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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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追憶-レミニセンス-part2/忍び寄る影

ビクゥッ!!


サイトは身震いした。まるで何か、数年前ツルギを憎んでいた頃にバルタンが憑依してきた時以上の、底知れない悪寒が瞬間的にサイトを襲ったのだ。
「どうした?」
傍らで、不思議に思ったシュウが奇妙に思ってでサイトを見る。
「い、いや…なんだろう。よくわかんないけど、今心臓を引っこ抜かれてにやっと笑われながら潰されたようなものすごくやばい感覚が…」
『…なんでだろう、俺にまでその嫌な予感が伝わった』
あまりの悪寒にサイトは身震いしたが、シュウは意味が分からずいぶかしむような目で見るばかりだった。ゼロも同じ体を共有しているせいか、今の悪寒に反応を示した。サイトの背中に担がれているデルフは心の中であ~、となんとなくその悪寒の正体を見破った。こりゃ、帰ってきたらいつもの人騒ぎが起こることになるかねぇ…とため息を漏らしながら。
今彼らはある場所にいた。トリスタニアの王立アカデミーにある、ジャンバード保管敷地内。サイトたちは本来異世界人だから扱いとしては平民と変わらない。まして貴族でも無許可の入場は許されていないが、アンリエッタからもらった許可証のおかげもあって入ることができるようになった。
二人はジャンバードのコクピットに入った。周囲はかなり暗かったが、サイトはこのフロアの構造と景色に目を奪われた。中央にソファが察知され、正面にはモニターが設置されている。周囲の壁も含め、SF映画に登場するような景色が広がっていた。見学に訪れたGUYS基地フェニックスネスト顔負けだ。
「今回お前を呼び出したのは他でもない。この機体の操作の仕方だ」
「操作の仕方?」
「平賀、この部屋を見てみろ。この機体には操縦桿も、操作盤も存在していない」
言われてみて、サイトはこのコクピットを見渡す。確かに、船を動かすためのハンドルもスイッチも、それらしいものがこの機体にはなかったのだ。地球にある防衛兵器には腐るほどあったのに。ここまで違いが生じると、誰であろうと操作することさえできなくて当然だろう。
「なるほどな。相棒のガンダールヴのルーンの力はあらゆる武器を使うことができる。こいつの使い方を知るために相棒をここに連れてきたってわけか」
デルフが納得する中、本当にできるだろうか?とサイトは不安を覚える。これまでの戦いで、サイトがガンダールヴのルーンを使った際、デルフのような剣とMACバズーカのような重火器、そしてウルトラゼロアイのガンモードとウルトラガン。大きく分類しても銃と剣しか使ったことがない。果たしてその二つにも分類できないこの機体の使い方がわかるだろうか。
「やってみてくれ」
「お、おう」
シュウに頼まれるがまま、サイトは目に入ったモニターに手を振れた。すると、シュウの読み通りサイトのルーンが青く光った。そして、彼の頭の中に使い方が流れ込んでいく。
が、それ以上に驚く出来事が発生した。突然モニターの上に設置されているランプが光った。同時に、コクピットの周囲からキュウウウウン、と機械音が鳴り響き始め、コクピット中が点灯したライトの光に照らされ明るくなった。
「これは、機能が回復したのか?」
シュウがサイトに尋ねると、サイトは首を横に振った。
「最低限の機能は今ので回復したみたいだ。でも、この機体に搭載されていた人工知能はまだ休眠状態みたいだ。タルブの戦いでルイズの魔法が効いたせいかな?」
ルイズが聞いていたら怒りそうな言い方である。あれは仕方ないことなので責めることなどできないのはサイトは当然わかっているが。
「で、使い方はわかったのか?」
「まぁな。こいつは人工知能さえ起動していれば、タルブの時に見せた巨人の形態『ジャンボット』に変形して戦えるみたいだ。その形態になると、操縦者の動きをトレースすることもできるんだって」
「人間の動きをそのまま、この機体自身が真似ることができるのか」
操縦者によっては、強くなることも弱くなることもあるということか、とシュウは納得する。
「でも、そういえばタルブの戦いのとき、操縦していたワルドは自分の手で操縦してこなかったな」
サイトはタルブの戦いで、この機体ジャンバードを操っていた時のワルドの動きを思い出す。奴はジャンバードの船体の上に乗り、ビームと自身の魔法を併用してこちらを攻撃してきた。その後はジャンボットに変形したが、トリステイン軍の報告によると、ジャンボットの機内にワルドの姿は確認されていない。つまりジャンボットへの変形は彼の手によるものではなく、自動操縦であの形態になっていたと予測される。
「それに、こんな兵器がどうしてアルビオン王家にとっての秘宝になってて、ワルドがそれを動かすことができたのか…」
