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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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結集-コンセントレイション- part2/愚者たちの侵略

逃げ惑う村人たちの中には、シエスタの家族もいた。すでに、彼らが暮らしていた家は敵の手によって破壊され、その爆風で母が気絶してしまった。シエスタの弟たちの中で年長だった少年、ジュリアンは父と姉に代わって家族を守るため、母を抱えたくさんの弟や妹たちを連れて森へと逃げ延びて行こうと走り続けた。
だが、それを阻む厄介者が彼らを狙ってきた。上空から赤い竜に乗ってきた竜騎士たちが降りてきた。
「どこへ逃げるんだよ平民!」
「上玉の奴もいるな。こいつは楽しまねえと損だな!」
崇高な理想を掲げている組織の人間とは思えない下卑た声が響く。竜騎士たちの中には、レコンキスタに雇われた傭兵や盗賊たちも数多く参加していたのだ。自分たちには怪獣や宇宙金属で強化した戦艦があることをいいことに、地上に降りて略奪を働こうと言うのだ。
空から竜に跨りながら、魔法でタルブの逃げ惑う村人たちを直接襲って行く。
「ぎゅあああ!!!」「と、父ちゃああん!!!」「や、やめてくれえええ!!!」
炎で焼かれて、風で切り裂かれ、水球を被らされて溺れさせられて、土の中へと引きずり込まれ、やりたい放題だった。タチが悪いことに、彼らは逃げ遅れた村人の中で、とりわけ容姿の美しい女性を見つけると、すぐさまレビテーションの魔法をかけて自分の元へと引き寄せる。
「へえ…こんな田舎くさい村にも、かわいい嬢ちゃんがいるじゃねえの?」
「や、止めてください!!」
「待ってくれ!彼女は私の妻だ!!」「やめろ!姉ちゃんを返せ!」
「うるせえ!貧弱ななりのくせして!!」
「「うあああああ!!!」」
たとえ人妻であっても、彼らはお構いなしに女性を捕まえては、取り戻そうと近づいてきたその旦那や恋人も、親兄弟でさえも返り討ちにする。
「へっへっへ。せっかくだ。こいつらの前で楽しませてもらうぜ!」
「うはっ!アニキってば鬼畜ぅ!旦那の目の前で若い嫁さんを剥ぐとはよ!」
嫌らしく表情を歪ませながら、彼らは乱暴に女性たちの服を掴み、破り捨てようとした。
「やめろおお!!!」
自分の愛する人たちが汚い連中に、それも目の前で穢されていく姿など誰が見たがるものか。必死に止めるように叫ぶも、それは下種な盗賊たちの耳に届かなかった。

だが…。

バキィン!!

「ぐああああああ!!!?」
そんな傍若無人な盗賊を許さない、正義の志を持つ者の耳には届いた。盗賊の一人が、どこからか現れた人物に殴り飛ばされた。
「な、なんだてめえは!?」
盗賊の一人が、突然仲間を殴り飛ばしてきた人物を睨み付ける。
その男は…ウルトラマンレオの人間体、おおとりゲンだった。
「…お前たちは利用されている身。お前たちだけに責任は押し付けられない。だが…」
ゲンはかつて地球を守ってきた身。人間を強く愛する心がある。だから本来は、人間に手を挙げるような真似をしたくはなかった。ましてや変身して懲らしめるなんて真似は到底できない。
「いい大人なのだから、していいことと悪いことの区別くらい、つけるべきだな」
しかし、だからといって人間だろうと目の前で悪事を働くものを許しておくことはできない。人間を強く愛するからこそ、人間の立場に立ってこの悪事をとめるのだ。
「何をぬかしてやがんだこの野郎!!ファイヤーボール!」
「いけない!逃げて!」
村人たちがゲンに向かって叫ぶ。が、心配無用。ゲンは地球防衛を務めていた頃からこれまで数多の侵略者と戦い通津手てきた猛者。たかが盗賊ごときに引けをとることはない。たとえ人間の姿になっている今もかわらないのだ。
