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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第十一話 ファーストアラート 1

デバイス選びから数日が経ち、訓練の日々を過ごすアスカ達フォワードメンバー。

デバイスが組み上がるまでには時間がかかるとの事で、アスカは焦る事無くその日を待つ事にした。

そして、今日も早朝訓練が始まる。

魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





なのはside

ガジェットがスバルに向けてレーザーを放つ。

「なんの!」

ガジェットの攻撃を先読みしたアスカ君が、バリアを展開してレーザーを受け止めた。

うん、いい反応だ。

「スバル!」

ティアナの鋭い声に反応したスバルは、ガジェットに接近してリボルバーナックルで攻撃をする。

阿吽の呼吸だ。スバルとティアナのコンビは、余計な言葉は必要ないね。

「うん、みんないい動きしてるね」

私の言葉に、データをまとめているシャーリーも頷いている。

「アスカの撃沈数もだいぶ少なくなってきましたしね」

そうだね。

ガジェットの攻撃とAMFの癖に慣れてきたのか、上手く攻撃を先読みして防御できるようになってきている。

攻撃力は相変わらずだけど…… ^_^;

でも、攻撃を捨てて防御に専念する事によって着実に戦闘時間を延ばしてきている。

この辺の思いっきりの良さは、ティアナの指示かな?

「アスカ君はアームドデバイスに変える予定だったけど、これなら必要ないかな?」

「なのはさんまでアスカと同じ事言わないでくださいよ!それ、アスカの良い所でもあり、悪い所でもあるんですから」

あはは。まあそうだね。

何て言うか、アスカ君は今の環境を大きく変えようとはしないんだよね。

意外に堅実と言うか。

それの度が過ぎて、近代ベルカの術式をミッド式に変換するっていう裏技を使ってる訳だし。

「貧乏性なんですかね、アスカは。新しいデバイスを組もうって言った時も、今のでいいって言うし。デバイス変更って言ったら、一大イベントじゃないですか」

デバイスマイスターの立場ではそうなのかな?シャーリーの場合、趣味ってのもあると思うけど。

「手札の数を増やすより、少数の手札を使いこなしたいって性格なんだろうね、アスカ君は」

一つの技を磨き続ける事ができるってのも才能の一つだよ。

あの防御技術は、まさにそれだと私は思うな。





outside

「つ、疲れた~」

ゼーゼーと荒く呼吸をするアスカ。走り回って防御して、また走り回っての繰り返しだ。

「アスカ、あとどれくらい動けそう?」

同じく呼吸を整えてるティアナが聞いてくる。

「そろそろ膝が笑いそうだよ!朝っぱらから走らせ過ぎだろ!」

文句を言うアスカだが、それはフォワードメンバー誰もが同じだった。

ティアナも、エリオもキャロも埃まみれの汗まみれ。

アタッカーのスバルは、細かい傷も負っている。

「気ぃ抜かないでよね。六課の撃沈王さん」

「誰が撃沈王だ!誰が!」

的を得たティアナの言葉にアスカが食って掛かる。

「アスカの事じゃない」

無自覚にスバルが援護射撃をする。

「バリアの耐久力の限界まで頑張ってんだよ!」

二人のコンビネーションブローにアスカがむくれる。

そのアスカに、エリオとキャロが近づいた。

「ごめんなさい、アスカさん。本当なら、限界がくる前にボク達がガジェットを落とさなくちゃいけないのに……」

「私も、バリアの強化とかしなくちゃいけないのに……」

と二人で謝る。

「マジメか!って言いたいけどお前達良いヤツだあ!どこぞの二人に聞かせてやりたいぜ!」

がばっ!とエリオとキャロをまとめて抱きしめるアスカ。

(アスカの限界がくる前に、か。確かにね)

