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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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クロスエンカウント

 
前書き
色々伏線などを込めています。
なお、この回は原作キャラにキツイ展開があるので、読む際は注意してください。 

 
新暦67年9月17日、12時21分

フェンサリル砂漠地帯北東部。

砂漠地帯と銘打っても、全ての土地が砂山しかない訳ではない。あくまで土壌が砂漠なだけで、場所によっては都市そのものの様相がしっかり整っている所がある。保存状態が良ければいつでも移り住めるぐらいで、人さえいれば再び生きた街として再生できるほどであった。しかし対照的に街があったという痕跡すら自然の荒波に飲まれかけている場所もある。現在、マキナとアギトがいるのは、そういった都市だった。

そこはかつての紛争で壊滅した都市の一つであり、ビルや高架橋道路などの建物が崩壊して砂漠に埋もれかけている。もはや住もうとする者も直そうとする者もいない、滅びの街。そんな荒涼感漂う街の中を、マキナとアギトは進んでいた。

「見た通り荒れ果てても、建造物が盾になって敵の追撃を防いでくれる。だから本隊を撤退させて合流するには好都合ってことか」

「廃棄都市ってのを上手く利用した案だな。これなら難なく目的を果たせるんじゃねぇか?」

「そんなこと言ってると、イレギュラーな事態が発生するフラグが建っちゃ――――!」

にこやかな表情から急に猛禽類のような目になったマキナはレックスをPSG1形態で展開し、発砲。弾丸はビルの合間を抜け、その先を歩いていた“何か”にヒット、打ち砕いた。

「な、なんだいきなり!? 姉御、一体何を撃ったんだ!?」

「敵だ、アギト。どうやらこの世界は私達が思ってた以上にホットらしい」

そうやって銃を構えたままスライド移動で物陰に隠れ、アギトに警戒を促すマキナ。いまいち思考が追い付かずにいたアギトはひとまずマキナの視線の先を見てみると、そこには先程彼女が倒したのと同じ……岩石で体が構築された存在が歩いて姿を現した。全体的に丸いフォルムを利用し、外敵目がけて転がることで岩石の重量を利用した体当たりは、人間を簡単にひき殺せる威力が込められている。決して動きを見誤ってはならない相手……。

「“クレイゴーレム”……古の魔術が産んだ魂なき泥人形。今はイモータルの下僕であるこいつらがいるってことは……」

「フェンサリルにイモータル……ヴァランシアがいるっつぅことか? もしかしてこの世界のどこかに、これまで誰にも見つけられなかった奴らの拠点があるってのか?」

「さあ? 調べてみないとはっきりしたことは言えないけど……あ~もう! 核兵器が絡んでる時点でとっくにややこしいのに、ヴァランシアまで絡んでいるなんて、もうどんだけ思惑が入り組んでるんだっての! マジでめんどくさい!」

「まぁ、いくら何でも文句言いたくなるよなぁ。姉御のむしゃくしゃした気持ちもよくわかるぜ。でもイライラして何か解決する訳でもないし、ちょいと深呼吸したらどうだ?」

アギトの指摘を受けて、少し頭に血が上っていた事を自覚したマキナはゆっくりと深呼吸する。何度か繰り返した後、水筒の水を飲む事でやっと落ち着いた彼女は相棒に礼を伝える。

「ふぅ……らしくないことしちゃったね。ありがと、アギトのおかげで冷静になれた」

「へへっ、良いってことさ」

「ともあれ当初の目的だった核解体も、ちょっと一筋縄ではいかなくなってきた。結局やれることをやっていくしかないんだけど、本当に私達の手で何とかできるのかな……」

「姉御……」

「フフッ……弱気は自分を小さくするだけか。考え込んでもしょうがない。……アギト、本隊がここに来るまでの間にこいつらを全滅させるよ!」

「確かに倒しておくに越した事はないからな……戻ったら報酬上乗せしてもらおうか姉御!」

気合いを入れたマキナとアギトは火力を上げるべくユニゾン。先程の攻撃を受けた個体の様子を確かめに、他のクレイゴーレムがぞろぞろと向かう。そんな大群を高架橋道路の上に移動して射程に入れたマキナ達は、静寂の中で狙撃を繰り返す。仲間が倒れて敵を探しに転がって移動するクレイゴーレム同士が、誤ってぶつかって気絶している所も狙い撃ち、一体一体着実に数を減らしていった。