火球が飛びかかってきても、なんとゲンは掌底を突き出しただけでファイヤーボールをかき消してしまった。
「な、なんだ…なんだお前!!」
「す、素手で魔法をかき消した!?」
アルビオン所属の盗賊や傭兵どころか、助けてもらっている村人たちでさえ今のゲンの荒業に目が飛び出しそうになった。
「うああああああ!!!」
恐れをなしたアルビオン兵がゲンに向かってさらに魔法を撃ってきたものの、ひらりとかわしたり、今の僧服の重みを感じさせないほどの跳躍力で宙を舞うと、敵兵に向けて得意の飛び蹴りを撃ちこんだ。
「がふ!?」
さらに、目にも止まらない速さで彼は次々と、まるえカンフー映画のワンシーンのように、あっと言う間にアルビオン兵たちを倒し、気絶させてしまった。
数人だけ、ゲンのあまりの強さに圧倒され、怖気ついて手を出せなかった兵が腰を抜かしていた。ゲンは彼らの元に一歩一歩近づく度に、敵兵は歯をガチガチと鳴らし、完全に戦意を失っていた。
「去れ。でなければ、たとえお前たちが人間でも加減できなくなるぞ?」
「ひ、ひぃいいいい!!!」
「お、覚えてやがれ!!」
ゲンから向けられた、槍よりも鋭い視線に突き刺され、残った敵兵はベタな捨て台詞を吐いていちもくさんに仲間を見捨てて逃げ出していった。
「お、おおおおお!!!」
あまりの神業を目の当たりにして、タルブ村の住人達は思わず拍手してしまった。賊から乱暴されかけた女性の一人が代表して、ゲンに頭を下げて礼を言った。
「あ、ありがとうございます!!何とお礼を言えば…」
「いや、礼を言われるほどの事でもない。それよりも早く逃げろ。もうすぐここに怪獣と戦艦が迫ってくる」
ゲンは、レコンキスタが引き連れている怪獣たちと、その後ろで構えている戦艦の群れが埋め尽くす上空の空を見上げた。
(レコンキスタ…果たして奴らを裏で操る星人は一体…?)
「待ってくれ!まだシエスタ姉さんが!」
すると、シエスタの弟の一人が大声を出す。まだ姉シエスタが戻ってきていないことに気づき、すぐにでも探しに行かなくてはと急いていた。
「大丈夫よ、その必要はないわ!」
その声と同時に、上空からキュルケたちを乗せた風竜シルフィードが降りてきた。同じく、搭乗していたシエスタが降りて家族の元へと走り寄る。
「姉さん!」
「ジュリアン!」
なんとか無事だった家族の無事を、シエスタは弟たちと喜び合った。キュルケたちもまたシルフィードから降りると、コルベールがすぐにタルブ村の住人達に向けて叫ぶ。
「みなさん!この森からは決して出ないように!私が責任もって皆をお守りしましょう!」
こういう緊急事態にこそ、自分たち貴族が率先して力なき民を守らなくてはならないのだ。
コルベールは、街の方を見やる。その時の彼の脳裏に、いつぞやの記憶の映像が流れ込む。
ある日の夜、街を燃やし、すべてのを見込もうとする残虐な炎。それによって焼け落ちていく村と、そこに住まう住人達。彼もまた、この悲惨なる戦場の光景は初めてではなかった。
「火の可能性は…破壊だけなんかじゃないんだ…」
すでに地上を襲った兵たちは逃げている。だが、怪獣ばかりは無策のまま倒すことはできない。怪獣たちの手によって粉々に破壊され、中にはとある一軒に火事が発生したタルブの村を見つめながら、コルベールは顔を悲しそうに歪ませた。



ウエストウッド村は一方で、至って平和…ではあった。だが、このような都市から離れた森の中にも、戦争の空気というものを感じ取っていたものがいた。
朝食の食器洗いに取り掛かりながら、タルブ村の惨状を、ヴィジョンを通してシュウも見ていた。酷かった…その一言で片づけられようがない状態だった。
(……最悪だ)
綺麗な草原や花畑、畑や放牧場が、怪獣や過度な強化を施されたレコンキスタの艦隊によって滅茶苦茶にされていく。
シュウには、見覚えがあった。戦争の惨状を、数年前まだ少年だった頃に……。
ドパパパパ!!ドオオン!!
