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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第98話

~夜・ウルスラ病院・研究棟~



「わ、わたしたち…………夢でも見ているの………?」

「おいおいおい………!なんなんだよ、あのドデカい奴は!?あれもメンフィル帝国独特の技術ってヤツッスか!?」

その様子を呆けて見ていたエリィは呟き、ランディは信じられない表情で叫んだ後、リウイ達に視線を向けて尋ね

「いや。先程の人形兵器―――”パテル=マテル”はレンがリベールの”異変”時、”結社”との戦いの際に強奪した人形兵器だ。………今ではシェラ率いる”機工軍団”や”グロリアス”に次ぐ程の主力兵器と化している。予想外の戦利品だったな、”パテル=マテル”は。」

尋ねられて答えたリウイは静かな笑みを浮かべて説明した。

「ええっ!?ご、強奪って………」

「まさか”結社”にあれほどの人形兵器を創る技術力があるなんて………」

「というか対峙すれば破滅しか訪れないと言われているあの”破壊の女神”が率いる”機工軍団”に次ぐ強さって………わたしの見た戦い以上にとんでもない存在だったんですね、”アレ”は………」

リウイの説明を聞いたロイドとエリィは驚き、ティオは疲れた表情で溜息を吐き

「フン………どうやら認識を改める必要があるようだな。」

「ったく、あの秘書野郎といい、常識外れすぎんだろ………」

「………ああ………」

銀は静かに呟き、疲れた表情で溜息を吐いたランディの言葉にロイドは頷いた。

「…………黒幕の正体も判明して、その狙いも朧げだが見えてきた。こうなったら急いでクロスベル市に戻って―――」

そしてロイドが仲間達に提案をしたその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめ

「あ………」

「すごいタイミングね………」

鳴りはじめたエニグマに気付いたロイドは驚き、エリィは真剣な表情で呟いた後、ロイドは通信を始めた。

「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです!」

「良かった、無事だったのね。―――私よ。警備隊のソーニャ・ベルツ。」

「ソーニャ副司令………!今、どちらにいるんですか!?」

「ちょうど病院に到着した所よ。これから部隊を突入させるけど問題ないかしら?」

「そ、そうですか………―――マフィア達は一通り制圧している状態です。病院内の人達に声をかけて保護してあげてください。」

「わかったわ。また後で合流しましょう。」

そしてロイドは通信相手―――ソーニャとの通信を止めた。その後警備隊が突入してマフィア達を拘束し、病院内の人達の保護を始めたり、看護師達を纏めている師長やセシルに状況を聞いたりしていた。



~ウルスラ病院・病棟屋上~



「やれやれ………これで一安心って所か。」

「ええ………でも、まだ気が抜けないわ。」

「………そうですね………あの秘書さんの予告ではまだ何かあるみたいですし………」

警備隊の行動を病棟の屋上で見守っていたランディは安堵の溜息を吐き、エリィの呟いた言葉にティオは頷いた。

「ああ、副司令と話したら急いでクロスベル市に戻ろう。」

「フフ………どうやらここまでの様だな。」

そしてロイドがエリィ達の言葉に答えたその時、銀が静かな笑みを浮かべて呟いた。

「”銀”………行くのか?」

「クク、これ以上付き合う義理はあるまい。ツァオへの報告は十分だし、私は私で守るべきものがある。お前達と同じようにな。」

「え………」

「あなた一体………」

(………なるほど。イリアね………)

(あっはははははっ!こりゃ傑作だ!暗殺者の守るべき対象がよりにもよって光の下で育った人間とはね!)

銀の話を聞いたロイドとエリィは呆け、ルファディエルは納得した様子で呟き、エルンストは陽気に笑っていた。

「―――”銀”。”黒月”にセシルやエリィの事を報告するかはお前の勝手だが………これだけは覚えておけ。もしお前達が我等マーシルン家の一員であるセシル達に危害を加えるような事があれば、メンフィルの全戦力を持ってお前や”黒月”どころかカルバードごと滅してやるとな。」

「リウイ陛下………」

「……………………」

そして覇気を纏ったリウイの銀への警告を聞いたロイドは驚き、エリィは複雑そうな表情をして黙っていた。

「フフ………いくらツァオとて貴方達を敵に回すような愚かな真似はしないだろう。……………今宵は会う事はあるまい。だが、夜はまだ長い………くれぐれも気をつけるがいい。」

