『八神はやて』は舞い降りた
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第5章 汝平和を欲さば戦に備えよ
第42話 駆り立てるのは野心と野望、横たわるのは猫と豚
前書き
注意、原作キャラが死亡します。
「はやてがアジトにいるなんて珍しいわね」
禍の団のアジトにて、黒歌から声をかけられる。着物を着崩した黒い長髪の妖艶な美女である。その正体は猫妖怪であり、塔城子猫の姉でもあった。彼女は、英雄派ではなくヴァ―リ・チームの所属だが、同性ということもあり気が合った。
「目的は君だよ」
「あれ? ひょっとして私口説かれているにゃん? だめよ、だめだめ。曹操が泣いちゃうにゃん」
「……君が行こうとしている場所についていこうと思ってね」
塔城子猫のところに行くんだろ? そういうと驚いた顔をされた。
「よくわかったにゃん。ちょうど、冥界にきている白音に会いに行こうと思っていたの」
白音とは、塔城子猫の昔の名前。黒歌と白音。いい名前だと思う。悪魔どものせいで、彼女たちは離れ離れになってしまった。やはり、悪魔はろくなことをしない。強くそう思う。
「だからといって、魔王主催のパーティーに単独で乗り込もうだなんて、度胸があるな。ボクもつれていけ」
「うーん、いいけれど、そんな装備で大丈夫にゃん?」
黒歌は不思議そうに見渡した。ここには、ボク以外誰もいない。ヴォルケンズと離れているのは珍しかった。
身バレを防ぐための高度な変身魔法はボクしか使えない。とはいえ、他の家族は支援に回すから問題ないと告げる。
「大丈夫だ、問題ない」
◇
「ここがパーティー会場にゃん。白音を呼ぶからちょっと待つにゃん」
「じゃあ、見つからないように控えているとしよう」
「頼むにゃん。はや――――じゃなかった、アインハルトちゃん」
語尾ににゃんをつけるのは、種族特性なのかと思ったが、本人曰く単なるキャラ付けらしい。そりゃそうか。塔城子猫は、普通に会話しているのだから。あざといな。ボクも真似てみようか。今度、ミルたんと相談してみよう。
ボクのほうは、身バレを防ぐために、変身している。名付けて『アインハルト・ストラトス』。リリカルなのはVividに出てくるヒロイン? な娘。白銀の長髪に、オッドアイ。高校生くらいで、スタイルもいい。まさに理想的な身体だ。
なぜか、リインフォースは微妙な顔をしていたけれど。銀髪オッドアイとか最強にかっこいいじゃんか。特技の|覇王流≪カイザーアーツ≫って響きもかっこいい。しかも、前世の因縁も引きずっている。くっ、リインフォースに封印された右手が疼くぜぇ。
いかにアインハルト・ストラトス――の設定――がかっこいいのか説いているが、聞き流された。なぜだ。
「きたにゃん」
黒歌が放った猫の使い魔が、塔城子猫にみつかったらしい。姉の存在に気付いた彼女は、単身でこちらに向かってきているようだ。
「貴女は……黒歌姉さま……なの?」
「久しぶりね、白音、お姉ちゃんだよ」
こちらの姿をみて絶句している少女。その小柄な身体は、姉に惨敗していた。姉妹でなぜここまで差がついたのか。慢心。油断。どこがとは言わないが。巨乳死すべし。
一人で来た――と、本人はそのつもりなのだろうが。
「無粋な連中がきたようね。そこの連中、気づかないと思ったのかにゃん? 私は仙術が使えるから、気に敏いにゃん」
繁みに向かって声をかけると、そこからぞろぞろと人影が出てきた。兵藤一誠、リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場悠斗、ゼノヴィアだ。
「|禍の団≪カオス・ブリゲード≫の黒歌、だったわね? なぜ、魔王主催のパーティーに来ているのかしら。まさか、テロでも起こすつもり?」
「違うにゃん。本当は冥界で待機だったのだけれど、ちょっとした野暮用で来たにゃん。もう用事は終わったから帰るわ――白音と一緒にね」
あの時一緒に連れていけなかったからね、と黒歌はつぶやいた。あの時、とは恐らく、塔城子猫を助けるため下種な元主の悪魔を殺し、逃げたときだろう。真実を告げるべきか迷うが、これは黒歌の問題。部外者のボクが口をはさむべきではない、か。
