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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  鬼々浪々

具体的な返答を返す暇はなかった。

呆然と現れたキリトを見ていたユウキの右。もはや原型がほぼ残っていない山麓の中腹辺りに生えている灌木から放たれた白煙が、飛行機雲のように宙空に軌跡を残しながらマークⅡの脇腹にブチ当たって爆音を発生させた。

過剰光特有の不自然なまでの発光はない。システムに則った攻撃だ。

その発生源に首を巡らせた少女は己の眼を疑う。

てっきり爆発物専門家のリラによるものだと思ったのだが、そこにいたのは小さな土管のようなものを担いだペールブルーの髪を持つ少女。

確かキリトとともに行動していたシノンという狙撃手だ。

当の本人はユウキのことなど構う暇がないのか、白い硝煙をたなびかせるその円筒を細かく弄っている。

そこまで見た時、レンを抱えた黒衣の剣士がユウキの目の前に着地した。

普段は温厚な顔を真剣に改めた少年は、それでもおどけた言葉を口にする。

「ったく、俺も俺だけどお前らのほうがよっぽどだな、ユウキ」

「……あ」

りがとう、と続ける前にキリトはレンと同じようにユウキを抱え上げた。

二人もの荷重を許容できるほど彼の筋力値に余裕があるとは思えないが、それでも少年は汗一つかかずに滑らかに走り始めた。

「どっ、どこ行くの?」

「お前らをいったん下がらせる!それで少し頭冷やせ!」

「ッ!主砲来るよ!!」

再び不穏な炎が砲口の奥に瞬き始めるのを確認した少女の声に、しかしキリトは気を留めない。

「だから言ったろ。頭冷やせ」

同時。

こちらを狙いすましていた環状動物のような主砲の狙いが僅かに歪んだ。

キン!キン!という小さな羽虫のような金属音が連続して響き、その段階でユウキは小さな黒点が砲門に取りつき、その切っ先を僅かに、しかし確実に逸らしていることに気付いた。

遠めなので分からないが、あの速さで動き回れるのは知る限りでは一人しかいない。

ミナ。

近未来的なデザインのアサルトライフルを二丁。跳弾で自らが傷ついてしまう危険性があるにもかかわらず、絶対に効かない鉛玉を狂ったように撃ち続けている。

「何がどうなってるの?」

「今リラがあいつに効きそうなドデカいヤツを造ってる。その間に時間稼ぎするのが俺とミナの仕事だ」

「で、でも!ただの弾丸であの装甲を抜ける訳ない!!」

抱えられながらも、ユウキは絶叫する。

だが、対する少年は一分の隙なく即答した。

「《抜く》んだよ!絶対に!」

「ッ!」

山麓エリアと隣接する森林エリア。その木々がまばらに生えてくる辺り。足元に広がる赤茶けた岩肌に真っ黒い腐葉土が混じり始める辺りに生えていた灌木の影に二人を放り込みながら、黒衣の剣士は言う。

「ユウキはレンをどうにかして叩き起こして来てくれ。俺の神装でもアレはさすがに手こずりそうだ。レンの槍ならブチ抜けるだろ?」

「わ、わかった」

頼んだぞ!という言葉を残し、キリトは再び勢いよく飛び出し、削られた稜線の隙間から顔を出す巨人に立ち向かっていく。

その背を見ながら、ユウキはとりあえずポーチから取り出した注射器型の回復アイテムを少年の首筋に押し当て、後端にあるボタンを押した。

プシュッ、という小さな音とともに回復(ヒール)エフェクトである赤色が一瞬アバターの全身を包み込む。

本大会に参加する際にプレイヤー一人に付き三つ配布されたこのアイテムだが、回復できるのはHP全体の三割と言ったところだし、それまでに三分もかかるイロモノだ。だが、傷ついたレンに少しでも手助けになるのならば、と少女は祈るようにエフェクトが消えるのを見届けた。

次いで、自身にもぎこちない手つきで使用した後、限界まで加速し、疲弊しきった脳に鞭打ちながら、死んだようにピクリとも動かない少年の肩を揺さぶる。

「レン……レン!」

だが、目蓋は開かない。

DEADタグが付いていないということは、HP自体はまだ残っているということだが、細い肩は何の応えも返してはくれなかった。

少年は、動かない。

だが、次の瞬間――――










どこか遠くで呼ばれたような気がして、レンは思わず振り返った。

だがどこを向いても変化はない。相も変わらず、何の手がかかりもない底なしの闇が四方を取り囲んでいる。

感じとしては、ALOの際に狂楽のGM権限で閉じ込められた空間に似てはいるが、その時と違うのは自身の姿さえも見えないという点だ。

何かをしても、動作をしているという気がするだけで、本当にしているのかがわからない。

歩いても、相対的に動く物体の類が存在しないのだから、本当に初めにいた位置から動いているのかもわからない。

そもそも――――

自分が本当に存在しているのか。

それすらも、わからない。

だが。

少年は《そんなこと》には構わずに、常人ならば小一時間ほどで発狂するほどの環境の中でなお無邪気に首を傾げる。

「それで、狂怒。マークⅡを破壊できる手立てっていうのは何なのさ」

その声に応えるのは、ガラの悪い木霊だった。

その声も方向性が判然としていて、どの方向から響いてきているのかは正しく理解できない。

声は言う。

「別に破壊までぁいかねぇよ。これから俺達が手前ぇに提示するのは、いわばアレをバグらせるってこったな。言葉にすると陳腐だがぁよぉ……」

その声に応えるように、また別の木霊が響いた。こちらはまだ少年のような口調だが、そのかわり言葉の端々に滴り落ちるような悪意や敵意のような、相対した者をイラつかせるような何かが含まれていた。

