| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

GGO編
  第208話 最後の戦い

 
前書き
~一言~


 遅くなってすみません! 後 この話で せめて あの人物…… ある意味SAO、ALO編のラスボスより質の悪い(個人的な意見です!)彼との決着をつけたかった……と言う事もあったので、いつもの話の約2倍の長さになってしまいました……。
 でも、なんとか納得の出来る?(苦笑)  場所まで 書き終える事が出来ましたので、投稿をします!
 
 誌乃事、シノンさんの事を先に知っていれば 間違いなく彼女が正ヒロイン、正妻になってましたので 苦笑  ちょっとこの作品での隼人君の正妻さんには スポットを少なくさせちゃいましたが……、どうか 暖かい目で宜しくお願いします。

 最後に、この二次小説を読んでくださって ありがとうございます。 これからも、がんばります!




                                         じーくw 

 

――その者(・・・)が、この場所に来るのは限りなく早かった。だが、それでもその者(・・・)にしては、大分時間がかかった、とさえ言える事だろう。



 なぜなら、ずっと 彼女(・・)の傍に、いたのだから。ゲームが始まり、そして ずっと彼女の事を見ていた。……彼女が死銃の凶弾に倒れ、今まさに、本当の死銃で撃たれる間際にも 画面を食い入る様に見つめていた。

 全ては《タイミングを見計らう為》である。

 そう、彼女の……朝田誌乃の傍に居たのは、死銃の片割れである。仮想世界(GGO)でシノンが、あの銃撃たれれば、現実世界の誌乃を手にかける。それが殺人の手段だから。

 リュウキやキリトの推測は間違ってはいなかった。


 そして、もう一つの推測。……まだ、これは誰にも話してなかった推測。……今回の首謀者、いや 共犯者についてだ。推測の根拠が幾つかあった。


 まず1つは その者は、殺人を犯す為に、容易く他人が暮す家に侵入する事が出来ていた、と言う事。

 事件性を無くす為に、慎重に侵入をした所で、痕跡は全く残さずに事を終える様な事は容易ではない。それに、それ(・・)を残してしまえば、その死体は 《変死体》としての処理ではなく、事件性、殺人事件が疑われる可能性が高いだろう。

 第三者の侵入の痕跡。今回の件 《ゼクシード》や《薄塩たらこ》の2人は、発見が遅れてしまい死体も腐敗していたからこそ、そこまで念入りに調べたりはしていなかった、と言う事も幸運の1つ、と言えるだろう。 似たような、ネットゲームユーザーが 寝食を忘れてゲームに没頭し 栄養失調等で死傷した、と言う事件は少なくない、と言う理由も大きい。


 そして、もう1つは、特殊な薬品。心不全を起こす薬品を使った殺人だった。


 基本的に、医師の処方箋無しに 薬品の類を得る事は、通販であったとしても 市販のものを除けば殆ど不可能だ。通信販売の類も、監査が掛かり 人体に強い悪影響を及ぼす薬品(モノ)程、入手は困難になっているのだ。日に日に往来しているネット関連の犯罪が増えているからこそ、サイバー犯罪対策にこの国も力を入れている。常に、目を光らせている といっていい。

 人間では限界がある為、その一躍を担っているのが、彼が作った監視プログラム、だったりする。




――……他人の自宅にいとも容易く侵入し、且つ 人を死に至らしめる薬を手に入れられる者。



 それは、それなりには難しい条件なのだ。……そんな条件に、そしてシノンの近しい人物にピタリと条件にあてはまったのだ。……その人種がいるのだ。

 リュウキが シノンの言葉を訊いて、強く思った事だった。
 そして、杞憂であってほしいと思っていたと言うのも嘘ではない。……可能性は捨てきれなかったから。



 そして最後に。……いや 何よりもだ。あの時(・・・)に確かに見た その男の眼が気になったから。


               








 それは、誌乃が入口の外の気配に気づく数秒前の事だ。


「………」


 その者……()は、朝田誌乃が暮すマンションへと来ていた。
 今回は、死銃として、ではない。……作戦は失敗し、死銃は打倒された。これ以上 この世界で名を、伝説を作る事は無理だろう。……一度の敗北は 全てを失う。それはどんな事でも同じだからだ。

――……全ては、彼女を自分のモノにしたい。

 彼にある願望はその一言だった。

 彼が、誌乃に出会った、はじめて出会った時に感じたのは、強烈なモノ(・・)だった。
 
 この平和な日本において、本物の銃で強盗を、悪人を撃ち殺した事がある女のコは、誌乃を除いて他にはいないだろう。……その時から 本当の力がある、と感じていた。

 その事実があったからこそ、知ったからこそ、死銃の伝説武器に《黒星(ヘイシン)五十四式》を選んだのだ。


 その強烈な憧れは、軈て 歪んだ愛情に変わったのだ。

「朝田さん……朝田さん………」

 ゆっくりと、確実に彼女の住む部屋へと近づく。
 先ほどまでは、これから行う行為ゆえに、慎重に行動をしていたのだが、今であれば、そんな事をする必要はない。ただの友人として、そう、ただの友人として、優勝した彼女を労う為に、この場に来たのだ。

 そして、彼女の返答次第で 全てが決まる。……いや もう決まっている。

 あの世界、GGOでの洞窟内での彼女の姿を見た瞬間から……。

 一歩、一歩、着実に近づく。まるで 幽霊なのか? と思える様な振る舞い。……足音も殆どしない。音もなく 彼女の部屋へと近づいていく。階段を上り、その先の角を曲がれば もう直ぐだ。

「アサダ、さん…… アサダサン……」

 逸る気持ちを懸命に抑えようとするが、中々抑えられない。……誰も見ていないから、だろうか。自分の素を見せる事が出来るのは。

 軈て、彼女の部屋に繋がる通路に出たその時だった。

「……っ!」

 普段は灯りがついている通路なのだが、今は生憎メンテナンス中であり、この場は暗闇に包まれていた。その場所で、誰かが立っていたのだ。丁度 彼女の部屋の前辺で。

「……初めまして。と言うべきか、な。向こうでは 顔を合わせているんだがな」

 暗闇の中で、ただ1つだけ光源があった。
 男が取り出した端末の光だ。端末を立ち上げ、操作する時に発光したELライトが薄らとその者の顔を照らした。……階段側のライトは点いているから、向こうには自分の顔が見るが、相手の顔はまだ、判らなかった。
 