一方リウイの警告を聞いた銀は静かな笑みを浮かべて答えた後、ロイド達に背を向けて警告し

「ああ………ありがとう!」

「ま、一応礼を言っとくぜ。」

「……お疲れ様でした。」

「フ………さらばだ。」

ロイド達の労いの言葉を背に受けた後、人間離れした動きで病院から去って行った。するとその時、エニグマが鳴りはじめた。



「え…………」

「今度は一体誰だ?」

エニグマの音に気付いたロイドは驚いてエニグマを見つめ、ランディは真剣な表情で呟いたが

「いや………俺のエニグマじゃないよ。」

「ハア??」

「じゃあ一体誰の……」

「少なくとも私達のじゃないし………」

ロイドの答えを聞いて首を傾げ、ティオは不思議そうな表情をし、エリィはリウイ達に視線を向けた。するとその時、リウイがエニグマで通信を開始した。

「―――こちら、リウイ・マーシルン。」

「俺だ、セリカだ。」

「………一体何の用だ。」

「エステルからの伝言だ。飛竜に乗った護衛部隊の報告によるとベルガード門に異常があったらしい。」

「何?どういう事だ、それは。」

「………見張りの警備隊は一人もいなかったらしい。」

「何だと?見張りの兵がいないだと?」

「ああ。それどころかベルガード門の建物内全てを調べたが警備隊員は一人もいなかったらしい。」

「………それでエステルは自分達の護衛部隊にどういう指示をした。」

「そのままクロスベルに向かい、その後リウイの指示を仰げと指示をしていたな。」

「……何?…………俺達にまで手伝わせるつもりか………」

「エステル自身は『リベールの”異変”の時、あたし達を驚かせた仕返し。断ればイリーナさんにラピスとリンの件でリウイが秘密にしている件を話す』と言っていたが………」

「……ハア………くだらん事に根を持っている奴だな………―――まあいい。お前達はどうするつもりだ?」

「俺とレシェンテはエステル達が失踪者達がいると思われる場所を探している間はクロスベルに残って欲しいと言われたから、エステル達から連絡があるまではクロスベル市で情報収集を続けるつもりだ。」

「……わかった。」

そしてリウイは通信を終えた。

「あなた、一体誰からだったんですか?」

リウイが通信を終えるとイリーナがリウイに尋ね

「………セリカだ。」

「え……セリカ様からですか?」

「というかあの人、エニグマを持っていたんですか………一体いつの間に手に入れたんでしょう………?」

リウイの答えを聞いたエクリアは驚き、ティオは意外そうな表情をして呟き

「………この世界に来る際に俺達メンフィルが用意してやった。」

「………マジですか………というかあの人達、エニグマがなくても出鱈目な強さを持っているのに、どこまで強くなる気ですか……」

リウイの話を聞き、ジト目になって溜息を吐いた。

「あの………もし、差支えなければ一体何があったか教えてもらってもいいでしょうか?」

そしてロイドが真剣な表情でリウイに尋ね

「………いいだろう。お前達も無関係ではあるまい。」

尋ねられたリウイはエステルの護衛部隊がクロスベルに向かっている事とその途中で通過したベルガード門の警備隊員が一人もいなかった事を説明した。

「なっ!?」

「警備隊員まで………!」

「チッ!そういや阿保司令はルバーチェと繋がっていたな!」

「まさかベルガード門の警備隊員も操られたのでしょうか………?」

リウイの話を聞いたロイドとエリィは驚き、ランディは舌打ちをし、ティオは真剣な表情で考え込んでいた。



「さて…………俺達も一端クロスベル市に戻ってプリネ達に今後の行動を伝えなければな。―――エクリア、転移魔術を頼む。」

「かしこまりました。」

リウイに指示をされたエクリアは頷いた後詠唱を開始し

「―――ロイド・バニングス。」

「は、はい!」

「セシルに伝えておけ。『近い内にまた改めて会いに来る』と。」

「え……………」

そしてリウイの伝言を聞いたロイドが呆けたその時、リウイは外套を翻してロイド達に背を向け

「転移――――クロスベル市。」

リウイがロイド達に背を向けたと同時にエクリアの転移魔術を発動して、リウイ達と共にその場から消えた!その後、ソーニャやノエルと合流したロイド達は手早く事情を説明し………警備隊の車両でクロスベル市まで送ってもらえることになった。



「……そう。急いで街に戻るのね。」

「ごめん、セシル姉………本当だったら復旧の手伝いをしなくちゃいけないのに……」

自分達がすぐにクロスベル市に戻る事を知ったセシルにロイドは申し訳なさそうな表情で答え

「ふふっ、気にしないで。警備隊の方々もいるし、あなた達はあなた達にしか出来ないことをするべきよ。……キーアちゃんの身が危ないかもしれないんでしょう?」

セシルは微笑んだ後真剣な表情で尋ねた。

「ああ………正直、ヨアヒム先生の狙いはまだはっきりとはわからない。この混乱した状況で俺達がどう動くべきかも……でもキーアは……あの子だけは必ず守ってみせる!」

「私も………同じくです。」

「絶対に………守ります。」

「ま、危ない野郎の元には意地でも戻させないッスから。」

「ふふっ……大切なのは、あなた達が何をどう守りたいかだと思う。それさえ見失わなければ、きっと答えは出せるはずよ。大丈夫……あなた達ならきっとやれるわ。」

決意の表情で語るロイド達にセシルは微笑んだ。

「セシル姉……ありがとう。」

「……そう言って頂けると本当に心強いです。」

セシルに微笑まれたロイドとエリィはそれぞれ笑顔で頷いた。

「フフ、言おうとしてた事をほとんど言われてしまったわね。―――拘置所の方も襲撃されて警備隊も相当混乱しているけど………ベルガード門の部隊と連携して事態の収拾に当たらせてもらうわ。」