新暦67年9月17日、12時34分

フェンサリル砂漠地帯北部。

砂による長時間の摩耗で壁の一部が崩れたマンションの一室から、ジャンゴとなのははホフクしながら双眼鏡で管理局の前線部隊がいる場所を調べていた。

「相手は8人、装備は現代規格のストレージデバイス、バリアジャケットはまだ展開していない。それに野営に慣れていない感じがするから、魔導師としての能力は高くても疲れはかなり溜まっていそう」

「襲撃作戦って聞いたから私、管理局員と真正面から戦わなきゃならないのかとつい思っちゃったけど……冷静に考えれば見つかってない内に無力化すれば余計な戦いをしなくて済むんだよね」

「そういう意味だと遠距離から一方的に攻撃できるマキナの狙撃が最も適任な気がしてきた。……配置ミスったかなぁ」

「他人に指示するなんてジャンゴは初めてだから仕方あるまい。それより二人だけでどうやって彼らを無力化する?」

「麻酔銃ならマキナから譲り受けたけど、ここからヘッドショットはちょっと難しいや」

「じゃあ私が全力で砲撃する? これなら一網打尽に出来ると思うけど」

「それだと撃つ時ロケットランチャーぐらい目立つし、威力あり過ぎてオーバーキルになっちゃうよ。なのはがやるならシューターやバインドで目立たず的確に無力化していくべきだ」

「効率を考えれば砲撃も確かに悪くないが、本来同じ組織で働いていたはずの人間に対し、無駄に大きなダメージを与える必要はあるまい。真相を伝えれば味方になってくれるかもしれないのだからな」

「手っ取り早いと思ったんだけど、確かにその通りだね。でも、それならどうやって無力化を?」

「……一人が敵の目を引き付けている内に、もう一人が背後から攻撃するっていうのはどうかな? 応援を呼ばれたり、襲撃を知らされたりしたら面倒なことになりそうだから、背後から攻撃する方は一度に大勢へ攻撃できるなのはにやってもらいたいんだけど……」

「うん、いいよ。彼らがジャンゴさんに注目している間に、私がアクセルシューターで彼ら全員にヘッドショットしていけばいいんだね」

「そう。あと念のため、顔を見られないようにした方が良いと思う。なのはが実は生きていたと公にバレたら、そのまま“裏”にも伝わってしまう。僕達の行動を“裏”に知られる訳にはいかない以上、出来るだけなのはだと気付かれないようにしておくべきだよ」

「でも顔を隠す道具なんて私持ってないよ?」

するとジャンゴは出発前に餞別としてユーリからもらった“お気に入り”をアイテムボックスから取り出し、なのはに見せた。ゴゴゴゴゴ……と擬音が鳴りそうな空気の中、信じられないものを目の当たりにしたように目を見開いて驚く彼女に、ジャンゴは厳かな表情で告げる。

「大丈夫、これを被ればいい」

この瞬間、なのはの目から光が消えた。







「ん? あれは……」

前線部隊の局員がふと、自分達の進行先に妙な物体がポツンと置かれてあるのを発見する。それは薄い茶色で素材が紙で物を運ぶために広く用いられている、日常ではありふれた道具……。

「……ダンボール?」

そう、彼らの先にあったのはダンボール箱(ちなみに砂漠迷彩)だった。彼らはここへテロリストの本拠地を鎮圧しに来たはずなのに、いきなり日常的な物体を不自然な時に目の当たりにしたせいで、思考が一発でそれに囚われてしまった。

