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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第88話

7月29日―――――



夏至祭が終わった翌朝、リィン達Ⅶ組のメンバーは揃って帝都を後にする事になり、リィン達はオリヴァルト皇子達に見送られようとしていた。



~バルフレイム宮・第二迎賓口~



「いや、君達には本当に世話になってしまった。兄妹共々、士官学院に足を向けて眠れなくなってしまったくらいさ。」

「いえ、そんな……!」

「その、あまりにも畏れ多いお言葉かと……」

オリヴァルト皇子の言葉をリィンとアリサは謙遜した様子で受け取った。



「いいえ、いいえ。わたくしとエリスなどあのまま連れ去られていたらどんな運命が待ち受けたかわかりませんし、メンフィル帝国の貴族の子女であるエリスが連れ去られた事によってエレボニア帝国がメンフィル帝国にどれほどの責任を追及されていたか……本当に、何度お礼を言っても足りないくらいの気分です。」

「……わたくしからも改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。」

「エリス……」

「えへへ……本当に無事で良かった。」

「アハハ……主に救出で活躍したのはベルフェゴールさんとリザイラさんなんですけどね。」

アルフィン皇女とエリスにお礼を言われたリィンはエリスを見つめ、エリオットは嬉しそうな表情で笑い、ツーヤは苦笑していた。

「セレーネ君もクリスタルガーデン内にいたレーグニッツ知事や貴族たちの傷の治療をしてくれてありがとう。みんな、セレーネ君に感謝していたよ。」

「そんな……わたくしは皆さんと違って、それ程大した事はしていませんわ。」

オリヴァルト皇子に感謝されたセレーネは謙遜した様子で答えた。



「私とセドリックの方もB班の働きには助けられたよ。市内の混乱の収拾……改めて礼を言わせてもらおう。」

「勿体ないお言葉。」

「ふふっ……市内の混乱の収拾はほとんどエステルさん達のお蔭だったんですが……お役に立てて光栄です。」

オリヴァルト皇子のお礼の言葉にガイウスとエマは会釈し

「その……オリヴァルト皇子。すみません。レンとエヴリーヌお姉様がセドリック皇子に酷い事を言ってしまって……」

プリネは申し訳なさそうな表情でオリヴァルト皇子に謝罪した。



「その件は気にしないでくれ。実際二人の指摘通りだし、セドリックもあの件がきっかけで武術に励む事を決意したようだし、セドリックにとっても良い勉強になったよ。」

「わたくしも今回の件で自分の情けなさや力の無さを痛感してセドリックと共に武術に励む事を決意しました。少なくても自分の身と自分の傍にいる親しい友人を守れるくらいの皇女でなければ、かのドライケルス大帝の血を引く子孫とは言えませんわ。」

「姫様…………」

オリヴァルト皇子の話に続くように決意の表情で話を続けたアルフィン皇女をエリスは驚きの表情で見つめていた。



「フフ、”Ⅶ組”設立のお礼をやっとお返しできたみたいですね。それにしても……”帝国解放戦線”ですか。」

「ああ……ノルド高原での一件……さらには帝国各地の幾つかの事件。今までにも暗躍の気配はあったが今回、ついにその名前を明らかにした。”C”をリーダーとする数名の幹部たちに率いられた純然たる恐怖主義者(テロリスト)たち。現在、情報局でメンバーの洗い出しを行っている最中らしい。君達やリウイ陛下達の話では”怪盗B”が彼らを逃がしたと聞いているが…………」

サラ教官の言葉に頷いたオリヴァルト皇子は”身喰らう蛇”の事情を一番良く知るレーヴェを見つめ

「……少なくとも俺が”結社”にいた頃はそのような集団と繋がっている話は聞いた事がない。当然”幻焔計画”も初耳だ。まあ、あくまで俺の予想になるが”福音計画”のように”蛇の使徒”や”執行者”達が関わる事はまず間違いなくあると思う。」

「そうか…………」

「………………」

レーヴェの答えを聞いて頷いて重々しい様子を纏い、サラ教官は真剣な表情で考え込んでいた。



「……こう言っては何ですが不思議な人たちでしたね。わたくし達を連れ去りながら悪意を余り見せる事なく……それでいて内に秘めた激情に取り憑かれているかのようでした。」