これが、あのワルドが乗りこなしていた、ウェールズの口からは『始祖の箱舟』と称されたこの乗り物。何度も語るようだが、とてもハルケギニアの文明で作り出せそうなものではない。なぜこんなものがアルビオン王家で秘宝として隠されていたんだ?そしてどうしてレコンキスタがこれを侵略兵器として利用できたのか…謎は深まる。
「俺もそれについては疑問だった。この世界の文明のレベルは、数百年前のヨーロッパとほとんど変わらない。機械と言えるものが生まれたのは、100年から200年の間。とてもこの機械を生み出せるような技術はないと考えるべきだな」
「じゃあ…なんで…」
「考えられるのは…」
シュウはモニターを撫でながら、サイトの方を振り向いて言った。
「この星の知的生命体ではない何者かが、この世界に飛来した。または、俺たちどころかこの世界の人間の知らないどこかで、高度な文明を築いている生命体が息を巻いているか…」
確かにそれしか予想できない。そもそも、こんな兵器を量産できる文明があったら、今頃怪獣や星人相手に苦労なんてしないはずだ。
「もっとも、こいつがどこからきたのかなんて、持ち主にしかわからないことだ。その持ち主であったアルビオン王家も、滅ぼされたそうだから、真相は闇の中…といったところだ。せめてこの機体の人工知能が回復してくれたら何かわかるかもしれないがな」
「…」
サイトと、ゼロはアルビオンで出会ったウェールズたち王党派や、グレンたち炎の空族たちの姿を浮かべた。自分たちが未熟だったばっかりに、みすみす星外の侵略者たちに支配された革命組織レコンキスタの手にかかってしまった。忌まわしい出来事だが、忘れてはならない。願わくば、自分たちの知らないどこかで生きていることを。
「とにかく、機能が最低限回復したのなら、専用の通信網を作ることができるかもしれない。平賀、あれを持ってきたか?」
「あ、ああ…これだろ」
サイトはシュウに言われ、持参してきたリュックを床に置くと、一機の機械を取り出す。
「相棒、その変な箱はなんだい?」
「ノートパソコンだよ」
デルフに尋ねられたサイトがすぐに答えた。ルイズによってこの世界に召喚されたときに持ってきていた、修理されたばかりのMYノートPC。それを渡されたシュウはデスクの上に置いて蓋を開き、デスクトップ画面を開く。その後、自身も持ってきていた、ナイトレイダー隊員服をしまうための収納ケースから、数本のケーブルを取り出した。さらに続いて、サイトのビデオシーバーと、自分のパルスブレイガーを傍らに置いた。
「平賀がそいつを持ってきたおかげで作業がはかどるな。
まずはこのパソコンから設計したプログラムを設計。その後はプログラムを送り、この機体とこの二機の通信機器を繋ぐ」
「そうすりゃ、相棒とお前さんがいつでもどこでも連絡できるようになるってことか?」
「ああ」
シュウはインストールされていたプログラム設計アプリを開くと、目で追うには難しいほどの速度でキーを押しまくりだした。サイトは思わず息をのんだ。画面上では英語と記号の羅列にしか見えない。英語の成績が芳しくなかったサイトはそもそもアルファベットを見るだけでも目が滑りそうになるのに、シュウはそれら一つ一つを理解し、入力を続けている。これが本職の防衛チームの力なのか。
「…そういえば」
ふと、サイトはシュウを見ているうちに、一つの疑問を浮かばせた。
「あんたは、どうして今まで俺たちを助けてくれたんだ?」
「…急になんだ」
振り向かないままシュウは入力をつづけながらサイトに聞き返す。
「俺はさ、この世界が地球と同じ目に合うのを黙って見てられなかったからこうして、ウルトラマンの力を受け入れて戦ってる。でも、あんたの戦ってる理由が、なんか…見えてこなくて」
今までシュウは、自分たちの前に突然現れ、そして姿を消す。そんなことが多かった。だから彼の戦っている理由も、彼の人となりをうまく知る機会がほとんどなかった。ただ、ラ・ロシェールの時も、ゼロの独走の結果街が壊滅したことについてもひどく憤慨していたし、彼の戦う姿を見ていれば、彼なりに必死になって戦っていたことが容易にわかる。
「俺はお前にとってあこがれの防衛チームの隊員。人を守ることなんて当たり前じゃないか?」
「だから、その理由を尋ねているんだって!」
少なくとも味方であることは確か、なのだが…サイトは彼の戦う理由も、なぜ防衛チームの隊員として、ウルトラマンとしてこの異世界に留まって戦っている理由がよくわからなかった。確かに人を助けたりするのは当たり前かもしれない。
でも、サイトはある違和感を覚えていた。数年前に会ったことのある。正体が世間にばれてしまったメビウス=ミライが多くの人たちに笑顔を積み隠さないことや、自分にはゼロという、神々しい存在でもあると受け止められているウルトラマンの理想像とはまるで違う若者真っ盛りなウルトラマンがそばにいるせいだろうか。
シュウは必要なことは自分たちに話しても、必要以上に自分から打ち解けるために歩み寄ってくるような気配を一度も見せてこなかった。ともに戦う仲間。友人関係、というにはどこか冷めた感じがいまだに抜け切れていない。
「やっぱ…昔なにかあったんだろ?テファや村の子達、心配してたぜ」
そういったとき、サイトはラグドリアン湖でシュウが召喚したストーンフリューゲルに触れた時に見えた、奇妙なヴィジョンを思い出した。