ティアナがエリオの言葉を反芻する。無限の耐久力を持つバリアなど存在しない。

アスカが囮になっているからこそできるコンビネーションもある。

(分かってるんだけどね。スバルとエリオの回転率を上げる事ができれば、アスカの負担を減らせる。でもその為には、アタシがもっと強くなってフォローできないとダメなんだ)

手にしたアンカーガンを強く握りしめるティアナ。

その時、なのはの集合が掛かった。

「はーい、整列!」

フォワード5人が なのはの前に駆け足で整列する。

バリアジャケットを身につけた なのはが、5人の頭上に浮かんでいた。

「じゃあ、本日の早朝訓練ラスト一本。みんな、まだ頑張れる?」

「「「「「はい!」」」」」

5人は疲れた身体にムチを打ち、大きな声で答えた。

「じゃあシュートイベーションをやるよ。レイジングハート」

なのは はレイジングハートを前に突き出す。

《All right Axel Shooter》

なのは の足下に魔法陣が現れ、その周囲にアクセルシューターが浮かび上がる。

数にして十個の魔法弾。

(さて、メインイベントだな)

ゴクリと喉を鳴らすアスカ。緊張した面もちでスバル達もその光景を見つめている。

「私の攻撃を5分間、被弾無しで回避しきるか、私にクリーンヒットを入れればクリア。誰か一人でも被弾したら最初からやり直しだよ」

なのは の周囲でアクセルシューターがグルングルンと音を立てて旋回している。

「頑張って行こう!」

「「「「「はい!」」」」」

答えた5人は素早く作戦を練る。

「このボロボロの状態で、なのはさんの攻撃を5分間、(さば)き切る自信ある?」

ティアナの言葉に、

スバル「ない!」

エリオ「同じく!」

キャロ「無理です!」

アスカ「オレに聞くな!」

と予想通りの返答。

「じゃあ、何とか一発入れよう!」

ティアナがそうハッパをかける。

「特にアスカ!真っ先に落とされるんじゃないわよ!」

「名指しかい!なぜオレに言う!」

「心当たりあるでしょ!」

「はい、山ほど!」

とバカをやっている場合ではない。

「よーし、行くよ、エリオ!」

スバルがリボルバーナックルを構える。

「はい!スバルさん!」

エリオも気合いを入れてストラーダを握った。

(かまってよ~、寂しいじゃない)

やる気満々のスバルとエリオを見て、思わず心の中でボヤくアスカ。

(ま、確かにジャレている場合じゃねぇな!)

