魔界転生(幕末編)
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第60話 誠を纏いて
息も絶え絶えに原田は、今では反逆分子となった新撰組の隠れアジトに到着した。
その容体を見るや隊員たちは驚愕し騒ぎ出していた。
「なんの騒ぎか」
自室にいた土方はその騒ぎを聞きつき現れた。
「は、原田。どうしたんだ、その恰好。誰にやられた?」
土方は、その姿をみて驚きが隠せなかった。よくもこうも、急所を外しボロボロに出来る者がいたとは。
「こ、近藤さんが・・・・・」
原田は息も絶え絶えに言った。
「近藤さんだと!!近藤さんが生きていたのか?」
土方の問いに原田は頷いた。
「して、近藤さんはどこにいるのだ?」
気が途切れそうなところを原田は気力で耐えた。
「上野山に・・・・」
「馬鹿な!!行ってはならぬとあれだけ釘を刺したというのに」
土方は隊員達には、上野戦争に加わってはならないと通達を発していた。なぜなら、負け戦なるだろうと予測していたからのものだった。
連戦連敗の旧幕府軍ではあるが、土方の機転と策略で何度も窮地を出してはいたが、上野戦争だけは皆が玉砕覚悟で行くという物であったために土方にはどうにもならなかった。
「で、ですが、私は私の誠を貫きたかったのです。私は新撰組が新撰組だからこそ出来ることがあるのではないかと」
原田は痛みを堪え無理ににっこりと微笑んだ。
「そうか」
土方は原田の覚悟にそれ以上なにも言わなかった。
「それで、近藤さんはどこにいる?」
土方には予測は立っていた。近藤は最早、岡田や高杉のような化け物になっていることが。しかし、一抹の期待を込めたかった。
「こ、近藤さんは上野の山で副長を待っています。副長、気を付けてください。近藤さんは最早、我々が知る近藤勇ではありません」
(やはりな)
土方の期待も一瞬で砕け散った。
「ですが、お願いです副長。近藤さんを、近藤さんを倒してください」
原田はすがるように土方の腕をつかみ熱く見つめた。
「わかっている。必ず倒してみせよう」
土方は原田に微笑んだ。
「よ、よかった」
原田は、そういうとがっくりと崩れ落ちていった。
降りしきる雨の中、近藤は土方を待った。
思えばどんなに待ち望んだことだろう。自分と土方そして沖田で作り上げた新撰組。
本当は局長などにはなりたくはなかった。思う存分、自分の剣を振るいたかった。そして、土方や沖田と戦ってみたかった。が、ようやく、その思いが成就されるかと思うとわくわくしてくる。
(早く来い、歳三。俺はお前と戦いたいんだ)
近藤ははやる気持ちを抑え、天を仰いでいた。
土方は雨に打たれ一人佇んでいた人影をみつけた。近藤であることはすぐにわかった。
白い新撰組局長の法被を纏い背には誠の一文字がみてとれる。
土方も久しぶりに誠一文字の法被を身に纏わせていた。
「待たせたな、近藤さん」
土方はその人影に近づき声をかけた。
「トォシィーー。待ちくたびれたよぉー」
近藤は土方の方の見つめ、歯をむき出しにして微笑んだ。
「どうやら、原田君はいい伝言役になってくれたらしい」
「近藤さん。新撰組局長である貴方が化け物に成り下がるとは、なんたる様か」
土方は冷静さを保ちつつ、近藤を睨みつけた。
「ハハハハ、俺が化け物なろうがなかろうがそんなことは関係ないことだ。俺はなぁ、とし、お前と真剣に戦いたいだけなんだよ」
近藤は待ち望んだ土方との戦いに胸を躍らせる気持ちでいっぱいになっていた。
「そうか、近藤さん。それがあんたの誠なんだな?」
土方の問いに近藤は無言でうなずいた。
「わかった。なれば、俺も本気になろう」
土方は典太を抜いた。
「おぉ、とぉしぃーー!!まさに本気だなぁー!!」
近藤は喜びのあまり大声を張り上げた。
「今宵の虎鉄はお前の血を吸いたがっている」
近藤もまた愛刀・虎鉄を右手で抜き、右腕を垂らすように刃先を地面に向けて構えた。
「近藤さん、死ぬのは貴方だ」
土方は典太を正眼に構えた。
じりじりと二人は距離を詰めて行った。雨は勢いを増していた。
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