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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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脱出-エスケープ-

 
前書き
ゼロ魔以外にもウルトラとのクロスオーバー作品を手がけていく予定です。
マイページにもあるように、過去作品に修正と改変を加えたものを投稿する予定としています。といっても、本作のリメイク前のものと設定が共有されているものでもあるので、ぶっちゃけ僕の妄想の延長作品です(苦笑)
なので純粋な原作ファンとしての度合いが強い人には不向きだと思います。一応単品でもそれなりに読めるものをつくろうとは思ってます。

一応確認すると…
・リリカルなのは(修正すべき点があるものの、たぶんこれが一番完成度が高い)
・GANTZ(一番出来が悪い…)
・恋姫無双(設定に癖があり、会話場面は自分でも微妙なものが多い。しかも重要な設定を練りきれてない)
・サクラ大戦(完全新作。現在プロットと設定を執筆中)

といった感じです。

 

 
「なんでお前が、ここに…」
ここにいるわけがない。異世界であるこの場にいるはずが、それもこうして目の前にいるはずがない。なのに、なぜ今…自分の目の前に彼女がここにいるんだ?
まさかと思い、シュウはパルスブレイガーを起動する。だがビースト振動波を付近から感知できない。
すると、少女の幻影がシュウの前に一歩踏み出してきた。静かな佇まいを保つように、茶色の髪を夜風に靡かせながら、さっきまでシュウとの間に開ききっていた距離をなくし、彼のすぐ目の前にたった。
そして、彼にそっと優しく触れようとした。そのとき、シュウは警戒心をむき出しにし、彼女に向けてブラストショットの銃口を向けた。
「違う…お前は…お前は愛梨じゃない…!」
「………」
あいつが、こんなところにいるはずがない!今、俺の前に立っているこいつは、ビーストが狡猾にも作り出した偽物に違いない。
目の前の、偽りとしか思えない存在に向けて引導を渡そうと引き金を引こうとしたときだった。
「シュウ、待って!」
そこへさらに現れたのは、アスカやマチルダとは別にシュウを追っていたテファだった。まさか、シュウが人に銃を向けているなんて信じがたい光景を目にして、慌てずにいられなかった。
しかし、シュウの銃を握る手は酷く震えていた。


こいつは幻影でしかない。撃たなければならない。



だけど…




相反する思いが交錯する。
敵を倒すことに、戦うことに躊躇いを見せなかったシュウが、迷いを見せていた。
「愛梨…俺は…俺は……」
自分の痛みだらけの過去の象徴である少女の姿を、憎悪とも悲しみとも取れる、複雑な表情で睨み付けた。
「アイリ…?」
テファはその名前を聞いて、シュウと相対している少女を見る。もしやこの少女は、彼の知り合いなのか?
けど、自分と知り合って何ヶ月か経過した今、シュウにこんな知り合いがいるというのか?テファはふと、それを疑問として心に抱いた。
ほとんど外の景色を見ないで育ってきたテファにも、あの少女の服装がなじみ深いものではないものであることを感じ取った。
なんとなくだが、シュウの昔の知り合いたちが写されていた写真に写っていた彼の友人たちのものと似ている気がする。
もしかしてと思い、テファは尋ねた。
「あの女の子は誰…?シュウの、知り合い…?」
「……」
銃を少女に向けたまま、シュウは肯定も否定はしなかった。だが、彼の表情にわずかな変化があったことに気付いたテファはすぐにわかった。
この女の子は、シュウの知っている人なのだ。
「シュウ、銃を下して!どうして銃を向けているの!?その人が知っている人なら、そんなことをしたら…」

「こいつは…愛梨はとっくの昔に死んだ!」

「え…!?」
死んだ、だって?テファは耳を疑った。言葉通りなら、この少女は紛れもなくシュウの、地球で暮らしていた頃の知人だ。警戒心の強い彼のことだから、そもそも異世界の人間がここに来るなんて普通じゃないこともあって銃を向けているのだろう。だが、まさか…死んだと彼が断言する人間が、こうして彼の目の前に現れているなんて。
「ッ!もしかして、怪獣が…」
先刻、シュウやアスカの話で、幻影を見せるという怪獣の話があったはずだ。だとすれば辻褄が合う。
事実、アスカがつい先ほど話していた、人間に幻覚を見せる怪獣が現れている。
それにしても、彼の顔をあれほど悲しみに満ちたものに一変させられる人がいたなんて…。テファは心なしか、少女とシュウの二人を見て、心がどうしてか、胸にチクリとした痛みを感じた。


「なるほど、貴様がやたら堕ちることができないのには…その小娘のせいか?」


「「!」」
二人は、その声の聞こえた方を向く。できることなら、もう二度と聞きたくなかった声。
「お前は…!」
そこに現れたのは、メンヌヴィルだった。以前と同じように下卑た笑みを見せた。それが煮え湯を飲まされたような不快感を二人に与えた。
「未練たらしい。まったくもって愚かしいものだな。こんなものに縋っているから、貴様はいまだに本当の自分を認められないのだ」
愛梨の幻影を見て苦悩する姿を、この男も見ていたのだ。だが、それに対する感想は、まるで駄作映画をフルコースでも見せられたかのような、いやそれさえも、この男との会話と比べたらずっとマシに思えるくらい、実に不愉快なものだった。
「貴様と俺は、所詮血の匂いでまみれた者同士。清涼剤程度では消しきれないほどの血のにおいがな。だからよぉ…」
残虐極まりない笑み。それを浮かべた途端、メンヌヴィルはある方角を見る。シュウとテファ、そして自分の間に立っている、少女の幻影だった。
「まさか…見えてるの…?」
子供たちには見えていなかったはずだ。自分でもどうして見えているのか、その理由はわからないが、自分たちとは特にこれと言って接点が見当たらないこの男がなぜ見えるのだ?もしや、あの男の能力によるものなのか?
だが、メンヌヴィルはそれには答えようとしない。
「綺麗な思い出など、汚れた俺たちには…」


「!や…やめ…!」
やめろ!と強く言おうとしたが、間に合うことは無かった。
メンヌヴィルが取り出した鉄製の杖が振るわれ、愛梨の幻影に降りかかった。
そして…。


「必要ない」


……!!