「……誰ですか?」

 極めて普通に、冷静に努めた返答をした。
 これからの事を考えたら、誌乃以外に目撃をされるのは好ましい状況ではない。誌乃が暮すマンションの左右の部屋は空き部屋であり、発見される、みられる可能性は低いとは言え、騒ぎにでもなれば、下位、上位の階に暮す人達に不審に思われるだろう。

「新川、恭二。……新川総合病院のオーナー院長の御子息、か」
「っ!!」
「……あまり考えたく無かった事だったが、そうだな。病院側の人間であれば、電子錠のマスターキーを持ち出せた。……突然の発作に襲われ、自分の意思では病院にいけない。意識を失ってしまった患者を助ける為の緊急用マスターキー。そして、死に至らしめるのは 筋弛緩剤、と言った所か。全ての筋肉が動かなくなれば、随意筋、不随意筋が動かなくなれば、当然だが肺や心臓の動きも止まる。……血液を脳にも運べない。そのまま 死に至る」

 淀み無く、それでいてはっきりと言われたのは 殺人の方法と住居侵入の方法、その答えだ。ここまではっきりといわれてしまえば、名俳優と言う訳でもない彼が、新川恭二も冷静でいられる筈は無かった。
 
「ッ……、お、お前は……ッ!!」

 ゆっくりと動いたその影は、恭二がいる辺の光源が届く範囲まで近づいてきた。その顔が照らされる。
 その姿は、男のモノだった。見た事のない顔だった。

 いや、違う。見た事(・・・)はあった。話こそしていないが、現実でも見た事がある顔だった。そして、その輪郭が、その素顔が溶け、軈てGGO世界でのアバターへと恭二の脳内で、変換され 視覚に現れる。

「ここから先は通行止めだ。もう、全てがバレている。出頭しろ……。大切なモノを失う前に。 もう一度言う。この先に通すわけにはいかない」

 はっきりとそう言われ、恭二も激昂する。もう、周りがどうの、と考えてなどいられない。

「お前、お前かぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 ダウンジャケットの中から、取り出したのは奇妙な形をしたモノだった。全体は20cm程であり、艶のあるクリーム色のプラスチックで出来ている。グリップ部分と円筒の接合部には緑色のボタンが突き出ていて、取り出した恭二の人差し指が添えられていた。
 それから連想されるのは、子どもが遊ぶおもちゃの光線銃、といった趣だ。だが、その用途は違う。子供から大人まで、幅広く活用されている医療器具の1つ。……特に昔は、大人でも嫌悪していたモノの1つ。改良され、痛みを取り除いた代物。

「無針高圧注射器。……それが、死銃の正体か」
「僕の朝田さんに、僕の朝田さんにぃぃぃぃ!!!!!」

 激昂を続ける恭二の顔は、赤く染まっていた。血の様に赤く、目元も充血でもしているのだろうか、あのぼろマントの死銃の眼に似た感覚がした。その勢いのままに、注射器をまるで拳銃の様に構えながら、突撃をしてきた。

「近づくなぁぁぁぁぁ!!!!!」

 遮二無二に突っ込んでくる恭二。それを見たリュウキは、軽くため息を吐く。……その表情から取れるのは、何処か悲しみ、そして憐れみだった。

「………お前は、彼女の友達、なんだろ?」

 突き出された注射器を寸前で躱すと、そのまま足を引っ掛け、倒した。

「自分自身の闇と言うモノを内包している限り、……他人に真の意味で心を開くなんてしない。こんな恐ろしい事件があって、その危険性がまだある時に、彼女は、お前を呼ぼうとしていた。……と言う事は、それ程信頼している人なんだろ?」

 男の表情は、憐れみから、怒気へと変わる。
   
「なぜ、なぜだ? なぜ、彼女に手をかける?? シノン、いや 誌乃の苦しみをお前も知っている筈だろ!?」
「黙れぇぇぇぇ!!! う、うがぁああああああっっ!!!!」

 足で、恭二の腕を抑え、注射器を完全に防ぎつつ、マウントポジションへと移行した。……ただ、彼女を狙うストーカーの類であるのなら、この場で蹴りの1つや2つをいれて、昏倒させるのも悪く無かった。……だが、この男にも、何か底知れない闇、何かが見えた気がしたのだ。狂気とさえ、いった方が良い。だが、それでも理解が出来なかった。

「なぜ、殺人を犯す!? なぜ、誌乃を襲うんだ!?」

 残った手で、左手を抑えると同時に、顔を近づけながら、恭二に問いかけた。

 そう、彼女を襲う理由だった。いや 現実には世界各地で様々な犯罪が犯されている。勿論殺人も。……好きな相手、好意を持っている相手を手にかける、と言うのも別段珍しいものではなかった。
 理解出来ない最大の理由の1つ。それは ()が 人を愛すると言う気持ちを、感情を知った事にあったのだ。


 それでも、恭二は暴れたまま、何1つ話にならなかった。
 ……もう、無理だ。出頭を、自首をさせる事は不可能だと悟る。既に警察には 関係者と通じて話が入っているから、このまま抑えておけば、いづれは終わるだろう。

 それでも、自分の意思で出頭をして欲しかったと言う気持ちもあった。

 あんな顔をしていた彼女が気を許せる者だったから。そして、出来る事なら もっと早い段階で取り押さえたかった。何処から 誌乃の家に向かうのかも判らない状況故に、待ち伏せるとなれば、この場所しか無かったから。

 だから……、今の話を聞かれてしまったのも無理ない事だった。



「しん、かわ……くん?」



 この暗闇の中で、声が、聞こえてきた。それは、聞き覚えのある声。……そう、シノンのものだった。

「……今は 出てきたら駄目だ。……出てこないでくれ。シノン」

 決してそちらの方を見ずに、そう一言だけ返す。
 複雑な心境。……本当に、複雑、だった。自分自身の考えが正しかったのなら、こう言う状況に、こう言う場面になるのは判りきっていた。そして、それを回避する方法、手段も考えられなかったから。


                                                                                     
















 誌乃が外へと向かおう。その勇気が辛うじて持てたのはついさっきの事だった。

 男のモノ、喧騒が聞こえた瞬間、誌乃は身体が硬直した。

 死銃の1件があり、この住み慣れた、と言ってもいい部屋の1つ1つを調べるのだけでも、恐怖に駆られたと言うのに、今 外へと向かおう等と思える筈がない。……部屋の玄関がまるで怪物の口の様に思えてきたのだ。……悪夢と言うなの怪物の。

