| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

東方乖離譚 ─『The infinity Eden』─

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

episode2:安全保証かと期待してたら待ってたのは修行の山だったんだけど助けて

「死ぬッ⁉︎死ぬってば!」

「安心しろ。威力は殆ど込めていない。直撃しても精々吹っ飛ばされる程度だ」

「数の問題ぃぃぃっ!?」

 飛来する無数の光弾をギリギリで避ける。
 幸いにも枯葉がクッションとなって大した衝撃は無いが、それでも痛いのは痛い。わざわざダイビングしているのは、それより遥かに怖い光弾を躱す為である。

 再び枯葉のクッションに飛び込み、さらに飛来する弾丸をゴロゴロと転がって回避する。
 回転する視界の端で光は炸裂し、同時に『ダガンッ!』という明らかに『威力は殆ど込めていない』なんて言葉が信用出来なくなる音が鳴る。

「ひぃっ⁉︎地面抉れてるからっ!明らかに怪我じゃ済まない威力だからっ⁉︎」

「案ずるな。対生物にのみ威力を削いである。本物の弾幕はこんな物ではないぞ」

「もう弾幕なんて嫌ぁぁぁぁっ!」

 ──嗚呼……今は知らぬお母さん、お父さん、私を産んでくれてありがとう……私は今憧れの世界で絶望しまくってぶっ飛んで死にます……

 そんな遺書紛いのメッセージを頭に浮かべながら、ヒメノは涙目で再び跳んだ。




















「うぅ……そろそろ本格的にトラウマなんだけど……」

「ははは、その割には一発も当たってないじゃないか。大したものだ」

「逆に当たる前提で撃ってたの⁉︎」

 クスクス、と上品に笑う少女の腰から伸びるのは9本の尾。それは彼女が人間ではなく、妖獣である事を表している。
 そう、八雲藍である。幻想郷の管理者、八雲紫の式である九尾の狐。
 九尾の狐は人間に化けた時、傾国の美女と言われたらしいが、実際藍はとんでもない美少女であった。
 明らかに見た目からして美女の部類ではあるが、敢えて美少女と呼んでいるのは東方の原作設定故である。
 東方の女の子はみんな少女、良いね?

 原作での藍は多少他人を見下す節があったのだが、この藍は少し違うらしい。
 初対面だった以前の私にも気さくに接し、明るく話してくれる。修練中は鬼のような厳しさではあるが。

 で。今何をしているかというと、ご褒美TIMEである。
 初の修練でクタクタに疲れ切り、畳に倒れ込んでいた所を藍が気を利かせて膝枕してくれたのだ。柔らかい(意味深)
 で、流石にずっと弾幕を避けるだけ……という訳にもいかず、時々別の修練も挟むようになった。
 それは私含む人が幼い頃誰でも憧れたであろうものであり、今の私の最も大きな課題である。

「で、アレはどうだ?少しはイメージが湧いたか?」

「ううん、全然。やっぱり空を飛ぶって実感が湧かない」

 そう、浮遊だ。
 幻想郷で安全に生きるにはあって損はない便利技能であるが、流石に1日2日で出来るようなモノでは無い。
 そもそも未だ幻想郷に来た初日に紫から告げられた一言──私が半神であるという事すら実感が湧いていないのだ。
 只の人間が飛ぶのは普通ではまず不可能らしいが、異質な血が混じる種族であれば話は別だ。
 神の血族は所謂『神通力』を使って事を成すものらしく、私の中にもその神通力とやらが巡っているらしい。
 その神通力を特殊な方法で働かせる事により、私は飛ぶ事が出来るという。

 が、そこは今まで現実世界……『外の世界』で暮らしてきた私には縁の無い話。『お前には空を飛ぶ資質があるから飛んでみろ』で飛べるなんて都合の良い話は無い。

 大事なのはイメージする事だと教えられた。が、そう簡単にイメージが湧くはずも無い。

「ふむ……こればかりは私が干渉できる事柄では無いからな……ヒメノが直接習得せねばならない。山の巫女ではないが、時には常識に囚われぬ事も重要だぞ?」

 うん、『この幻想郷で常識に囚われてはいけないのですね!』ってヤツだね。また守矢か。
 常識に囚われるなとは言っても、今まで『人間は空を飛べない』という根底意識が染み付いているのだ。今思うと早苗さんはよく幻想郷に即適応出来たなと感心する。

「うーん、まあ頑張ってみる。結界の修復はもうちょっと掛かるんでしょう?」

「ああ、それまでに習得できれば良し。出来なくともまあ良し。此処に残るという選択肢もない事はないが、お前も早く帰りたいだろう」

「そうだね、記憶も結局戻らないままだし。これが戻らない限り、戻っても路頭に迷うだけだしね」

「ああ、頑張れよ」

 ヒメノの頭を抱いて、その髪を撫でる。ヒメノも嬉しそうに藍に抱き付いた。

 ──おかしい

 藍の思考には、常にその疑問だけが残っていた。
 ヒメノが此処にやってきてから既に2週間が経過した。紫とあの巫女が二人掛かりで修復に回れば、3日と掛からず修復は終わるだろう。
 幾ら何でも、遅過ぎるのだ。

 ──紫様、何か問題があったのですか……?

 その疑問に答えを示す者は、誰もいない。


















「ねぇ、紫。これはどういう事なの?」

 霊夢の焦り混じりの疑問に、紫も内心冷や汗を掻きながら答える。

「……正直、分からないわ。結界が暴走しているのか、それとも第三者による干渉かは分からないけれど……」

 内側から、結界を超える事が出来ないのだ。
 結界の修復は完了した。本来ならば結界は正常な状態に戻り、ヒメノを外に送り返す事が可能となる。
 が、今や結界は内側からの干渉を拒んでいる。紫の操る『スキマ』でさえ、外の世界には出られない。

 まるで幻想郷そのものが、ヒメノという少女を外に出さないよう、その門を閉ざす様に。

 ──まさか、ね。

 紫は、その可能性を一蹴した。

 
 

 
後書き
next↓
第1章『影月異変』
episode1:ぶらり幻想出会い旅
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