「実は、お前が呼び出した石像に触ったとき、不思議な映像が頭の中に流れ込んできてさ。……戦争ものの映画の中みたいな、すさまじいもんだったけど」
戦場の真ん中をただ突っ切る少年の姿。周りで次々と人が死んでいく光景。あまりにも生々しくて、思い出し過ぎるあまり、油断すると戻してしまいそうになる。
もしかしたら、あれは彼の記憶の一部だったのかもしれない。そんな後ろめたい記憶があるから、テファたちとも打ち解けきれていないんじゃないかと予想した。
「………平賀」
シュウは、キーを押すのを中断した。静かに彼の方を振り向くと、サイトを睨みながら、静かながらも重みのかかった声で言った。
「忘れろ。二度と思い出すな」
サイトは、額に一筋の汗を落としながらゆっくりと頷いた。もしかしたらと思っていたが、やはり聞かれたらまずいことだったようだ。
『俺たちと同じかもしれないな』
「…」
背を向けたシュウの姿に、かつての自分たちがそうだったような、孤独感を覚えた。一方でシュウはパソコンに再び視線を戻し、プログラムの設計を再開する。
「そんなことよりも、お前に言っておかないといけないことがある」
キーを押しながら、シュウは口を開く。
「え?」
「…先日、俺はファウストと戦った」
「ファウスト!?」
目を見開くサイト。あの黒いウルトラマンが、まだ生きていたのか!湖で初めて会ってから、これまで何度も遭遇してきたが、性懲りもなくまた現れたのか。
「最後に、奴は不穏な言葉を口にした。死の喜劇(デスゲーム)…と」
「死の喜劇(デスゲーム)…?」
単に聞いただけならただの厨二病発言に聞こえるが、これまでファウストは何度も自分たちの前に立ちふさがり、スペースビーストだけでなくベムラーや、タルブに出現したサドラたちのようなM78ワールドの怪獣さえも操って混沌をもたらそうとした恐ろしい相手。そんな奴が不吉な言葉をかけてきたということは、近いうちに間違いなく恐ろしいことを始めようとしていると考えることができた。
「済まない、先日はその時のダメージが戻っていないせいでお前に手間をかけてしまった」
「アンタレスとの戦いでどうして出てこなかったのか気になってたけど…そういうことだったのか。それならいいさ」
決して恐ろしくて出てこなかった…なんてこの男のキャラを考えたら想像できない。サイトはシュウの言葉を信じることにした。
「平賀、俺の指示通りに、このジャンバードとやらとPCのケーブルを繋いでくれ」
「え?お、おう」
サイトは、傍らに置いてあったケーブルを見やる。結構な本数が束ねられていて、どれがどれだかわからないくらいある。そこから少し苦戦した。ケーブルは結構な数が並べられていたのだ。ジャンボットのケーブルとPCから繋いだケーブルを正しい並びに繋げられなかったりする事態が多発、作業が難航した。ともあれ、時間こそかかったが正しい並びにケーブルを繋ぐことができた。
「ふう…」
思った以上に大変な作業だったせいもあり、サイトはコクピットのソファに腰掛けた。
「よし、あとはケーブルを通して、ジャンバードにデータをインストールさせるだけだ」
「もう!?」
サイトはとても一日ちょっとじゃできそうに見えない作業を、ここまでやってのけたシュウの仕事の速さに目を丸くした。いくらなんでもすごすぎじゃね?一からプログラムを作ること自体簡単なことじゃないのは、機械やコンピュータの専門じゃないサイトから見ても分かる。
「…あのさ」
いざシュウが設計したデータをジャンボットに送ろうと、エンターキーを押そうとすると、サイトがシュウに声をかけた。
「なんだ平賀」
「シュウ、あんた…年いくつ?」
「18だ」
18ぃ!?サイトは驚いた。たった一つ上の年齢なだけなのにこんなことができるなんて…。
「だがなぜ、そんなことを聞く?」
「いや、だって…普通の18歳の日本男児がここまで機械に精通できるもんじゃないだろ?どこで学んだんだ?こんな技術…」
「日本男児…か」
ため息交じりにシュウは呟く。すでにエンターキーを押して、データのインストールが行われていた。インストールはすでに50%ほど完了していた。
「あとは通信機がちゃんと通じ合えるかどうか試験をする」
シュウはサイトからの問いには結局答えないままだった。そのまま奇妙な沈黙が二人の間に立ち込め、サイトは雰囲気がやけに暗いことが気になってしまった。
インストールを完了させ、シュウは置いていたビデオシーバーとパルスブレイガーを同時に起動させた。このジャンバードには、サイトを呼ぶ前の確認ですでに独自の通信システムが搭載されていた。サイトから借りたPCをジャンバードに接続させ、シュウが設計した新たな専用通信プログラムをジャンバードにインストールさせたことで、ビデオシーバー・パルスブレイガー・そしてこのジャンバード自身からも、互いに通信のやり取りを可能とする。
「テスト開始」
サイトが疑問を抱く一方で、シュウは二機の通信回線を起動させる。これで二機の間で通信が成功したら、通信機器同士の間で回線がつながった証になり、実験は成功したことになる。それは同時に情報提供を常時行うことが可能となり、この先の戦いが有利になる。
果たして……。
息をのむサイトたち。