「なんでこんな所にダンボールが……?」

「もしやテロリストの待ち伏せ?」

「だとしたらあんな風に道の真ん中にいるのはおかしいだろ。しかもご丁寧にダンボールまで被って……」

「まさかあれで隠れられてるつもりなんじゃ……?」

「いやいや、それこそまさかだろ。ダンボールなんかで敵の目を欺けるわけがないって」

「そうだな。もし真剣にそう思ってる奴がいたら、そいつはただの間抜けだ」

「ちょっといいか? 俺の考えだとあのダンボールには爆弾が詰まってて、開けると爆発するというトラップなんじゃないか?」

「確かにそれならあり得るかもしれないな。現に俺達が不審に思ってるし、仕事柄確かめたくなるのは何の不自然もない」

「じゃああのダンボールは放っておいても問題ないな。少し時間食ったし、さっさと先に行こうぜ」

見切りをつけた彼らはダンボールから視線を外し、再び歩き出そうとする。そして最初に見つけた局員も首を傾げながら視界から外した……瞬間。

ボコンッ! ……シュタ。

「ッ!? 待ってくれ皆、ダンボールが動いた!」

「……何言ってんだ、動いてないじゃないか」

「おいおい、真面目にやれって」

「なんだ、砂漠の暑さで頭やられたか?」

「くっ、本当なのに……」

信じてもらえない悔しさを局員はぼやくも、砂漠の暑さで幻覚を見ただけじゃないかと考えた事で、段々自分でもそれが本当だったとは思えなくなっていた。任務が終わったら休暇をもらおうと決めた彼が視線を外そうとした……瞬間。

ボコンッ! ……シュタ。

「ッ!!? 待て、またダンボールが動いた!」

「はぁ……真面目にやれって言っただろう」

「冗談もほどほどにしとけよ。狼少年みたいに信じてもらえなくなるぞ」

「俺は真面目だ。ダンボールの下から一瞬足が出てた!」

「わかった、わかった……そこまで言うなら威嚇射撃を許可する」

「了解。……シュート!」

局員がアクセルシューターを数発、ダンボールの周囲に発射。いくつかかすって少し損傷したが、微動だにしないダンボールの姿を局員が一度目をこすって眺め、部隊の仲間がそら見たことかと嘲笑する。

「……攻撃完了、反応無し……。やっぱり見間違いだったのか……」

「そりゃそうだ、ダンボールに人が隠れている訳が無い」

「そんな当たり前の事もわからなくなってるなら……帰ったら検査でも受けとけ」

「まぁどうせ仕事続きで疲れてるだけだ。あんまし気にすんな」

「そう……だな。最近働いてばっかりだし、この任務が終わったら休暇取るよ」

「ああ、それが良いって」

落ち込む彼の肩を仲間達がポンポンと叩く。げに美しきは仲間との友情なり。されど現実は酷なものである。

「アクセルシューター24発、シュートッ!!」

『ぎゃー!?』

背後から隠れて来た魔導師が放った大量の魔力弾を頭に喰らい、瞬く間に彼ら全員気絶する。それを確認したことで注目の的だったダンボール箱も立ち上がり、中に入っていた太陽の戦士が本来の姿を現す。

「やったね、なのは! 作戦大成功!」

「ウン……ソ~デスネ~……」

「あれ? なんか暗いけど、嬉しくないの?」

「いや……作戦が成功して被害を最小限に抑えられたのは嬉しいよ。でもね……」

一拍溜めて、なのはは静かに、そして強く言う。

「“これ”は無いよ……!!」

自分の顔を覆うものを指差して、どことなく怒りと哀しみが混じったような声で訴える。先程からなのはが顔を隠すために被っているもの、それはユーリの“お気に入り”である……