二人のやる気に当てられたアスカも、デバイスを構える。

「準備はOKだね」

フォワードの様子を見て、なのはが右手を上げた。

「それじゃ……レディー・ゴー!」

右手を振り下ろすと同時に十個の魔法弾が5人の襲いかかる。

「全員緊急回避!二分以内で決めるわよ!」

「「「「おう!」」」」

ティアナの指示で全員が散開する。ほぼ同時にアクセルシューターが地面の激突して土煙が舞った。

様子を伺う なのは。

すると、土煙舞う被弾地帯から青色の光の道、ウイングロードが縦横無尽に伸びてきた。

なのはを裏取りするように光の道ができる。

「うおぉぉぉぉ!」

ウイングロードからスバルがリボルバーナックルを構えて肉薄する。

それと同時にビルの窓からティアナが、なのはをスナイプするべく狙いをつけた。

「アクセル!」

だが、瞬時にそれを見抜いたなのはが、レイジングハートに指示を出す。

《Snipe Shot!》

二発の魔力弾が呼び戻され、スバルとティアナに向かって放たれた。

二人を撃ち抜く魔力弾。の筈が、アクセルシューターは二人を貫通してしまった。

いや、これは幻影。

「シルエット。やるね、ティアナ」

なのは が感心した時、ウイングロードが頭上に伸びてきた。

上を見る なのは。

今度こそ、本物のスバルがリボルバーナックルを突きだしてきた。

「うおりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

なのはを撃ち抜くべく放たれた拳撃。だが、それをバリアを展開して なのはは防ぐ。

激しく衝突するナックルとバリア。

スバルは構わずにナックルを強引に押し込もうとする。

「んー、そろそろ出番かな?」

なのはとスバルの攻防を隠れて見ていたアスカが動き出す。

その時、ちょっとしたトラブルがスバルを襲った。

なのはが先に放ったアクセルを戻してスバルに狙いを定める。

「!」

それに反応したスバルがローラーを蹴って後退する。

「うん、良い反応だ」

スバルの動きを見てなのはが頷く。が、

「とっとっと!」

アクセルシューターを避けたまでは良かったが、バランスを崩してしまったスバル。普段の彼女なら、考えられないミスだ。

何とか態勢を立て直してウイングロードを走るが、そのすぐ後ろには二発のアクセルシューターが迫ってきていた。

『スバルばか!危ないでしょ!』

ティアナがスバルを叱りつける。

「うん、ゴメン!」

謝りながら、スバルは必死にアクセルシューターから逃げる。

『待ってなさい、いま撃ち落とすから』

アンカーガンを構え、狙いを付けるティアナ。そしてトリガーを引くが、

カチッ

不発

「え、何で?こんな時に!」

アンカーガンのカードリッジを急いで入れ替える。が、間に合わない!

「うわあぁぁぁ!ティ、ティア!援護援護!」

悲鳴を上げるスバルが被弾する、まさにその瞬間、

「ミドルプロテクション!」

間一髪、アスカが間に入り、バリアを張ってアクセルシューターを弾き返した。

だが、アクセルシューターは何度もアスカに襲いかかってきた。

「くっ!?まだか!ティアナ!」

堪らずアスカも悲鳴気味になる。

『ゴメン、デバイスのトラブルよ。もう大丈夫!』

魔力弾を撃ち、なのはのアクセルシューターを撃ち落とす。

これでアクセルシューターの数はあと8発。

だが、アスカはそれどころではなかった。

「じょ、冗談だろ!何だよ、あのアクセルは?」

受けきったアスカだが、冷や汗を流す。

バリアに当たっても消滅しない密度。何回もホーミングしてくる機動性。

ティアナの援護が無かったら、被弾していたのは間違いなかった。

(でも、まだ時間を稼がないと!)

アスカがウイングロードの上を走り出す。足場を使っての空中戦を仕掛けるつもりだ。

動いたアスカに、3発のアクセルシューターが迫る。

「なんの!ミドルプロテクション!」

バリアを張ってそれを防ぐアスカ。

エリアルダッシュで間合いを離すが、すぐに追いつかれてしまう。

アクセルをバリアで防ぎながら、アスカは なのはに迫る。

「スバル!」「OK!」

アクセルシューターを引きつけつつ、アスカは更に二つのバリアを展開した。

「行きますよ、隊長!」

アスカは新たに展開したバリアを、直接なのはにぶつけに行った。

それを、同じくバリアで防ぐなのは。

(こっちはバリアの二枚重ね。対消滅の瞬間、スバルのナックルが襲いかかるって寸法さ!)

計三枚のバリアを展開しているので魔力消費は激しい。だが、出し惜しみをして追いつける相手ではない。

アスカは全力でなのはに向かって行く。

「昇格試験の時に使っていた戦法だね。じゃあ、こうだよ」

なのははバリアを突然解いて上昇した。

「え?えぇぇぇ!」

不意に圧力が無くなった為に、アスカは前につんのめってしまった。

「背中がガラ空きだよ」

アクセルシューターがアスカに襲いかかる。

「リボルバァァァァァシュゥゥゥゥゥト!」

そうはさせまいとスバルが魔法を放つ。アクセルを撃ち落としたが、今度はスバルが隙だらけになる。

「エリアルコンボ・A!」

体勢を立て直したアスカが、スバルの前に出てバリアを張る。

「フォローとリカバリーも素早いね。いいよ、その調子!」

そう言いながら、なのはは4発のアクセルシューターを呼び出してアスカのバリアに叩きつける。

「ぐぅ……この4発を凌げば、ア、アクセルシューターはあと1発、これを耐えきれば!」

バリアでスバルを守りながら、アスカはなのはの隙を伺う。その時、

ピシッ!

