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彼に似た星空

作者:おかぴ1129
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17.私の罪

 鎮守府の指揮を担っていた彼が亡くなったことで、鎮守府は完全に機能を停止した。入渠施設がなくなったことで、傷ついた子たちの傷を癒やすことも出来ない。私たちはただひたすらに呆然とすることしか出来なかった。

 本来ならこういう場合は、長く秘書艦を務めていた私が陣頭指揮を取らなければならないのだろうが、私は今、何もすることが出来なかった。代わりに今は、球磨が陣頭指揮を取っているようだった。

 彼のことは、姉妹と鈴谷、青葉にも伝えた。比叡と霧島は絶句し、榛名と青葉は泣き崩れ、鈴谷は顔が青ざめ、呆然としていた。

「嘘です!! 提督が死んだなんて嘘です!! 榛名も提督に会わせて下さい!!」
「ノー……榛名…テートクとはもう会えまセン……」
「お姉様まで嘘をつかないで下さい!! 提督に会わせて!!」

 先ほどの私とまったく同じ反応を榛名はしていた。彼女も彼を慕っていたから当然だ。今なら木曾の気持ちが分かる。榛名には、彼のあの惨状を見せたくなかった。

 榛名は強引に私を突き飛ばして執務室の場所に行こうとしたが、私は木曾がしてくれたように、榛名を後ろから抱きしめ、力づくで静止した。

「嫌!! お姉様離して下さい!!」
「駄目ネ榛名!! 行っては駄目デス!!」
「離して下さい!! 離して!! 離してぇええ!!!」

 榛名は猛烈な力で私を振り解こうとしたが、私も絶対に負けるつもりはなかった。榛名を拘束するその手にさらに力を込め、力で榛名をねじ伏せた。

「ノー! 駄目デス!」
「行かせて!! 提督の元に榛名を行かせて!!!」
「ノー!!」
「行かせて……お姉様……提督に……会わせて……」
「……ごめんなさい榛名」
「お願いですから……提督……提督……」

 先ほどの私と同じように、榛名もまた、力尽き、膝から崩れ落ちた。私は、榛名が倒れてしまわないように体を支え、今度は榛名が壊れてしまわないよう、出来るだけ優しく抱きしめた。

「金剛お姉様……私も、私も提督をお慕いしていました……」
「知っていマス……」
「提督……なぜ……提督……」

 榛名もまた、先ほどの私と同じように、私に身を委ねたまま哭いた。

「榛名は大丈夫クマ?」

 榛名の様子を心配して球磨が来てくれた。私は、無言で首を横に振り、否定を示した。

「……この惨状では仕方ないクマ。……ちょっと話があるクマ。今大丈夫クマ?」
「今は駄目デス。榛名を放ってはおけまセン」
「確かにそうクマ……」

 私達の様子を察してか、比叡も私たちの元にやってきた。霧島は大破判定を受けた上、提督の話を聞いて今では満身創痍で立つことすらままならない状況だ。それに比べると、比叡はまだ傷は軽傷といえた。もっとも、それでも中破判定に変わりはないが……

「お姉様、榛名はこの比叡にお任せ下さい」
「いいんデスカ?」
「はい。私も榛名の姉です。たまには姉らしくさせて下さい」
「わかったネ。じゃあ榛名を頼みマス」
「了解ですお姉様。さ、榛名……」
「はい……」

 比叡に促され、この場から離れていく榛名を追う球磨の目には、罪悪感が浮かんでいた。

「こんな時に申し訳ないクマ」
「……五月雨はどうしまシタカ?」
「五月雨にはキソーがついてるから心配いらないクマ。それよりも、誰かにこのことを隣町の鎮守府に知らせに行ってほしいクマ。誰がいいと思うクマ?」

 確かに、球磨の提案は正しい。私たちの本拠地である鎮守府を短時間で壊滅させたほどの戦力を持つ敵艦隊の存在を、他の鎮守府に知らせないのは危険だ。そして、今この鎮守府には、他の鎮守府と通信を行える機能が失われている。ということは、誰かが直接他の鎮守府に向かい、このことを伝える以外に方法はない。