 目も耳も塞ぎたかった状況だが、それだけは我慢をしていた。外にいるのが誰なのかは知る必要があったから。



『僕の朝田さんに、僕の朝田さんにぃぃぃぃ!!!!! 近づくなぁぁぁぁぁ!!!』



 絶叫。巨大なスピーカーがハウリングを起こしたかのような、鼓膜を劈くような音量が響いてきたのだ。……その声、それは知り合いのものだという事をシノンは気づいた。

 一歩、前に進む事が出来た。そして、次に聞こえてくる声。



『なぜ、なぜだ? なぜ、彼女に手をかける?? シノン、いや 誌乃の苦しみをお前も知っている筈だろ!?』



 もう1つ、別の声が聞こえてきた。これも、勿論知っている声。……早く聴きたかった声でもあったのだから。あの世界で共に戦った仲間の1人。本当の意味で、仲間と言う存在を知れた切欠の男の人。……強さの意味を教えてくれた人。
 本当なら、その声を訊けただけでも 嬉しい筈だった。本当に来てくれたのだから。だけど……今は それどころじゃなかったんだ。









 そして、場面は再び戻る。現実世界での修羅の場へと。

「しん、かわ……くん。なん、で……?」

 今、誰が来ているのかは判った。……でも、判らない事はある。会話の流れから……死銃の片割れの正体が、新川恭二 と言う事になるのだから。
 
「アサダサン! アサダサンはダマサレテルダケ ナンダ!!! ボクガ、ボクガ、コンナヤツ、オイダシテヤル!!! アサダサンの、中カラ! デテイケェェェェ!!!! アサダサンを、愛シテイルノハ、ボクダケナンダぁぁぁ!!」

 馬乗りになっていると言うのに、その下でがむしゃらに抗う恭二。その華奢な身体に一体何処にこんな力があると言うのだろうか? と思える程のものだった。完全に優位の体勢であるのにも関わらず、上から抑え込みをしているのにも関わらず、逆に押し返されそうになってしまった。

「ぐぁっ……!!」

 そして、左手を開放してしまった為、がむしゃらに放った拳を、顔面に受けてしまった。

「アサダサンを、マモレルノハ 僕ダケナンダぁぁぁぁ!!!!」

 その勢いのまま、彼の身体を押し返し、右手の注射器を解放してしまった。その右手を向けたまま、覆いかぶさった。

「りゅうっ……!!」

 誌乃は、それを見て思わず、部屋から飛び出た。右手に見える器具。それが一体何なのか、厳密には判らない。だけど、その形状(フォルム)は 嫌な予感しかしなかったのだ。そう、まるで拳銃の様に感じた。

 その凶器が、()に向けられたのだ。


「死ネェェェェェェェェェ!!!!」


 恭二は そのまま、注射器を突きつけようとするが。


「何一つ……」


 打ち付けられる瞬間に、その手首を抑えた。恭二の叫びを訊いて、全く納得が出来なかった。『守る』と恭二は言っている。だが、実際の行動はどうだ?

「何一つ、守れない癖に……、何一つ助けられない癖に、巫山戯た事を言ってんじゃねェ!!!」


 それは、まるでそぐわない恭二の行動だ。

 ……愛している。守ると言っている人物を。シノンを、誌乃を殺そうとしたのだから。闇を打ち明けてくれて、そして 差し出した手を掴んでくれた。……答えられる限り、命が続く限り答えなければならない。

 だからこそ、怒声とともに、恭二の手首を捻り上げた。

「ガァッ!!」

 手首に感じた異常な痛みを受け、反射的に動いてしまう。その恭二の身体の反射と 自分自身の力を合わせて、壁に投げを放つ。……勢いよく壁に恭二は激突をしてしまっていた。

「シノンが、誌乃の事が 好きなら、『愛している』 とまで言えるんなら、彼女を全てから守って見せろよ! こんな巫山戯た事件に手を貸さずに、彼女を守る為に戦えよ!! ……何故、何故 彼女の命を奪う行動を取るんだ!?」

 その怒声の勢いのままに、投げられても尚、握られていた注射器を蹴り上げた。

 パリン! と言う何かが割れた音がしたかと思えば、充填されていた液体が散りばめられた。 それを見た誌乃は、反射的に仰け反ってしまう。
 

 この液体が死に至らしめるモノだと言う事が判ったから。


 恭二は 彼の心からの慟哭を受けても 何も反応しなかった。いや 今彼は気を失ってしまっているのかもしれない。

 恭二の事を、知っている訳ではない。……彼にも何かがあった。狂気に駆られる様な事があった。と言う事はよく判る。判ったとしても、その内情までは理解はしたくない事ではあるが、凶行に走る事になった理由、と言うモノは 殆ど存在をするから。

 そして、ゆっくりと彼女の方を向いた。まだ、恐怖に身体が震えている彼女、誌乃の方を向いて呟く。

「シノン……。その、GGOでは 説明も無く 悪かった。……オレの考えが正しかったら、こうなってしまう事は判っていたから。……ただの笑い話にしたかった、実際に会って、的外れな推測だと、嘲笑して欲しかった。……それが希望的観測だったんだが」

 壁際に倒れている恭二を見ながら、そう言っていた。

「しんかわ、くんが…… 死銃の……」
「…………ああ。そうだ」

 誌乃の言葉に、彼は。……隼人は頷いた。
 
 現実世界へと戻ってきた丁度その時に、全て、詳細の全てを明らかにされていたのだ。






















~十数分前 竜崎家~



 隼人が現実世界へと戻ってきた時に、まず 最初に感じたのは温もりだった。
 それは まるで全身を包んでくれている抱擁。その温もりは一体何なのか、隼人は直ぐに判った。判ったからこそ、目を開いたと同時に、その温もりを包み込む様に抱きしめたのだった。

「……ただいま。玲奈」
「うんっ……、うん。おかえり、なさい。隼人、くん」

 BpBの大会が終わり、隼人が無事だった事も確認して 玲奈はずっと彼が目を覚ますのを待っていた。……隼人が目を覚ますまで、玲奈は隼人を離さなかったんだ。それは、彼の事を心配していたから、と言う所が多くのウエイトを占めているのだが……、それ以上に しっかりと捕まえておかないと、と言う……いうならば、女の勘が盛大に働いたから、と言うのはまた別の話。

