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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life23 転生天使!転生麻婆!?中編 ~赤龍帝、兵藤一誠VSこの世全ての辛み、言峰綺礼~

 
前書き
 サブタイトルの『この世全ての辛み』はアンリ・マーボーと読みます。

 注:本人たちは最初から最後まで真面目です。
   不真面目なのは私、昼猫だけです。

 今回の主役は一誠となります。

 ではどうぞ。 

 
 旧校舎のオカルト研究部の部室内ではリアス及び眷属達とイリナだけがいた。
 ソーナ達は、2学期が始まるまでに仕上げておかなければならない生徒会としての書類作業が残っているので、言峰神父の手料理が完成する待ち時間の間に熟してくると眷族全員を引きつれて行ったので居ないのだ。

 「まだでしょうかね?」
 「仕込みは済んでいたのだから、それほど時間を要する事は無いでしょう」

 そんなこんなで、リアス達は皆料理の完成を待ちきれない様子だ。
 そこで転移魔法陣からアザゼルがやって来た。

 「先生!」
 「意外と早かったわね?アザゼル」
 「まぁーな」

 アザゼルは、リアス達に覇気のない返事で答えた。

 「その様子じゃ、あんまりいい成果は上がって無さそうね?」
 「ご名答だ。今のところな・・・」
 「今のところ?」

 覇気がない割には歯切れが悪いので、リアスは怪訝に思った。

 「情報自体は昨日までとさほど変わっちゃいねぇが、アフリカや欧米当たりの主神たちがどうにも消極的なんだよ。Kraの件について」
 「それってもしかして、欧米の主神たちがKraの事を庇ってるの!?」

 アザゼルの言葉にリアスが飛びついた。
 世界の3分の一を占める大陸の主神たちが、揃って危険人物と目されている存在を庇っているのだから当然と言えるかもしれないが。

 「証拠はないが疑わしい事が無い訳でもないんだよ。Kraの情報で如何やってるかは知らないが、大勢の人間達の記憶・・・・・・いや、遺伝子に呼びかけて過去の祖先の祈りの蘇生が出来るんだよ。そして最近、欧米周辺の神話が国レベルで徐々にだが復活してるんだ」
 「つまり欧米周辺の神話の主神たちは、自分たちの神話への信仰心の復活のためにKraをゲストに招いている可能性があるの?」
 「ああ。だが結局は可能性でしかないから押し問答なんて出来ないしな。神も魔王も失った俺達は、何所までいっても弱者側でしかなくなったからよ。最近和平を謳い出したのも俺達が最初だから、余計に無理だな」

 アザゼルの説明に溜息を吐くリアス達。
 そこへ、士郎が調理するためにと増設したキッチンから、言峰綺礼が出て来た。
 それにアザゼルが気づく。

 「おっ、天界側のスタッフが2人来るって聞いてたが、こりゃトンデモナイ戦力が来やがったな」
 「これはアザゼル総督閣下、お初にお目にかかります。しかし開口一番にご挨拶ですね」

 綺礼はアザゼルの皮肉にも、にこやかに対応する。
 そんな綺礼にリアス達が食い付く。

 「言峰神父!出来上がったのかしら!?」
 「いや、後は待つだけなのだが、十数分ほどで出来上がるので待ってもらいたい」

 綺礼の制止に気が早かったかと反省するリアス。
 そんな周りの空気に何だとアザゼル1人だけが訝しむ。

 「何か作ってるのか?」
 「ええ、お昼時ですので麻婆豆腐を多め(・・)に。――――申し訳ないがお米も拝借させて頂いた。リアス嬢たちは育ちざかり故、多く食べるかと思い、ご飯も炊いたが余計なお世話だっただろうか?」
 「いえ、有り難いわ。そうだ、アザゼルも食べるかしら?」
 「おっ?いいんなら遠慮なく貰うぜ?言峰綺礼司祭枢機卿の作る中華料理の中でも麻婆豆腐は、絶品だって話だからな」
 「その話はイリナから聞きましたよ。先生」
 「なぬ?」

