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喧嘩

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3部分:第三章


第三章

「だからどうかなって思ってな」
「食べる?ほら」
 ここで皆はケーキだけでなく紅茶も出してきた。
「紅茶もあるしな」
「どう?遠慮はいらないわよ」
「ふうん。それだったらよ」
「それじゃあ」
 とりあえず二人はそのケーキを手に取って食べはじめる。皆の目論みはまずは成功した。
 ケーキは一個だけでなくまだ出す。幾らでも食べさせてそれで機嫌をなおさせる腹なのである。そうやってケーキを食べさせて紅茶を飲ませて機嫌が随分なおってきたと見たところでだ。
「よしっ」
「今ね」 
 ここで皆顔を見合わせて目で合図をする。
「席をな」
「やるわよっ」
 また目で合図をしてそのうえで二人の席を動かした。それぞれ九十度に動かす。それによりそっぽを向き合っている状態からケーキのある本来の正面に向いていた二人を向かい逢わさせたのである。
 ところが。
 今回もであった。またしても失敗であった。
 二人は顔を見合わせるより前に再び顔を背けてしまったのだった。良美は左に、美奈は右にそれぞれ顔をやって。それでかわしてしまったのであった。
 結果としてこれで同じであった。結局ケーキ作戦も失敗に終わったのであった。
 皆はこれには唖然となった。席を戻すのもそのままで再び作戦会議に入った。そうしてまた教室の端においてあれこれと話すのだった。
「今度はどうする?」
「どうするって言われても」
「どうしようかしら」
 話し合ってもどうしていいかわからない。そのわからないうちにだった。
 一時間目のチャイムが鳴った。そうして先生が入って来た。そして二人を見て言うのだった。
「あの二人は何があったんだ?」
「まあそれはまあ」
「ちょっと。色々あったみたいですけれど」
 皆も返答に実に困っていた。
「ああしたことになっちゃって」
「気にしないで下さい」
「気にしないでいられると思うか?」
 先生は皆に対してその顔を背け合ったままの二人を見ながら言う。二人は教室で向かい合わせになったままでそれぞれ首を背け合ったままでいた。とにかく滅茶苦茶険悪なムードが漂い続けている。
「あれで」
「そこを何とか」
「授業してもらえば」
「御前等随分強引じゃないか?」
 先生はそんな彼等の言葉を聞いてまた述べた。
「教室に爆弾があって平常心で授業ができるのか」
「とりあえず爆発はしないんで」
「そこは何とか」
「爆発はしないのか」
「多分そうだと思います」
「今のところは」
 返答は実に曖昧なものであった。
「だからどうぞ」
「授業を」
「ああ、わかった」
 先生もここで遂に諦めるのだった。
「じゃあ授業やるぞ。いいな」
「はい」
 とりあえずは授業は行われた。甚だ不自然であるがそれでもだった。そうしてとりあえず授業が終わるとクラスの面々はまた話をするのだった。
「どうしよう」
「っていってもねえ」
「ケーキも駄目だったし」
「だよなあ」
 あいも変わらずそっぽを向き合ったままの二人をちらちらと見ながら言い合うのだった。
「あとは何があるかな」
「何か遊びに入れる?」
「遊び?」
「とりあえずこれとか」
 一人がトランプを出してきた。
「するか?ポーカーとかよ」
「あの二人入れてかよ」
「とりあえず仲が悪くても何かポーカーとかしてたら結構和気藹々ってしてくるからよ」
「まあそうね」
 女の子の一人がその案に賛成してきた。
「とりあえずはね。喧嘩しててもポーカーとかだったら」
「それだったらあれじゃない?大富豪の方がよくない?」
 また別の女の子が言ってきた。
「ポーカーよりも」
「そうかもな。確かにな」
「それかババ抜きか」
 それの案も出るのだった。
「まあとりあえずトランプに入れてみるか」
「そうね」
 こうして今度はトランプに入れてみることにした。皆早速またしてもかなり白々しいがさりげなくを装って二人のところに来た。そうしてこれまた果てしなく白々しい顔と声で二人に対して笑顔を作って言うのだった。
 
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