トスカ
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9部分:第二幕その二
第二幕その二
伯爵 「(公爵夫人の前で敬礼して)侯爵をお連れしました、奥様」
公爵夫人 「有り難うございます、伯爵」
にこりと笑って伯爵に礼を述べる。
伯爵 「それでは私はこれで」
公爵夫人 「御武運を」
伯爵 「有り難き御言葉」
伯爵は素早くその場を後にする。侯爵は一人残りそこで公爵夫人と相対する。既に彼女の持つ威圧感の前にかなり気圧されている感じである。
公爵夫人 「(あえてにこやかな顔で)侯爵、実はお聞きしたいことがありまして」
侯爵 「(ビクビクしながら)何でしょうか」
公爵夫人 「奥様はいまどちらにおられるでしょうか」
悠然とした笑みの中に何かを宿らせている。それを含ませて問う。
公爵夫人 「御存知でしょうか」
侯爵 「フラスカティですがそれは何か」
公爵夫人 「いえ、御聞きしただけですが」
侯爵 「申し上げておきますが奥様」
必死な様子と声で公爵夫人に述べる。
侯爵 「私も妻のアンジェロッティ侯爵の逃亡については何も関係ありませんぞ」
公爵夫人 「(また笑いながら)あらあら、そんなことは御聞きしてはいませんが」
侯爵 「それでもです。私も妻も何も知りません」
必死になって言う。そこから嘘をついていないのがわかる。
侯爵 「ですから罪には」
公爵夫人 「わかっております。ただ御聞きしただけです」
侯爵 「それならいいですが。やましいことはないので」
公爵夫人 「ええ。それでは宴をお楽しみ下さい」
侯爵 「・・・・・・はい」
何とか助かったと胸を撫で下ろしながら姿を消す。公爵夫人はそれを見届けた後で一人呟く。
公爵夫人 「少なくとも侯爵に関しては何もなし。彼は安泰ね。だけれど」
ここで舞台のさらに端の下の方を見る。そこにスカルピアが部下達と共にいる。
公爵夫人 「あの方はどうかしら」
スカルピア 「(不機嫌そのものの顔で部下達に問うている)子爵の行方はまだ掴めてはいないのか」
スキャルオーネ 「はい、それが」
戸惑う声で述べる。
スキャルオーネ 「捜査令状を楯に屋敷の中を捜し回りましたが何処にも。度々家を空けられることが多いそうですから何処かに隠れ家があるようです」
スカルピア 「使用人達にそれを聞いてみたか」
スキャルオーネ 「(首を横に振って)駄目です。誰もそうしたことは知りませんでした。子爵は随分と用心深い方のようでして」
スカルピア 「相変わらず賢い鼠か。そしてトスカは」
コロメッティ 「パイジェッロ先生の邸宅で打ち合わせとリハーサル、ついで食事と身支度を整えられこちらに来られました。別におかしなところは何も」
スカルピア 「子爵の影も形もないか」
コロメッティ 「はい、何も」
すんなりと答える。
コロメッティ 「ありません、本当に」
スカルピア 「何処までも隠れるのが上手い男だ。このローマは歴史と共に街が造られた、様々なものが迷路の様に入り組んでな。子爵はローマのに水で生きてきた」
スキャルオーネ 「はい」
コロメッティ 「確かに」
上司の言葉に二人で頷く。
スカルピア 「そのローマの何処かで我々を見て哂っている。そうしてローマを去り頃合いを見て戻るだろう。我々が陛下の御不興を蒙り首が飛ぶのを見届けてからな」
スキャルオーネ 「我等の」
コロメッティ 「首を」
スカルピア 「そうだ首は惜しいな」
スキャルオーネ 「当然です」
コロメッティ 「とんでもありません。そうなれば」
スカルピア 「だからだ。スポレッタ警部」
スポレッタ 「はい」
今まで青い顔をして黙っていたスポレッタが彼に応える。
スカルピア 「アッタヴァンティ夫人は今何処だ!?」
スポレッタ 「(おずおずとした声で)フラカスティに行かれてお留守でした」
スカルピア 「それは知っている。だが我々が近寄って来ないのでそれが気になっている筈だ。おそらく夫人の方からローマへ戻って来て嫌疑を打ち消すだろう。当然ここにも顔を出してくるだろうな」
スポレッタ 「ここにもですか」
スカルピア 「そうだ、そこで捕まえて白状させる。どんな手段を使ってもだ」
スポレッタ 「(驚いた声で)宮中にも強い影響力をお持ちの侯爵夫人をですか!?」
スカルピア 「(懐から扇を取り出して言う)これが何よりの証拠だ。それにトスカも関与しているかも知れん」
スポレッタ 「まさかそれは」
スカルピア 「否定できるか?完全に」
スポレッタ 「いえ、それは」
口ごもってしまう。
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