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トスカ

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21部分:第三幕その七


第三幕その七

トスカ      「あの人に合わせて下さい」
スカルピア   「それならば真実を」
 冷たい声で言う。
スカルピア   「お話しなさい」
トスカ      「どうしてもなのですか?」
スカルピア   「その通り」
 言葉でトスカを追い詰めていく。たまりかねたトスカは壁の方に行く。そうしてそこからカヴァラドゥッシに声をかける。壁にもたれかかる感じである。
トスカ      「マリオ」
カヴァラドゥッシ「フローリアか?」
 声だけである。だがその声は苦しい感じだ。
トスカ      「大丈夫なの、本当に」
カヴァラドゥッシ「うん、大丈夫だ」
 気丈にも言う。耐えている。
カヴァラドゥッシ「君も落ち着くんだ、いいね」
トスカ      「え、ええ」
カヴァラドゥッシ「わかったらここは耐えてくれ」
トスカ      「わかったわ」
 トスカは何とか耐えようとする。スカルピアも壁の方に来て言う。
スカルピア   「まだ言わないのか」
スキャルオーネ「はい」
スカルピア   「では再会しろ、いいな」
スキャルオーネ「わかりました」
トスカ      「(その声に驚いて言う)駄目、止めて下さい」
スカルピア   「ではお話して下さいますな」
トスカ      「それは・・・・・・」
 壁際で俯いてしまう。
トスカ      「言える筈が」
スカルピア   「ならば続けるだけです」
トスカ      「鬼よ、貴方は」
 スカルピアに対して抗議して言う。
トスカ      「あの人も私も苦しめて」
スカルピア   「(平然とした顔で)これが決まりですので」
トスカ      「そうして苦しめるのね、私達を」
スカルピア   「ならばお話するのです」
 冷たい声で言い放つ。
スカルピア   「口を閉ざされている方がより閣下を苦しめることになりますぞ」
トスカ      「そうやって心の中で笑うのね。恐ろしい責め苦を与えて悶え苦しむ様を見て笑うのね。貴方は本当に鬼よ、悪魔だわ」
スカルピア   「(独白)舞台でのトスカはここまで悲劇的ではなかったな」
 そう呟くとスポレッタに対して顔を向けて言う。
スカルピア   「スポレッタ」
スポレッタ    「は、はい」
 慌てて条件反射的に敬礼をする。
スカルピア   「扉を開けろ」
スポレッタ   「扉をですか」
スカルピア   「そうだ、悲鳴がよく聞こえてくるようにな。いいな」
スポレッタ   「は、はあ」
 扉を開けてその前に立つ。顔はトスカから背けている。
 扉の向こうからカヴァラドゥッシの呻き声が聞こえてくる。くぐもり地の底から響くようである。
カヴァラドゥッシ「まだだ」
 カヴァラドゥッシの声が聞こえてくる。
カヴァラドゥッシ「負けるものか、こんなことで」
スカルピア   「強くしろ」
 そう隣の部屋に言う。
スカルピア   「もっどだ、いいな」
カヴァラドゥッシ「こんなことで」
トスカ      「マリオ!」
スカルピア   「さあ」
 またトスカに顔を向けてくる。
スカルピア   「お話するのです」
トスカ      「(震える声で)私は何も」
スカルピア   「ではこのまま苦しむだけだ」
 トスカを責めるようにして言う。
スカルピア   「貴方によって」
トスカ      「私によって」
スカルピア   「わかったのなら今」
トスカ      「私は何も知りません」
 首を横に振って言い返す。
トスカ      「何も」
スカルピア   「いや、貴女は知っている」
 問い詰めるようにして言ってきた。
スカルピア   「名の知れた女優だけあって愁嘆場もお見事だ。しかし先程貴女も聞かれた筈だ。子爵の『まだ大丈夫だ』という御言葉をね」
トスカ      「それはどういうことですか!?」
スカルピア   「これは証拠なのですよ。アンジェロッティ侯爵の居場所が何処か知っているおられるということのね。そしてそれを知っているが何があろうとも言わないということの決意の証だ。違いますかな」
トスカ      「(その言葉に顔を真っ青にさせる)そ、それは」
スカルピア   「その通りですな。では侯爵は何処ですかな」
トスカ      「し、知りません」
 それでもトスカはそれを否定しようとする。
トスカ      「私は何も」
スカルピア   「御存知ないとまだ仰るか。それなら」
カヴァラドゥッシ「うっ・・・・・・」
 ここでカヴァラドゥッシの呻き声が止まった。トスカはそれを耳にしてはっとなる。
トスカ      「マリオ、一体」
スカルピア   「気を失ったか。起こせ」
 また壁の向こうに指示を出す。それからまたトスカに顔を向ける。
スカルピア   「貴女が話されれば貴女も子爵もすぐに自由になれるのです」
トスカ      「自由が」
スカルピア   「そうです。だからこそ」
トスカ      「それなら」
 遂に強張っていた顔を動かしてきた。
トスカ      「あの人に会わせて。その後で」
スカルピア   「(トスカの願いを無視して壁に向かって)コロメッティ、どうだ?」
コロメッティ   「息を吹き返されました」
 トスカはその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。隣の部屋に向かおうとする。スカルピアはそれを待っていたかのようにスポレッタに目配せをする。やはり扉の前にいて道を塞ぐ。相変わらずトスカからは目線を離して。
スカルピア   「さあ、お話を」
 そのトスカに対して言い放つ。
 
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