その光景は、二人にとってあまりに衝撃的だった。それも、この世で最も残酷な意味の衝撃だった。
愛梨の体は、棍棒に殴られたように、二人の目の前で砕け散り、石畳の上に血を撒き散らした。しかもそれだけに終わらなかった。卑劣にもメンヌヴィルは杖から、『白煙』の二つ名にふさわしい、白にも近い灼熱の炎を周囲に撒き散らした。
幻影とはいえ、遺体さえも、散り一つ残さず炎の中に消え去っていった。
幻影だからか、撒き散らされた血のあとなども跡形も無く光となって消えていった。
彼らの傍らに咲いていた、白く美しかった花も、奴の放った炎によって燃えカスと化していた。
テファは口を押さえた。吐き気がしたのか、それとも恐怖で声が出なくなったのかもわからない。ただ、残酷な光景を目の当たりにして開いた口を隠そうと両手が勝手に動いていた。
酷すぎる。外の世界をずっと見てみたいと、どこか心の中で考えていたテファにとって、あまりにも…残酷すぎた。
しかし、そんな彼女を現実に帰す事態が起きた。

まるで見せ付けるかのような、下卑た笑みを見せたメンヌヴィル。それを見た途端…

村がムカデンダーに襲われたときと同じように、



いや、おそらくそれ以上に、シュウの頭の中で…決定的なものが、




プツンと切れた…




「貴様ああああああああああ!!!」
激しい激昂だった。まるで音速とも取れる速さで彼はメンヌヴィルに近づき、その顔面を、金鉄バットでスイングをして見せたような勢いで殴りつけた。
殴り飛ばされたメンヌヴィルはそのまま石畳の上を滑っていき、誰もいない屋台に、ガシャン!と音を立てながら突っ込んだ。
それを見たテファは、恐れを抱いた。
今のシュウの顔は、見るもの全てをさらに戦慄させるほどのものだった。

まるで、彼がスペースビーストのように見えるほどだった。

「シュウ!!」
テファは今にもメンヌヴィルを殺しに向かう勢いのシュウを羽交い締めて動きを封じた。
「放せティファニア!!俺は、俺はあああああああ!!!」
いつも冷静さを保ち続けていたシュウの、今までにないほどの激情ぶりに、テファ自身も恐れおののきかけた。今すぐにでも目に映るものすべてをイライラを晴らすためだけに殺してしまえそうな、そんな恐るべき殺人衝動を肌で感じかけたほどだった。
「くくく、そうだ…もっと俺を憎め…恨め…それが…『俺たちの真の姿』へ導くんだ…より確実にな!!」
「わけのわからないことを…!!」
そんなシュウの憎悪に満ちた顔を待ち望んでいたのか、メンヌヴィルはかなり悦楽した様子で立ち上がるのだった。
「さあ、来いよ…そのまま憎しみと殺意に心をゆだね、俺のもとに来い。そしてとことん殺しあおうじゃないか…!最後に…」
口から流れ落ちた血を吐き飛ばし、さっきと同じ残虐な笑みを浮かべながら
「俺に、死体となった貴様の焼け焦げた臭いをかがせてくれ…!!俺から光を奪った…『あの男』と一緒になぁ!!!」
喚起に満ちた声でほえながら、メンヌヴィルはダークエボルバーを取り出し、そのまま炎のような黒い闇に包まれていき、黒い巨人へと姿を変えた。
メンヌヴィルが姿を変えた巨人、ダークメフィストがシュウを見下ろし、かかってこいと手招きする。
「…殺す…殺…す…!!殺してやる…!!」
迷うことは無かった。歯軋りを起こしながら、シュウはテファを振りほどこうとする。
「だめよシュウ!今、戦ったら…!!」
テファの中で激しい警鐘が鳴り響いていた。今シュウをあの黒い巨人と戦わせてはならない。もし戦わせてしまったら…。
「離せと言っているだろ!!お前こそ先に逃げたらどうだ!!」
しかし、シュウは完全に怒りを滾らせたままで治まる様子を見せなかった。だめだ、ここで彼を残しては、それこそ最悪の事態が起きかねない。
「シュウ…私もここにいる!」
テファが突然彼に同行を願い出た。一瞬、それを聞いたシュウは面食らったような反応を示した。危険度は想像もつかないほどであることは、何度も危険な目にあってきた彼女ならわかっているはずだし、今こうして目の前にいる男がどれほど危険な奴かも知っているはずだ。それなのに残るというのか。
「何を言ってる!お前はさっさとマチルダさんたちのところに戻れ!」
「でも、またあなた一人に危ない目にあわせるなんて…!」
シュウからも言われるが、テファはたやすく下がってくれようとはしなかった。だが、シュウは言い返す。
「お前と子供の頃深くかかわっていたとか言うあの妖怪が現れた時、俺を探しておきながら森の中で一時遭難したのを忘れたのか!?」
それは、テファにとって痛い言葉だった。確かにあの時、シュウの身を案じるあまり村に子供たちを残し、自分は村から離れた森の中で逸れてしまった。事態を混乱させたというべきだ。
さらに、シュウは納得しないテファに痺れを切らしたかのように、次の瞬間冷たい言葉と声を飛ばした。
「…お前がいるとかえって邪魔になる」
「……………え……」
「はっきり言う。足手まといだ…!」
「………ッ」
テファはそれを聞いた途端、呆然とした。
私が…邪魔?
これを聞いたとき、テファは自分の耳を疑った。それ以上に、その言葉を聞いてしまっていたら、マチルダさえも言葉が出なかったに違いない。
呆然とする彼女を、シュウは突き離し、目もくれずにエボルトラスターを取り出した。ふと、彼は足元を見る。辺りは炎に包まれ、少女の幻影をかたどっていたものなど無かった。

