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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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33話 所業の残骸 3.2

* ムラサメ研究所 研究棟内 廃棄場 3.2 

シロー・アマダは激痛とただ闘っていた。鼓膜は破られ、四肢を斬られ、両目を刳り貫かれ。
ただ舌と歯が健在だったことが男にとって幸いだった。

「うう・・・ああ・・・」

全身が焼ける様に痛む。毎日焼き(ごて)を当てられて皮膚が壊死になりかけていた。
髪も焼かれ、何故こんな目にあったのかも自分でも謎としか言いようがなかった。

今はもう地獄のような拷問から抜け出せたことは確信していた。肌での探りだったが、鼻は利いたのでその戦場でも嗅いだことあるどきつい死臭を感じた。そこは死体置き場のようだ。しかしその置き場はただ山にしてあるだけのもの。

どうやら自分は死んだと勘違いで認識されたようだと薄れゆく意識の中で考えた。

記憶を辿ると半年前、アジア戦線でのカラバの難民キャンプでシローとアイナが他のスタッフと共に
ティターンズに反対する者達、弾圧されてきた者達へ運動に火種を消さぬように支援していた。

シローは運ばれてきた物資を作業用ロボットを使い、仕分けをしていた。
アイナはその傍のテントで子供たちに食事を配っていた。

「はーい、慌てないの。まだ沢山あるからね」

アイナが明るく、難民の子供たちへ次々と配給する。
その傍にひと段落したシローが歩み寄っていた。

「アイナお疲れさん」

「あ、シロー。貴方もね」

「ティターンズの軍国政策に反対する者達はこのように追いやられてしまう。世界を変えるのはこんなささやかながら芽生えるまでの運動だ」

シローは厳しい視線でこの活動の意義を語っていた。アイナも真顔で頷いた。

「武力でなく対話で分かり合える時代が来るまで、私たちの戦い方はこれね」

「そういうことだ。道は険しいが・・・」

「分かってるわ。大丈夫」

そう語り終えた次の瞬間爆風が起きて、シローの記憶は途絶えた。
次目覚めたのはここの実験区画の無機質な部屋の中だった。

「・・・シロー・アマダくんだね」

どこからともなく声が聞こえた。シローは椅子に縛られ、身動きが取れないことに気が付いた。そして力の限り必死にもがいた。

「無駄だよ。目の前に居るひとは分かるかね」

そう声が聞こえると目の前が真っ白な壁だったのが透けて、中にはアイナが同じく縛られていた。

「さて・・・君たちのデータを調べさせてもらった。どうやら被検体はこちらの女性の方が相応しいらしい」

データ?相応しい?何のことだとシローは思った。シローに映るアイナの姿は何故かぐったりしていた。

「お前!アイナに何をした!」

シローが叫ぶと、その問いかけに声が答えた。

「彼女の下地を作るにちょっと投薬を施した。より強烈に印象を与える為君を利用させてもらうよ」

そう声が話し終えると、目の前のアイナがビクッと反応し、目覚めた。

「アイナ!」

シローがそう叫ぶ。アイナも何かを叫んでいるが声が聞こえない。恐らく遮音性抜群なガラスなんだろうとシローは悟った。

そこからはあまり何も思えていない。ただ痛みの連続とアイナの慟哭しているような姿と悶え、苦しむ顔、アイナの顔から表情が消えたこと。それぐらい。

シローはぼんやりと現実に戻って来ていた。

「(・・・生きなければ・・・)」

意識が明確になってくると痛みを思い出し、その激痛に耐え切れずまた意識が遠のく。
その時が一瞬だが冷静に考えることができる時間だった。

「(次の痛みで・・・)」

彼の精神力は並大抵の代物ではなかった。またぶり返して繰る痛みに痙攣しながらも、より強い痛みを感じながら、一つ一つその死体置き場から抜け出そうと行動していた。

自分でもいつ意識が落ちるか、それが恐怖だった。
それは死と同義だと自分でも理解しているからに他ならない。

上手く死体の山から転がり落ちて、床に体を打ち付けた。

「うっ・・・ああ・・・ああああああああああああああああああああああ」

シローは激痛に雄たけびを上げた。すると目の前が明るく、外気が入るような感覚を受けた。

* 極東 日本 北海道地域 ネェル・アーガマ艦橋 3.2 10:00

艦長のヘンケン大佐は艦長席で苛立っていた。ティターンズの焦土作戦により、解放地域での食糧難に陥り、解放に来たエゥーゴが人民の支持を得ることができず、逆に反感を食らう嵌めに陥っていた。