―――ピピッ


電子音が鳴った。それも、ビデオシーバーとパルスブレイガーの両方、そしてこのジャンボットのメインモニターから。シュウはビデオシーバーとパルスブレイガーの両機の画面を見ると、互いの景色がモニターに表示されていた。ためしにマイクテストを適当に行うと、音声もしっかり転送されている。
「すげえ…」
本当に成功したのか。サイトのその言葉にシュウが頷く。それを聞いて、サイトからも自然と笑みがこぼれた。どうやら通信網を確立させることができたようだ。
『これなら、この先も有利になるな。けど…』
やろうと思ってできるような芸当ではない。それはゼロも理解していた。そもそもこれらの機器は製造元の世界がまるで違うのだ。まして、異なる文明同士の機械の回線を繋ぐ作業ができるなんて、いくら防衛チームの隊員だったとはいえ、サイトと年齢がたった一つしか違わない若者に…。少女に召喚された地球人の使い魔にして、ウルトラマンに変身できるだけでも普通ではない…って、これについては自分たちも同じか。けど、一体シュウは何者なんだ?
「しかし問題はこの機体の動力だな。どうやって確保するべきか…」
シュウが漏らした言葉に、サイトはあぁ…と頭を抱えた。さっき左手で触れたことで、ルーンの力で使い方を知ったとき、同時にこの機械のエネルギーの源をサイトは知り、そのことでため息を漏らさずにはいられなくなったのだ。
「それなんだけどさ、この機械は地球の機械と違って直接電気を取り込んでいるわけじゃなくて、ある鉱石に含まれるエネルギーを電力に変換してるみたいなんだ」
「ある鉱石?…ん?」
ふと、シュウはモニターの方に視線を泳がせる。
ジャンバードのモニターが起動しだし、画面上にマップも表示されたのだ。マップの中央に、気になる赤い点が表示されている。
「この機体にあらかじめ搭載されていた索敵機能が、回復したのか。だが、この反応は…」
これならこのジャンバードの索敵機能で怪獣などの敵の位置を特定できる。
しかしこの反応の正体は?怪しい反応地点はジャンバードの外…それもほど近い点から反応が示されていた。この反応の方角は…。
「この方角…城の方から発生している!」
「城!?」
城には、すでに知っての通りアンリエッタたちをはじめとしたトリステインの重役たちがいる。権力争いが趣味のような人間が大半とはいえ、政治の一端を担う者たちが狙われると、ただでさえ国力低下傾向のトリステインは、政治と法を掲げる存在がかけてしまえば治安悪化につながり、レコンキスタのような同じ人間のはもちろん、宇宙からの侵略者の格好の的にもなりかねない。
「俺が言ってくる。平賀、お前はここにいろ」
「え、ちょっと待てよ!俺も…!」
シュウがブラストショットを片手に持ち、外に出ようとすると、サイトが自分も行かなくてはと、シュウを引き留める。そんな彼にシュウは言い返す。
「許可証を発行されていないお前はヴァリエールが同伴じゃないと入れないだろ。それとも不法侵入してお尋ね者になりたいのか?」
「う…」
そうだ、自分はルイズと一緒じゃないと城に入ることさえもできなかったんだ。
「俺は十分傷を癒したし、お前はまだ怪獣と戦ってから経過した時間が浅い。なら俺が行くべきだ。違うか?」
「…わかった。お言葉に甘えるよ」
正直ここに留まるのはもどかしいが、仕方ない。サイトは渋々ながらも従うことにした。シュウは自分の右腕にパルスブレイガーを巻くと、サイトにビデオシーバーを手渡した。
「異常が感知されたら反応が示されるはずだ。その時はこいつで連絡してこい」
「わかった」
サイトが頷くのを確認すると、シュウは直ちにジャンボットの外へと出て、城に向かって走り出していった。サイトはそれを、出口からそれを見送った。
「クールだねえ…相棒もあれくらいしまりのある男だったら、男として言うことなしなのによ」
「うっせ」
ため息交じりにデルフが呟くと、サイトは口をとがらせながらデルフに言う。
『防衛チーム出身って言ってるだけあって、ずいぶん慣れてる感じがあるな』
ゼロからの一言に、ああ…とサイトは頷く。
「でも考えてみれば、あいつあまり自分のこと話さないよな。なのに、俺たちとあいつって今までちゃんと一緒に戦ってこれた。俺はことに違和感を感じてるんだ」
これまでのシュウと共に行ってきた行動を振り返りながらサイトはそう言った。確かに、シュウとはそんなに面識があったわけじゃない。単にパラレルワールドとはいえ、同じ地球人であり使い魔でありウルトラマンという二人の間にある共通点が、二人を何度も引き合わせ、そして力を合わせて戦うという状況を生み出し、全て結果的にうまくいき続けた。地球にいた頃、生徒たちの中で必ずクラスに一人、一人ぼっちを好んだりもする奴もいれば、多くの人と触れ合おうとする者もいるし、中には平気で他人を傷つける者だっているのを思い出す。友人関係というものは、一度話しかけるようになってから会話をする時間が長くなるうちに自然と出来上がっていくのが普通だろう。でもサイトは、クラスメートでもなければ、まだ親しい仲とは言えない間の相手とここまで来れたことに違和感があったのだ。
『あいつが必要なこと以外を口に出さず、その時の危機を打開することだけを考えている。極力無駄を避けるよう善処した結果、うまく続けたんだろうな。
仕事仲間に近い関係だな。今の俺たちとあいつは』
「…なんか、それって寂しくないか?」
『…かもな』
サイトの言葉に、ゼロは頷いた。かのウルトラ兄弟たちも、『兄弟』という単語を使っているが、実際にはただの役職名や二つ名のようなもので、血の繋がりを持っているのはごく一部だ。しかしそれでも彼らは、一般の兄弟以上の固い絆で結ばれている、戦力・精神面共に宇宙で生粋の結束力を持っている。故に彼らはあらゆる敵にも負けない、伝説のヒーローとして讃えられてきた。同時に、互いを家族として心から信頼し合ってもいるが、今のサイトとシュウの間に、まだそこまでの強い絆は、まだ見えなかった。

「……ふ」
シュウがサイトの元からたった今城へ向かっている姿を、木陰から見ている者がいた。再三復活したノスフェルがフログロスと共に、二人のウルトラマンと戦った光景を、謎の女と共に観察していた、あの黒ローブの屈強な巨漢だった。城の方角へと消えていくシュウを見届けると、彼はそれを待っていたのか、木陰から立ち去って行った。





ウェールズが生きている。だが、人ならざる者…人ではない異形の存在となった。
ボーウッドからの報告書にはそう記されていた。
なぜだ?レコンキスタが、自分たちの敵であるウェールズを生かしておくはずがないのに、彼が生きている!?それにもう一月になるのは…『人ならざる者となった』というボーウッドの報告だった。一体どういう意味なのだ?
いや…もしかして…とアンリエッタは悪い予感を抱く。まだボーウッドは捕虜としてトリステインに留まっているはずだ。もう夜遅くだが、急いでボーウッドのもとに向かい、この言葉の意味と真相を確かめなくては。

――――会いたい…会いたい!!