「……申し訳ありません。玲奈お嬢様。隼人坊ちゃん。少し、よろしいですか」

 2人の世界を作ってる、と言う言葉があてはまるであろう空間に居たのは、何も隼人や玲奈だけではない。彼の親である綺堂や、菊岡の同僚の渚も控えていた。無事に帰還した隼人をその胸に抱きしめる。……親であれば これ程喜ばしい、嬉しい事はない。それ程までに、彼の事を愛してくれているのだから。
 渚も、《こう言う》シーンを見て、頬を紅潮させてしまう程、もう初心ではない。……色んな意味で。
 因みに、その《色んな意味》と言う部分の説明は割愛させてもらいます。


 玲奈は、隼人が帰ってきてくれた事に、感慨極まって周りが見えていなかったのだが、2人の視線とその言葉を訊いて、爆発をするのでは? と思える程 顔を真っ赤にさせながら離れた。 ……綺堂や渚がしていた事を玲奈も知っていたから。

 それは、綺堂が言いたかった事でもあり、死銃の情報についてだった。
 現実世界でも、GGO JPサーバーへとハッキングに成功させ、彼が操っているアバター。そのIPアドレス、プロバイダ契約等を照会させ、人物特定までに至ったのだ。極めて精密に、二重三重のセキュリティの網を掻い潜り続け、たどり着けたのがついさっき、丁度 GGOの世界、BoB大会にて、3人が大爆発し、優勝者が決定した時だった。

 死銃事、《sterben》のダイブ先。そして 契約者の氏名、住所。登録をしている情報の細部に至ってまで、丸裸にしたのだ。

 ……そして、もう1人。

 GGOの世界で 死銃情報サイトでの挑発内容をそのまま発言し、最も動揺し 且つ疑わしかった男の情報も同様だった。

 その男の名は《シュピーゲル》。

 死銃《sterben》と《シュピーゲル》が実の兄弟だと言う事が判ったのだ。……更に、その片割れ。《sterben》のSAO時代のプレイヤー名も。

「……赤目のザザ」

 隼人は勿論、玲奈もその名は知っている。あの世界最悪の殺人ギルド、ラフコフの幹部だった男だから。

 綺堂自身は そこまで詳しくは知らない。……あの世界の闇の部分は 訊いているのだが、細部に至るまでは時間をかける様に考えていたからだ。
 あの世界の闇は、隼人の心の傷でもあるのだから。

「はい。そうです。坊ちゃん」

 綺堂が頷いたのを見た隼人は、これまで説明された事を頭の中でまとめつつ、話を訊いた。

「……彼女を、シノンをゲーム世界で狙ったのがザザ、《新川昌一》で 現実世界で 彼女を手にかけようとしたのが……」
「可能性、と言えば 大きいかと思われます。実の兄がそう(・・)である、と言う事。そして あの日。……ゼクシード氏を銃撃した日にログインをしているのは、《シュピーゲル》。即ち《新川恭二》の方でした。データをそのまま アミュスフィアに移しただけでしたので、調べるのは造作もなかった事ですが……」

 その説明を訊いて、隼人には動揺を隠せられなかった。

 シノンには、誌乃には 大きな心の闇、傷が存在していた。そんな状況で 《友達》とまで 言っていた相手が、今回の恐るべき殺人事件の共謀者の1人なのだから。
 そして、自分の推測が当たっている事も改めて理解したのだ。
 詳しい事情までは知らない綺堂だったが、大体の事は察した様だった。

「……隼人君」

 今 深く考え込んでいる隼人の姿は、まるで苦しんでいる様に玲奈の眼には見えた。だけど、今回はすぐ傍にいる事以上の助けは出来ない、と言う事も肌で感じた。

 ……GGOの世界で出会った彼女の事。それは 先ほどは省略したのだが、簡単に説明すると 玲奈は少なからず、嫉妬心が画面上の少女に出ていたのだ。隼人、ゲーム上では 女のコの様なアバターをしているけれど、それでも 隼人から 彼女を抱きしめた様に見えた。会話を拾う事は無かったから、細かな事情は判らなかったけれど、それでも 少女は涙を流していた事、そして 隼人、リュウキの性質を知っている事。それらがあったんだけど、それでも ちょっと妬いてしまうのは、仕方がない事なのである。……そのネタで玲奈がからかわれるのと同じくらい。


 兎に角、玲奈は彼女の闇を知った。……だからこそ、隼人が向かう事を止めなかった。彼女の所に行くと言う事を。

「後で、説明をするよ。……それに 玲奈」
「ん……?」

 玲奈は 首を傾げた。隼人の笑みの理由が判らなかった。でも、それは次の言葉ですぐに判る。

「彼女の事も、玲奈に。……皆に紹介するよ。彼女、シノンと話をしてみてくれないか? 色々と…… それで……」


――『友達に』なってくれたら 嬉しい。

 ずっと1人で生きてきたと言う彼女に、温もりを上げて欲しい。
 隼人は、そう言いかけて 止めた。これは、頼むものでもなければ、頼まれるものでもない、と思えたからだ。自分自身て感じて そして 受け取るものだと知っているから。そうやって、他人を拒む事が多かった自分自身が変わる事が出来たんだから。

 玲奈も、悟ったのだろう。微笑みを返した。

「――うん。待ってるよ。だから、なるべく、早く帰ってきてね?」
『そうですよ。お兄さん! お姉さんは ずっと お兄さんの事を思っていたんですからっ』

 不意に、玲奈の手の中にある端末からも ユイの声が聞えて来た。ユイも玲奈同様に 隼人の事が判ったんだろう。だからこそ、見送りの言葉をくれたんだ。

「……勿論」

 隼人はそう笑うと、玄関口へと向かう。

もう1人(・・・・)の事を調べると同時に、渚さんに手配をしてもらう様にしてもらいます。坊ちゃん。気をつけて」
「ここまでの事態です。……色々と通していたら、間に合わないので。お任せ下さい。……これ以上 黙っているつもりはありません」
 
 綺堂と渚もそう言ってくれた。

「うん。宜しくお願いします。爺や。渚さん」

 隼人は 2人に対しても 頭を下げつつ 彼女が、――誌乃が待つ場所へと急いだのだった。

























 そして、場面は元に戻る。

 全てを、リュウキが、隼人が知った事の真相を全て 彼女に話した。
 それを訊いて、目を見開いている。……どうしても 受け入れたく無い様だ。いや 信じられない、といった方が正しい。

「じゃ、じゃあ……死銃、SAOで 殺人ギルドに入っていた、っていうのが……」
「彼の兄、新川昌一だ。……SAOでは ラフコフの幹部。《赤目のザザ》と呼ばれていた。向こうでは刺剣(エストック)の使い手だった。……そして 今回の戦いでも」