「ティターンズは弾圧すれど食わせてくれた。だけどお前らが来て明日の食事もままならない。それを抑圧を解放したから後は好きにやれなんて無責任にもほどがあるぞ!」

と、大体の解放した地区からの容赦ない身勝手な叫びと不満をエゥーゴにぶつけていた。

「・・・ったく、宇宙からはるばる来たってのに。地球のティターンズの弾圧で助けてくれといったから彼らの支配から解放してやったと言うのに・・・」

ヘンケンがぼやくと傍に居たバニング中佐がため息を付いていた。

「これが俺達軍属の限界なんでしょう。ティターンズは軍と政治、経済一体で取り組んでいる。奴らを支持する与党がそれを可能としているからですね」

艦橋の空気はずしりと重い。艦橋にはモンシア、ベイト、アデルそしてアレンが居た。
あの陽気なモンシア大尉ですら沈んでいた。

「はあ~・・・オレたちは何をしにここまできたのかねえ~」

そうぼやくとベイトとアデルが揃って首を振った。アレンはオペレーターに新着の情報が無いか声を掛けていた。

「どう?何か士気が上がる情報ない?」

するとオペレーターのマーカーが通信文であるものを受け取っていた。

「はい、こちら」

アレンはそれを受け取った。それはこの州域の救援要請だった。しかしながら規模が小さい。4人の民間人らの陳情だった。アレンは中身を読み上げた。

「えー、私らの元上官が伴侶と共に拉致された。有力な情報筋としてある研究施設で監禁されていると考えられる。しかしながらその施設はティターンズご用達故に我々の過少戦力では太刀打ちできない。至急応援を求む・・・か」

アレンは腕を組み、ヘンケンに指示を仰いだ。

「どうします艦長?」

ヘンケンは今のところあてがない。どの地域の人民も下手に刺激できない。解放運動がここに来て座礁していることで、ティターンズに誘拐された話は何かと政治的にも役に立つと考えた。

「・・・奴らの尻尾を掴むには奴らの悪事を暴くことが一番だな。進路をその応援要請のあった地区へ」

ネェル・アーガマは進路をその4人がいる函館の集落へ向けた。


* 函館 ある集落の酒場 同日 10:30

エレドア・マシス、カレン・ジョシュワ、キキ・ロジータ、ミケル・ニノリッチ4人は酒場にてムラサメ研究所の見取り図を眺めていた。

「カレンさん、この警備では生身じゃ難しいですね・・・」

ミケルが冷静に分析していた。カレンはそんな回答に癇癪を持って答えた。

「そんなこと百も承知さ!ただアマちゃんを助けないことには夢見が悪くてしょうがない。あいつはあたしたちの恩人だからな」

キキもカレンに同意した。

「そうだ。隊長はあの戦いから尚、ティターンズから私たちをかばってくれたんだ」

エレドアが頭の後ろで腕を組んで、渋い顔をしていた。

「・・・オレも隊長には生きてもらいたいと思っている。オレの除隊を後援してくれたのも隊長だからな」

エレドアはインディーズレーベルと契約を果たし、目下音楽活動中であった。

彼ら4人共隊長と呼ばれるシロー・アマダに恩義があった。

シローはある戦いで除隊後、伴侶であるアイナ・サハリンとカラバに身を投じていた。
彼らの活動はいわゆる海外援助隊だった。その活動の中で、カレンも看護の道へと誘われ、ミケル、キキも然り。エレドアもシローの人脈に頼っての仕事にありつけた感じだった。

もう一人テリー・サンダースJrという部下がシローには居た。彼はシローの小隊が解散後、他地域の部署へ転勤となっていた。彼は軍人故にシローが蒸発したことにも身動きが取れない。
その代わり、ムラサメ研究所の見取り図を送ってきた。

そんな4人の悩みは直ぐに吹き飛んだ。ミケルの通信端末に救援要請に応じるエゥーゴの部隊が名乗り出てきたからだった。

「・・・はい。・・・ええ・・・わかりました。宜しくお願い致します」

ミケルが破顔して、3人に語り掛けた。

「やったよ!ネェル・アーガマ隊がこっちに向かっているよ」

その知らせを聞いた3人は喜んだ。

「しかし各地解放運動で多忙なエゥーゴがこんな依頼を請け負うなんて」

ミケルが両手を頭の後ろにやり、思案していたその回答がネェル・アーガマ隊と合流を果たした時、
艦長のヘンケンより語られた。

4人共艦橋に迎えられ、艦橋クルー全員と挨拶を交わし、握手をした。
ミケルは艦長のヘンケンと握手を交わす。

「ミケル・ニノリッチです。僕の元上官の為に有難うございます」

「いいえ、貴方がたが我々の問題解決に一役買っていただけると思って応じただけです。結果人助けになれば尚の事ですがね」

ヘンケンは正直に思っていたことを感想に述べた。その感想にカレンが腕を組んで、鼻を鳴らした。

「フン、結局は利害の一致と言う訳か」

ヘンケンはカレンの意見に同調した。

「そういうことだね。我々の置かれている状況は深刻でね。ティターンズの鮮やかな引き際に物量乏しいエゥーゴが危機に瀕している。このままではエゥーゴが何もせずに倒れてしまう」