“ワニキャップ”だった。

白いバリアジャケットを着る強力な魔導師でありながら、雰囲気からして可愛らしい少女、高町なのは……しかし彼女の顔は今、まごうことなきワニとなっていた。

「なんで……なんでワニなの……! そこは覆面とか仮面とかバラクラバとか、そんなのでいいのに……なんでよりにもよってワニキャップなの……!」

「? 僕はカッコイイと思うよ」

「いや、カッコイイとは違うでしょ……」

「確かに普通は面白いとか、笑えるとか、馬鹿じゃないかとか、そういう風に思うかもしれないね」

「それがわかってるなら……」

「でもカッコイイじゃん。正直に言って、僕も被りたいし」

「じゃあジャンゴさんが被れば良かったよね!? なんで私が被る羽目になってるの!?」

「理由はさっきも言ったように、なのはの生存が“裏”に伝わるのを防ぐためだよ。まぁ、真面目な話……なのははワニキャップを被るような人間じゃないと皆思ってるだろうから、その盲点を突く形にしたかったんだよ」

「確かに皆の認識の裏をかくのは、ステルスでは道理かもしれない。でも……何もワニキャップにしなくても良かったと思うんだけど……」

「もしかして……ワニじゃなくて馬や牛とかの方が良かった?」

「そっちじゃないよ!? 私、ミノタウロスとかになりたい訳じゃないから! アウターヘブン社はフェイスカムっていうすごい変装道具が作れるんだから、顔を隠したいなら最初からそっちを使えば良かったんじゃないかって言ってるの!」

「あ~……うん、僕も最初はそう思ったよ。でも……」

「でも……なに?」

哀愁漂う雰囲気を漂わせ、ジャンゴはフッとニヒルに笑って伝える。

「お金が……無いんだよね」

「それカッコつけて言う台詞じゃないよ!」

「わかってる、なのはの言いたい事はよ~くわかる。だけどさ……僕の所持金は諸事情(ソル・デ・バイスの弁償代)でほとんど空だし、なのはも管理局で稼いだお金は口座が凍結されてるから使えない。これまではマキナが全部費用を負担してくれてたから、食事や服などに困らなかったんだよ。でも今朝言ってたように、彼女の財布にも限界はある。なのに超高性能アイテムの高額な製作依頼費まで負担させたら、いくら彼女でも使い過ぎだって怒るに決まってるでしょ」

「そ、それはそうなんだけど……友達なんだから特別価格で作ってくれたりは……」

「正式な社員じゃないのに割引してくれてるだけで、会社側も十分譲歩してくれてると思うよ。それにさ、マザーベースにいた頃に偶然『せっかく溜めたオクトカムの製作依頼費が、見事にすっからかんになっちゃったなぁ……』って、あのマキナが半泣きでぼやいてたのを見たんだ……」

「うぐっ! そ、そんなこと聞いたら何も言えなくなっちゃうって……。…………しょうがない、お金が溜まるまで“これ”で我慢するよ……」

一度外して手に持つワニキャップを、何とも言えない微妙な気持ちで見つめるなのは。そして借りたお金は早く返そうと思った。

「(個人的にはフェイスカムを早く手に入れたいけど、恩返しの方が大事だよね)」

自分の羞恥心よりも友への感謝を選ぶ辺り、仲間を大切にするなのはの精神をよく表していた。ジャンゴとおてんこはそんな彼女の心にある太陽を見て、“裏”のせいでこの光を潰えさせたくないと感じた。

「あ、そういえばこの人達はどうするの? デバイスは回収したけど、放置はマズいよね」

「近衛部隊の何人かが近くで待機してるから、ウルズ作戦司令部にいるジョナサンに無線でこの人達を回収するように伝えれば良いんだって」

「じゃあこの人達は後で牢屋入りかぁ……ちょっと可哀想な気がしてきた」

「その辺のことは僕達が上手くやれば良いんだよ。説得して味方にするとか、早く核を解体するとかね」

「うん……」

複雑な表情のままなのはが頷き、ジャンゴは無線機でジョナサンに連絡を取る。前線部隊を無力化したため回収を要請すると、喜びの声が無線を通じて響いてきた。

『では君達は帰還してくれ。もう一方の作戦を行っている方も、本隊との合流まで後少しだ。終わるまで時間はそうかからないだろう』

「わかった。じゃあこの人達は任せたよ」

「あんまり手荒な真似はしないであげてね」

『了解した、部下にも徹底させておこう。あと敵から奪ったデバイスは、すまないがそちらで預かっておいてくれ。防衛の点から見て、そっちが持っていた方が取り返される可能性が低いと判断したのでな』