「………ソーニャ副司令。実はその事なんですが……」

ソーニャの言葉を聞いたロイドはリウイから聞いた情報を説明した。

「なっ!?ベルガード門の警備隊が行方不明………!?」

「………その情報は本当なのかしら?」

情報を聞いたノエルは驚き、ソーニャは真剣な表情で尋ねた。

「………はい。ベルガード門を調べたエステル達の護衛部隊のメンフィル兵達からの情報らしいですから、信憑性はかなり高いかと。」

「そう……………」

「そ、その情報も驚きですが、まさかあの”英雄王”を含めたメンフィルの重要人物達が今、クロスベル市にいるなんて…………副司令、いかがいたしますか?もし、”英雄王”達の身になにかあれば、クロスベルが不味い事になる恐れがあると思うのですが………」

ロイドの答えを聞いたソーニャは真剣な表情で考え込み、ノエルは驚きの表情で呟いた後ソーニャに尋ね

「……本来なら警備をしたい所だけど、聞いた話によるとプライベートでクロスベルに来ているようだから恐らく私達の願いを受けてくれないでしょうし、今のこの非常事態に戦力を割けないわ。第一、”英雄王”達の実力なら心配は必要ないと思うわ。」

尋ねられたソーニャは疲れた表情で答えた後苦笑した。

「た、確かに………」

「”グノーシス”を服用したあの秘書野郎を一瞬でやっつけてたから、心配ないッスよ。」

ソーニャの言葉を聞いたノエルは苦笑し、ランディは口元に笑みを浮かべて言った。

「………ただ、そうなると唯一の心配はセシルさんなのよね………」

「あ………………」

「まさかセシルさんがあの”英雄王”の側室の一人だなんて………」

そして考え込みながらセシルに視線を向けたソーニャの言葉にロイドは驚いているノエルと共にセシルに視線を向け

「……私の事は心配いりません。万が一危険に陥ったり、拉致されたりした場合、メンフィル大使館に避難できる転移魔術が込められた魔法道具をリウイさん達から頂いて、常に身につけていますから。ですから私の事は心配いりません。」

視線を向けられたセシルは微笑みながら答えた。

「へっ!?」

「そ、そんな凄い物まで渡されていたんですか………」

そしてセシルの話を聞いたロイドとエリィは驚いた。

「………わかりました。ですが今夜は警備隊の内の一部は病院の護衛用に残して行くつもりですから、事件が解決するまで絶対に病院から出ないで下さい。」

「ええ、お願いします。」

ソーニャの言葉にセシルは頷き

「あの、セシル姉。……リウイ陛下から伝言があるんだけど。」

「リウイさんから?一体何かしら。」

ソーニャとの会話が終わるとロイドはセシルにリウイの伝言を伝えた。

「そう………じゃあ今度会ったら伝えてくれるかしら?『楽しみにして待っています』って。」

「わ、わかった。………けどもう会う事はないと思うんだけどな………」

セシルの伝言を聞いたロイドは頷いた後苦笑し

「フフ……………――――長い夜になりそうだけど………お互い、頑張って乗り切りましょう!」

その様子を見ていたソーニャは微笑んだ後、ロイド達に応援の言葉を言い

「はい………!」

「ま、せいぜい気張らせてもらいますよ。

ソーニャの言葉にロイドとランディは力強く頷いた。

「それじゃあ、ノエル。大至急、ロイド君達をクロスベル市に送ってちょうだい。可能な限り急いで、ただし事故らないようにね。」

「了解しました(イエス・マム)!」

そしてロイド達はノエルが運転する装甲車によってクロスベル市に向かった。

「さてと………病院内の復旧に戻りましょう。セシルさん。研究棟に案内してもらえる?」

「ええ、わかりました。」

ロイド達が去った後ソーニャに言われたセシルはソーニャが病棟に向かった後ロイド達が去った方向を見つめ

(みんな、どうか気をつけて。………それから、ガイさん。どうかロイドを見守ってあげて。それとリウイさん………できればロイド達の力になってあげて。)

ロイド達が去った方向を見つめて祈り、その後ソーニャ達と共に病院の復旧作業を始めた…………
 
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