「なんだ?」

魔力弾がバリアにぶつかった時に亀裂音がした。だが、バリアに異常は無い。

ピシッ!ピシッ!

アクセルシューターがバリアに叩きつけられる度に音がする。そして……

「あ、ヤバイ」

音の発生源を突き止めたアスカが思わず呟いた。

「クリスタルが保たない」

亀裂音の発生源は、デバイスに取り付けられているコアクリスタルから出ていたのだ。

クリスタルに亀裂が入り、アクセルシューターの攻撃の度に大きくなっていく。

「このままじゃ……スバル、下がれ!」

バキン!

アスカが叫んだと同時に破裂音が響き、コアクリスタルが砕け散った。

「きゃあ!」

デバイスに送り込まれていた魔力が一気に放出され、その爆風に煽られてアスカとスバルが吹き飛ばされる。

何とかスバルを庇いながらアスカは地上に着地した。

怪我の功名で、その爆風に巻き込まれたアクセルシューターが消失してしまったのは、アスカ達にとっては幸運だった。

「エリオ、今だ!」

アスカ、それまで戦闘に加わっていなかったエリオに合図を送った。

エリオは戦闘開始時から安全域に待避し、キャロに多重ブーストをかけてもらっていたのだ。

「いっけぇぇぇぇ!」

ストラーダを構えたエリオが、なのはに突撃する!

「!」

なのはがバリアを展開してエリオを迎え撃つ。

そして、二人が空中で激突する。

爆炎が舞い、エリオが弾き飛ばされた。

「「エリオ!」」

アスカとスバルが叫ぶ。

「外した?」

状況を見極めんとするティアナ。その時であった。

《Mission complete》

レイジングハートの報告する声が全員に聞こえた。

「お見事。ミッションコンプリート」

なのはが模擬戦の終了を告げた。

「本当ですか!?」

ビルの外壁にぶら下がっていたエリオが信じられないといった表情でなのはを見る。

「ホラ、ちゃんとバリアを抜いてジャケットまで通ったよ」

なのはがバリアジャケットの左胸にできたかすり傷を指さす。

「あ!」「ああ!」

エリオとキャロが嬉しそうに笑う。

(つーか、あの突撃でジャケットにかすり傷程度か?オレ、自信無くしそー)