 一誠の言葉に釣られて辺りを見回せば、初見の少女――――紫藤イリナをアザゼルが視界に収めた。

 「お前か・・・。お前は確かミカエルの“A(エース)”だったか?」
 「はい!この度、駒王町で働くことに――――」
 「そんな堅苦しくなくていいぞ?今は世間の目も無いからな」
 「・・・・・・・・・・・・改めましてすいませんでした。言峰神父」
 「いや、気にしないでくれ」
 「?」

 主語の無い突然の綺礼への謝罪に、アザゼルは首を傾げた。
 そんなイリナ達とは別に、リアス達がアザゼルの言葉の一部に首を傾げる。

 「先生、ミカエル様の“A(エース)”って何ですか?」
 「ん?何だお前ら、聞いてないのか?そこの2人とも、転生悪魔ならぬ転生天使だぞ?」
 『なっ!!?』

 アザゼルのカミングアウトにリアス達は大いに驚く。
 特に驚いているのはゼノヴィアとアーシアだ。
 元教会の関係者だった彼女たちは、人間から天使に転生できることを知らなかったからだ。

 天使化、或いは転生天使。
 聖書の三大勢力が和平条約締結の折、天界側は堕天使と悪魔の勢力から提供された技術を転用して可能にしたシステムだ。
 天使化した者たちはトランプに倣って、エースからクイーンの配置に置かれる。
 そしてキングを元々の天使が担うと言うシステムだ。
 12人いるのは12使徒から取っとものと思われる。
 彼らは皆『御使い(ブレイド・セント)』と称されている。
 このシステム上のキングは、今はまだセラフだけだが何れは上位天使たちにも適用されるとの事らしい。
 そしてトランプ通り、切り札のジョーカーもあるようだ。
 ちなみに、いずれこのシステムを使い悪魔たちとのレーティングゲームへとも検討中らしい。
 この説明を綺礼から聞き終えたリアス達は胸を躍らせた。

 「楽しめそうね」
 「面白そうですね」
 「そんで拳聖二代目、お前は誰の天使で何所なんだ?」

 リアス達をよそに唐突に話を変えるアザゼルに、綺礼は説明口調で答える。

 「ガブリエル様のJ(ジャック)を拝命いたしました。私の様な粗忽者には過分ではありましたが、罪深いこの身に何ができると愚考しました時にセラフの方々から差し出さってくれた手を取る事だと気づき、謹んで引き受けました」

 そう言った瞬間に神々しい天使の羽が綺礼の背から顕現した。
 この時を逃せば自分の登場も霞と消えると焦ったのか、イリナも横に並んで天使の羽を顕現させる。

 「どう?綺麗でしょ、ゼノヴィア」
 「ああ、美しい羽根だな」
 「とってもお似合いですよ、イリナさん」

 ゼノヴィアとアーシアに褒められて嬉しそうにイリナは笑った。

 「む、私はそろそろ厨房に戻らせてもらいます。まだ待つ必要はありますが、昼食を任された以上は僅かな失敗で味を落としたくありませんので」

 何所までも腰を低くしてキッチンに戻る綺礼を、料理への期待度からさらに胸を躍らせるのだった。


 -Interlude-


 「む、聖女アーシアにシスター・イリナ、それに戦士ゼノヴィアは何処に?」

 自慢の麻婆豆腐を完成させたのか、戻ってきたら教会3人組の姿が無かった。

 「お手洗いに行きましたわ。ですから心配しなくてもよろしいかと」
 「なるほど。ではソーナ嬢を待つのもありますし、彼女たちも待つとしま――――」
 「いや、ワリいけど俺は忙しいからよ。先に食わせてくれねぇか?」

 絶品と噂される料理をみんなで食事するために待とうと言う空気をぶち壊すアザゼルに、リアスは怒る。

 「ちょっとアザゼル!少しくらい待ちなさいよ!?」
 「そうですよ先生!俺だって腹ペコ(・・・)なんですから」
 「チッ、わーたよ。なら――――」
 「味見程度であれば、ドウゾ」

 味見を取る時の小皿よりも少し大きめの皿に、赤く赫く赤い赫い麻婆豆腐がよそってあった。

 「おっ、気が利くな!」
 「こ、言峰神父!」
 「与えたら甘やかせる事に成るので要りませんのに・・・」
 「いや、総督閣下も働きづめだろうし、一足先に味見程度であればいいのではないかとな」
 「むぅ」
 「仕方ないですわね」