 ただ問題がある。伊勢が放った瑞雲による索敵の結果がまだ分からない。鎮守府を襲撃した艦隊は、まだこの周囲にいるかもしれない。もし、この危機を知らせに出発した艦娘がその艦隊と鉢合わせにでもなったら…もしくは、他の鎮守府に知らせるべく出撃する艦娘たちを、敵艦隊が海上で待ち構えていたら……

「球磨、瑞雲が戻ってきたよ」
「おお伊勢、ご苦労だクマ。それでどうだったクマ?」
「ここから西に5キロほど行ったところに小島があるんだけど、そこに敵艦隊が隠れているのを発見したって」

 伊勢のこのセリフを聞いた瞬間、私は確かに自身の頭の血管が切れた音が聞こえ、視界が真っ赤に染まった。

「行きマス」
「駄目クマ。金剛は中破してるクマ。行くのは無傷の子クマ」

 球磨の静止は私の耳に届くことはなかった。補給なら先ほど済ませた。確かに私は中破状態で万全とは言えないが、この鎮守府をここまで破壊し、私から彼を奪った憎むべき相手に対して、いつまでも存在を許しておくほど私は甘くはない。

 そして榛名も同じことを考えていたようだ。榛名も眼の色もまた真っ赤に変わった。私と榛名は身体に艤装を装着し、港に向かった。

「金剛やめるクマ!」
「やめまセン。止めないで下サイ。ワタシはテートクの仇討ちに行きマス」
「バッ…やめるクマ!! 相手は鎮守府をここまで破壊した艦隊クマ! 無謀クマ!!」
「榛名も行きます。提督の仇を取ります」
「オーケー榛名。一緒に行くネ」
「榛名もバカなマネはやめるクマ!!」
「バカなマネとは何ですか? 提督を殺されて黙ってられるほど、榛名はおとなしくありません」
「そうじゃないクマ! 二人共頭を冷やすクマ!!」

 私と榛名は球磨の制止を無視し、港に出た。もし、私たちを無理にでも制止する子がいれば、私はその子を全力で排除するつもりだった。砲塔にはすでに三式弾と徹甲弾を装填して、いつでも撃てるように準備してある。

「金剛お姉様ー!!」

 出港しようとした私たちの背後から比叡の声が聞こえた。

「比叡?」
「私も行きます! 私は、どこまでも金剛お姉様とともにあります!!」
「わかったネ比叡」

 私と榛名、比叡は海面にたった。この鎮守府に戻るときは、霧島と青葉という大破判定の二人がいたから最大船速を出すことが出来なかった。しかし今は違う。中破判定ではあるが、まだ最大船速を出せるだけのダメージで済んでいる3人なら、今なら敵艦隊を奇襲出来る。

「やめるクマ!! 3人とも戻るクマ!!」
「榛名!! 戻って!! お姉様がたも!! 相手は鎮守府を短時間でここまで破壊した艦隊です! ましてやお姉様たちは中破判定…勝ち目はありません!!」

 球磨が霧島をつれて再度私たちに思いとどまらせようとしてきた。そんなことで、私たちの怒りが収まるはずはない。私は砲塔を球磨と霧島に向けた。

「次、ワタシたちを止めようとしたら撃ちマス」
「金剛お姉様……そこまでして……」
「傷を負ってる自分の妹になんてことをするクマ!!」
「黙ってれば撃ちまセン」

 榛名の準備が整い、比叡も海面にたった。

「お姉様…行けます」
「オーケー。二人とも補給は大丈夫デスか?」
「大丈夫ですお姉様」
「行きましょう……提督の仇討ちに……」
「イエス。テートクを奪ったことを、後悔させマス」

 私達3人は、最大船速で港から離れた。背後で球磨がなにか叫んでいたが、そんなことはどうでもよかった。彼の仇を討つ。どんな手段を使ってでも、敵艦隊に、私から彼を奪ったことを後悔させる。絶対に殲滅する。そのことしか頭になかった。