――――この世界でたった一人の愛しい人…ウェールズに!!

――――あの日のように、互いに笑いあっていたい!

しかし、この日の時間は遅く、部屋から出ることも禁じられていた。身の安全のためと仕事をサボるなという警告の表れではあるが、はぁ…とため息を漏らしたアンリエッタ。いくら自分のための配慮のつもりでも、彼女にとっては自分を閉じ込める邪魔くさい鳥籠でもある。ボーウッドに真実を聞くのは、仕方ないが明日になるだろう。
アンリエッタはネグリジェ姿に着替え、いつも通りベッドにもぐりこんで眠りについた。
せめて、眠りについて夢を見ている時間くらい、自由でいても罰は当たらないわよね…。
そして、夢を見た。3年前のラグドリアン湖で行われた母マリアンヌ太后の誕生パーティ。ガリア、ゲルマニアをはじめとしたハルケギニア各国から王族と貴族が着飾ったあの夜の出会いを…。


しかし、アンリエッタは気づいていなかった。眠りについたこの瞬間、悪魔の戯れの序章が始まったことに…。


三年前のラグドリアン湖で行われたマリアンヌ太后の誕生パーティ。アンリエッタは会合した人への挨拶や追従に嫌気が指していた。ルイズが遊び相手になってくれていた幼い頃よりずっと似たようなことばかりをさせてもらっていたものだから、たまには違うことをしたり、新鮮な空気を吸い込みたかった。
天幕が並ぶ一角をフードで覆い隠しながら彼女は、夜の静寂に包まれたラグドリアン湖の湖畔にたどり着いた。月明かりが反射して、その光景は美しかった。
見とれるだけではいられなくなった彼女は、周囲に人がいないのを確認すると、ドレスを脱いで、生まれたままの姿で湖に足を踏み入れ身を清めると、水の中へ潜った彼女は泳ぎ始めた。当時の季節は初夏、寒いどころか、ちょうどいい温度となっていたため加減は十二分だった。追従に見られたら怒られるだろうが、それでも彼女はひと時のこの自由な時を楽しみたかった。
すると、ちょうど自ら顔を上げた時、森から生い茂る草がカサカサと揺れる。人の気配もだ。アンリエッタはその身を両手で隠し、羞恥で赤らめながらも森の方を睨みつけた。
「誰!?名乗り出なさい!」
「ま、待ってくれ!僕だよ、アンリエッタ」
結構慌てたように森の方から聞こえてきたのは、彼女と深い愛情を紡ぐこととなる少年…アルビオン皇太子ウェールズだった。
「ウェールズ、様?従兄弟の…!」
従兄とはいえ、それぞれ別の国の王族。会う機会がないこともあり、二人はこの日初めて会った関係だった。
急いで体をふき取り、ドレスを身に着けた彼女は、「もう出てきていいですわ」と声をかけると、偶然にも彼女の裸体を見てしまったことで顔にいまだ赤みを指しているウェールズが顔を出してきた。
「驚かせて済まなかった。ラグドリアン湖を一目見ようと散歩してたら、水の精霊が月明かりに惹かれて現れたのかと思ってね。知らなかったとはいえ…あまりに綺麗だったから見入ってしまった」
「嫌ですわ、もう…アルビオンの方ったら冗談がお上手なのかしら」
見られてしまったという事実に、アンリエッタもまた恥ずかしくて真っ赤になる。冷たい水で冷やしたはずの体が、火竜どころか灼熱の怪獣並みに熱くなるのを感じた。
「じょ、冗談なんかじゃないさ!僕は王子だ。嘘をついたことは始祖に誓って一度もない!ま、まあ…水の精霊なんて見たことはなかったけど…」
「ないけれど…なんですの?」
「…君は、その…」
恥かしさが抜け出ていない様子だったが、アンリエッタをまっすぐ見ながら、彼は真摯な声で言った。
「水の精霊より、ずっと美しいよ」
このときのウェールズとアンリエッタの顔も胸の鼓動も、とても赤くて熱いものだったことは間違いない。お互いに名前しか知らない関係だったはずの二人は、双月に彩られた湖畔にて恋に落ちた。
園遊会は数日続いた。その間、二人は夜になると、マスクを着用したりフードを深くかぶったりして人目をはばかりながらラグドリアン湖の湖畔にて密会を繰り返す。この園遊会が終わったら、それぞれが祖国に帰ることとなり、いつ再会できるかわからない。だから一緒に過ごせる時間を一秒でも伸ばしておきたかった。
「風吹く夜に」
「水の誓いを」
ウェールズが最初に言うと、アンリエッタがそう答える。二人だけの合言葉。
もうすぐ、園遊会は終わる。その時もまた二人は手を繋ぎながら湖畔を歩いた。アンリエッタは影武者(実はルイズ)を使ってここまで来たとか、酔っ払いの相手はうんざりとか愚痴を思わずこぼすと、ウェールズは大丈夫なのかと心配になってあたふたしていたものだ。
「ウェールズ様、ご存じ?このラグドリアン湖の水の精霊は『誓約の精霊』とも称されています。ここで誓い合った誓約は、決してたがえられることがないと」
「ただの言い伝え…迷信だよ」
苦笑しながらウェールズが言うが、アンリエッタは言った。
「たとえ迷信だとしても、私は疑っておりません。信じ続けた果てに叶えられるのなら、いつまでも信じ続けます」
頬を伝う涙が、月の光に反射してダイヤモンドを超える輝きを放った。それに気づいたウェールズは、アンリエッタの涙で濡れた頬を撫でた。
「ああ、泣かないでくれ。湖で君の涙であふれてしまう」
「ウェールズ様は、私がどれだけ愛しているのか、測りきれていないのでしょうね。私が本気になるほど、意地悪な冗談を言って…」
「機嫌を直してくれ、お願いだよ…」
「ならここで誓ってくださいませ」
アンリエッタはドレスのスカートの裾を掴んで湖に足を踏み入れる。まるで水の上を歩いているようであった。
「私、トリステイン王女アンリエッタは水の精霊の御許で誓います。ウェールズ様を永久に愛し続けることを」
「……」
一人の男を、それも自分への深い想いを口にしたアンリエッタは、やはりとても美しいものだった。ウェールズは心の底から言葉を失っていた。一人の人として、男として身も心も美しく、愛しい女性から愛の言葉を受けてうれしく思わない男などいないだろう。だが…。
「さあ、ウェールズ様も」
誓ってくださいませ、とアンリエッタは催促する。しかし、ウェールズは湖畔から水に足を踏み入れなかった。黙とうするように目を閉じると、湖に向けて誓いの言葉を告げた。
「アルビオン王国皇太子ウェールズは、水の精霊の御許で誓おう!いつかアンリエッタと共に、このラグドリアン湖の湖畔を、太陽の下で誰の目も憚ることなく手を取り歩くことを」
ほら、誓ったよ。はにかんだ笑みを見せるウェールズを見た時のアンリエッタは、寂しそうに呟いた。その声は小さく、ウェールズの耳には聞き取れなかった。
「…愛を、誓ってくださらないの?」
「さあ、上がっておいで。足が冷えてしまうよ」
湖畔から手を伸ばしてくるウェールズの手を、愛を誓ってくれなかったことへの不満を抱きつつもアンリエッタは手に取ろうとした。