『『『ぎゃああああああああああ!!!』』』
銃が乱射される音、爆弾が次々と降りかかって爆発する轟音。人がその流れの中で次々と死んでいく様。シュウは、その生と死のみが支配する混沌の世界のど真ん中に立っていたことがあった。血なまぐさくて、腐乱臭が漂い、死体の山が歩く度に転がっていて、できることなら、すぐにでも立ち去りたいと思わざるを得ない場所…戦場。
あの時の自分は、草陰をかいくぐり、少しでもとばっちりや流れ弾に当たらないように、ヘルメットをかぶりながら逃げ延びていた。
なぜこんな場所に彼が立っていたのか、そしてなぜ、何者から逃げているのかはまだ語ることはできない。はっきりしているのは、戦場はとんでもなく立っているだけで糞喰らえな場所であるということだ。
アルビオン…いや、レコンキスタについた兵たちが暴れ、略奪と横暴を繰り返す。どこの世界でも戦争とは見るものを不快にさせてしまう。
怪獣も暴れている。自分も向かわなくてはと思い、ブラストショットをサバイバルベルトから取り出した時だった。彼はこの時、予想もしなかったものを目にした。
(…あれは…!?)
彼方から飛んできた、銀色の飛行物体に、彼は目を見開いていた。


ホーク3号の、空を飛ぶ姿だった。



「すげえなこいつは!竜の速さなんざ目じゃねえぞ!」
「ああ、操縦してる俺も、感動せずにはいられねえよ!」
コクピットにて、サイトの背中に背負われたデルフが、鞘から顔を出して驚嘆していた。この速さ、こうして乗っていると旧世代の機械とは思えない。空気を切り裂きながら飛ぶこの感覚が、サイトにとってはとても新鮮で、心が洗われるような清々しい気分だった。が、その清々しくて気持ちの良かったフライトも直後に終わる。コクピットの窓からサドラやケルビムの姿が目に入る。サドラらも、これまでのウルトラ戦士を苦しめたことのある怪獣たちだ。こんな怪獣たちを、タルブ村を攻撃するためだけに使役できるなんて、人間には到底できるようなものじゃない。外観からみるからに宇宙金属で強化されているレキシントン号を見ても、やはり侵略を目論む宇宙人らしき黒幕が絡んでいるように思えてならない。
サドラが、右腕をろくろ首のように伸ばしながらホーク3号を叩き落とそうとする。サドラは両腕を伸ばすことが可能で、その手の先にあるハサミ『重層ベローズピンチ』で敵を捕らえるのだ。が、サイトはすぐさまハンドルを倒し、重層ベローズピンチを避けた。ノスフェルやケルビムもホーク3号を狙って尾や触手を振う。それらもまた巧みにサイトは回避した。そして、ロックオンモニターを起動し、照準を怪獣たちに向け、トリガーを押す。
「三連装ロケットランチャー、発射!!」
ホーク3号のウィングの下の砲口が火を噴き、ロケット弾が連続発射された。放たれたロケット弾は、怪獣たちに着弾し火花を散らす。
「ゴガアアアア!!!?」
流石の怪獣たち相手でも、魔法の威力では再現しきれないような効果を発揮した。火花が体中に発生し、サドラとノスフェルは怯み、のけ反った。ケルビムが自分の体を回転させ、遠心力を突けた尾でホークを叩き落とそうとするも、急上昇させたことでケルビムの尾は空振りした。さらにレバーを捻り、ホーク3号はケルビムに向かって急降下する。
「お前の特徴はとっくにわかってんだよ!!」