「…ぐ…うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

両手でつかんだそれを眼前に突き出し、両側にスライドさせるように、鞘から引き抜いた。
そのとき、エボルトラスターの刀身からあふれ出した光の中に、一瞬だけ…。



闇の波動が混ざりこんでいた。



その頃、マチルダたちは、ギルからアバンギャルド号に近づいてきた理由を問われた。
「で、お嬢ちゃんたち…わしらの船に一体何のようじゃ?」
「……」
実はあなたたちに船を奪いに来ました、などと場か正直に答えるべきじゃない。たとえレコンキスタに反抗していた=正義の味方なんて考えは実に馬鹿馬鹿しい。ここまで組織的に動く賊とはたいがいは享楽主義者が当たり前だ。
「おいおい、答えられないのか。まさかとは思うが土くれの姉さんよ、俺たちの船まで盗み出そうとしていたんじゃないだろうのぉ?」
図星を突かれ、マチルダは息を詰まらせた。
「その様子だと、本当らしいのぅ。さすがは土くれ。ずいぶんと図太い肝っ玉を持っておるのだな」
ガル船長は不適に笑う。自分たちの船を盗もうとした相手を懲らしめる機会を得られて嬉しがっているのだろうか。
「船長、この女とガキ共、どうするんすか?」
クルーの一人が、マチルダたちに対する処分をどうするかを尋ねてきた。マチルダは警戒し、杖を構えた。それに加え、とりあえずヘンリーの体を使っている地下水も身構える。
(やばいね…さすがにこの子達を抱えながらじゃ…)
ゴーレムを形成してぶつけても、其相応に集中力が必要だ。だが、今は子供たちがいる。あの子達に気を配りながらではうまく扱えない。地下水がいるとしても、この人数相手では分が悪すぎた。
と、そのとき、街のほうから光の柱が立ち上りだした。
最初はダイナだった。町で暴れまわろうとしているモルヴァイアに向けて身構えている姿が見えた。
「き、巨人!?」
船員たちがざわつく。
しかし、それだけではない。ダイナに続いて、また新たに姿を現した者達がいた。黒い巨人メフィストと、光の巨人ウルトラマンネクサスだ。すでに最初から、ジュネッスブラッドに形態変化していた。
「…このまま船を飛ばしても、とばっちりを受けそうだな」
グルが、ダイナたちの姿を見て、若干機嫌を悪くした様子を見せる。別に彼らを嫌悪するわけではないのだが、船を飛ばすタイミングを測らなければならなくなった。
「兄ちゃん…!」
ネクサスの姿を見てサムが声を漏らす。一瞬、我らがヒーローが来てくれたような、そんな期待を寄せていた。
だが、その期待はすぐに崩れ去る。
「ウアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
血を求める獣のような咆哮が、マチルダたちの肌に突き刺さった。
変身した途端に、ネクサスの…怒りと憎しみがこめられた拳がメフィストを殴り飛ばした。



ダイナに変身したアスカは、すぐに先制攻撃として蹴りをぶつけようとすると、モルヴァイアは機敏にバク転しながら回避、背を向けていたダイナに向けて今度は自分が蹴りを叩き込む。
咄嗟に背後を振り返ったダイナは、モルヴァイアの蹴りを両手で受け止め、そのままひっくり返す。
宙を一回転し、難なく着地したモルヴァイアはダイアの顔を殴りつけ、さらに3発ほど拳で打撃を与えようとする。
しかし、最初の一発目でダイナはモルヴァイアの拳を鷲掴みして防いで見せた。
そのまま自分のほうへ引っ張り、膝をモルヴァイアの腹に叩き込み、怯んだところで、背中から背負い投げた。
地面の上に背中を撃ちつけられもだえたモルヴァイアだが、ダイナが近づいてきた途端に、後ろ向きに足を突き出してダイナの腹をけりつける。
「グァ…!」
かすかな怯みを見逃さず、彼の頭を掴み、彼の胸元に蹴りを叩き込み、さらに怯ませたところで後ろに回り込み、彼を羽交い絞めて自由を奪う。
ダイナ…アスカはこの体制に覚えがあった。確かあいつは最初に戦ったとき、この体制で自分の左の首筋に…。後ろを軽く振り返ると、案の定奴は牙をむき出しにしていた。
「フゥゥゥ…ジュア!」
瞬間、ダイナの体が赤く光り輝いた。前回も見せた赤い力の戦士、ストロングタイプである。
「デア!!」
右腕を無理やり振りほどいた彼は、そのまま右の肘をモルヴァイアの腹に叩き込み、奴が腹を抑えながらもだえている隙に、猛烈なアッパーを食らわせモルヴァイアを殴り飛ばす。
以前、ダイナは自分ひとりではこいつの勝つことはできなかった。同じスーパーGUTSの隊員、ナカジマ・ツトム隊員の開発した特殊弾を、同じくスーパーGUTSの隊員で、隊員の中で比較的アスカと特に深い仲であったユミムラ・リョウ隊員がモルヴァイアに発射し、奴を著しく弱らせたことが勝利を呼んだ。あの時と違って今は一人で決着をつけなければならないが、負ける気は無い。
駆け出したダイナはアッパーを食らってあごを押さえているモルヴァイアを無理やり立ち上がらせると、顔面に力いっぱいの拳をラッシュで叩き込む。顔が今にも潰れる勢いだった。
いつまでもこいつに構ってるわけに行かない。
最後に一発モルヴァイアを蹴飛ばした後、ダイナは灼熱の炎のごとき赤い光球を作り出し、モルヴァイアに向けてそれをぶつけた。
〈ガルネイトボンバー!!〉
「ディアアア!!」
「グゴオオオオオ!!」
ダイナの猛烈な光球をモロに食らい、モルヴァイアは木っ端微塵に砕け、その破片は空気に溶け込むように消えていった。
「一度戦った相手に、負ける俺じゃねえ!」
ビシッと、最後にダイナは高らかに豪語した。
さて、かっこつけるのはあとだ。この世界で出会った、後輩を助けに行ってやらなくては。ダイナはすぐにその場を離れようと足を動かした。
と、ダイナはそのとき見た。新たに現れた二人の巨人を。