 しばらく水面を走ったところで、伊勢が言っていた小島が見えた。なるほど。確かに小島の影に数隻の深海棲艦が輪形陣を展開しているのが見える。相手はまだこちらに気付いてないようだ。どうやら敵旗艦は輪形陣の中央にいる戦艦レ級。何度かやりあったことがあるが、倒せない相手ではない。

「見つけたヨ……」
「提督の仇……」
「比叡……援護をお願いネ……」
「……お姉様、やはり戻りましょう。これは予想以上の戦力差です。榛名もよく考えて」

 ここまできて比叡は怖気づいたか。いや怖気づくのは構わない。手伝わないというなら手伝わなくて結構だ。だが私を止めることは、いくら比叡といえど許さない。

「だったら比叡はここで黙って見てればいいデス」
「金剛お姉様……」
「榛名は行きます」
「オーケー。行くヨ榛名」
「はい。お姉様」

 もう比叡はいい。ここで見ていればいい。愛する人の仇が目の前にいて、何も出来ないまま指を咥えて眺めていられるほど、私は腑抜けた女ではない。たとえ一人でも、私は奴らを殺してみせる。

 私と榛名は全速力で敵輪形陣に突撃しながら、徹甲弾による砲撃を開始した。レ級を庇った敵駆逐艦二隻に数発命中し、その二隻が沈んだ。

「テートクの仇!! ファイヤー!!!」

 続けて私は徹甲弾を撃ち続け、敵もこちらの存在に気付き砲撃を開始した。レ級たち敵艦隊は私たちに向かって、極めて正確に撃ってくる。頭上を見ると敵の偵察機が飛んでいる。どうやら観測射撃をされているようだが、そんなことは知ったことではない。要はレ級を沈め、随伴艦を沈め、その後三式弾で敵偵察機を叩き落とせばいい。すべて沈めればいい。すべて沈めてやる。すべて殺してやる。

 同じことを榛名も考えていたようだ。私達は敵の砲撃を食らってもスピードを緩めることなく、砲撃を繰り返しながらまっすぐレ級に向かって突撃していった。

 不意に、私の艤装の左側が爆発した。左舷を見た。敵艦隊は一つだけではなかった。左側にも大規模な敵艦隊がいた。敵は連合艦隊だったようだ。背後から敵艦載機も飛んできた。どうやら囲まれている。榛名もそのことに気付いたようだ。

「お姉様!!」
「囲まれたネ……でも関係ない……全部沈めマス!!!」
「ええ……榛名はまだ大丈夫です!!」

 私と榛名は、引き続き砲撃を行いながら突撃した。しかし中々レ級にこちらの砲撃が当たらない。もどかしい。葬れない。もっと近づかなければならない。

 しかし、近づこうとすればするほど……時間が経てば経つほど、周囲からの敵の砲撃は激しさを増し、私と榛名は前に進むことが難しくなってきた。私の砲塔も一つ折れ、二つ折れ、三つ折れ…すべて折れた。砲撃が不可能になり、艤装が爆発して停止した。主機から煙が上がり、突撃するスピードが鈍った。

 それでも構わなかった。なんとしてでもレ級に到達し、残った全弾を叩き込む。撃てないのなら、直接三式弾をレ級の身体に捻り込み爆散させる。レ級だけは必ず殺す。確実に殺す。必ず彼と同じ目に遇わせる。そのことだけを考え、私は身体を引きずり、それでも前進した。

 突然、周囲がスローモーションになった。

 レ級が発射した徹甲弾が、砲塔から飛び出る瞬間が見えた。その徹甲弾が、まっすぐ私の方に飛んでくるのもわかった。そして、今ゆっくりとこちらに向かって飛んでいるそれが、そのまま私の身体に命中し、私の身体を貫き、私はそのまま死ぬことがわかった。その砲弾が描く軌道のラインが、私が今いるこの場所を確実に通過しているのが瞬時に理解できた。