「成程、ティターンズも平民の不満を得てして、エゥーゴもティターンズの仕掛けに同じ道を辿るわけか。そこで・・・」

「そうだなミズ・・・」

「カレンだ」

「ああ、カレンさん。君らの要請が真実ならば、非人道的行為を世間にさらけ出すことができる。これはティターンズにとってもかなりのダメージとなるだろう」

エレドアがヘンケンの意見を聞き、「そういうことね」と相槌を打っていた。カレンが少し笑い、ヘンケンに手を差し伸べた。

「いいねえ、アンタみたいな隠さず話すやり方、アタシは嫌いじゃない。早速だが、あの研究所を制圧してもらいたい」

カレンがそう述べると、キキがヘンケンにその研究所を攻撃しうるに値する証拠を手渡した。ヘンケンがそれを受け取ると、ヘンケンは顔を顰めた。その様子にバニングもその資料を覗き込み、同じく顔を顰めた。

「・・・この書面とこの写真は・・・」

ヘンケンがキキに尋ねると、

「私が潜入して得てきたものだよ。世界各地より才能ある者を募っては投薬・洗脳して、人工の優れた人間を作り出していたみたいだよ。その手段は択ばず、近親者や同僚を拉致しては目の前でショッキングな事を見せたり、絶望を与えて、催眠状態にさせては人の持つ力を引き出すようにしていたみたい」

バニングはこめかみに青筋を立てていた。キキはそのまま話し続けた。

「それで使えなくなったものは施設内の廃棄場に棄てられています。勿論使えなくなったということは・・・」

バニングはキキの結論を遮った。

「艦長!いち早く制圧しましょう。奴らは我々の優位性をこんな愚かなことで覆そうと考えている。これは我々にも責任がある」

ヘンケンはバニングの話に頷く。ここまでの快進撃はティターンズの練度の差によるものでもあった。
エゥーゴに参加しているメンバーの大抵がほぼ激戦をくぐり抜けてきた勇士たち。片やティターンズはそんな正義感強い勇士たちを引き入れることができずに独自で練度を高めていった者たちで構成されていた。