その片方の…助け出そうと思っていた銀色の巨人の様子が、おかしくなっていたのを。



「ぐ、おぉ…!!」
変身直後に食らった重い一発の拳を受け、メフィストは大きく仰け反った。殴られた頬を軽く拭うと、くく…と不敵な笑い声を漏らす。
「いい一撃だ…!それでいい…その無慈悲で冷酷な攻撃…!」
「……ッッ!」
立ち上がり、歓喜に満ちた声を上げていた。それがネクサスに、シュウにとって凄まじく不愉快だった。どうしてこいつはこんなに笑っていられる?人を傷つけまくって、いったい何が楽しいというんだ!
無理やりメフィストを立ち上がらせ、ネクサスはその首をつかんできつく締め上げていった。動きを取れないメフィストの胸元に鉄拳を叩き込み、手を離した瞬間乱暴にメフィストを蹴飛ばした。
地面の上を転がったメフィストは、すぐに受身をとった後に立ち上がり、右腕から〈メフィストクロー〉を出し、前に突き出して黒い光弾〈メフィストショット〉を発射する。
連射されていくその弾丸はネクサスのほうへまっすぐ向かっていく。それを、防ごうともせず、体中に闇の光弾を受けながら、ただ我武者羅に走っていく。彼が眼前に迫ったところで、ネクサスとメフィストは互いに同時のタイミングで拳を繰り出し、互いの胸元や顔に拳がぶち当たる。
「グゥ…!」「ウォオ…!!」
互いに吹っ飛び、わずかな怯みによる間を経て、すぐに二人は戦いを続行した。
「ウラア!!」
今度はメフィストのほうから攻撃を仕掛けた。繰り出されたメフィストクローのつめの先が、ネクサスの方に食い込んだ。右肩に突き刺さる激痛が彼を襲った。
激痛を覚え、右肩を掴むと、隙を突いてメフィストは脇腹に蹴りを叩き込み、完全に無防備に鳴ったところで、メフィストクローを振り回し、ネクサスの体に切りかかった。
「フン!ハァ!!」
「グォア!!?」
連続で体を切りつけられ、大きく怯んだ果てに、ネクサスはダウンした。
テファたちのそばで彼女たちを守るために、ストーンフリューゲルにも入らず、常に傍にいた。その影響で連日の戦いのダメージが回復しきれず、まだ戦闘が始まって間もない時点から体力の数分の一しか残っていなかった。
「どうしたぁ!?そんなものじゃないはずだ!もっと楽しませろぉ!!」
メフィストが、倒れたネクサスに向けてメフィストクローを振り下ろす。咄嗟に反応した彼は光弾〈パーティクルフェザー〉を発射、メフィストの顔面に打ち込んだ。
顔に一発受け、顔を抑えるメフィスト。その隙を見逃さなかった。
今度は自分が光の剣〈シュトロームソード〉を作り出し、彼はメフィストに向けて何度も切りかかった。
「デヤ!!オラァ!!ジュアアア!!!」
「グガアァ…!!」
まだ終わらせなかった。ダウン中のメフィストの腹を、彼は思い切り踏みつけた。
「フグ…ッ!!」
腹だけでなく、足も顔も、腕も…何度も踏みつけ、痛めつけていく。そこに、ウルトラマンとしての高潔な戦いの形などなかった。
無理やり立ち上がらせ、そのままメフィストを相手に正義の欠片もない、暴力という名の乱闘を続行した。


それはあまりに、正義の味方というにはダーティーすぎた。まるで村でムカデンダーを倒した時のような、過ぎた容赦の無さ。
ネクサスも、メフィストも、どちらも自分たちを満たすためだけに、周囲など顧みていない。
その戦い方は今までとはまるで別人のようだった。もちろん恐ろしい意味で。それを見ていたテファは、さっきの拒絶されたショックを忘れるほど、その戦いと…その中心にいるウルトラマンネクサスを…シュウを恐れた。彼に言われた通り、この場を去ることも忘れていた。
「やめて…」
互いに互いをなぶり続けるネクサスを見ながら、思わず口にする。
「こいつはやばいな…!」
一方で、見事モルヴァイアを撃破したダイナも、ネクサスとメフィストの戦いを見て戦慄した。どうみても、こんなのはウルトラマンらしい戦い方とはあまりにかけ離れている。映像で見た、自分や…自分の仙台に当たる光の巨人と比べても、まるで獰猛な人型の怪物が暴れているようにしか見えない。これではどっちが悪なのかもわからない。
別段ふりというわけではないが、このまま見逃すのはまずい。
「シュウ、今助けるぞ!」
すぐに加勢に向かわなければ。駆け出したダイナだが…。
それに気づいたメフィストがダイナに向けて〈メフィストショット〉を放った。
「ハァ!!」
「ウワァ!!?」
胸元に一発くらい、ダイナは弾かれる様に吹っ飛ぶ。
「貴様にはそいつの相手でもしていろ」
メフィストはダイナに向けてそう言うと、指を鳴らした。
すると、ロサイスの町全体に地響きが発生、街の中央に地割れが発生し、地割れが口を開く。
(また怪獣か!?)
とっさに身構えるダイナ。すると、地面の裂け目から一体の怪獣が姿を現した。
「あれは…!」
その怪獣は、テファには見覚えがあった。
ドレッドヘアーのような毛、大きなサルやゴリラのような容姿、体中から生えた突起…。間違いなかった。