「了解。にしても管理局員のデバイスを奪う、か……。敵対してるから仕方ないんだけど、なんか悪いことをしてる気になるなぁ……」

「まぁ、魔導師を無力化したいなら確かにデバイスの隔離は必須なんだけどね。私だってこの義手をもらうまで完全に無力化されてたもの」

『デバイスが無くても技量があれば少し魔法は使えるらしいが、それでも持っている時と比べれば著しく弱体化する。そんな状態ならハンドガンだけでも制圧が可能だ。そっちでデバイスを持っていてほしいのは、それが主な理由だ』

デバイス無しだと凄く弱くなる魔導師の致命的ともいえる弱点を、幸か不幸か義手で克服できていたなのははつい苦笑してしまう。将来的には全ての魔導師が自分のようにデバイスを身体と一体化させるのではないかと考えたが、そんな魔導師の姿は明らかに魔法使いの一般的なイメージとはかけ離れていた。……今の時点でもキラキラした夢のあるイメージとは十分かけ離れているが。

『……たった今、報告が入った。本隊がもう一方の作戦領域に到着、合流に成功したとの事だ』

「マキナ達の状況は?」

『どうやらイモータル配下のモンスターと交戦したらしいが、本隊が到着する前に全て片付けたらしい』

「モンスター……!?」

『心配せずとも彼女は切り傷すら負っていない。敵に一切近づかれずに全滅させたようだからな』

「流石マキナちゃん、狙撃手の面目躍如だね」

『あのビーティーを友人と言える人間だ、モンスター相手に倒されるようなことはあり得ないだろう』

ジョナサンが発言した『友人と言える』という言葉に、奇妙な違和感を感じたなのはとジャンゴ。それはまるで普通の人間では友人にすらなれないと言わんばかりで、同時にジョナサンの口調はどこか彼女を畏怖している印象を抱くものだった。

「質問ですけど、ビーティーさんの事を皆さんはどう思って―――」

『待て! この魔力反応は……まさか!!』

突然余裕が無くなったジョナサンの様子に、否が応でもジャンゴ達に緊張感が走る。そしてもう片方の作戦領域では、あまり望ましくない再会が生じていた。


新暦67年9月17日、13時13分

砂漠北東部、大勢のトラックや戦車で構成されている本隊が撤退していくのをマキナとアギトは高架橋道路の上から見届けていた。そんな時、ジョナサンらウルズ作戦司令部から連絡が届く。

『警告! 北から国籍不明魔導師が5人接近中!』

『こっちでもターゲットを視認、管理局の空戦魔導師が5人!』

『なんてこった!』

空戦魔導師……管理局内でも屈指の実力を持つ彼らは、たった一人でも戦闘機と爆撃機の両方の性質を併せ持った大きな脅威である。それが5人ともなれば、ここにいる本隊を壊滅させることなどいとも簡単に出来てしまう。ウルズ兵達の顔に絶望の色が浮かぶ中、司令部は冷静に指示を下す。

『全部隊、会敵せずに帰還せよ。全速力で南へ向かえ!』

『りょ、了解!』

先程より撤退速度が速くなった彼らを横目に、マキナはやって来た空戦魔導師部隊の姿を双眼鏡で見る。そしてすぐに見つけてしまった……彼女の存在に。

「フェイト・テスタロッサ……!? なんでこんなタイミング!?」

「何っ、もうなのはの友人が来てるってのか!?」

「想定では少なくとも一か月以上後だと思ってたのに、こんな初っ端から遭遇って……なんかここ最近ものすごく運が悪い気がする。ちょっとお祓い行った方が良いかなぁ……」

「おいおい、頼むぜ姉御。一応大丈夫だとは思うけど、不幸な事故でポックリ逝ったりしたら、アタシ本気で泣くからな?」

「……」

「な、なんだよ……何か変な事でも言ったか?」

「いや……アギトは私のために泣いてくれるんだ。なんか嬉しいね」

「茶化すなっての……つぅかどうするんだ? あいつらと戦うのか?」

「この状況だ、致し方ない。それに私達PMCは雇われればどの勢力にもつく……向こうもそれぐらいは知っているはずだ。ま……アウターヘブン社が関わっている事を管理局に知られるのは出来る限り避けたいから、姿を見られない様に狙撃に徹するけどね」