サイコフレーム技術やニュータイプ論が流布されている昨今、事情を重くみたティターンズ上層部が取った行動がこの研究機関だった。

「そうだな。申し開きは後でするとして、結果を得て上々としようか。中佐、直ぐにでも制圧隊を組織できるか?」

バニングは「30分も有れば」と答え、ヘンケンは了承した。
ミケルもすかさず参加の意思をバニングに伝えた。

「僕も同行します!」

その発言にカレン、エレドア、キキも同調した。

「あたしらも行くよ!」

バニングは彼らに尋ねた。

「貴方達の元上官はあそこにいるのか?」

その問いかけにキキが答えた。

「うん!私が見た。シローがあの施設で囚われ、アイナさんも・・・」

「アイナさん?」

バニングの疑問にミケルが代わりに答えた。

「・・・元上官、シロー・アマダの伴侶です。彼女も一緒に囚われました」

「そうか・・・、分かった。貴方達の上官が証人ともなろう。それは貴方達でしか彼を知らない。一緒に探すの手伝っていただけるかな?」

バニングが4人に逆に協力を要請した。4人は快諾した。

* ムラサメ研究所 研究棟内 第5研究室

ミケルら4人は制圧した研究所内をかけずり回っていた。
制圧と言っても、ほぼもぬけの殻だった。今思えば簡単な話だ。

エゥーゴが既に極東含めアジア圏内を解放し終わっており、この研究所もティターンズ傘下であるが故撤収されていた。

その中で資料を漁っていた。しかし研究資料もほとんど消却されていた。

「立つ鳥後を濁さずか」

エレドアがそう呟く。カレンがいら立っていた。

「ええい。どこかに、アマちゃんの行方があるはずなんだ!」

ミケルも広い施設を駆け回って、ここまで何もないとと途方に暮れていた。

「(・・・うーん、行方か・・・。研究員も何も人体実験していても被検体となる人もいない。一体どこに?)」

ミケルがそう考えると、一つ最悪のケースを思いついた。

「・・・カレンさん」

ミケルが暗い顔をしてカレンに語り掛けた。

「なんだ!その顔は!」

「あのう・・・被検体も含めて皆撤収されたようですね」

カレンは分かりきった事を言うミケルを叱りつけた。

「そんなこと知ってるわ!だから今隊長の行方の手掛かりをさがしているんだろ!」

「で、です・・・一つ、探してみたいところがありまして・・・」

ミケルがキキから受けた情報の中でおぞましいことを思い出していた。
カレンもミケルの嫌な直感を信じたくもないが、そこになければ生存しているとも言える。

「・・・分かった。キキ、エレドア」

「なんだい?」

「カレンさん?」

「・・・隊長が居ない事を祈って廃棄場に行くぞ」

キキ、エレドア共にゾッとした。カレンとミケルは足早にその区画へと向かった。キキ、エレドアもそれに従った。

ミケルたちが廃棄場の扉の前に立った。エレドアが傍の開放パネルを操作すると施錠が解けた。

「よし!開けるぞ」

カレンが重い扉をゆっくり開けると、目の前に仰向けになった全身焼け爛れた四肢が欠損した人が目立つように転がっていた。

「あ・・ああ・・」

シローが新鮮な空気を肌で感じた。4人共その転がっている瀕死のシローにゆっくりと歩み寄った。
そして4人共その場内の異常なほどの死臭に口を押えた。

「うぐっ・・・」

「う・・・おえ・・・」

シローはその嗚咽の声らに反応して、声を微かに出した。

「あ・・・ミケ・・・ル・・・」

その声を4人とも聞き逃さなかった。

「た・・・・隊長!」

カレンがシローに歩み寄って、シローの状態を確認した。

「(こいつは・・・マズい。壊死なりかかっている。冷却してモルヒネを打つか)」

カレンは手早く、手持ちの医薬品でまずきつい麻酔を投入して、シローを眠らせて、四肢の欠損部分を冷却材で凍らせた。

ミケルとエレドアはシローを抱え、5人はその場を後にした。

* ネェル・アーガマ 医療処置室 

運ばれたシローは爛れた皮膚全てに保護膜を貼られ、点滴を打ち、バイタルを安定させた。

「だが、まだ予断は許されんな。今夜持てば・・・」

艦内の医師がミケルら4人に告げた。そして医師からシローは目が刳り貫かれていることも話され、カレンは激高した。

「うおおお!ティターンズめ!鬼畜以上の所業をして世界を統治するか!」

ミケルもエレドアも同じく怒りに狂っていた。

「ああ、あいつ等はぜっていぶっ殺してやる!」

「ええ、彼らには相応の報いを与えてやりますよ」

キキがそんな3人を見て、とても怖がっていた。キキは横たわるシローの傍で泣いていた。
するとシローの口が動き、とてもゆっくりとはっきりした声で言った。

「・・・みんな・・・それはだめ・・・だ。テロは・・・話すこと・・・大事」

その発言最中、静寂な空間にいるようだった。3人共その声に気分がクールダウンした。
キキも「シロー・・・」と喜び泣きじゃくっていた。

艦橋に戻ったバニングはヘンケンに報告を入れていた。

「艦長、成果は・・・」

バニングの表情が芳しくない、ヘンケンはそう思い、

「あまり良い収穫はなかったか・・・」

「はい、もぬけの殻と言っていいでしょう。残念です。ただ・・・」

「ただ?」

「彼らの上官の救出には成功しました。証人が何とか得ることができました」

ヘンケンは頷いた。彼らの救出したシローについての状態を聞くと、ティターンズに呪詛の言葉を吐いた。

「ええい、忌々しい。奴らの思惑全てが人をもの以下でしか思っていない。こんなクズに手を拱いているオレらは一体なんだ!」

ヘンケンがそう艦長席で怒り叫ぶと辺りの空気がズンと重くなった。
バニングが追加で報告を入れた。

「艦長。更に気を悪くするかと思いますが・・・」

「なんだ」

「彼を見つけた廃棄場で打ち捨てられていた死体の分かる範囲でのリストです」

ヘンケンがバニングから渡された遺体リストを眺めた。民間、軍問わず多数の名前が載っていた。
その中にはモーリン・キタムラ、サマナ・フュリス、フィリップ・ヒューズも書かれていた。ヘンケンは静かに黙とうした。この者達の無念を晴らす為、シローの回復を祈っていた。