しかし、その手を取ることはできなかった。


周囲を照らしていた月の光が、突然息を吹きかけられ消えた蝋燭の火の光のように、パッと消え去り、辺りは僅かな光をも感じさせない闇に塗り固められた。夢の中とはいえ、思わぬ出来事にアンリエッタは足を止めてしまう。一体これは…。彼女はウェールズの方に視線を向ける。瞬間、彼女の瞳は絶望に染まった。
ウェールズだと思っていた『その人』は、髪がずるっと落ちて、さらに目や耳、そして服がずるずると地面にずり落ちていく。まるで、氷が熱で溶かされていくように。

残ったのは………

ただの木製のマネキンが自分に手を伸ばす姿勢のまま立っている姿だった。

「…え…?」
アンリエッタが茫然としていると、ウェールズの姿をかたどっていたマネキンは破裂するようにバン!と弾けて粉々となった。彼女はショックのあまり目を見開いて、口を覆い隠した。
今のは…なんだ?私の目の前で言った何が起きたというの?
が、さらに彼女の動揺を誘う声が耳に飛び込んできた。
「誓いたかったさ」
振り返るアンリエッタ。そこに立っていたのは、たった今マネキンとなって砕け散ったはずのウェールズだった。



その頃、サイトは一人でジャンバードのコクピットで待機していた。
…暇だ、サイトもゼロも、デルフも同時に思った。ここでただじっと待っているのが、あまりにもどかしい。
ルイズとハルナも妖精亭で待っているはずだ。あまり心配をかけるわけにはいかない。しかもハルナはまだ体調が戻っていない。こういうときは、そばにたった一人の知り合いである自分がいてあげなくてはならないのではないか。
「そろそろ戻った方がいいかな…?」
でないとルイズからの雷が落ちてくる…とはすでに分かりきったことなので敢えて言わなかった。ルイズは怒りっぽくもあるが寂しがり屋でもあったりする。その分後が怖いものだ。帰りたがるサイトに、ゼロが戒めの言葉をかける。
『おいおい、何言ってんだ。あいつからここに残るように言われてただろ』
シュウからここにいるように言われている。勝手にいなくなっては困らせてしまうのではないかと懸念があった。
「そのためにこの日ビデオシーバーとあいつの通信機の回線を繋げたじゃないか。大丈夫だって。もしものときは連絡がくるし、こっちからも送れるだろ」
『…まぁ、それもそうか。変身すれば、エネルギーを多量消費するけどテレポートを使って瞬間移動することだってできるんだ』
「そうなのか!?」
テレポートまで使うことができるとは、ウルトラマンというものはつくづくチートだよなぁ…とサイトは思った。
けど、それなら先に戻っていても問題はないかな。もう夜遅い時間だし、サイトは一度妖精亭に戻っておくことにした。
「ルイズへの言い訳、どうすっかな…」
ジャンバードから外へ顔を出したサイトは一人夜空を見上げながら呟く。帰ってきたらルイズにちゃんと弁明しておくか。一応スカロンにも出かけるようには言ってあるからわかってはくれるはずだとは思うが…もし、ルイズが許してくれなかったら?
「…やっぱここにいよっかな…でも…」
ルイズから食らう仕置きが怖くなり、ただでさえヘタレ具合が目立つくせにさらにいっそうヘタレになるサイト。悩んだ末、後が怖いならむしろ戻った方がいいかも…ということで結局いったん店の方に戻ることにした。街の方へ繰り出し夜道を歩いて妖精亭に戻ろうした彼は、町中に流れる水路の水に目をやる。深い堀の底を流れる水の水面に、月の光が反射していてとてもきれいだった。それだけならまだよかった。
だが、次の瞬間、彼はあり得ないものを目にした。彼が水面に目をやり、月明かりで照らされた自分の顔を見てみると、妙なものが水面に映っているのを目にした。
「…!?」
『…!まずい!避けろ!』
ゼロの警告が飛んだ途端、サイトは咄嗟に歩いていた方向へ飛び退く。彼が避けると同時に、一発の赤い光刃が飛び、後ろに立っていた木を切り落としてしまった。
「な、なんでぃ今のは!」
デルフもまさか、水路の水面から不意打ちが飛ぶとは思いもしなかったのか驚いていた。しかし指令上に驚くべきことがある。
(今の攻撃は一体なんだったんだ!?水の中というより…)