 綺礼の言葉に渋々黙る面々。
 それに対してさらに気が良くなったアザゼルは、最初の生贄として麻婆豆腐を口にする。

 「んじゃ、先に遠慮なく頂くぜ?あんむ!・・・・・・・・・・・・ん?・・・・・・んぐっ!?」
 「先生、如何したんですか!」

 嬉しそうに口に放ばってから少しして悶え苦しむように口を押さえるアザゼルに、周りが驚いた。
 その姿はまるで、サスペンスドラマで自殺に見せかけて青酸カリ入りの飲料水を飲んで殺される、役者のような光景だったからだ。

 「ゴフッ、げぶぅ、ごぶっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そうして悶え苦しみながら、最後には白目を剥いたまま背中から床に崩れ落ちるのだった。

 「先生ーーーーーー!!!」
 「アザゼルぅーーーーーーー!!?」

 周りが急いでアザゼルに駆け寄る時に外の扉が開いた。


 -Interlude-


 ソーナ達はちょうど作業を終えた所にリアスから連絡が入ったので、オカルト研究部前まで戻って来ていた。

 「楽しみですね、会長」
 「そうね。中華料理自体久しぶりだから、楽しみだわ」

 そう言いながら扉を開いた瞬間、彼らが一番最初に見たのはアザゼルが崩れ去る瞬間だった。
 それを見て悲鳴を上げながら駆け寄るリアス達。
 いったい自分たちが居なくなっている間に何が起きたのか、解らずにいた。

 「兵藤!一体何が起きたんだ!?」
 「匙か!それが俺にもよく解らないんだ?」

 そうして事情説明しながら何人かがアザゼルを介抱する。

 「つまり、言峰神父の麻婆豆腐が原因だと?」
 「そうとしか考えられないよね?」
 「言峰神父、これは一体如何いう事かしら?貴方はまさか、アザゼルに殺意を抱いていてこんなことを?」

 声に怒気を孕めながらリアスは綺礼に問う。

 「待って欲しい。確かに麻婆豆腐を作ったのは私だが、これは何かの間違い、或いは総督殿の食合わせが悪かったのでは?」
 「誤魔化すつもりですか?」
 「誤魔化しているワケでは無い。そもそもそのような気を起こしようモノなら、私は既に堕天している身だと思うのだがね?」

 綺礼は身の潔白を証明するために、背中から転生天使の証である純白の羽を生やした。
 これが堕天すると漆黒色に成るために瞬時に見分けがつく。

 「あら、ホント。なら如何いう事なのかしら?」

 リアスは、まるで知恵の輪の様な謎に頭を悩ませている。
 因みに、綺礼の背中の天使の羽について聞いていなかったソーナ達は各々驚いていたので、朱乃が説明に回っていた。

 「ふむ、世の中にはショック療法と言うモノがある。まずは原因究明よりも総督殿の意識の回復を優先させたいのだが、如何だろうか?リアス嬢」
 「・・・・・・・・・そうね。お願いします」
 「任された」

 提案を聞き入れられた綺礼は、何故か麻婆豆腐を蓮華で救い取ると、そのまま気絶して倒れているアザゼルの横に立つ。
 そして蓮華がふわっと光り出した。

 「私が殺す(食材を)。私が生かす(食材を)。私が切り付け私が混ぜる。我が手を逃れうる食材は一つも無い。我が目の届かぬ食材は一つも無い」

 何故か霊体を昇華させる洗礼詠唱の似非版を唱え始める綺礼に、困惑する者がチラホラと出始めた。

 「料理されよ。醗酵された豆腐、調理されたい辛みは全て私が招く。私に委ね、私に捕まり、私に従え。休息を、時を忘れず、愛情を忘れず、特製の(じゃん)を忘れず、運びは速く、あらゆる辛みを思い出させる」