「そもそもさ。君って、君が《マークⅡ》と呼んでるアレのことをどこまで知ってんの?知った気でいるの?」

まるっきり小馬鹿にした問いだが、レンはとくに取り合わない。

素直に、心から、応える。

「って言っても。……二体目の、新生の《災禍の鎧》ってことくらいかな」

そう。

少なくともアレは、レンを始めとした《六王》、並びに《攻略組》が命懸けで戦ってきた《鎧》そのものではない。

フェイバルが――――サフランが初代に会い、狂喜した。

それだけのことで、いやそんなことで、アレは生まれた。

呆気なく。ともすれば簡単でお手軽に。

だけれど当の本人にしてみれば、これ以上ないほど重い想いを満たして。

結果、爆発した感情は自身の得物である《檮杌(とうこつ)》を取り込み、奇しくも《鎧》誕生と同じ現象が起きてしまった。

アレは、その結果なのだ。

レンの応えに頷いたような気配を返し、狂怒が口を開く。

「だが、お前ぇらは今、何に手こずってた?」

「…………は?」

「あのぶっとい極太ビームかぁ?あの巨体かぁ?違ぇだろ、あの防御性能だろ」

そこで一拍置いた鬼は、こう傲岸不遜にこう言った。



「ゼロから生まれた新生だぁ?なら、()()()()()()()()()()()使()()()()()?」



「……………………………………………ぁ?」

思考が、止まった。

本当に一瞬、少年の脳は考えることを放棄した。

「武器から造られたモンが、即座にあそこまでの防御性能を持ってるなんて考えられねぇっつの。依代が盾とかならわかるけどよ」

「いやいや兄様。盾でもあの巨体全部を覆うのはさすがに無理でしょ。それこそ、狂哀の兄様ぐらいの防御特化仕様じゃなきゃね」

勝手に騒ぐ鬼達に、しかし待ったをかけてレンは言葉を紡ぐ。

「いや……いやいやいや、ちょっと待って」

いや本当に。

ちょっと待ってほしい。

じゃあ何か?それはつまり――――

「マークⅡは、《災禍の鎧》の力さえも取り込んでるってこと!?」

返答は、沈黙。

だがそれが肯定と同義であることは、痛いほど少年を苦しめる。

そしてその答えが、どうしようもないほどにマークⅡ戦の勝率がドン底まで堕ちたこともまた、分かった。

足元が歪む。

レンは、自分が立っているのかすら自信が持てなくなっていた。

だが、そんな少年に狂怒は落ち着いた口調で口を開く。

「いいかぁ、レン。(オレ)らから見てもアレぁバケモンだ。だがな、それは理論値であって現実的じゃぁねぇ」

「……?どういうこと?」

つまりね、と狂楽が続ける。

「理論的には同時に、複雑な計算をできるコンピューター。じゃあ、本当に無限に、《同時》に複雑な計算をやれるの?」

「…………いや」

そんなはずは、ない。

どんな機器でも、《処理落ち》という言葉が存在している限り、そんなことは到底不可能に近い。それはあくまでも――――

あ、と。

レンは思わず呟いた。

「理論上ではできるけど、現実的じゃない……」

「その通り」

「だけどそれがマークⅡと何の関係が――――」

そこで再度。

少年は気付くこととなる。

そんなレンの様子を、暗闇のどこかから響いてくる少年の声は楽しげに――――愉しげに、笑った。

それはレンの知っている、いつも他者を見下したような嗤いではなく、どこかイタズラに成功した悪ガキのような、無色透明で無邪気な笑いだった。

「……ぉい」

「ぷっ、あははははっ。今さら気付いたのぉ~?でもちょぉっと残念、時間切れぇー」

「ちょっと待て」

「だぁから言っただろ。最初にさ」

くくっ、と。

憑き物が落ちたような、いっそ清々しいまでの笑い声を漏らしながら、狂楽は言う。

「さようなら」 
 

 
後書き
レン「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
なべさん「やっぱ劇場版最高やね!あとレイトショー初めて行ったヨ!!」
レン「こらこら映画の二度見感想はいいから、本編の話して本編の」
なべさん「えー…だってそんなに話すことも…」
レン「ぶっちゃけやがった!」
なべさん「何だろうね、最近話の大半が精神世界ってそれってどうなのと思うんじゃよ」
レン「そして愚痴り始めた!」
なべさん「ソウルイーターじゃないんだから、そうそう心の中に談話室があってたまるもんですか」
レン「それ言ったら、鬼達が居候してる時点でアパートみたいなもんだけどな」
なべさん「………………そうだね」
レン「オイ認めるなよ」
なべさん「は、はーい!自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
――To be continued―― 
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