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青砥縞花紅彩画

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6部分:新清水の場その六


新清水の場その六

千寿「お話したいことがあるのですが」
弁天「(冷たく)拙者にはござらん」
千寿「そう仰らずに」
弁天「二言はござらん、ではこれにて」
千寿「左様ですか」
弁天「左様、これ以上言うことはござらん(そして去ろうとする)」
千寿「それでは」(ここで小刀を取り出す。そしてそれを喉に当てる)
千寿「生きていても仕方ありませぬ。ここで命を絶ちましょう」
南郷「えっ(驚いた演技)」
弁天「何と(こちらもふりでしかない)、お止めなされ」
千寿「元より命んぞ惜しくはありませぬ。こうなっては自ら命を絶ち小太郎様の下へ参りましょう」
弁天「待たれよ(ここで小刀を取る)」
千寿「何でしょうか」
弁天「先程小太郎と申されましたな」
千寿「(顔を上げて)はい」
弁天「それは拙者が名ですが」
千寿「(驚いて)えっ」
弁天「拙者の名は信田小太郎と申しますが」
千寿「貴方様が小太郎様ですか」
弁天「左様、そしてそこもとの御名は」
千寿「私は千寿と申します。小田の千寿と申します」
弁天「それでは貴女は私の許婚ですか」
千寿「はい。そして貴方は」
弁天「そう、貴女の婿となる男です。今はこの有様ですが」
千寿「(首を横に振って)いえ」
千寿「決めておりました。私は小太郎様にこの命を捧げると」
弁天「まことですか」
千寿「はい。それが適わぬと知り尼になろうと思いましたがその必要はございませんね」
弁天「はい、拙者は今ここにおります故」
千寿「それではお話をしたいのですが」
弁天「(頷いて)はい」
弁天「ではあちらへ参りましょう。あそこでゆうるりとお話しようではありませんか(と言いながら左側を指差す)」
千寿「わかりました」
 こうして二人は左手に消えていく。後には南郷と侍女が残る。
侍女「これでよろしいですね」
南郷「(頷いて)はい」
南郷「まさか千寿の姫様とは思いませんでしたが」
侍女「それはこちらもです。まさか小太郎様が生きておられましたとは」
南郷「(これには思うところある顔をして)まあそうでござるな」
侍女「確か騒ぎの中で行方知れずとなっておられたのですね」
南郷「追っ手がありましたので。身を隠していたのです」
侍女「左様でしたか」
南郷「ところで若様もおりませんし暫し骨休みとしますか」
侍女「(頷いて)ええ。ではあちらにでも(ここで右手を指す)」
南郷「参りますか」
侍女「はい」
 こうして二人は右手に消えていく。それと入れ替わりに赤星が出て来る。
赤星「わしに何か用か(左手に顔を向けて強い声で言う)」
侍一「(左手から出て来ながら)何を言うか」
侍二「(同じく出て来ながら)よくそんなことが言えたものだ」
典蔵「よし、逃がすでないぞ(ヌッと左手から現れる)」
典蔵「まずは懐をあらためい」
赤星「お主等に出来るかな(不敵な様子で言う)」
侍一「(憤りながら)何、小僧っ子の分際で」
侍二「懲らしめてくれるわ」
赤星「やってみせよ。できるならな」
 ここで赤星も侍達も刀を抜く。
赤星「ここは丁度寺じゃ。供養の心配はいらぬぞ」
侍一「それはこちらの台詞じゃ」
侍二「覚悟せい」
 三人は打ち合う。だが赤星が強く忽ち二人を打ち倒してしまう。
赤星「もう終いか」
侍達「ぬうう(呻きながら倒れている)」
赤星「他愛のない。峰打ちじゃから安心せい。(ここで典蔵に顔を向ける)さて」
赤星「次はお主が相手になるか(刀を構えながら」
典蔵「(顔を顰めさせて)おのれ、何という奴じゃ」
赤星「さっさと逃げるがいい。さもなければ痛い目をみるぞ」
典蔵「(ぬかせ、若僧が(ここで彼も刀を抜く)」
赤星「そうでなくてはな。行くぞ」
典蔵「参る」
 二人は打ち合う。激しいやりとりだが赤星が勝っている。典蔵は次第に追い詰められていく。
赤星「さあ、どうした。これまでか」
典蔵「おのれ」
 結局典蔵は負ける。打ち倒した赤星は背を向ける。
赤星「それではな。さらばだ」
典蔵「(起き上がりながら)待て」
赤星「(顔を向けて)まだ何か用か」
典蔵「名乗れ。何者だ」
赤星「拙者の名か。赤星十三郎という」
典蔵「お主がか。信田家きっての剣の使い手という」
赤星「巷ではそう言うらしいな」
典蔵「我等を小田の家の者と知ってのことか」
赤星「(それに驚き)何!?」
典蔵「どうした、何がおかしい」
赤星「それはまことでござるか(急に態度を改める)」
典蔵「如何にも。嘘を言ってどうする」
赤星「(首を横に振りつつ)ああ、わしは大変なことをしてしまった」
典蔵「?どういうことじゃ」
赤星「先程あの御二人に問われたことですが」
典蔵「うむ」
赤星「これのことでございますな」(ここで懐から包みを取り出す)
典蔵「それはまさか」
赤星「はい。これは先程そちらからとったものです。貴方達の御言葉通り私はこの百両を盗んだのでございます」
典蔵「何故そのようなことをした」
赤星「(俯いて)それは」
典蔵「申してみよ。お主程の者がその様なことをするのには訳があろう」
赤星「はい、実は主の奥方様が病に臥せっておられるとのことで。何としても金が欲しい状況でありまして」
典蔵「信田の奥方がか」
赤星「(頷いて)はい」
典蔵「そうだったのか。生きておられたのか」
赤星「しかし最早かなり危うい状況でございます」
典蔵「それは知らなんだ。あの元気な方がのう」
 ここで先程赤星に倒された二人の侍が起き上がる。
 
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