 綺礼が似非詠唱を噤むたびに、麻婆豆腐が輝いて行く。

 「装うなかれ。苦味には旨みを、甘さには辛みを、冷たさには熱さを、塊にはとろみを、試行錯誤にて完成を」

 似非詠唱とは言え輝きがあまりに強いモノだから、ピリピリと若干悪魔である周りの彼らは痛みを感じ始めた。

 「休息は私のおたまに、貴方の皿に料理を注ごう。最高の旨みは、生の中でこそ与えられる。――――許しを此処に、調理した私が誓う」

 いよいよ大詰めと言った所か、綺礼は片膝を付いて救い取った麻婆豆腐をアザゼルの口元に寄せる。
 そして――――。

 「――――――――“この魂に麻婆を(キリエ・エレイソン)”」

 光輝いたまま麻婆はアザゼルの口内へ入っていった。
 当のアザゼルは気絶したままだと言うのに、器用に噛んでから飲み込んだ。
 そして三拍置いてからアザゼルは立ち上がった。

 「アザゼル!」
 「良かったです、先生!それで・・・・・・・・・如何したんですか?」

 気が付いたアザゼルに駆け寄るも、当の本人の様子がおかしかった。

 「あ、ああ、ああああぁああああ・・・・・・・・・・・・ぐぅ、ぉぁあああああああああああああ!!!」
 『!!?』

 アザゼルは奇声を上げながら、まるで誰かに殴られるように胸から上を激しく様々な方向に動かしていく。

 「あああああぁああああぁああ・・・・・・がっ、ぐっ、ごっ、げっ・・・・・・ごぅぁはッッ!!」
 「アザゼル!!?」
 「先生ぇええええええええええ!!?」

 ついには、上に向けて豪快に血を吐きながら気絶した。
 一誠達がアザゼルに呼びかけるも反応が無く、まるで死んだように気絶していた。

 「何故だ!?何故総督殿は私の作った麻婆豆腐を受け付けないのだ!天使と堕天使は生物学上、同じ構成物質で成り立っているはずだ。なのに何故・・・・・・少なくともガブリエル様にはいつも好評の賛辞を頂いていると言うのに・・・!」

 当の料理人は苦悩しているが幾らなんでもこれは矢張りおかしいと、綺礼にまた尋問しようと考えた時に扉が開き、アーシアたちが帰って来た。

 「遅くなりました」
 「手間取ってすまない・・・・・・・・・っと、まさかそれは・・・!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 イリナとゼノヴィアをよそにいち早く気づいたアーシアは、祈りを奉げていた。
 因みにリアス達が壁になってアザゼルが倒れていることに気付かないでいる。
 祈りを奉げ終えたアーシアは、一目散で3人の誰よりも早く綺礼の下に行った。

 「あの、あの、神父様。それはもしかして・・・・・・!神父様特製の麻婆豆腐ですか?」
 「ああ、そうだが・・・。食べるかね?」

 何時の間によそったのか、アーシアの前にずいっと麻婆豆腐が出された。
 それをアーシアは嬉々として受け取った。
 そして、遅まきながらアーシアが食事しようとしていた事に一誠が気づく。

 「駄目だ、アーシアぁああああああああ!!」
 「一誠さん?はむ・・・・・・・・・・・・・・・んん!?」
 「アーシアさん!」
 「アーシア先輩!」
 「――――ん~~~~~~~、すごく辛くて、すごく美味しいですぅぅ!!」
 『え・・・・・・・・・・・・えぇえええ~~~~~~~~~~~!!?』

 アーシアの予想外の感想に驚く一同。
 そんな一同に該当しない他の2人であるゼノヴィアとイリナが慌てる。

 「狡いわよ、アーシアさん!」
 「連れションし合った仲なのに先走るとは、生きる時も死ぬ時も祈る時も共にと誓い合ったばかりじゃないか」

 1人一目散で黙って綺礼特製の麻婆豆腐を食べたアーシアに抗議しつつ、テーブルに着く2人。
 勿論、食事前の祈りは忘れない。

 「ご、ごめんなさい!でもでも、つい美味しそうに見えて・・・!」
 「慌てずとも、人数分以上の量を作っているから安心し給え」

 2人の前に、またもいつの間にかによそってあった麻婆豆腐が置かれた。

 「では――――」
 「頂きます!」
 「ちょっ、ゼノヴィア!?」
 「待て、イリナ!」
 「ん?もぐもぐ、って、如何したん――――辛ーーーーーーい!!!」
 「けど美味しいーーーーーー!!!!!!」
 『こっちも~~~~~~~!!?』