「そうだな。もし“裏”に知られたら変な口実でマザーベースを襲撃してくる可能性も無きにしも非ずだ。危険を招く可能性は無い方が良いもんな」

「同感。それじゃあ狙撃ポイントはこの辺りからで……」

シュタッ。

「おわっと!? な、なんだあんたか……驚かせるなよ……」

「頼むからいきなり後ろに立たないでもらいたいな、いつか間違って撃ってしまいそうだし。……でも来てくれたのは重畳。援護するからあいつらの足止めをお願いするよ、ビーティー。追い返すだけでいいから、あんましやり過ぎないでね……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方……第118空士部隊。

「敵を発見した。攻撃を開始します!」

「気を付けるんだ、皆。撤退中とはいえ、敵の反撃が無いとは限らない」

「わかってますよ、アーネスト隊長!」

「さて……エターナルブレイズの称号を授かった実力を見せてもらおうじゃないか、特務捜査官?」

「カイ副長の期待に応えられるかわからないけど、やれるだけやってみせます」

発破をかけられたフェイトはバルディッシュを構え、新たな部隊の仲間と共に突撃する。相手を治安を乱すテロリストだと思い込んだまま、魔法の力を解き放とうとしたが……。

「魔力充填、クラッシュバス―――おふっ」

「な、まさか狙撃!? どこから撃ってき―――ふぅ」

先制攻撃で砲撃を放とうとした118部隊の二人が、どこからともなく放たれた麻酔銃の先制ヘッドショットを受けて逆に撃墜、砂漠へ落下していく。フェイト、アーネスト、カイはそれぞれ狙撃に対し反射的な回避、迎撃、防御で難を凌ぐ。だが相手の狙いは恐ろしいほど的確で、一瞬たりとも気を抜いたらその瞬間先に落ちた二人の様に撃墜するのは明白だった。

「この針の穴を通すまでの命中精度、私達の思考をどこまでも読み通す観察眼……まさか向こうには……!」

「クッ、追い込んだつもりが逆に誘い込まれていたか!?」

「隊長! 南から新手が接近中だ!」

「数は!?」

「一人! だけどこいつは……まさか報告書にあった……!!」

戦慄するカイの様子を見て、アーネストも迫りくる存在が誰なのか察し、背筋に冷たい汗が流れ出す。バルディッシュの刃で麻酔弾をどうにか防ぎつつ、フェイトはその存在を目視しようとし、絶句した。

「へっ!?」

正面から――――半ばへし折れたビルが迫っていた。

「う、うそぉおおおお!!!?」

思わず叫んだフェイトは慌ててミッド式ゼロシフトを連続使用、何者かにぶん投げられたビルをギリギリ回避する。また、アーネストとカイもフェイトの絶叫を聞いたことで飛んでくるビルの存在に気付き、血の気が引きながらも全速力で逃げ延びていた。

ちなみにどこかの狙撃手が「やり過ぎないでって言ったよね!?」とツッコミを入れているのだが、遠すぎるのでフェイト達には聞こえる訳が無かった。

――――ガシッ!