なのはの防御力を目の当たりにして、若干アスカはヘコんだ。

「じゃあ今朝はここまで。一旦集合しよう」

フォワードの成果を見れたからか、なのはは笑顔で全員を集めた。





「さて、みんなもチーム戦にだいぶ慣れてきたね……って、アスカ君!怪我をしたの?」

なのはがアスカを見て慌てたように言った。

「え?」

アスカは自分の手足を見回したが、特に傷も痛みも無い。

「アスカさん、右のホッペから血が出てますよ!」

キャロも驚いてトントンと右頬を指す。

アスカは右頬に触れてみる。

ヌチャリと、指先に血がこびりつく。

「さっきのクリスタルの破片だな。大した事ないよ」

痛みもなく、血も流れてなかったので、アスカは心配すんなと言った。

「出血は治まっているみたいだけど、この後でちゃんとシャマル先生の所に行くんだよ?」

心配そうな なのはの言葉に、アスカは素直に頷いた。

「さて、ティアナの指揮も筋が通ってきたよ。指揮官訓練、受けてみる?」

「え?いや、あの、戦闘訓練だけでイッパイイッパイです!」

いきなり話を振られたティアナは、慌てて首を横にふった。

「いいじゃん、やってみろよ。ティアナならやれると思うけど?」

ニッと笑ってアスカがチャチャを入れる。

「アンタの撃沈数がもっと少なくなったら考えるわ」

「ありゃ、参ったね、こりゃ」

二人のやりとりをみてスバルが笑う。

「クウ?ククル?」

そんな和やかな空気の中、キャロの足下にたフリードがキョロキョロと辺りを見回し始めた。

「フリード、どうしたの?」

それに気づいたキャロとエリオがフリードを見る。

「?なんか焦げ臭いような??」

エリオも異変に気づき、鼻をヒクヒクさせた。

「あ!スバル!アンタのローラー!」

ティアナがスバルの足下を指した。バチバチとスパークしているローラーブーツ。

「え?あ!ヤバッ!」

大急ぎでスバルがローラーブーツを脱ぐ。

「あっちゃー、しまったぁ。無茶させちゃった」

困り顔でスバルがローラーブーツを抱える。

「オーバーヒートかな?後でメンテナンススタッフに見てもらおう」

そう言えば、とティアナに目を向ける なのは。

「ティアナのアンカーガンも、結構厳しい?」

「はい、騙し騙しです」

模擬戦中にジャムを起こしたアンカーガンを見るティアナ。

「アスカ君のデバイスも、クリスタルが割れちゃったしね」

「元々お古のデバイスですから。メンテはこまめにやっていつもりだったんですけどね」

アスカはクリスタルの無くなったデバイスを見た。

十年型落ちのデバイスが、今や立派なガラクタになってしまった。

「うーん。みんな訓練にも慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかな?」

新デバイス。その言葉に全員がピクンと反応する。

「新デバイス?」

ティアナがふと口にする。

(そう言えば、シャーリーが簡易デバイスを組むって言ってたっけ)

最後の模擬戦前にラボに戻ったシャーリーの事を思い出すアスカ。

(すっかり忘れてたなあ……)

そんな事をシャーリーが知ったら、きっとズッコケただろう。





アスカside

オレは一人、医務室へと向かっていた。

他のメンバーは一足先に寮に戻り、シャワーを浴びてからラボに向かうはずだ。

「失礼します。シャマル先生、居ますか?」

「あら、アスカ君。怪我したのね?」

顔を見るなり、シャマル先生はオレをイスに座らせた。

「ガラスで切ったのかな?」

シャマル先生が傷に触れないように、注意深く観察する……つーか、顔が近いんですけど

「え、ええ、まあ……デバイスのクリスタルが割れまして」

シャマル先生の顔が近づき、ドキリとしてしまう。

シャマル先生ってカワイイ系なんだけど、仕事の時の真剣な顔はすげぇ美人さんなんだよなあ、これが一粒で二度おいしいって事か?

なんて考えてたら、よく傷を見る為か先生が更に顔を近づけてきた。

あぁ……シャマル先生、いい匂いが………ってイカンイカン!

思わずウットリとしてしまいそうになる自分に渇を入れるオレ。

でもね、あのですね、16歳の青少年には少々刺激が強いですよ?

色々と、のっぴきならない事になっちゃうじゃないですか。

「他に痛いところとかある?」

「いえ、特には」

そう答えるのが精一杯のオレ。

情けなくて結構!先生をどうにかする程度胸なんかないもんね!

まあ、正直な話、オレよりシャマル先生の方が全然強いんですけどね。

「そう。じゃあ、治しちゃおうか」

シャマル先生はそう言ってオレの頬に優しく手を重ねた。そして、治癒魔法を発動させる。

ドキンと心拍数が跳ね上がる。

シャマル先生の柔らかい手が、自分の右頬に触れている。それだけで…

お、落ち着け、落ち着けオレ。先生は治療しているだけだぞ!

オレは必死に自分に言い聞かせる。

だってさ、野郎ばっかの099部隊にいた時はこんな傷、怪我の内に入らなかったんだぜ?