ヘンケンは一息ついて、通信士にブレックスとの回線を繋ぐように命令した。

* トリントン基地内 ブレックス執務室 

数分後、トリントン基地に居るブレックスと連絡が付いた。

「ヘンケン艦長か。何かあったか?」

ブレックスは基地の執務室でLIVE映像回線でヘンケンを見た。とても深刻そうな顔をしていた。状況は多少なり知っていた。エゥーゴは窮地に立たされている。

ヘンケンが述べた案件はそれと別でティターンズの非人道的行為についての話だった。
ブレックスはそれを聞き、ティターンズを罵っていた。

「成程な。コリニーが考えそうなことだ。いやジャミトフか・・・」

「証人の回復が一縷の望みです。資料的証拠も盗難したものですし、内部資料として裏付けるには生き証人が」

「それでシロー・アマダという者は?」

「今、艦内医務室をICU状態にして24時間監視中です」

「了解した。こちらからも医師団を派遣する。もうすぐラー・アイムが到着して、ダカールの議会に向かわねばならない。タイミングで間に合えば良いが・・・」

ブレックスがそう言うと、執務室にセイラが入って来た。

「議員、明朝シナプス隊が入港します」

「わかった。注文した資料はそのテーブルに置いといてください。忙しい中有難う」

「いいえ、私は先んじてダカール入りしますので後日お会いしましょう。失礼致します」

セイラは一礼して、退出していった。ブレックスはセイラにアジアでのティターンズの引き上げによる政治的、軍事的圧力による徴発の実態と証拠を調べてもらうように注文していた。そしてセイラはその詰めをダカールでの中立派とティターンズ派閥の中でも倫理的に道徳的に付いて行けない議員の寝返り工作を努める為、先発していった。

ブレックスはセイラの資料だけでもある程度勝負になると思っていたが、ヘンケンのもたらされた情報はティターンズへの追撃だった。最強の切り札として変化すれば、コリニーらを処分できる。

「一つ怖いのは、コリニーが暴走したら、だな」

そうブレックスがぼやくとヘンケンも画面の向こうで頷いた。

「そうですな。政治が止まると、地球での食料事情が深刻になる。仮にも奴らは与党だ。議場での食料問題をまず決着し、その為の停戦を世界に呼びかける必要性があります」

「ああ、その為の資料は用意できた。抵抗運動しても結局は非力な、無抵抗な市民を巻き添えに、犠牲にしてしまうことは否めない。これが現実だ。我々の大義名分の限界だな」

ブレックスは嘲笑していた。ヘンケンが眉を潜め、ブレックスに喝を入れた。

「代表!貴方はそんなことを言ってはなりません。我々は正義を信じて、命を張ってます。現在治療中のシロー・アマダもカラバの協力者です。彼もそれを信じて今日まで・・・」

ヘンケンは自分の事の様に込み上げてくるものが出てきて、言葉を詰まらせた。
これまでも戦場で様々な生死を見てきている。全ては人のエゴによるものだった。人はなんて愚か何だろうと哲学的に自身に問うことはここにいるクルー全てが感じていることだった。

ブレックスは笑うのを止め、真顔になった。

「そうだな。もはや世界は厭戦気分だ。人々の願いはまず戦いを終わらせることにある」

「はい。では報告書まとめましたら、そちらに送付致します」

「頼んだぞ」

ヘンケンとの通信が切れ、ブレックスは立ち上がってセイラの書類を眺めた。

「・・・通商相と運輸相、国防も絡んで行われたか。我々の練度と兵器性能の差をここまで即断するとは」

やはりコリニーは侮れない。自分の実力を過信しない、そして被害も軽微に最大の効果を生むことを考えては保険も掛ける。果たしてこんな謀略家に太刀打ちできるのかとブレックスは身震いをした。

* ダカール市 連邦議会前 カフェテリア 3.9

セイラは新聞を読みながらコーヒーを嗜んでいた。目が既に座っており、臨戦態勢だった。そこにスーツスカート姿の同じく臨戦態勢なイセリナが近づいてきた。

「おはようセイラさん」

セイラは腕時計に一目やり、イセリナの顔を戻した。

「・・・時間通りね。中立派閥は?」

「あんまり芳しくはないね・・・。皆我関せずの様子だけど。そちらは」

「そう、ティターンズ派閥の方が見えているわね。現実を見て行動してティターンズに寄り添った訳だからね。半数が猜疑心を持ったわよ。明日よ予算委員会」

イセリナはセイラの向かいの席に座った。そして椅子に背を持たれかけて天を仰いだ。

「はあ~・・・取りあえずはガルマが無事にダカール入りできたから一安心だけど・・・」

「ブレックス議員もね。今朝方ラー・アイムが入港できたみたい」

セイラとイセリナは言葉少なく互いに表情が沈んでいる最中、別の客が彼女らに合流した。

「よー、2大女傑さんら。疲労困憊で即倒寸前と聞いて助けにきたぜ」

陽気な声でカイがセイラとイセリナに声を掛けた。カイの後ろにはアムロ、ベルトーチカ、ミハルが居た。アムロは「カイがある人らに呼ばれていると来てみればセイラさんがいる」と不思議に思った。