 キリトとザザの戦いについては、ある程度訊いていたのだ。針の様な武器、とくれば ザザだと言う事はリュウキはあっさりと思い出し、言ってしまったから、必死に思い出していたキリトに少なからずダメージを与えちゃったりしたとかは、また別の話。

「そ、そんな……、で、でも なんで…… しんかわ君は お医者様になるって、あんなに がんばって……」

 事の顛末を全て訊いても、誌乃はやはり受け止める事が出来なかった。この町で唯一心を許せていた、と思えていた彼が まさか 恐ろしい犯罪に手を染めていた事に、動揺を隠せられなかったのだ。

 誌乃の 思いつめた表情を見て 何も言えないのは隼人だった。

 誌乃と恭二、2人の関係を細かに知っている訳ではない。だけど、心に闇を持った彼女が心を許せれる存在。友達と言える存在とは訊いていた。 隼人にとってみれば、SAO時代の仲間達と同義だった。 だからこそ、恭二が 誌乃にそんな事を、殺そうとする意味が判らなかった。わかりたくなかったのだ。

「……簡単な事、だ」
「ッ!!!」

 誌乃を思っていた事、そして 一先ず助ける事が出来たと言う安堵感から、何処か隙が出来てしまっていたのは、仕方がない事だった。ましてや、ここは現実世界。仮想世界での様に 索敵スキルと言った能力を使える訳もない。

 だから、息を、足音を殺しながら 近づいてくる 殺人鬼(アサシン)に気づく事が出来なかった。

 背中に感じる異形な痛み。それは、身体の内部から 焼かれてしまうかの様な熱さと痺れる様な感覚がした。……あの世界で言う《麻痺毒》の攻撃を受けた感覚に近いとも言えるが、現実故、痛覚のレベルがあの世界とは比べるのもではない。

 一瞬で、意識を刈り取られそうだったが、辛うじて 意識を手放す事は無かった。……が、それでも 倒れてしまったのは仕方がない。

「りゅっ……!?」

 突然の事に、誌乃は身体を震わせた。驚きの連続だった為、反応が取れなかったのだ。
 だが、判る事はある。……助けてくれた。あの世界ででも、この現実ででも、助けてくれた男の人が倒れていると言う事実だけ。

「コイツの学力なんて、遠の昔に下の下にまで 落ち込んでるんだ。馬鹿な親父は コイツの作った即席の捏造成績用紙に騙されていたに過ぎない。……それに、アミュスフィアのソフトで、遠隔指導を受けるサービスもあるし、あれを使う事は問題なかった。……まぁ 流石にGGOの接続料金は、させてもらなかった様だがな」

 倒れた隼人の後ろに立っていたのは、全体的に黒い服で包まれた男だった。表情は 恭二と似ている部分はあるものの、視線 目つきは比べ物にならない程歪んでいる。普通ではない、と一目で判る程だった。そして、淡い茶色の髪は 恭二と同じ、だが 手入れを全くしていないのだろうか、ぼさぼさ 頭、と言える状態だった。

 その容姿から、この男が 《新川昌一》であり、《死銃(デスガン)》なのだという事を、声に出す事は出来なくとも、頭の中では 理解をする事が出来ていた。

「まぁ、恭二が何をするか。大体は判っていた。念を入れて来て正解、だったぜ。……鬼に、また 会えるとはなぁ……。それも、鬼。……リュウキが、RYUKI、だったとはな。つくづく 腹立たしい男だ」

 身体が上手く動かず もがく様に立ち上がろうとする隼人。その隼人を足蹴にしつつ、誌乃の方へと視線を向けた。

「混乱してるみたいだから、一から教えてやろう。……そこで寝てる恭二は、ゼクシードって奴のミスリードに踊らされて、GGOでの世界で勝てなくなった。親も接続料を出してくれねえ。あの世界で勝つしか、あの世界にいられない。……オレらと同じ様に 現実世界じゃ もう生きてはいけねぇ身体になっちまったんだよ。なぁ? 恭二」

 倒れている恭二は、起き上がる様子はない。誌乃は、そんな恭二を見たりはしない。誌乃の頭には 倒れた隼人しか無かった。
 だけど……足がすくんで動けなかった。 それを見た昌一は 悟った様に笑みを見せる。

「残念だったな。恭二。コイツの中に もうお前はいないみてぇだよ。今回、お前が何かをするつもりだった、薄々感じてたが。もう しょうがねぇよ。銃で悪人を殺した女って言うのは コイツの事だったんだろ? 憧れとかなんとかって、言ってたもんな」

 詳しくは昌一は訊いていないし、恭二も細かには言っていない。意中の人物の事を兄弟とは言え、おいそれとは言っていないから、おぼろげ程度にしか判らなかったが、今回の行動を見て、大体察したのだ。

「ッ………!!」

 誌乃は、隼人の事しか、倒れている隼人の事しか考えられていなかった。
 だが、その昌一の言葉は 直接脳内に叩き込まれる様に染み込んだ。

――なんと言う乖離。隔絶なのだろう。

 そう、誌乃が 隼人、そして 和人と出会う前までは、現実世界で肉親を除いてただ1人の心を許せる存在だった。……それは、こんな事件が起きても、隼人の言葉を訊いても、心の何処かに残っていた。だけど、その僅かな光。いや 光と言えるかどうか判らない程の僅かなモノ、それが完全に闇へと包まれた。

 恭二の精神は、誌乃と同一の世界にあるものではなかった。自分、学校で孤立をしていた自分に声を掛けた理由。それが、あの事件(・・・・)があったから、だった。悪夢の象徴とも呼べる、全てが変わってしまった。始まりの事件だと言うのに。それを憧れだと言う。……それが理由に淡い好意の理由だったんだ。
 もしも……今 自分が あの時(・・・)のままの自分であれば、どうなってしまうか。考えるまでもない。焦点がぼやけ、完全に失って、その闇の世界の中に再びあの時の男が姿を現すだろう。額に銃痕を残し、眼からも血を流しているあの男が。


――でも、もう 違うよね。もう……私達は。


 誌乃の中に、あの男の代わりに あの世界での自分が。……シノンが現れた。


――私達の闇は……、あの世界で、終わった筈だよ。


 そう、壊してくれた。……全てを 闇の全てを あの銃(象徴)と共に、闇を封じてくれた。だから、自分の心は救われた。……彼に。……彼らによって。だけど、昌一は違うんだ。