しかも医務官なんて酔っ払いのクソオヤジだったし。

それが急にこんな美人の医務官に治療されるっていったら、そりゃ色々あるでしょ、男的に。

「はい、お終い。もう痛くないでしょう?」

ニッコリと笑うシャマル先生。天然ですか、その笑顔の破壊力は砲撃並ですよ!

「は、はひ!ありがとうございます!」

バッと立ち上がって深々と頭を下げるオレ。ヤバッ、ちょっと噛んだ。

「大げさよ、アスカ君。また何かあったら、すぐに来るのよ?」

先生はクスクスと笑っている。

「はい、失礼します」

真っ赤な顔をして、オレは医務室から出て行った。

少し廊下を歩いて、ようやくオレは落ち着きを取り戻した。

「あー、金髪美人の女医さんって、都市伝説じゃなかったんだぁ…」

実際、シャマル先生に会うまで、美人の医務官なんて、ドラマか○○ビデオだけのフィクションの世界だけだと思ってたよね。

それがアンタ、生けるUMAとしてここにいるじゃあーりませんか!

人生観変わるわ~

……誰に言ってんだ、オレは?少しシャッキっとしよう。

オレはそう思いつつも、さっきシャマル先生が触れていた右頬を撫でてみる。

「いや~、怪我するのもいいなあ」

思い出したらグニャグニャになっちゃうじゃない!

悪くないよね、オレ?もう、怪我するのが楽しみー!!