さっき攻撃が飛んできた瞬間のことを思い出す。川を覗き込んだ時、水面に間違いなく異形の存在が…人の形に似たシルエットがわずかに映っていたのだ。顔には、十字の赤いクリスタルがあったのが見えた。そして奴が水面の景色の中でサイトに向けて手を突き出した途端、さっきの光刃が飛んできた。あれは水の中というより、『水面に映った世界』から攻撃してきたように見えた。もし鏡に映っていた方角からの攻撃から、光刃は頭上からサイトに襲ってくるはず。
ついに星人が直接手を下しに…!?しかし今の奴はいったい何者なんだ?これまで地球を侵略しに来た異星人のどの特徴にも合わなかった。まして水面の景色の世界…いや、『鏡の世界』から光刃を飛ばしてくるなんて。
デルフを鞘から引き抜き、警戒するサイト。次は、いったいどこから来る?すると、今度は水路とは反対側に位置する建物の窓ガラスに、奴の姿が映った。瞬時にまた、さっきと同じ光刃が飛んできた。サイトはデルフを振り下ろしてその攻撃を弾き飛ばした。危なかった…。しかし、攻撃がトリッキーすぎてどこから飛んでくるのかわからない。
「こうなったら鏡を…」
奴が鏡とか水面とか、とにかく『映るもの』から攻撃を仕掛けてくるのはわかった。なら鏡を破壊すればと思ったが、デルフが差し止めてきた。
「よしな相棒!鏡をぶっ壊したって意味はねえ。寧ろ、映る物を増やしちまう。そうなっちまったら余計に不利になっちまうぞ。それに今鏡とかガラスを割るような音出してみろ。この時間は街の巡回兵が回っている。連中に見つかったら街中で暴れている不審人物扱いされて捕まっちまうぞ」
「じ、じゃあどうしたらいいんだ!」
サイトが半ばやけになってデルフに怒鳴る。敵が鏡の中、そしてこっちから手を下すこともろくにできない。まるで、地球にいた頃に読んだ漫画に登場した、鏡の世界から相手の寝首を刈ってくる『吊るされた男』のようだ。さしずめ今のサイトは、『銀の戦車』の男。あまりの手詰まり感に冷静さを失ってしまっていた。
すると、サイトが頭に血を登らせている隙をついて、再び窓ガラスから光刃が飛んできた。
「しまっ…!うわああああ!!!」
サイトは背中を逸らし、かろうじて光刃をよけたのだが、姿勢を逸らし過ぎてバランスを崩し、背後に流れる水路に落ちてしまった。堀の底は3メートル。頭から落ちる高さとしては十分すぎた。
窓ガラスに映っていた異形の存在は、サイトを始末したと判断したのか、鏡の世界の中で踵を返して去ろうとする。
…が、直後にそいつは足を止めた。…いや、何か強力な力に引っ張られる間隔を覚え、体が動かなくなっていた。もしやと思って振り返ると、そこにはずぶぬれになったサイトが口にデルフの刀身の峰を歯で加えながら、水路から這い上がってきた。
「ンの野郎…!!」
『ヴ…!!!?』
かろうじて堀のふちに捕まっていたサイトは、右手より特殊な力『ウルトラ念力』を使って鏡の世界に潜む異形の者をとらえることに成功したのだ。異形の存在をこのまま引きずり出そうとしたが、異形の存在は力を振り絞って強引に自分の体に力を入れ、サイトの念力を弾く。そして、分が悪いと感じたのか別の映る物に飛んでいく。
『逃がすな、追え!』
ゼロが叫ぶ。サイトもそれに応えて奴を追って行く。が、映る物から映る物へと何度も飛び込んでいく奴の動きには、とても人間の足では追い付けない。走りに走り抜いたが、トリスタニア城が近くに見えるあたりに来たところで、足を止めた。
「城の中に逃げられた…!」
ルイズと同伴じゃないと入れないサイトでは、手の出しようがない。でも、あのようなこっちから手を下せない場所から攻撃できる奴を野放しにすれば、他の人間に危害を加えかねない。できれば今のうちに倒しておきたいのだが…。
すると、再びゼロがサイトに話しかけてきた。
『サイト、変身しろ。テレポートで城に入り、奴を追う!』
「ゼロ?ああ、さっき言ってた技のことか!」
なるほど、それなら!サイトは早速懐から、ウルトラゼロアイを取り出し周囲に見ている人がいないか確認してから装着、等身大のウルトラマンゼロへと変身した。
初代ウルトラマンもバルタン星人・二代目との戦いで使用した、テレポーテーション。さしずめ、〈テレポーテーション・ゼロ〉と言ったところだろうか。
しかしこの技は、ウルトラ戦士の寿命を縮める副作用があるので多用できない。転送先との距離が大きければ大きいほどその代償も重い。しかしここから城の中はほんのわずかな距離しかない。縮まる寿命があったとしても大したものじゃないだろう。
「デュ!」
両腕をクロスしてから振り下ろすと、彼は頭から見る見るうちに、その姿が最初からなかったように消えて行った。


