| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

プロローグ~改変の契約~前篇

七耀歴1204年3月8日―――――



エレボニア帝国北部、ノルティア州上空―――



~飛行客船・ルシタニア号・カジノ~



豪華客船、”ルシタニア号”。1年前に”とある事件”が起こった現場となった豪華客船だったが、今ではその事件があった事も忘れ去られているかのように多くの乗客達で賑わっており、乗客達の中には2年前に起こった”リベールの異変”にてとある人物に雇われ、リベールに訪れて陰ながらある人物を護衛していた”西風の旅団”の猟兵達――――”罠使い(トラップマスター)”ゼノと”破壊獣(ベヒモス)”レオニダスが混じっており、ゼノはレオニダスが見守っている中ポーカーをしていた。

「フルハウス。私の方の勝ちでございます。」

「嘘やろ!?フラッシュが来たときに勝ったと思ったのに、そりゃないで……」

ディーラーに敗北したゼノは声をあげた後疲れた表情で肩を落とした。

「……ディーラーが一枚しかドローしなかった事に警戒していないお前が悪い。」

「うっさいわ。」

レオニダスの指摘にゼノは疲れた表情で答えた。

「ゲームを続けられますか?」

「いや……今日はツキが回っていないようやし、もう止めとくわ。」

「かしこまりました。」

そしてポーカーを止めたゼノはレオニダスと共にテーブルから離れた。



「しっかし、話には聞いていたけどまさか船にカジノまであるとはな。相変わらずラインフォルトは景気いいな~。」

「世界最高級の豪華客船という触れ込みは伊達ではない、という証拠だな。」

ゼノとレオニダスはそれぞれ周囲を見回した後窓の外に見える景色を見つめて呟いた。

「そういえば、処女航海の時に事件があったっていう話やな?」

「ああ。―――ヘルマン・コンラート。この船の元オーナーでもあり、ラインフォルトの取締役も兼任していた資産家。古代遺物(アーティファクト)を取引に利用していたことが”騎士団”に嗅ぎ付けられ、古代遺物(アーティファクト)の回収と奴の拘束の為に連中が派手に暴れたらしい。何でも話によると単独で”北の猟兵”達相手に圧倒したという話だが……」

「ほ~……連中は西風(おれたち)ほどやないけど、猟兵団としてのレベルは中の上やからな。単独でそいつらを相手に圧倒するなんて、相当の使い手やな。」

レオニダスの話を聞いたゼノは興味ありげな表情で呟いた。



「ああ。――――それよりも”気づいているか”?」

ゼノの言葉に頷いたレオニダスは表情を引き締めてゼノに問いかけた。

「……黒服の連中。連中が纏っている雰囲気からすると”同業者”やな。」

レオニダスの問いかけに頷いたゼノは壁際で乗客達の動きを見張っている黒服達に視線を向けて呟いた。

「フッ、警備にわざわざ猟兵達を雇うとはどうやら現在のこの船のオーナーも前任者同様後ろ暗い事をしているのだろうな。」

「ま、そうやろな。―――それよりも”依頼人”はいつになったら、接触してくるねん。わざわざこんな所にまで呼び出しといて、未だ何の連絡もなしやで?」

「さてな……俺達にこの船の乗船券を渡した時同様”依頼人”の代理人が接触してくると考えるのが普通だな。」

ゼノの疑問を聞いたレオニダスは考え込みながら答えた。



「伝説の暗殺者―――”(イン)”を使いっ走りにするなんて、どんな”依頼人”やろな?」

「……恐らくだが2年前の”リベールの異変”の時に依頼してきた者だろう。」

「2年前……ああ、”剣聖”の妻の護衛の件か。そう言えばあの時も”銀”が依頼人の代理人として俺達に追加の依頼をして来た上護衛期間の終了を告げに来たな………しかし、一体何者や?団長が調べても尻尾を掴まさへんなんて、色々な意味で気になるで。」

「それも今回の”依頼”でわかるだろう。今回の”依頼”には”依頼人”自ら姿を現して俺達と取引をするとの事だからな……――――!どうやら来たようだな。」

ゼノの疑問に静かな表情で答えたレオニダスは何かに気づくとゼノと共に振り返った。するとその時乗客達の中から一人の執事が現れ、二人に近づいてきた。



「―――失礼。御二方が”西風の旅団”所属のゼノ様とレオニダス様でございますね?」

「ああ。依頼人に言われて俺達を呼びに来たんか?」

執事の問いかけに頷いたレオニダスは執事に確認した。

「はい。――――私は御二方の”依頼人”に仕えているジョーカーと申します。もし御二方が我が主の”依頼”を請けてくださった時は、私が主の伝言役を務める事もありますので以後お見知りおきを。」

「ご丁寧にどうも。そんじゃ、早速”依頼人”の所に案内してもらおうか?」

「かしこまりました。―――こちらでございます。」

そして二人は執事――――ジョーカーの先導によってある部屋の扉まで案内された。



~オーナー室~



「この部屋は………」

「……まさか俺達の”依頼人”というのはこの船の現在のオーナーか?」

部屋の扉に”オーナー室”と書かれてあるプレートに気づいたゼノは目を丸くし、レオニダスは真剣な表情でジョーカーに訊ねた。

「その答えはすぐにわかるかと。――――レン様、お二人をお連れしました。」

ジョーカーは扉をノックして扉の中にいる人物に声をかけた。

「―――ご苦労様。二人を連れて入って来て。」

(女の声やと……?)