その怪獣は、かつてテファと共に遊んだことのある怪獣、『童心妖怪ヤマワラワ』だった。

「ヤマワラワ…」
まさか、このタイミングで彼がくるとは思わなかった。でも、それでも彼女にとってヤマワラワが現れたことは、驚きのほかにもうれしさがこみ上げた。怪獣とはいえ、かつてのよき顔なじみでもあるヤマワラワが来てくれた。淡い希望を抱きかける。
「アスカさん!待って!」
新手の懐柔かと考えたダイナがとっさに身構えたのを見て、テファはすぐさま叫んだ。
「その子は悪い怪獣じゃないわ!私の昔のお友達!!」
「!?」
アスカは、シュウたちに自己紹介をしたあの後、自分のことを話したほかにも、この世界や修たちの身の回りで起きた出来事を大まかに聞かされていた。ヤマワラワのそのうちの一つに入っていた。怪獣と共存した経験がある。それはアスカ自身にも覚えのあることだった。たまたま地球に近づいてきた人のいない星の中に取り残されていた黄色い毛並みの珍獣や、宇宙に夢を抱く宇宙人の少年…サイトの生きてきた地球でも装であったように、必ずしも出会ってきた異形の存在たちが人類に害をなす存在だったわけではなかった。そして、何よりテファがこんなことで嘘をつくような子とは思えなかった。
驚きを見せはしたものの、テファの言葉を信じ、彼女に向けて頷いた。
しかし、直後に起きた現実は、そんな希望さえも無情に打ち砕いた。
「グオオオオオ!!!」
「ウワアアア!!」
なんと、ヤマワラワは…こともあろうかダイナを殴り飛ばしたのだ。
「グア!」
突然テファが味方だと主張したヤマワラワに殴られ、顔を拭うダイナ。
「ハッ!」
ダイナは片足を上げ、ヤマワラワを蹴りつけ、少し仰け反ったところで、もう一撃拳を放ち、さらにヤマワラワに顔に向けて回し蹴りを放つ。すると、ダイナからの連撃をもらって逆上したのか、さっきよりも激しき咆哮を散らしたヤマワラワは、食らいつくようにダイナに飛び掛った。
まさに文字通りの獣。ダイナの上からのしかかったヤマワラワは、馬乗りの状態でダイナの顔を殴りまくった。
「ブルオオオオオオオオ!!!」
「グゥ!ウアア!!」
「…そ、…そんな……ッ!」
ヤマワラワが、シュウと初めて争ったときと同じように、今度はダイナに襲い掛かってきたのだ。テファは、再び今の現実が幻であってくれと願わずに入られなかった。
どうしてヤマワラワがこんなことを?
かつての面影を感じさせない暴威を振るいながら、ヤマワラワはダイナを殴り続けた。
(くそ!どういうことだ!)
テファが嘘をつくとは思えない。けど、今は彼女の証言とは魔逆のことが起きている。一体なぜだ?まるでこれでは、かつて自分が戦った…宇宙から飛来した悪魔の水晶体によって狂わされた…。
(ッ!待てよ…まさか!)
ダイナは×印に組んだ両手を盾にしながら、ヤマワラワの顔を見る。その目は、血眼のごとき赤色に光っていたのだ。
『まさか、光の勇者とあろうものが、むやみに人間と親しくなった動物を虐殺するのかぁ…?』
ふと、ダイナの脳裏に誰かからのテレパシーが届いた。その声に覚えがある。ヤマワラワにも注意を向けつつ視線を傾ける。その先には、ネクサスと取っ組み合っていた最中のメフィストがいた。
「て、てめえ…!!」
間違いない。このヤマワラワという怪獣、自我を支配されているのだ。ただ、目の前の敵を倒すためだけに操られた、悪意と殺意に満ちた邪悪な獣へと。
(許さねえ…!)
害の無い怪獣を悪鬼に変えてしまうなど、許されるはずが無い。
「デア!!」
ダイナはヤマワラワの背中を蹴り上げ、ダイナはヤマワラワによる馬乗り状態から脱出した。なんとかあいつを元に戻せないだろうか?
「やめて!やめてよヤマワラワ!!」
テファはヤマワラワを見て必死に叫んだ。あの時も自分の声を聞いて目を覚ましてくれた。自分の声になら、とまってくれるはずだ。
しかし、ヤマワラワにテファの声は行き届いていなかった。それどころかダイナに対する敵意を滾らせていた。
「グルアアアア!!!」
「ウグァ!!」
ヤマワラワの強烈な体当たりが炸裂した。いくら耐久力のあるストロングタイプといえど、そのパワーの大きさは凄まじかった。モルヴァイアとの戦いで光線技さえも使用し、ダイナのエネルギーも残り少なくなっていった。
現に、カラータイマーが赤く点滅し始めていた。
しかしここで力尽きることは許されない。ネクサスが、メフィストと怒りと憎しみを持って戦うシュウのことが、今は何より重要だった。
テファの声も届かない。
『テファ、ここは危険だ!何とか気絶で済ませるから、今のうちに逃げろ!』
テファに向けてそう呼びかけ、ダイナは再びヤマワラワに向かって足を繰り出した。しかし、今度の攻撃は通らなかった。ガシッとダイナの蹴りを受け止めたヤマワラワは
「なんとか…なんとかしなくちゃ…」
逃げろ、とは言われたテファだが、このまま逃げることは…できなかった。
確かに、自分は邪魔だと…シュウから言われた。
わかっていたことではあるが、ショックだった。確かに、自分に戦う力なんてない、あるのは、自分がいつの間にか持っていた、伝説の系統といわれた魔法。でも、敵を倒せるわけではないし、まして自分に生き物を殺すことなど…。
だけど、それ以上にシュウもヤマワラワも救いたい。そう思って彼女は、杖を取り出した。
自分の忘却の魔法でなら、解決への糸口を引っ張ることができるかもしれない。
彼女はすぐに、呪文を唱え始めた。


しかし、その様はメフィストに見られていた。
何か妙なことをしようとしていると、用兵としての長年の勘が囁いていた。
邪魔をさせてなるものか!ネクサスを蹴飛ばして距離を無理やり開かせたメフィストは、なんと…
彼女に向けて〈メフィストショット〉を発射した!
「フン!!」
「きゃ…!」
自分が狙われていることに気づき、彼女は詠唱を中断し、身を伏せた。
しかし、赤い光の影が彼女の前に入ってきた。
そして、その身をもって闇の光弾を自分が代わりに受けたのだった。
「ウグァ!!」
激しい爆発が起きた。恐る恐る目を開けると、自分の盾となって今の光弾を背中に受けた、ウルトラマンネクサスの姿があったのだ。
「…!」
テファはそれを見て驚き、そして…心に強い痛みを覚えた。
足手まといといいながらも、やはり自分を守ってくれている青年に対して、感謝もあったが、それ以上に…
自分が彼の言葉通り、足手まといとなっていること、そして…そのために彼が、よりぼろぼろにになっていることに。
(やっぱり私は…)
彼の言うとおり、なのかもしれない。
そう思っていると…ネクサスの巨大な手が彼女を覆った。すっと優しく自分の手の中に収め、光線〈セービングビュート〉を使い、彼女を港にいるマチルダたちの下まで飛ばした。
「マチルダさん、ティファニアたちを連れて、先に逃げていてくれ…」
激しい殺意の奥に、僅かに残った良心からの願いを口にし、再び戦いに身を投じたのだった。