「むぐっ!?」

ビルと衝突する状況を脱した途端、いきなり喉を掴まれてたまらず息が詰まるフェイト。直後、ソニックブームを発生させる豪速で彼女は砂漠の大地に叩き付けられ、直径10メートルのクレーターを発生させて身体の半分が埋まる程のダメージを受けてしまった。

「っ~~~!!!!??」

砂は衝撃を多少和らげはするが、全ての衝撃を消す訳ではない。あまりの鈍痛でフェイトはたまらず涙がこぼれるが、彼女の前にはその痛みを与えた原因が未だに君臨している。ダメージを我慢しながらぼやける視界を正常に戻し、フェイトはその対象を視認した。

「な……!? さ、サイボーグ……!?」

左手に足先から肩まで覆う巨大な水色の実体盾を持ち、全身は白い強化外骨格、ショートの金髪で顔はバイザーで覆われて隠され、先端が波状のマントで首を覆う女性サイボーグ。機械仕掛けの身体でありながら、彼女の威風堂々とした姿には圧倒的な威圧感が漂っていた。

全身が質量兵器というのは管理局法に正面から喧嘩を売っていることになるが、しかしサイボーグの能力は魔導師を軽く凌駕する。いくら優れた魔導師と言えど、生身で耐えられる力には限界がある。力だけではない……速度、耐久度、思考力など……。魔導師がいくら魔力で補おうと人間の身体である以上、“兵器”としてはやはり未完なのである。

「弱い!」

「え……?」

「弱過ぎるぞお前! 次で殺しちまうかもな!」

「次って……!?」

「クッハッハッハッ……おめでたいヤツだなぁ、ええ? わかるだろう……今俺がこの小鳥みたいな声が出る喉を掴む手に、こんな風にちょ~っと力を入れてやれば……お前の魂は一瞬で肉体から消え去るんだぜ?」

それを証明するように、フェイトの首を掴んでいるサイボーグの手が一瞬だけ強まった。サイボーグの超人的な力で首絞めなぞされたら、窒息どころか文字通り握りつぶされる。それが本能的にわかったフェイトはサァーッと全身から血の気が引いてしまった。

「ッ……!?」

「つまらんなぁ……完全体(・・・)でこのザマとは、期待外れだ。“ヒト”の海原で漂い過ぎて、自分の本質すらそこにあると錯覚したか? ンッンー?」

「本質? い、いったいなんのこと……!?」

「クククク……SOPの影響があっても、それすら忘れるはずがないだろう? なにせそれは、お前自身の運命でもあるんだからな」

「運……命……」

目の前の女性サイボーグが放つ一つ一つの言葉……フェイトはなぜかその言葉が頭から離れなかった。初対面で敵である事以外に何の関係も無いはずの彼女。だが……本当はそうじゃない感じがしていた。

「(その理由が何なのか私にはわからないけど、それでも手加減されたからこの程度で済んだ。だけど……)」

先程の一撃で衰弱し、生殺与奪を握られている以上、フェイトは確信してしまう。

「(今のままじゃ彼女には……“勝てない”……!)」

バイザーの向こうに隠れた素顔はどんな表情を浮かべているのか……、なぜ手加減したのか……、自分とどんな関係があるのか。そして今も麻酔弾を撃ち続けている狙撃手の正体など、色々気になる事はあるが……とにかくフェイトはこの世界で戦っている相手が明らかにテロリストが持てる力の範疇を越えていると思った。

「アクセルシューター、発射!」

狙撃を回避しながら放ったアーネストの魔力弾を、サイボーグの彼女は振り向きすらせず盾で難なく防ぐ。

「雑魚のくせに俺達の邂逅に水を差しやがって……管理局はその場の空気を読むって訓練を導入した方が良いな。お前もそう思うだろ?」

「なんでここで私に振るの……」

「馬鹿じゃないなら、それぐらい察しろよ。いつか“裸の王様”になっちまうぜ? …………ま、わからないならどうでもいいか。つぅか一番言いたいのは……アレだ、お前は家族の下へ帰れ」

「え? 帰れって、どうしてそんな事を……」

「二度は言わないぞ、いいな?」

彼女はフェイトに忠告した後、人間業ではない超人的な速度でアーネストへ向けて跳躍、サイボーグと魔導師の戦いが再開される。一応解放されたものの、ダメージで満身創痍のフェイトはとりあえず今の状態でもできることとして、麻酔で眠っている部隊の仲間の回収へ向かった。

