おぢばにおかえり
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第二十九話 お墓地でその十
「それにここって」
「どうしたの?」
「廊下を乾拭きしている人いますよね」
この子もいいところに気付いたわね、と内心思ったことは内緒です。この神殿の廊下を乾拭きすることは実はとてもいいことなんです。それに気付くなんて。
「これ何ですか?」
「回廊ひのきしんっていうのよ」
「回廊ひのきしん!?」
「そうよ。お掃除あるじゃない」
「はい」
「お掃除はひのきしんの中でも特によくやるわよね」
ひのきしんのかなりの割合です。お掃除をするのと一緒に心のほこりを払うことにもなるのでとてもいいことなのです。私も子供の頃からお父さん達にそう教えられて今までやってきました。
「そのうちの一つでね」
「それだったんですか」
「親神様に教祖、それにみたま様のおられるこの神殿の回廊をお掃除させて頂くってことは」
「とても有り難いことなんですね」
「そうよ。それに凄く身体動かすことだし」
これがまたかなり大変だったりします。
「健康にもいいのよ」
「そうなんですか」
「阿波野君もやってみたら?」
阿波野君にも回廊ひのきしんを勧めました。
「一回。どう?」
「そうですね。ただ」
阿波野君はその回廊ひのきしんをする人達を見ながら私に言います。
「皆さん膝当てしていますよね」
「ええ」
これまた見ているわね、と内心思いました。回廊は木造でとても堅いので乾拭きの際は絶対にそれが必要なのです。さもないと膝が大変なことになります。
「それ買ってからですね」
「本当にやるつもりなの」
「まあ試しに一回は」
結構本気な言葉でした。
「してみようかなって」
「いい心掛けね。そういえば私も」
「先輩も?」
「最近あまりしていないし」
そのことにも気付いて内心反省しています。
「だから。ちょっとね」
「そうですか。じゃあ一緒に」
「それは嫌」
はっきりと言い切りました。
「何で一緒になのよ」
「あれっ、ひのきしんなのに」
「だから。どうしてそこで阿波野君と一緒なのよ」
そこに話を至る神経がまずわかりません。どういう頭の構造なんでしょうか。
「そこで。関係ないじゃない」
「そうですか?」
言われても本当に全然懲りている感じはありません。このお気楽さは一体何処から来るものなのかわからないです。能天気というか。
「僕は全然ですけれど」
「変に思わないっていうの?」
「何で変なんですか?」
「阿波野君と一緒にするってことがよ。するのなら私一人でするわ」
「ですから一人より二人の方がいいじゃないですか」
「どうして?」
「たすけあいってことですよ」
にこにこと笑いながらの言葉でした。
「ですから」
「やるのなら一人でやりなさい」
私も結構以上に頭にきて言い返してやりました。
「一人でね」
「僕一人でですか?」
「いさんでやりなさい」
廊下を歩きながら阿波野君に顔を向けて言いますけれどやっぱりここで八重歯が阿波野君に見えちゃっているのを自覚します。どうも八重歯が見えてしまうのが恥ずかしいんです。
「いいわね、やるのならね」
「寂しいなあ、それって」
「寂しいとかそういうのじゃなくてね」
とか何とか言っている間に教祖殿に来ました。ひのきの廊下を歩きながらの話はそれでも続いていますけれど。やっぱりその途中で回廊ひのきしんの人に会います。
「ひのきしんは一人でもできるからいいのよ」
「そうなんですか」
「何でもひのきしん」
怒った声になっているのが自分でもわかりましたけれどそれでもです。
「いいわね」
「とりあえずわかりました」
いい加減な返事です。
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