ピッ!とトリガーを押すと、今度はホーク3号の尖った先端から、レーザーが発射された。レーザーはまっすぐケルビムの角に直撃、ケルビムの角をへし折った。
「グゲエエエエ!!!!?」
ケルビムの特徴は接近戦用のかぎ爪と角、遠距離用武器に尾が付いていると言うこと。どちらかを潰せば、その距離がケルビムにとっての死角になる。ともあれ、角を折られていたくないはずがない。ケルビムはホークを打ち落とすことも忘れ、ただ悶えた。
「な、なんだ!?あんな竜見たことないぞ!」
レキシントン号の甲板にいるレコンキスタ軍の兵たちに動揺が走っていた。
「な、何!我が軍には怪獣もついているのに…あんなちんけな玩具ごときに…!」
「一斉に魔法で落とせ!!」
アルビオン軍のメイジたちは火竜にまたがり、一斉にホーク3号に向けて魔法や竜のブレスを放ったが、ホーク3号の機動力は力強くて速い。小回りが効くものの、火力では圧倒的に劣る火竜ではとても追いつけなかった。近付こうとしても、ホーク3号の飛行の衝撃が取り囲もうとした竜騎士たちを吹き飛ばしてしまう。運よく直撃した魔法があったこともあるが、船体がほんのちょっと汚れた程度だった。
「そんな馬鹿な…何でできてるんだあの竜は!!?」



「あ、あれは…!」
森に避難していたタルブ村の村人たちは、空を飛んでいる飛行物体を凝視する。太陽の光に反射する、輝かしい鉄製の銀色のボディ。船体に刻まれた『TDF UH-3』の形式名。この世界の人間からすれば奇妙な形をした鳥の玩具にしか見えないかもしれない。だが、決してこれは玩具などではない。
「り、竜の羽衣だ!」
「信じられん!あんな鉄の塊が空を飛んでいるぞ!」
「まるで、銀色の流星だ!!」
かつてウルトラセブンと共に苦境を乗り越えてきたエリート、ウルトラ警備隊が使用し、『ビラ星人』をはじめとした数多の侵略者を打ち破ってきた戦闘兵器、ウルトラホーク3号が、ハルケギニアの大空を支配した時と言えた。
「見てよタバサ!あの竜の羽衣、怪獣にもダメージを与えてる!!」
「すごい…」
「流石はサイト!僕が認めた平民だ!」
三体もの怪獣たちをあしらうサイトのホークの操縦捌きは、皆の注目を集めていた。
「なんて威力だ…」
流石は対怪獣兵器。コルベールもホーク3号の火力に目を奪われていた…が、同時にどこか憂いているようでもあった。
「…」
空を飛ぶウルトラホーク3号の姿を、ゲンも傘帽子の下からじっと見ていた。周囲の皆が、ホーク3号に注目していたことを確認すると、彼は一人その場から気づかれることなく立ち去って行った。
シエスタもまた、もはや思い人も同然になっていたサイトが乗りこなすホーク3号のフライトをじっと見届けていた。
「…え?」
一瞬、シエスタは目を疑った。ほんのわずか、遠くの場所を飛んでいるのにサイトが乗っているコクピットの中が見えた。その一瞬のみの内部に見えた姿に、シエスタは目を疑った。赤いレンズの白いヘルメットに、グレーかかった軍服を着た、幼い頃に見たきりもう二度と見ることがなくなった…豪気かつ陽気な、そしてたった今見えた引き締まった横顔を表した男の姿が見えたような気がした。眼を擦って再確認した時には、すでにその姿は見えなくなった。
(ひぃ…おじいちゃん…?)