その呼びかけに2人ともを即座に反応した。

「カイ、貴方の助けが必要なのよ!理解しているでしょ!」

「そうですねカイさん。貴方がゴップ議長と繋がっていることは裏が取れております」

「早々急かせないで。貴方らがティターンズの挙げ足取りに奔走しているのは百も承知だ。それにオレがゴップを口説いて中立派閥を味方に付けたい貴方達の魂胆もね」

カイが両手を挙げてセイラ、イセリナに向かって答えると、セイラが噛みついてきた。

「早く承知とおっしゃい!」

カイはセイラの迫力にたじろいだ。明日が決戦だ。その為の工作の為彼女らは寝ずに動いている。ストレスも相当のものだとカイは思った。この状況で火に油を注いでも良いのか少しためらった。

「・・・はは・・・じゃあ結論を述べよう。君らの、エゥーゴの戦いは結果報われない。だから早く休みなさい」

「!」

「なっ!」

セイラ、イセリナ共に表情が強張った。カイはこれでもこの世界、時代の最強の交渉人(ネゴシエーター)。彼女等もそれを知らない訳ではない。カイの言葉、結論はほぼ当たる。

セイラはゆっくり立ち上がり、カイに近寄って胸ぐらを掴んだ。ミハルが後ろでムッとした。
カイはミハルを視線で控える様に促し、ミハルは大人しくした。

「セイラさん、少し話してもいいか?」

「どうぞ」

「ティターンズの焦土作戦は知っている。それ以外のティターンズの非人道的行為も大体な。だがそれでは奴らを追い込むことはできない。彼らは世界の弱みを知っているからだ」

「でも、世間が立ち上がれば!」

「あー、ダメだね。何で厭戦気分のまま8年も戦争が続いているの?みんな他人事なんだよ。誰かが解決してくれると思っている。それに・・・」

カイはセイラを見下ろして話し続けた。

「コリニーという人間は権力主義者だ。彼の弱点を的確に突かなければ彼は倒れない。お前たちは良い線まではいくだろう。しかしそれは道徳的、倫理的な部分で彼の政治的地位を覆す事はできない」

セイラはカイの胸ぐらより手を放した。カイは乱れた衣服を整えた。

「オレは世界が柔軟に動く方を選ぶ。その上ではティターンズもエゥーゴも凝り固まり過ぎなんだよ」

イセリナは「じゃあ貴方はどうすればいいのと言うの!一ジャーナリストが中立的にものだけ言って、主張がないなんて、世界について無責任じゃない!」とカイを責め立てたが、カイはその発言を容赦なく切り捨てた。

「・・・貴方がた一人が人類全体の総意ではない。貴方がたの行動一つ一つが市民すべての人生を左右されることを棚に上げて、貴方がたの使命感は世界全ての責任が持てるのか!」

イセリナはグッと声が詰まった。

「それを貴方がたが打倒できないからと言って、責任という言葉で無責任さを押し付けるんじゃない。相手を見極めて攻めなければ倒せるものも倒せん。為すべき事を為した後にこそ問題がある。エゥーゴはコリニーが悪党と決めつけている」

セイラがカイの意見に質問した。

「じゃあ、カイは問題の本質でも見えている訳?」

「貴方がたよりはな。どの勢力にしても、どのイデオロギーにせよ、皆統一覇権を求めている。それが戦争の終決であるが到達不可能な平和だ。いいか?古今東西統一国家という形態が何よりもマズいんだ」

「どういうこと?」

「人は千差万別の価値観を持つ。それを認め合え無ければ戦争になる。それを強制するなど無理難題なんだ。多様性を受け入れて人は生き続けていくこと。対話を持ってして許容していくこと。これが人類の目指す平和の形だ。それ以外道が無い。だからティターンズを失脚させても駆逐してはならない。それは恨みの連鎖にしかならない」

イセリナはカイの話に耳を傾けていた。既に感情は沈静していた。

「・・・カイさん、何故私たちの呼びかけに応えたのですか?」

「ああ、それは今述べたことだ。それが大事で、それを覚えていてほしい。さもなくばこれから途方に暮れ、行動の取りようがなくなる。最早勢力でのイザコザをしている状況でなく、互いが共存していくことを考えなければならない。それが今回の議会の目玉だ」

「何故それを私たちに教えるのですか?」

カイは肩を竦めて2人に話した。

「貴方がたの行動したことは無為ではない。ここまで忌み嫌った勢力同士が歩み寄るのだ。前持った話を予備知識としていれておかねば、柔軟性に欠け、混沌に陥るだろうよ」

セイラ、イセリナ共にティターンズとエゥーゴが許容し、共存するということが信じられなかった。
カイは2人が物凄く受け入れ難い顔をしていることを察した。

「互いに償うことが多々あるだろうよ。キレイごとで世渡りは無理難題なんだ。民主的に戦うならばモビルスーツでなく、テーブルで戦う。それをお互いに放棄している」

カイはティターンズ、エゥーゴ各々の手法は歩み寄りが無いため、現状が起きていると言っていた。
利や理を求める者、誠実さ、正直さ等、様々な価値観がある。それらを互いに駆逐しようと戦いを起こしている事がカイはナンセンスと言っていた。