テファがアバンギャルド号のマチルダやガル船長らの前に転送され、マチルダがすぐに彼女の元に駆け寄った。
「テファ!まったくこの子は心配かけて…!」
強い心配の思いを口にし、彼女をぎゅっと抱き寄せたマチルダ。しかし、テファの様子がおかしい。何も返事が来なかったことに対して奇妙に思い、彼女の顔を見てみた。
「私は…足手まといなんだ…」
「!」
テファへの十年以上もの間、愛を持って養ってきたマチルダの身としては、こんな姿は見たくなかった。こんな、精神的に弱り果てた彼女等…愛ゆえに苦しくなった。
(ったく、あの状況じゃあいつの判断が一番利口だったからいいんだけど、後であのバカを叱り飛ばしてやらないと気がすまないね…)
冷静に考えれば、シュウの考えは理解できるのだが、それでも…テファへの愛情と子供たちの未来を糧に盗賊稼業という仕事を続けてきたマチルダにとって、納得することも許すこともできないものだった。できることならあの時、今までのシュウの異常さに対する不満を込めて、思い切り殴りかかってやりたかった。
「フーケさんよ、あんた…大丈夫か?」
駆けている最中、ギルが話しかけてきた。
「あ?」
思わずマチルダが、女性とは思えないほどのドスの入った声を返した。
「いや、その…悪い、なんでもねえ」
そのプレッシャーに押され、さすがのギルも怯んだ。今の彼女には必要以外のことは話しかけないほうがよさそうだ。
「…お頭、どうしますか?巨人たちがあんなに暴れているんじゃちと危ないですよ」
話を切り替えるように、クルーの一人がガルたちに話しかける。
一方で、ガル船長は視線をある方へ向けていた。銀色の巨人の方を、ただまっすぐ。
すると、さっきまで空賊たちに怯えていたエマが、顔を出してガルたちに正面から訴えた。
「おじちゃん!シュウ兄を助けて!」
「エマ!?」
「あの巨人さん、私たちのお兄ちゃんなの!ずっと私たちを守ってくれた大事な人なの!」
「あの巨人が…お前さんたちの?」
「ば、馬鹿いうんじゃないよ!あいつが…」
こいつらに、あの銀色の巨人たちが知り合いだなんて誰が信じるだろうか。しかも助けろだなんて。マチルダは船を奪い取ろうとした自分たちのいうことなど聞くはずがない。
「…お嬢ちゃん、アルビオンから抜け出したいか?」
しばらく閉ざしていた口を、ガルが開いた。
「あぁ…そうだよ」
「わしらとしても、あいつらにうろつかれると困る、そしてあの巨人には借りがあるからな」
「え?」
借り、と聞いてキョトンとするマチルダ。一方でグルもその反応を意外に思った。
「聞いてないのか?正体が何であれ、わしらは以前、王党派が壊滅した際、あの巨人に助けられたのじゃぞ」
ガル船長たちは、以前ワルドの裏切りが発端となって起きた、あのときの事件でベロクロンに襲われたところをネクサスがけつけて切れたことに恩義を覚えていたのだ。
そういえば、シュウの奴、テファに正体がばれる以前まで、やたら姿を消すことが多かった。おそらくあちこちで怪獣と戦っていたことが容易く読み取れたのだが、まさかこんな連中までも救っていたとは。
「だが嬢ちゃん、助けることは今のわしらにはできねぇ。まだ我々はようやく再結集といえるだけの形となったばかりだ。グレンがいたなら話は別だったろうけどな」
「そ、そんな…!」
助けたくても、助けられない。告げられた言葉は子供たちには残酷なものに聞こえた。もっとも、メフィストクラスの強敵となると、用心棒でもあったグレンファイヤーのいない炎の空賊たちが束になったところで勝ち目はない。無駄な犠牲を生んでしまうだけだ。
「今のわしらにできることは、嬢ちゃんたちを地上に送ってやることくらいだ。悪いが、それで勘弁してくれ」
「で、でも!」
何とか助けてもらえないだろうかと再度懇願しようとしたエマだが、マチルダが彼女に向けて口を挟んだ。
「…エマ、そこまでだ。あたしたちは元々アルビオンから脱出するために、こいつらの船を拝借しようとしてたんだ。そいつらがあたしたちを、自分から地上に送ってやるなんて言ってるんだ。それだけでも儲けもんなんだよ」
「………」
エマは納得しきれない様子で押し黙った。
「あのバカのことだ。最初からこうなることは覚悟していたはずだよ。…後で説教してやるけどね」
続けてそう告げた時のマチルダの顔は、苦虫をかみつぶしたようなものだった。確かにあいつの都合や意志を考えて、あまりウルトラマンのことに関することや、彼の戦いには口を挟まないようにした。でも、それが災いした。テファが傷ついてしまい、この事態を防げなかった自分が情けない。
「…ごめんな、エマ」
そっと、エマを優しく抱き寄せるのが今の自分にできる精一杯だった。
「船長!船の出航準備が整いました!」
すると、突然船の内部に続く入口から、炎の空賊団のクルーと思われる男が飛び出し、ガルたちに出向の準備がすでに整っていたことを伝えた。
「な!?いつの間に…!?」
自分たちが気づかない間に、船の主導権をとっくに自分たちのもとに戻していたことに、さすがのマチルダも驚愕した。
「ふ、わしらは空賊で、元箱の船の持ち主だったのだぞ?」
どうやら、マチルダたちと話している間に、抜かりなく出向に必要な準備段階を済ませていたのだ。レコンキスタの中にも自分たちの仲間を送り込み、自分たちの自由の翼であるアバンギャルド号奪還のこの日に備えていたほどだから、不可能ではないのだろう。
すでにアバンギャルド号は、炎の空賊団の船にふさわしく、炎を吹きながら、しばらくぶりに息を吹き返した。
「船長、これでいつでも行けます!」
「よし、嬢ちゃんたちとチビ共。振り落とされるなよ?
アバンギャルド号、発進!向かう先はトリステインだ!」
ガル船長の発進宣言とともに、アバンギャルド号はついに、空へ飛び立ち始めた。かつて盟を結んでいたウェールズと深い接点のあるトリステインの方がよいと思ったのだろう。
時間をほとんどかけることなく空に浮かび、トリステインの方角に向かった。



