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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第21話 木山の過去

サソリを送り届けた白井は、初春が居る高速道路上に空間移動した。
「白井さん!」
「初春、大丈夫ですの?」
「はい、サソリさんのお陰で」
「全く無茶をしますわね」
手錠で動きに制限があり、砂利だらけの制服を身に付けているが目立った負傷箇所は見当たらずに安堵した。

木山と向き合っている御坂と人形を携えたサソリを一望する。
ここならば戦いの一部始終を見ることが出来そうだ。
「言っても聞かないお二人ですこと」
白井が風に靡いている髪を弄る。
「木山さんはどうしてこんな事を......」
橋の欄干に手を乗せて初春が心配そうに呟いた。

「過去を洗っていましたら、小学校の教師をしていたらしいですわ......」

木山春生
第十三学区の小学校に教師として赴任するも、翌年に辞職。
辞める契機となったのは
能力開発の実験中に起きた教え子を原因不明の意識不明に至らしめた事件
それに行き着いた。

「それが何らかの動機に?」
「可能性でいえば高いですわね。サソリに言いましたら」

後は本人から聞く。
とスタコラサッサと私を使いまして空間移動をさせた。

人形を操るサソリを横目で見ながら頭の中で呟いた。

無事、終わりましたらデートくらいしてあげますわ

******

レベルアッパーを使用した佐天の脳を詳細に読み取ったサソリは、命の危険がないことを踏まえた上で佐天に自分の脳波を少しずつ合わせた。
つまり、木山の計一万人の脳のネットワーク上に佐天だけを自分のネットワークに組み込んだということ。

「さ、サソリ......その眼って」
サソリの傀儡人形により抱えれた御坂が地面に降ろされた。
白目部分が真っ赤に染まるサソリに御坂が聞く。
「レベルアッパーの原理を応用して佐天をオレの脳に合わせた」
「で、でも治せないって言ってたじゃない」
「短期的にはな、時間を掛ければ写輪眼の方が力が上だから多少は融通が利く」
サソリは、御坂を置くと傀儡を自分の前に持ってきた。
「御坂。磁力は解除しておけ」
サソリは、指を折り砂鉄を集めていく。
傀儡の上空で砂鉄は、鋭利なナイフ上になった。
そして、チャクラを伸ばした糸へ力を込める。

磁力最大

人形にも燃えさかるようなチャクラが出現すると、奇妙な金属音が辺りに響きだす。
カタカタと砂鉄に引っ張られるようにガラクタの中の金属やサソリが使ったクナイが重力に反発するようにゆっくり持ち上がる。
木山を始めとして、少し離れた御坂の上までガラクタが広がり、大きな一つの影となった。
「嘘......単純な力だけならあたしより上かも」
御坂もここまでの規模の磁力を作り出したことはなかった。
サソリの実力を認めることを言ったが、純粋な能力で云えば御坂の方が上だ。

サソリは、傀儡人形を介して発動しているために幾らかの力が抑制される。

ガラクタが上により陽の光が陰る中で木山焦りながら上を見上げる。
「くっ!」
サソリが手を一直線に引き、下げる。
持ち上げられたガラクタは、磁力から解放されると重力の影響を受け、木山に近い所から集中的に落下を開始した。

「こ、こんな所で!」

木山は、息を荒くしながら電磁バリアわ張ると金属の落下から身を守り、能力を高めていく。

サソリは、落下していくガラクタの中にある鋭利に変えた砂鉄を木山に向けて向きを正すと一斉照射した。
サソリは、傀儡の左腕を動かし黒い服から左胸部を露出すると、腕を下に向け降ろした。
ギシッ胸部の蓋が外れチャクラが砂鉄の進行方向に集まり、触れると更に先が尖りスピードが一段階上がる。
「!!!」
ガラクタの間から尋常ではない速度でやって来る鋭利な砂鉄を防ごうと力の限り堪える。
砂鉄が当たると硬い物に刺さるような感触と電磁線がバリアに阻まれる砂鉄を中心に木山の前から後ろへ球面を波動した。
キィィィンという金属音をして耐えていたが、バリンという音がして木山は後方へと吹き飛ばされた。

一発目は受け止めたが二発、三発となってくると電磁バリアも耐えきれずにガラスが割れる音と共に木山は、鉄橋へと叩きつけられる。
「ぐあ」
砂鉄は、木山の白衣の裾や肩の部分に刺さり、身動きが出来なくなる。
「はあはあはあ......それが君の本気か?」
「割と手加減をしたが」
サソリが人形を退かすと木山が拘束されている鉄橋へと歩いて近づいた。