レキシントン号の後ろ甲板で、この艦の司令官ジョンストンは伝令からの報告を聞いてかぶっていた帽子を床に叩きつけていた。
「たった一騎の竜ごときに何をやっている!我らには始祖ブリミルのお力を授かったクロムウェル閣下がおられるのだぞ!つまり我らには始祖ブリミルのご加護があるも同然!なのになんだこのざまは!!」
「し、指令…そんなこと我々に言われましても…閣下が使役なさっている怪獣でさえ苦戦する竜に我々が勝てる訳…」
竜騎士では歯が立たず、怪獣さえもあしらうホーク3号の力の前に、タルブ領のトリステイン軍を圧倒したレコンキスタ軍の士気は、すっかり下落傾向にあった。
「ガンダールヴ…!」
甲板から、ワルドもホーク3号の飛びまわる姿を見ていた。あのようなものを操ることができるのは、自分の知る限り、ルイズの使い魔の少年…サイトだけだ。ここは名乗り出て、今度こその手で奴を葬ってやろう。
「司令長官殿。ここは私にお任せあれ」
ワルドはジョンストンに、正体不明の竜=ホーク3号撃墜を名乗り出た。
「わ、ワルド子爵か。君ならば。あの銀色の竜を打ち落とせるのかね?」
「ご心配なく。私には閣下に与えられた兵器がございます。その火力と我が魔法を用いれば、あのような竜は恐れるに足りませぬ」
「よ、ようし…期待しようではないか」
出撃を許可され、ワルドは直ちにレキシントン号から飛び降りていった。




「っしゃ!!」
『やるじゃねえかサイト!ルーンの力が影響しているとはいえ、素人とは思えねえな!』
「ははっそれほどでもねえよ」
ケルビムの角を破壊し、思わず気合の入った声を上げると、ゼロからも素直に評価され、サイトは照れてこそばゆさを感じた。しかし、緩んだ笑みも直後に聞こえた声で消え失せた。
「った~~!!もう!あんたもうちょっと安全に操縦しなさいよ!」
「は!?」『へ?』
サイトとゼロは聞き覚えのある声を聴いて耳を疑った。なんと、コクピットの床の上に、ルイズが頭にたんこぶを作った状態で座り込んでいたのだ。
「お前、降りてなかったのかよ!?」
しかもあれだけのアクロバティックな飛行をしているのに、席に腰掛けもせずにずっと乗っていたのだ。たんこぶ一つで済んだのは寧ろ運がよかったのだが、はっきりいってなんて無茶なことをやったのだ。
「降りろよ!」
「降りられるわけないでしょ!」
気づくのが遅すぎた。今から降りたら逆に危ない。
『…俺が気づくべきだったな。悪ぃ…』
サイトが運転に集中しているなら、自分はデルフ同様違う方に目を向けるべきだった。自分の不注意をゼロは恥じた。しかし、ルイズは後ろからわざといサイトの首を絞めて強く言い放つ。ルイズはアンリエッタからもらった古書を抱いてサイトの耳元でわめいた。
「あのね、あんたは私の使い魔なの!だから勝手なことは許さないんだから!」
耳がキーンとなった。危ないから来るなって、言っておいたつもりなのに…ルイズには無駄でしかないのだろうか。切なさを覚えたが、諦めてルイズを乗せたまま飛行することにした。
「…ああもう!わかったよ!早く座ってシートベルトを巻け!今度頭打ったら死ぬぞ!?」
「だから命令するなって…きゃ!!」
言い返そうとしたルイズだが、突如ホーク3号に向けてレキシントン号からのレーザーが降りかかってきた。すぐさまハンドルを倒し、ホーク3号はレーザーをかろうじて回避した。
「なんなの今の!?レキシントン号の大砲から光線が!?」
このホーク3号ならまだしも、ハルケギニアの文明で、光線を放つ大砲だなんて作れっこない。ルイズはありえないとばかりに声を上げる。
「レーザー攻撃とかどう考えても文明レベルが船の見た目よりも飛び抜けすぎだろ!」
サイトは憎らしげにレキシントン号を睨む。だが、レキシントン号だけじゃない。他にも数隻、同じようにレーザーを放ってきた戦艦がホーク3号を襲ってきた。これじゃ、まるで宇宙人の侵略目的で飛来した円盤そのものじゃないか。それも、自分がこの世界に来る前に遭遇したクール星人のそれのような。