悪魔の被害者としては、彼女に幸せになってほしい。
黒歌が、目を細めて塔城子猫を見つめると、彼女はおびえたように、びくりと震えた。それに気づいたのか、木場悠斗が、庇うように一歩踏みしてきた。
「彼女は、僕たちグレモリー眷属の仲間だ。奪われるわけにはいかない」
「この子は、私たちの家族よ。はぐれ悪魔の貴女なんかに指一本触れさせないわ」
「……」
リアス・グレモリーも続いて、塔城子猫を渡さないと宣言した。原作通りの展開だな、と思いながら静観していると、黒歌が、うつむいて黙り込んでいた。どうしたのか。
「…………奪う? ……家族だって? 笑わせんなッ! 私をはぐれ悪魔にしたのも! 家族を! 白音を奪ったのも! 全部、全部お前たち悪魔じゃないかッ!」
お前たちさえいなければ、私たち姉妹は離れ離れにならずに済んだ。突如涙ながらに訴えかける黒歌をみて、周囲は愕然していた。ボクもその中の一人だ。こんなむき出しの感情を発露した彼女は初めて見た。
黒歌は、普段はもっと飄々とした女性だ。けれども、ボクたちは知っている。妹を守るため、賞金首に、はぐれ悪魔になって、必死に生に食らいついてきた。もう一度、妹を守るため。会って、幸せに暮らすため。
さきほどアジトで昔語りをしていたのを引きずってしまったのかもしれない。昔を思い出した直後だと、ボクもよく感情的になるのだから。と、いうことはボクのせいか。
「……姉さん、私は――」
「リアス嬢とその眷属がパーティーを抜けだしたからと、追いかけてみれば、SS級賞金首が居るとはな」
塔城子猫が何某か言おうとしたところで、巨大な影が現れた。元竜王、最上級悪魔の『魔聖竜』タンニーンだ。やっかいな相手だ。黒歌では分が悪いかな。
「SS級相手では、リアス嬢たちでは、荷が重かろう。パーティーには無粋な客だ。さっさと始末するに限る」
「ま、待って!」
な! いきなりブレスだと!? グレモリー眷属の静止も聞かず、黒歌にブレスを吐こうとする。黒歌の仙術では防げない。ならば――
「――覇王断空拳!」
隠れていた暗がりから飛び出して、タンニーンの顎に掌底をくらわした。ブレスの射線をそらすことに成功する。
「助かったにゃん、は―――アインハルト」
「無事で何よりです」
「貴女は、ハイディ・E・S・インクヴァルト!?」
「駒王協定ぶりですね。改めて、本名を名乗りましょう。ベルカ正統|覇王流≪カイザー・アーツ≫継承者、アインハルト・ストラトスです」
黒歌が無事でよかった。タンニーンが、いきなり攻撃してくるとは予想外だった。さきに手を出してきたのはあちらだ。なら、容赦はしない。
「黒歌、グレモリー眷属は任せました。私は、タンニーンをやります」
「わかったにゃん。グレモリーたちを殺してでも奪い取るわ」
役割分担を決め、それぞれの敵と相対する。
◆
タンニーンは、目の前の少女に圧倒されていた。リアスたちを追いかけていたのは、禍の団と思わしきはぐれ悪魔。それもSS級賞金首であり、リアス嬢では分が悪いと踏んだ。本当なら、彼女たちに経験を積ませるため、見守るつもりだったが、やめた。
ドラゴンの鋭敏な感覚が、何者かの強者の気配を感じたのだ。だから、速攻でブレスで決めようとした。それを邪魔しようと出てきたのが、目の前の少女だった。
「ぐ、おのれ、小娘……」
「もう、終わりですか? 元竜王ときいて楽しみにしていたのですが、残念です」
既に決着は明らかだった。満身創痍のタンニーンと、余裕の表情を崩さないアインハルト。終わりです、と言って身動きの取れないタンニーンの前で、拳を構える。
一体、何事かと、ただ見ることしかできないタンニーンの前で、アインハルトの拳に信じられないほどの魔力が収束する。そして――拳を突き出すと魔力衝撃が放たれるのを見た。全身が焼け付くように消滅していく。それが、タンニーンの感じた最期だった。
◆
黒歌は苦戦していた。正直、リアスたちを過小評価していた。所詮中級悪魔レベルだとおもっていたのだ。それが――
(――まさか、ここまで苦戦するとはね。でも、白音を連れて帰るにも負けられない!)