「ふふ、傷つくことを言うな。どうする私を動けなくして終わりか?」
「いや、ちょっと気になることがあってな」
サソリは、巴紋を宿す瞳術で真っ直ぐ木山の眼を覗いた。

写輪眼

「あ......あ」
木山の身体が脱力し、突き刺さった砂鉄に支えられるようにグッタリと顔を伏せた。
サソリは、チャクラを纏った手で木山の頭を掴むと幻術の世界に突き落とす。
木山は真っ暗な空間へと飛ばされた。
「こ、これは......」
辺りを見渡す、次第に景色が色付き始めていく。
後ろから数人の子供たちがやってきた。

センセー
木山センセー

気が付けば、教室に自分は立っていた。
忘れたくても忘れたくない光景。
これから待つ残酷な現実を知らないかのようにワイワイと教室は適度な賑わいを見せる。
「あ.......あ、あ」
白衣からスーツを身に付けた木山が教壇に立ち、かつて居た教室の風景に目を開く。
賑わっている教室の後ろにはサソリが外套を着て黒板に腕を組んで立っていた。

「......知っていたのだろう?これからこの子供がどのようになるか」
「はあはあ!」
「親に捨てられた子供がどんなことになるか知っていたのだろう?教師となり子供を懐柔し、実験に向かわせた」
「違う......」
「信じこませ、自分に懐かせて......何ヶ月も掛けて準備をした」
「違う......」
「大層な実験だな。何をされるか知らぬ子供の前に立って平気な顔をして、実験の段取りをつける......さぞ目論見通りに進んで気分が良かっただろう」

「違う違う違う違う違う違う違う違うー!」
サソリの追い詰めてくる言葉に頭を抱えて拒絶した。

わ、私は何も聞かされていなかった
あんなことになるなんて思わなかった

サソリの言葉を頭から否定した木山だったが服の裾を引っ張る感触に下を向いた。
そこにはカチューシャを付けたソバカスだらけの女の子が木山を見上げていた。
「センセー......私達を利用したの?」
「あ......ああああ」
「いっぱいお金を貰うため?」
「違う」
「良い実験をするため?」
「違う」
「答えてよ......私達、こんな姿になっちゃったよ」
いつの間にか、クラス中の生徒が集まり、一様に頭から夥しい数の出血をして真っ赤に染まった顔の中で目玉だけがギョロッと木山に向けた。

「あ、ああああああああああああー!」

鼻につくキツイ薬品の匂い。
鳴り響く事故を知らせるアラーム音。
運ばれていく子供達。
血生臭いシーツ。
動かない身体。

信じてたのに......木山センセー


最初は実験を成功させるまでの辛抱だと思った。
研究をしていた木山に組織の元締に呼び出されて任されたのが学園都市に置き去りにされた子供達の教師だった。
教師になろうとか成りたいと考えたこともない。
ただ、大学での取得単位でついでに取れただけの資格だ。

「私は研究に専念したいのですが」
「何事も経験だよ木山君ーーー」
「聞いて下さい博士」
研究棟の外では置き去りにされた年端も行かぬ子供達が球技で遊んでいた。
「表の子供達......彼らは『置き去り(チャイルドエラー)』と言ってね。何らかの事情で学園都市に捨てられた身寄りのない子供達だ」

元締から聞かされた話は、その子供達が今回の実験の被験者であり、木山が担当する生徒になる。
実験を成功させるには、被験者の詳細な成長データを取り、細心の注意をはらって調整を行う必要がある。
だったら担任として直接受け持った方が手間が省けるということだ。

上手くいけば、統括理事会肝入りの実験を任せたいと思っている。
期待しているよ。

それから簡単な書類と手続きでいとも容易く、私は教壇に立っていた。
はっきり言ってしまえば『子供は嫌い』だった。

騒がしいし
デリカシーがない
失礼だし
悪戯するし
話は論理的じゃない
なれなれしい
加えて......すぐに懐いてしまうし

研究の為とはいえ、厄介な仕事を押し付けられてしまった。
実験が成功するまでの辛抱だと思って慣れない教師生活をした。

教室に入れば水を掛けられる悪戯を受け
廊下で会えば、彼氏の詮索もしてくる
勉強を教えるだけではない、変な事を山ほど抱えてくる。

ある雨の日の帰り道。学校終わりに家路へと向かう木山が道を右に曲がった時。
カチューシャを付けた女子生徒がぬかるみに転んでしまい、泥だらけになっていた。
「どうした?」
「あ、木山センセー......アハハ、ぬかるんでて転んじゃった」
頭の掻きながら女子生徒は頬に付いた泥を落とすことなく作り笑顔を出した。
「私のマンションはすぐそこだが風呂を貸そうか?」
「いいのっ?」
その言葉を掛けただけで女子生徒は、キラキラとした眼で木山を見上げた。
社交辞令のつもりだったが
やはり、まだ子供。