 『マズい』と思ったが、それが手遅れであることを私は理解していた。私は死ぬ。

「お姉様!!!」

 またしても不意だった。今度は私の身体が何者かに突き飛ばされた。強引にその場から動かされたことで、身体が砲弾が通過するラインから離れた。砲弾は私に当たることなく、私たちのはるか背後にまで飛んでいったのが見えた。スローになっていた私の周囲が元に戻った。

「お姉様!! 金剛お姉様!!!」

 私を助けてくれたのは比叡だった。彼女は動けなくなった私に全力で体当りし、私を強引に射線上から動かしてくれたことを理解した。

「比叡!」
「ご無事ですかお姉様!!」

 ここに来て、私はやっと頭が冷静になった。今まで真っ赤だった視界に色が戻り、目に見えるものがクリアになった。やっと周囲を見渡せ、状況が見えるようになった。今、自分たちが置かれたこの状況が、いかに絶望的な状況なのかが、やっと理解できた。

「比叡……サンキューね……死ぬところデシタ……」
「いいえ!! お姉様がご無事なら……」

 直後、比叡の艤装が爆散した。私の周囲が再びスローになり、比叡の艤装が粉々に飛び散るのが、破片の一つ一つまで見えた。

「ひえ……い?」
「ゴフッ……!!」

 比叡は口からおびただしい量の血を吐き飛ばした。その血は私の顔にかかり、私の顔の半分が比叡の血で染まった。比叡はそのまま私の方に向かって倒れ、私は倒れる比叡を受け止めた。艤装はすでに足以外は吹き飛んでなくなっていた。

「お姉様……」
「比叡……ノー……」
「お逃げ下さい…お姉様……」

 急に比叡の身体が重くなった。私は比叡の足元を見た。比叡は足首まで海面に沈み始めている。

「比叡……ノー……しっかりするネ比叡! 私の妹なんだから!!」
「申し訳ありませんお姉様……ですが、比叡は……」

 比叡の身体は海の底から何者かに引きこまれているのではないかと思えるほどに重くなっていった。私は必死に比叡を支え、比叡の轟沈に抗おうとしたが、比叡が沈むのは止まらない。

 私は渾身の力で比叡を海から引きずり出そうと、もはや胸の部分まで沈んでしまった比叡の身体をひっぱるが、それでも比叡が沈むのを止めることは出来ない。もう比叡の身体を支えていられない。

「比叡!! 駄目デス比叡!! もっと頑張って下サイ!!! 持ち上げられまセン!!」

 喉元まで沈んだ比叡は私を見て微笑んだ。

「金剛お姉様……私は……」

 最後は比叡が何を言ったのか聞き取れなかった。私は沈んでいく比叡の手を掴もうとしたが、それも出来なかった。比叡は沈んだ。私を見ながら、海の中へ笑顔で沈んでいった。

「比叡…ノー……比叡……」

 比叡が沈む過程で取れたのだろうか。比叡のカチューシャがその場に浮いていた。私はそのカチューシャを手に取り、抱きしめて哭いた。

「比叡…ごめんなさい……ワタシが…ワタシが馬鹿デシタ……彼の仇を討ちたくて…頭に血が上って……比叡を沈めたのはワタシです…ごめんなさい……」

 敵の砲撃はまだ止まない。私は榛名のことを思い出し、榛名を見た。

「榛名は…榛名は?! 無事デスか?!!」

 榛名はレ級のすぐそばまで接近していた。もはや艤装が壊れ脅威ではなくなった私の分まで、榛名は今集中砲火を浴びている。

「榛名!! 逃げるネ!!」

 私の声は砲撃の轟音にかき消された。榛名はついにレ級に到達した。

「提督……」

 榛名はレ級の頭を掴み持ち上げた。そして自身の艤装の中でたった一つだけ無事残ったダズル迷彩の砲塔をレ級の腹部に密着させ、何度も何度も砲撃した。密着状態から打ち出された砲弾はレ級の腹部を破り、下半身をちぎり落とした。