「グゥオ!!」
カラータイマーの点滅が早まってきた。そろそろ何とか決着をつけておきたかったダイナ。
…どうする?さっきまであれだけのだけ気を加えたというのに、ヤマワラワは倒れる気配を見せなかった。まるで痛覚さえも失ったように、ただ狂ったように暴れてつづけ、ダイナを襲う。
これ以上はストロングタイプのままでいるとエネルギーを浪費してしまう。ダイナは元の標準スタイルであるフラッシュタイプに戻り、一気に片を付けようと両腕を十字型に組んだ。
…が、そこで彼は止まった。今光線を撃ってどうするのだ?そもそも、あの怪獣はテファの…!
(くそ…!!)
本来はテファの大事な友達にして心優しき怪獣、その事実がダイナの腕を鈍らせてしまっていた。光線技でなら確かにこの戦いを終わらせることができるかもしれないが、そんな非道な勝ち方…アスカ・シンとしても許しがたいものだ。
だが、他に打つ出がない…。こんな嫌な形の戦いなど二度とあってほしくなかっただけに、ダイナは苦悩した。
しかし、直後に…ダイナを更なる苦悩に陥れる事態が起こる。



ネクサスとの戦いで高揚感に浸るメンヌヴィル、メフィストだが…ここで彼の脳裏に、女性の声が轟く。
『あなた何を遊んでいるの!今だって虚無の娘にまで攻撃を仕掛けるなんて…さっさと虚無の娘を回収しなさい!』
シェフィールドの声だった。おそらくガーゴイルを使い、メンヌヴィルが頼まれた仕事を約束どおりこなしているかを確かめにきたのだ。
『おっと…すまんすまん、つい血が滾ってしまったわ』
水を刺されて機嫌を悪くすることは無かった。よほどネクサスとの戦いが楽しかったらしい。しかし、シェフィールドは、まったく詫びれもしないこの男に対して露骨な不快感を覚えた。
やはり、こんな危険な奴に頼ったのは間違いだったかもしれない。黒いウルトラマンの力を持ち、ただ己の殺戮衝動を満たすためだけに戦う最低最悪の男。テファを確実に懐柔するための強い要素でもあるヤマワラワも、ネクサスとの一騎打ちに打ち込むためだけにダイナに差し向けており、最早この男に頼んだのは失敗としか言いようがなかった。我ながらみっともない話だ。これでは自分の主になんと報告すればいいものか。
(いずれ…こいつと組んでいたあの女ともども始末して、その骸を利用してやるわ…)
心の中で、いずれこの男を処分することを誓った。
(って、それよりも、虚無の娘の方ね)
今は、自分の主から捕獲を命じられた虚無の娘…ティファニアの方が優先だ。
アルビオンの空を飛ぶガーゴイル、シェフィールドはそいつの目から今回の戦いの流れを観察していた。その手には、怪獣を保管している『バトルナイザー』が握られていた。
「駒は一体でも無駄なく大事にとっておきたかったのだけど仕方ないわ。
さぁ…お行き」
軽くバトルナイザーを指揮棒のように振るうシェフィールドのガーゴイル。すると、アルビオン大陸のかなたから…
「グゴオオオオオ…!!」
遠い彼方から巨大な影が2匹ほど飛来した。このアルビオンという縄張りを外敵から近づけさせないために、アルビオン大陸の周囲の空を飛びまわっていた怪獣たちだ。
その怪獣は、タルブでの戦でもシェフィールドが脱出手段として利用した『宇宙大怪獣ベムスター』と、『始祖怪鳥テロチルス』。狙いをアバンギャルド号…それも、その甲板からネクサスを見つめ続けていたテファに狙いを定め、急速接近した。


「!」
二大怪獣の出現に、いち早く気付いたのはアスカ…ウルトラマンダイナだった。もとよりヤマワラワを助ける手段がすべて封じられていた。メフィストのせいで、ネクサスもこちらに来れる状態でもない。こうなったら、テファたちの安全を確保するためにも自分がいかなければ。
ダイナはヤマワラワを蹴飛ばし、彼女たちを守るべく空に飛び立ち、ベムスターたちを出迎えに行く。
本来迅速な行動を求められるとき、ダイナはもう一つの…速さと超能力に秀でた青い姿『ミラクルタイプ』に変身するべきだったが、それはできなかった。ダイナは一撃必殺の技さえも持つのだが、それ故なのか、一度の戦闘中に1回しかタイプチェンジを行うことができないという致命的な弱点も持っていたのだ。こればかりは、長年宇宙を飛び回り戦い続けてきたアスカが克服しきれなかった課題でもあった。
元の、フラッシュタイプのまま彼はアバンギャルド号に近づくベムスターとテロチルスを迎え撃った。
「デヤア!!」
接近しつつ拳を繰り出し、ベムスターの背中を殴りつける。しかし大きなダメージには至らなかった。もうこの時、ダイナのエネルギーはさっきよりも少なくなっていたのだ。いつまでこの姿を保てるかもわからない。いや、いずれにせよ、もうじき変身が解けてしまう。ここは大空、そうなったらテファたちだけでなく、自分も助からない。
ベムスターが反撃にダイナに向けて突進する。それを消耗していたこともあって、避けきれず正面から受け止めるしかなかったダイナは、受け止めた態勢のままベムスターに押し出されていく。
その隙をついてか、テロチルスがアバンギャルド号に向かっていく。
「怪獣が近づいてきた!」
「砲門を開け!大砲発射!」
空賊たちも、自分たちの翼も同然の船を守るべく、大砲を用意して迎撃態勢に入り、反撃の大砲を放ったが、やはり防ぎきれるほどの威力を発揮できなかった。
「邪魔だ!」
倒せなくてもいい。今はとにかく彼女たちを送り出さなくては。ダイナは乱暴にベムスターを引きはがし、頭にひじ打ちをたたきこんで地上に向けて突き落とした。
「ベギィ…!」
脳天にきつい一撃をもらい、ベムスターは昏倒して落ちていく。致命傷でなくともしばらくは動けないに違いない。
そして、船に向かっていくテロチルスの翼に向けて、両腕を十字に組んで必殺光線を放った。
〈ソルジェット光線!〉
光線は、テロチルスの翼の付け根に直撃、テロチルスは地上に落ちて行った。
しかし、必殺光線の威力は弱く、テロチルスを倒すまでに至らなかった。これ以上ダイナの姿でいることはできなくなり、アバンギャルド号に向かう分の体力も残されていなかった。やむを得ず、ダイナは一筋の光と化して、地上のどこかに降りて行った。