 アーシアに引き続き、イリナとゼノヴィアの反応にも驚愕する面々。
 理屈は理解できないが、少なくとも綺礼が毒を料理に混ぜているという疑いは消えた事に成る。
 一応。
 その間にもアーシアは、辛さと旨さのダブルパンチに酔いしれていたが、今自分が感じている幸せを他の人にも分け合いたいと言う、一見非常に優しさに溢れた行為を実行すべく、他の蓮華を取って一誠の前に持っていく。

 「イッセーさん!」
 「ん?」
 「はい、あ、あ~~~~~ん!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 アーシアの行動に一瞬戸惑う一誠だが、直に現実に変えると、瞬時に自分が背水の陣状態であることに気付いた。
 アーシアから『あーん』をされるなんて感涙に浸りたくなる位に嬉しがる一誠だが、問題は蓮華でよそっている食い物にあった。
 確かに、アーシアを含む教会3人組は平気の様だが、自分も平気と言える保障など無い。
 それに加えて本能とでも言うのか、先程から脳内にて、緊急警報が鳴り響いていた止まなかった。
 そう考えている内に、アーシアが不思議そうに見て来ていた。

 「イッセーさん、如何したんですか?・・・・・・もしかして、私のあ~んじゃ、駄目ですか?」
 「え、いや、そ――――(はっ!?)」

 少し悲しそうに見つめてくるアーシアの顔を当てられた一誠は、唐突にも昨日見た夢の内容を鮮明に思い出した。
 それはディオドラ・アスタロトにアーシアが貰われて行く悪夢だった。
 新築のマイホームにて、2人きりでラブラブ空間を作っている悪夢だった。
 そのマイホームにて、2人が食べていた料理が麻婆豆腐である事も思い出した。
 2人ともその辛さと旨さの相乗効果を楽しんでいた。
 しかも食べ方は、お互いに『あ~ん』をしていたのだ。
 此処まで思い出したら、もう一誠は腹を決めるしかなかった・・・・・・いや、決めた。

 (これを食べなければ、アーシアの友人である権利はない!!)

 よく解らない覚悟を決めた一誠は、泳がせていた目を、顔を、しっかりとアーシアに向き直った。
 因みにここまでの思考速度は刹那的時間で、文字通り1秒も無かった。

 「そんな事ない!頂くぞ、アーシア!」
 「あっ、はい!では、あ~ん」
 「ああ、あ~ん・・・」

 一誠が食べる瞬間を、アザゼルを介抱していたリアス達も恐る恐る見つめている。
 そして――――。

 「・・・・・・・・・お、おおお、おおおおおぁああああああああ!!?」
 「イッセぇええええええええええ!!?」
 「兵藤ぉおおおおおお!!?」

 一誠はわずかな間に、走馬燈に似て非なる体験をしていた。
 遺伝子の記憶をたどる様に、人のあらゆる歴史事件の映像を目の当たりにしていた。
 その速度たるや、超高度からのスカイダイビングなど目じゃない位だった。
 様々に移り変わる光景を見て最後に見た光景が、昨夜の最後に見たアーシアとディオドラ・アスタロトとの初夜だった。
 そうして意識が現実に戻って来た一誠は、口内や喉が傷つき、その傷から血が溢れて溺れそうになるのを感じて意識を手放しそうになった。

 (このままじゃ、アーシアが貰われて行く。それでいいのか俺は・・・・・・・・・否、否否、否否否否、否否否否否否否否否否否否否否否否否否否い~~~~~~~~~な~~~~~~~~!!!)

 意識を無理矢理つなぎとめる一誠。

 (アぁああああああああああシぃアぁあああああああああああああああぁあああああ!!!)