 レ級の下半身が海面下に沈んだのを確認し、榛名は掴んでいた上半身を離した。その後その場に倒れ、榛名が手放したことで同じく水面下に沈んでいくレ級の上半身とともに、海に沈もうとしていた。

 私は榛名を助けようと榛名のそばに行こうとした。

「榛名!! 榛名!!!」
「お姉様……」

 敵艦隊は旗艦であるレ級を失ったことで散開し、退散していった。私たち3人のうち2人を撃沈したことで戦力を充分に削いだという判断もあったのだろうか。

 私は必死に榛名のそばに行こうとした。壊れた艤装では中々前に進むことが出来ず、また私も満身創痍で思うように身体を動かすことが出来ない。それでも私は必死に榛名のそばまできた。すでに榛名は下半身が海に呑まれた状態だった。

 榛名のそばまできた私は、榛名の手を握った。榛名の手は血まみれだった。これらはすべて榛名の血だ。今気付いたが、榛名は全身から出血していた。体中傷だらけで、海面は榛名を中心に真っ赤に染まっていた。そしてそれは、今もものすごいスピードで広がり続けている。榛名はこんな状態で、あれだけの砲撃に耐え続けたのか。

「榛名…ごめんなさい……ワタシが止めるべきデシタ…ワタシが…ッ!!」

 私は右手で榛名の手を握り、左手で榛名の艤装を支えようと砲塔を掴んだが、すでに私は手に力が入らず、榛名の砲塔は私の手をすり抜けていった。

「お姉様……」
「榛名…沈まないで下サイ…あなたまでワタシを置いて行かないで下サイ……」

 私は必死に榛名の手を引っ張ったが、それでも榛名は沈んでいく。私は榛名の顔を見た。榛名の顔は、いつもの穏やかな笑顔だった。

「お姉様……泣かないで……下さい……」

 私が掴んでない方の榛名の手が、比叡の血がついている私の顔に触れた。私の顔に、榛名の血も塗られた。

「お姉様……すみません……榛名はここまでです……」

 そう言うと、榛名は海の中奥深くに沈んでいった。

 その後、私がどうやってあの海域から戻ったのかは覚えていない。霧島の話によると、球磨をはじめとする捜索隊があの海域に出撃したところ、比叡のカチューシャと榛名のダズル迷彩砲の残骸を持った私が、呆然と立ち尽くしていたという話だ。

 私の記憶は、その後鎮守府に戻ったところからだった。戻った私を、霧島は厳しくなじった。霧島は私が持つ比叡のカチューシャと榛名のダズル迷彩砲の残骸を見た途端激しく取り乱し、私に平手打ちをした。

「なぜあの時出撃したのですか!!」
「霧島……スミマセン……」
「お姉様がしっかりしていれば…比叡お姉様が沈むこともなかったし、榛名も無茶をすることはなかったのではないのですか!!」
「こめんなさい霧島……ごめんなさい比叡……榛名……ッ!!」
「比叡お姉様と榛名は……金剛お姉様が沈めたんです!!!」
「ごめんなさい比叡……ごめんなさい榛名……ごめんなさい……!!!」
「もうこれ以上はやめるクマッ!!」

 球磨が私から霧島を引き剥がした。霧島はそれでも収まらず、球磨にも食ってかかっていたが、しばらく私と球磨をなじったあと、泣き崩れ、痛々しい叫び声を上げていた。

 私はもう、気力がなくなっていた。連戦からの疲れではない。私の一連の行動が、愛する二人の妹を沈めてしまったという自責の念が、私の身体から何もかもを奪ってしまった。立つ力すらもうなかった。私を愛してくれた彼はもういない。私は、彼を救うことが出来なかった。そして、私が愛した比叡と榛名ももういない。私が殺した。その重すぎる十字架が私の両肩に重くのしかかり、立つことも出来なくなった。

 私が愛した大切なものは今日、すべて壊れた。そして私が愛し、私を愛してくれた大切な人は殺され、私が愛した姉妹たちは今日、私が殺した。
 
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