戦艦には、まだ人間が数多くいる。あのレーザー砲を攻撃し無力化するだけでいい。ロックオンモニター越しにレキシントン号の船体から口を開けているレーザー砲に照準を合わせ、いざ発射しようとした時だった。
「相棒!」
デルフの呼びかけがあった。とっさにハンドルを自分の側に引っ張り、ホーク3号を後方に下がらせると、さっきまでホークが空中待機していた場所の上空から、エメラルド色のビームが降りかかってきた。空振りはしたものの、地上にそのレーザーが着弾した途端、地面が大爆発を起こした。
「どうやら来やがったようだぜ…裏切者さんがな!」
デルフの言う『裏切者』…忘れるはずもない。婚約者であるルイズを裏切り、ウェールズを連れ去って王党派を虐殺した、あのアルビオンへの旅で自分たちに、反吐がいくら出ても足りないほど苦い思いを味あわせた卑劣な男…。
「また会えたなルイズ、ガンダールヴ!」
ワルドがジャンバードの上に立った状態で飛来してきた。



「まったく…王党派からレコンキスタについてまで栄誉を得られると思っていたのに、このような失態を閣下に知られたら…」
ワルドの出撃を許可したものの、ジョンストンの心は晴れないままだった。ワルドが、実はトリステインの回し者ではないかと、根拠のない疑いをかけていた。元々彼は政治家であって軍人ではない。戦場で命を懸ける覚悟など全くなく、レコンキスタについたのも単なる出世目的だった。
「司令官殿、兵の前でそのように取り乱されては士気にかかわりますぞ」
ボーウッドが、ジョンストンをいさめるように言うと、ジョンストンは逆切れして怒りの矛先を彼に向けた。
「ええい黙れ黙れ!!竜騎士隊では歯が立たんのは貴様のせいだぞ!」
ジョンストンはついに激昂のあまりわけのわからないことを喚きだした。お蔭で兵たちのジョンストンを見る目が白くなっていく。ついにイラッとしたボーウッドは、ジョンストンのみぞおちにキツイグーパンを与え、ジョンストンを気絶させてしまった。戦場に砲撃と命令以外の音はいらない。戦場の空気にただ怯えるだけのこいつの声は耳障りだった。
「…その方を部屋に運べ」
適当な部下に命令し、白目をむいたジョンストンは運ばれていった。
「やれやれ、ジョンストン君は世話を焼かせるな」
クロムウェルが降りてきて、運ばれていくジョンストンを呆れた目で見送った。そんな所詮形だけの司令官をこの間に付けたのはどこの誰だ、とボーウッドはクロムウェルに心の中で毒を突く。
「まあ、我らの勝利は決して揺るがないだろう。異世界のお友達の技術で強化されたこのレキシントン号に死角はないし、ワルド君もいるからね。
ただ残念なのは…『ウェールズ君』がまだ動ける状態じゃないことだな」
ふ、と笑って見せるクロムウェル。ボーウッドは胡散臭いものを見る目で、不本意ながらも現在の主であるクロムウェルを睨んだ。間違いなくこの男は…ウェールズを人間として見ていない。恐らく…こいつにとって自分以外の人間など、『道具』でしかないのだろう。
しかし、そのクロムウェルもまた利用されているだけの身だったことに、レコンキスタの誰もが気づいていなかっただろう。
「意外ね…まさか、地球の防衛兵器をこの世界で見ることになるなんて」
クロムウェル達のいる場所とは反対方向の、レキシントン号の前甲板でそう呟いていたのは、表向きはクロムウェルの使い魔兼秘書とされているシェフィールドだった。この星の人間に宇宙へ進出できる技術などないはずなのに、ホーク3号のことを彼女は知っているような口ぶりだった。
「ぐわあ!!」
すると、レキシントン号のどこからか悲鳴が聞こえてきた。シェフィールド・クロムウェル・ボーウッドはその悲鳴が聞こえた方を向く。
「た、大変です!侵入者です!侵入者がこの船に乗り込んでいます!!」
(侵入者!?)
ボーウッドは驚く。ありえない。このレキシントン号は近づくものをすぐに打ち落とせるように大砲を装備している。それにここは空だ。竜かグリフォンがいなければ空を飛ぶこともままならないし、近づいたところでこのレキシントン号に装備されたレーザーですぐに対処できる。にも拘らず、敵の侵入を許したと言うのか?
