魔界転生(幕末編)
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第37話 激闘(後編)
土方は典太を右手で肩に担ぐように持ち、左手には愛刀・和泉守兼定を持ち正眼に構えた。
そして、近藤は虎徹を上段に構え高杉を中心に円を描くようにゆっくりと回って行った。
高杉は言えば構えもなく、ただ土方を見つめ不気味ににやにやと笑っているだけだった。
が、土方も近藤も切りかかることが出来なかった。
天然理心流の極意は素早い突きと間合いを一気に詰められる神脚にある。が、土方も近藤も間合いを詰められないでいた。
(隙がない)
土方も近藤もそう感じていた。ただ、高杉はその場に立っているだけなのに。
掌にじわりと汗が浮かんでくる。
「来ないのかい?来なければこちらから行ってやろうか?」
高杉は土方に向かって歩きだした。それは、まるで散歩に出かけるかのようにすたすたと。
実はこの土方の構えには意味があった。
それは、左腕で自分の間合いを測る事。当然、高杉もこの構えである以上間合いを察知されてしまう。
一概には言えないが、剣技と無手。剣技の方が間合いは広い。
土方の間合いに入れば、理心流の素早い突き。はたまた、典太による一撃必殺の斬撃をくらわせることが出来る。
隙がないのなら待つしかない。こちらの間合いに入ってくるのを。が、高杉はそんなことなどお構いなしにどんどん近づいてくる。そして、ついには土方の剣が届く間合いへと到達したのだった。
(いまだ、これでも喰らえ!!)
土方の素早い突きが高杉の心臓目掛けて繰り出された。が、なんなく高杉は体を横にして交わした。
(ならば、これなら!!)
今でいうボクシングのジャブのような突きの連続攻撃。高杉の態勢が崩れれば典太の斬撃を御見舞いするつもりだった。が、それも軽々とかわしている。そして、ついに高杉は自分の間合いへと入った。
(しまった!!)
今度は土方が高杉の攻撃を受ける番になり、高杉の攻撃を予測しながらかわし攻撃しなければならなくなってしまった。
(拳か?蹴り?)
高杉の攻撃の威力はすでに戦場で目のあたりにしている。1発でも当たれば即死間違いない。
(どっちだ?)
土方の背中に嫌な汗がにじんできた。その刹那、高杉は両掌で円を作ると真っ赤な火の玉のような球体が現れた。
(ま、まずい!!)
土方の本能がそうささやいたのか後方へ飛んだ。と同時に高杉の作り上げた球体が土方に向かって飛んできた。
「むん!!」
土方は気合を入れ典太をその球体に振り下ろした。真っ二つになった球体は軌道を失い後方へと飛び去り爆発した。
(危なかった)
と胸をなで下ろしたが、すでに高杉は右足の回し蹴りを繰り出そうとしていた。
(ようし、それをかわして左足をぶった切ってやる)
土方は辛うじて体を低くして回し蹴りをかわした。そして、典太を左足目掛けて水平に薙ぎ払った。が、そこにあるはずの左足がなかった。
高杉はかわされたと同時に後方へと一回転していた。それと同時に土方の顎目掛けて蹴り技を繰り出していたのだった。
「うぉ!!」
土方もさることながら間一髪でその蹴り技を紙一重でかわした。
びゅっという風切音が土方の耳に残る。頬に切り傷を負い、血が流れているのを感じた。
高杉は後方回転の着地と同時に走り込み、自らの間合いへと入った。今度は、土方が防戦する側になった。
素早い突きと蹴りを必死に紙一重でかわし、当たりそうなものは刀のつかでかわした。
(こいつ、まだ本気じゃない)
土方はそう感じていた。なぜなら、本気なら刀のつかでかわせるものじゃないからだ。
徐々に追い詰められ大木を背にする恰好に土方はなってしまっていた。
(まさに天才!!)
土方の脳裏に高杉の通り名「喧嘩屋・高杉」が浮かんだ。
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