 歯を噛みしめて、口から血を吹き出すのを防ぐ一誠。

 「―――――ぁああああああぉおおおおお美味しいなぁ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 「一誠さん、美味しいのは判りますけど、そんなに大声を上げるなんて行儀悪いですよ?」
 「わ、悪いぃ。ついぃ、美味しすぎてぇ、叫んでぇ、しまったんだぁ。ハァ、ハァ」
 「聖女アーシアの騎士である君に、その様に喜んでもらえるのは嬉しい限りだな。さぁ、改めて君の分だ。しっかり味わってくれ」
 「~~~~~ッッッ・・・・・・・・・あ、ありがとうございます!!」

 一誠は、絶望が立ちはだかりながらも、アーシアに察せられに用に必死に愛想笑いをした。
 それを傍から見ているリアス達は、自分の無力感に打ちのめされていた。

 (さぁ、ここからが本番だ。食う――――)
 (待ってくれ相棒!)

 そこで、頭の中にドライグが念話で語りかけて来た。

 (如何したんだ、ドライグ?)
 (それを食べないでくれ!)
 (俺を気遣ってくれるのは嬉しいが、男はやらなければならない時が何時かはあるんだ。だから止めないでくれ!)

 そうして、2口目を自分の意思で口内に入れる。

 「んぐ、ごぶっ・・・・・・んん、美味い、なぁ!」
 (ぐぉおおお!!)
 「・・・・・・ん?」

 2口目を乗り切った一誠は、念話でドライグの悲鳴を聞いた気がした。

 (如何かしたのか?)
 (それだ、それを相棒が食うと、嘗て味わったことの無い衝撃とダメージが遅れて俺に来るんだ!)

 これは予想外の事態が起きたが、一誠は構わず3口目を食う。

 「ッッッう、美味いぃ!!」
 (相棒ぉおおお!!何故だぁああああ!!?)

 聞き入れてもらえないドライグは、ダメージを喰らいながら叫ぶ。
 それを無視して吐血を我慢しながらも黙々と食べ続ける一誠。
 その間にもドライグは悲鳴を続けていく。

 (相棒!もう、やめてくれ!?)
 (・・・・・・・・・ドライグ、俺達はいいコンビだよな?)
 (そうだとも!だから―――――)
 (俺達は一心同体、。なら生きる時も死ぬ時も一緒の筈だ)
 (まさか・・・!待て、待ってくれ相棒!)

 一誠の悲壮なる決意を感じ取ったのか、静止するドライグであったが、一誠は止まる気は無かった。

 (付き合ってもらうぜ、ドライグ。最後までな。―――――アぁああああああシぃアあああああぁああああぁああ!!!)
 (グォオオオオオォオオオオオ!!相棒ぉぉおおおおぉおおお、止めてくれぇええええええええええ!!?ぎゃぁあああああああああああああぁああああ!!!)

 一誠は噛んで味わう事を辞めて流し込むように食べた。
 その形相たるや、最早隠す事も不可能であるほどだった。
 だが綺礼は、寧ろ気に入ってくれてるからこその顔なのだと、都合のいいように解釈した。
 それはアーシアも、ゼノヴィアもイリナも同じだった。
 自分の事のように痛ましく思えているのはリアス達だけだった。
 特にリアスは口を押さえながら、大粒の涙を流しながら一誠の耐える姿を見続けていた。
 そうして食べ終えた一誠は、豪快に蓮華を皿の中に置いた。

 「――――ゴフッ、がふっ、げぐっ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 必死に息を整える一誠は妙なテンションになりつつあった。
 例えるなら、あるゲームの難易度鬼畜レベルの隠しボスを、やっとの思いで倒しきった後の様な興奮状態だった。 
 そのテンションのまま綺礼に豪語する。

 「俺を沈めたきゃ、この何倍を持ってこいっっ!!!」

 そんな風に言ってしまったが、言われた綺礼は実に嬉しそうだった。

 「ほぉ、その様に言ってくれるとは、多め(・・)に作った甲斐があると言うモノだ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 一誠の言葉を受けた綺礼は、キッチンに向かった。
 そんな後姿を見た一誠は、全身から汗が一気に噴き出した。
 しかもすべてが冷や汗だ。
 そして戻ってきた綺礼は、器用に大きめの配膳カーを両方の手で二つ引いて来たのだ。
 その配膳カーの上に乗っていたのは、大きめの鍋が3つあった。

