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必殺クッキー手裏剣

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必殺クッキー手裏剣

                   必殺クッキー手裏剣
 岩風舞の家は代々忍者の家系である。今時忍者なんてものがいるのかと多くの者はそのことからいぶかしむ。しかしなのだった。
 紛れもなくだ。彼女の家は忍者の家系だった。空手や剣道と共にだ。手裏剣も教えていればその忍術も教えている。それで実際に食べているのだからこれでは誰も疑いようがなかった。
 そして彼女もまた忍者だ。所謂くノ一でだ。敏捷な身のこなしを活かして高校では陸上部にリアチーディング部を掛け持ちしている。部活で青春を謳歌しているのだ。
 青春を謳歌していればだ。部活だけでなくその他のことについても興味を抱くものだ。そしてそれが何かというとだ。
 恋である。彼女も年頃の女の子、しかも明るい青春を謳歌している女の子としてだ。恋愛というものをするようになったのだ。その相手はだ。
 彼女のクラスでクラス委員をしている田所裕作である。部活は入っていないが勤勉で真面目な性格をしている。眼鏡の似合うすらりとしたスタイルをしており成績優秀なことで知られている。舞は彼のその頭のいいところとその性格、そして容姿に惚れたのである。そして惚れればだ。
 そのまま一直線だった。この辺り彼女はかなり純情だった。くノ一の仕事は女の武器を使ったものもあるが今そんなことはしない。彼女は正統派の忍者であり真っ当な女の子だったのである。
 そして彼女はだ。クラスメイト達からだった。好きな相手にはどう告白するべきか相談したのだ。その辺りも普通の女の子だった。
 そしてその普通の女の子としてだ。彼女は相談をしてだ。決めたのである。
「よし、私やるわよ」
「やるって?何をやるの?」
「まさか忍術を使うとか?」
 女の子達はだ。彼女の家が忍者の家であり彼女自身忍術を嗜んでいるのを知っているからこそだ。こう尋ねるのだった。
「それでどうするの?」
「何するのよ」
「忍術はともかくとして」
 この辺りはぼかした。はっきりと言うことを避けたのである。
 そしてそのうえでだ。舞は言ったのである。
「私だって女の子なのよ。だからね」
「まあとにかく。何かするのね」
「田所君に」
 実はもうばれていた。舞が彼を好きなことはだ。そもそも恋愛相談をしにきたからにはだ。何かをしないということは誰も想定しかなかったしできるものでもなかった。こうして彼女達は舞にこう尋ねたのである。
「いよいよね」
「それをするのね」
「まあね。私はやるわよ」
 舞は両手を拳にして言った。
「断固としてね」
「で、どうするの?」
「具体的にはね。何をするのよ」
「何か美味しいお菓子ないかな」
 急にしおらしい感じになってだ。舞は皆に言ってきた。
「プレゼントするような感じの」
「自分で言ってるけれど」
 そのだ。プレゼントのことだ。そのことを自分で言ってしまった舞だった。
 しかし何はともあれだった。舞は皆にそのプレゼントに合うお菓子を教えてもらったのだった。そしてであった。
 ある日だ。その裕作の下駄箱にだ。こんな手紙が入っていたのだった。
「何かな、これって」
 その日の放課後である。第三校舎の調理室に来られたしとある。筆で達筆な感じで書かれている。正直これで何が何なのかわかる者は少ないだろう。少なくとも裕作にはわからなかった。
 来られたし、と筆で書かれているから果たし状かと思った。だが今時果たし状もないと思いその可能性はすぐに打ち消した。
 そして何はともあれ放課後その調理室に向かった。調理室の中は誰もおらずガスの点いていないコンロや調理器具が見える。壁や床の白と器具の黒の部屋の中にはだ。彼以外は誰もいないように見えた。
 しかしここで、だった。不意にだ。
 彼の横からだ。何かが飛んで来た。それは。
 裕作の制服の既に突き刺さっただ。それはだ。
 十字のものだった。しかも三つ程度ある。それぞれにだ。こう書かれていたのだった。
『田所君、私と交際して下さい』
『交際してくれるならこれを食べて下さい』
『岩風舞』
 こう書かれていたのである。それを見てとりあえずだ。その十字のものを手に取りだ。書かれている文字をまじまじと見直した。
 そしてそのうえでだ。頷いてからだ。その十字のものそのものを見た。それは。
「クッキーだったんだ」
 それだったのだ。十字のそれはクッキーだった。白く焼かれた奇麗なクッキーだった。
 彼はそれを手に取ってだ。にこりと笑ってだ。そのうえで食べたのであった。
 彼がその三つのクッキーを食べるとだ。まさに風の如くだ。舞が出て来て言うのであった。
「いいの?私で」
「うん。こんな僕でよかったら」
 笑顔で応える裕作だった。そうしてだった。
「クッキー。もっと食べさせて」
「これからも?」
「そう。これからも」
 こうだ。笑顔でその舞に話すのである。
「そうしてくれるね」
「田所君さえよかったら」
 舞もだ。真っ赤な顔を綻ばせて応えた。こうして二人は交際することになった。
 しかしだ。ここで、だった。裕作は温かい笑みを苦笑いに変えてだ。舞に言った。
「クッキーは美味しかったけれど」
「けれど?」
「今度からは。手裏剣にしたり投げたりしないでね。普通にね」
 こうだ。舞に話すである。
「普通に焼いたクッキーを御願いするよ」
「う、うん」
 舞は困った顔になってだ。それでだった。
 裕作の言葉に小さく頷いてだ。そうしてこう言った。
「今度からは普通のクッキーをね」
「食べさせてね」
「そうするから」
 こうしてだった。舞はくノ一だがもう裕作に手裏剣は投げなかった。その代わりにだ。このうえなく温かい心が篭もったクッキーを焼くのだった。想う相手に対して。


必殺クッキー手裏剣   完


                        2011・5・13 
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