outside

後にアスカは、ガチンコで医務室の常連になる事になる。

主にシグナム的な意味で……





outside

シャワーを浴びて一息ついてから、アスカはラボへと向かった。

時間的に見て、新デバイスは既にスバル達に渡されている頃だ。

「遅れました」

アスカが中に入ると、フォワードメンバーとなのは、シャーリー、リインがいた。

彼が入ってきた事に気づいたスバルが満面の笑みで駆け寄ってくる。

「ほら、見てよアスカ!私のデバイス、インテリデバイスだよ!すごいよ!」

興奮気味にスバルがしゃべる。

「わかった、わかった!落ち着けって!」

ポンポンとスバルの頭を撫でつけるアスカ。

どうやら、スバルとティアナはAI搭載のインテリジェンスデバイスを支給されたようだ。

スバルより落ち着きを見せてはいるが、ティアナも嬉しそうにしている。

「エリオとキャロはどうなんだ?」

ふと頭に浮かんだ疑問を口にするアスカ。

「ボクとキャロは、リミッターの解除をしてもらってます。これから実力に合わせて、何段階かのリミッター解除をしていくそうです」

エリオの説明に、なるほどと頷くアスカ。

「もちろん、アスカのデバイスも用意しているわよ」

シャーリーが上機嫌に、ニコニコ笑いながらアスカを招く。

「ふーん。あ、これ直しておいてくれないか?」

気のない返事をして、アスカは手にしていたストレージデバイスをシャーリーに渡す。

「え?まだ使うつもりなの?」

受け取ったシャーリーが呆れるように言う。

「違うよ。修理したら、099部隊に送ってやろうと思ってさ。デバイス不足なんだよ、あそこは」

それを聞いて、、シャーリーはなるほどね、とポンと手を叩いた。

「じゃあ、これは預かっておくわ。ついでにカードリッジシステムでも付けておこうかしら♪」

シャーリーは、とりあえず壊れたデバイスを机の上に置いた。

「んで、オレのデバイスはどれだ?」

キョロキョロと辺りを見回すアスカ。だが、それらしき物が見あたらない。

「ああ、そこにあるでしょ、待機状態になってるから」

シャーリーがメンテナンスポッドの中に浮かぶ待機状態のデバイスを指さす。

そこには、薄い板をUの字に曲げたような装飾品らしき物が浮かんでいた。

「へー、これかあ」

アスカがそれの正面に立つ。

《よろしくお願いします、マスターアスカ》

アスカに反応したデバイスが挨拶をする。

「……え?これって……え?しゃべ……え?インテリ?」

突然しゃべったデバイスを見て驚くアスカ。

目をパチクリさせて、何度もシャーリーとデバイスを見る。

「え?だって簡易って言って……え?」

まだ理解できないのか、呆然としてしまっている。

「アスカのも当然インテリジェンスデバイスよ。スバルとティアナもインテリジェンスデバイスなのに、アスカだけ簡易デバイスの筈ないで……ムギュッ!!」

いきなりアスカに抱きつかれるシャーリー。

「でかした!シャーリー!」

アスカはシャーリーを抱きしめたまま、クルクルと、いや、ギュンギュンと高速回転する。

ワシャワシャとシャーリーの頭を撫でながら、更にスピードを上げる。

「あ、アスカさんの喜びの舞いだ」

自分もそれをやられた事のあるエリオがポツリと呟いた。

もっとも、その時よりも回転数がハンパなく多くなっていたが……

「よくやった!シャーリー!!」

スバルとティアナに止められるまで、アスカはシャーリーを抱き上げたまま、グルグルと回り続けた。





なのはside

一騒動後、アスカ君は浮かんでいるデバイスを机にがぶり寄りで見上げていた。

うわーっうわーっと子供みたいな声を上げて待機状態のデバイスをガン見している。

その後ろでは、目を回したシャーリーがイスに座ってダウンしていた。

あはは、しょうがないなあ。

私は苦笑しつつも、デバイスの説明をしていた。

「……以上が注意事項だよ。わからない事があったら聞いてね」

一通りの説明を終えたので、そう聞いてみると、アスカ君は何度もコクコクと頷いていた。

なんだか微笑ましいなあ。

「みんなにも言ったですけど、この子は生まれたばかりです。大事に、でも限界まで育ててあげるですよ?」

そう。

みんなに渡したデバイスは生まれたばかりの赤ん坊と同じ。

みんなと一緒に成長していくものなんだ。リインはそれを伝えたかったんだけど……

「了解であります!この子は嫁に出しません!オレが育てます!」

「ア、アスカ、落ち着くですよ」

錯乱状態に近いアスカ君に、リインがどん引きしている。

「まあまあ。インテリジェンスデバイスがよっぽど嬉しかったんだね」

以前から、インテリデバイスいいなーって言っていたから、急に手にする事になって喜びが爆発しちゃったんだね。

って思っていたら、ガバッとアスカ君がこっちを見た。…ちょっと怖い。

「隊長!この待機状態はなんですか?」

ん?どういう事?

待機状態?

ああ、そういう事か。

「うん。アスカ君のデバイスの待機形状は、イヤーカフだよ。ここまで小型化できるなんて凄いよね」

ペンダント型というのは結構あるし、指輪型ってのも少しずつ出始めてきている。

イヤーカフっていうのは、シャーリーのオリジナルかな?

「そうですか!イヤーカフですか!」

バッとまたデバイスに目を向けたアスカ君だけど、また私に顔を向けてきた。

今度はなんだろ?

「イヤーカフって……何ですか?」

ズテッ

その場にいた全員がコケてしまったのは、悪くないよね?

「あ、あははは、アスカ君はアクセサリーとか身につけないもんね」

だ、大丈夫だよね、私。引きつった顔してないよね?