「今日はもう遅いです。城の皆様もお疲れでしょうし、日を改めてお越しください」
シュウは城に通してもらったのだが、タイミング悪く、城の中に入った途端城の消灯時間が過ぎたことを通告され、この日は引き取り願うよう城の中を見回っていた兵から通告されてしまった。
「しまったな…」
シュウは頭を抱えながら、右手で後ろ髪を掻きむしる。手入れされた髪がくしゃくしゃになってしまった。しかし、いくら規則とはいえこのまま見過ごすと、どんな危険が及ぶかわかったものじゃない。パルスブレイガーからの反応は未だ健在だ。ディスプレイの電子マップに表示された赤い点が、その証拠だ。地図と言っても、ここは地球じゃないこともあって、画面上に障害物を示すマークが一切表示されておらず、まるでまっさらな平原と同じ感じで表示されているので道に迷いやすいのだが。

―――トクン

シュウは一瞬、不穏な気配を感じた。衝動的に懐からエボルトラスターを取り出すと、それに埋め込まれたクリスタルが心臓の鼓動に似た音を鳴らしながら点滅していた。
やはり、近くに何かがある。周囲を見渡し、移動しながらこの気配の正体を突き止めようとした。だがここで、シュウはあることに気が付く。
(おかしい…人の気配がない)
城が侵入者対策のために夜間の巡回兵が城の中を歩き回っているはずだ。なのに、壁に設置されたランタンの明かりも、ランタンを持ち歩きながら巡回している兵の姿が髷も形も見当たらない。それどころか、城で眠りについている人たちの息遣いさえ感じ取れない。夜の静まり返ったこの城の静寂さが、幽霊のような得体のしれない存在の姿を連想させ、恐怖さえ抱かせることだろう。かつて地球防衛軍基地を、死者の影が襲ってきたように。ただシュウの場合、幽霊よりももっと恐ろしい存在ととらえている存在がそばに近づいているという予感を感じた。
目を閉じて、何が起こっているのかをテレパシーによる感知を試みる。
(このヴィジョンは…?)
そこに見えたのは、しばらく前に彼自身もサイトも訪れたことのある湖…夜の月の光に照らされたラグドリアン湖だった。その湖畔に立つ、二人の人物が見える。その二人にもシュウは見覚えがあった。
アンリエッタと、現在行方不明とされているうえ、一説では死亡したとも言われているアルビオン皇太子ウェールズだった。
(…嫌な予感がする…。…!!?)
その時だった。暗闇の中から、一発の射撃が彼を襲ってきた。間一髪シュウは床を転がって廊下の角に隠れてやり過ごした。今の攻撃は一体?シュウが角に隠れながら、今の弾丸が飛んできた方角を睨む。
『「人形」が体調不良になったおかげで、ついに「俺」も駆り出されることになるとは…』
暗闇の中から、野太い男のため息交じりな声が聞こえてきた。
『だが、生きのいい獲物を俺自身の手で狩ることができると思うと、『あの女の不始末』も俺にとって嬉しいもんだ』
シュウは隠れながらその声の主がどこにいるのかを探る。周囲が暗いもあって目視はできない。パルスブレイガーを使って索敵をしてみると、シュウの位置から10時から11時の方向に、特殊振動波がキャッチされていた。
気のせいか、今の攻撃はブラストショットの波動弾と形状が似ているように気がした。だとしたら、ファウストか?しかし、体調不良とあの女の不始末…とはどういう意味だ?
「そうこそこそ隠れるなよ。出ないと、食われてしまうぞ」
声の主と思われる男が姿を見せる……と思っていた。しかし、シュウは驚くべきものを目の当たりにする。
指をパチンと鳴らすと、周囲の白の内部の景色が一変した。紫色に染まった不気味な空、赤黒い荒野の広がる暗黒の空間…ダークフィールド。
隠れる場所もなく、シュウは辺りを見渡した。この闇の空間を展開してきたということは、間違いなく近くに闇の巨人がいる。だが、肝心のファウストの姿が見当たらない。いや…今の声は本当にファウストなのか?いや、思い出せ。ファウストの変身者は女だった。けど、今の声は紛れもなく男としか思えない。そう思わせている意図があるとしたらとんだ役者だと彼は思う。
すると、ダークフィールドの空間にひずみが生じた。稲妻のようなものが発生し、そこに一体の怪物が姿を現した。
「グルルルル……」
二つの犬のような頭と、中央の牙をむき出した海洋哺乳類のような頭の、三つ首を持つ怪獣。その姿はまさしく、二足歩行であることを除けば地獄の番犬そのものであった。
その怪物は、シュウのいた世界にも出現したことのあるスペースビースト、『フィンディッシュタイプビースト・ガルベロス』。
口から汚らしく涎を垂らしながらシュウを見下ろしていることから、空腹であることや血に飢えていることが見え見えだ。
さっきまで自分に話しかけていた、正体不明の男の声も気になるが、こいつはビーストの中でもしぶというえに強力な個体だ。見過ごすことはできない。
すぐさまエボルトラスターを鞘から引き抜いたシュウは、ウルトラマンネクサス・アンファンスへと姿を変え、ガルベロスと対峙した。

 
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