――今は、自分が出来る事を、するだけ。……彼には、隼人には おごってもらったよね? 本当に、沢山……沢山……。だから、今度は私が、私達がしなきゃ。私達が……しなきゃ。


 突然の出来事。連続での驚きと衝撃。再び心が折れそうになりかねなかった時、誌乃の中で あの世界でもつ事が出来た勇気が、再び自分の足を動かそうとしていた。
 あの世界で戦ってきた彼女が、へカートを携えた薄い青色の髪の少女が手を貸してくれた。







「さぁて、どうせ コイツの事だ。……警察でも読んでるんだろ? ……さっさと決着をつけないとな? 鬼よ」

 足で 何度も隼人の頭を踏み抜く昌一。

「……ぐっ」
「ははっ! あの世界じゃ、毒ナイフなんざ、受ける鬼じゃなかったんだがな!」

 SAO時代のリュウキは、ラフコフにとっては まさに《鬼》と言っていい存在。その力は、PoHも、死神も、畏れさせる程だった。そんな男の上に立っているのだ。得も知れぬ優越感が昌一に、ザザにはあったのだ。

「……し、の」

 必死に身体を動かし、見ていたのは昌一の方ではなく、誌乃の方だった。

「ははっ 閃光の片方の娘とは別れたってのか? ええ?」

 何度も蹴りを入れる昌一。
 倒れつつも、身体をくの字に折ってしまう隼人。昌一の蹴りは、頭の次に、何度も何度も隼人の腹へとあたっていたのだ。
 その鈍い痛みのおかげもあり、途切れかけていた意識を繋ぎ止める事が出来たのだ。まだ、全身が痺れる様な感覚は取れなかったが。

「(スタン、ガン……ッ)」

 昌一の右手に持たれている黒い塊を見て、察した。金属部分には、昌一が スイッチを入れているのだろうか、ばちっ、と言う音を響かせながら、空中放電を繰り返していた。

「逃げ、ろ……、し、しの……ん」

 何度も何度も誌乃に向かって隼人はそう言っていた。
 
「……さて、おい。恭二」

 昌一は、視線をまだ倒れている恭二へと向けた。

「お前は いつまで寝てんだ? 今が一番イイ所だろ? 取り戻せるんだぜ。そろそろ起きろよ」

 昌一の言葉に反応したのか、或いは 誌乃がいるからなのかは判らない。だけど、焦点の定まっていない歪な瞳が 同じく歪な光を宿した。

「ぐっ……ぁ、アサダ……サン、アサダサンッ!! アサダサンにサワルナァァ!!」
「って、おいコラ! オレだオレ。こっちに抱きついてくんじゃねえよ!」

 隼人の事だと思ってるんだろう。まだ正気とは言い難い。だが、それでも昌一は無理矢理に恭二を誌乃の方へと向けた。

「オレは、鬼と楽しむから、お前に女はやる。したい事をさっさとしろってんだ」

 どん、と背中を押し、恭二を押し出した。 その先には、誌乃がいる。昌一の眼には、まだ震えて動けない様に見えていた。

「……アサダ、サン。アサダサン!!!」

 恭二の眼にも誌乃の姿が映った。眼の中には 隼人の事。誌乃を奪ったと思い込んでいる隼人の姿は消え去り、完全に誌乃の姿だけとなっていた。

「ぅ……ぐ! く、ぐっぅう!!!」

 隼人は、それを見て懸命に立ち上がろうとするが。

「お前の相手はオレだぜ? 鬼よ。……さぁ いつか言った約束(・・)を果たさないとな。……オレと被ってた その眼(・・・)現実世界(こっち)で 抉りとってやるってよ?」

 不敵な笑みを見せる昌一。
 
 あの世界でのそれと、全く変わらない歪な笑みだった。



 隼人事、リュウキ。……そして RYUKI。


 彼にとっての因縁。一方的なものだが、それは、SAO時代だけじゃない。

 天才プログラマーである《RYUKI》としても、因縁があったのだ。

 かつて、病弱だった故に 跡取りは完全に弟に方向転換され、親から本当に雑に扱われた。それでも、総合病院のオーナーとしての世間体もあるのだろう。ニュースざたになる様な虐待まがいな事をしていた訳ではない。
 だが、それでも思春期だった事もあり、親への反抗心も相余って非行に走る様になった。それが、ネット上でのサイバー犯罪だ。




 ハッキングをしての 不正入出金。ウイルスを作って、それを裏ルートを使った売買。そして、ネット上での詐欺行為。……昌一は稼ぐ為に様々な行為に手を染めた。そして、それは それなりに収入があり、且つこの現代社会、ネット社会だと言うのに 足がつかなかった。それ程までに 練りに練った計画だったから。仲間を募い、誤った方向へだが、築き上げてきたものだったから。

 だが、それは突然終わりを告げた。

 その原因。昌一らにとっては、諸悪根源だと言える存在が《RYUKI》の名だった。この業界で、在り来りな名前だが、その名前を知らない者はいないとさえ、されている。
 そのRYUKIが 制作したセキュリティプログラムは、優秀極まりない物だった。システムやプログラムの網目を掻い潜る。技術が幾ら進歩しても 相乗効果でサイバー犯罪の手口も巧妙になっていくのにも関わらず、一切の勝手が出来ない。……まるで出来ないのだ。
 いや それは 網等ではない。比喩抜きにしても、目の前に分厚い鉄板。いや 分厚い鋼鉄の壁で隔たれているかの様にしか思えない。 その強固で堅牢なネット上での要塞。……だからこそ、掻い潜るのは不可能だった。
 ……更に、製作者側は その壁がまるで無かったかの様に、素通りする。どんな尻尾も逃さない。まるで 蛇の様なしつこさで 虱潰しに潰されてしまったのだ。

 そう、SAO時代のギルドの様に、……潰されたのだ。



 それは、隼人が知る由もない出来事。隼人はただ依頼された仕事を引き受けただけ。プロとして最高の成果を魅せただけだった。――……彼らの完全なる逆恨みなのだ。




 そうだとしても、狂気に彩られているこの男に最早理屈は通用しない。善と悪さえももう無い。……だからこそ、《プレイヤーキラー(PK)》で有り続ける為に、罪もない人間を手にかける事が出来るのだから。