「敵は一人…見たこともない服を着た壮年の男です!!」
その男とは、なんとゲンだった。コルベールたちのいる場所から離れた後、いつの間にかレキシントン号に侵入していたのである。
たった一人で侵入してまで乗り込んできた理由はある。それは、文明が遅れているにもかかわらず宇宙金属でレキシントン号をはじめとした戦艦をレコンキスタが改造できたこと。
そして怪獣さえも従えることができたこと。ハルケギニアに元々そんな技術があったなんてとても思えない。それが出来たら、とっくの昔に利用して、今の状況とは大きく違った世界となっていたに違いないのだから。間違いなく第三者が自らの野望のためにレコンキスタに干渉していたとしか思えなかった。
「何をしている、奴を取り押さえろ!」
レコンキスタの各部隊の兵たちがゲンを排除するべく遅いかかる。逆にゲンは、宇宙拳法を用いて、レコンキスタ兵を次々と手刀や蹴りで倒していく。
「がはあ!!!」「うが…!」
魔法も使わず、素手と足の身でメイジを圧倒するゲン。誰もが夢か幻を見ているかのように思った。魔法も使わずメイジを倒せる人間がこの世にいる訳がない。アルビオンでも、メイジに勝てる平民がいる訳がないという認識が蔓延していたのだ。逆にその間違った認識が、拳法のみでメイジを倒していくゲンに対する対応の遅れとなっていた。
風の魔法、火の魔法を使っても、ゲンはそれらを避けたり掌底などでかき消してしまう。実力もやっていることも人間離れしすぎていて、。
ついに誰一人ゲンを倒すこともできず、クロムウェルの前にゲンは立っていた。
「き…貴様…!!」
珍しく、あのクロムウェルの表情にゆがみが生じた。
「お前に尋ねることがある。この船は、一体誰の差し金でここまで改造できた?」
「き、貴様ごときに話すことなど何もない!」
鋭い眼光で睨まれたクロムウェルは、恐怖を覚えた。それを誤魔化すかのように、すぐさま水の精霊から奪ったアンドバリの指輪を突き出す。すると、ゲンの体の自由が利かなくなった。
「…!?」
「見ろ!閣下の虚無だ!!」
「ああ、始祖ブリミルのご加護が付いておられる閣下に敵などいない!」
ホーク3号の出現と火力で下落傾向にあったレコンキスタ軍の士気は、クロムウェルが虚無と騙る力…アンドバリの指輪の力を見て再び上昇し始める。神の力も同然の能力を持つ君主に敵などいない。しかし…それも直後に露と消えることとなる。
「ムン!!!」
「うああ!!?」
両腕をクロスした途端、ゲンの体から目に見えない空気の揺らぎが周囲を支配した。結果、クロムウェルはそれに押され、アンドバリの指輪の呪縛が解かれてしまう。
『ウルトラ念力』。ウルトラ戦士が持つ特殊な念力だ。それを使って、ゲンはクロムウェルをいともたやすく圧倒してしまったのだ。
「答えてもらおう。誰にこれらの技術を教わった?」
「ひ、ひいいい!!!」
ゲンが、再び問いを投げかけながら、レキシントン号を親指で突き立てるように指さしながらクロムウェルに問いただす。神聖皇帝の姿など、もう影も形もなかった。クロムウェルはゲンのプレッシャーに押され、恐怖に慄いて腰を抜かしていた。
「そ、そんな…!閣下が押し負けた…!?」
「閣下は始祖ブリミルから虚無を授かってたんだろ!?なのに、こんな貧乏くさい奴相手に…」
「も、もうだめだ!俺たちに勝ち目なんかないんだ!逃げろ!!」
レキシントン号の兵たちは、たった一度…ゲンがクロムウェルを押しのけただけで、自分たちの負けを悟ってしまった。レコンキスタの大半は王室に失望したために寝返った、または王室に味方を続けてもメリットがないと判断した者もいただろうが、クロムウェルの騙る虚無の力に、ただなびいただけの現金な者も少なくなかった。
「…」
それを見かね、シェフィールドはふう…と呆れたため息を漏らした。所詮無理のある虚言に惑わされ王家を裏切り、詐欺師に降るような連中だ。とはいえ、このままではクロムウェルの正体が明るみになってしまう。