ちょっとだけ乾いた笑い声になってしまった私は、待機状態のデバイスを手に取った。

「イヤーカフっていうのは、ピアスやイヤリングのような耳飾りの事だよ。こうして、耳に引っかけるようにして付けるの」

私は手にしたイヤーカフをアスカ君の右耳に滑らせるようにして付けてみた。

「え?い、いやー、隊長直々に付けてもらえるとは…」

ちょと顔を赤くするアスカ君。あ、なんかカワイイなあ。

「うん、よく似合うよ。今のでイヤーカフの付け方は分かったね?」

「は、はい!」

照れ笑いをして、アスカ君はエリオとキャロの方を向いた。

「えへへ、どうだ!」

ニパッと無邪気な笑顔を見せる。

こういう表情を見ると、とても対AMFを思いついた子と同じとは思えないなあ。

「かっこいいですよ、アスカさん」「うん、似合ってます」

エリオとキャロに褒められて、更に照れるアスカ君。

これぐらいの年齢で、ここまで素直に感情を出せるって、結構希だよね。

「午後からは、それぞれのデバイスを起動して調整しながらの訓練だね…」

私がそう言い掛けた時だった。

突如メンテナンスルームに警報が鳴り響いた。





outside

緊急警報と同時に、ラボのメインモニターが赤く点滅し、アラートの文字が表示される。

「このアラートって!」

「一級警戒態勢?」

スバル、エリオが言葉に出す。

浮かれていたアスカの顔が一気に引き締まる。

(このタイミングかよ!)

アスカが眉を顰めた。

「グリフィス君!」

なのはの声に反応するように、メインモニターに副部隊長のグリフィス・ローランが現れる。

「はい。教会本部から出動要請です!」

「なのは隊長、フェイト隊長、グリフィス君。こちらはやて」

「状況は?」

メインモニターの両隣のモニターに、はやてとフェイトが映った。

緊迫した空気が漂う。

はやてが口早に事態を説明する。

「教会の調査団が追っていたレリックらしき物が見つかった。場所は、エイリの山岳丘陵地帯。目標は山岳リニアレールで移動中」

「移動中って……」

フェイトが声を上げる。

「まさか!」

なのは嫌な予感がしたのか、息を飲む。

「そのまさかや。内部に侵入したガジェットのせいで、車両の制御が奪われてる。リニアレール車内のガジェットは、最低でも30体。大型や飛行型の未確認のタイプがでてくるかも知れへん」

(リニアレールの貨物……って事は無人車両か?厄介なのか、都合がいいのか?)

自然と戦略を思い描くアスカ。恐らく、ティアナも考えているだろう。

フォワードメンバーで出動した場合のシミュレーションを。

「いきなりハードな初出動や。なのはちゃん、フェイトちゃん、いけるか?」

「私はいつでも」

間髪入れず、フェイトが答える。

「私も!」

なのはもすぐに答えた。

二人の返事に、はやての視線がフォワードメンバーに移る。

「アスカ君、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。みんなもOKか?」

「「「「「はい!」」」」」

「よし、いいお返事や。シフトはA‐3。グリフィス君は隊舎での指揮、リインは戦闘管制。なのはちゃんとフェイトちゃんは現場指揮」

素早く、次々と指示を出すはやて。

普段の、優しげでおちゃめな雰囲気しか知らない者なら、圧倒されてしまうような勢いだ。

(まったく、うちの部隊長もとんだタヌキだぜ)

部隊長としてのはやてを目の当たりにして、アスカはニヤリと笑みを浮かべる。

心地よい緊張感が身体を駆けめぐる。

「ほんなら、起動六課フォワード部隊、出動!」

「「「「「「「はい!」」」」」」」

こうして、新人達は初任務に挑むことになった。 
 

 
後書き
どうも、相変わらず長々と申し訳ありません。読んでいただき、感謝いたみいります。
さて今回ですが、シャマル先生も出てきてある程度キャラが出そろ…ヴィータさんがいねえ!
ヴィータさんはもうちょと後で出てくるので、もうしばらくお待ちください。

ティアナのネガティブキャンペーンに向けての一文も入れられたし、とりあえずやりたいことは詰め込む事ができました。

そして、ここまで大した活躍をしていないアスカ。次回、大暴れできるのでしょうか?それとも…

ところで、シャーリーさんが結構目立ってるような気がしますね。正直、キャロより全然登場回数多いし。
頑張って、キャロ!

二次小説を書き始めて気づいたのですが、自分、主要キャラより脇キャラの方がうまく書けているような気がするんですよね。シャーリーやアルトの話なんかも盛り込んで行きたいです。 
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