「今度は、お前が潰れちまいな。……いや その前に、もう一発痺れてみるか? 重ねがけすると、死んじまうかもしれねぇがな!」

 スタンガンを構える昌一。スタンガンは空中放電を続けており、目に見えてスパークさせている。ばち、ばち、っと甲高い音を発しながら。



――あの世界の闇が、別の世界へと移り、そして 現実世界へと還ってきた。



 隼人はそう感じた。
 浮遊城アインクラッドの崩壊と共に、全てが終わった。……ALOの世界ででも、闇は蔓延していたが、それはまた違う闇。……あの世界、剣の世界で生まれた闇が 世界が崩壊しても、漂い続けたのだ。

 放置をしていれば、闇は広がる。……夜が必ず訪れるのと同じ様に 陽の当たる光をゆっくりと飲み込んでいくだろう。……この狂気は、あの時の、そして 今の仲間達に。かけがえの無い友人達にも 蔓延していくだろう。……そして。
 
『一番良いのは…… あの《閃光の娘》に、死を与えるのがそうだった』

 そう、愛する人にも、迫る……。

 隼人は、そう思った瞬間、あの世界でも最後に感じた手の温もりを思い返していた。例え精神が離れていても、傍にいてくれた。見守ってくれた彼女、玲奈。



――……玲奈に迫ると言うのか!?



「……ぁぁぁああああッッ!!!」

 隼人は、渾身の力を拳に込めた。
 GGOの世界では銃に。SAO-ALOの世界では剣に。……そして、この現実世界では 己の拳に。頭の中は まるで炎が巻き起こり、渦を巻いているかの様に燃え盛る。抑えきれない怒りと必ず守ると言う強い決意が まだ麻痺を続けている手を動かしたのだ。

「ッ!」

 スタンガンを隼人に押し付けるよりも早く、拳を振るった。
 自分1人だけじゃない。危険なのは。……このまま 放っておけば、その魔の手は皆に向かう。この場の誌乃にもそうだ。

 隼人の拳は正確にスタンガンの側面部へと辺り、その衝撃から 昌一は手放してしまい、誌乃のマンションの外の茂実へと落ちていった。 それなりの高さからであり、静寂な夜だったからこそ、 吹き飛んだスタンガンが 《がしゃんっ!》と言う音をさせたのが はっきりと聞こえたえ。そう、GGOで死神のあの銃、《黒星(ヘイシン)》の様に壊す事が出来た。 一先ず 武器を壊す事は出来た。
 だが……。

「っ!! こ、のっ!!」

 それは、相手を激昂させるだけだったのかもしれない。

「てめえぇ!! この死にぞこないがぁ!!」

 突然の反撃に激高した昌一の左拳がリュウキの側頭部へと直撃した。

 頭がジンジンと痛み、立ち上がったのだが 再び倒れてしまいそうになる。だが、それでも倒れる事だけは拒もうと立ち続けたのだが。

「所詮、お前はゲームしか能がない、ただの餓鬼なんだよ! はっ! 鬼? こんな糞餓鬼がか? オレも、オレ達も馬鹿だった、って事だなぁ!!?」

 昌一は、まるで自分自身にそう言い聞かせる様に罵倒しながら くの字におれている隼人の身体をただ蹴り続けた。

「死ねやぁぁ!!」
「ぁぐっ……!!」

 タメ(・・)を作った前蹴りが 隼人の折れた腹部へと突き刺さる。耐える事も、こらえる事も難しい状況だった。……だが、その攻撃は隼人にとっては、幸運だと言えるだろう。

 蹴りを受けた勢いを利用して、誌乃に迫っている恭二の方へと倒れ込む様に行けたからだ。

「は、はや、とっ……!!!」

 誌乃は必死に恭二の悪意から 身を守り続けた。

 恭二を堪えて、隼人の傍へと行く為に。このマンションのガーディニングとして通路に備え付けられている花瓶や誰かが立てかけて、忘れ去られている傘を手に、抗い続けていた時に、隼人が来たのだ。
 来た、と言う表現はおかしいかもしれない。蹴り飛ばされてしまったのだから。自分を守る為にだった。……今日だって、自分の家に来たりしなければ、こんな事にはならなかった筈なのに。

「アサダサンアサダサンアサダサンアサダサン………」

 恭二の狂気。

「殺す……殺してやる!!」

 昌一の狂気。
 ふたりの狂気が迫ってくる。

 隼人は、必死に誌乃を後ろへと追いやる。彼女の部屋がある方向へと。

「……はい、って。鍵を……」
「い、いやっ! も、もう これ以上 わたしのせいで、はやとが傷ついて欲しくないっ……!!」

 背中で、誌乃を押そうとするが、誌乃は隼人のその背中を抱きしめて、拒んだ。
 だって、自分はまだ動けるから。……男2人に まだ弱い自分が。いや 現実的に女子高生が敵うはずがない。
 だけど、もうこれ以上傷ついて欲しくないかった。

 傷ついている身体を必死に起こす隼人。
 そして、視線を2人へと向けたその時だ。

「………は、はは」
 
 隼人は、なぜか笑みをみせた。
 それは、表情だけではなく、声に出して笑ったのだ。

「は? トチ狂ったってのか? なに笑ってやがる」

 恭二は、まだ狂った様に誌乃を呼び続けている為、隼人が笑っている事に気づかない様だが、昌一は違う。もう、全身ボロボロだと言っていい隼人が、笑ったのをしっかりと見た。

「く、、くく……はははは」

 隼人は、笑みを止めない。
 ただ、笑い続けていた。そして、もうボロボロになった姿で昌一の方を見た。

「……おまえの、まけだ」
「ああっ!?」

 昌一は、隼人が言っている意味が全く判らない。明らかにボロボロの身体に、この場にいるのは女子高生の詩乃だけだ。どう足掻けば形勢逆転するのか、検討すら付かなかった。

「気持ちわりい奴だな。……往生しろや、餓鬼が!」

 拳を振り上げようとした時だった。
 隼人の眼を、昌一は はっきりと見た。それは、あの世界で何度も感じた事がある嫌な予感。……



――……オレは、……ひとり、じゃない。 これまでも、……これからも。それは、おまえたちも、しってる 筈 なんだが、な。



 確かに、そう聞こえた気がしたその時だった。

「うおおおおおおおおお!!!!!!」

 背後より聞こえるのは 雄叫び。
 全身全霊を掛けた蹴りの一撃が、昌一の後頭部を捕らえたのだった。

「がぁっっ!!!!!」

 全く無防備だといっていい背後からの一撃だった故に、昌一もどうする事も出来ない。そのまま、前のめりに倒れてしまったのだ。
 
「アサダサンアサダサンアサダサン………」

 そして、恭二には 左手に持っている丸い物体。
 あの世界で言う頭を守る為の防具。この現実世界で言うバイクのヘルメットだ。

 思い切り 恭二へと投げつけた。

「ガァっ!!」

 そのヘルメットも頭を守る為に作られたものの為 中々に硬い。
 恭二も無防備な状態の頭にヒットしてしまい、たたらを踏んだ。

「シノン!! 何か縛る物を持ってきてくれ! ガムテープでも、ロープでも、なんでもいい!! 頼む!!」

 新たに現れた乱入者。
 それは、見た事の無い顔だった。……突然の出来事、一瞬の出来事に動揺を隠せられない誌乃だったが、自分の事をシノンと呼ぶ者は、決して多くない事と、その表情は、何処か見覚えがあった。
 そう、あの世界ででは 黒く長い髪で 女顔。この世界ででも 何処か面影がある幼さの残る少年。 キリト、和人だった。

