺が力になろう」
「ああ、その時は頼むよ。ルトガーさん」


 団長とガイさんが握手をかわしてアリオスさんもそれを見て笑っている。猟兵と警察、本来なら相容れぬ関係だけどこの二人はそんな事は気にもしていない。


「もう行っちゃうのか、でも家族に会えて良かったね」
「うん、ロイドもありがとう、楽しかったよ」
「僕もだよ、君が教えてくれたこと絶対に忘れない」


 僕もロイドに感謝の気持ちを伝える、ロイドも笑顔でそれに答えてくれた。


「皆さん、この一か月間本当にありがとうございました」
「リィン、家族を大事にな。また何か合ったら寄ってくれ、力になる」
「リィン、お前の剣はまだまだ甘い所がある、だがいつかきっと俺と同じ領域に来れることを期待している」
「はい、ガイさん達のような強さを必ず身につけて見せます」


 ガイさんとアリオスさんにお礼を言う、出来ればセルゲイさんも来てほしかったが彼は直にやることがあるらしく警察署に残ったようだ。


「またいつでも遊びに来るといい」
「貴方ももう私の家族なんだから遠慮しないでね」
「そしたら美味しいご飯を作るわね」
「また遊びに来てね、リィン」
「今度は違う遊びをしようね」
「次は俺が良く行くパンを食べてってくれよなー、幼馴染にも紹介したいからさー」
「うん、今度はフィーや皆と遊びに来るから」
「うん!」


 ロイド達に別れの挨拶をして僕達はクロスベルを後にした。



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ーーー
 


クロスベルを出た僕達はマインツ山道の山奥を目指していた、そこに西風の旅団の隠されたアジトがあるからだ。


「……はぁ」
「どうしたのリィン?」


 僕がため息を見たフィーが心配そうに声をかけてくる。


「あ、いや……何か皆に会うのがちょっと怖くて……」
「もう、まだそんな事を言ってるの?」


 フィーがジト目で僕を見てくる。


「大丈夫だよ、皆には会いたいと思ってる。でも最初に何て言おうかって……」


 ごめんなさいってまず謝るか……何て言おうか分からない。


「そろそろ着くぞ」


 団長が指さした方にアジトがある。ううッ、もう来ちゃったよ…


 僕がアジトの前に行くとそこには……


「あ、帰ってきたぞ!」


 西風の旅団全員で僕達を待ってくれていた。


「ほ、本当にリィンだ!」
「よ、よかった~……本当に良かった……」
「だから言っただろ、あいつがそう簡単にくたばるかってな!」
「そんなの当り前だろう!」
「あ、安心したら目まいが、ああ……」
「おい、一人倒れたぞ!」


 み、皆……どうしよう、何か言いたいのに上手く声が出ないよ…とにかく何か言わないと、ごめんなさいって……


「リィン、違うよ」


 そんな僕を見てフィーが声をかけてきた。


「フィー……」
「今言うべき言葉は『ごめんなさい』じゃないでしょ?『ただいま』だよ」
「ただいま……」


 ……そうだ、僕は帰ってきたんだ。だからこそ言うべきなのは……


「……ただいま、皆!!」
『おかえり、リィン!!!』


 ようやく言えたんだ、再会の言葉を……!


 
 
 

 
後書き
  
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