「わー、お風呂だあ」
汚れた衣服を脱ぎ、お湯が溜まっていく様子を嬉しそうに眺めながら言った。
「?何か珍しいのか?」
「うちの施設、週二回のシャワーだけだもん!本当に入っていいの?」
「......ああ」
たかが、風呂だけでそれほど喜べるものだろうか?
環境が環境だからだろうか?
親がいないというだけで......
「やったー!みんなに自慢しちゃお!」
下着を脱ぎ出すと沸かしたての贅沢なお風呂へと足を踏み入れる。
「わ、熱いけど気持ちいー」
暖かいね
気持ちいいね
入り慣れているものには、普段感じないような風呂の様子を感じている。
風呂に入りながら、明日はどうしていようとか、今日は何であんな事をしてしまったのか......塞ぎがちになるが
そんなモノはなくて。
全力に今感じている『楽しい』を堪能している。

木山は、女子生徒が脱いだ肌着を洗濯機に放り込むとスイッチを入れて洗濯を開始する。
「センセー、私でもがんばったら大能力者(レベル4)とか超能力者(レベル5)になれるかなぁ?」
不意に風呂に入っている女子生徒が質問してきた。

「今の段階では何とも言えないな。生まれ持った資質にもよるが今後の努力次第といったところか。高レベル能力者に憧れがあるのか?」
子供目線で話すなんて器用な真似はできない。
「んーもちろん、それもあるけど。私達は学園都市に育ててもらっているから......この街の役に立てるようになりたいなーって」

その無垢で直向きな性格が悪用されることになろうとは考えなかった。

洗濯物が乾くまで女子生徒をソファーに座らせたがスヤスヤと眠ってしまった。
傍らに座りながらコーヒーを飲んでいる木山。

職場でも家でも、こうも子供に囲まれてしまうとは。
研究の時間がなくなってしまった
本当にいい迷惑だ

月日が流れ、秋になり生徒達で企画してくれた自分の誕生日を祝ってくれた。
クラッカーを鳴らされ、ちょっとした花束をプレゼントしてくれた

白衣を取られて、追いかけたり
雪が降れば、雪だるまを作ったり
雪合戦で雪玉をぶつけられたり
自分の目つきの悪い下手な似顔絵を見せられたり

全く......良い迷惑だ。

そんな日常も悪くないなと思っていた頃に運命の日がやってきてしまう。

AIM拡散力場制御実験
長い期間をかけて何度も繰り返し準備してきた
何も問題はない
これで先生ゴッコもおしまいだ

「怖くないか?」
実験用のカプセルに入る生徒に声をかける。
「全然!だって木山センセーの実験なんでしょ?センセーの事信じてるもん、怖くないよ」

これでおしまい......実験が終われば私は、研究者として順当に出世が出来、生徒達はそれぞれ別の道を歩みだす......はずだった。

突如として流れる警告音
異常を知らせるモニターの画面。
忙しなく動き回る研究員達。
「ドーパミン値低下中!」
「抗コリン剤投与しても効果ありません!」
「広範囲熱傷による低容量性ショックが......」
「乳酸リンゲル液輸液急げ!!」
「無理です!これ以上は......」

木山はモニター室で恐ろしく自分の想定とは離れた現実の実験にただ立ち尽くすしかなかった。

どこでミスをしたのか
どこが間違っていたのか
渡された実験内容を頭の中で諳んじて確認するが間違いを疑う箇所は見当たらない。
安全な実験のはず
事故なんて起きない

センセーの事信じてるもん
怖くないよ

その言葉の残酷をその身に受け、罪の刻印を身体に刻み込まれた気がした。

もう、取り返しがつかない
どうすることもできない
どうにもできない

進行し、広がるアラームの音と研究員達の中で木山は震えていた。

頭の整理が追いつかない

「早く病院に連絡を......!」
「あー、いいからいいから。浮足立ってないでデータをちゃんと集めなさい」

「いやですが......」
「ほほう!これはこれは......この実験については所内に緘口令を布く。実験はつつがなく終了した。君達は何も見なかった......いいね?」
「は......はい」
震えて固まる木山に向けて元締は腰に手を当てて近づく。
「木山君、よくやってくれた。彼らには気の毒だが......科学の発展に犠牲はつきものだ。今回の事故は気にしなくていい」

犠牲?
あの子達が犠牲?