「急げ!! もう警察は呼んだが、来るまでずっと 2人を抑えておく事は出来ない!!」

 和人は、昌一に馬乗りになり、抑え込んだ。だが、恭二は残っているのだ。そしてスタンガンの一撃、昌一からの必要な攻撃を受けて もう満身創痍と言っていい隼人しかいない。恭二の魔の手が隼人へと向かうとも限らいないのだ。

「っ!!」

 誌乃は ふらつきかける脚を叱咤した。
 今、一番苦しんでいるのは、隼人だ。そして、懸命に死銃達を抑えてくれているのは和人だ。……今 動けるのは自分自身しかいないのだ。


『さぁ! 隼人を……助けなきゃ! それに、和人だって……!』


 覚束無い足取りだったが、へカートを宙に起き、手を引いてくれている自分(シノン)が目の前にいて、立ち上がる力をくれた。

「う、うんっ!!」

 誌乃は、限りなく早く 部屋へと駆け込み、引越しをしてきた時に、荷物を縛っていた荷造り様の紐の束をクローゼットの奥から 素早く引っ張り出すと、その勢いのまま 外へと飛び出していった。


 

 そして、和人の心配は終わってみれば杞憂だった。

 昌一への後頭部へのダイビング式キック。恭二へのヘルメットの一撃。それらは思いの外ダメージが大きく、ゲームで言う《クリティカル・ヒット》と言うヤツで 脳震盪を起こしていた様だ。
 幾ら最悪の殺人者であったとしても、流石に大怪我を終わしてしまう事には抵抗がある。隼人と誌乃を助ける為に、攻撃をした和人は、後の事などは考えてられなかったけど。

 不幸中の幸いの1つ。彼らはしっかりと鼓動をさせている。胸部分も上下し、息もしっかり出来ていた様だ。紐で縛って殆ど簀巻き状態にしているが。


「っ……」

 隼人は横になり目をつむっていたが、傷み故か、表情を歪ませ、ゆっくりと目を開けた。

「隼人……、しっかり……」

 誌乃が、隼人の額に手を置く。
 本来なら、部屋へと運んで安静に と思っていたのだが、怪我の程度がどれほどか判らない事、もう警察や救急車も呼んでいる事。階段を上がって直ぐの場所である事が重なり、この場で介抱をする事にしたのだ。 
 部屋からありったけの毛布を持ってきて、身体を冷やさない様にかけ 頭は誌乃が《膝枕》をしていた。……別に狙った訳ではない。ただただ、動転をしていた と言う理由だってあるだろう。

「大丈夫か? 隼人。……その、悪かった。菊岡さんが 中々理解をしてくれなくて。……警察に色々と説明するのにも手間取って遅くなってしまった……」

 和人は、隼人が目を開けたのを見て 頭を下げて謝っていた。これは、先ほど誌乃にもしていた事だ。

 だが、それを見た隼人は 苦痛で 表情が歪んでいる様だったが それでも 笑っていた。

「……いったとおり、だろ?」
「え……?」

 隼人の開口一番の言葉の真意。和人には判らなかった。笑顔の真の意味も。
 だけど、それは直ぐに理解をする事が出来た。

「きりとは。……かずとは、きてくれる。おれが、さき……、だったら、な……」
「っ………」
 
 そう、この時だ。
 
 あの死銃と出会った時に、隼人が リュウキが言っていた言葉を思い出した。



『……オレが、最初に。キリトより先に、あの男と出会っていれば、キリトは来てくれたよ。……絶対』


 そう、死銃と出会い かつての闇を思い出し、震えそうになっていた時に、隼人が リュウキが来てくれたんだ。

 そして、今回。

「……だろ?」
「は、はは……。借りを返せた、のかな。 でも……傷の度合いを考えたら割に合わないって思うぞ……。ほんとに無事で良かった」
「ほんと、だよ……。もう。……ばかっ……。しん、しんぱい したんだから……」

 誌乃は、涙を流しながら 隼人の頭を抱える様に 抱きしめた。

「う、む…… し、しの。ちょっ と、くるし……」
「っ……!! ご、ごめん……」
「はは。約得って、思えばいいんじゃないか? 隼人。……GGO一の美少女スナイパーの膝枕なんか、滅多に出来るもんじゃないんだぜ?」
「っっ!!?? ば、ばか!! なにを言って!!」
「……ほんと、くるしい。今は、もうちょっと、加減を……」
「あ、ああ! ごめんっ はやとっ」


 本当に、これで終わった。

 いや、これからが、本当の始まりなのかもしれない。……だけど、戦いは終わったんだ。




 誌乃は、ゆっくりと隼人を抱く力をゆるめ、そして ただ涙が溢れるに任せた。これ以上 何かを言おうとすれば、感謝でも言おうものなら、もう大声で泣いてしまうだろうと思ったから。感謝を必死に言おう言おうとはするものの、大声で泣いてしまえば、感謝どころではないのだから。

 そして、全てから解放された安堵感。……誌乃の温もりは 無事だった事を再認識させてくれる。それらが、再び隼人に眠気を誘った。表情を緩めたまま、目をゆっくりと閉じる。キリトも、一瞬だけ心配をしたけれど、問題ない事を悟って、無言のまま この場を動こうとはしなかった。


――やがて、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。……近づいてくる。


 それでも、誌乃から涙が涸れることはなかった。密やかに、次々と大粒の雫を零しながら、深い喪失感。そして それにも負けない彼への想いを強く認識していた。


 最後の戦い。それは鳴り響くサイレンの音を終曲の音とし、……そのまま 幕を切ったのだった。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