「……はい。もちろん、姫様や私を攫ったことは許されることではありませんが……」

「内に秘めた激情……」

「……そんな感じはしたかも。」

アルフィン皇女とエリスの言葉に続くようにラウラとフィーは静かに呟いた。



「『静かなる怒りの焔をたたえ、度し難き独裁者に鉄槌を下す……』……彼らのリーダーの言葉です。」

「確かにそう言ってたな……」

「リウイ陛下はその”独裁者”をオズボーン宰相だと断定していましたが……」

「フッ……まあ、そんな露骨な言葉なら誰でもわかるだろうね。」

リィンやマキアス、ツーヤの説明を聞いたオリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべて頷いた。



「『静かなる怒りの焔』……そして『度し難き独裁者』。」

「まあ、リウイ陛下の仰る通り何を示しているのかは明らかではあるが……」

そしてサラ教官の言葉にオリヴァルト皇子が続こうとしたその時

「皆さん……!」

セドリック皇子がレーグニッツ知事と共に現れた。



(あ……)

(も、もしかして……)

(父さんも……)

二人の登場にリィン達が驚いている中、二人はリィン達に近づいてきた。



「セドリック……何とか間に合ったわね。」

「フフ、いいタイミングだ。」

「皇太子殿下……」

「わざわざお見送りに来ていただいたのですか。」

「ええ、お世話になったからにはこのくらい当然ですから。あ……こちらの方々が”Ⅶ組”のもう一班なんですね。――――初めまして、皆さん。セドリック・ライゼ・アルノールです。この度は、姉の危機を救っていただき、本当にありがとうございました。心よりお礼を言わせてもらいます。」

セドリック皇子はリィン達を見つめた後自己紹介をして笑顔になった。



「……勿体ないお言葉。」

「あわわっ……光栄です!」

「ありがとうございます、殿下。」

「皇太子……想像してたより可愛いかも。」

「こ、こらフィー。」

「もし気にしていたらどうするんですか………」

セドリック皇子の感謝の言葉をリィン達が受け取っている中、セドリック皇子を見つめて呟いたフィーの言葉を聞いたマキアスは慌て、ツーヤは冷や汗をかいた。



「ふふっ、皆さんのようにもっと逞しくなってくれればわたくしも安心なのですけど。なんせ年下のレン姫ですら、果敢に帝都内に放たれた魔獣達と戦ったと聞いていますし。レン姫の指摘通り、セドリックにはもっと逞しくなってもらわなければなりませんわ。」

「うぐっ……」

「姫様……失礼ですよ。」

「フフ、まだ15歳だし、君達はこれからだろう。」

アルフィン皇女の言葉を聞いて唸り声を上げて疲れた表情になったセドリック皇子と、アルフィン皇女を注意するエリスの様子をオリヴァルト皇子は微笑ましそうに見守っていた。



「しかし、セドリックと貴方が一緒というのも珍しいね……?」

「はは……恐縮です。せっかくなので彼らをこのまま、見送らせてもらおうと思いまして。」

「父さん……傷の方は大丈夫なのか?」

「ああ、セレーネ君の治療のお蔭で既に完治している。」

「そうか……ありがとう、セレーネ。」

「そんな……わたくしは自分が出来る事をしたまでですわ。」

父親の傷を治療してくれたマキアスの言葉にセレーネは謙遜した様子で答えた。



「知事閣下、お疲れ様でした。」

「ああ、ありがとう。―――かなり変則的ではあったが無事、今回の特別実習も終了した。士官学院の理事として、まずはお疲れ様と言っておこうか。」

「……恐縮です。」

「ありがとうございます。」

「―――”Ⅶ組”の運用、そして立場の異なる4人の理事。色々思うところはあるだろうが……君達には、君達にしか出来ない学生生活を送って欲しいと思っている。それについては他の3人も同じだろう。」

「父さん……」

「「…………」」

「……そう言って頂けると。」

レーグニッツ知事の言葉にマキアスは驚き、ユーシスとプリネは目を伏せて黙り込み、アリサは会釈をした。



「――その点に関しては殿下もどうかご安心ください。」

「はは……わかった。元より、貴方については私も信頼しているつもりだ。だが――――」

レーグニッツ知事の言葉に頷いたオリヴァルト皇子が話を続けようとしたその時

「―――どうやらお揃いのようですな。」

黒髪の男性がリィン達に近づいてきた。



「あ……」

「…………まさか…………」

「…………………」

男性の登場にマキアスは驚き、ユーシスは目を細め、リィンは真剣な表情で黙り込み

「―――かの”鉄血宰相”か。」

(一体何の用なんでしょうか……?)