特に、注意するべきは、赤龍帝たる兵藤一誠と白音だった。ポケットに手を突っ込むという、舐めた格好をしていたから、見誤った。目に留まらぬ速さで、ポケットから手を出すと衝撃波を飛ばしてくるのだ。しかも、速さ、範囲、威力ともに高い。いまは毒霧でなんとか対抗できているにすぎない。実力では敵わない、そんな事実に驚愕していた。
白音も負けていない。黒歌は白音を傷つけることができない。どうしても、手心を許してしまう。そんな白音にインファイトをしかけられると、戦いづらかった。それに、彼女が放つ『ディバインバスター(物理)』や『スターライトブレイカー(物理)』といった技は、無意識に仙術を使っている。妹の成長に喜ぶ一方、攻めあぐねていた。
そのとき、ドンというひときわ大きな衝撃音がした。黒歌の優れた知覚は、それが何かを悟った。
「アインハルトのほうは、決着がついたようにゃん――というか、やりすぎよ」
なんですって!? とリアスが絶叫する。タンニーンは、元竜王、最上級悪魔だ。冥界でも上から数えるのが早い圧倒的強者である。それが敗れる――にわかには信じがたかった。
が、音の方をみて絶句する。タンニーンたちが戦っていたあたりから、パーティー会場に向かって、一直線に破壊の跡があったのだ。
黒歌相手に善戦していた彼女たちだが、ここにアインハルトが加われば、とてもではないが敵わない。どうすればよいのか、焦るリアスをみて、にやりと黒歌は嗤った。が、そこまでだった。
「そこまでです。悪魔側は、大パニックです。勝手に戦争でも起こすつもりですか?」
背広を着た若い男性。手に持つのは聖なる力を発する聖剣──聖王剣コールブランド。禍の団アーサーだった。黒歌に向かって、帰還命令を告げる。しかし、黒歌は渋りに渋った。
「どうせ、いつか戦争を起こすんでしょ? なら、今だっていいじゃない」
「旧魔王派のことですね。彼らは勝手に動いているだけです。禍の団の総意ではありません」
「アーサーのいう通りです。それに、派手に動きすぎました。パーティー会場から魔王クラスが多数こちらに向かってきています」
こちらに合流してきたアインハルトが、黒歌に帰還を促した。黒歌も強大な気配がこちらに向かってきていることがわかる。もはや潮目は変わったといってよかった。
「グレモリーの悪魔ども、今日はこれくらいにしておいてあげる。――白音、またね」
リアスたちをにらみつけたあと、子猫に向けて微笑み、撤退していった。……黒歌姉さん、と震える声で子猫は呟いた。
◆
この日、悪魔側は、元竜王タンニーンを失うという大打撃を受ける。さらに、サーゼクス・ルシファー主催のパーティーには親魔王派の悪魔たちが集っていた。そこに、アインハルトが放った魔力衝撃波が撃ち込まれ、死傷者が多数出た。
親魔王派を多数失った現政権は大打撃を受け、旧魔王派の蠢動を許すことになる。駒王協定のもと平和になるかにみえた三大勢力の未来に暗雲が立ち込めていた。
後書き
・タンニーン
犠牲になったのだ……
・黒歌
卑劣な術だ……
・塔城子猫
やはり天才か……
・兵藤一誠
大した奴だ……
・アインハルト・ストラトス
ハヤテェ
・駆り立てるのは野心と野望、横たわるのは犬と豚
オウガバトルは隠れていない名作だと思います。
・封印された右手
はやて「くっ。静まれボクの右手。おのれ、機関のエージェントめ。このままでは、右腕に封印されし(中略)が解けてしまう……! 同士鳳凰院きょうまはまだか!? 助けてくれ、リインフォースゥゥゥゥッ!(チラ)」
リインフォース「じゃあ一生封印していてください」
・旧魔王派
現在の悪魔領は、サーゼクス、セラフォルーを含む4体の悪魔によって統治されています。が、この4柱が君臨するにあたり、内戦が起きました。その敗者が旧魔王派。禍の団の最大勢力。駒王協定を襲撃したカテレア・レヴィアタンもその一人。
・次回予告()
やめて!八神はやての特殊能力で(中略)アスタロトの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでアスタロト!あんたが今ここで倒れたら、闇落ちした聖女たちとの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、八神はやてに勝てるんだから!
次回「ディオドラ・アスタロト死す」。デュエルスタンバイ!
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