消える直前に、ネクサスの身に起きた異様な現実を目の当たりにして…。


アバンギャルド号が、ついにアルビオンの空へ飛び立ち始めた。
これでテファの身の安全は、確保した。
安堵していると、再びメフィストからの光弾がネクサスの体に降りかかった。
「ッ…っグ…!」
背中に痛みを覚えながらも、ネクサスは背後を振り返る。光弾を撃ってきたメフィストは、我が物顔でネクサスの背後に立っていた。
「まだ光に未練があるようだな?」
「未練?そんなの関係あるか…!」
メフィストが、心の中を見透かすように、その漆黒色の瞳でネクサスを凝視する。
「くくく…ずいぶん足掻くものだな…。だが所詮、貴様も俺と同じ…血に飢えて血で、赤く染まった存在…」
「黙れ!!」
これ以上こいつの声を聞きたくなかった。激情に駆られ、ネクサスは右拳を突出し、メフィストを空中へ舞い上げた。
「デヤアアア!!」「ウグゥ…!!」
はるか数百メイルまで飛ばされたメフィストを、彼は逃がすまいと飛び立った。
メフィストは空中で受身を取って急ブレーキをかけ、近づいてきたネクサスに向けてメフィストクローを構える。ネクサスが接近してきた。彼は急速接近中にシュトロームソードを展開、メフィストに近づいたところで剣先をメフィストに突き出した。
その目に、憎悪と怒りを滾らせながら。
「ハアアアアアアア!!!」
初撃目はメフィストクローによって塞がれたが、それからもネクサスは剣を突き出し続け、防がれるたびにまた突き出す、の繰り返しのラッシュを続けた。対するメフィストも、高揚感に浸りつつも、次々とシュトロームソードの剣撃を防ぎ、同時に自分も突き返して反撃する。
もしゲームだったならばボタンを連打したくなるような展開。はるか上空にて、愛用の武具を用いたラッシュを繰り返す二人の巨人
「そうだ!それでいい!じわじわと俺の体に伝わってくるぞ!!この血を血で争うこの感じが…俺に与えてくれる!!俺が生きているという実感をなぁ!!」
シュトロームソードの一撃を交わしつつ、自身もメフィストクローによるラッシュ攻撃を繰り出し続けるメフィストは、激しい興奮と高揚感をむき出しに叫んだ。
「黙れと言ってるだろ!!俺は許さない…村を襲い、ティファニアたちを、…愛梨を傷つけた貴様らを…。
覚悟しろ…今すぐ殺してやる!!」
先ほどテファを狙われたこと、彼女と深いかかわりを持つ、優しき妖怪をビーストと同じようにして、無関係だったはずのダイナを襲わせる。
そして…幻影とはいえ、かつての大切な人をむごい形で葬ったこの男への憎悪がほとばしる。
「くっくっく…たかが幻影を傷つけられて滑稽なことだな…それで正義の味方のふりをし続けらあれるのも今のうちだぞ。
だがそれでいい…!!憎しみと怒りで心を闇に染めろ!!それこそが、俺たちを…『定められた運命』へ近づけるのだ!!」
「貴様ぁ…!!」
憎悪が無尽蔵に膨れ上がっていく。いたずらに他者を傷つけ、嘲笑うこの男への憎悪に。
この男に苦戦をし続け、テファたちを脅威にさらしてしまっている無力な自分にも…憎悪が膨れ上がった。
「足掻くなよ…所詮お前も…俺と同じなんだ」



「う…ぬああああああああああああ!!!!」



瞬間、ネクサスの体中から、おぞましいほどの、真っ黒なオーラが発生し、彼を包み込んだ。
その光景は、アバンギャルド号の甲板からずっと見続けていたテファの目にも行き届いていた。
その時の彼女は…見てしまった。


シルエットはそのままに、ウルトラマンネクサスの体が…





黒く染まり、目も血のような紅の光を帯びていた姿となっていたのを。





「くくく…ふははははははは!!!」
これを待っていたとばかりに吠えたメンヌヴィル、メフィストは、ネクサスに向かって突進飛行した。
対するネクサスも、メフィストに向かって一直線に飛ぶ。正気を忘れ、目に映るもの全てが敵のように見えた、理性の狂った怪物のような突撃っぷりだった。
『目の前の敵を殺す』、ただそのためだけに。そして…




メフィストとネクサスが、彗星のごとき勢いで、互いに衝突した。





その影響で、アルビオンの空に激しすぎる大爆発が発生した。
爆風はアバンギャルド号にも伝わり、甲板にいるものは振り落とされかけ、内部にいるクルーたちも衝撃による揺れに襲われた。
「きゃあああああ!!!」
「うわああああああ!!」
甲板の手すりなどにしがみつき、衝撃に耐え抜こうとするも、子供たちはおろか、マチルダの口からも悲鳴が轟いた。
やがて、アバンギャルド号はその衝撃に耐えきれず、バランスを崩して、トリステインの方へと墜落していく。


ヤマワラワも、ネクサス…シュウに対しても、結局何もしてやれなかった…。
「シュウ…」
ティファニアは、薄れ行く意識の中…。

祈るしかなかったのだった…。

 
 

 
後書き
ようやくアルビオン脱出編を書ききった…といっても、自分でも気づかないほどの不安要素だらけな話かもしれません。なんとか次回に繋げられるように都合のいい展開を考えることさえも一苦労です。
皆さんは今回のお話はどうだったのだろうって、どうしても不安に駆られます。だから、どこまで体現できるかはわからないですけど、おかしいと思うのなら是非に言ってほしいですね。

次回から、久しぶりにサイトたちを登場させます。シュウばかり目立たせた展開ばかりで影が薄くなっているかもしれないですが、原作主人公らしくキャラを立たせていきたいです。
メインヒロインでもあるルイズとハルナにもがんばらせていきます。
 
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