シェフィールドは、手に奇妙な携帯端末のような箱を取り出した。すると、彼女の額に刻まれたルーンが、紫色の輝きを放ち始める。彼女は頭上にそれを掲げると、端末からはハルケギニアの道具とは思わせない音が聞こえた。
『バトルナイザー、モンスロード!!』
瞬間、端末から光り輝く札が射出された。その札は空に飛び立つと、一体の怪獣へと姿を変えた。その怪獣は、かなりやばい部類にあった。その怪獣は、ゲンにとって嫌な意味で縁のある怪獣だった。
その怪獣の名は『円盤生物シルバーブルーメ』。卑劣さと狡猾さはかの有名な『異次元人ヤプール』にも匹敵する侵略者『ブラック指令』が送った最初の刺客にして、ゲンにとっては防衛チームMACの仲間や恋人・友人たちの仇でもある怪獣。
シェフィールドは、クロムウェルの正体に関する秘密を守るため、口封じのために召喚した怪獣を用いて、レキシントン号を搭乗者全員もろとも破壊しようとしたのだ。
レキシントン号の頭上から、すべてを飲み込むようにシルバーブルーメが主以外誰一人逃がすまいとレキシントン号の船体に触手を巻きつけ、口を開けてきた。
「う、うああああああああああああ!!!」
絶望の断末魔が、レキシントン号のあちこちから響いた。すぐ眼前に真っ黄色のよだれが流れ落ちる悍ましい口が迫り、レキシントン号を飲み込もうとした。魔法の詠唱を行う余裕さえないし、長時間飛行できるほど『フライ』の魔法の効果はない。つまり、彼らに逃げ場は存在しない。飛び降りても空の露となり、飛び降りなくても悍ましい円盤生物の餌となる。
「ま、待ってくれ!シェフィールド『殿』!」
クロムウェルは、立ち去ろうとしているシェフィールドの姿を発見し、縋るように足元に寄ってきた。
「私はまだ死にたくない!折角国を手に入れたと言うのになぜこんな場所で死ななくてはならないのか!あの『お方』は本当に私を王にしてくださると言うのなら…私を見捨てないでくだされ!」
偶然にも、今のクロムウェルのセリフを聞いていたボーウッドは本能的に、今の会話を頭に刻みつけていた。この男…自分の使い魔にして秘書としていた女に踊らされていただけだったのか!そう思うと、貴族・軍人としての誇りを穢された屈辱と数多くのアルビオンの民…そして崇拝すべき主たちがこのような小物に踏みにじられた怒りで今にも爆発しそうになる。同時に、陰で好き放題クロムウェルを傀儡にアルビオンを弄んだシェフィールドにも怒りを募らせた。
ゲンも決して二人の会話を聞き逃さなかった。あのシェフィールドと言う女に、何か裏があると睨んだ。
これが神聖皇帝など聞いて呆れる。泣き喚きながらシェフィールドに縋るクロムウェルだが、逆にシェフィールドは殺意を込めた眼差しでクロムウェルを見下ろした。
「甘えるな、ゴミ屑め。せっかく国を手に入れた?貴様のような者に与える土地など、ほんの一寸も存在しないわ」
クロムウェルの腹を殴りつけて悶絶させると、彼女はクロムウェルの持っていたアンドヴァリの指輪を無理やり抜き取った。
「お前の代わりなど、誰にでも勤まるわ。そこで果てなさい」
「ま、待ってくれ!!助けてくれえええええええええ!!!」
いい加減耳障りに感じたシェフィールドは、アンドバリの指輪を自分の右手の中指にはめこみ、額のルーンを光らせる。すると、クロムウェルの姿は指輪の宝珠から放たれた紫色の光の中に飲み込まれていった。
危険を悟り、ゲンとボーウッドは光を浴びないように目を閉じて身を引いた。光が晴れた場所には、クロムウェルもシェフィールドの姿はなかった。
ゲンは、たとえこのような愚かな人間でも、自分の弟子もまたそれができたように、己が過ちを正せる日がきっと来るはずだと信じている。それに、あの日の出来事はゲンにとって深いトラウマとして今もなお残っていた。かつての仲間たちと同じ末路を辿りかけている人間を目の前で見過ごすことなどできない。
彼は意を決して右手のレオリングを突き出した。




「レオおおおおおおおおおおおおお!!!」



 
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