 「まさか・・・」
 「そんな、う、嘘よ・・・」

 後ろからは、恐怖に慄く声が聞こえてきたが、一誠自身はそれどころでは無かった。

 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、相・・・・・・棒・・・・・・あ、あれは、まさか・・・)

 一誠が乗り越えた壁の上には、未だに絶望感しか降りてこないほどの高い高い絶壁が広がっていたのだ。

 「少々作り過ぎたと思っていたが、そこまで気に入ってくれたのなら、この3つのうち1つ丸ごと君に提供しよう。何、気にする事はない。私は君が気に入ってくれたことが、何よりも嬉しいさ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 それを見た一誠は諦めが付いたのか、無言で皿によそって食べ始めようとしていた。
 それをリアスが止めようとする。

 「駄目よ、イッセー!それ以上は貴方の体がもたないわ!」

 泣きながら一誠の体を拘束しているリアスに対して、教会3人組はなぜ泣いているのか不思議そうにしていた。
 そして一誠はリアスの手を優しく振りほどく。

 「ありがとうございます部長。本当に。けど、これだけは、俺がやらなきゃならないんです!皆も下がってて!」
 「イッセー・・・」
 「イッセー先輩・・・」

 そんな覚悟をした一誠の後ろ姿を見続けていたリアス達の中で、ある2人が互いに頷き合ってから動いた。
 その2人は、アーシアとは逆側に座って一誠が食べなければならない鍋から皿に麻婆豆腐をよそう。
 それを見た一誠が止めに入る。

 「木場、ギャスパー!お前ら何してるのか解ってるのか!?これは遊びや冗談で勧められないぞ?」
 「解ってるからですぅぅ!」
 「イッセー君、君だけに背負わせないよ!」
 「お前ら・・・・・・!」

 2人は、自らの意思で立ち向かう事を決心したようだ。
 そこで一誠がアドアイスをする。

 「1口目(一発目)は一番重要だからな?意識をつなぎとめる事に最初は集中しろよ?」
 「わ、解りましたぁぁ!あーーむ!!」
 「それじゃあ、先に行くよ!あーむ!!」

 2人は覚悟を持って麻婆を口の中に入れた。
 しかし2人は運が悪かった。
 何と2人の皿には一番からい部分が入っており、見分けなどつく筈も無く、最初に救い取ったのがそれだった。

 「・・・・・・・・・・・・あぶぅぅうううううう!!!?」
 「・・・・・・・・・・・・ぐふぅうううううううう!!?」
 「木場ぁああああ!!?ギャスパぁああああああああ!!!」
 「何!?」

 2人はアザゼルと同じように、盛大に血を吐いて撃沈して逝った。
 そして再び気絶したものが現れた事により、綺礼が首をひねる。

 「何故だ?聖女アーシア達も騎士兵藤一誠も、これほど美味しそうに食べてくれるのに。一体何故だ?」

 気絶した2人をすかさずに介抱する悪魔たち。
 そして一誠は、戦友たちの散り際を勇気をもらったと解釈して、再び挑みに行く。

 「お前らの覚悟、俺がまとめて背負ってやるよ!行くぞォオオオオオオオ!!!」


 -Interlude-


 リアスは最早、一誠を直視する事が出来ずにいた。
 それほどまでに一誠の疲弊度が相当なものだったからだ。
 視点はぶれており最早堪えきれないのか、口元からは血が垂れていた。
 そして痙攣もしていた。
 因みに、アーシアから見て口元から垂れているのは麻婆豆腐の一部であり、その他の症状はあまりの美味しさに感動しているモノだと思っている様だ。
 そんな一誠は最後の一口と、蓮華で救い取って自分の口元へ運ぼうとするがダウンしてしまった。
 意識は手放していないモノの、かなり追い詰められていた。
 これまた因みに、ドライグも疲弊が激しいのか、最早悲鳴を上げなくなっていた。

