最高の贈りもの
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4部分:第四章
第四章
「それはどうだい?」
「じゃあそれを買うか」
「乗ったね。お兄さんもわかってるね」
「というかここに連れて来たのは俺だからな」
だからだというのだ。
「せめてそれ位はしないとな」
「愛想尽かされるね」
「ははは、そうなんだよ」
ペドロはお婆さんの今の言葉に顔を崩して笑った。
そしてだ。こうも言うのだった。
「そうなるからな。せめてな」
「贈りものはしないとね」
「スペイン女は厳しいからな」
こんなことも言う彼だった。
「男が少しでも駄目だと見るとな」
「ふってくるんだね」
「そうだよ。まあいい男と見たら情熱的だけれどな」
「極端なんだね」
「カルメンなんだよ」
そのスペインを舞台にしたメリメの小説、ビゼーのオペラのヒロインだ。とかく情熱的で独自の恋愛論を持っている女性像で知られている。
「スペイン女ってのはな」
「あら、じゃあ付き合うのは大変だね」
「そうだよ。滅茶苦茶な」
「じゃあ余計にだね」
「ああ、ここは贈りものだよ」
とにかくそれをしなければだというのだ。
「それで何かあるかい?」
「そうだね。寒いからね」
「手袋にしようか。俺もそうだし」
「待った。その人はあれだったね」
お婆さんはペドロの話を聞いてだ。それで言うのだった。
「足が寒いって言ってるんだね」
「ああ、そうだよ」
「それならいいのがあるよ」
にこりと笑ってだ。ペドロに言った。
「最高の贈りものがね」
「最高の?」
「ああ、こんないい贈りものはないさ」
笑顔でだ。彼に話すのである。
「それにしたらどうだい?」
「へえ、最高のねえ」
話を聞いてだ。ペドロもだ。
乗り気の顔になってそれでお婆さんに尋ねた。
「何なんだい?それで」
「これだよ」
「これがかい?」
「ああ、これがここでの最高の贈りものなんだよ」
笑顔でだ。彼に出すのであった。その贈りものにすべきものを。
彼は躊躇なくそれを買ってだ。それからだった。
部屋に戻ってだ。サウナからあがったばかりのテレサに声をかけた。
「よお、今何してるんだい?」
「何も」
していないとだ。テレサは応えた。部屋の中でも厚いズボンにセーターだ。暖房をつけていてもそれでもシベリアの寒さを考えての格好だった。
その格好でベッドのところに座ってだ。彼の言葉に応えたのである。
「今からウォッカ飲もうって思ってたけれどね」
「へえ、そうだったのか」
「ええ、そうよ」
その通りだというのだ。
「あんたが帰ってきたらね」
「一緒に飲もうって思ってたんだな」
「そうだったのよ。じゃあ飲む?」
「ああ。けれどな」
「けれど?」
「その前にな」
こう言ってであった。
「一ついいか?」
「いいって何がよ」
「だから。プレゼントだよ」
笑顔になってだ。彼女に言ったのである。
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