「セイラさんとイセリナさんは両議員にその旨伝えて、来たる時代に向けて覚悟を持ってくださいと。一番伝えたいことはもう貴方達はゆっくり休んで明日に備えなさいということだ。聞いていたが実際会って見ても貴方がたの疲れ方は尋常じゃない。友人としての勧めだ」

セイラはどっと疲れを出して、もと居た席にストンと腰を下ろした。
イセリナも座っていた席から崩れ落ち、地面にへたりこんでいた。

「あーあ・・・カイが言うことは大体当たるのよね・・・」

セイラは空を仰いでぼやいた。イセリナも深くため息を付いていた。

「結果報われないか・・・。結構苦労したんだけどねえ・・・」

カイはうなだれている2人に近寄り慰めた。

「そうでもないさ。結果徒労に終わるけど、セイラさんもイセリナさんも各有力者を説得しては焚き付けた。その行動で彼らは<人は考える葦である>ことを取り戻すだろうよ。そうしなければ彼らは言うが為すままで無関心であった訳だからな」

カイの話を後ろで聞いていたアムロはこの世界を感心していた。

「(オレが居た世界より皆が関心を持って良い方向へと導こうと躍起になっている。身近な仲間らが世界を考えて救おうと努力している。カイの言う通りオレがイレギュラーとしてこの時代の流れを変えているならば、モビルスーツしか操れないオレの導き出した時流がこれか。凄いな)」

アムロはカイからは詳しくは話を聞いてはいないが、セイラとのやり取りを聞いていて、現状の打開についての話をしていることを理解した。アムロはカイに話し掛けた。

「なあカイ。本当にセイラさんらに休むように促すだけでここに来たのか?」

「大方な。例の物の使用で連邦そのものがなくなり、まあ再編される可能性があると考える」

アムロは議会の進行については報道で知る限りの事でしかない為、カイに予測を伺った。

「なあ、オレは報道でしか知らない。ティターンズはこの度宇宙に住まう者達を統制し、地球至上主義を法制定する。そしてエゥーゴは解散となる。そこには様々な生きるための自由が制限される、ということでだよな」

「大体な。オレら物書きも粛正対象になるだろうよ。頭ごなしに抑えつけ、全てを統括管理する。ハードウェアとしてはよりコンパクトを望む為、色々間引くことをするだろうね」

「しかし、サイドの制圧・破壊は報道の予測だろ?」

「そのための軌道上艦隊だろ?お前らがそれを牽制しているわけだ」

「まあ・・・予測だからな。対するエゥーゴは?」

「その危険と今までのティターンズの報道で知る限りの所業を彼らに訴える事。だが政治的な面では保守色の強い連邦政体が宇宙のことを容認するという答えを後押しするには根拠が足りない。そこがネックだ。だからティターンズら派閥が政権与党に居る。コリニーはだからどうしたで通すだろうよ。それを覆す非人道的なスキャンダルがいるな」

そうカイが話すとセイラが微笑を浮かべてカイにある資料を差し出した。
それをカイが受け取り読むとカイの顔が歪んだ。

「・・・コリニーはこんな所業を」

それは極東のムラサメ研究所の所業だった。ある程度の人体実験は治験の観点からコリニーが息がかかった保健省の研究所が行っている話は聞いていた。そしてムラサメ研究所もその一つだった。

「ちゃんと裏は取れているのか?」

「ええ、生き証人がいるわ。告発する準備はできているわ」

「・・・コリニーの付け入る隙はないのかと聞いている」

カイの言葉が暗くセイラに問うた。セイラは思案顔をして、カイに考える様な口調でゆっくり述べた。

「ええ・・・、資料はうちの者が入手したもので、ムラサメ研究所はエゥーゴが奪回したとき無人で、生き証人は・・・」

「・・・はあ・・・まずは証拠が盗難物で、それ以外のものは焼却され、その中であった惨劇はお前たちのせいにされかねないということか・・・」

「なっ!」

「コリニーはそれぐらいのことを平気で言うし、それぐらいの事情を看破するぐらいの公文書ねつ造だってやるさ。彼の所業を明るみに出すには・・・」

カイがそう話しを言い切る前に違うものが代わりに言い切った。

「内部告発ですね、カイさん」

カイとセイラ、他の人たちもその声のする方を向いた。するとそこにはカミーユとユウが居た。
セイラがブレックスとのやり取りで伝達役を彼に頼んでいた。ブレックスは宿泊所としてホテルは使用せず、ラー・アイムに寝泊まりしていた。全ては自身の警護の為だった。