(しかも声の感じからすると相当若い……いや、下手をすればフィーと同年代かもしれん。)

扉の中から聞こえてきた少女らしき声を聞いたゼノとレオニダスはそれぞれ眉を顰めた。

「―――失礼いたします。」

そしてジョーカーは二人と共に部屋の中に入った。部屋の中には背後に双子のメイドを背後に控えさせた菫色の髪の少女―――レンが豪華なデスクで端末を操作していた。



「こ、子供やて……?」

「まさかお前が俺達の”依頼人”なのか……?」

ルシタニア号のオーナーが使っていると思われる豪華なデスクで端末を操作しているレンに面食らったゼノは戸惑い、レンが自分達の依頼人である事を悟ったレオニダスは信じられない表情でレンに問いかけた。

「うふふ、こうして顔を合わすのはこれが初めてね。とりあえず落ち着いた場所で話をしたいから、そっちのソファーでお話をしましょう?」

そしてレンに促された二人は豪華なソファーに座ってレンとの話を始めた。



「二人とも食事はもう取ったのかしら?」

「あ、ああ。1時間前に食堂で食べたで。」

「そう。じゃあお茶とお菓子だけでいいわね。―――フローラお姉さん、フェリシアお姉さん。」

「は、はい!紅茶とお茶請けのお菓子をお持ちすればよいのですね?」

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします。」

レンに視線を向けられた桃色の髪をポニーテールにしたメイド―――フェリシアは慌てた様子で答え、水色の髪をツインテールにしているメイド―――フローラは冷静な様子で会釈をした後部屋に備え付けられてある別の扉に入った。

「―――それでは改めまして。遊撃士協会ロレント支部所属A級正遊撃士レン・ブライトよ。」

「遊撃士やと!?ちょっと待て!嬢ちゃん、いくつやねん!?確か遊撃士になれるのは16歳からのはずやで?」

「”ブライト”………なるほど。と言う事はお前がかの”小剣聖”にして”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”か。」

16歳以下にしか見えないレンが遊撃士を名乗った事に驚いたゼノは信じられない表情でレンを見つめている中レオニダスは落ち着いた様子でレンを見つめて呟いた。



「!!そういや”剣聖”の養女はとんでもない才能を持っていて、その娘は特例で幼い頃から遊撃士をやっているって話があったな……」

「うふふ、大陸最強の猟兵団の人達にも知られているなんてレンも結構有名になったわね。」

レオニダスの言葉を聞いてすぐに心当たりを思い出したゼノは真剣な表情でレンを見つめ、見つめられたレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「”商売敵”の情報を把握するのは猟兵として当然の事だ。―――”影の国”とやらでは姫が世話になったな。」

「姫………ああ、”西風の妖精(シルフィード)”の事ね。彼女の戦闘能力にはレン達も助けられたからお互いさまよ。確か今は”紫電(エクレール)”のお姉さんに保護されているのだったかしら?」

レオニダスに礼を言われたレンは一瞬何のことかわからず目を丸くしたがすぐに心当たりを思い出し、意味ありげな笑みを浮かべて二人に問いかけた。

「ハハ、同業者だけあって姫の事も既に把握しているんか。ちなみに姫は元気にしてるんか?」

「ええ。レンの手に入れた情報によると彼女、今年の4月に帝国で有名な士官学院―――”トールズ士官学院”に入学するそうよ。」

「ほ~……姫が士官学院に入学か。友達がたくさんできるとええな。」

「……間違いなくできるだろう。ただ勉強についていけるかが唯一の心配だな。」

自分の質問に答えたレンの話を聞いたゼノは興味ありげな表情をし、レオニダスは真剣な表情で考え込んだ。



「―――失礼します。お茶とお菓子でございます。」

その時双子のメイドが入っていた扉が開き、フローラが紅茶やお茶菓子が乗ったお盆を手にレン達に近づいてレン達の前にそれぞれ紅茶やお茶菓子を置いた。

「ありがと♪そう言えば何かが割れる音とかしなかったけど、フェリシアお姉さんは今日は珍しくドジを一度もしなかったのね♪」

「ひ、酷いですよ、レン様~。その言い方だとまるで私が毎回ドジをしているような言い方じゃないですか~。」

からかいの表情のレンの言葉を聞いたフェリシアは頬を膨らませてレンを睨んだ。

「レン様がそう思うのも無理はないわ。ただでさえレン様のお世話をする機会は滅多にないのに、レン様をお世話できる貴重な機会に貴女はいつもドジばかりしているもの。慈悲深く寛容な性格をしていらっしゃるレン様でなければ、とっくに前に仕えていた所同様クビになっていてもおかしくないわよ。」

「ううっ、姉さんまで酷いです~……」

静かな表情で呟いたフローラの指摘を聞いたフェリシアは疲れた表情で肩を落とした。

「クスクス……――それじゃ、レンはこの人達と大切なお話があるから二人とも下がっていいわよ。また何か用があったら内線で連絡するわ。」

「かしこまりました。」

「―――失礼します。」

そしてレンの指示を聞いた双子のメイドは部屋から退出した。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