「君には今後も期待しているからね。じゃ、あとはよろしくー」

実験が終わり、帰ってきた者は以前の子では無くなっていた。
生命維持装置を付けられて機械的に呼吸をし、グッタリとベッドの上で横になっている。
頭付近の枕には真っ赤な鮮血に彩られ、治療室へ運び込まれていく。

水を掛ける悪戯をした生徒
自分と付き合うと言った生徒
誕生日にクラッカーを鳴らした生徒
花束をくれた生徒
ブカブカの白衣を着て、廊下を走る生徒
雪玉を投げた生徒
似顔絵を描いてくれた生徒
そして、部屋に上がって「この街の役に立ちたい」と嬉しそうに語った生徒......

全てが壊れていく
崩れていく
動かなくなった生徒に木山は己の無力を嘆いた。

学園都市のお荷物である『置き去り(チャイルドエラー)』が科学の発展に貢献したんだ
いい事じゃないか
学園都市に育てられている恩を返して貰っただけだよ
あの子達だって望んでいた......

写輪眼で覘いていたサソリの顔に驚愕の表情が浮かんだ。
断片的だった情報が木山の脳を観ることで繋がっていった。
木山を固定していた砂鉄が崩れ、木山は息を荒くして咳をする。
「!!がふっ、げほげほっ!げうううう」
過去最大のトラウマを掘り起こされて精神のバランスが揺らいだ。

「お、お前......!!」
「フーフー!!?観られたのか......!?」
サソリに向かって千切れた電線を念力を飛ばそうとするが、強烈な頭痛にサソリに当たることなく地面に落ちる。
「がッ......」
サソリは、写輪眼から伝わる巨大な感情の波に頭を掻き乱された。
凄まじい憎悪と決意を真に受けて、自分を冷静に抑えつける。

「そ、そいつらは?」
サソリは質問をした。
「研究棟に今も意識不明で横になっている。あの子達は使い捨てのモルモットにされた」
「人体実験か」
木山は、手を挙げるとサソリに向け火炎を放つが、チャクラが戻っているサソリは難なく避ける。

サソリの脳内に木山の叫びが強くこだました。
23回
あの子達の恢復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレーションを行うために、「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム』の使用を申請して却下された回数

あんな悲劇、二度と繰り返させはしない
そのためなら私は何だってする

この街の全てを敵に回しても止まる訳にはいかないんだっ!!!

「!?」
サソリは、木山の必死な狂気の声に表情を強張らせた。

オレと同じか?
いや、オレとは比較にならん程の経験

全てに復讐をする
そう思って戦闘に明け暮れた忍としての日々。
「ぐう!頭が......割れそうだ」
サソリは、リンクした木山の感情と強烈な喪失感を肢体に受けた。

強い愛情を失った時、より強い憎しみに取って変わる。
この世界の不条理にして残酷さを知ったサソリの写輪眼は、闇の力がより濃くなっていく。
サソリの巴紋が互いに繋がり合い、丸みを帯びた巴に一本ずつ外に太い線が浮かび上がる。

本来の持ち主である『うちは一族』でも開眼するのが稀な瞳術。
万華鏡写輪眼がサソリの瞳に浮かびあがった。

「はあはあ......こ、これは?」
身体の底から湧き上がる力、先ほどのレベルアッパーを使った時とは比べ物にならない。

すると、サソリの万華鏡写輪眼は木山の中で膨れ上がり今にも飛び出して来そうなチャクラを捉える。

ま、マズイ!
これは......!?

木山は側頭部に強烈な痛みを感じ、尋常ではない悲鳴を上げ始めた。

「ぎっ!!ああああああああああああ」サソリは開眼したばかりの万華鏡写輪眼の能力を上げて木山の中で膨れ上がるチャクラを抑えようとする。
しかし
「がっ......ぐ!ネットワークの......暴走?いや、これは......AIMの」
木山の頭からエネルギー体が飛び出て、サソリを弾き飛ばした。
「くっ!遅かったか」

この感じは、尾獣か!?

サソリは傀儡を手繰りよせる臨戦態勢を取り始めた。
「さ、サソリ!どうしたの!?」
御坂がサソリに走り寄ってきた。
「はあはあ、御坂......お前も手伝え」
「えっ!?」
木山から飛び出た巨大なエネルギー体は、次第に形を整え始め、赤子のような身体を見せ始める。
「キィァアアアアアア」
奇声を上げる赤子のようなエネルギー体にサソリの額から汗が流れた。
「かなり厄介な事になったようだ」

 
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