「はい、セイラさん」

「有難うカミーユ。で、議員は?」

「実はヘンケン艦長ともその事について詰めていたのですが、やはりカイさんと同じ結論に。これは諸刃の剣だそうです。上手く使うにも使いきれるかどうか・・・」

セイラはグッと顔をしかめた。とても悔しそうな表情が見て取れる。カミーユは話を続けた。

「それでオレに一つ妙案がありまして、議員に伝えました」

カミーユの話にアムロが声を出した。

「妙案?なんだカミーユ、打開策になるのか?」

カミーユはアムロを見つけると軽く敬礼をし、話に戻った。

「ええ、こちらのユウ大尉も実はムラサメ研究所からの生き証人でして・・・」

そこに居た全員が驚いた。カイがカミーユに先の件について話掛けた。

「しかしカミーユ、生き証人は使えんぞ」

「だから内部告発ですよね。実はこの間ある小競り合いが有りまして、それで彼を救出できました。その相手は彼が洗脳受けている間情報を得ていて、そこからよると復讐を企んでいるそうで」

「復讐?」

カイが眉を片方吊り上げた。カミーユが頷いた。

「連邦への復讐です。相手はムラサメ研究所でも結構上の地位にあるものと見て良いと考えます。その相手がダカール入りします。超巨大モビルアーマーをもってして」

「なんだと!」

アムロはカミーユが本気でそんなことを言っているのが信じられなかった。

「本気かカミーユ!そんな兵器を黙認してこのダカールに侵入させるのか!」

カミーユは力強く頷いた。

「ええ、アムロ中佐。今回の議会は極めて特殊で、開催時にはこのダカールから人がいなくなります。
テロ対策の為です。民間人の危害は皆無でしょう。危険を伴うのはプレスと政治を携わる要人、そしてオレたち軍人です」

「だがそれを知っていて撃退しないわけにはいかないぞ」

アムロがそう食い下がるとカミーユがアムロを見据えて話した。

「しかしですね中佐。アレは恐らく中佐単機で落とせる代物ではありません。皆で総力持って挑まないと」

カミーユの話でアムロが「本気で挑んでお前で無理か」と言い、カミーユも素直に「はい」と答えた。
アムロは息を吐き、カミーユに話し掛けた。

「我々は予定通りダカール防衛に付いて、如何なる外敵をも排除する話の中で、その目標を撃退するとしても敵の議会への圧力は避けられないという見通しなんだな」

「そうです。ダカールに向かう最中、何度かその目標を索敵しました。ここの防衛など無きに等しいです。ここで戦力になるのは、ラー・アイム隊と中佐のデルタプラスです」

アムロの肩にカイが手をのせた。

「と、いう訳らしい。オレたちの命を頼むぞ」

「お前、軽く言ってくれるな」

アムロが露骨に嫌な顔をするとミハルとベルトーチカが笑っていた。カイはセイラ、イセリナの方に改めて向いた。

「カミーユの話が真実ならば、そいつがボロを出してくれるだろうよ」

セイラとイセリナが頷く。

「そうね。それじゃあ私たちは各議員の避難防衛を考えた方がいいのかもね」

「そうみたいね。この近くのシェルターを隈なく調べてみるわ」

「それが良いだろう」

カイはそれでも五分になるかどうかと思ったが、話がようやく終わろうとするところに敢えてそんな爆弾を投下する野暮なことはしなかった。カイはミハルと共にアムロとベルトーチカを残して、プレスセンターへと向かう為、セイラたちに挨拶をした。

「さて、オレらは記者だからそれなりのところへ消えるからな。アムロは先の話から空港に戻った方がいいのかもな」

「そうだな。デルタプラスを取りに戻って、ラー・アイムへ合流するよ。ベルトーチカは・・・」

「私は先にラー・アイムにカミーユと行ってるわ」

そう言ってセイラとイセリナを残し、皆四散していった。セイラとイセリナは席に座り直した。

「ふう・・・こう人が集まると話題が嵐の様で疲れるわ」

「同感です。・・・まだ余裕があるみたいですから私たちは一寝入りしてからまた集まりましょうか」

「そうね。ふわあ~・・・確かに知っていたけど、眠いわ・・・」

「セイラさん、途中までタクシーで一緒に行きましょう」

「ええ、互いにダカールの郊外だけど、全く議会なんて代物は手間が混んで面倒だわ」

セイラとイセリナはゆっくりと立ち上がり、傍にあるタクシーを拾ってそれぞれのホテルへ戻っていった。


 
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