「黄狼拳ッ!! オラオラオラオラ、逝けぇ!!!」

サイボーグの拳から黄色い稲妻を滾らせた連打を受け、アーネストとカイが必死に展開した防御魔法をプチプチと簡単に砕いていく。その光景はまさに蹂躙と言っても過言ではなく、歴戦の魔導師がまるで玩具の如く弄ばれているようでもあった。

「畜生! カートリッジを使ってるのに、何重ものプロテクションを紙みたくあっさり砕いてくるとは……なんてパワーだ!」

「狙撃手との連携も厄介だ。カイ、少しだけで良いから時間を稼いでくれ。フェイト、二人を回収したらとにかく全速力で撤退するぞ!!」

「チッ、仕方ないな。了解!」

「りょ……了解……!」

サイボーグの猛攻撃をアーネストとカイが防御魔法や捕縛魔法をがむしゃらに放つ事で引き受けている間に、フェイトが同じ部隊の仲間二人を抱えて北へ飛翔する。それを見届けたアーネストとカイも撤退し、サイボーグは追撃せずにその場で高笑いしていた。

「脆い! 脆いよなぁ!! ふゥアハッハッはははッハッ!!!」

この日、管理局空戦魔導師部隊の撤退、及び前線部隊の壊滅がミーミル首都ノアトゥンで報じられた。それは一時的とはいえ、管理局が敗北したことを意味していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月17日、17時25分

ウルズ首都ブレイダブリクのホーム。

任務を終えて報酬を得たマキナ達は、とりあえず帰ってから今回の報告をし合った。クレイゴーレムの待ち伏せ、そこから察せられるヴァランシアの暗躍。回収した局員の今後の扱い。フェイト・テスタロッサとの遭遇、及び戦闘。そして……、

「改めて紹介するよ、彼女がビーティー。見ての通りサイボーグだ」

マキナの紹介になのは、ジャンゴ、おてんこは唖然として言葉が出なかった。サイボーグが現実にいたとか、フェイトを含む魔導師部隊に圧勝とか、言いたい事や聞きたい事があり過ぎてどれから尋ねたらいいのか混乱していた。そんな彼らの様子を面白く思って、ビーティーはニヤリと笑う。

「ククク……こんな身体なのも色々事情があるのさ。……こうしないと生きられなかった、とかな」

「それでさ……驚くなってのも無理だろうけど、実はこいつもここに住む事になったんだ。普通の人間しかいない本隊じゃ堅苦しいって言ってさ……」

「つぅわけだ、世話んなるぜ?」

アギトの衝撃発言に気楽そうに乗るビーティー。あまりに考える事が溜まり過ぎ、挙句に彼らは……はじけた。

「「「えぇぇええええええええええ!!!!!??????」」」

この瞬間、サイボーグ・ビーティーが正式に仲間に加わった。

 
 

 
後書き
ビル投げ:MGR アームストロングがエクセルサスの破片をぶん投げてくるのが元ネタ。
掴んで砂漠に叩き付け:ゼノギアス ワイバーンとイドのイベント戦の一部が元ネタ。
ビーティー:MGSシリーズにおけるサイボーグ忍者的な存在。見た目は雷電に近い女性サイボーグ。戦法はアームストロング+α。性格はゼノサーガ、アルべドをイメージ。名前の元ネタから最も離れたキャラだと思います。ところでA,B,Cと12,13,14の並びを利用した目の錯覚があるのですが、ご存知でしょうか?
黄狼拳:ゼノサーガ アルべド・ピアソラの赤狼拳が元ネタ。彼が恐らく(ルべド)を意識しているように、彼女は黄色(フェイト)を意識しています。


今回、メタルギアのサイボーグは魔導師相手にどれだけ強いか、を示す回になっているような気がします。戦闘も両立できるように頑張ってはいるのですが、どうもサイボーグに生身の人間が太刀打ちできるイメージが湧きにくいです。改めてMGRにおいて生身で大勢のサイボーグを倒したり、雷電とかち合えるサムの強さがどれだけ別格なのがわかりました。
 
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