(さあ……本当に何の為に来たのかわからないわ。)

レーヴェは静かな表情で呟き、ツーヤとプリネは念話で会話をしていた。



「オズボーン宰相。」

「……実は、先程まで共に陛下への拝謁を賜っておりまして。」

男性――――オズボーン宰相の登場にセドリック皇子は笑顔になり、レーグニッツ知事はオリヴァルド皇子に説明し、オズボーン宰相はアルフィン皇女とエリスを見つめて会釈をして口を開いた。

「アルフィン殿下におかれましてはご無事で何よりでした。そしてエリス殿もご無事で何よりです。特にエリス殿に関しましては、はるばるメンフィル帝国から留学されていらっしゃるのに我らの不手際で危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

「いえ、お構いなく。私の方もご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。」

オズボーン宰相の謝罪の言葉にエリスは会釈をして答えた。



「オリヴァルト殿下も――――”帝国解放戦線”に関しては既に全土に手配を出しております。背景の洗い出しも進んでおりますのでどうかご安心ください。」

「……やれやれ、手回しのいいことだ。これは来月の”通商会議”も安心ということかな?」

オズボーン宰相の言葉に溜息を吐いたオリヴァルト皇子は真剣な表情でオズボーン宰相を見つめて尋ねた。



「ええ、万事お任せあれ。―――失礼。諸君への挨拶がまだだったな。―――帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。”鉄血宰相”という名前の方が通りがいいだろうがね。」

オズボーン宰相はリィン達を見つめて自己紹介をした。

「あ……」

「は、初めまして、閣下。」

「そ、その………お噂はかねがね。」

「フフ、私も君達の噂は少しばかり耳にしている。帝国全土を又にかけ、更にはメンフィル帝国領内にも向かう特別実習、非常に興味深い試みだ。これからも頑張るといいだろう。」

アリサとマキアスが話し辛そうな表情になっている中、オズボーン宰相は静かな笑みを浮かべてリィン達に激励の言葉を贈った。



「……恐縮です。」

「……ども。」

「―――もったいないお言葉、ありがとうございます。」

「精進させていただきます。」

「それと……―――久しいな、遊撃士。転職したそうだが息災で何よりだ。」

「ええ、お蔭様で。―――”その節”は本当にお世話になりました。」

オズボーン宰相に見つめられたサラ教官は真剣な表情でオズボーン宰相を見つめた。



「フフ……ヴァンダイク元帥は私の元上官でもある。その意味で、私としてもささやかながら更なる協力をさせてもらうつもりだ。まあ、楽しみにしてくれたまえ。」

「……それは…………」

「……………………」

オズボーン宰相の話を聞いたサラ教官とオリヴァルト皇子は厳しい表情でオズボーン宰相を見つめた。



「それと……貴殿ほどの武人がトールズ士官学院の学生達を鍛えている事にはいつも感謝しているよ、”剣帝”。」

「――――自分はあくまでバレスタイン教官の補佐をしているまで。それ程大した事はしていないゆえ、礼を言われることはありません。」

オズボーン宰相に視線を向けられたレーヴェは静かな表情で答えた。

「フフ……当初は貴殿がメンフィル帝国民になったことで、貴殿に規制していた”故郷の悲劇”の話を学生達に教えるのかと、警戒していたが話していないようで何よりだ。」

「!……………………何の事を仰っているのかよくわかりませんが…………―――覚えておくといい。どれだけの年月が経とうと闇に葬られた者達の無念はいつか必ず、白日の許にさらされる時が来るだろう。」

「レーヴェ…………」

オズボーン宰相の話を聞いたレーヴェは眉をピクリと動かした後、静かなる怒りを纏ってオズボーン宰相を睨み、レーヴェの様子を見たプリネは心配そうな表情をした。



(レオンハルト教官に規制していた”故郷の悲劇”の話……?)

(一体何の事なのかしら……?)

(あの方……もしかして怒っているのでしょうか……?)

(多分、そうだろうね……)

会話を聞いていたリィンとアリサは戸惑いの表情をし、不安そうな表情をしているセレーネの推測にツーヤは静かに頷いた。



「宰相。無暗に”その話”を出すのはどうかと思うが?」

その時オリヴァルド皇子が真剣な表情でオズボーン宰相に指摘した。

「これは失礼。諸君らも……どうか健やかに、強き絆を育み、鋼の意志と肉体を養って欲しい。――――これからの”激動の時代”に備えてな。」

「…………ぁ……………」

「…………っ…………」

オズボーン宰相の言葉にエマが不安そうな表情をし、ユーシスが唇を噛みしめたその時

(っ……?)

オズボーン宰相の言葉に反応するかのように胸が鼓動したリィンは胸を押さえ

(兄様……?)

その様子に気付いたエリスは不思議そうな表情をした。



その後オズボーン宰相はユーゲント皇帝に呼ばれて席を外す事になり、リィン達がオリヴァルド皇子達に見送られて宮殿を後にしようとしたその時、アルフィン皇女がリィンを呼び止めた。 
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