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銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)

作者:azuraiiru
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第三十五話 信義

 ルックナー、リンテレン、ルーディッゲ提督が帰ってきた。三人に話を聞くと敵は一万隻ほどを用意してきたとか。ラインハルトはかなり危ない状況だったらしい。やはり兵力が多い事が影響しているようだ、それともヤン・ウェンリーの影響力が原作より大きく成っているのか。どちらにしてもいい状況じゃないのは確かだ。

俺が三人に礼を言うと、三人とも笑いながら礼には及ばないと言ってきた。”あのミューゼルに貸しを作れたのは悪くない”、”卿に助けられたと知ったときのあの悔しそうな顔は一見の価値があった” なのだそうだ。ラインハルトも人望が無いよな。まあ生意気が服着て歩いてるようなものだし、しょうがないか。もう少し、覇気とか野心とか抑えられればいいんだけど。

 俺に対する礼というのも酷いものだった。いつか必ずこの借りは返すなどと喧嘩を売っているのか礼を言っているのか判らない代物だったが俺はあえて気にしない事にした。そんな事より厄介な問題が発生したのだ。ワルター・フォン・シェーンコップが例の馬鹿げた挑発行為を始めた。この問題は放置できない。放置すればリューネブルクの生死に関わる問題になる。せっかく彼とは親しくなれたのだ。この縁は無駄にしたくない。

■ ヘルマン・フォン・リューネブルク

厄介な事になった。シェーンコップが俺を挑発している。強襲揚陸艦で敵艦に接触、乗り込んで占拠すると通信装置で俺を名指しで呼び出すのだ。ヴァレンシュタインは気にするなとは言っているが、周りの俺を見る眼は決して好意的なものではない。今俺はミュッケンベルガー元帥に呼ばれ会議室に向かっている。多分この件だろう。嫌な予感がするが行かざるを得ない。ヴァレンシュタインが自分も用事があると言ってどういうわけか付き添ってくれている。

驚いた事に会議室の中にはミュッケンベルガーだけでなく、オフレッサー上級大将もいた。益々嫌な予感がする。
「ヘルマン・フォン・リューネブルク、参上しました」
「うむ。…ヴァレンシュタイン准将、卿を呼んだ覚えは無いが?」
ミュッケンベルガーが少し眉をひそめながら言う。この男が苦手か?

「リューネブルク少将のことでご相談したい事がありまして御一緒させていただきました」
ヴァレンシュタインは平然と述べ、さらにミュッケンベルガーの顔をしかめさせた。
「…そうか。リューネブルク少将、卿も反乱軍が聞くに堪えぬ悪罵を放って卿を呼び出している事は知っているな」
「はっ」

「聞けば彼らはローゼンリッターと呼ばれる裏切りものどもらしい」
「卿の昔の仲間だな、リューネブルク少将」
嫌な事を言うな、オフレッサー。こいつら二人一体何を話していた?

「わしはな、リューネブルク少将、卿ならずとも、たかだか一少将の身上などかかわってはおられんのだ」
「では小官にどうせよと仰いますか」
「知れた事ではないかな。卿自身の不名誉だ。卿自身の力を以て晴らすべきであろう」
「なるほど……」

切り捨てられたか…。結局俺は同盟でも帝国でも居場所が無い。これまでか…。
「お待ちください。小官はそれには反対です」
ヴァレンシュタイン……
「小僧、元帥閣下に対し無礼であろう」

「リューネブルク少将は亡命者です。其処をお考えいただきたいと思います」
「…何が言いたい」
ミュッケンベルガーは不機嫌そうでは有るが、ヴァレンシュタインの意見を聞こうとしている。無視されたオフレッサーは不機嫌そうだ。ミュッケンベルガー、ヴァレンシュタイン、この二人どういう関係だ?

「リューネブルク少将はヴァンフリート4=2で敵基地攻略をした功労者です。その少将を切り捨てるが如き行動を取れば、他の亡命者たちはどう思うでしょう?」
「……」
「功労ある少将でさえ切り捨てられた、ならば自分たちはもっと容易く切り捨てられるだろう。そう考えるでしょう」
確かにそうだろうな。

「彼らは切り捨てられるくらいならと帝国を捨て反乱軍に戻る事を選択するでしょう。そして彼らが何を言うか? 帝国は亡命者を大切にしない、功を上げても切り捨てられる、信じられる国ではない。そんな事を言うに違いありません。二度と帝国に亡命者が来ることはなくなるでしょう」
「……」

「部下を切り捨てる、見殺しにする、そんな士官、上官に誰がついていきます? クライスト、ヴァルテンベルク両大将がなぜイゼルローン要塞の防衛よりはずされたのか、今一度お考えください。」
「……」
誰も口を挟まない。ヴァレンシュタインの言う事はもっともだ。会議室の中に彼の言葉だけが響く。

「これは、兵の統帥の根幹に関わる問題であり、帝国の信義に関わる問題です」
「……では、どうするのだ」
「放っておけばよろしいと思います」
「馬鹿な、それでは帝国の名誉が…」
「勝てばよいのです」
オフレッサーの怒声をヴァレンシュタインがさえぎる。

「もうすぐ反乱軍がイゼルローン要塞の前面に押し寄せます。そこで勝てばよいのです。そうすればローゼンリッターのつまらぬ小細工など、負け犬の遠吠えに過ぎません」
「……卿がリューネブルク少将を其処までかばうわけはなんだ?」
「小官の副官も亡命者です。部下が不当に扱われようとしている、あるいはその危険が有るのであれば、上官としてそれを守るのは当然の義務だと考えています」


 結局、ヴァレンシュタインの意見が通った。俺は首の皮一枚で助かったらしい。またこの男に借りが出来たようだ。借りはいつか返す、そう言うとヴァレンシュタインは最近良くそう言われると言って笑い出した。

 敵は大軍だが勝てるのだろうか。ヴァレンシュタインに聞いてみると“まあ、大丈夫でしょう” と言った。頼りなさそうな答えだが、俺はその言葉を信じることにした。この男が大丈夫だというなら大丈夫だ。

 残念だったなシェーンコップ、もう少しで俺を引きずり出せたのだが。今の俺は一人ではないのだ、心強い味方がいる。俺を倒すのは容易ではないぞ、心してかかって来い。



 
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