 「あ、あと、一口なんだ・・・」
 「イッセー・・・・・・!」

 そんな一誠を見てリアスが覚悟を決めた。

 「これは私が食べるわ!あむっ!」
 「ぶ、部長・・・!」
 『リアス!?』

 誰も?が最悪のリアスの吐血を覚悟したが、当の本人は何時までも噛んでおり、そして――――。

 「お、美味しいわ!!」
 『な、何ぃいいいいいいいいいいいいいぃいいいいいい!!?』

 何と4人目の仙人が出現したのだ。
 その予想外の事態たるや、先程まで瀬戸際でギリギリだった一誠の顔も、驚愕で満ち溢れていた。
 しかも何故か元気な顔で。

 「凄く辛いけど、すごく美味しいわよ。この麻婆豆腐!ほら、ソーナも食べて見なさいよ!」
 「や、止めてリア・・・・・・んん!?」
 「会長!!?」
 「辛いわ!!けど・・・んぐんぐ、すごく美味しいわね、確かに・・・!」
 『こっちもぉおおおおおおおぉぉおおおぉおおおおおおお!!?』

 そうやって両方の長が食べたので、残りの眷属達も次々に口に運んでいく。
 そうしたら――――。

 「美味しい!」
 「凄く辛いけど美味しいわ!」
 「美味・・・!」

 その様に、次々と称賛の声を上げる女子高生たち。
 そんな眷属達をよそに、ソーナが元士郎に食べる様に勧めていた。
 しかも『あ~ん』で。

 「さぁ、匙。食べてみればこの美味しさが貴方にも理解できるわ」

 元士郎もついに追い詰められていた。
 シチュエーションは最高だが、これから食べなければならないモノが最悪だからだ。
 此処までくれば共通点が解って来るから、余計に性質が悪い。
 作り主である綺礼以外の男が食べると、如何やら撃破されると言う事がだ。
 だからと言って拒める筈も無い。
 主人だからでは無い。異性として好きな人だからだ。
 だがそこで迷っている元士郎は、ある事を思った。
 ソーナが思いを寄せているのは、自分では無く藤村士郎だ。
 そんな男に自分は何一つとして勝っているモノが無かった。
 ならば今の状況が、これから起こす行動が死地に繋がる道であろうと、逃して良い筈も無いと覚悟を決めた。

 「・・・・・・はい、会長。頂きますっ!!・・・・・・・・・ん、んん・・・・・・・・・」
 「匙?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・ごぅふぁ!!!」
 「匙ぃ!!?」

 匙元士郎は、自らチャンスを手繰り寄せるために轟沈して逝った。
 そして、この部屋に現在意識を手放していない男は、綺礼と一誠だけとなった。
 その内の1人である綺礼は、周りの良い食べっぷりに気をよくしていた。

 「此処まで気に入ってくれるとは、料理人としては最高に嬉しい事だな。そして兵藤一誠、君の見事な食べっぷりには一番感動させてもらったよ」
 「ハ、ハハ、ありがとうございます・・・」
 「そんな君に朗報があるのだ。実は今回作ったのは簡易的なモノであって、ガブリエル様に出しているモノよりは辛みが落ちているのだ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 一誠は耳を疑った。けれど、自分の耳を疑いたくなるのは、これからが本番だった。

 「そこでだ。教会への荷物が整い、全て片付いたら食べにくると言い。今度こそはガブリエル様にもご好評頂いている至高の辛みをご馳走しようではないか!」
 「」
 「その時は勿論、聖女アーシアと共に来ると言い。全力で歓迎するよ」
 「」
 「フフ、その時が来るのが今から楽しみだな・・・!」
 「」

 一誠はだんだん周りの音が掠れていくのを感じた。
 今の一誠を表すなら、全財産が一瞬で消え去った資産家の様なモノだった。
 そんな一誠をよそに、周りの女子は皆嬉しそうに綺礼の作った麻婆豆腐を味わっているのだった。
 一誠だけが、只々枯れ木と化していった。

 因みに、ちゃんと男衆たちは、アーシアに回復をさせてもらえた。
 アーシア自身は、何故男衆が怪我しているのかを理解できていなかったが。 
 

 
後書き
 救い取りは誤字に非ず。わざとです。

 アザゼルの吐血して倒れる様は『史上最強の弟子、ケンイチ』で、ジークフリートこと九条院響がケンイチと戦って無拍子を受けてからやられる場面の様な感じです。

 次回は藤村家に舞台を移します。
 ではでは~。 
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